とりあえず一所懸命

鉄道の旅や季節の花、古い街並みなどを紹介するブログに変更しました。今までの映画や障害児教育にも触れられたらと思います。

映画「母べえ」を観ました

2008-01-27 23:51:56 | 映画
 1月26日に映画「母べえ」を観に行ってきました。山田洋二監督作品だし、監督が「嵐がうねり声をあげて吹きすさぶようなつらい時代を、家族をひしと抱きかかえて生き抜いてた優しいお母さんたちへの、あの時代を知っている世代のぼくらからのオマージュとしてこの作品をつくりたい」と書かれているのを知って、ぜひ行きたいと思っていた映画です。

 公開初日にどうして観に行こうと思っていました。昼間は仕事や研究会でどうしても時間が作れなかったのですが、最終の上映にやっと行くことができました。上映初日に観るということが、こういうテーマで映画を作られた山田洋二監督に対しての私自身のオマージュだと思いました。(ちょっと気障でこだわりが強すぎる)
 ちなみにオマージュ(仏:hommage)とは、リスペクト(尊敬)や敬意のことだそうです。

 映画を見終わった感想としては、一言で言うなら大変すばらしい映画であり、できるだけ数多くの人に観ていただきたいということです。公開して間がないのであまりストーリーに立ち入った話は避けるべきだと思いますが、いろんなことを考えさせられる映画でしたので少し感想めいたことを書きます。感動が大きいだけに長くなるだろうと思いながら、お時間のある方のみおつきあいください。

 この映画の原作は、原作は、長年に渡り黒澤明監督のスクリプターを務めた野上照代さんが、幼い頃の家族の思い出を綴ったノンフィクション作品だそうです。すでに同タイトルで本が出されています。(中央公論社 1100円))

 舞台は、昭和15(1940)年の東京です。夫の滋(坂東三津五郎)と二人の娘とつましくも幸せに暮らしていた野上佳代(吉永小百合)。その平穏な暮らしは、ある日突然、滋が治安維持法違反で検挙されてしまったことで一変します。戦争反対を唱えることが、国を批判するとして罪だったこの時代、平和を願う信念を変えない限り、滋は自由の身には戻れません。滋の元教え子の山崎(浅野忠信)や義理の妹の久子(檀れい)、型破りな性格の叔父・仙吉(笑福亭鶴瓶)たちの優しさに助けられながら、佳代は娘たちを育て家計を支えるため奔走します。しかし、新年を迎えても滋は帰らず、やがて日本はアメリカとの戦いに突入していきます……。

 ざっとそういうストーリーになっているのですが、野上照代さんの実父は実際に治安維持法で検挙されたそうです。戸坂潤を中心とした唯物論研究会のメンバーだったそうです。

 映画を観ながら、哲学者の真下信一先生のことを思い出していました。真下先生は、戦争中に京都で『世界文化』という雑誌をつくり、その中でファシズムに対してNOと言った人物です。治安維持法で逮捕され、投獄されましたが生きかたは変えませんでした。今何を考えなすべきかというところからちゃんと自分で考えて、時代の波に流されないで生きていく人でした。一緒に闘った人には新村猛(広辞苑の編集で有名な)がいます。

 真下先生は、著作集の中で下鴨警察署の拘置所の中でのエピソードとして、特高の刑事が言ったことばとして「真理もへったくれもあるか!」を紹介しています。真理のためには身を挺してでも守り通す高潔な思想の持ち主です。

 その真下先生のご自宅にお邪魔させていただいたことがあります。大学時代に担当教官である福田静夫先生から原稿を預かって、真下先生のご自宅に届けるという仕事をしたことがあります。福田先生は、わざわざ私に真下先生と直に話ができる機会を与えてくれたのだと思います。

 真下先生のご自宅はそれほど大きなお家ではありませんでした。でも、玄関を入ると廊下も本棚になっていて本がびっしり並んでいたことに驚きとあこがれをもったことを覚えています。応接室に通されてしばらく話をしたことは覚えているのですが、緊張したのだと思いますが何を話したのかまではまったく覚えていないのが情けないかぎりです。

 さて、映画ですが、吉永小百合さんの演技に圧倒されます。ただ座っているだけなのに抜群の存在感があります。吉永さんはインタビューに答えて「笠知衆さんのようになりたい」と言っていたことを何かの雑誌で読んだことがありますが、まさにその通りだと思います。何も語らずとも存在だけで演技ができる数少ない女優さんだと思います。しかも若い!年齢はすでに60歳を超えているはずなのに全くそういう気配すら感じられません。

 劇中大事な役割を果たす“山ちゃん”を演じた浅野忠信さんも只者ではありません。この人は「青春デンデケデケ」という映画で初めて知りました。その時も独特な透明感のあるような存在感を持っていましたが、今回も見事に演じきっていました。尊敬する恩師のピンチに登場してきて、残された家族を守るために奔走する姿は好きになってはいけない人を好きになってしまう「無法松の一生」の板妻を思わせました。

 もう一人、重要な役回りとして型破りな性格の叔父・仙吉(笑福亭鶴瓶)がいます。この仙吉は「世の中金や!最後は金が物言うんや!」と言ってはばからない男です。獄中に入っている夫の滋とは対局にいるような人物です。山田映画にはよく出てくるキャラクターでもあります。寅やの周囲でまじめに生きている人々に対しての寅さんのような存在です。娘たちはそのデリカシーのない行動や発言に辟易しているけど、母べえにとって本音で生きている仙吉は佳代を建前の世界から解放してくれる唯一の存在でもあるのです。

 他にも、隣組の組長(でんでん)の描き方も興味深いものがあります。口では大日本帝国の正義と勝利を丸ごと信じているようですが、本音のところでは自分の息子は兵隊で取られたくないのです。思想犯でとらわれている母べえの一家を差別することなく、常会にも受けとめている。もちろん、美人の母べえに少しだけ気があるせいもあるかも…。

 山田監督は今回母べえの一家が差別されるようなシーンは入れていません。そこには、大本営発表に浮かれて提灯行列をするような庶民たちを決して批判せずに、彼らなりに精一杯生きてきたんだ。というメッセージが込められているように思います。特高の刑事たちは別として、世間は冷たいばかりではない。というヒューマニズムに対する強い信頼が貫かれていると思います。

 戦時中とはいえ、庶民は決して一枚岩ではないのです。常会で皇居礼拝をしようとする隣組会長に対して「今天子様は那須のご用邸にいらっしゃるとニュースでやっていたから那須のご用邸に向かって礼拝するのが本当ではないか」と方向を探し始めたり、「でもそうしたら皇居礼拝にならない」と議論し始めるなど庶民の混乱ぶりをユーモアを交えて描くところがテーマの割に深刻にならない山田洋二マジックでもあるのかもしれません。

 この時代は庶民はまさに本音と建て前で生きています。母べえも町内会長から紹介してもらった小学校に代用教員の仕事を建前で一所懸命やっています。獄中にいる夫のことを思いながら、講堂でご真影を前に行事に参加している姿はいろんなことを考えさせられます。

 私が今やっている教師もそんなところがあるような気がします。口では特別支援教育、教育改革と立派なことを言っている校長たちも本音は別のところにあって「一人ひとりの子どもを大切にしたい」と思っているのではないでしょうか。そこがまた滑稽でもあります。

 ついでにもう一人、佳代の父親として山口の元警察署長が描かれます。母べえに亭主を転向させるように強要します。母べえ一家を心配してのことに見えますが、実はそれは単に自分の保身だけのためで、俗物の権化のような存在で描かれます。その時の山口弁が妙にリアルで、社会的な地位や肩書きを大事にする山口県人気質を、うまく表しているように感じました。

 映画「家族」「息子」「寅さんシリーズ」を引き合いに出すことなく山田洋次は家族をテーマにして映画を作らせると右に出る人はいないと思います。
 この映画は、登場人物も少なく、場面の展開もあまり多くなく、埼玉に作ったというセットで撮られたものだと思いますが、それでもやっぱりぜひ映画館で大画面で観ることをお勧めします。

やっぱり長くなってしまいました。どうもすみません。
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映画「もしも昨日が選べたら」

2008-01-06 00:37:15 | 映画
1月4日にwowwowで「もしも昨日が選べたら」という映画を観ました。
wowwowの番組宣伝で見てなかなか面白いアイディアだと思っていました。
正直ちょっと楽しみにして待っていました。

映画はざっと言うなら…

建築士マイケルは、妻ドナや2人の子供と裕福な生活をしたいと願い懸命に働くが、そのせいで仕事を優先し、家庭を顧みないという矛盾を抱え込む。あまりに毎日が忙しいマイケルは、どんな電化製品も操れるリモコンを探して街に出て、そこで出会った男から、人生をビデオのように早送りしたり巻き戻せる不思議なリモコンを手に入れる。おかげで人生を思い通りに操れるようになったマイケルだが、それがかえって予期せぬ事態を……!? ということになります。

ビデオのリモコンを使って人生をも変えてしまうという奇抜なストーリーは実に面白い発想だと思います。
誰もが、テレビを見ながら、このコマーシャルを早送りしたいと思ったり、バラエティーのCMの後の繰り返しを早送りしたいと思います。

そこを人生に置き換えるからすごい。

ただし、発想は実にいいんだけど、ストーリー自体はあまり面白いとは言えないかもしれません。
アメリカ人的発想なんだろうけど、日本の感覚からしたらちょっとついていけない感ももあります。

「働きすぎの仕事中心より、家庭を大事に」「お金では買えないものがある」的なメッセージは確かにこもっているんだけど、どこかお正月映画のドラえもんのような気もしてしまいます。

ドラえもんのポケットから次々に出される道具に夢を託したくなるのはわからないでもありません。
そういう気持ちで観るなら実に面白い映画だと思います。

原題: Click
ジャンル: コメディ/喜劇映画 製作年: 2006年
製作国: アメリカ 本編分数: 108分

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