ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

夜明け

2019-01-16 23:53:51 | や行


是枝裕和×西川美和氏の愛弟子の初監督作。

力作と思う。



「夜明け」71点★★★★



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とある、郊外の田舎町。

朝、釣りをしにきた哲郎(小林薫)は

水際に倒れている青年(柳楽優弥)を見つける。

 

哲郎は青年を助け、自宅に連れ帰り、介抱する。

そして行く当てのなさそうな彼を、

哲郎は自身の経営する木工所で雇おうとする。

 

何しに来たのか、どこから来たのか
何もかもハッキリとしない青年をなぜ、そこまで?

そして青年には、何があったのか?


そこには、お互いの、ある過ちの過去があった――。



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是枝裕和×西川美和氏が立ち上げた

制作者集団「分福」の新人、広瀬奈々子監督のデビュー作。


全てにおいて、もそもそ、モゾモゾ、はっきりしない青年(柳楽優弥)の
会話にならない遠慮や恐縮、
ときどき爆発する不安定さ。

観ていてかなりイラッとするんですけど(苦笑)

その「居かた」は
若者らしく、かなりリアル。



手持ちカメラの手ぶれ、
日暮れ、夜明け前など「暗さ」を生かした映像も

ドキュメンタリーとリリカルのはざまを切り取るようで、印象に残りました。

 


見ず知らずの青年の面倒を見るおっさん(小林薫)も

青年が働くことになる木工所の従業員たちも

優しすぎるほどにやさしく

青年は
やさしさ、にくるまれてはいる。

なのに、どうしても、それをそのままに受け入れられない。

 

そのモゾモゾ。

 

なぜ、おっさんがそこまで彼にやさしいのか。

そこには自身が息子を亡くした経験をしている、という背景があり

彼は青年に、亡き息子を投影するわけですね。

 

父と子のぶきっちょな関係、青年が犯した過ち……

核となるもの自体には微妙に既視感があり、話の甘さも気になりはする。

 

ただ、その描写の「空気」に「いま」があり、
目を離せずに見入ったのはたしかです。

 

そして、たまたまなのですが

昨日、試写で観た

スティーブ・カレル×ティモシー・シャラメ主演の「ビューティフル・ボーイ」(4月公開)

この映画にすごく通じるものを感じたのです。

やさしさに包まれているのに、そこに居られない青年。

なぜ、何が苦しいのか。

もがく若者をそのままに、なところが「いま」の叫びなのかもしれない。

 

★1/18(金)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「夜明け」公式サイト

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YARN 人生を彩る糸

2017-12-02 23:13:58 | や行

「糸」という
題材もおもしろいよね。


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「YARN 人生を彩る糸」70点★★★★


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カナダ・モントリオール出身の
女性監督ウナ・ローレンツェンが

糸にまつわる
4人のアーティストを紡いだドキュメンタリー。


糸を編むことは、人生を編むことに似ている。

さらっとしているけど、そんな深読みもできる、
なかなかおもしろい作品でした。


デジタル時代だからこそ
いま
手仕事=“クラフト”がすごく注目されていて
そんな現状の的を射ている。


なかでも
アイスランドのニット・グラフィティ・アーティスト、
ティナがよかった。

ティナは街の街灯や壁を
ゲリラ的にニットで包む活動をしていて
彼女のカラフルで有機的なニットに包まれると
無機質な街が
本当にやわらかく感じてくる。

さらに
通りがかりの街の人が
彼女を手伝ったりしてくれる場面もあって

その様子が、とてもあったかいんです。


そのほか
子どもたちが登って遊べる
巨大なハンモック状のアートを作っている
堀内紀子さんという日本人女性も登場します。

「糸が揺れると、遠くにいる子の存在を感じられて、
知らない子同士でもつながれるんだ」という言葉、
なるほど~と感じました。

堀内さんの作品は
建築家の手塚貴晴さん、由比さん夫妻とコラボして
いまも楽しめるそうです。


★12/2(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「YARN 人生を彩る糸」公式サイト
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夜間もやってる保育園

2017-09-30 12:36:04 | や行

世間のリアルドラマはおもしろい。

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「夜間もやってる保育園」71点★★★★


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24時間やってる保育園のドキュメンタリー。

「石川文洋を旅する」などの大宮浩一監督作品で
とても見やすく
子ナシにもおもしろかったです。

主な舞台は、新宿にある「エイビイシイ保育園」。

0歳から就学前の子どもたち
90人を預かっていて、

夜10時以降のお迎えになる子は
「お泊まり組」として
夕ご飯を食べて、パジャマになって寝る。

なんだか毎日がお泊まり会みたいで、
けっこう、子どもたちは楽しいだろうなあと思う。

繁華街に近い場所で
子を預けているのはシングルマザーのホステスさんが多いのかなと想像したけど
両親ともに飲食店関係者、というケースもけっこうある。

公務員の女性とかもいるし、
これなら、万が一の残業だってこなせるし
すごく助かるだろうなあ。


園長の片野清美さんは
昭和58年(1983年)に無認可の託児所(ベビーホテル)として
この保育園を始め、大変な苦労もしながらこの形を作ってきたそう。
おっきいお母さん、という感じのいいキャラクターだ。

こうした夜間保育園は全国80カ所あるそうで
映画は沖縄、北海道帯広、新潟など各地の保育園も紹介していく。

さまざまな人間ドラマも見えてきて
(特に帯広の保育園の、あるお母さんの話がスゴイ!)

さらに
新宿の片野園長のワケあり過去も紹介されてびっくり。

人にはそれぞれ、本当にドラマがあるんだなあと。


そして、世のお父さんお母さんが
子どもと過ごせる時間って、本当に短いんだと、改めて知った。

それでも懸命に、子どもたちを育てるお母さん、お父さん。
それをサポートする園長先生や保育士さん。

みんなの優しいまなざしが、たしかに写し取られていて

この映画、
登場する子どもたちが、大人になってから
見返すために作られたんじゃないかな、という気もしました。


★9/30(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「夜間もやってる保育園」公式サイト
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山村浩二 右目と左目で見る夢

2017-08-05 14:06:34 | や行

アート絵本のような短編集。

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「山村浩二 右目と左目で見る夢」69点★★★★



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「頭山」(02年)で第75回アカデミー賞
短編アニメーション部門にノミネートされた
世界的アニメーション監督の短編集。


9本の作品が入っていて
全部で77分くらいかな。

「怪物学抄」と「Fig(無花果)」が特に好みでした。


「怪物学抄」は架空の怪物の公文書。
「涙の味」「飼い慣らされた野生」――
とんちとシニカルなユーモアがおもしろくて
必ず「あ、自分だ・・・」と思う怪物がいる。

「Fig(無花果)」は「東京」をテーマに制作された
オムニバスアニメーション用に作ったものだそう。

郷愁を感じさせるトーンと
出てくる“蛇口犬”がかわいくて
ちょっぴり切ない。

「古事記 日向篇」はNHKBSの番組で放送されたもの。
そういう話だったんだ、と改めて勉強になる。


シナモンの利いたクッキーあり、
伝統の干菓子あり、なイメージで
土曜の午後に、ポリポリといただきたいような。


★8/5(土)から渋谷ユーロスペースで公開

「山村浩二 右目と左目で見る夢」公式サイト
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夜明けの祈り

2017-07-31 23:56:00 | や行

「ボヴァリー夫人とパン屋」監督。
この人は、うまい。


「夜明けの祈り」77点★★★★


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1945年、12月。

ポーランドの赤十字で働く
フランス人医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)のもとに
深刻な顔をしたシスターが駆け込んでくる。

修道院に苦しんでいる女性がいるので助けてほしいとシスターは言う。

一度は断ったマチルドだが
雪の中で何時間も祈り続ける彼女を放っておけず
夜中に修道院へ向かう。

そこにいたのは、身ごもり、苦しむ若い修道女。

彼女を助けたマチルドは
ほかの修道女たちもまた妊娠している事に気づく。

そしてマチルドは修道院で起こった
恐ろしい出来事を知ることになる――。


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1945年、ポーランドで
修道院を襲ったソ連軍の蛮行によって
集団で身ごもってしまった大勢の修道女たち。

立場上、事を公にもできず
どんどん大きくなるお腹を抱えて苦しんでいた彼女たちを助ける
実在した女医を描いた作品です。


出来事の衝撃を静かに匂わせながらも
直接的な描写はせず
やわらかい光で、つらい物語を包み込む。

そこには厳しい状況のなかでも
生まれてくる命に対する畏敬と、喜びが
確かに写っていて

さらに危険を顧みず行動する
女医の善の清らかさ、崇高さが
凜として美しい。


監督は
「ドライ・クリーニング」(97年)を経て、
「ココ・アヴァン・シャネル」(09年)
「美しい絵の崩壊」(13年)
そして
「ボヴァリー夫人とパン屋」(14年)とキャリアを積んできた
アンヌ・フォンティーヌ。

この人は女性の自然な美を撮るのが
抜群にうまいんですよね~。

そして
ストーリーテリングも絶妙。

重く、つらいだけの味ではないので
ぜひ見ていただきたいです。


個人的には
試写状に使われていた
このシーンが、ズキュンでした。


それにしても、思うのは
ここでも「女を助けるのは女」だってこと。

そしてソ連軍の蛮行に
「人でなし」とは文字通り
「人」で「なし!」(木皿泉さん風に)なことなのだと
つくづく感じました。


★8/5(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「夜明けの祈り」公式サイト
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