とりあえず一所懸命

鉄道の旅や季節の花、古い街並みなどを紹介するブログに変更しました。今までの映画や障害児教育にも触れられたらと思います。

TVで『竜二』を観ました

2011-01-03 23:23:49 | 映画

日本映画放送チャンネルで映画『竜二』(1983年)を観ました。

上映時間:1時間32分
監督:川島透
脚本:鈴木明夫(金子正次)
撮影:川越道彦
出演:金子正次 永島暎子 北公次 桜金造

1983年度キネマ旬報ベスト10で6位

1983年度キネマ旬報助演女優賞 永島暎子

この映画は劇場では観ることができなくて、ビデオレンタルで借りて来て何度も観た映画です。

久しぶりに観ました。

見終わったとたん、ため息とともにすごい作品だと今さらながら驚かされます。

まさに映画を知り尽くした人たちによる映画だと思います。

ストーリーだけで持って行くでもなく、音楽で感動させるだけでもなく、出演者の演技だけでもっていくでもないまさに全てが一つの作品に結実させられた映画なのです。

映画で描かれているのは、ヤクザなのですが、暴力で突き進むのでなく、ドンパチがあるわけでもない、人間そのものが描かれていくのです。

私は基本的にはやくざ映画は嫌いです。やくざを主人公にした映画はほとんど観ることはありません。

でも、この映画はやくざを扱っていますが、人間を描くことでは飛び抜けている作品です。

30年近く前の映画なので簡単にストーリーを交えながら語らせてもらいます。

花城竜二(川島正次)は、新宿にシマを持つ三東会の常任幹事です。

舎弟に直(桜金造)とひろし(北公次)を連れて、街を粋がって歩いていました。

新宿近辺のマンションに秘密のルーレット場を開き、舎弟の直とひろしに仕切らせ、そのあがりで優雅にやくざ社会の中を泳ぎわたっています。

その竜二も3年前には、金に不自由している時があり、イキがったり暴力を誇示、拘置所に入れられます。

妻のまり子(永島暎子)は竜二の保釈金を工面するため九州(鹿児島?)の両親に泣きつき、両親は竜二と別れるならという条件で大金を出してくれます。

妻と子どもが家を出てから、竜二は次第にやくざの世界で実力をつけ始めます。

妻にも仕送りができるほど安定した生活が続きます。

30歳になった竜二は、充たされないものが体の中を吹きぬけて行くことに気づきます。

竜二はかつての兄貴分で、今は夫婦で小料理屋をやっている関谷にその思いをぶつけます。

店を閉めてからの小料理屋の二人の会話が名場面です。

「俺たちは弱い人間だ。いつも怖くて怖くて仕方なかった。窓から飛び降りようとしたことも何度もある。その時に助けてくれたのが、女房と子どもだ。」

と語る関屋に竜二がうなづきます。

そんな竜二に関谷は「俺はそう考えた時、俺自身を捨て、女房・子供のために生きようと決めたんだ」と言います。

そんなある日、竜二は、新宿のある店の権利金をめぐってこのトラブル収拾を組の幹部から頼まれます。

ひろしにやくざの名刺をもらい、左内側ポケットにしまいます。

喫茶店で、弁護士と銀行員を前にしてサングラスとコート姿で伏し目がちに無言で座ります。

左手の名刺に手をかけようとした時に、我慢できなくなった銀行員が「待て!金は払う!」と小切手を切ります。

このシーンもなかなかなのです。

このトラブルを見事に解決した後、竜二はカタギの世界へ踏み込んでいきます。

カタギとなった竜二を、まり子の家族は歓待してくれます。

まり子の母親が、正座して別間から「花城さん、まり子をお願いします。もう…」でカットチェンジします。

このあたり、全く無駄なカットがありません。

小さなアパートを借り、妻と娘とのごくありふれた生活が始まります。

酒屋の店員としてトラックで走りまわる毎日。かつてとは較べものにならないほどの安月給。

しかし、竜二にとって生まれて初めての充実した生活でした。

そのあたりのところを竜二とまり子の表情で伝えていきます。

三ヵ月経った給料日に、かっての兄弟分・柴田が、竜二をアパートの前で待っています。

麻薬中毒で見る陰もなくやつれ果てている彼は、竜二に金を借してくれといいます。

でも、今の竜二にはそんな余裕はありません。給料袋に手をかけますが、財布の中のなけなしの金を渡します。

数日後、柴田の訃報を聞いた竜二は香典を届けますが、柴田の情婦に「今ごろ持って来ても遅い」と突き返されます。

表で、直に出会います。その直に対して部屋の中から「あんた!」という声がかかります。

これで、今の直の状態が全て伝わります。

これを期に、竜二の心の中に、焦りと苛立ちが芽生えるようになってきます。

仕事もサボるようになり、家計簿をつけて溜息をつくまり子を怒鳴ることもあります。

ある日、かつての弟分、ひろしが訪ねて来ます。

黒いスーツ、白い細身のネクタイ、オールバックの髪とすっかりヤクザの貫禄を身につけたひろしは、まさにかっての竜二自身でした。

数日後、渋滞でいらだっている時にトラックの同乗者が、自分も昔粋がっていたことを自慢げに語るのを聞いて、ついに竜二のカタギの世界との糸が切れます。

ヤクザの世界へ戻っていく決心をした竜二は、娘と買物をしているまり子と商店街で顔を合わせます。

見つめ合ったまま無言で立ちつくす二人。

全てを理解したまり子は、涙を浮かべながら娘に「おばあちゃん家に帰ろうか?」と言います。

数日後、雑踏の中にヤクザの世界に戻った竜二の背中を丸めて歩く姿があります。

この最後のエンディングシーンはおそらく日本映画史上最高のシーンではないかと思います。

何でもないような夕方の商店街の風景。

肉屋の特売に親子で楽しそうに並ぶまり子と娘。

坂道の上からそれを眺める竜二。

黙って見つめ合う竜二とまり子。

状況を飲み込んで、竜二にすがりついても止めたいと思うまり子。

でも、そうしても竜二の心は返って来ないことを知っているまり子。

何も告げずに子どもの目の高さまで下がって「おばあちゃん家に帰ろうか?」と告げます。

「行こうか?」ではなく「帰ろうか?」なのです。

何も知らない子どもは素直に喜んで「全日空に乗れるの?」と聞きます。

その時には竜二の後ろ姿は遠くに去っています。

映画の随所にギターで泣きを十分効かせたマイナーの曲調のブルースが流れています。

これが、何とも言えずいいのです。

初めて観た時は、竜二と同世代ということもあって、切なさも共感できていたように思います。

今観るとちょっと違った観点から見えてくるものもあるのですが、やっぱりあの時代背景を合わせて観る必要があると思います。

やくざにもどった竜二を昔のように歓迎する仲間はいないと思います。

そのまま身を持ち崩していく竜二が何とも悲しいエンディングです。

1時間32分全く無駄なカットがありません。

低予算で2週間で取り終えたと聞いています。まさに奇跡のような作品だと思います。

主演と、脚本を担当した金子正次さんはこの映画を撮り終えた後に急死します。

死期が迫っていたことを知っていたのではないかという説もあります。

私が今まで観てきた映画の中でベスト10をあげるとして、この映画は絶対に外れることはないと思える映画です。

チャンスがあったらぜひ観てほしい映画です。

 

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