久しぶりに会った同窓会でクラスの各人が卒業後の大まかな人生を話した。私は精神科医である事を言った。予想通り、みな精神科についてテレビドラマやマンガの影響で素晴らしい誤解をしてくれていた。
「おい。浅野。俺の精神を分析してくれよ」
と言うヤツもいた。
京極夏彦の小説が好きで、二重人格について質問してくるヤツがいた。私が二重人格というものは無い、と説明しても、なかなか納得しない。それでこんな風に説明した。
私「神とか天国とか地獄とか幽霊という言葉はあるでしょう。でも言葉はあっても、神が存在すると思う」
T「存在しないと思う」
私「でしょ。それと同じなんだよ。二重人格という言葉はあるけれど、二重人格というものはないんだよ」
そう説明しても彼は納得しない。酒も入っている影響もあるだろう。からんでくる。それで次はこんな風に説明してみた。
私「竹中直人とか、物真似師とかは、他人の物真似をするでしょう。でも、あれは演じているのであって、自我は変わらないのはわかるでしょう」
T「うん。そうだね」
私「ああいうのが演技でなくて、本当に人格が、他人に変わってしまったら二重人格と言えるね。でも、そういう事はないんだよ」
そう言ってもまだ彼は納得しない。
私「あのね。統合失調症は、前は精神分裂病と言っていたでしょ。それで分裂病は分裂感情障害と言ってね、症状が悪くなると、人が変わったように怒って、症状が良くなると、人が変わったように大人しくなる、という事はあるんだよ。でも怒るとか、落ち込むとかいうのは、感情の変化であって、それは誰にでもあるでしょう。分裂病の患者は、その感情の変化する程度が病的なの。でも感情の変化というのは人格の変化ではないでしょう」
T「そうだね」
それでもまだ彼は納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。もう説明して納得させるのは無理だと思った。私もいいかげん疲れてきた。また説明も面倒くさくなってきた。
私「あのね。病気には診断名を書くでしょ。「二重人格」とか「二重人格症」という病名はないんだよ。精神科の専門書にだって、二重人格という言葉はのってないんだよ」
彼はまだ納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。
私「精神科の病気にはね、色々なタイプがあって、それはICDー10分類とかDSM分類とか言うんだけど、それに細かく書かれているんだ。でも、その中に「二重人格症」というのはないんだよ」
だが彼はまだ納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。
私もムキになって説明するのがバカバカしくなってきた。ので、
「もう、この話はやめよう」
と言って打ち切った。
私は以前、シナリオ教室に参加した事がある。なのでシナリオの書き方はわかる。シナリオ教室は面白かった。その中で、ある時、ジェームス三木がこんな話を作った。ことを先生が語った。
ある女がいて、その女は二重人格で、貞淑な女とアバズレ女に変わるのである。ある男が、アバズレの時の状態の彼女を好きになってしまう。しかし、彼女は治療によって二重人格の病気が治ってしまう。だが男は、アバズレの彼女が好きなので、アバズレが無くなった彼女には魅力が無くなり、別れる、というストーリーである。なかなか面白い話だと思った。精神科医である私は、内心、可笑しかったが、テレビドラマはデタラメでいいから、別に悪くはない。
ただ二重人格はテレビドラマやマンガなどのフィクションの中だけにとどめて欲しい。現実には、人格が変わってしまう二重人格という病気はないのである。
ただ統合失調症の場合、自分の人格がわからなくなる、identityの喪失という症状は、あるのである。これは患者にとっては辛い症状なのである。
「おい。浅野。俺の精神を分析してくれよ」
と言うヤツもいた。
京極夏彦の小説が好きで、二重人格について質問してくるヤツがいた。私が二重人格というものは無い、と説明しても、なかなか納得しない。それでこんな風に説明した。
私「神とか天国とか地獄とか幽霊という言葉はあるでしょう。でも言葉はあっても、神が存在すると思う」
T「存在しないと思う」
私「でしょ。それと同じなんだよ。二重人格という言葉はあるけれど、二重人格というものはないんだよ」
そう説明しても彼は納得しない。酒も入っている影響もあるだろう。からんでくる。それで次はこんな風に説明してみた。
私「竹中直人とか、物真似師とかは、他人の物真似をするでしょう。でも、あれは演じているのであって、自我は変わらないのはわかるでしょう」
T「うん。そうだね」
私「ああいうのが演技でなくて、本当に人格が、他人に変わってしまったら二重人格と言えるね。でも、そういう事はないんだよ」
そう言ってもまだ彼は納得しない。
私「あのね。統合失調症は、前は精神分裂病と言っていたでしょ。それで分裂病は分裂感情障害と言ってね、症状が悪くなると、人が変わったように怒って、症状が良くなると、人が変わったように大人しくなる、という事はあるんだよ。でも怒るとか、落ち込むとかいうのは、感情の変化であって、それは誰にでもあるでしょう。分裂病の患者は、その感情の変化する程度が病的なの。でも感情の変化というのは人格の変化ではないでしょう」
T「そうだね」
それでもまだ彼は納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。もう説明して納得させるのは無理だと思った。私もいいかげん疲れてきた。また説明も面倒くさくなってきた。
私「あのね。病気には診断名を書くでしょ。「二重人格」とか「二重人格症」という病名はないんだよ。精神科の専門書にだって、二重人格という言葉はのってないんだよ」
彼はまだ納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。
私「精神科の病気にはね、色々なタイプがあって、それはICDー10分類とかDSM分類とか言うんだけど、それに細かく書かれているんだ。でも、その中に「二重人格症」というのはないんだよ」
だが彼はまだ納得しない。だから私は酒飲みが嫌いなのである。
私もムキになって説明するのがバカバカしくなってきた。ので、
「もう、この話はやめよう」
と言って打ち切った。
私は以前、シナリオ教室に参加した事がある。なのでシナリオの書き方はわかる。シナリオ教室は面白かった。その中で、ある時、ジェームス三木がこんな話を作った。ことを先生が語った。
ある女がいて、その女は二重人格で、貞淑な女とアバズレ女に変わるのである。ある男が、アバズレの時の状態の彼女を好きになってしまう。しかし、彼女は治療によって二重人格の病気が治ってしまう。だが男は、アバズレの彼女が好きなので、アバズレが無くなった彼女には魅力が無くなり、別れる、というストーリーである。なかなか面白い話だと思った。精神科医である私は、内心、可笑しかったが、テレビドラマはデタラメでいいから、別に悪くはない。
ただ二重人格はテレビドラマやマンガなどのフィクションの中だけにとどめて欲しい。現実には、人格が変わってしまう二重人格という病気はないのである。
ただ統合失調症の場合、自分の人格がわからなくなる、identityの喪失という症状は、あるのである。これは患者にとっては辛い症状なのである。