関●機●連●携協議会の専門家チームの指導を受けたいという依頼を校長を通して受けました。特定の講師(Dr)を希望していましたが、専門家チームの性格上特定の講師を派遣する制度ではないこと、具体的な場面を見て気づきやアドバイスをする、課題についてい協議するということで理解してもらったうえで、状況を把握するために事務局として訪問しました。
先方の希望により、登校時より観察を開始しました。情緒障害学級を中心に見てほしいということで、情緒障害学級に在室して観察をしました。すでに、男子1名、女子が1名登校していました。登校後、かばんをロッカーに入れると、連絡帳やノート類を出し、プリントに今日の日程を書き写す学習をしています。
事前に話していることもあり、Aくんが「お客さんがきたね。勉強見に来たん?」と何度も聞いていました。先生に付き添われて挨拶にきます。人なつっこいことや、注意が転動することなど、行動特性からADHDの傾向のある子どもかと思われました。
男児が登校してきました。教室に入るなり、小さな声で独り言を繰り返しています。鞄をロッカーに入れる、連絡帳を出すことは、何の問題もなく行っています。二人とも担任に付き添われて挨拶に来ましたが、手を添えるだけで握手はしません。
教室の配置は右図の通りです。この配置にしたのは今年の4月からで昨年までは個人用の机はなかったようです。学習スペースとリラクゼーションスペースは衝立で仕切られているがまだまだ雑多な刺激を感じました。
日課表を書き写したら、朝の会まで自由に過ごしていい時間になっています。 「Hくん本読む?」と担任が促します。課題の後の自由時間に何をしたらいいのかが決まっていないと子どもたちは混乱するのではないかと思えました。結局自閉症の2人は絵本を読むことになりました。もう一人のAくんは担任と一緒に教室を出たり入ったりたえず動いています。
Bくんが独り言のように絵本を読み出したので、横について彼の声をまねして絵本を読んでみました。するとすぐに振り向いてバイバイと手を振り、「あっちいけ!」のサインが出ました。次にCさんのところに行きました。彼女は、絵本の文字をちゃんと認識しているようで、アナウンサーか、ドラマのような口調で読んでいました。でも、全文読むのではなくて好きなキーワード「焼き鳥」だけで読んでいるようなので、正しく「焼き鳥弁当」と読んでみました。すると間髪いれずに「焼き鳥弁当じゃな~い!」と強い調子で返されてしまいました。
タンブリンの合図で、いよいよ朝の会が始まります。タンブリンの音と「席についてください」の声が響くとBくんが耳をおさえています。タンブリンの音と、怒ったような「席についてください」の声は今から始まる朝の会の緊張をより高める効果になるのではないかと思われました。
「立ってください」何度も当番のAくんの声が響きます。なかなか一斉には立ちません。ここで担任の注意が入ります。「みんな見てますか?」何度でも起立を繰り返させます。ここは、何の目的なのか指導上疑問が残ります。「今日は5月22日天気は晴れ」を全員で動作化を交えて復唱しています。黒板には左図のように担任の文字で書かれています。カレンダーが表示されているのではなく、毎日担任が書き換えているようです。1週間、1ヶ月の見通しを考えるとカレンダーとの併用が望まれるのではないかと考えます。続いて、今日の日課が読み上げられます。
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その後で担任による健康観察、当番のハンカチ、ティッシュの確認と流れていきましたが、そのほとんどは、言語による指導のみに頼っていて視覚的な条件の支援は準備されていませんでした。自閉症の子どもたちには難しい課題であったように思います。
次に今月の歌ということで、CD伴奏による「さんぽ」が流れます。子どもたちは教室の周りを歩き始めます。Cちゃんは、CDプレーヤーの前から動きません。CDプレイヤーの音に興味があるのか、係になったような感じなのかわかりませんが、動こうとしません。他の子どもたちは机の下をくぐったり、担任二人が作ったトンネルをくぐったりと楽しそうにやっていました。教室という狭い空間がわかりやすい環境を作っているのかもしれません。ただ、朝の会の組み立てからすると、導入の部分と逆の流れになっているような気がしました。動からスタートして静に持っていき、2時間目の学習につなげていくのが理想なのではと思えました。
最後に先生のお話のコーナーがあって、「先生の方を見てください」「目玉こっち」という注意が飛んでいましたが、具体的な「お話を聞いてください」という注意は聞かれませんでした。2時間目の生活単元学習についての注意と3時間目以降の担任の研修のための時間変更についての説明がありました。
その間、保護者は小さい子も一緒に教室に待機していました。それに対して担任の側は、保護者がいないがごとく振る舞っていたので、何か違和感を抱いていました。
2時間目は体操着に着替えをして、帽子をかぶって運動場に出ました。Cさんだけが着替えずにスカートのままで運動場に出ました。「この子はどうしても着替えないんです。」と担任の説明があったので、「服装についてはこだわりの強いお子さんがいるので気にしなくていいですよ」と答えておきました。全員揃ったかに思われましたが、Aくんが帽子をかぶらずに外に出てきました。どうするかな?と見ていると、「Aくん、帽子を忘れています。教室に取りに行ってください」と言われて「みんな待っててよ」と言いながら教室に取りに帰りました。このような巻き戻しや失敗経験は、かんしゃくを引き起こす誘因になりがちなのですが、子どもも大人も気にしないでのんびりしたもので意外でした。
この地点で、保護者が帰り始めました。Aくんは「ママいってらっしゃい!」と声をかけていました。この光景は逆なのではないかと思えました。
子どもたちは外に出て、どこに行くのかと思ったら校舎の外からじょうろを一人ずつ持ち、教室のすぐ裏の花壇に植えてあった野菜に、水をやる活動をしました。「野菜さんのどが乾いているかもしれないのでお水をあげてください」「大きくなあれと言ってあげてください。」という注意を聞きながら実行していましたが、Cさんは「雨が降ります。」と自分独自の理解の中で活動をしていました。絵本の時と同様、自分のメルヘンの世界を持っているようです。
水やりが終わると、運動場に整列して、手つなぎで遊具へ移動していきました。一つずつ遊具に挑戦してクリアーしていく学習になっています。「最初に準備体操をします」の声にCさんは、すぐにその場から離れて走って行きました。でも顔はちゃんと担任の方を向いていました。どうするのか見ていると、少し間をおいてから迎えに行きました。ちゃんとこっちを向いて離れて行ったのだから、もうしばらく様子を見てもいいのではないかと思いました。
CさんはAくんの「1,2,3,4」のかけ声が嫌いみたいで、体操の場面では嫌なことがあることを予想して、逃げ出したのではないかと思いました。
最初は鉄棒から始めました。隣の知的障害の学級の子どもたちは積極的にいろんな工夫をしてやっていました。でも情緒の学級の子どもたちはいろんな気になる行動を示していました。Bくんは最近、金属には一切触らなくなったそうです。こだわりはいろんな形で出てくるので、こだわりにこだわる必要はありませんが、どうして出てきたのか、サインとして理解しておいた方がいいのではないかと思えました。どうしても鉄棒に触らせたいのなら、手袋などの工夫も必要なのではないかと思えました。
Bさん、Cさんはいろんな遊具の所で、集団から外れようとする動きが見られました。教室の中では集団の行動を見ることができましたが、運動場という広い空間では集中できずに、別行動に出てしまうのではないかと思えました。「これが終わったらこれ!」「いつになったら活動は終わるのか?」見通しを支える補助教材が必要なのではないかと思えました。
結局、時間いっぱい運動場で過ごして教室に帰りました。この時間は生活単元になっていますが、「これで生活単元?」というのが率直な感想でした。子どもたちの工夫や自由な発想はどこにも感じられませんでした。生活単元というよりは、遊びの指導とした方がいいのではないかと思えました。
3時間目から校長室に場所を移して、協議に入りました。3人の担任以外に教頭、聴覚障害学級の担任で生徒指導主任の担任が参加しました。
まず授業を見た感想から入りました。それから子どもたちの行動から気づいたことについてコメントしていきました。その後で本題に入りました。出された問題を要約すると以下の通りです。
①保護者と担任のが子どもの教育の方針について共通理解が得られていないということが出されました。保護者が1時間目に小さい子ども連れで教室にいるために、子どもたちが集中した学習ができていないという意見も出されました。
②4月の始業式をもって教室の配置を変えた。個人用の机は昨年はなく、丸テーブルが中央にあって、いつでも遊べるトランポリンが目につくところにあった。
→それに対して保護者は反発している。自由な空間がある方が子どもたちに良い。急な変更によって子どもたちに様々な問題行動が現れてきた。
→学校は、この配置はいろんな先生たちのアドバイスを受けて実施したもので、事実子どもたちは落ち着いて行動できるようになった。と反対の見解をもっている。
③「登校後はしばらく自由遊びにしてほしい。」という親の願いがある。それに対して学校は何度も話し合いの機会を持っているが歩み寄る気配がないと感じている。
結果、親たちを説得するためには、ある程度権威ある方を呼んで、親に理解してもらうことが大切だと考える。そのためにドクターに来校してほしい。という要望を持っている。
協議の中で、以下のことを確認しました。
①親とのコンセンサスを取り付けるには子どもたちの事実を語っていかないといけない。子どもの事実から出発して、そのことをどう見るか、どのように考えて、どのような願いをもって子どもたちに接しているかを語らなければいけない。
②校内委員会を開いて、学校全体の中で子どもたちの教育環境について考えていかなければいけないということを確認すべきであること。
③親と意見が合わないために担任が負担を感じているということについては、職場の中でそれを支える環境造りをめざしていかなければいけないこと。特に校長、教頭が間に入って支えていく必要があること。
④教育の出発点は、子どもたち自身の教育的ニーズから出発すべきこと、そのことを代弁している親の願いも一旦は受けとめてから、話し合いを持つことが大切なのではないか。
いずれにしても、子どもたちが困らない方向で考えていかなければいけないということを確認しました。