Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

PEN LIFE1203. 建築家の技

2015年09月23日 | field work
 私はフィールド調査であれば、いつでもでかけられるのだが、それにしてもシルバーウィークは時間をもてあます。といって出かければ、どこも観光客の群れだし列車は満席だから出かけられない。さてどうしたもんか。
 そこで奥能登の珠洲市!、まず観光地ではないし、鉄道が廃止された頃は、東京まで2日がかりだった日本列島の数少ない僻地だった。最近は道路網が整備されたので半日ぐらいでゆけそうだ。 これは面白そうだし行くべえ。
 珠洲市上戸(うえど)にある部屋数5室の民家風民宿がとれた。遠回りの迂回ルートで米原で乗り換え、大勢の観光客が跋扈する金沢を素通りして特急バスで珠洲市へ。
 ようやくこの地域の民家風の民宿にたどり着いた。囲炉裏のある広間を囲むように2階に客室があり、障子1枚で廊下と仕切られているというのが昔の旅籠のようだ。はっはーん、それは冬には広間にある小さなストーブで各客室を暖めようという考え方だ。冴えている。下の広間の暖かい空気を2階に運ぶ通気口はあるが、部屋には空調機はない。現代の訪れる人間にとって厳しい設えだ。そういう厳しさを要求するのは、この土地の気候風土と、その中で建築を長く持たせようとするせめぎ合いの結果なのだろう。
 1階の廊下の突き当たりに1枚引きの大きなガラス戸があり、絵になる所に窓を開けたな。なんと随所に設けられた開口部がいろは紅葉の植栽を巧みに取り込んだピクチャーウィンドーだ。スリッパがないので廊下は靴下が床を磨いてくれる。だから黒光りしている。
 洗面台とトイレが半屋外であるところが素晴らしい。今は浄化槽だから、このほうが通気がよく大変衛生的なんですね。半屋外ですから冬は寒いですよ。
 はっはーん、これはまぎれもなく建築家の技だな。主に訪ねたら輪島市の建築家高木信治氏の設計だった。珠洲市固有のあすなろの一種アテという木材を使用し、設計だけで3年かかったそうである。その間に主も建築を勉強してくださいという建築家の発想が素晴らしい。民家に造詣のある建築家だから、なるほどと納得した。そして建築家のすごさに背筋をピンと伸ばされた思いがある。
 ビジターの評価は、もう二度と来ないという通俗的な評価と、おもしろいじゃないかとする評価とに二分されているそうである。既に新築後30年は経過したとのこと。そんなに時間が経過したようには見えないぐらい、毅然としていて今でも美しい。建築家の技を感じさせてくれた民宿であった。今の日本は、こういう技のある建築家が日本全国にいるのである。
 そんなお料理が美味しいとかいっているそこの通俗的なアホOL達よ、もっと人間の暮らし方や生き方に通じる文化を建築を通じて勉強しろよ。そのためにこの民宿があるといってもよいだろう。

珠洲市上戸
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コメント
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