恋人のMorrellとイタリアでの休暇を過ごしてシカゴに帰ってきたV.I.Warshawski(Vic)。久しぶりに仕事に戻ったVicは事務所の前に顔見知りのホームレスEltonが倒れているのを発見し、救急車を手配、病院に付きそう。彼の無事を確認し、事務所に戻ったVicを病院でEltonの入院手続きをしてくれたKaren Lennonという介助養護施設付きの女性の牧師が訪ねてくる。彼女は自分の施設に死期が迫っている黒人の老婦人Cladiaとその姉Ellaがいて、二人は姉の息子Lamontを探しており、できたらVicに探して欲しいと頼む。それも無報酬で。
Karenの熱意に負けてとにかく彼女らに会いに行ったVicは、探す相手は40年前に行方不明になった当時21歳、生きていたら61歳になる男と聞いて唖然とする。息子の失踪当時、二人は警察に行ったが、黒人である彼女らはまったく相手にされなかった。以来、二人は警察に不信感をもっており、探偵を雇うことを考えていた、報酬は姉が死んだときにはいる保険料で払うことにして。即座に断ろうと思ったが、甥であるLamontの消息を知ることが死が迫ったClaudiaの最後の望みであると知り、Vicはその仕事を引き受けることにした。
Vicは40年前のLamontの友人、知人に彼の消息を尋ねるが誰も彼の消息を知らなかった。
しかし、彼が黒人少年グループで組織されたAnacondasに所属していたことがわかる。彼を洗礼した牧師はこのグループが麻薬、殺人、強盗など行っている犯罪グループと断定し、それに加わっていたLamontも麻薬を売っていたと糾弾した。
一方、牧師の娘のRoseはLamontは人種差別に不満を持っていて、公民権運動を主導しているキング牧師を白人の暴徒から守る一員として活動していたと牧師の発言を否定した。
さらにRoseは、その夜Vicに電話をしてきて、Lamontが失踪したといわれる日の夜、彼がAnacondasのリーダー、Johnny Mertonと一緒にいるのを見たと告げる。
Vicは当時の状況を調べるために大学の図書館に行き、1967年1月25日、Lamontが目撃された最後の日、身元不明の死体が発見されたという新聞記事がないか調べる。記事を検索している中、Vicは、Lamont の友人だったSteve Sawyerが、前年の8月6日に起きたHarmony殺人事件の犯人として逮捕され、その裁判が1月25日に行われるという記事を見つける。そして、1月30日の記事で動機も凶器も不明のまま有罪の判決を受けていることを知る。
Vicは、Steve の所在を突き止めようと刑務所のデータベースにアクセスするが、どこにも彼の名前は存在せずLamontのように消息不明になっていた。Vicは州検事局に勤める友人にHarmony殺人事件の裁判記録のコピーを頼む。
裁判記録を読み始めたVicは彼を逮捕に行ったのが父のTonyであることを知り呆然とする。
1966年8月6日、公民権運動のデモ行進、それに反対する白人との騒乱の中、Harmony Newsomeは殺された。捜査を担当したLarry AlitoとGeorge Dornickは この混乱の中、殺害場所や凶器を発見できなかった。しかし、クリスマス直後、匿名の情報によってSteve Sawyerを逮捕する。三日後、Steveは自白した。自白以外何の証拠もないままに陪審員は有罪の評決をする。Vicは この情報提供者がLamontではないかと推理する。そして、それを知ったJohnny Mertonに殺されたのでは考え、現在、刑務所に収監されている彼との面会の必要性を感じる。
また、当時の新聞記事や裁判記録によると、裁判に出廷したSteveはおどおどして精神が不安定な状態のように見え、拘留中に拷問された様子が推測され、Vicは父もその拷問に加わったのではと不安になる。
Johnnyとの面会の段取りを考えている中、KarenがVicに会いに来て、知り合いの修道女FrankieがHarmonyが殺されたデモに彼女と一緒に参加していたと話し、FrankieはSawyerが逮捕されたことに疑問を感じ続けていて、Vicにあって話したいことがあると伝言されたと告げる。Vicは、Frankieに電話してSawyerのことを聞こうとするが重大なことなので直接会って話したいとして、予定しているアイオワ州での仕事をすませてから会うことにする。
VicはSteveを密告したのはLamontだという推測を確認するために 収監中のJohnny に面会に行く。何も収穫がなく事務所に戻ったVicは、室内がめちゃくちゃに荒らされているのを発見する。さらに姪のPetraがいつもつけていたブレスレットが落ちており、以後Petraと連絡が取れないことから 彼女は侵入者に誘拐されたと思われた。
姪のPetraは両親とカンサスに住んでおり、父の故郷のシカゴに来るのは初めてだった。大学を卒業した彼女は父の友人で上院選に立候補するBrianの選挙活動のボランティアとしてシカゴにやってくる。彼女は父親のシカゴ時代の様子や父方の家系の歴史に興味津々で、昔、Vicたち家族が住んでいた家やVicの父親の遺品などを見せて欲しいと頼み込み、Vicはそれらを案内しながら、昔の思い出を彼女に語ったりした。Vicは Petraの若さあふれる行動力や明るさをうらやましく思っていた。
Vicは 事務所に仕掛けてある防犯カメラのビデオからPetraが二人組の男と一緒に事務所に入るのを見て、この男たちがLamontに関する調査を妨害する目的で乱入し、Petraを拉致したと考え、この二人組を特定すべく全力を挙げる。また、最近、Petraがふさぎ込んでいたように見えたことから、彼女の周囲の人物にも聞き込みを開始する。
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久しぶりにVicの物語。携帯電話、インターネットでの個人や会社の必要な情報を調査できる時代になっても、ジョッギング、ムスタングの愛車、常に弱者の立場に立つという信念、昔も今も変わらない、 読んでいて安心感がある。
例によって最初の章はトラブル発生に会うVic.そして、その事態に至るまでの過程が次章から語られていく。やがて、最初の章を受けて物語が盛り上がっていく。いたるところに事件を解く鍵が隠されていて後で納得。よくできている。
印象に残ったのはそれぞれの父娘の問題。 苦労して一代で精肉会社の社長になった父を尊敬し、その大好きな父のルーツを探ろうとする娘、厳格な牧師の娘として生まれ、夜遊びしている若者の仲間に加わることができず、好きなボーイフレンドに自分の心を打ち明けることもできず男が出てくるのを道路で佇んで見守る娘、尊敬する父親の彼女の信頼を裏切るような行為に戸惑うVic、拷問などないと信じようと捜査に携わった刑事たちが否定すると安心したりする。特に、牧師の娘Roseの人生には切なさを感じる。
Vicの物語は重厚感がある、アメリカの暗い部分を常に主題に取り上げる。今回は 60年代のアメリカの公民権運動。当時の状況をネットで検索してみると キング牧師のシカゴでの運動は白人による反抗でうまくいかなかったようだ。牧師は白人が投げたレンガによって血を流しながら行進していたようだ。しかし、物語で語られているように非暴力主義に反発して結成されたブラックパンサーや黒人のストリートギャングなども協定を結び、このデモに参加してキング牧師を白人の暴徒から守っていたようだ。
★★★★