パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

天国の小松左京様へ

2011-07-28 23:10:33 | Weblog
 グラフィケーションにお世話になってほぼ三週間。

 校正の手伝いをしたり、国会図書館で資料を探したり、バックナンバーを読んだりの毎日だが、今日、やっと蛍光灯をつけることができた。

 紐を引く際、ちょっとしたコツがいるみたいなのだ。

 何事も、「慣れ」が大事、ってことで。

 それはさて、グラフィケーション誌も、創刊以来、ほぼ50年、昔のバックナンバーには、とっくに鬼籍に入られた人は少なくないが、今も元気に活躍している人も少なくない。

 雑誌自体が若かったので、書いている人も、当時売り出し中の若い人が多かったのだろう。

 そんな一人が、当時売り出し中というには、大物過ぎるが、昨日、訃報が伝えられた小松左京だ。

 で、「グラフィケーション」に、小松氏が何を書いていたかというと、関西落語4大SFネタという題目で、正直言って、私は何も知らず、タイトルだけで、いかにもすごそうな、「地獄八景」の桂枝雀版をユーチューブで見ようとしたら、全編聞くと1時間は優に越えるらしいので途中で止めたが(「仕事で聞いている」と言えば言えるのかもしれないが……まあ、「慣れる」のが先決と思って、職場で聞くのは止めた)面白そうなのなんのって。

 大阪の「心斎橋」にかけているのだろうが、地獄ツアーにやってきた客が、案内人に、「ここはどこですか?」と聞くと、案内人が、「震災橋」ですと答え、「ぎょうさん人がいまっしゃろ」とつけ加える。

 神戸の震災の後だったのか前だったのかわからないが、「後」だったら、さすが桂枝雀と言いたいところだが、さすがの枝雀も、東北大震災の後では、これは言えないだろう。

 正直言って、私はそういう日本の現状がたまらなく嫌だし、逆に言うと、こういう強烈なギャグ(といっていいのかわからないが)が言えるようになってはじめて、「復興」も視野に入ったと言えるのではないかと思うのだが、その小松左京、東北大震災を目の当たりにして、「これほどの死者を出してしまったのは、我々の世代に責任がある」と述懐し、衰えが目立って早まったそうな。

 元来、私はSFというのが苦手で、ミュンヒハウゼンの『ホラ男爵の冒険』と(『ホラ男爵』はSFではないかもしれないが)、グゥインの『闇の左手』以外、面白いと思ったものがない。

というか、「面白い」と思う前に、絵空事につきあうのが面倒くさくなってやめてしまうのだが、グゥインって、「グラフィケーション」でインタビューを受けていたが、女性だったのですね。

 と、グゥインが女性だということも知らなかったくらいだから、小松左京の『日本沈没』なんか、小説も映画もまったく見ていないが、小松左京自身は、「高度成長に浮かれる日本に対する警告」の意味で書いたんだそうだ。

 正直言って、「当時」、そんな「警告」を耳にしたところで、まともに理解しようとはしなかったと思うし、実際、作品自体もどうってこともないと思うのだが、東北大震災の惨状に「私たちに責任がある」と明言した人の存在を知ったのは、小松左京がはじめてであった。

 菅直人はまったくいただけないが、しかし、彼に責任があるのではない。

 責任があるのは、小松左京の世代である。

 それを認め(といっても小松左京自身は、「反原発」ではないと思うが)、なおかつ、実際に死んでしまったことに、天の邪鬼な表現になるかもしれないが、震災後、はじめて聞く「いい話」とすら思ったのだった。

 作家・小松左京の真骨頂を見たというか。

 「地獄八景」を絶賛したのだから、きっと私の意は伝わるにちがいない。

 ねえ、天国(「正直」な小松さんは、きっと天国にいる)の小松左京さん!