地域コーディネーターをしていると、いろいろな出来事に出会います。
ほとんどが人がらみで、またそのほとんどが、数回の出合いになります。
その数回の出合いや相談をどう過ごすのかによって考え方が変わると思います。
「数回しか会わないんだから…」にするのか「数回しか会えないんだから…」にするかそのことも考え方次第なのだと思います。
日頃の言動からは想像もつかないかもしれませんが、私は後者に位置します。
今現在の私の持っている力をフルに動員して対処しようとします。
相手の表情を窺ったり、反応を探りながらの対応となります。だから、いつも終わった時には充実感と適度な(相当の)疲労感が伴います。
家に帰ってテレビを見たり、こたつでうたた寝しているとケロッとしまうのですが、年のせいか、この頃どうしても気分が冴えません。
今日(水曜日)は見事にコーディネーターのスケジュールも学校の行事も入っていませんでした。
本当は入っていたのですが、相手校の都合でぽっかり空けることができました。ここは、休んでしまおうと思いました。
職場には休暇を届けて、朝一番に映画を観に行くことにしました。
リフレッシュするためにはいつもと違う環境に身を置くことが一番なのです。
幸い井筒和幸監督の『黄金を抱いて翔べ』をやっています。
井筒ワールドに身を置くことは異次元に入るためには最高かも知れません。
朝8:50の映画に間に合うように家を出ました。
さすがに職場関係者には会わないだろうと、安心していたらチケットを買って入場口に向かう途中でにこやかな笑顔を向けられてしまいました。
見ると、見るとかつての同僚のYさんと保護者のIさんがいます。
仕方ないので「心が風邪を引きかけているので…」と正直に言いました。
彼女たちは「リンカーン」を観る予定だそうです。
さて、映画ですが、さすがに井筒和幸監督です。
アメリカンニューシネマ風な描き方をさせるとこの人の右に出る人はいないと思わされます。
原作は村薫の『黄金を抱いて翔べ』です。この作品は、高村薫さんのデビュー作で発表されたのは90年です。
けっこう前の作品です。前からマークして構想を温めていたんだと思います。
目の付け所が違いますね。『黄金を抱いて翔べ』は、主人公6人がみんな社会からちょっと外れたアウトロー。
生活に追い詰められた男たちが一発逆転をねらって必死の行動に出る。
銀行地下に眠っている金塊強奪を企てるというストーリーです。
ハリウッド映画ならよくあるストーリーのような気がしますが、
これを日本でしかも大阪で撮影しようとするところが井筒ワールドといったところでしょうか。
事件が起きる街がどこなのかによって映画の質は変わると思います。
大阪を舞台にすることによって、生活感がリアルに出てきて、空気感も含めてよりリアリティーが出て来たように思います。
ただ、今回違うのは出演者だと思います。
今までほとんど無名の若手の役者やお笑い芸人を使ってきた井筒監督が、
妻夫木聡、浅野忠信、東方神起のチャンミン、西田敏行、桐谷健太、溝端淳平と流行の役者それもイケメンを揃えてきたことです。
その結果かどうかわかりませんが、井筒さんのカラーが少し薄まっていたように思います。
それぞれの役者の個性や観る側がすでにもっているイメージがあるために、いつもとどこか違うのです。
それはそれで成功なのではないかと思います。
妻夫木聡は、いつも一所懸命演技しているように感じられます。
「ウォーターボーイズ」や、「69」の頃の脳天気で元気の良かった時代から、「悪人」の影のある演技まで、存在感のある役者だと思います。
この前が「愛と誠」だけに役の演じ分けは見事だと思います。
山田洋次監督の「新東京物語」も今から楽しみです。
浅野忠信の演技はまさに怪演ということばが一番当てはまるように思います。
大胆な犯罪計画を企て、実行する男と、平凡な家庭人を気負わずに演じるところが彼のすごさだと思います。
もう一人原作でも謎の男として描かれていた爆弾工作員モモ役のチャンミンです。
透明感のある青年でありながら、確かな存在感がそこにあるような青年を見事に演じていたと思います。
私は東方神起がどういう存在なのか知らないので、何とも言いがたいのですが、映画のワンシーンで面白い場面を観ました。
幸田(妻夫木聡)と再会するシーンのことです。
アルバイト先の豆腐屋では頭にタオル、首元の伸びた地味なブルーのTシャツで豆腐をすくうモモ(チャンミン)がいます。
買い物をしにきた主婦のセリフ「あんた、豆腐屋もったいないわー」と言う場面があります。
ここで場内にいた女性たちの笑い声がしてきました。この日はレディースデイで女性の客が多かったのです。
そこで映画館に入った時に少し思っていて疑問が解決しました。
井筒映画なのに女性の姿が目立つのです。今まででこんなことはありませんでした。
チャンミン見たさに来ている女性たちがいるんですね。
個人的にひいきをしているのは桐谷健太です。
パッチギの時は笑いを取るための配置でハイテンションな役所でしたが、今回はぐっと抑えめな役所です。
唯一、関西弁を話す人物であり、メガネとちょろりと長い後ろ髪がすでに胡散臭いシステムエンジニアを見事に演じていました。
ギャンブル依存症でリストカッター、何をしでかすのかわからない春樹に溝端淳平を配置しています。
この青年の立ち位置がよくわかりにくいところですが、
道化回し的な存在でドラマを展開してためには必要なキャラクターなんだと思います。
もう一人不思議な存在が西田敏行です。
映画の前半ではこの役は西田敏行でなくてもいいんじゃないかと思っていましたが、
映画がどんどん展開し始めるとここに西田敏行を配した意味がわかってきます。
もう一人忘れてはいけない人がいます。中村ゆりです。
「パッチギLove&Peace」の時にキョンジャをやった女優さんです。今回は浅野忠信演じる北川の妻を演じています。
透明感のある存在なのですが、どこか薄幸の臭いを感じてしまう女優さんです。
登場した時から何かしら事件に巻き込まれて不幸になることを予想させる存在です。
銀行の金塊強奪だけに終わらないのが井筒監督です。
それぞれが過去と事情を抱え、チームとして金塊を狙いながらも、誰が信用できるのかさえはっきりしない6人の男たちを描きます。
特にモモの存在が大きなウェイトを持っています。
国からは裏切り者扱いされ、兄を殺さなくてはいけないほどの極限の状態に追い込まれます。
モモが、どんな変化をしていくのかも見どころでもあります。
幸田とモモの絆は、傷を持っているもの同士と考えるべきか、もっと違うものと考えるべきか。
幸田がモモの頭をくしゃっとするシーンは、ちょっと違和感があるシーンです。
クールな二人にとって妙にウェットな描写です。原作はどうだったっけ?と考えてしまいまいした。
もう一つ、気になるのは、登場人物の何人かが半島の影を引きずっているのかということです。
元北朝鮮工作員のモモ(チャンミン)、末永(鶴見辰吾)も二重スパイとして登場します。
そして主人公の幸田弘之(妻夫木聡)すらその気配があります。
弘之が時々フラッシュバックで見る船でどこかの港に着く光景はそれを暗示しています。
弘之と北朝鮮の関係はどこにあるのか少し不思議な気がします。
もしかしたら、帰還事業に関わっていたのかもしれないとも思えます。
工作員モモとの関係はどうなんだろう?この2人には裏世界で生きざるを得ない暗黙の約束事のようなものが感じられます。
大阪のアパートに落ち着いた時に対岸にモモのアパートがあるのも予定調和のような気がします。
弘之のアパートは友達の北川浩二(浅野忠信)が紹介した物件です。
浩二も北朝鮮関係と考えることの方がわかりやすいと思われます。
浩二も元々モモが何者か知っていたのではないかとも思えます。
彼ら皆、北朝鮮につながっているアウトローと解釈した方がわかりやすいかもしれません。
そうなると、あのジイちゃん(西田敏行)すら、その関係者であるかもしれません。
弘之は「人のいない土地」に行きたいと言っているけど、それは国籍のない世界と理解した方がいいと思います。
もう国籍で人生を翻弄されたくないという意味だと思います。
金塊もまた札束とは違い「国家が消滅しても残る」(浩二)国籍に関係なく価値が通用するということばも意味が通じてきます。
どんどん、疑問がわいてきます。もう一度観た方がいいかもしれませんね。