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映画「東京家族」を観てきました。公開初日の朝一番の映画を観ました。
今回の映画は小津安二郎監督の「東京物語」のオマージュと言うことで、非常に楽しみにしていました。
映画館は初日の朝一番なのにいつもよりお客は入っていました。
それも年配の方が多くて、何かとタイアップしているのかもしれないとも思ったほどです。
初日ですので、あまり深く感想を言うわけにはいかないと思いますが、率直に言って見事としか言いようがありません。
小津監督の「東京物語」がなくて、今回の映画が初めての作品だとしたら、最高傑作といいたいと思います。
ただ、小津監督の「東京物語」を踏み台にしてできあがった作品だけに作品の評価というのは微妙なものがあるかもしれません。
映画を観終わって、自分がこんなに映画を観て泣く人間だと初めて知りました。
これも、年をとったと言うことかもしれません。いろんな場面で泣いてしまいました。
出演者は見事な配役で、それぞれ演技をやりきった観があります。
瀬戸内海の島から東京へ出てくる老夫婦に橋爪功(平山周吉)吉行和子(平山とみこ)
長男夫婦に西村雅彦、夏川結衣、次女夫婦に中嶋朋子、林家正蔵、
風采の上がらない次男に妻夫木聡、その恋人に蒼井優
ほとんどその4つのカップルで動いているのですが、それぞれの持ち味を台詞や所作で見事に演じ分けているのです。
映画は、もともと知られている「東京物語」をベースにしているので、映画のあらすじを言っても構わないかも知れません。
「東京物語」が1953年の作品で、今回の「東京家族」が2013年ということで60年の隔たりがあることで設定や、家族のありようをいろいろ工夫している様子が見られます。
でも、面白いのは、台詞やいろんな場面が「東京物語」を踏み台にしているのがとても興味深いものがありました。
2012年5月、瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)は、子供たちに会うために東京へやってきます。
東京物語の笠智衆や東山千栄子は、尾道からやってくることになりますが、尾道が街になりすぎたということかもしれません。
品川駅に迎えに来るはずの次男の昌次(妻夫木聡)は、間違って東京駅へ行ってしまいます。
せっかちな周吉はタクシーを拾い、郊外で開業医を営む長男の幸一(西村雅彦)の家へと向かいます。
東京物語にはなかったシーンです。前回にはなかった次男の昌次の立ち位置を示すために大事な場面だったと思います。
「全く役に立たないんだから」と、不注意な弟に呆れる長女の滋子(中嶋朋子)の存在もなかなか見応えがあります。
ちなみに東京物語では杉村春子が演じてます。
掃除に夕食の準備にと歓迎の支度に余念のない幸一の妻、文子(夏川結衣)もしっかり者として演じられています。
やがて周吉ととみこが到着し、大きくなった二人の孫に驚きます。
ようやくイタリアのフィアットのおんぼろ車に乗って昌次も現れ、家族全員が久しぶりに顔を合わせ、夕食のすき焼きを囲みます。
「東京物語」でも夕食の献立はすき焼きで文子が「お刺身でも取りましょうか?」と聞いて「いいだろう」と否定するシーンも同じです。
日曜日、幸一は次男の勇を連れて、両親をお台場から横浜見物へと連れて行く予定を立てます。
ところが、患者の容体が悪化し、急な往診に出かけることになります。
とみこは、すねる勇と公園へ行くが、まだ9歳なのに将来をあきらめている孫の言葉に溜息をつきます。
周吉ととみこは、今度は滋子の家に泊まりに行きます。
美容院を経営している滋子は、忙しくて両親をどこにも案内できません。
夫の庫造(林家正蔵)は、周吉のことを「学校の先生だったから話が理屈っぽい」と煙たがっていましたが、駅前の温泉へと連れ出します。
滋子に頼まれて、昌次は両親に東京の名所を巡る遊覧バス案内します。徹夜あけで疲れている昌次は居眠りばかりです。
帝釈天参道の鰻屋で、昌次がビールを注ごうとしても周吉は断ります。
昔は相当な酒飲みで酒癖も悪かったが、幸一から忠告されてキッパリと断酒しています。
舞台美術の仕事をしている昌次に、周吉は将来の見通しはあるのかと問いただします。
「この話はやめよう」と昌次は突っぱねます。周吉は昔から昌次に厳しく、昌次はそんな父が苦手です。
その頃、滋子は訪ねてきた幸一にある提案をしていました。
忙しくて両親の相手も出来ないから、お金を出し合って横浜のホテルに泊まってもらおうします。
横浜のリゾートホテルの広い部屋で、何もすることがなくただ外を眺める周吉ととみこです。
「東京物語」では熱海に泊まる計画を立てます。熱海に泊まった二人は、宴会や麻雀の音で眠れない夜を過ごします。
周吉はネオンに輝く観覧車を見て、結婚する前に二人で観た映画『第三の男』を懐かしみます。
横浜のホテルでは中国人観光客がホテルの従業員と大きな声で何かもめています。
寝苦しい夜が明け、周吉ととみこは2泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまいます。
そんな両親に、うちで商店街の飲み会を開くから、今夜はいてもらっては困ると滋子言い放ちます。
周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)宅へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにします。
このエピソードも「東京物語」と同じです。
老夫婦が座って時間をつぶす場所が前の映画の時は上野公園で今回は池袋のデパートの屋上の違いくらいです。
「東京物語」の時は、代書屋をやっている服部宅へ泊めてもらおうとして、警察署長をしていた沼田(東野栄治郎)を呼び出した3人で飲むことになります。
今回は、沼田に連れられて服部宅に伺う。そこで未亡人に「学テや、勤評闘争、道徳教育のことでずいぶんアドバイスをもらった」と言っています。
周吉は教員組合の人間なのか、管理職側の人間なのかちょっと興味がわきました。
仏壇には、服部の写真ともう1枚写真がありました。
最近亡くなった老婦人は大船渡で、3.11犠牲になって遺体も見つかっていないと語らせます。父も南方の海で戦死し、遺体がないままだと語らせます。
沼田と周吉は二人でカウンターで泥酔するまで飲んで「なかなか親の思うようにはいかんもんじゃの」とぐちりあいます。
店のカウンターにはおかみ役で風吹ジュンがいます。無愛想な演技は、「東京物語」と一緒です。
久しぶりの母親の手料理を美味しそうに食べる昌次を、とみこは嬉しそうに見守ります。
その時、母に紹介しようと呼んだ、恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れます。
とみこはすぐに明るい笑顔の紀子を気に入ります。
紀子が帰った後、昌次はボランティアで行った福島の被災地でひと目惚れしてプロポーズしたことを打ち明けます。
紀子をすっかり信頼したとみこは、翌朝出勤前に朝食を届けてくれた彼女に、もしもの時にとお金を預けます。
一方、周吉の方は大変なことになっています。
沼田に宿泊を断られた上に泥酔し、滋子に大迷惑をかけて、幸一の家でようやく落ち着いたところに、とみこが満面の笑みで帰ってきます。
ところが、何があったかを話す前に、とみこは突然倒れてしまいます・・・。
「東京物語」紀子役を原節子が演じます。紀子は戦死した次男の嫁で8年も独身を通して、元夫の両親に尽くす役所です。
今回の紀子の設定は興味深いものがあります。
テーマがまさに家族になっているために、家族でない人たちが家族のように手をさしのべてくれるシーンも多くあります。
昔から家族だった人たち、今まさに家族になろうとしている人たち、家族同然のつきあいをしてきた人たちいろんな人のつながりをテーマにしているようにも思えます。
前作のオマージュと言うことで評論家は何というかわかりませんが、私は最近観た映画のなかでは一番のできだと思います。
ぜひ、映画館で観るべき映画だと思います。
おそらくもう一度観に行くと思います。
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