2007年に書いたブログを再び掲載します。
当時は日記のところに書いていました。
「モーツァルトとクジラ」の感想が聞きたいという知人の要望です。
昨日観たDVDの紹介をします。
タイトルは「モーツァルトとクジラ」という奇妙なタイトルの映画です。
この映画は原作がNHK出版から出ていて、作者はJerry Newport夫妻です。
二人ともアスペルガー症候群と知られています。
3月には来日され、東京を中心に講演されたようです。
3月5日の朝日新聞でも大きく取り上げられています。
映画の話題の前に少しその記事から紹介します。
Jerry Newportさん(58)はニューヨーク生まれで、93年にアメリカ初の成人自助組織をロスで立ち上げたそうです。
アスペルガー症候群の仲間たちのために執筆や講演、時々タクシードライバーをしているそうです。
同じ障害のMary Newportさんとの出会いや結婚、人生を「モーツァルトとクジラ」という著書(NHK出版)にまとめたそうです。
タイトルは出会ったパーティーでの二人の仮装からとったそうです。
Jerryさんが周囲との「ズレ」を感じたのは4才頃で、大好きな数字のうんちくが止まらなくナルなど、場違いな言動で常に浮いた存在だったそうです。
89年に映画「レインマン」を観て「同じだ」と思い、自閉症を疑い、47才になってアスペルガー症候群という診断をされたそうです。
Jerryさんは数学に特別な才能を持ち、小学生の時も微分積分等の計算ができたといいます。
その後、ミシガン大学を卒業しますが、卒業後は定職にも就かず、ギャンブラーやレジ係、タクシー運転手など職を転々とします。
著書の中では、二人の出会いの場面をこう書いています。(NHK出版のHPより)
『ぼくが計画したハロウィンパーティーを、いまでもよく覚えている。そこで初めてメアリーに会ったのだ。
1993年のことだった。1993は43の二乗に12の二乗を加えた数。
このふたつの数字を足せば55になる。
メアリーが生まれたのは1955年。ぼくらが出会ったのは、93年の289番目の日。
289は17の二乗。17はユニークな数字だ。
17は素数で、正十七角形は円に内接させることもできるが、めったに成功しない。
ゴミ袋と紙でクジラの衣装を作るのに、数週間かかった。
努力の成果は滑稽なくらいお粗末なもので、細長く裂いた新聞紙と金網が、横からはみ出てぶらぶらしていた。
まるでクジラの残骸だ。しまいには、しぼんだ小型飛行船を引きずるような格好でパーティー会場を歩きまわる羽目になった。
でも、その衣装はAGUA(ぼくが組織したサポートグループ)の不思議な魅力を気づかせてもくれた。
とんでもない見てくれにもかかわらず、みんなにほめられたのだ。ぼくの努力がわかったらしく、こんなものを作ろうとしたことが、そもそもすごいと言ってくれた。
こういうふうに無条件で ―― うまくいってもいかなくても ―― 勇気づけてくれるのが、AGUAのいいところだ。』
さて、映画ですが、オープニングでタクシードライバーのドナルドが出てきます。
二人の客を乗せながら、独り言をずっとしゃべっています。
無線の連絡を気にしていて、無線が入るたびに、地図と他の車の位置が目の前にチラチラしてきます。
そのうち花屋の車に追突してしまい、事の解決ができずにその場から立ち去ろうとします。でも彼の頭の中には「仲間の集会に遅れてはいけない」の考えが支配しています。
彼はそのことについて何の問題も感じていません。
そういった情景からスタートします。
映画では二人の最初の出会いは、サポートグループで出会うようになっています。
イザベルは、相手の言ったことは額面通り受け取り、自分で思ったことは何でも口にしてしまうことが多い女性として描き出されています。
そのため、エキセントリックな会話が多くなって相手を混乱させることが多いように描いています。
映画のストーリーについて語りたいこともたくさんあるのですが、これから観る人のために少し遠慮がちに2,3感想を述べたいと思います。
二人が出会い、お互いに相手を意識するようになり二人の部屋を行き来するようになります。
ドナルドは片付けがまったくできません。
今までの生活が全部部屋の中にないと気がすまないタイプです。
イザベルはその感覚は持ち合わせていません。当然のように部屋を片付けます。
部屋に帰ってきたドナルドは、パニックになります。
イザベルに向かって「僕の人生を盗まないで(奪わないで)!」と叫んで飛び出します。
駐車場が一番落ち着く場所のようです。
車のナンバープレートを見て意味づけしていくことで心の安定を図ろうとします。
ドナルドが叫んだことば「盗む」stealということばがズキンと響きます。
自分の世界がなくなっていくことに対しての恐怖が「盗む」ということばで表現されるのかと思いました。
二人が一緒住むようになって、ドナルドが上司を家庭に招きます。
イザベルに「To Be Fine」と申しつけます。
そのことがイザベルの心の安定をこわしていきます。
イザベルは上司に対して、最大限のおもてなしをします。
それは自分にとってうれしいことは相手もきっとうれしく思うに違いないということです。最後には自分の最愛のペットのうさぎを相手に抱かすほどです。
このあたりにアスペルガーの特徴がよく出ています。
映画は、価値観の違う二人が恋愛し、一緒に暮らす中ですれ違いがたくさん出てきていしまう。
相手の価値感を認めながら、自分の価値感も時には遠慮していく、でも他人同士なんだからいくつもの衝突やいさかいが起きてしまう…。
「そんなことってよくあるよね」という感じで淡々と流れていくのですが、これが、通常の人だったら「少しぐらい変わったカップルだよね」で済むのですが、二人ともアスペルガーの人同士の映画なのです。
アスペルガーの人の特徴を知って観るのと、知らないで観るのとでは映画の深みが根本的に変わってくると思います。
でも、映画です。
いろんな観方があって良いのだと思います。
もう一つ、「レインマン」で自閉症の人が大きく取り上げられて、社会的にも話題になりました。
レインマンの行動をそのまま分析している専門書まで出ました。
でも、そこでは、自閉症の人の行動に対する理解を広げていこうというぐらいのテーマでした。
ダスティホフマンが、弟役のトムハンクスの恋人とダンスをするシーンにしても、どこか人間的なズレを感じてしまっていましたが、この「モーツァルトとクジラ」では、作者の「生まれつき脳が愛を受け入れにくくても、心までそうとは限らない」の主張がしっかり入っている映画になっているような気がします。
最後にJerryさんが朝日新聞に寄せていることば「日本では、“ことばやしきたりを知らない外国人だから”とていねいに教えてもらえ、居心地が良かった。
私たちは例えるなら地球に生まれた異星人。
常識でも、教えてもらわないと分からないこともある。
少しの支援で社会てき役割を果たせるようになるんです。」を紹介しておきます。