DVD「ふがいない僕は空を見た」を観ました。
このDVDはキネマ旬報の2012年日本映画ベスト10の7位に入っていたので観ました。
この雑誌はずっと読んできていて、ベスト10はいつも気にしています。
若い頃はベスト10に入っていると言うだけで絶対観るという気になっていました。
観ると自分の感性にかなり近いものがあって、いつも満足していました。
この頃は、半分くらいかそれ以下かな?「この映画が…?」という映画も増えてきました。
まあ、考えてみれば評論家それぞれがベスト10に選んだものをポイント制にして合計するんだからいい加減といえばいい加減です。
映画に対して、順位をつけることがどうなのか?という気もしています。
それでも、ちゃんと購入してじっくり読むんだからそこもどうですかね?
映画のタイトルからして、主人公は男性ということなんだけど、映画は里美(田畑智子)目線で描かれていきます。
コスプレ好きの専業主婦と若い愛人(しかも高校生)と何たるスキャンダルの映画です。
それは、それで興味深い設定なのですが、見始めると目線が少し変わってきます。
「空を見た」「ふがいない」人は、「僕」ということで場面が転換するところで青空が出てきます。
観客の目線をふがいない僕にしていこうとしているのだと思います。
3人の目線が入れ替わりながら映画が進んでいきます。
コスプレ好きの専業主婦の里美(田畑智子)と、高校生の卓巳(永山絢斗)は、いわゆる「愛人関係」で、卓巳と良太(窪田正孝)高校の同級生です。
皆それぞれつながりはあって、そこからドラマが展開されるわけですが、そこが複雑な展開です。
里美と卓巳のエピソードは破局の場面から描かれて、改めてなれそめから語られていきます。
時には卓巳の視点から、時には里美の視点から描かれます。
そして、良太の生活が描かれていきます。
里美と卓巳の二人だけの関係を描いているだけでは、宙に浮いた話になりがちだが、良太の生活を描くことによってリアリティーが増します。
初めは、主婦と高校生の「愛人ドラマ」の切り口で観るべきなのかな?と思っていましたが、途中からそういう見方はできませんでした。
卓巳の母親が助産士ということもあって常に生命誕生の場面が出てきます。
しかもその卓巳が助産士の手伝いをしているということも何かの意味を持つのかと考えてしまいます。
その卓巳が年上の主婦に引っかかって、避妊をしない体の関係を続けるというのはどういう意味なんだろう?と考えてしまいます。
良太が後半で逃げ出した母親を訪ねて「どうして俺(私)なんか生んだんだよ!生んでくれって頼んだ覚えもないのに!」「欲しくなかったんなら堕ろしてくれれば良かったのに」とつぶやきます。
この台詞に近いことばは自分の居場所が見つからなかった時に、誰でも一度は口にしたか、したくなったことがあるのではないでしょうか。
このあたりがタナダユキ監督の真骨頂だと思います。
自分が存在している現実の前で、嫌気がさしてここから何とか脱出しようと、もがいてみるけどどうにもできない。
不条理な現実を前に悔し涙を流したり、わき起こる怒りをどこに向けたらいいのかわからなくなってしまう。
そこからわき起こることばが「俺なんか生まれてこなきゃよかった…。どうして俺なんか産んだんだよ…」です。
映画を観進めるうちにだんだん良太の世界が考えを占めてきます。
前半の里美と卓巳のコスプレ不倫なんかどこかに吹っ飛んでしまいます。
貧困、老人介護、スキャンダルすさまじい閉塞感で打ちひしがれても、逃げ出したくて、放り出したくて仕方のない現実をにしても、それでも生きていくことは忘れない。
そういう映画なのだと思います。
卓巳の母親、助産師の寿美子(原田美枝子)が、神社で卓巳と偶然出会います。
里美との関係がインターネットを通じて暴露されてボロボロになった彼に、寿美子は「生きててね。生きて、ずっとそこにいてね。」と言います。
どんな事情があるにせよ、お腹を痛めた我が子を思い、「生きててほしい」と思う。そこもこの映画のテーマになっていると思います。
そこまで映画が進むならということで、気になるのは里美(田畑智子)のことです。
初めは主人公のような存在だったのですが、全体的なテーマの中では単なる前奏に過ぎなくなってしまいます。
この人は、どうしてコスプレに走ったんだろう?
専業主婦という安住の場所を軸足に残しながら自分を変えてしまいたいと思う気持ちをどうしようもない。
しかも、若い高校生を巻き込んでまで、別の世界に逃げ込んでしまう。
それは、都会の日常として存在するのか、狂気の世界がなすことなのか?
そのあたりを詰めてみると映画は別方向に向かうのではないかと思います。
いろんなことを考えさせる映画でした。
これならキネマ旬報のベスト10も納得がいきます。(まだこだわっています)
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