DVD『theショートフィルムズ』を観ました。
年末やっと時間が取れると言うことで、TSUTAYAの気になるDVDを結構借りてきています。
その中の1枚です。
朝日放送の開局記念に“子ども”をテーマに作られたオムニバス映画ということです。
オムニバス映画というのは、正直苦手なジャンルです。
ツボにはまってきたかな?と思った頃には終わってしまうからです。
同じ理由でテレビドラマがなかなか好きになれません。
でもこのオムニバスは、個人的に好きな監督がズラーッと並んでいるからやっぱり観ないわけにはいきません。
井筒和幸、大森一樹、崔洋一、阪本順治、李相日と、これだけ並べるとやっぱりそうそうたるメンバーです。
内容は、ざっと以下の通りです。
・通天閣の展望台で、一夜を過ごすことになった自殺しようとしていた男と母親に置き去りにされた少年のふれあいを描く阪本順治編(展望台)。
・小学校を舞台によくいる思い込みの激しい教師とこれまたよくいる冴えないお調子者の三人の男子児童の攻防を描く井筒和幸編(TO THE FUTURE)。
・母と息子のそれぞれを思う心を描いた大森一樹編(イエスタデイワンスモア)。
・ガンで死期の迫った父親と知的障害のある息子を描く李相日編(タガタメ)。
・中流家庭の母親と出戻り娘の日常を描く崔洋一編(ダイコン~ダイニングテーブルのコンテンポラリー)。
『展望台』では、佐藤浩市と子役の何とも言えない会話の駆け引きが面白い。
さすが、大阪を知り尽くした阪本順治監督だなと思いました。
場所も通天閣の展望台の中だけという設定も何とも言えずいい空間を演出しています。
リュックに貼ってあった「この子をよろしくお願いします」の紙を見ても、動揺しない子どもの凄み。
これも恐ろしい話です。
『To The Future』(井筒)は小学校を舞台にして、とんでもない教師(光石研)の存在がすごい。
学級王国の独裁者としての存在を遺憾なく発揮しています。
「最近の子はすぐに切れる子が多い。それはミネラルが足りないからだ。だからこの海草煎餅を食え!」と子どもたちにビニール袋を押しつける。
よくある光景です。海草煎餅とまでは言わなくても、授業中のくだらないルールはもう異常です。
勤務地を離れて小学校の授業を見せてもらう機会がよくあるのですが、似たような光景をたくさん見かけます。
思ってもいなくても「同じです」「違う意見があります」端で見ていて気持ちの悪いルールが教師から一方的に“約束”させられます。
教師に悪気はなく、みんな一所懸命やっているところから出発しているから悩ましいのです。
しかも、自分で考えたのではなく、どこかの雑誌や本で紹介されたことを真に受けて実践しているから、
うまくいかなくても自分のせいにしないで、すぐに違う方法やハウツーに走っていけるのです。
そんなことを思いながら、この映画を観ていました。
『ダイコン~ダイニングテーブルのコンテンポラリー』は子どもはやっぱり小泉今日子なのか、
ロンドンに行っている小泉今日子の子どもなのかよくわかりません。
この映画はとにかく、樹木希林さんと小泉今日子の二人の会話だけで成立している映画です。
女優のすごさをあらためて感じさせる映画です。
日常をここまで描ききる、演じきるというのはすごすぎます。
ロンドンにいる息子に日本のギャグを教えるということで、携帯電話を持ったままで小泉今日子がギャグを連発する姿は必見です。
「私はアイドル!」と絶叫していた小泉今日子がここまで成長したか…と感慨物です。
怪演しているのは、すっかり白髪頭になった細野晴臣さんです。良い味出してます。大阪で言う「しゅみてる」感じです。
『タガタメ』李相日編は、コメントの難しいテーマです。
末期癌に冒されて余名いくばくもない父親(藤竜也)に39歳の自閉症の息子(川屋せっちん)の物語です。
父親の前に死に神(宮藤官九郎)が現れます。
父親は子どもの未来を悲観して車に練炭を持ち込んで無理心中を図ります。
でも、うまくいきません。
恐怖のあまりパニックになっている子どもを呆然と見ていると、死に神が出てきて「あなたの寿命は尽きていますが、息子の寿命はまだまだあるから、死ねない」と告げます。
息子は、食事も排泄も父親の手を借りないと難しいという設定になっています。
うらぶれた食堂で、児玉清の『パネルクイズアタック25』を見て喜んでいます。
自閉症で、食事も排泄も難しいという設定はどうなんでしょう。
時代はいつなんだろう?
養護学校義務制になって30年もたっているのに、基本的生活習慣が身についていない自閉症なんてありえるんだろうか?
その他の設定がリアリティーを伴っていただけに、障害の誇張はちょっといただけないと思います。
でも、「親亡き後…」の課題は現代に突きつけられた問題でもあります。
何でも自己責任という風潮は、政権が変わっても引き継がれているままです。
もう少し掘り下げてほしいテーマでもあると思います。
『イエスタデイワンスモア』(大森一樹)は人情落語の世界のテーマでした。
観客をハートウォームな世界にいざなうような映画です。
時代劇に場所を変えたファンタジーの世界です。
私はこのての映画は、あまり好きではありません。
全部見終わった感想は、やっぱり物足りなさが残ります。
全編消化不良になってしまいます。
それは、作品一つ一つが出来が悪いのではなくて、興味が沸く頃に終わってしまうという消化不良です。
一本一本テーマを深めてあらためて作ってもらいたいと切に願います。