気軽に洋書ミステリー

家にいてもすることがないおじさんは考えました。このままではボケる。そうだ!好きなミステリーを英語で読もう!英語力???

The Stranger Diaries by Elly Griffiths

2020-07-12 09:42:02 | 読書感想

2020年 MWA BEST NOVEL Winner

高校の英語教師Clare は、高校が10月の期末休みを利用して開設している成人向けの講座で小説作法の講義をしている。講義のテキストは彼女が伝記を書こうとしているヴィクトリア朝時代の怪奇小説作家Roland Montgomery Hollandの『Stranger』という短編小説。講義する場所は今は高校の一部として使われているが以前はR. M. Hollandが住んでいた邸宅、螺旋階段を昇った最上階には彼が使っていた書斎がそのままの状態で保存されている。生徒には立入禁止となっている書斎に上がるたびに彼女は研究する作家の邸宅で教鞭を取る幸運に感謝していた。

授業の休み時間、生徒が去った月曜日の午後の教室で彼女が行き詰まっている伝記やほぼ毎日書いている日記について考えている時教科主任のRickから電話がある。

Rickは彼女の同僚で親友のElla Elphickが昨夜殺されたと告げる。親友が事故で死んだのではなく殺されたという事態、彼女ともう会えないという事態が呑み込めず動転する彼女に、Rickは、この夏の教育研修の期間に彼がEllaと浮気したことを刑事たちには内緒にしてほしいと彼女に頼む。

事件の手がかりを求めてClareに会いに来た刑事Harbinderは、Ellaには付き合っていたボーイフレンドはいなかったか尋ねるが彼女は否定する。しかし、HarbinderはEllaのSNSに彼女がこの夏の教育研修合宿で起こったことについて後悔している記述をみつけClareの証言に疑問を持つ。さらに、Harbinderは犯人がEllaの死体のわきに『Stranger』からの引用と思われるメモを残していることに注目し、犯人はClareの身近な人物、もしくは彼女自身ではないかと推測する。

Clareは教育研修期間の出来事について再確認しようと日記を読み返すが、日記の余白に何者かが彼女に対してメッセージを書き残していることを発見する。人に触れられるはずのない日記を何者かに読まれて、書き込みがされていることに恐怖を感じた彼女はHarbinderに連絡する。そして、日記の提供を受けたHarbinderは殺害現場に残されたメモと日記に書かれたメッセージの筆跡は同一人物の物であることを突き止める。

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ゴシック小説は中盤まではゆったりとした展開で読者を焦らせて、一気に最後に盛り上がるとヒロインのClareが小説作法の授業で生徒に説明しているが、この小説もそのパターンを踏襲している。終盤までは殺人などの事件は起こるがClare母娘、Harbinderの3人の心情が印象に残り、殺人という残酷な事実が頭に思い浮かばないゆったりした展開。終盤になって次々と事実が明らかになり、一気に事態が緊迫していく展開は面白かった。

物語はClare母娘、刑事のHarbinderの3人の観点から同じ出来事が異なった視点で語られていく。3人が事件やお互いをどのように観ているのか、心情が細かく描かれているので3人のキャラクターに同調しやすい。ただ、時系列が前後するので混乱する時がある。

15歳の娘のGeorgiaのキャラクターが良い。母親にはそこらにいる同じ年頃の少女と変わらないと思わせて、実は魔女だという女性に惹かれ、殺された母親の親友のために降霊術を行なったりする。大学の公開講座で小説作法を学び、こっそりと小説を書いたりしている。親友が殺されたことで精神的に不安定になっている母親のことも心配している優しさがある。そして最後に魅せる名探偵ぶりも見事。

刑事のHarbinderも魅力的。Clareの日記に自分が小さいと書かれているのを読んで彼女が大きいのであって自分が小さいわけではないとムッとしている場面。校長が教師の仕事のハードさを主張するのを聞きながら刑事の方がもっと大変なんだと内面では反論しながらも、それは大変だと同情する素振りを見せるなど...

 

E-book(Kindle版)★★★★ 323ページ 2019年