アメリカ、ボストン市、金曜日夜、バーで独り飲んでいた女はカクテルをおごってくれた男と店を出たところを、そのバーで働いている大男のバーテンダーに襲われ、意識を失い拉致される。意識を戻した彼女は、自分が全裸で手錠をかけられて男のガレージに放置されていることを知る。しかし、彼女はその事態に慌てることなく、ガレージにあったゴミ箱をあさり、自分を守る武器を作る。そして、男が現れたとき、彼女その武器では男を殺す。
1年前の大怪我から回復できず、一線の捜査から外され、捜査について監督指導する役職に異動させられたボストン市警巡査部長、DD.Warren(D.D) は、拉致されたと思われる20代の女性が両手を縛られていたにも関わらず誘拐犯に反撃して殺したことにショックを受ける。
女性は何者なのか?彼女は、自分の名前を名乗ることなく、FBIのBoston 支部と連絡を取る。さらに彼女は、自分を誘拐した男は、誘拐の手口から見て3ヶ月前女子大生Stacey Summersを誘拐した男だと断言し直ちにこの家を捜索するよう進言する。DD は、彼女が冷静に誘拐された経緯や捜査について助言したりする様子から、彼女は警察関係者かと考えるが、やがて、彼女の要請で駆けつけてきたFBI のVictim Specialist(誘拐事件専門の精神科医)、Samuel Keynesから彼女がかってマスコミを賑わしたFlora Daneであることを知る。
Flora は学生だった7年前に誘拐、拉致され、472日後に奇跡的に救出される。以来、彼女はサバイバル格闘術を学び、二度とあのような目に遭わないよう備えると共に、自分のような犠牲者が出るのを防ぐため自ら囮となってレイプシスト達を捕らえ、警察に引き渡していた。
DD は彼女が今までに3件のレイプシストを摘発し警察に引き渡しているが、この4件目ではレイプシストを殺していることを懸念する。男の部屋を捜索したDD達は、Floraが推測したStaceyのものではなかったが、拉致、殺されたと思われる二人の女性の運転免許証を発見する。そして、マスコミがこの事件を報じた後、Staceyの父親から殺された男が娘を誘拐した犯人であるかどうかについての問い合わせの電話がDDにかかってくる。彼女は電話の内容から、Floraと父親は娘の誘拐について話合っていて FloraはStaceyの行方を追っているのではという疑いを抱く。
DDはその疑問を解明しようとFloraのアパートを訪ねるが、そこで彼女が拉致誘拐されたことを発見する。DDはFloraがStaceyの行方を追っていたのを察知した誘拐犯が彼女も拉致したと推測する。FloraはStaceyの行方をどこまで追っていたのか?またFloraが殺した男はStaceyと関連があるのか?DDは上司から厳命されている刑事達を監督指導する捜査事務の立場を捨て、自ら捜査の先頭に立ってFloraたちの行方を追う決心をする。
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一味違った誘拐を扱ったストーリー。捜査する側と誘拐された被害者の様子が交互に描かれて物語が進んでいくというパターンはよくあるが、誘拐された女性がここまでたくましく、強い姿は痛快、DDが誘拐犯に迫っていくという期待感とFloraが誘拐犯に立ち向かっていくという期待感で、先が気になって終わりまで一気に読める。
特に、物語の冒頭、誘拐されたFloraが逆に誘拐犯を殺すという予想外の展開、いきなり物語に引き付けられてしまった。また、7年前の誘拐された時の彼女のひ弱さと現在の彼女のたくましさとのコントラストがうまく描かれている。
著者もあとがきで述べているが、FBIにVictim Specialsitという被害者の心のケアをする専門官がいるというのを初めて知った。長い拘禁生活の中、公共の場に連れ出されて、逃げようとすれば逃げられるという状況に置かれても逃げようとしないほど誘拐犯に精神的に追い込まれた被害者を元の生活に戻れるようカウンセリングしていくという仕事。たしかに 解放されたからすぐに元の自分に戻れるなんて思えないなと納得。
E-book(Kindle版) ★★★★ 400ページ 2016年2月出版 141円(2016年購入)