小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

心中 (小説)

2020-08-24 04:20:42 | 小説
心中

中学校の時、同級生に、佐木、という男の子、と、佐藤、という、女の子がいた。
二人とも、内気で、弱々しい性格の子だった。
心無い連中は、二人を、いじめた。
佐木、と、佐藤、は、慰めあっていた。
すると、心無い連中は、そんな二人を、面白がって、ますます、いじめた。
二人は、強くて、心無い、人間の集団の中で、二人して、肩を寄せ合って、慰めあって、生きていた。
二人は、中学校を、卒業した。
二人は、同じ、高校に、進学した。
しかし、高校でも、二人は、いじめられた。
内向的な人間は、どこへ行っても、いじめられるのである。
それから、5年後、二人が、結婚した、ということを、聞いた。
とても、微笑ましく思った。
二人は別々の大学に進学し、そして大学を出て、それぞれ、どこかの、会社に就職したらしい。
二人は、高校、卒業後も、ずっと、文通をしていて、大学を卒業したら、結婚しようと、約束していたらしい。
私は、用事があって、結婚式に、行けなかったが、それが、とても残念だった。
だが、彼らの笑顔は、想像のうちに、ありありと、見えた。
彼らの、性格の弱さは、変わっていなかった、らしかった。
でも、弱い者、同士、いたわりあって、きっと、やっていけるだろうと、思っていた。
だが、それから、4年後、二人が、心中自殺したという、ことを聞いた。
詳しい理由は、わからないが、二人は、高校時代の、彼らを、いじめた連中に、高校を卒業した後も、つきまとわれていて、金をせびられ、サラ金に手を出してしまって、多額の借金をつくってしまったらしい。
それを聞いた夜、何とも、やりきれない、耐えがたい、気持ちになって、なかなか、寝つけなかった。
その夜、こんな夢を見た。
真っ暗闇である。一点の光もない。
だが、その闇の中に、一点、小さな光が、見えた。
それが、だんだん近づいてくるにつれ、それが、炎であることが、わかった。
それは、はげしく燃え盛る巨大な炎だった。
どうやら、ここは、地獄の中の、焦熱地獄らしい。
私は、しばらく、その炎を眺めていた。
すると、その炎の中に、人がいるのが、見えた。
二人いる。
二人は、抱き合って、目をつぶり、身を震わせながら、地獄の熱に耐えていた。
二人は、佐木、と、佐藤、であった。
その時、目が覚めた。
実に、おそろしくなった。
その時、私の心に、私の意志とは無関係に、一つの言葉が流れた。
「自殺者は救われない。命を粗末にした者は、永遠の罰を受けなければならない」
私は、夢が、正夢であるような気がしてならなかった。
それから、数年、経った。
もう、誰も、彼らのことなど、忘れてしまっている。
だが、私は、今でも、時折、ふとした、きっかけで、彼らを思い出すことがある。
その時、決まって、私の心に、一つの言葉が流れる。
「自殺者は救われない。永遠の刑罰を受けねばならない」
地獄の炎は、永遠に、彼らを焼き続ける。
二人は、それに、耐えねばならない。
目を閉じて、抱きしめ合ったまま。

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二人の悪童と京子 (小説)

2020-08-22 16:16:20 | 小説
「二人の悪童と京子」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換算57枚)


「二人の悪童と京子」

純は小学生を卒業して、中学生になった。
今まで、小学校では、普段着だったのが、中学生になって、学校の制服になって、ちょっと、大人になったような、気分だった。
純のクラスには、佐藤京子、という、可愛い、生徒がいた。
純は、一目で、京子を好きになってしまった。
一目惚れというやつである。
というより、綺麗な女は、みな、一目惚れされるのである。
クラスには、山田、と、井沢、という、ナンパな、悪童二人がいた。
もちろん、彼ら二人も、京子を好きになった。
しかし、二人の悪童は、自分が、京子に、好かれないこと、を、十分、わかっていた。
京子のような、美しい、清楚な、生徒が、チャランポランな、自分たちに、好意を持ってくれるはずが、無い。
そのため、彼らは、京子を、からかうことで、京子と、関係を持とうとした。
・・・・・・・・・
京子、は、真面目で明るい、清楚な、生徒だった。
「清楚」、という言葉が、まさに合う少女だった。
しかし、京子、には、お転婆、な、性格もあり、クラスの悪童たちに対しては、お転婆、な、性格となって、クラスの、悪童、たちの、悪ふざけに対して、悪ふざけで、応戦した。
人によって、性格を使い分けていた。
真面目な生徒に対しては、しとやかに、対応し、ふざけた生徒に対しては、ふざけ返した。
山田、と、井沢、の二人は、しょっちゅう、京子を、からかっていた。
京子も、二人に、からかわれると、二人を、からかい返した。
・・・・・・・・
しかし、内気な、純、に対しては、京子、は、礼儀正しく、接していた。
「純君。勉強、教えてくれない?」
と、京子、が、聞いてくるので、純、は、丁寧に、京子、に教えた。
京子、は、
「ありがとう」
と、礼を言った。
京子は、学科の成績も、クラスで上位なので、もしかすると、京子は、理解していることでも、自分に、質問しているのではないか、と、純は思う時があった。
「勉強、教えてくれない?」、と、言ってくるのは、自分と、話したいための、口実なのではないかと、純は、思う時が、まま、あった。
・・・・・・・・・・・
しかし、純、は、京子、の、「お転婆さ」、も、好きだった。
純、も、クラスの、悪童たちのように、からかわれたかったのである。
しかし、人間の性格は、変わらない。
なので、京子、は、純、には、礼儀正しく、接するのである。
しかし、純、は、自分も、悪童、のような、性格で、京子、に、からかわれたい、と思っていたのである。
・・・・・・・・・
昼休みには、山田、と、井沢、という、悪童、二人が、
「スカートめくり」
と言っては、京子のスカートを、めくろうと、ふざけている。
これほど明らかなセクハラはない。だが。京子はお転婆なので。
「ふん。このエロ豚」
と言って、耳を引っ張ったり、「悪戯した罰」、と言って、悪童を、四つん這いにさせ、京子は、その背中にまたがった。
「ほれほれ。ブタブタ。走れ。走れ」
と言ってからかい返す。
悪童、は、「へいへい。女王様。どうも、すみやせんでした」、と言って、京子の罰、に、従って、京子を背中に乗せて、馬のように、這って歩いた。
・・・・・・・・・・
悪童、も、京子も、こういう、ふざけっこ、を、面白がって、楽しんでいた。
京子が、可愛いので、悪童たちは、京子を、「女王様」、と、呼んでいたが、京子の、お転婆な性格も、知っているので、ちょっかい、も、出した。
・・・・・・・・・
純は、悪童たちが、羨ましかった。
自分も、悪童たち、のように、ふざけた性格になり、京子を、「女王様」、と、呼んで、奉ったり、スカートめくりの、ような、悪戯をして、そして京子に、仕返しされたら、どんなに、楽しいだろうか、と、悪童たちを、羨んだ。
しかし、純の、内気で、真面目、な性格では、とても、そんな事は、出来なかった。
・・・・・・・
ある時、のことである。
「純。お前も京子のスカートめくりに参加しろよ。京子はスカートめくられるの、あながちイヤじゃないんだぜ」
と、悪童、の一人、井沢、が、言った。
「・・・・」
純は、黙っていた。
「お前だって本当は京子に、エッチな事したいんだろ。無理するなよ」
井沢、が、唆した。
純は顔を赤くして、黙って、去って行った。
・・・・・・・
数日後の、放課後のことである。
井沢、が純の傍らに来た。
「おい。純。面白いものを見せてやるよ。来いよ」
純は、「い、いいよ」、と言って、首を振ったが、井沢は強引に純の腕をつかんで、連れて行った。
そこは校舎の裏で、鬱蒼とした雑木林だった。
どこをどう歩いたのか。小さなボロボロの小屋が見えた。
「ふふ。面白いものを見せてやるよ」
そう言って、井沢、が、小屋の戸を、少し開けた。
「さあ。見てみろよ」
言われて、純、は、小屋の中を、そっと見た。
純は、びっくりした。
小屋の中央で、手首を縛られて、その縄尻を天井の梁に引っ掛けられて、吊り下げられている京子がいたからである。
そして、京子のとなりには、山田がいた。
山田は、清楚なセーラー服を着て、天井に吊られている京子、の顔、や、体を、弄んでいた。
京子は、「いや、いや」、と言って、身をくねらて山田の玩弄に抵抗しているが、拘束されているので、山田の、なすがままになっている。
山田は、京子の、耳を引っ張ったり、胸を揉んだり、髪の毛を引っ張ったり、くすぐったり、スカートの中に、手をしのばせたり、と、じらすように、京子を人形のように、責めていた。
山田、が、京子を、弄ぶ度に、京子は、
「あっ。やめて」
と言ったり、
「お願い。もう許して」
と、山田、に哀願していた。
おおよそ、いつもの、京子の態度とは違う。
正反対である。
山田は、ニヤニヤ笑いながら、遠慮なく京子の体を、触って弄んでいる。お尻や太腿に触ったり、遠慮なくスカートの中に手を入れたり、と。京子は、山田、のなすがままの人形にされていた。
山田が、戸の所にいる、井沢と純を見つけると、
「よう。連れてきたか」
と、ニヤリと笑って言った。
「さあ。入れよ」
と山田、が言ったので、井沢は笑いながら純の背中をドンと押した。
純はよろめいて小屋に入った。
京子は、純を見つけると、「あっ。嫌っ」、と言って、とっさに、顔を真っ赤にして、純から、顔をそむけた。
純も、京子から顔をそむけた。
「お前たち。約束が違うじゃないか。ここには、誰も連れてこない、と言ったじゃないか」
京子が語気を荒くして言った。
「ふふふ。さあ、そんな約束したっけかな。忘れちゃったよ」
と、山田、は、空とぼけて、ふてぶてしい口調で言った。
「さあ。座れよ」
純は井沢に背を押されて座らされた。
井沢は、吊られている京子の所に行った。
純は信じられない光景を呆然と見ていた。なぜ、こんな事が起こりうるのか、理解出来なかったからだ。
山田は得意そうに説明するようにニヤニヤ笑いながら言った。
「ふふ。純。どうしてこんな事が出来るか、教えてやろう。簡単な事だ。京子はマゾなんだよ。な。そうだろ」
と、山田、は、京子の髪の毛を弄びながら言った。
「ち、違うわ」
京子は、あせって言った。
「なに、ウソ言ってんだよ。お前は、おそるおそる、オレ達の所に来て、モジモジしながら、(私を、好きなように、うんと、虐めて)って、言ったじゃないか」
山田、が、京子の、鼻をつまんで、言った。
「言ってないわ。私。そんなこと」
京子は、激しく首を振って、必死に、否定した。
両者の言い分が、正反対である。
どっちの、言い分が正しいのか?
と、純は考えた。
しかし、これは、明らかだった。
悪童、二人が、京子を、この小屋に、強引に連れてきて、京子が嫌がるのに、京子を、嬲る、などということを、京子が、許すはずがない。
京子が、「そんなこと言っていない」、と、必死で、否定しているのは、純に、自分の、恥ずかしい姿を、見られて、ムキになって、否定しているのだ。
「じゃあ、縄を解いてやるよ」
山田が言った。
悪童、二人は、京子を、吊っている、縄をゆるめていった。
京子を吊っていた縄が、緩んで、京子の手首は、胸の辺りにまで、降ろされた。
山田は京子の手首の縛めも解いた。
これで、京子は、完全に自由になった。
しかし、京子は、逃げようとせず、ばつが悪そうな様子で、立ったままでいる。
純に、恥ずかしい姿を見られてしまって、困惑しているのだろう。
「ジャジャジャ、ジャーン。これから京子のストリップショーだ。ほれ。きている物を一枚、一枚、時間をかけて脱いでいきな」
山田、が言った。
だが京子は立ったままモジモジして困惑している。
「いつもしている事だろうが」
「早くやれ」
と、野次を言われても京子は立ち往生している。
「純。京子は、いつもな、(着ている物を全部、脱げ)、と言うと、(はい。わかりました)、と、しとやかに言って、一枚、一枚、ゆっくりと、脱いでいくんだよ。そして、全裸になると、恥部と、胸に、手を当てて、恥ずかしそうに、モジモジするんだよ。オレ達、に、みじめな、丸裸を見られることに、京子は、マゾの快感を感じているんだよ」
と、山田、が言った。
「してないわ。そんなこと」
京子は、激しく首を振って、必死に、否定した。
京子は、悪童、二人に対しては、恥ずかしさ、が、無いが、純に対しては、「清純な女」、で、いたいから、必死に、否定しているのだろう。
と、純は、思った。
「なに、ウソ、言ってんだよ」
山田、が、言った。
「今日は、純がいるから、京子は、恥ずかしいんだよ」
井沢が言った。
「そうか。今日は純がいるからな。恥ずかしくて脱げないってわけか」
「それなら俺達が脱がすまでよ」
そう言って、山田と井沢は美しい蝶を捕まえるように、抜き足、差し足で京子に両側から近づいていった。そして、サッ、と、飛びかかって、京子を捕まえてしまった。京子は、
「イヤイヤ」
と言いながら抵抗した。しかし、二人は、あれよあれよという間に京子を裸にした。まず上着を脱がせ。次に、シャツを脱がせ。それからスカートとパンツも脱がせた。
京子は、「やめてー」、と、叫んで、抵抗したが、男二人の力には、かなわなかった。
京子は、一糸まとわぬ丸裸にされてしまった。
京子は、片手で、股間を隠し、片手で、胸を隠した。
「ほーら。ほら。京子のパンツ」
と言って、山田は脱がせた京子の服を笑いながらヒラつかせた。
「おい。井沢。この服をどこかに隠してきな」
山田はそう言って京子の服を井沢に渡した。
「オッケー」
井沢は京子の服、全部を抱えて、小屋を出て行った。山田は床にドンと座って、ニヤニヤと、裸の京子を眺めている。程なく、井沢は戻ってきた。
「ふふ。どこへ隠した」
「いつもの場所さ」
二人は顔を見合わせて笑った。
(どうやら京子の服を隠す決まった場所があるようだ)
京子は丸裸にされ、脚をピッタリ閉じ、秘部と胸をひっしと覆って、モジモジしている。
「ふふ。さしずめ山賊に捕まった旅の女だな」
山田が笑いながら言った。
「どうだ。純。面白いだろう」
山田は純の肩に手をかけて言った。
「ふふ。今日はお客さんがいるからな。とっくりと時間をかけて京子のヌードを観賞しようぜ」
そう井沢が言った。
「どうだ。面白いだろう」
と、井沢は笑いながら言った。
純は信じられなかった。
京子は学校では、優等生で、クラスのアイドルで、男子生徒の憧れである。山田も井沢も京子に憧れて、かしずいている。二人は、ほとんど、京子の奴隷に近い。
京子がイヤがる事など、京子に嫌われる事を恐れて出来るはずがない。
それに京子は女といっても水泳部で体格もよく、女のわりには、腕力もあり、本気になって抵抗すれば男二人に襲われても、身を守れるはずだ。
それなのに怒った顔もせず。意地悪な山賊ごっこを受け入れているかのごとくである。
純は真っ赤になって、顔をそらした。
見るべきではないと思った。
見れば京子に自分がスケベだと思われる。
純は気が小さかったので、そんな事さえ出来なかった。しかし、見ないでガマンするには純の心臓は高鳴りすぎていた。
あの美しい京子の全裸姿が目前にあるのである。
それで純は京子に気づかれないよう、そっと京子に目を向けた。
すると、そこには羞恥に顔を赤らめ、太腿をピッタリ閉じて、秘部と胸を押さえて困惑している美しい京子が間違いなく佇立していた。
それはあまりにも美しかった。
京子は顔を背けているので、京子に気づかれる心配はない。と思うと純は安心した。
純は、ゴクリと唾を飲み込んで京子を見た。
まばゆいばかりに美しい京子が全裸で立っている。
美しい体から放射される女の体の甘い芳香が小屋を満たしているような気さえする。
秘部をしっかり手で覆っている繊細な指。
箸を持つことから、あらゆる物を持つ、日常の実用に使われるための手。
その手が全裸になっても女の部分を隠そうとする、見るも痛ましい、けなげな最後の抵抗をしていた。
隠すために指が女の羞恥の割れ目にピッタリと触れ合っている。
そんな種種の想念が純の官能を激しく刺激した。
純のマラはズボンの中でみるみる怒張した。
「ふふふ。どうだ。面白いだろう」
山田が、せせら笑いながら言った。
純は真っ赤になって咄嗟にうつむいた。
京子は脚をモジモジさせながら、ピッタリ閉じ、秘部と胸をひっし、と覆い隠して立っている。
「よし。じゃあヌード観賞はもう終わりだ。本格的に虐めようぜ」
そう言って山田が立ち上がった。目配せされて、井沢も立ち上がった。二人はニヤニヤ笑いながら全裸の京子にじりじりとにじり寄って行った。京子はおびえた表情で後ずさりした。だが、二人は京子を小屋の隅に追いつめて行って、
「それっ」
とばかりに、おそいかかった。
京子は、手は恥部を隠しながら応戦しなければならず、ろくな抵抗も出来ずに、あっさりと二人に捕まってしまった。
「ふふ。してやったり。美しい蝶を捕まえたぜ」
山田と井沢は京子の両手を背中にねじ上げて、手首を重ね合わせて、しっかりと、つかんだ。
「あっ。何をするの」
「ふふ。なにカマトト言ってるんだ。いつもやってることじゃないか」
山田はニヤついて言った。
「おい。早く。縄で縛るんだ」
山田に言われて井沢は小屋の隅にある縄を拾ってきて、そして二人がかりで京子を後ろ手に縛り上げてしまった。
そして、その縄尻を、天井の梁に、ひっかけて、その縄を引っ張っていった。
京子の縄尻の縄が、天井に引っ張られて、京子は、また吊るされてしまった。
前は、制服を着ていたが、今度は、丸裸である。
京子は秘部を覆う手を縛められてしまったので、恥ずかしい所を隠しようがなくなった。それでも何とか秘所の割れ目を隠そうと脚をピッチリ閉じて腰を引いている。その姿はこの上なくいじらしく、なまめかしかった。
二人は、京子を縛り上げて、吊るすと、大仕事を終えたようにパンパンと手をはらって再びもとの場所にもどり、ドッカと腰を降ろした。
「今度は後ろ手に縛られた、全裸の京子のヌード姿をとくと観賞しようぜ」
山田、が言った。
「ふふ。手を縛られてるから、もうまんこは隠せないぜ。さあ、どうするかな」
井沢、が言った。
京子は脚をピッチリ閉じて脚の寄り合わせで秘所を何とか隠そうと苦しい努力をしている。横向きになろうとするが、あまり横向きになりすぎると尻の輪郭が見られてしまう。その事をおそれて、一定の方向を向くことが出来ず、もどかしそうに腰の向きを時々かえては困惑している。その姿、や、仕草は、いっそう艶めかしく、いじらしかった。
「ふふ。京子。色っぽいぜ。何で今日はそんなに恥ずかしがるんだ。いつもは自分から素直に手首を背中に回すのに」
山田がニヤついてからかった。
「ふふ。今日はお客さんが来ているからさ」
井沢が言った。京子は憤怒の目を向けた。
「お前たち、約束が違うじゃないか。ここには誰も連れてこないと約束したじゃないか」
「ふふ。誰がお前との約束なんか守るもんか。約束の証明書でもあるって言うのかよ」
京子は体をプルプル震わせている。
「ちくしょう。覚えてろ。今度、学校の休み時間には、この屈辱の十倍の屈辱を味あわせてやるよ」
京子は、吐き出すように、捨てゼリフを吐いた。
「ふふ。そういう能書きは、学校に戻ってから言いな。ここでは、お前は、オレ達の玩具なんだよ。それをしっかり自覚しろ」
井沢が言った。
「おい。純。今日はお前がいるから反抗しているけど。いつもは大人しく、自分から脱いで、『縛って』って言うんだぜ。そもそも、この遊びは京子の方から言い出したんだぜ。『私を裸にして二人でいじめて』って言ったんだぜ。さすがに京子が、それを言った時の京子は、頬を真っ赤にして口をブルブル震わせて失神しそうなほどドキドキしていたんだ。俺たちもそれを聞いた時はビックリしたぜ。しかし、もう、この秘密の遊びは何回になるか、わからないんだぜ。『誰にも言わないでね』って、京子が、オレ達に、すがるように頼んだ時の顔は可愛かったぜ。でもだんだん刺激が減ってきたから、こうやってお前を連れてきたんだ。たっぷり見て楽しみな」
と、山田、が言った。
「ふふ。純。いい物を見せてやるよ」
そう言って井沢は小屋の隅にあるダンボールの所へ行って中をゴソゴソと漁った。そしてその中から本を取り出して、純の元に戻ってきた。
井沢は純の前にその本を置いてページを一項一項めくった。
それはオールカラーのSM写真集だった。純は、
「うっ」
と声を洩らし激しく勃起した。美しい大人の女性が丸裸にされて、世もあらぬ奇態な辱めの格好に縛られた写真が項をめくるごとに現われたからである。ほとんどが後ろ手で、手を縛められ、片足を吊られたり、胡坐の姿勢で足首と首を縛られたり、柱に縛りつけられて立たされたり、寝かされて片足を高々と吊り上げられたり、後ろ手に縛られて、四つん這いになって、尻を高々とつきあげたり、股に褌のように縄を食い込ませたり。そんな激しくドギつい写真が次々と項をめくるごとに現われたからだ。純は目を皿のようにして食い入るようにそれを見た。目をそらすには、余りにも刺激的すぎた。
「ふふ。これと、これと、このポーズで京子を縛ったんだぜ」
と、井沢は自慢げに言った。
「縛ったんじゃなくて、京子が自分から頼んだんじゃないか。『今日はこのポーズに縛って』って」
山田、が言った。
純は目を皿のようにして、その写真を見ては京子と見比べた。美しい京子が、こんなあられもない格好に縛られて、山田と井沢に、その姿をまじまじと見られたのかと思うと、純の心臓はドキドキと鼓動が早くなり、興奮のため、おちんちん、は、はちきれんばかりに勃起した。
京子は自分の恥ずかしい秘密が暴かれていくことに、耐えられない羞恥を感じているのだろう。目を瞑って睫毛をピクピク震わせている。
「おい。棒切れをもってこい」
「おう」
山田、に言われて井沢は小屋から出て棒切れを二本もってきた。二人は、それぞれ一本ずつ棒切れ、を持つと、京子に近寄り、腹、や、尻、など、体をあちこちツンツンつつきだした。
「あっ。いやっ。やめて」
叩いたり、強く突いたりはせず、棒切れ、の先であちこち京子の体をつついて、京子を困らせているといった具合である。
しかし、京子は、丸裸を、後ろ手に縛られて、吊るされているので、抵抗できない。
「京子。正面を向いてろよ。純に、お前が虐められている姿をよく見せてやれ」
京子は、何とか、まんこ、を隠そうと脚をピッチリ閉じ、腰を引き気味にしている。
しかし、まんこ、の割れ目は、見えている。
「ふふ。そんなに裸を見られるのが恥ずかしいなら下着を履かせてやるよ」
そう言って山田は京子のパンツを持ってきて、京子に近づいていった。
京子は半信半疑な表情でソワソワしいてる。山田は京子の足元に屈むと、足をピシャンと叩いた。
「ほら。パンツを履かせてやるから足を上げな」
言われて京子はそっと叩かれた足を上げた。
山田はパンツを広げて片足を通した。
同様に反対側の足にも通した。
そして、パンツを膝の所まで引き上げた。
しかし、パンツは、膝の所まで、引き上げられたが、それ以上、は、引き上げなかった。
両足にパンツが通されると山田は京子をニヤリと見てパンツから手を離してそそくさと元、居た場所に戻ってしまった。
パンツは、京子の膝の辺りに引っかかったままである。京子は後ろ手に縛られているためパンツを引き上げることは出来ない。
膝に中途半端に、ひっかかっている、パンツは、みじめである。
「も、もっと、ちゃんと、上げて」
京子は、顔を真っ赤にして言った。
山田、と、井沢、は、ニヤニヤ笑いながら立ち往生している京子をインピな目つきで眺めている。京子は山田の意地悪に気づいたが、どうしようもない。
京子は後ろ手に縛られているためパンツを引き上げることは出来ない。
唯一の方法は、「上げて」と頼むしかない。
が、頼んでも山田が上げる保証はない。京子の口から、「上げて」と恥ずかしい哀願をさせることが彼らの目的なのである。京子はどうしようもない、といった困惑した表情で体をモジモジさせている。このままではいつまでも足をピッタリとくっつけたまま立ちつづけなくてはならない。
「も、もっと、ちゃんと、上げて」
京子は、顔を真っ赤にして言った。
「後ろを向いて尻をみせな。そうすればパンツを上げてやるよ」
井沢がニヤついて言った。京子は、しばし躊躇した表情でいたが、意を決したらしく、小声で声を震わせながら、
「ほ、本当だね」
と聞いた。
「ああ。本当さ」
井沢はニヤつきながら言った。
「なっ。山田」、と井沢は山田に相槌を求めた。
「ああ。本当さ。お前の、前姿は、もう十分見たからな。今度は、後ろを向いてしっかり尻をみせな。そうすればパンツを上げてやるよ」
山田、が言った。
京子はしばし躊躇した表情でいたが、意を決したと見え、踵を回しながら、体の向きを、クルリと、180度回転させた。
京子は、首をガックリと項垂れている。
背中の真ん中で重ね合わされて、手首を縛められて、縛められた指をギュッと握りしめている。この屈辱に何とか耐えようとして。その下では弾力のあるムッチリした尻の山が顕わになっている。見られないようにと、尻をピッチリ閉じているため、ピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目の輪郭が余計はっきりしてしまっている。羞恥のため、尻の肉が小刻みにプルプル震えていた。
「ふふ。全裸の後ろ姿も色っぽいぜ」
「ふふ。まんこは恥ずかしくて見られたくないけど、尻ならいいってわけか。それじゃあ、とくと、尻の割れ目、を、観賞させてもらうぜ」
井沢と山田はニヤニヤ笑いながらそんな揶揄をした。
全裸の京子の後ろ姿は美しかった。華奢な上半身から弾力のあるふっくらした柔らかい尻の肉へとつづき、ムッチリとした二つの肉の押し合いによって、滑稽なほどはっきりした割れ目が形つくられている。その下ではスラリと伸びた脚がつづき、女の美しい体の稜線を形づくっている。
「ふふ。尻の割れ目がくっきり見えるぜ」
「それは京子が尻に力を入れて必死に閉じているからさ」
あはははは、と山田と井沢は笑った。
「も、もう、いいだろ。下着をちゃんと、履かせて」
京子は小さな声で言った。尻が小刻みにプルプル震えている。
「わかったよ。じゃあ約束だ。パンツを履かせてやるよ」
二人は、よっこらしょ、と言って大儀そうに立ち上がると京子を挟むように京子の両側にドッカと腰を降ろした。
「嬲る」という字は一人の女の左右に男と書くが、まさにその通りである。京子は二人に挟まれてオドオドしている。
「ほら。パンツを履かせてやるから前を向きな」
そう言って井沢は震えている京子の腿をピシャンと叩いた。
京子はパンツが引っかかっている足をソロソロと回して正面を向いた。
京子は、脚をピッチリ閉じ、腰を引いて、何とか、まんこ、を見られないように、しようと抵抗しているが、それだけでは、まんこ、の割れ目は、隠すことが出来ず、見えてしまっている。
しばし二人は京子の間近で京子の股間をニヤニヤ眺めていた。
二人が黙ってニヤニヤ眺めているだけなので不安を感じ出したのだろう。
京子は小声で声を震わせながら言った。
「さ、さあ。私は正面を向いたよ。や、約束した事をしておくれ」
京子は顔を真っ赤にして言った。
「ふふ。約束した事って何だよ。具体的に言いな」
「パ、パンツを履かせてくれることだよ」
京子は赤面して言った。腿をピッチリ閉じ、もどかしそうに小刻みに足踏みしている。
「ああ。履かせてやるよ。でも、いつ、という事は決めなかったからな。もうしばらくしたら履かせてやるよ」
井沢が言った。
「ひ、卑怯だよ」
京子が言った。
「パンツを履かせてもらえなくて、モジモジしているお前の姿はいじらしくて可愛いぜ。じっくり観賞させてもらうぜ」
「ず、ずるいよ」
京子は真っ青になって、膝にパンツを引っ掛けたまま、大声で怒鳴るように言った。
「わかったよ。そんなに言うなら、今、すぐに履かせてやるよ」
「ほ、本当だね」
「ああ。本当さ」
井沢はなだめるように大人しい口調で言った。
「さ、さあ。約束を守っておくれ」
京子は太腿をピッチリ閉じて訴えた。
「人にものを頼むんだから、もっと謙虚に言いな。『どうかパンツを履かせて下さい』と言いな」
京子は、屈辱に顔を真っ赤にして、命じられたせりふを言った。
「ど、どうかパンツを履かせて下さい」
京子は、顔を真っ赤にして言った。
というより、言わされた。
「よしっ」
井沢は膝の上にかかっている京子のパンツを掴むと、山田に、
「おい」
と合図した。
山田と井沢は二人で、京子の膝の辺りに、留まっている、パンツを、ゆっくり上げていった。
「な、何をするんだい」
1cm引き上げるのに、1分くらいかけて、と極めてゆっくりである。
「だからお前の望み通りパンツを上げてやってるんじゃないか」
二人は、太腿の真ん中くらいまで、パンツを引き上げると、一休み、といって手を離した。
パンツは、京子の太腿の中半に、ひっかかっている。
まんこ、を、隠す役割り、は、全くはたしていない。
「こ、こんなのイヤ」
京子か言った。
「お願い。イジワルしないで」
京子は、泣きべそをかいて、訴えた。
しかし、京子はこんなイタズラをされても抵抗できない。
「ふふ。まんこの割れ目がよく見えるぜ」
「尻の割れ目、も、よく見えるぜ」
しばし、二人は、みじめな姿の京子を、前後から鑑賞した。
「よし。パンツを履かせてやるよ」
二人はようやく京子のパンツの、縁をつかんで、腰まで、引き上げ、京子に、ピッチリとパンツを履かせた。
そして、パンツの縁を離して、ピチン、と音をさせた。
京子はやっとパンツを履けて、ほっとした様子である。
「ふふ。丸裸もいいけど、パンツだけ履いた姿もいいもんだな。アソコが、モッコリと悩ましく膨らんでいて。それに見えないと、見たいという気持ちが高まって興奮してくるからな」
二人は佇立している京子の足をしっかり掴んで、さかんに太腿や尻を撫でた。尻の弾力を確かめるように。また、パンツの女の部分を触ったり、モッコリと膨らんだ部分をつまんだりした。
「ふふ。いい感触だ」
京子は二人のなすがままの人形である。二人がイタズラする度に、
「あっ。いやっ」
と叫んだ。
「嫌なら、また、パンツを下げるぞ」
そう言って、二人は、また、京子のパンツを掴んで、パンツをゆっくり下げだした。
「あっ。いやっ」
二人は、また、パンツを、膝と腰の中間まで下げた。そして、
「一休止」
と言って、手を離した。
「い、いやっ」
「ふふ。まんこの割れ目が見えるぜ」
二人はそうやって何度も、京子のパンツを、履かせては脱がせて、を繰り返した。
京子はたまらなくなったように、
「もうやめて」
と訴えるように言った。
「しょうがないな。そんなに、パンツをいじられるのが、嫌なら、完全に脱がせてやるよ」
そう言って、井沢は、京子のパンツの縁をつかんで、サー、と、引き下げていった。
「あっ。いやっ。やめて」
京子は、太腿を、ピッチリ、閉じて、パンツを脱がされないよう抵抗した。
しかし、井沢、は、強引に、京子の足から、パンツを抜き取ってしまった。
京子は、また、覆う物、何も無い丸裸になってしまった。
京子は、また、恥ずかしい所を見られないように、太腿をピッチリ閉じ合わせて、腰を引いた。
「ふふふ。京子。お前の好きな、片足吊り、をしてやるよ」
と、山田が言った。
「純。片足吊り、って、いうのはな。京子の、片方の、膝の所を縛って、高く引き上げ、天井の梁に、吊るすんだ。こうすると、股間が開かれて、まんこ、も、尻の穴、も、丸見えになって、どんなに、隠したくても、隠すことが、出来なくなるんだ。ものすごい格好だぞ。京子は、そう、されると、(許して)、と言って、せつない顔で、興奮して、ハアハア、喘ぎ出すんだ」
山田、が言った。
「じゃあ、京子の好きな、片足吊り、にするか」
井沢が言った。
「おう。やろう。やろう」
そう言って、二人は、京子の膝の上を、縄で縛った。
そして、その縄を、天井の梁に、回した。
そして、その縄を、「そーれ」、と、掛け声をかけて引っ張った。
「ああー。やめてー」
京子は、叫んだ。
しかし、二人は、やめない。
縄が、引き上げられるのに、つれて、ピッチリ閉じていた、京子の片足が、吊り上げられていった。
京子の膝は、胸のあたりまで、引き上げられた。
京子の、まんこ、から、尻の穴、へと、続く股間の谷間は、完全に開かれて、丸見えになった。
京子は、何とか、恥ずかしい所を見られないように、吊り上げられた、足で、まんこ、を、隠そうとしている。
その姿が、いじらしい。
「ふふふ。京子。もう、どんなに隠そうとしても無駄だぜ。まんこ、が、丸見えだ。どうだ。気分は」
山田、が、言った。
「ふふふ。京子。尻の穴、も、丸見えだぜ」
井沢、が言った。
「ふふ。京子。どうだ。気持ちいいか」
「お願い。もうやめて」
京子はそう言って純の方に顔を向けて、
「お願い。純君。私のこんなみじめな姿、見ないで」
と言った。そして、今度は、山田、に向かって、
「お願い。純君には、私のこんなみじめな姿、見せないで」
と、京子は、山田、に頼んだ。
山田、は、ニヤリと笑って、
「よし。純。お前は、もう帰れ。京子は、お前がいちゃ、都合がわるいんだとよ」
と、言った。
「おう。純。もう帰ってもいいぜ」
井沢、が、言った。
言われて純は小屋を出た。
出る時、井沢が、
「ふふ。これからもっと面白い事をするんだぜ」
と言って、京子の耳を引っ張った。純は興奮で胸がドキドキした。
・・・・・・・
その晩、純は寝られなかった。あの後、二人が京子に何をしたかと思うと・・・。
・・・・・・・
翌日の休み時間。
学校では昨日の事などまるで無かったかのように、京子は、四つん這いになった、山田に跨り、
「ホレホレ。走りな」
と言って山田に、またがって、尻を叩いている。山田は、
「ヘイヘイ」
と言ってふざけながら京子の命令に従っている。井沢も、
「女王様」
と言って、京子の前にひざまずいて、頭を床につけて、土下座している。
京子は、井沢の頭を靴で踏みつけた。
「ふふ。お前たちは、私の奴隷なんだよ」
京子は笑って、二人をからかい続けた。
・・・・・・・・・
純は昨日の事を思い出し、この京子が、昨日の京子と同一人物だと思うと、言いようのない興奮が起こって、恍惚とした表情で、この光景を眺めていた。
その日の放課後。
井沢が純の傍らに着てニヤニヤ笑いながらそっと耳打ちした。
「おい。純。今度の日曜も京子をあの小屋でいじめ抜くからな。来いよ」
そう言って、井沢は去っていった。


令和2年8月22日(土)擱筆

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飯場の少女 (小説)

2020-08-18 21:21:16 | 小説
「飯場の少女」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換算12枚)


「飯場の少女」

僕は、会社から、リストラされた。
それで、僕は、ある飯場に住み込み、土方として、働くことになった。
昼間、土方として、働いた。
仕事が終わると、僕は、粗末な、飯場の家に帰った。
四畳半の狭い部屋が、僕の部屋だった。
その家には、他にも、3人の男が、住んでいた。
僕は、彼ら、3人と、その家に住むようになった。
彼らも、昼は、土方として、働いた。
ある時である。
一人の少女が、やって来た。
彼女は、豪雨災害で、家も家族も失って、誰も助けてくれる人がいなかったので、路頭に迷っていたのだ。
彼女は、オシ、で、言葉、が喋れなかった。
僕たちは、彼女を、可哀想に思って、彼女を、家に、泊めてあげた、そして、食べ物をあげた。
彼女は、涙を流して、僕たちに感謝した。
彼女は、名前を、桃子、といった。
彼女は、僕たちの、食事を作ってくれたり、買い物に、行ってくれたり、掃除してくれたり、僕たちの、よごれた服を、洗ってくれたりした。
彼女は、嬉しそうだったし、僕たちも、嬉しかった。
彼女は、まるで、可愛い、アイドルのような、存在になった。
彼女は、そのまま、この家に、すみこむうに、なった。
彼女は、この家の、ハウスキーパー、のような、存在になった。
僕たち、4人は、皆、桃子に気があって、ライバル関係だった。
誰かが、桃子に手を出そうとすると、すぐに、他の男たちが、それを、制した。
それほど、僕達のライバル関係は、熾烈だった。
だが、僕は、そのライバル関係に、表立って、行動できなかった。
僕は、桃子に、面と向かって、好きだ、と言えるような、性格じゃなかった。
黙って、桃子のことを、思い続けるだけだった。
桃子は、無口で、気立ての優しい、ちょっぴり、弱々しく見える、女の子だった。
桃子は、僕達4人のために、料理を作ってくれ、僕達の服を洗濯してくれ、ちらかった部屋を掃除してくれた。
桃子は、それらを、少しも苦にする様子もなく、いっつも、黙って、働いていた。
僕は、そんな桃子を、こっそり、見るのが好きだった。
ある時、三人の仲間の一人が、こんなことを、言い出した。
「桃子は、性格もいいし、気立てもいい。いつ、どこから、縁談の話がもちかけられて、社会的地位の高い男にもっていかれてしまうかもしれない。それに僕達4人のライバル関係も決着がつきそうにもない。こうなったら、桃子を僕達4人だけのものにしてしまおう。その方が社会的地位の高いヤツに桃子をとれてしまう、よりいい。そのためには、桃子を僕達4人で、犯してしまえばいい。その事実を桃子に縁談がもちかけられた時、相手方に話してしまえば、縁談は、ブチ壊れるし、それに、桃子みたいな古風な子は、処女を奪われてしまえば、他の男を愛する資格が、なくなると、思い詰めてしまう、だろう」
残りの2人も、それには、二つ返事で同意した。
「お前も賛成だろう?」
と、この計画の立案者が僕の同意を求めた。
僕は、これに無言で頷いた。
「そんな方法で、天使のような、桃子、に乱暴をして、気立てのいい、桃子、の性格を利用するなんて、人間のやることじゃない。畜生のやることだ」
僕の本心は、そう言っていた。
だがそんな本心も、スバズバ言うには、僕の気は小さすぎた。
決行の日が来た。
夜だった。
桃子、は、台所で食器を洗っていた。
3人が、瞬時に、桃子、に、おそいかかった。
両手を後ろに、捩じ上げ、大声を出さないよう、口を塞いだ。
そして、桃子、を、担ぎ上げて、二階の、桃子、の、部屋に、運んだ。
3人のうちの、一人が、僕にも、手伝うよう言った。
だが、僕には、とてもそんなことなど、出来なかった。
だが、だからといって、「そなにことやめろ」、と言って、この暴行を止めるほどの勇気も無かった。僕は、ただ黙って、彼らについていった。
この行為を、黙認して、共犯者となることが、僕に出来る唯一の協力だった。
か弱い桃子、は、部屋に入れられると必死で抵抗を試みた。
僕達は、桃子、を好きだったし、また、桃子、も、僕達を友達と思って好意をよせてくれていた。
だが、それを、こんな形で、裏切られることは、桃子、には、耐えられなく、つらく、悲しいことなのは明らかだった。
桃子は、抵抗の中にも、相手への思いやりがあった。
だが3人は、桃子、のそんな気持ちなど少しも理解していなかった。
3人はむしろ、このさい、完全に、桃子、を、なぶりつくしてしまえば、桃子、を、自分たちのものに出来ると思い込んでいた。
3人は抵抗する、桃子、を、後ろ手に、捩じり上げ、平手で、桃子、の顔を思いきり叩いた。
そして、桃子、が、声を上げないよう、猿轡をかまし、桃子、をベッドに縛りつけた。
桃子、は、目をつぶっていた。
そして、その目じりからは、幾筋もの、涙が流れ続けていた。
3人は、獲物に群がるハイエナのように、桃子、の首筋にキスしたり、胸を揉んだり、じらすように、太腿から、スカートの中へ、手を這わせたりし、それを、代わる代わるした。
じらすような、ペッティングが続いた。
それは桃子、を精神的に屈服させ、これから行う本番の行為を精神的に受け入れさせるためだった。
ようやく、長いペッティングが終わった後、3人は、立ち上がり、だれから、やるためのジャンケンをした。
第一番になった者は、小躍りして、桃子、の上にまたがった。
そして、ナイフをとりだして、桃子、の服に手をかけた。
桃子は、もう、抵抗する気力もなくして、ぐったりしていた。
ただ、閉じられた目からは、涙が流れ続けていた。
僕の心の中の火の玉が炸裂した。
僕は桃子にまたがっていた、男の胸ぐらをつかんで、投げ飛ばした。
そして、この突如の暴挙にでた狂人を取り押さえようとして、残りの2人が僕を押さえつけようと襲いかかった。
僕は気が小さいが、子供の頃から、始めて、テコンドーを身につけていた。
僕は、右からくる者を、左足で、回し蹴りで倒し、つづいて、左からくる者を右回転し、右後ろ回し蹴りで倒した。
二人は、声をたてる間もなく、地に倒れた。
僕は、落ちていた、ナイフを、とり、桃子の両手両足の縄を切った。
そして桃子を持ち上げた。
そして、部屋を飛び出し、階段を降り、建物を出た。
僕は無我夢中で桃子を抱いたまま、走った。
162cm、45kg、とはいっても、人一人である。
重かった。
僕は仲間3人を裏切ってしまった。
それも、手ひどい方法で。
彼らは、業を煮やして、僕を追いかけてくるだろう。
僕はそれが怖かった。
だが、何としても、桃子を守らなくてはならない。
そのためには重さなど、感じてはならないと、思った。
僕は走りに走った。
いつしか、僕達は、海岸に来ていた。
満月が、唯一の、光であった。
僕は、桃子を座らせ、僕も座った。
僕は、桃子の猿轡を解いた。
桃子は、気を失っていた。
僕は桃子を抱きしめた。
僕は桃子を守ってやらなくてはならないと思った。
僕は桃子を愛していた。
だが、僕には、桃子を幸せにしてあげる能力が無いことも、十分、知っていた。
僕は、桃子を本当に愛し、幸せに出来る人があらわれ、二人が、幸せになる日まで、命がけで、桃子を守ろうと思った。



令和2年8月18日(火)擱筆

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借金した女 (小説)

2020-08-18 18:05:21 | 小説
「借金した女」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換30算)


「借金した女」

佐藤京子、は、藏越、に、プロポーズされていた。
藏越は、佐藤京子、を好きだったからである。
しかし、佐藤京子、は、藏越、が嫌いだった。
藏越、は、悪質な、闇金融、だったからである。
佐藤京子、は、藏越、顔を見るのも、嫌なほどだった。
藏越、は、京子、に、「どうか、私と、付き合って下さい」、と、何度も、哀願した。
しかし、京子、は、「ごめんなさい。藏越さん」、と言って、速足で逃げ去った。
藏越の、京子、に対する、思慕は、物凄いもので、京子、の、携帯電話の、電話番号、や、メールアドレスまで、調べ上げ、一日に、100通以上、「京子さん。私は、あなたを、愛しています。どうか、結婚して下さい」、という、メールを、毎日、送りつづけた。
藏越は、京子を、ストーカーして、京子の写真を、こっそり撮り、京子の出した、ゴミを、持って帰った。
さすがに、寛容な性格の京子も、参ってしまい、メール、も、携帯電話の電話番号も、着信拒否設定にした。
それでも、藏越は、京子を、つけまわした。
それで、とうとう、京子は、警察に、藏越に、ストーカー、されて、困っていることを、相談した。
「どうか、藏越さん、を、逮捕しないで下さい。穏便に、注意して下さい」
と、心の優しい、京子は、警察に頼んだ。
警察は、藏越に、「今後、佐藤京子に対して、ストーカーしないように」、と厳重注意した。
そのため、それ以後は、藏越は、京子に、ストーカー、することが、出来なくなってしまった。
藏越は、怒った。
「可愛さ余って憎さ百倍」、であり、藏越は、京子を憎むように、なった。
・・・・・・・・
京子の父親は、中小企業を経営していた。
しかし、京子、の父親が死んでしまった、ため、京子、が、跡を継ぐことになった。
そこへ、不運なことに、新型コロナウイルスの、休業要請が、起こって、京子、の、会社、は、多額の借金をしてしまった。
京子、は、銀行回りをしたが、どこも融資してくれない。
京子、は、仕方なく、藏越、の所に行った。
そして、藏越、に、「どうか、お金を貸して下さい」、と、頼んだ。
他に、お金を借りる相手がいないのである。
なので、京子は、耐えがたき、を耐え、藏越の所に行ったのである。
藏越、は、ニヤニヤ笑いながら、
「そうですか。それでは、お貸ししましょう。その代わり、私の、言うことを、聞くのなら、お金をお貸ししましょう」
と、藏越、は、言った。
「な、何をするんですか?」
京子、は、藏越、に聞いた。
しかし、藏越、は、答えない。
京子、は、悩んだが、他に、方法が、ない。
「わかりました。藏越さん。あなたの言う事を聞きます」
と、京子、は、言った。
京子に、毛嫌いされている以上、もう、京子から、愛されることは、無理とわかった、藏越は、憎んで余りある、京子を、いたぶり尽くしたい、と思っていたのである。
・・・・・・・・
その日の藏越の家の様子。
サングラスをかけた藏越が、床で、ブラウス、と、スカート、を脱がされて、ブラジャー、とパンティー、だけになっている京子、を薄ら笑いで眺めている。
京子は両手を背中に回されて、後ろ手で縛られている。
床についている乳房がぺったりとつぶれ、髪は美しく床に広がっている。
京子は白いブラジャーとパンティーを身に着けている。
藏越が、グイと京子のパンティーを京子の膝の所まで引き摺り下ろした。
「あっ」
京子が反射的に悲鳴を上げる。
しかし、後ろ手に縛られているため、どうすることも出来ない。
京子は見られないよう、必死で両腿をピッチリくっつけた。完全に脱がされないで、中途半端に膝にひっかかっている、パンティーは京子を辱めた。
「ふふ。ブザマなもんだな」
藏越はそんな揶揄の言葉を言う。
言われて京子は頬を紅潮させた。
そして藏越は、椅子にドッカと腰掛けて口元を歪ませながら、余裕で惨めな京子を見下すように眺めている。
藏越は、ブラジャーのホックをはずし、京子から抜きとった。ふくよかな乳房が顕わになった。
藏越は皮靴でドッカと京子の尻を踏んだ。藏越は京子のふっくらした乳房を皮靴で遠慮なく踏み、靴で乳房を揉んだ。
「ああー」
京子は眉を寄せた。
藏越は今度は京子の頬をドッカと皮靴で踏みつけた。そしてグイグイと揺すった。京子の顔は皮靴の下で苦しそうに歪んだ。
「ああー」
京子は靴の下から声を洩らした。藏越は容赦なく、グイグイ揺する。これ以上のいたぶりがあるだろうか。靴は都会のアスファルトの上を所かまわず歩き回っている。その靴は公衆便所の汚いタイルの床をも踏みしめた靴である。
「ふふ。どうだ。今の気持ちは」
藏越はグリグリとタバコを揉み消すように京子の顔を踏みながら聞いた。
「み、みじめです。いっそ死んでしまいたいほど」
京子は眉を寄せ、苦しげな表情で蚊の泣くような声で言った。京子の顔は羞恥と屈辱で紅潮していた。
しかし藏越は京子の苦しみにかまわず、靴を揺すりながら、罵りの言葉を言った。
「ふふ。女なんて下等な動物の扱いはこれで十分だ。これからもっと惨めにしてやるから、楽しみにしてろ」
藏越は靴先を京子の閉じた口の中に無理やり入れた。
「ほら。靴を、きれいに舐めろ」
藏越は促すように靴を揺すった。京子は涙で潤んだ瞳で藏越を一瞥した後、藏越に言われたように舌を出して、靴を舐めた。京子はピチャピチャ犬のように靴を舐めている。藏越は靴先を京子の口の中にグイと押し入れた。靴先が咽喉仏とどくほどまでに。京子は眉を寄せ、苦しげな、訴えるような目を向けた。涙がこぼれている。
「どうだ。苦しいか」
藏越はクツをグリグリ揺り動かしながら、笑いながら言った。
「は、はい」
京子は涙に濡れた顔を必死に縦に振って、苦しみを訴えた。藏越は、
「ふふ」
と、笑って、京子の口から靴を抜いた。それは京子の唾液で濡れていた。
藏越は洗面器を京子の前に置いた。それを見るや京子は真っ赤になった。洗面器の中にはイチジク浣腸が二十個以上入っていたからである。
「ふふ。これから、これを全部、お前の体の中に注ぎ込んでやる」
そう言うと藏越は洗面器を持って、立ち上がった。藏越は京子の尻の方へ回ると、露出されている京子の大きな尻をドンと蹴った。
「ほら。浣腸してやるから、膝を立てて、尻を突き出せ」
「は、はい」
京子は言われるまま、体を動かし、うつ伏せになり、膝を立てて尻を持ち上げた。両手は背中の真ん中で、後ろ手に縛り上げられている。手が使えないので、上半身の重みが、顔と肩にかかり、京子の顔は床に押し付けられて歪んでいる。
「ほら。もっと脚を大きく開け」
そう言って藏越は京子の腿をドンと蹴った。
「は、はい」
言われて、京子は、脚を今まで以上に大きく開いた。大きな尻が高々と天井へ向けて突き出した。
後ろ手に縛められたまま、顔を床に擦りつけている姿は惨めこの上なかった。藏越はドッカと京子の尻の前に胡坐をかいた。京子の尻の割れ目は広がり、キュッとすぼまった尻の穴が丸見えである。藏越は京子の尻を掴むとイチジク浣腸の先を京子の尻の穴に当てた。反射的に京子の尻の穴がキュッとすぼみ、京子は、
「ひいっ」
と悲鳴をあげた。藏越はすぼまった尻の穴を強引に広げ、イチジク浣腸の茎を京子の尻の穴の中に差し込んだ。
「ああー」
京子の悲鳴。藏越は、イチジク浣腸を、ゆっくりとへこました。尻の穴が茎をキュッと締めつけているので液体はもれることなく確実に京子の体内に注ぎ込まれていく。入れ終わると藏越はスッと茎を抜いた。
すると尻の穴はキュッと締まり、体内に入った液体は、もはや後戻り出来ない。京子の尻はあたかも液体を飲み込んだかのようである。不気味な液体を注ぎ込まれてしまった恐怖感から、京子は、
「ああー」
と顔を歪めて叫んだ。
「ほら。一本入れるごとに本数を数えるんだ」
藏越は京子の尻をピシャリと平手打ちした。
「は、はい」
京子は尻をプルプル震わせながら言った。藏越はゆっくりと時間をかけながら、京子の尻の穴、に、イチジク浣腸をしていった。茎が抜かれる度に京子は苦しい顔から声を震わせて数えた。
「い、一本です」
「に、二本です」
藏越は四本で終わりにした。一度入ってしまった液体はもはやどうにもならない。
「ほら。立ちな」
言われて、京子は手が使えない苦しい体をよじって、ヨロヨロと立ち上がった。藏越は京子の右足を持ち上げて、パンティーを通した。
「ほら。こっちのアンヨも上げな」
そう言って、もう一方の左足をピシャンと叩いた。
「な、何をしようというのですか?」
京子は恐怖感から足を上げようとしない。
「ほら。世話をやかすな」
藏越は強引に京子の足を持ち上げてパンティーを通した。そしてスルスルと持ち上げてゆき、京子にパンティーを履かせてしまった。
「ふふ」
藏越は笑って京子から離れた。
「な、何をするのですか?」
京子が聞いたが藏越は、答えない。
「ふふふ」
藏越は、ふてぶくしく笑って、ドッカとソファーに、腰かけた。
京子は戸惑いながら、腰をおろして立て膝になった。
京子はつつましそうに立て膝でいた。
パンティーを履かされて、パンティー一枚で、後ろ手に縛められて、足を寄り合わせている京子の姿は美しかった。
大きな乳房が、くっきりと威風をもって露出している。藏越はソファーに座ったまま、口元を歪めて、美しいつつましい京子の姿を黙って眺めている。
数分の時間が経過した。
京子は、
「あっ」
と叫んで体をブルブル震わせた。京子は眉を寄せ、腿をピッチリと閉じ、モジモジさせはじめた。便意が起こり出したのである。藏越はどこ吹く風と冷ややかな目で黙って京子を眺めている。京子の悶えの度合いは激しくなっていく。京子は身をよじり、ハアハア肩で息をしだした。
「お、お願い。藏越さん」
京子はピッチリ閉じた腿をピクピク震わせながら言った。藏越はポケットからタバコを取り出し、ことさらゆとりを見せつけるように一服してから口を開いた。
「なんだ」
「お、お願い。藏越さん」
「だから何なんだ」
藏越は突き放すような口調で言った。
「お、おトイレへ行かせて」
言って、京子は真っ赤になった。藏越は口元を歪めながら、黙っている。
「お願い。おトイレへ行かせて」
京子は再び訴えた。藏越は洗面器をポンと京子の前に放り投げた。
「ほら。その中にしな」
藏越はごく何でもないかのように言った。
「ええっ」
京子は洗面器を見て、驚きの悲鳴を上げた。藏越の前で藏越に見られながら、洗面器を跨いでする、などという事が出来ようものか。しかも京子はパンティーを履かされている。いったい、どうすればいい、というのだ。まさか、パンティーを履いたまま、するなどという事などとても出来ない。だが、京子の苦しみはどんどん激しくなってゆく。京子はもんどりうって、この苦痛と戦った。が、ガマンは限界に達した。京子は最悪の事態からは何とか避けようとして、洗面器の上に跨った。踵を上げた足首がガクガク震えている。とうとう苦痛が限界に達した。
「お願い。藏越さん。パンティーを降ろして」
京子は顔を真っ赤にして言った。藏越は苦しむ京子をしばし冷ややかに見ていたが、ようやく腰を上げ、京子の所へ行くと、京子の尻をピシャリと叩いた。
「ほら。立ちな。パンティーを降ろしてやるよ」
と言って、ピクピク震えている京子の尻をドンと蹴った。京子は立ち上がった。藏越はパンティーを膝まで降ろした。中途半端に膝まで下ろすより、いっそ完全に脱がされる方が、この場合は、京子にとって、まだマシだった。パンティーを降ろされると、京子は急いで洗面器を跨いだ。藏越はソファーに戻って座って、口元を歪めながら京子を見ている。京子の忍耐は限界に達した。
「み、見ないで」
京子は紅潮した顔で叫んだ。が、藏越は楽しいショーを見るようなゆとりの目つきで京子を見ている。
「ああー」
京子は叫んだ。
京子の便が勢いよく洗面器の中に放出された。長く我慢したことは、より刺激を大きくしていた。いったん放出された後はもはや羞恥心は急速に引いていった。最初の排泄をした後も何度も便意の刺激が間隔をあけては、起こってきた。羞恥心を捨てた今、もはや京子は完全な排泄感を求めて、なるがままに身をゆだねた。やっと、体内に溜まっている便を全部、出し切って、便意が来なくなるのを感じて京子はほっとした。尿もジョロジョロと流れた。
「ちゃんと全部、便器の中へ入れろ」
そう言われていたので京子は、はねとびないよう、しっかり狙いを、洗面器に定めて放出した。
すべてが終わった。京子は悲しそうな顔で藏越を見た。後ろ手に縛められているので、自分では出来ない要求がまだあった。しかしそれを頼む事などどうして京子に出来ようか。藏越は大と小の便を満たした洗面器を跨いでいる京子を心地よさそうに眺めている。そんなものを排泄後も跨いでいる事も、みっともないが、他にしようもない。すべては藏越の情けにすがるしかないのだ。藏越はしばし楽しそうに眺めていたが、ソファーから、立ち上がって京子の所へ来た。
「何かお願いがあるだろう」
藏越はしたり顔で言った。京子の顔が紅潮した。しばしして京子はコクリと肯いた。
「何のお願いだ」
京子は言えない。
「言わなきゃ、しないぞ」
藏越は濡れタオルをこれ見よがしに京子に見せつけて恫喝的な口調で言った。京子はワナワナと口唇を震わせながら言った。
「お、お尻をふいてください」
藏越はしてやったりといった顔で、濡れタオルで京子の尻を拭いた。そして、そのタオルを京子に見せつけた。そのタオルには、ふきとられた便が茶色く染みついていた。そしてそのタオルを京子に見せた。
「い、いや」
京子は紅潮した顔をそむけた。
「見るんだ」
と言って藏越は京子の髪をつかんで、強引にタオルに向けさせようとした。京子は横目でしぶしぶそれを見た。藏越はタオルに自分の鼻先を近づけた。
「あっ。いやっ。やめてっ」
京子は激しく首を振った。だが藏越は、
「ふふ」
と笑って、タオルで、また、京子の尻を拭いた。京子は顔を真っ赤にして、されるがままになっている。
「クソを垂れ流して、尻まで拭かせて、何も言うことはないのか」
藏越は恫喝的な口調で言った。
「あ、ありがとうございました」
京子は頬を赤くして声を震わせて言った。
「もっと具体的に言え」
「わ、私の、お、お尻を拭いて下さって、有難うございました」
京子はみじめの極致である。
「よし。それじゃ、そろそろいくとするか」
藏越はそう言ってズボンを降ろし、パンツも脱いだ。
藏越の、マラは、天狗の鼻のように、激しく、そそり立っていた。
「ほら。しゃぶれ」
藏越は京子の顔の前に、怒張して自分のマラを突きつけた。京子は言われるまま、そっとそれを口に含んだ。
「いいか。舌を使って、時々、先を舐めて、うまくやれ」
藏越は京子の髪を掴んで言った。京子は言われたとおり、藏越のそれを口の中に含み、根元までゆっくりと往復させ、時々舌で亀頭をころがした。
「うっ」
藏越のそれは一気に怒張した。
藏越はいそいで、マラを京子の口から抜いた。そして京子を倒し、股を開いた。藏越は怒張した自分のマラを京子の、性器の穴の中に押し込んだ。藏越のマラは、京子の舌で粘ついていたので、それは、スポッ、と簡単に入った。藏越は腰を揺すってピストン運動を始めた。そして京子の胸を荒々しく揉んだ。
「女なんて便所みたいなもんだ。金玉にたまったザーメンを放出するための便所に過ぎないんだぞ。わかってるのか」
藏越は激しく怒鳴った。
「ザーメンを出したら、その後でションベンを飲ませてやるからな」
藏越は蠕動を加速した。京子は黙っている。
「おい。わかっているのか」
藏越は京子に怒鳴りつけた。返事がないので、藏越は、京子を平手打ちした。京子は、あわてて
「はい」
と返事した。
「どうわかっているんだ。はっきり、言ってみろ」
「女は男の便所です」
「ションベンを口の中にしてやるから飲むか」
「はい。飲みます」
藏越は射精の予兆を感じて蠕動を止めた。藏越は眉を寄せて、
「うっ」
とうめいた。
「ああー。出るー」
ドクドクと藏越の精液が京子の体内に放出された。
「ふう。すっきりした」
藏越はそう言って、マラを京子から抜いた。藏越は完全な征服感に酔っていた。
藏越は京子の口にマラを向けた。
「ほら。ションベンを飲ませてやる。口を大きく開けろ」
言われて京子は口を大きく開いた。勢いよく小水が京子の口に放出された。京子の咽喉仏が盛んに動いて、京子が意識して小水を飲んでいるのがわかる。
京子は、ゴホッ、ゴホッ、と、むせた。
「ほら。しっかり飲め」
藏越はそう言った。藏越は照準をはずして京子の顔に小水をひっかけた。出し切ると藏越は、
「はー。スッキリした」
と言った。
藏越はパンツとズボンをはきクツも履いて、元の姿に戻るとスッと立ち上がった。そして京子の顔を土足で踏みつけた。そして京子の顔が歪むまでゴロゴロと足を揺すった。
「ふふ。女なんて下等な動物はこうやって扱うもんよ」
と藏越は得意げに言った。
・・・・・・・・・
こうして、京子は、藏越が、「来い」、というと、藏越の家に行くことになった。
その度に、京子は、藏越に、嬲り尽くされた。
三回目の時である。
その日も、京子は、藏越に、呼び出されて、藏越の家に行った。
そして、藏越に、嬲られた。
夜、遅くまで。
しかし、藏越が、「よし。今日は、このくらいにしておこう」、と言って責めをやめた。
京子が、シクシク泣きながら、服を着ていると、藏越が、
「京子。もう、これで、私の欲求は、満足した。もう、来なくていいよ」
と、言った。
京子は、ホントかな、と思ったが、それ以後、藏越から、京子に、電話が、かかってくることは、なくなった。
京子は、藏越に、「ありがとう。藏越さん」、と、電話した。



令和2年8月18日(火)擱筆

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四面楚歌 (小説)

2020-08-12 22:56:33 | 小説
四面楚歌

岡田純は、医者である。医学部を卒業してから、ずっと精神科医として、やってきた。精神科医は、みな、精神保健指定医の国家資格を取る。精神科医は精神保健指定医の資格を取って、初めて一人前の精神科医となる。彼は、ある田舎の病院に、精神保健指定医の資格を取ることを条件に、ある精神病院に就職した。しかし、院長は、したたかな人間で、彼に指定医の資格を取らせない。ようにする。それは、指定医の資格を取って、病院をやめられて、より良い病院に就職することをおそれて、であった。

とうとう、彼は、院長の、したたかさに我慢できなくなり、その精神病院をやめた。
それで、眼科クリニックの代診のアルバイトをやって、収入を得ることにした。精神病院の給料は、それなりに、良かったが、金があると、つい使ってしまうので、預金通帳の残高は、増えることはなかった。

純は、以前から、眼科クリニックの代診のアルバイトをかなり、やっていた。眼科クリニックといっても、コンタクトショップに隣接した、コンタクトレンズの処方をするだけの、眼科である。スリットで角膜に傷がないか、結膜に、炎症がないか、調べるだけの、簡単な診療だった。コンタクトレンズに関連して起こる、角膜の傷、や、アレルギー性結膜炎、などの患者も、割合は少ないが、いて、その時には、点眼薬を出す。コンタクトに関係のない、麦粒腫(ものもらい)、や、角膜異物の患者も、たまに、来ることもある。しかし、その程度である。もちろん、白内障の手術や、緑内障の治療などは、出来ない。し、手術器具も無い。なので、医療界では、コンタクト眼科をアルバイトでやっている医者を、ニセ眼科医などと、言っていて、あまり、評判は、良くない。しかし、背に腹は変えられない。医師免許を持っていれば、何科をやってもいいのであり、違法なことをしているわけでもない。なので、彼は、コンタクト眼科のアルバイトを、始めた。
・・・・・・・・
ある時、コンタクト眼科と提携している、コンタクトレンズの小売りを、全国的に展開している、コンタクトレンズ小売りの、会社の社員が、診療中に、やってきた。こんど、盛岡に、コンタクトレンズの小売店を、出店する予定なので、そのため、隣接の眼科クリニックも、作る。なので、そこの院長になってくれないか、という相談だった。彼は、以前にも、コンタクトショップに隣接した眼科クリニックの院長になって、くれないか、という、誘いを受けていた。しかし、週5日か、最低でも4日やってくれ、という条件ばかり、だったので、すべて、断ってきた。彼は、拘束されることが嫌いだったし、週、4日、働くのは、嫌だった。しかし、今度は、週2日、土曜と日曜だけ、やって欲しい、と言ってきた。彼は、やることにした。とりあえず1年間やってみることにした。土曜の朝、まだ日が明けない頃に、家を出て、始発で、行き、盛岡には、9時50分に着く。クリニックは、土曜は、10時~19時までで、その晩は、盛岡駅前のホテルに泊まり、日曜は、10時から17時30分までである。そして日曜の診療が終わると、上りの東北新幹線で家に帰る。家には、10時くらいに着く。
・・・・・・・・
近くに、コンタクトショップがあり、そこから眼科クリニックに受診を紹介する。
以前は、コンタクトショップの中に、小さな眼科クリニックを開設しているケースもあったが、これは、本当は、法的に問題があるのである。それで、厚生省が、全国のコンタクト眼科クリニックの一斉監査をして、厳しくなり、コンタクトショップと、眼科クリニックは、場所を、分けるようになったのである。コンタクトショップの店員や、アルバイトが、診療日である、土日に、クリニックに来て、近視の度数や、乱視の有無を調べ、患者(というか、客)の要望も聞いて、適切なコンタクトレンズを処方する。院長は、角膜に傷がないか、結膜にアレルギー性結膜炎がないかを、スリットランプで、調べる、だけである。5~6回も、やれば、もう慣れて、出来る簡単な仕事である。
・・・・・・・
患者は、一日、20人くらい、来る。院長室(診察室)は、戸があって、検査の場所とは、分かれている。患者が来ない時は、彼は、本を読んだり、勉強したり、何かを書いたりしていた。コンタクトショップの、検査と会計をしている、スタッフは、正社員か、アルバイトで、ほとんど、みな、女だった。検査も、そう難しくはなく、数回、コンタクトショップの正社員に教えてもらえれば出来る程度のものである。彼は、彼女らとは、朝の挨拶と、仕事の事務的なことしか、話さなかった。彼は、女と話をするのが、苦手だったし、院長室で、本を読んでいる方が気楽だった。からである。スタッフは、客がいない時は、一人で、客が増えてくると、コンタクトショップから、もう一人、助っ人として、やって来て二人でやる。彼は、スタッフとは、事務的なことしか、話さないので、その人が、正社員か、アルバイトかは、わからない。
・・・・・・・
ある時、かわいいスタッフが、入った。
彼女は、かわいいアルバイトだった。診察室からも、受け付けの二人の声は聞こえてくる。小さい声でボソボソ話していると、話の内容まではわからない、が、多少、大きな声なら話の内容がわかることもある。純は、女とは話さない主義なので、女の社員とは、事務的なことしか話さない。なので、新しいスタッフが入ってきても、相手の名前を聞くこともないし、新しいスタッフが、アルバイトなのか、正社員なのかを聞くこともない。しかし、仕事の様子で、アルバイトなのか、正社員なのかは、だいたいわかる。アルバイトは仕事も、ケアレスミスがあるが、正社員は、仕事に対しての責任感の自覚があるから、ケアレスミスが少ないのである。
彼は、今度、来た人は、アルバイトだと推測した。しかし、診察室から、聞こえてくる会話を聞いていると、彼女がどういう人なのか、疑問に思うことがあった。慣れてるスタッフが、彼女に、事務と検査の仕方を教えるのだが、教えるスタッフは、彼女に、「あなた。仕事の覚えが早くていいわよ」とか、一つの事を覚えただけで、「よく出来たわね」とか、誉めるのである。こういう誉め方は、相手をバカにした誉め方である。そもそも、上から目線の発言である。彼女が中卒なのか、高卒なのか、短大卒なのか、それは、全くわからない。しかし、大学卒とは考えられない。よくて高卒であろう。そして、彼女は、おそらく学習障害か、何かの精神的疾患があるがあるのだろうと推測した。ただ学習障害といっても、それは程度の軽いもので、社会生活はちゃんと出来る、という、そういうような境遇の人だろうと彼は推測した。学校でも、物覚えが悪くて、いじめられたのではなかろうか、と推測した。
・・・・・・・
クリニックの受け付けでは、患者が多くて、スタッフが二人の時と、患者が来なくて、スタッフが一人の時があった。彼女が一人でいる時、何かの本を読んで勉強しているようだった。何の勉強なのかは、わからない。ともかく、一心に勉強している立場の人なのだから、何かの専門学校生か、大学生か、公務員になるために公務員試験の勉強か、あるいは宅建の試験とか、花屋になるためのフラワーアレンジメントの勉強でも、しているのだろうと、彼は推測した。ともかく何の勉強なのかはわからない。なので、本当になりたいものがあるのだから、アルバイトだろうと推測した。
・・・・・・・・・
眼科クリニックは、大体、一日、20人くらいだが、日によってバラつきがあり、20人以上、来ることもあれば、2~3人しか来ない時もある。
その日は、ほとんど患者(というか客)が来なかった。
彼は、彼女がどんな境遇の人なのか知りたくて、話しかけてみた。
彼女は、受け付けで、静かに、何かの本を読んで勉強していた。
「あなた。アルバイトでしょ」
「いえ。正社員です」
「ええっ。いつからですか?」
「今年の春からです」
彼は、彼女がアルバイトだと確信していたので、驚いた。
「あなた。おとなしい人ですねー。僕は、アルバイトや正社員の人、多く見てきましたけど、あなたほど、おとなしい人は、初めてですよ」
「いえ」
彼女は、照れくさそうに微笑んだ。
「あなた。人生で、怒ったことって、ありますか?」
彼女は、あまりにも、人が好さそうなので、そんなことを聞いてみた。
「・・・」
彼女は、また照れくさそうに黙ったまま微笑んだ。
「僕は、いつもは、おとなしそうにしてますけど、怒る時は、物凄く怒りますよ。人格が豹変するくらい」
「先生は空手が出来ますから・・・」
「ええ。出来ますよ」
そう言って、彼は、サイドキックして、正拳逆突きを彼女に見せた。
「空手の気合い、見せてあげましょうか?」
「ええ」
彼女は、ニコリと笑って答えた。
「いやー」
彼は気合いをかけた。気合い、といのは、見た目は、大声で叫ぶことであるが、これは空手をマスターした黒帯にしか出来ないものなのである。空手の動作が身について、体が空手特有の筋肉の締め方が出来ているから、腹から、大きな声を出せるのである。一回で咽喉が嗄れてしまうほどのものなのである。
「凄いですね。先生は、空手、何段なんですか?」
「無段どころか無級です」
「そんなに、凄いのに、どうして無段なんですか?」
「僕は、道場に通わず、一人で練習したからです。僕は、組織に属するのが嫌いなので、一人で訓練したからです。空手には、多くの組織がありますが、どこかの組織に属して、昇級試験や昇段試験を受けないと、段位は、もらえないんです」
「そうなんですか。でも、先生は歳より、ずっと若く見えます。何か運動して鍛えているんですか?」
「ええ。週に一回は泳ぐように心がけています。他には、テニスとか、筋トレとかもしています」
「凄いですね。どのくらい泳げるんですか?」
「2kmでも3kmでも泳げますよ。やろうと思ったら、5時間くらい続けて泳ぐことも出来ますよ」
「クロールで、ですか?」
「ええ」
「凄いですね」
「ははは。でも、僕は、ゆっくり泳ぐので、たいして疲れませんよ」
彼は、速く泳ぐことも出来たが、速くバシャバシャ泳ぐのは、彼は嫌いだった。いかに、水を荒立てないで、スーと静かに泳ぐ方が、美しいと、思っていたからである。彼は魚になりたいと本気で思うほどのロマンチストだった。魚は、水の中をスーと泳ぎ、水面をバシャバシャ荒っぽく泳いだりはしない。それに、速く泳ぐよく、ゆっくり泳いだ方が、有酸素運動の効果が出る。彼は、市営の温水プールに行くと、大体、2時間くらい泳いだ。その2時間で、脂肪が燃焼されて、体重は1~2kg減り、上腕と大胸筋が目に見えて太くなった。それは持久力の赤筋である。
「歳をとって、老けてしまうか、どうかは、本人の意志ですよ。僕は、タバコも吸わないし、酒も飲みません。運動もして、食事も腹一杯は食べません。常に適正体重になるように心がけています」
彼女は微笑みながら、黙って聞いていた。
「剛ひろみって、知ってるでしょ?」
「ええ」
「彼は、実年齢は、高いのに、若く見えるでしょ」
「ええ」
「それは、彼は、老けないように努力しているからですよ。ジムで筋トレもしてますし、食事も、適正量だけ食べて、バカ食いしたりしないで、生活も規則正しくしているからですよ」
「そうですよね。あの人は、60歳、越してますよね」
「えっ?」
彼は、驚いた。
剛ひろみ、は、50代後半である。彼の関心は、学問や芸術の方にばかり向かっていて、芸能人のことは詳しくない。しかし、若い女の子なら、芸能界の事情には詳しいから、剛ひろみ、が60歳以上ではなく、50代後半であることは、知っているはずだ。おかしいな、っと彼は彼女に疑問を持った。
それで、彼は、とんねるず、のことを聞いてみようと思った。
石橋貴明も、年齢の割には、老けていない、からだ。
とんねるず、は、みなさんのおかげです、や、ねるとん紅クジラ団を長くやってきて、あれは面白くて視聴率が高かったし、お笑い芸人では、日本で一番クラスだし、彼女は今、社会人一年生だから、中学生や高校生の時に、みなさんのおかげです、や、ねるとん紅クジラ団を見て知っているはずだ。
それで彼は彼女に聞いてみた。
「とんねるず、って知ってるでしょ?」
「いえ。知りません」
彼は吃驚した。
「とんねる、なら知っています」
彼女は平然とした表情で、そう答えた。
(なに、トンチンカンなこと言ってるんだ?)
と思って、彼は眉間に皺を寄せた。
「いしばしたかあき、って知らない?」
彼は聞いた。
「あっ。私。日本の芸人のことは、よく知りません」
「日本の」、という言葉と、「芸人」、という言葉で、彼はピーンときた。
日本人なら、タレントを、「芸能人」と言って、「芸人」とは言わない。
まさか、と思いつつも、それでも一応は、確かめる質問をした。
「あなた。日本人でしょ?」
「いえ。違います」
彼は吃驚した。
「じゃあ、一体・・・」
彼が言い終わらない前に、
「中国人です」
そう言って、彼女は、胸のプレートを見せた。
プレートには、「王夢キ」と書かれてあった。「王」は日本人の苗字ではない。中国人の苗字である。(野球の、一本足打法の王貞治に王安石)
彼は人づき合いが苦手で、特に、女とは、話をしないので、新しいスタッフが来ても、名前を聞くこともしないし、名前を覚えようともしなかった。
「国籍は中国なんですか?」
「はい」
「生まれたのは、どこですか?」
「満州です」
「どういう経緯で日本に来たのですか?」
「高校までは、中国で過ごしました。高校を卒業して、日本の大学に入りました」
「どこの大学ですか?」
「東北大学の教育学部の心理学科です」
「東北大学っていったら、国立で偏差値が高くて、凄いじゃないですか」
「・・・」
彼女は、誉められて、照れくさそうに笑った。
「兄弟は、いるんですか?」
「いえ。いません。私が生まれた時は、中国は、一人っ子政策でしたから」
彼女は、急に豹変したように真面目な顔つきになって、ことさら早口に言った。兄弟がいない一人っ子は、兄弟のいる者に対して、劣等感を持っているものである。彼女の口調から、それが、明らかにうかがえた。それと同時に、彼は、彼女が自分の生まれた時の、自国の政府の方針を知っている博学さに驚いた。さすが東北大学出である。彼は、子供の頃は、自国の政治について全く興味を持っていなかった。物心ついてからは、テレビのアニメと、漫画を、観ていただけ、くらいである。
・・・・・・・
小学生になって、やっと、その時の総理大臣の名前と顔を知るようになっただけである。しかも、総理大臣は、なにやら日本で一番、偉い人、というような、漠然とした理解しかしていなかった。
「あなた。日本語。上手いですねー。今まで、てっきり、日本人だと思っていました」
彼は、あけすけなく、彼女を誉めた。
「いえ。そんなに」
彼女は、誉められて、また照れくさそうに笑った。
彼は、冷え症で、血行が悪く、自律神経失調症で、腰痛や肩凝り、で、ちょっと運動をすると筋肉痛になり、特に冬は、マッサージ店に行くことが多かった。もちろん女のマッサージ店の方が彼は好きだった。彼の家の周辺には、車で10分で行ける範囲の所にマッサージ店が、わりと多くあった。マッサージ店には、セラピストが、日本人のと、中国人のとが、半々くらいだった。もちろん、彼は、日本人の店の方が良かった。だが、日本人のマッサージ店は、中国人のマッサージ店より、料金が高い。というか、同じ料金でも、中国人の店の方が、施術時間が長いのである。なので、その時の状況や気分で、中国人のマッサージ店と、日本人のマッサージ店とを、変えていた。なので中国人の女と、話すことが、結構あった。そして、これはもう法則とまで言っていいほどなのだが、日本語が上手い中国人ほど、誠実で優しいのである。中国人は、日本語の上達度と性格の誠実さ、は、ほとんど正比例していた。それは、真面目な中国人は、日本語を身につけようと、一生懸命、努力するが、不真面目な中国人は、努力しようとしないから、いつまで経っても日本語が下手なのである。それでも、日本語のかなり上手い中国人でも、やっぱり、言葉の端々に日本語としての不自然さが出てしまうから、中国人であることは、わかるのである。
そこへいくと彼女の話す日本語からは、全く、中国人の匂いがしなかった。というか、気づかなかった。というか、気づけなかった。だから、彼は、てっきり彼女が日本人であると思っていたのである。
それで、やっと、しかし一瞬で、彼は彼女の素性に対する様々な疑問を、全て理解した。
彼女は、学習障害なんかではなく、中国から日本の大学に留学してきたのだ。そして、日本の企業に就職したのだ。日本語は難しい。日本人は、生まれた時から日本語で話して育ってきたから、日本人にとっては、日本語は簡単である。しかし、客観的に見れば、世界の言語の中で、日本語ほど身につけるのに難しい言語はない。その難しい日本語を使って、日本という外国で、日本の仕事を覚えるのは難しい。先輩のスタッフが、上から目線で、子供を誉めていたのも、納得がいく。もっとも、彼女のおとなしそうな性格も加わっているのは、もちろん、であるが。彼女は、頭の中では、母国語である、中国語で物を考え、中国語で物事を認識して生きているはずである。高校卒業まで中国で生活していた、というのだから。
「いやー。あなた。日本語、上手いですねー。私。てっきり日本人だと思っていましたよ」
彼の彼女を見る目は、一気に尊敬に変わった。
「・・・」
彼女は、誉められて、照れくさそうに微笑した。
彼女の日本語があまりにも上手いので、彼女は、本当に中国人なのかという、猜疑心まで起こってきた。
それで、それを試すように、彼はキョロキョロと周りを見回した。壁に貼ってあるポスターが目についた。ポスターには、大きな字で「眼科で定期健診を受けましょう」と書いてある。
彼は、それを指差して、
「これ。中国語で読んで下さい」
と彼女に言った。
彼女は、それを見ると、ほとんど、数秒の間も置かず、
「ジン ティエン コォ ジュン メン ロー」
と、流暢な中国語で言った。
といっても、彼は、中国語は、全くわからないので、それが正しい訳になっているのか、どうかは、というより、何を言ったのかは、サッパリわからない。ただ、いかにも、あの、アクセントの上げ下げの激しいヘンテコリンに聞こえる中国語っぽい流暢な発音なので、まず間違いないだろうと確信した。
しかし、これは、彼女にとっては、難しくはないだろう。
日本人にとっては、英文を和訳するのは、難しくはない、が、和文を英語に変換する英作文は難しい。異国語の文章を母国語に変換するのには、たいして頭は使わない。ただ彼女の母国語が中国語だということを確認できた。
・・・・・・・・・
というより、彼女は日本語と中国語の二つの言語の完全なバイリンガルなのだ。もしかすると、彼女は日本では、頭の中で、日本語で物を考え、物事を認識しているかもしれない。
それで、
「あなた。ものを考える時、日本語で考えていますか?それとも、中国語で考えていますか?」
と聞いた。彼女は、
「それは、中国語で考えています」
と笑って言った。
「あなた。頭いいですねー。私より頭、いいですよ」
彼は、あけすけに彼女を誉めた。それは、もちろん、お世辞ではなく、彼の本心だった。
「そんなことありません。お医者さんの方が、ずっと頭、いいです」
あけすけに誉められて、彼女は、照れくさそうに苦笑して言った。何を持って頭の良さを比較できるのか。それは一概には言えない。先天的な知能指数の高さや才能や記憶力。努力する能力や、志の高さであるIQ、などが関係しているからである。
ただ、もし彼女が、医学部に入っていたとしたら、彼女は、間違いなく、留年せずにストレートで医学部を卒業できて、現役で医師国家試験にも通ったことは疑う余地がない。と彼は確信した。クラスでも、かなり上位の成績で卒業できただろう。
「医者なんて、覚えてしまえば、頭なんか使いませんよ。知的な仕事でも、何でもないですよ」
彼は、そう言った。
その発言には、謙遜の気持ちは全くなかった。国公立の医学部の偏差値は高い。それは、医師という仕事が、人の命を扱う仕事だから、頭が、しっかりした人間でなくては、ならない、という、厚生省の、おそろしく間違った認識からである。確かに、医学部に入ったら、医学のことは、一通り勉強して、理解していなくてはならないが。しかし、いざ、卒業して、国家試験に通って、医者になってしまうと、医療は、習うより、慣れろ、の面が圧倒的に強く、別に、頭の良さ悪さ、は、関係なく、頭の悪い人間でも、医療は、出来るのである。
・・・・・・・
数か月後。
彼女は、コンタクト会社の北京支店に赴任することになった。
このコンタクトレンズ小売りの会社は、他の企業、同様、中国への進出を、計画していて、もう、すでに、中国に、二店舗、出店していた。
「先生。色々と有難うございました。私、中国の北京支店に行くことになりました」
と彼女は言った。
こうして、王夢キ、は母国の中国に帰った。
「先生。中国は、いい所ですよ。一度、おいで下さい」
と彼女からメールが来た。
その頃、中国では、長い、戦国の時代が続いていた。韓、魏、趙、斉、燕、楚、秦、の七国である。それを、ようやく、秦の、政が、天下をとった。政は、自らを始皇帝と名づけた。始皇帝は、徹底的な、中央集権的政治で、国をまとめた。焚書坑儒も行った。始皇帝は、悪人か、善人か、といえば、必ずしも、権力欲の権化だけとも言い切れない。中国を、まとめる意志に燃えていた。度量、距離、貨幣、の単位を決めた。そして、徹底的な中央集権国家にするために、儒教を否定し、法治国家にするために、法家の韓非子の教えだけを、国教とした。日本でも、織田信長は、天下取りの野望だけ、ではなかった。長く続いた、室町時代の戦国の乱世を終わらせた、という点は、評価できる。しかし、そのために、信長に逆らう者は、女子供、延暦寺の僧まで殺した。もっとも、延暦寺の僧は、聖なる宗教者ではなく、僧の横暴は目に余るものがあったのも事実である。信長と始皇帝は、そういう点で、似ている面がある。
しかし、始皇帝の政治は、長く続かなかった。始皇帝の専制政治に不満を持った、者たちが立ち上がったのである。その一人が農民の劉邦である。劉邦は、農民仲間で、始皇帝を倒して、新政権を樹立した。
「先生。今、中国に来ないで下さい。劉邦という者が、天下をとって、中国は、今、政情不安定です。泥棒や殺人などの犯罪が頻発しています。私の家も、コンタクトショップも、危険な状態です」
と彼女からメールが来た。
彼は、これを黙って見ていることの出来る性格ではなかった。
「これから、中国へ行きます」
彼は、そうメールに書いて、中国へ行った。
彼は、北京空港に着いた。彼女の家の住所は、知っていたので、すぐに、タクシーに乗り、彼女の家に行った。
久しぶりの体面に、彼女は、涙を流して喜んだ。
「先生。コンクとショップも、暴漢たちに荒らされて、潰れてしまいました。私の父と母も、殺されてしまいました」
と彼女は、泣きながら彼に縋った。
「そうか。権力を手にすると、皆、人格が豹変するからな。ここは、劉邦と戦わねば、なるまい」
彼は、おもむろに、そう言った。
彼女の家柄は、劉邦と対立する項羽の家柄で、親族、家臣も、彼女の家系を支持する者も多かった。
王夢キは、中国では、虞美人と呼ばれていた。
「みな。立ち上がろう。劉邦の独裁を許してはならない」
彼は、広場で、皆に呼びかけた。
彼に賛同する者は、多かった。
しかし、劉邦の軍隊は強かった。
とうとう、彼と、彼女は、故郷の、楚の国へ帰った。愛馬、騅、を連れて。
「まだ、楚の国の民は、我々に味方している。劉邦など、ひとひねりだ」
と彼は言った。
決戦にそなえていた、ある夜のことである。
城の回りから、楚の歌が聞こえてきた。それは、城の四面から聞こえてきた。
「楚の劉邦~は~千代に八千代に~さざれ石の~いわおとなりて~こけのむすまで~♪」
彼は、驚いた。戦い、というものは、全て、勝ち目のある方につくものである。
「何ということだ。劉邦は、とうとう、楚の国を制圧したのか」
彼は驚嘆した。
「王(虞美人)さん。もう、おわりだ」
「そうですね。先生」
「敵の手にかかって、なぶものになるよりは、自害するしかない。しかし、劉邦の敵は私であって、あなたには関係がない。劉邦軍と戦わず、城を明け渡し、私が自害することを、条件に、劉邦に、君の助命を頼んでみよう」
彼は、そう、王夢キ、に言った。
「先生。そんなこと出来ません。わざわざ、私を心配して、危険をおかしてまで、中国に来て下さったんですもの。それに、劉邦は、農民の成り上がり者です。私の家柄に憎しみを抱いていて、そんな和議の取り決めをしても、守らないことは、明白です。私もご一緒します」
虞美人は、そう言った。
「それに、劉邦の第二夫人の、呂妃は、残忍な性格で、敵を人豚にする、と聞いています」
「人豚って、何なんですか?」
「両手、両足を切断し、目を潰し、便所の中に入れて、糞を食わせて、生かせ、敵に、死ぬより、辛い生き地獄を味あわせる、ことです」
「何と残酷なことをするヤツだ」
「ですから、私を殺して下さい」
「そうか。それでは仕方がない」
彼は、項垂れて肯いた。
「先生。先生は剣術の達人です。どうか私の首をスパッと刎ねて下さい」
そう言って王夢キは、彼の前に膝まづいた。
しかし彼は、王夢キを殺すことは、どうしても出来ない。
ここで、彼は、おもむろに歌を、即興で作って、おもむろに歌った。
「力、山を抜き、気は世をおおい。天に利あらず、騅ゆかず。騅のゆかざる如何すべき。虞や虞や、汝を如何せん」
その歌は流暢に城の中に響いた。
騅とは、彼の愛馬である。
「先生と死ねるなら、本望です。わざわざ、私を心配して、危険をおかしてまで、中国に来て下さったんですもの」
こうして彼と、王夢キは、自害した。



平成26年11月26日(水)擱筆

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夏をしのぶ少年 (小説)

2020-08-12 11:58:31 | 小説
夏をしのぶ少年

それは高一の夏休み、が終わって最初の日曜だった。少年は、唯一の友達と大磯ロングビーチへ行った。大磯ロングビーチは、9月10日(か15日)くらいまでは開いている。9月というコトバから、人は、祭りの後、もう夏は終わった、閉じられた映画の幕の後、などのイメージが結びつくのだろう。そう人の心を憶測するのは、少年にも、このイメージはおぼろげながらあって、自分の感じ方を持って人の感じ方を憶測しようとしていた点で、それは社会のフンイキが暗黙に促すイメージに少年も感情を操られていたという点で、他の人間と共通項を持っていたからではあった。しかし、なぜか少年には、人の心をデリケートに憶測するクセがあって、夏(8月というコトバ)に過剰のロマンスを置かず、暑ければ夏。夏はプールで泳ぐ。という単純にして(そういう感性が、夏に限らず、物事をセンチメンタルに感じたがる人間より、ずっと魅力があるようみえた)明解な感じ方をもっている人間も多くいることも憶測していた。そういう小学生のような感じ方の人間の方が、より、人間的に自然にみえた。人はいつからか社会のつくる詩的まやかしにひっかかってしまう。人が夏を最も感じるのは、夏がまだ来る前の、春である。人々は、雑誌の「今年の夏は…」のフレーズに、「今年の夏の流行は…」の、ファッションの宣伝に、夏の到来の予感に、実際の夏以上の「想像の夏」に、夏のよろこびを感じるのだ。8月の終わりから9月になると、ファッション雑誌は、「秋」を宣伝する。8月も終わりになると人々は「秋」の予感に「秋」を満喫するのである。しかし少年にとって、9月というコトバは、「夏の終わり」を直結させなかった。セミが泣いているうちは夏だった。汗が出るうちは夏だった。人が夏の名残と感じるものに、真の夏を感じていた。十月頃、も、たまに夏が戻ってきたような日にも少年にとっては、それは真の夏だった。むしろ、人々に忘れ去られようとしている夏、まばらになった夏、の方に、夏をいたわってやりたいような、執着がおこるのだった。
9月になった最初の日曜日、少年は、唯一の友達と大磯ロングビーチに行った。少年は中高一貫の、男子校で、クラスで波長のあう友がいず、高校から入ってきた、一人のつっぱったヤツに、どちらからともなく親しくなった。彼は、おもろくて人一倍、社交的なのに、クラスではなぜか友達が出来なかった。学校を離れた余所では彼は顔が広かった。初対面の人間に話しかける抵抗というものを持っていなかった。むしろ、中学から一緒だったクラスの人間の方が、徒党を組まねば何も出来ない引っ込み思案に、彼と比較してみると見える。しかし、大人ぶったところがあって、(大人ぶった、というより、一歩ある面で事実、少年の知らない大人の世界を、どの程度か、進んで知っていた)高三頃には、悪友が多くでき、それが少年とのつきあいを疎くした。が、高一の頃には、なぜかクラスにうまくなじめず友達ができなかった。少年は彼と友達になった。親友ができない同志の慰め、という面は、ある程度は確かにあったのだろうが、それ以上に、彼がクラスで、徒党に入らずとも、堂々と、自信をもって生きている行動力が魅力だった。
「夏、海行く?」
「行きてーな」
「泳ぐの好きなの?」
「いや、泳ぐより体やきてーんだよ」
こんな会話が少年が彼と親しくなるきっかけだった。だが少年は思った。
(体やきたいなんて女みたいだな)
と少年は思っておかしかった。男は、夏、おしゃれに、海に行くんじゃない。雄々しい海と対決するために行くものだというイメージがあった。
(それに、スマートなヤツならともかく、豚の丸焼きこさえて何になるんだ)
と少年は思った。彼は太っていたからだ。ふとったヤツは考え方も鈍感なのかもしれない。と思った。しかし、少年は聡明だったので、そのことは言葉に出しては言わなかった。言葉にして言っては友情にヒビが入りそうな気がしたからである。
で、大磯ロングビーチに行った。ダイビングの最上階から、飛翔する勇者がいた。三人で来ていて、他の二人に、
「あそこからとんだらいくらくれる?」
「千円」
「よーし」
といったふざけたフンイキで、上っていった。が、本気で飛び込む構えをしている。ダイビングの最上階は、そこから、プールを見た時には、足がすくんでしまうほど、恐ろしいものである。視覚的に、主観的に、プールが小さく見えるため、プールにうまく入ってくれず、まわりのコンクリートにぶち当たって即死しそうにも思えてくるのである。さらに、正しく入水しないと、確実に怪我をする。彼は飛んだ。おそらく飛び込みを練習した経験があるのだろう。実にきれいなフォームである。スポッと、水を乱すことのない、きれいな入水である。彼は仲間から二千円せしめた。彼は実に輝いていた。技術と勇気がなくてはできない。彼がほしかったものは、仲間からの二千円ではなく、自分が技術と勇気を持っていることの証明の見えざる勲章である。
帰りは、海沿いの国道をヒッチハイクして帰ることにした。大型トラックの運ちゃんが止まってくれて、平塚あたりまで、のせてもらった。別に電車賃がないわけではないが、ヒッチハイクの方が冒険で、面白いのである。また、ヒッチハイクをすることになった。レジャーからの帰りの渋滞で、多くは、キザな車に、男と女が乗っている。少年は友人より少し先をトボトボ歩いていた。が、振り返って、びっくり、というか、唖然、とした。あいつが、渋滞で、ノロノロ運転しているドライバーに、一車ずつ、指のサインでヒッチハイクを求めているのだ。何という神経なのだと、おどろいた。ヒッチハイクの根本原理を知っているはずなのに、原理に当てはまらないことをしている。ヒッチハイクとは、原則的に女がやるものであり、きれいな女を男がよだれをたらして乗せる、というのがヒッチハイクの根本原理である。デブ男を乗せる物好きな、変人は、この世に一人もいないだろう。アカ抜けたあいつのことだから、そんなことは百も承知のはずなのに、神経が無いのか歩きながらヒッチハイクのサインを出しつづけている。もちろん止まってくれる車など一台もなく、後続車から丸見えで、天下に恥をさらしているようなもので、こっちが恥ずかしくなってきた。しかし、同時に少年は、プールで見たダイバー同様、頼もしさを見た。渋滞の中を一台、一台、ヒッチハイクしていける神経の男も、まずこの世に一人もいない。車は、ほとんど男と女。夕日を背に、夏の一日の余韻に浸りながら、サイドレバーにかけた手が伸びて、彼女の脚に時たま遠征する。しかし、これだけなのだ。彼らは、確かに詩的な精神は持っている。しかし、彼らは詩人ではない。円満具足に何のギモンも感じないのだから。閉ざされたシェルターの中で男と女がいちゃつくことに何の芸術性があるというのだろう。何の緊張もなく、何の戦いもない。この貧弱な材料から、どうすれば芸術が作れるというのだろう。この安全なシェルターの中の人々から芸術は作れない。つまらないことに命をかけられるマタドール(闘牛士)のように、ばかげたことに命をかけてしまうような変人でないと芸術の対象とはなりえない。沈みゆく夕日が今日という一日を完全に消し去ってしまうことに、とりつかれた病人のように、脅えることがないのだから。

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顔を変える薬 (小説)

2020-08-07 22:37:58 | 小説
「顔を変える薬」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換算29枚)


「顔を変える薬」

女の声とは、例外なく、美しいもの、である。
聞き心地の良い、癒される声である。
だから、電話、や、アナウンス、で、女の美しい声、だけ聞いて、その人の顔を見ないでいると、その声の美しさ、から、その女の顔まで、美しいように、男は、想像してしまうものである。
声、だけではなく、メル友、でも、女と、メールをやりとりしていると、女のやさしさ、から、男は、女の顔を、美しく想像してしまうものである。
これは、すべての男にあてはまる。
しかし、メール、や、携帯電話、の、やりとりをしていて、女に対する思慕がつのって、実際に、会ってみると、女は、どブス、で、幻滅する、ということは、非常によくあることである。
だから、メール、や、携帯電話、での、付き合い、では、メールや携帯電話、だけに、とどめておいた方がいいのである。
そうすれば、心地いいのだから。
残念ながら、男は女の顔、の良し悪し、ということ、を、全く気にしないで、女を好きになるということは、出来ないのである。
だから、携帯電話、や、電子メールの、発明で、見ず知らず、の、男と女が、メール、だけの、付き合い、をしている場合、会わない方が、賢明なのである。
携帯電話、とは、そのように、使うべきもの、なのである。
・・・・・・・
ある未来のことである。
その時は、科学技術によって、人間の顔は、完全に自由に、作り変えられるようになっていた。
僕は、ある研究所に勤める、研究者であり、厚生省から、「顔を変える薬」、を、作って欲しい、という、依頼を受けていたのだ。
正確に言うと、顔を変えるだけではなく、体格も一緒に、自分の思い通りに、変えられる、薬である。
なので、正確に言うと、「顔と体を変える薬」、というべきである。
しかし、意味が、わかりやすいように、「顔を変える薬」、という名称にしているのである。
それが、6年間の研究の後、やっと、開発に成功することが、出来たのだ。
それを、知っているのは、僕を含めた、「顔を変える薬」、の開発にたずさわっている数名の、研究者たちだけだった。
僕の友達は、みな、すぐに、薬を飲んで、顔を、自分の理想の顔に、変えた。
僕も、薬を飲んで、顔を変えた。
僕の友達の、すべては、元の顔が、どんな、だったかは、全く、わからなくなった。
これは、もちろん、嬉しくもあったが、ちょっと、気味が悪くもあった。
政府、から、たのまれて、予算、も、多く、つけてもらっていたのだ。
そして、その研究、を、毎日、寝食を忘れて、朝から夜中まで、熱心に、やったため、人の顔を、変える、薬の開発の実験に成功したのだ。
僕たちは、その研究の成功を、政府に、報告しようか、どうかと、迷った。
なぜなら、これは、非常に、危険な、面も、もっている、と、思ったからだ。
その理由は、男の身勝手さ、では、あるが。
しかし、僕たちは、ともかく、厚生省の官僚の所に行った。
厚生省の官僚のトップの事務次官は、僕たちを、見ると、
「やあ。研究の進み具合は、どうですか?」
と、僕たちに、聞いた。
厚生省の事務次官は、ブサイクで、腹の出た、デブの中年男だった。
僕たちは、実験の成功の、事は、言わなかった。
「あのー。もし、研究が、成功したとしたら、その薬を、どのように、使いますか?」
と、僕たちは、うかない顔で、おそるおそる聞いた。
「そりゃー、もちろん、ブサイクな、人間に、売ってやりますよ。顔が、ブサイク、ということは、人間として、不幸な事でしょう」
と、事務次官は、満足そうに言った。
「そうですか」
と、僕たち研究者は、眉をしかめて、うかない顔で、ため息をついた。
僕たちには、薬の使い方に、関して、ある、要望があったのだ。
僕たちが、落胆している、のを、見て、事務次官、は、何かを、察したような、顔つき、になった。
そして、嬉しそうな顔で、こう言った。
「ただ。その薬の使い方、に、ついて、ですが、我々、厚生省としては、いくつかの条件をつけているのです」
と、事務次官が、ニッコリと笑って言った。
「何ですか。その条件というのは?」
僕たちは、すぐに、聞き返した。
事務次官は、ニッコリと、笑った。
そして、こう言った。
「それは。おそらく、あなたたち、が、望んでいるのであろう、要望、と、同じだと思いますよ」
事務次官の顔には、(あなた達の、要望というは、わかっていますよ)、といった、余裕の笑みが浮かんでいた。
「何ですか。その、僕たちが望んでいるであろう、という要望というのは?」
僕たちは、すぐに、聞き返した。
どうして、言わない内から、人の考えが、わかるのか、と、疑問に思いながら。
事務次官は、ニヤリと、笑った。
そして、こう言った。
「もし、実験が成功したとしたら、それは、国民には、極秘にします。そして、希望する、男だけに、密かに、高額で、売ります。そして、女には、決して、売りません」
と、事務次官は、キッパリ、言った。
「そうだったのですか」
僕たちは、瞬時に、笑顔になって、答えた。
「あなた達の、要望、というのは、それでしょう?」
事務次官は、勝ち誇った、口調で言った。
「・・・え、ええ。ま、まあ。そ、そうです」
事務次官、が、あまりにも、ズバリ、と、僕たちが、心に秘めていた、要望を言い当てたので、僕たちは、つい、正直に答えてしまった。
「でも、どうして、それが、わかったのですか?」
僕たちは、聞き返した。
「そりゃー、わかりますよ。お互い、男同士ですからね・・・」
事務次官、は、ニヤリ、と、笑った。
僕たちは、安心して、ほっと、胸をなでおろした。
「事務次官。では、言いましょう。実験は成功したのです。今日は、その報告に来たのです」
僕たちは、自信をもって、言った。
「あー。そうだったのですか。それは、嬉しい。長い期間の、研究、どうも有難うございました」
事務次官は、欣喜雀躍とした、様子で、言って、深々と、お辞儀した。
「では、説明しましょう」
そう言って、僕たちは、スライド、で、薬の製法、を、パワーポイントで、写し出して説明した。
事務次官、は、医系の技官だったので、容易に、飲み込んで、「うんうん。なるほど。なるほど」、と、言いながら、僕たちの、説明を聞いた。
「では、この、USBメモリ、の中に、今、写した、薬の製法、の、全て、が、入っていますので、どうぞ、受け取って下さい」
そう言って、僕たちは、USBメモリを、事務次官に渡した。
「いや。どうも有難うございます」
事務次官は、深々と、頭を下げて、礼を示してから、USBメモリを受け取った。
「では、これで、僕たちは、帰ります」
そう言って、踵を返して、去ろうとした。
すると。
「先生がた。ちょっと、お待ち下さい」
と、事務次官が、制した。
「はい。何でしょうか?」
僕たちは、足を止めて、振り返って、聞いた。
「まことに、申し上げにくいのですが、このことは、どうか、内密にして、頂けないでしょうか?我々、政府も、この事は、一切、マスコミには、知らせませんので・・・」
事務次官は、ペコペコと、頭を下げて、我々に頼んだ。
「ええ。一切、他言しないと、誓います」
僕たちは、キッパリ、と言った。
「どうも有難うございます。何卒、宜しくお願い致します」
そう言って、事務次官は、我々に、大きな、紙袋を渡した。
紙袋の中を、覗いてみると、一万円札の札束が、ぎっしり、つまっていた。
「わかりました。一切、他言しません」
僕たちは、ニヒルな顔つきをしながら、ニヤリと、心の内で、笑った。
そして、事務次官の部屋を出ていった。
・・・・・・・
研究所に、もどった、我々は、厚生省に、言われて、「顔を変える薬」、を、生産しだした。
そして、薬を、量産して、厚生省に、売った。
もちろん、僕たち、研究者も、その薬を飲んで、皆、若い、イケメンになった。
ある者は、木村拓哉の若い頃のような、容貌となり、ある者は、阿部寛の若い頃のような顔になり、ある者は、郷ひろみ、の若い時のような顔になった。
皆、自分の好きな、俳優の顔になった。
僕は、30歳の頃の、京本政樹の顔に、なった。
僕は、30歳の頃の、京本政樹こそが、一番、ハンサムだと思っていたからだ。
もちろん、僕は、幸せ、になれたことを喜んだ。
ハンサムになれることほど、幸せなことは、ないからだ。
・・・・・・・
僕たち、研究者は、ある時、婚活パーティー、に、行った。
それは、大学生の、合コン、と、ほとんど、同じだった。
やってきた、相手の女達は、みな、若く、物凄く、きれいな、女ばかり、だった。
みな、お気に入り、の、男と女が、楽しそうに、話した。
僕も、一人の女性と、話した。
彼女A子、は、とても、きれい、だった。
「あなたは、とても、きれいだ」
と、僕は言った。
「あなただって、素敵だわ」
と、彼女A子、は、言った。
彼女は、生まれも、育ちも、奈良の橿原市で、畝傍高校、を卒業した、と、語った。
僕は、彼女A子が、好きになってしまった。
一目惚れ、というやつである。
僕と、彼女は、その後、少し、付き合ってから、すぐに、結婚する約束をした。
もちろん、僕は、嬉しかった。
しかし、僕の心の中にある、ある罪悪感、が、僕を責めた。
「彼女が、僕と結婚してくれるのは、僕の顔が、若い時の、京本政樹、のように、イケメンだからだ。元の僕は、そんなに、ハンサムではない」
という、罪悪感である。
厚生省が、僕たちの、研究に対して、支払ってくれた、給料は、べらぼうに、良かった。
もちろん、僕は、厚生省から、受けとってきた大金で、大金持ちになっていた。
僕は、海の見える、茅ケ崎の、良い場所に、大邸宅を建てた。
そして、僕は、彼女と結婚して、彼女と、その大邸宅で、新婚生活を始めた。
人間の心、というものは、不思議なもので、あるいは、僕が、いい加減な、性格なのかも、しれないが、毎日、笑顔で、僕に、寄り添ってくれる、彼女を、見ているうちに、僕は、罪悪感を感じなくなっていった。
「僕の元の顔なんて、どうでも、いいじゃないか。彼女は、僕を好いてくれているのだから」
僕は、そう思うようになった。
僕は、クルーザーを買い、夏には、ビキニ姿の彼女と、湘南の海を、走った。
幸せを、僕は、満喫した。
彼女は、顔も美しいが、プロポーションも、抜群だった。
ふっくらした胸と尻、くびれたウェスト、スラリとした脚。
瑞々しい、最高のプロポーションだった。
僕は、幸せを噛みしめて、ウキウキと、うかれて、毎日を過ごした。
しかしである。
彼女と、結婚して、数ヶ月、経った、ある日のことである。
研究所で、友人の一人が、血相を変えて言った。
「おい。どうやら。女たちも、顔を変える技術で、顔を変えているらしいぞ。この技術は、女には、極秘のはずだったのに」
友人が言った。
「どうしてだ?」
僕は、聞いた。
「厚生省が、ウソをついたんだ。女には、使わせない、と、言いながら、女こそ、(美しさ)、を求めるだろう。男の魅力は、顔の良さ、も、あるけれど、やはり、それよりは、性格の面白さ、だろう。しかし、女にとって、顔の美しさ、は、絶対的なものだろ。厚生省は、COVID―19、で、落ち込んだ、日本の経済を、立て直すために、顔を変える薬、の研究を、僕たち、研究者に、やらせたんだ。女は、顔を美しくするためには、いくらでも、金を出すだろう」
と、友人が言った。
「そうか。だまされたな」
僕は、厚生省を、深い、憤りの念で、恨んだ。
「日本の、かなりの女が、顔を変える薬、を、買っているようだ。以前、きれいな女と、合コン、をしただろう。僕は、あの時、好きになった、女、B子、と、結婚したんだ。しかし、ある時、彼女の、引き出し、を、開けたら、彼女の元の顔、の、写真が、見つかったんだ。彼女の元の顔は、ブスだった。それで、気持ち悪くなって、すぐに、離婚したよ。彼女は、顔を変える薬、で、美人に変身していたんだ」
友人が言った。
「そうか」
と、僕は、ため息をついた。
「君も、あの時、出会った、美しい女、A子と、結婚しただろう。だけど、あまりに美しい女には、要注意だ。君の妻も、顔を変える薬、を、飲んでいるかも、しれないぞ。調べてみろ」
友人が言った。
その日、僕は、研究所を、早退した。
そして、茅ケ崎の家に、急いで、帰った。
そして、彼女の部屋に、入ってみた。
引き出しの奥に、隠すように、ある、アルバムを、僕は見つけた。
僕は、それを、開いて見た。
彼女の、名前、が、至る所に、書かれてあった。
彼女は、生まれも、育ちも、奈良県の橿原市、と言っていた。
高校は、畝傍高校、と、彼女は、言っていた。
アルバムには、彼女は、昭和20年、生まれ、と、書かれてあった。
なら、今は、75歳の、老婆、だ。
彼女の、若い時の、顔は、冴えない、ブス、で、しかも、デブ、だった。
彼女が、畝傍高校の、入学式の、時に、畝傍高校の、前で、制服を着て撮った写真もあった。
お世辞にも、きれい、とは、いえない。
ブス、で、デブ、である。
これで、もう、彼女も、顔を変える薬、を、飲んだ女、だと、わかった。
僕は、気持ちが悪くなった。
今まで、こんな女を、抱いていたのかと思うと。
吐き気がしてきた。
・・・・・・
彼女が、その日、帰ってきた。
「あなた。今日は、すき焼き、に、しますよ」
と言って、彼女は、いつものように、笑顔で、台所に、行って、夕飯を、調理しはじめた。
僕は、二階の自分の部屋で、これから、どうしようか、と、考え込んだ。
友人のように、彼女と、別れようかと、思った。
その時。
「あなたー。夕飯が、出来ましたよー」
と、妻の声がした。
僕は、階下に降りて、テーブルにつき、彼女と、夕飯を食べた。
彼女は、今まで通り、ニッコリと、微笑んで、嬉しそうに、話しかけてくる。
しかし、彼女の正体を、知った今では、以前のように、彼女に、好感を持つことは、どうしても出来なかった。
僕は、友人のように、彼女と、別れようかと、思った。
しかし、僕だって、イケメン、ではないのに、顔を変える薬、で、若い時の、京本政樹のように、装って、彼女をだましているのだ。
僕は、これから、どうなるのだろう?
彼女は、僕を、だましているが、僕も、彼女を、だましているのだ。
僕の罪悪感が、蘇ってきた。
彼女は女で、僕は男、だから、話が違う、なんていう、言い訳は、卑怯だ。
彼女を見る度に、彼女の元の顔、が、目に浮かんでしまう。
僕は、以前のように、彼女と居ても、素直に、笑えなくなった。
すると。
「あなた。どうしたの?」
と、彼女が、心配して、聞いてくる。
彼女は、若い女の態度をとっている。
卑怯な、悪い女だと僕は、思った。
彼女は、人をだますことに、罪悪感を感じていないのだろうか?
と、僕は疑問に思った。
しかし、彼女の態度は、優しい。
僕は、迷った。
そして、困った。
彼女と、付き合おうか、それとも、別れようか、と。
彼女の、正体は、ブスの、老婆、と、わかった以上、一緒にいると、気味が悪い。
別れることになるだろう。
と、僕は、思った。
しかし、彼女(正体は、ブスの老婆)、は、優しい。
知らなければ、良かった、と僕は、思った。
しかし、その一方で、人間で、大切なのは、真心なのではないか、とも、僕は、思った。
しかし、彼女の正体のことを、考えると、気味が悪い。
彼女も、僕をだまして、平気でいるのだから、決して、いい性格とは、言えない。
しかし、僕も、彼女を、だましている、の、だから、彼女を批難する資格はない。
彼女の外見だけを、見ていると、彼女は、とても、可愛く見えてしまう。
僕は、彼女を愛せるだろうか?
僕は、そんな葛藤に悩まされながら、ズルズルと、彼女と、結婚生活を送っている。
誰か、僕を助けてくれ。
と、僕は、心の中で、叫び続けた。
そんな、ある時である。
厚生省から、僕たちの、研究所に、依頼が来た。
それは、「どうか、人間の、忘れてしまいたい、記憶の一部だけ、を、忘れることが出来る、薬を開発して欲しい」、という依頼だった。
僕は、こういう依頼が来るのを、確信していた。
僕と同じように、「顔を変える薬」、を飲んで、そのために悩んでいる人が多くいるだろうことは、すぐに、予測できたからだ。
僕は、彼女の、昔のアルバムを見て、彼女が、「顔を変える薬」、を飲んだ女だと知った。
僕は、彼女の、昔のアルバムを、見たことを、心から後悔している。
それで、僕は、彼女に幻滅して、苦しい日々を送っている。
人間、何でも、知っている方が、いいわけでは、ない。
もし、僕が、彼女の、昔のアルバムを見ないで、彼女が、「顔を変える薬」、を飲んだ女だと知らないでいたら、僕は、彼女を愛することが出来て、彼女と、幸せな、夫婦生活を送ることが、出来たのだ。
人間は、幸せになるために、科学技術を、発達させてきた。
そして、実際に、人間の生活は、科学技術の発達によって、とてつもなく、便利になった。
しかし、科学技術の発達は、人間を不幸にする、面も、間違いなく、あるのだ。
それは、人間が、幸福になるためには、科学技術を、いくらでも、発達させてもいい、という、人間の、傲慢な考えに対する、神の懲罰なのかもしれない。
そんな、ロマンチックで形而上学的な、思いが、僕の頭をよぎった。
公害。放射能。核兵器。交通事故。自然破壊。
これらは、すべて、科学技術の発達、によって、もたらされた、弊害であり、科学技術の発達、が、なれれば、これらの、問題は、存在しえなかったのだ。
厚生省の、事務次官は、研究費は、いくらでも、出す、と言った。
なので、僕たちは、今、「忘れてしまいたい、記憶の一部、を、忘れることが出来る薬」、の開発の研究を、夜を徹して、やっている。
しかし、「顔を変える薬」、の開発も、6年間、寝食を忘れて、研究に没頭して、やっと、6年、かけて、開発することが、出来たのだ。
「忘れてしまいたい、記憶の一部、を、忘れることが出来る薬」、が、完成するには、何年の歳月が、かかることか?
しかし、僕、および、数多くの、人間を、苦悩から、救うには、その薬を開発するしか、他に、方法が無いのだ。
神よ。
どうか、一刻も早く、「忘れてしまいたい、記憶の一部、を、忘れることが出来る薬」、を、完成させてくれ。
僕は、研究仲間たちと、寝食を、忘れて、必死で、「忘れてしまいたい、記憶の一部、を、忘れることが出来る薬」、の開発の研究に没頭する毎日を送っている。



令和2年8月7日(金)擱筆

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ロリータ (小説)

2020-08-04 23:37:05 | 小説
ロリータ

純は、ある病院に勤める精神科の勤務医だった。精神病院は人里から少し離れた所にあるのが多い。患者も静かな自然の中で静養した方が気分が落ち着くだろう。しかし病院に通う職員にとっては、交通の便がわるい。そのため車で通う職員が多い。純も車で通っている。病院は9時からなので朝、8時に家を出る。ちょうど生徒が登校する時間である。高校生は、自転車で通う生徒が多いが、中学生は、トボトボと徒歩である。三々五々、仲のいい友達と話しながら。その姿が何ともかわいい。純は彼女らを見ると何とも言えない狂おしい感情におそわれるのだった。純は、女子高生には興味がなかった。彼女らはミニスカートにルーズソックスを履き、彼氏と平気で手をつないで歩く。世間を斜めに見て、もはや性格がスレッカラされてしまっている。それに較べると中学生は、まだ小学生のあどけなさが残っている。靴も子供っぽい運動靴である。
純は通勤の途中、女子中学生を見るのが楽しみだった。
かわいい。ともかく、かわいいのである。
病院の仕事は午後5時で終わりである。
純は仕事が終わると、すぐに帰った。
帰りにも、学校から帰宅する生徒を見かける。

ある日の帰り、純は前方に一人でトボトボ歩いている生徒を見つけた。
その子は、朝の登校の時でも見かけて知っていた。
おとなしそうで、純は、その子が特に好きだった。
「犯罪」という言葉がサッと純の頭を掠めた。
だが、純は、今まで、生徒をさらいたい、とは本気で思った事がなかった。
一度、そんな「犯罪」を犯してしまったら、もはやアウトローとなり世間から抹殺される。
人生、おしまいである。
そんな勇気など純には無かった。
しかし、純が、生徒をさらえない理由はそれだけではなかった。無理矢理、連れさったら当然、その子は、いやがって抵抗する。その顔は美しくない。純は、そういう顔を見たくないのである。だから、さらえないのである。
だが、その子の後ろ姿が何ともかわいい。
腕力も無さそうで、利発そうである。
純は車を止めて、その子の歩く後ろ姿を食い入るように眺めた。
「この子に声をかけたら、この子はどんな反応をするだろう」
「気味悪がって、逃げてしまうだろうか」
純はそんな事を考えた。
しかし、どうも、そのおとなしい弱々しい姿からは、そういう反応は想像できない。
純の欲望はどんどん高まっていった。純は、とうとう決意した。
純は徐行ていどの早さで、その子に近づいた。
そして、その子の横に車を止めた。
少女も足を止めて、車の中を見た。
何事かと、キョトンとした顔つきだった。
純は窓を開けた。
「お嬢ちゃん。この辺りに郵便局ないか知らない」
純は、平静を装って、少女に声をかけた。
「郵便局は、ここを真っ直ぐに行って左手にあります」
少女は礼儀正しく答えた。
警戒心が感じられない。
よし、と純は思い決めた。
純は、ドアを開けると路上に降り、少女の手を掴んで無理矢理、車に押し入れた。
「ああっ。嫌っ。やめてっ。何をすのる」
純は黙って、少女から、熊のぬいぐるみのついたスポーツバッグを取り上げた。
そして、ドアをロックして、フルスピードで車を走らせた。
しばらく車を走らせてから、わき道に入り、雑木林の中で車を止めた。
周りに民家はない。
少女は、両手を膝の上に乗せてブルブル体を震わせている。
純はエンジンを止めた。
少女はとっくに現状認識できているといった顔つきで黙っている。
抵抗しても無駄だということがわかっているのだろう。
「お嬢ちゃん。いきなり乱暴なことしちゃってゴメンね」
純は少女の警戒心を解こうと、やさしい口調で言った。
少女は黙っている。
「お嬢ちゃん。ほんのちょっとだけ、僕の家に来てくれない。殺したり、いたずらしたりなんかしないから。おとなしく言う事を聞いてくれれば、一日で無事に家に帰してあげるからね。こんな事は、公にしない方が、君のためだよ。君は頭がよさそうだから、解ると思うよ」
純は少女の警戒心を解くように、やさしい口調で言った。
少女は顔を青くしながらもコクリと肯いた。
「そのかわり、暴れたり、逆らったりしたら命の保障はしないよ」
そう言って純は胸ポケットからシャープペンを取り出して、少女の首筋に当てた。
「さ、逆らいません。暴れません。そのかわり、殺さないで家に帰して下さいね」
少女は切実な口調で訴えた。
「よーし。いい子だ。でも一応、念のために縛らせてもらうよ」
そう言って、純は少女の華奢な腕を背中に廻し、手首を重ねて縛った。
そして、ドアをあけ少女を後部座席に移し変えた。
少女は抵抗せず、素直に後部座席に移った。
これでもう、少女は逃げられない。
「さあ。横になって」
そう言って純は少女の体を後部座席に横たえさせた。
これでもう安心である。
純は、ほっと胸を撫で下ろした。
純はドアを閉め、運転席にもどり、エンジンをかけて発車した。
気をつけなくてはならないのは、スピードオーバーによる警察の検問である。
純は逸る気持ちを抑えながら、車を走らせた。
まさに手に汗握る運転だった。
やっと家についた。
純の家は寂しい貸家の一軒屋で、周りに民家はない。
以前、住んでいた家族が一家心中したため、それが評判になって、借り手がいなく、家賃は安かった。だが純は、そんな事を気にする性格ではない。

夜になると一家心中した家族の幽霊が出る、という噂が出回って、人も気味悪がってよりつかなかった。
純はエンジンを切った。
純は、家の中に入り、就眠用のアイマスクを持ってきて、少女にかけた。
ここが、何処だかわからなくするためである。
純は少女の肩をそっとつかんで、車から出して、家の中に入れた。
純は少女を六畳の畳の部屋に連れて行き、柱の前に立たせた。
「さあ。座って」
純が言うと、少女は素直に座った。

純は後ろ手に縛った少女の手首の縄の縄尻を柱に結びつけた。
これでもう少女は逃げられない。
『やった。とうとうやった』
純は飛び上がらんばかりに喜んだ。
長年の夢が叶ったのである。
しかも、少女をまた縛って、車でさらった場所に帰せば、まず犯行は、ばれない。
犯罪者にならなくてすむ。
純は内気で女と対等な付き合いが出来ない。
そのため、今まで、一度も女と話した事がない。
しかし、純の女を求める気持ちは人一倍、強かった。
欲求が満たされず心と下半身の中で、悶々としていた欲求が、まさに満たされたのである。
純は、アイマスクで目隠しされて黙って横座りしている少女を時のたつのも忘れ、じっと眺めつづけた。
チェック柄のスカートから出ている華奢な足、諦念した様子でじっとしている姿が何とも愛らしい。
「あ、あの・・・」
少女が可愛い口を開いた。
「なに」
純は嬉しそうに聞き返した。
初めて少女が声を出した事が、嬉しかったのである。
ミンコフスキーによれば、統合失調症の患者の病理は、現実の世界との生きたつながりの喪失である。
「あ、あの。お願いがあるんです」
少女は遠慮がちに言った。
「なに。何でも聞いてあげるよ」
純はやさしい口調で言った。
「目隠しをとっていただけないでしょうか」
「どうして」
「こ、こわいんです」
少女は少し声を震わせながら言った。
純はすぐに納得した。
縛られて、自由を奪われた上、闇の中で、周りが全く見えなくては、怖くなるのは当然である。
純は目隠しを取ろうと手を伸ばしたが、ふと、思いとどまった。
目隠しをとってしまえば、純の顔をはっきり見られてしまう。
さらった時も、確かに顔を見られてはいるが、薄暗がりで、はっきりとは見られていない。
一瞬のことであり、時間もたっている。
しかし、目隠しをとったら、はっきりと顔を見られてしまう。
純はしばし迷った。
「警察に言ったりしません。私を信じて下さい」
少女は訴えるように言った。
純の躊躇いを察しているかのように、少女は機先を制した。
黙っている純に少女はつづけて言った。
「おにいさんもさっき、言いましたよね。こういう事が公になると、私の人生に不利な経歴が出来てしまうって。その事は、私も十分、わかっています。ですから、この事は一生、誰にも言いません」
利発な子だと純は思った。
確かに純は、この子に何もせず無事に返すつもりである。
しかし、家族や警察に言わないという保障はない。
「おにいさんは悪い人じゃないです」
考えあぐねている純を促すよう少女は言った。
「どうして、そう思うの」
純は、すぐに聞き返した。
「だって、悪い人だったら、身動きのとれない私を触ったり、いたずらしたりするでしょう。おにいさんは、何もしませんもの」
その言葉に純は強く心を動かされた。
なるほど、確かに少女から見れば、そう見えるのだな、と気づかれた思いがした。
「本当に警察に言わないでくれる」
純は確かめるように聞いた。
「言いません」
少女は、きっぱりと言った。
よし、と、純は決断し、少女の耳からアイマスクをそっと取り外した。
少女は、そっと目を開いてパッチリしたつぶらな瞳で純を見た。
「ありがとうございます。目隠しを解いて下さって」
少女は丁寧に礼言った。
ほっとしたような様子だった。
純は少女に見られ、急に羞恥におそわれて真っ赤になった顔をそらした。
自分が何の罪もない純粋で素直な子を無理矢理、さらって、監禁したという罪悪感がおそってきたのだ。
しかも、大の大人が中学生を、である。
「ごめんね。無理矢理、さらっちゃて」
純は少女の前に土下座して、頭を床に擦りつけて謝った。
「いいです。そのかわり、殺さないで、家に返して下さいね」
少女は卑屈に謝っている純をなぐさめるような口調で言った。
「うん。もちろん、何もしないで、無事にちゃんと家に返すよ」
「その代わり、警察には言わないでね」
「言いません。約束します」
少女はきっぱり言った。
その口調に純は誠実さを確信してほっとした。
純の横には少女の熊のぬいぐるみのついたスポーツバッグがある。
純は、少女が目隠しされている間に、スポーツバッグを開けて、財布から少女の名前や身元は知っていた。
少女の名前は、佐藤京子で、××中学の一年生だった。
「京子ちゃん。ごめんね。君を目隠している間に君の素性を調べちゃった」
純は、そう言ってまた顔を赤くして謝った。
「いえ。いいです」
「しつこくつきまとったりしないからね。安心してね」
「はい。ありがとうございます」
少女は、淡々と答えた。
純は自分のした事にきまりの悪さを感じて顔を赤くした。
何をしていいか、わからず、少女の前で身をもてあました。
少女は、目隠しがなくなって、少し安心した様子だった。
「おにいさん。一人暮らし?」
少女が聞いてきた。
「うん」
純はすぐに答えた。
「彼女はいるの」
「いない」
「どうして」
「大人の女と、うまく付き合えないから」
「どうして私をさらったの」
「可愛いから」
「私より可愛い子、いっぱいいるよ。どうして私をさらったの」
「京子ちゃんの可愛さは、単に外見だけじゃないんだ。真面目そうで、おとなしそうだから。僕はそういう子が好きなんだ」
「おにいさんも真面目で、おとなしそう」
そう言って少女はニコッと微笑した。
はじめて少女が笑顔を見せたので、純は嬉しくなった。
純は濡れタオルを持ってきた。
そして、そっと横になっている少女の足の靴下を脱がせた。
「なにをするの」
少女が聞いた。
「京子ちゃんの足を拭きたいの。拭いてもいい」
純は恥ずかしそうに言った。
「うん。いいよ」
少女は屈託なく答えた。
純は脱がせた少女の足を濡れタオルで拭きだした。
名目は、足を拭くことだが、性的倒錯癖のある純には女の足に激しく興奮するのである。
純は少女の足の裏を丁寧に拭いていった。
足指の股を一本一本、開いて拭いた。
「あはっ。気持ちいい」
少女は、くすぐったそうに笑った。
純は、ゆっくりと時間をかけて少女の足を隈なく拭いた。
「かわいいね。京子ちゃんの足」
「そんなことないよ」
少女は恥ずかしそうに言った。
濡れタオルで拭きおわると、純は少女の土踏まずを親指で強く圧した。
足裏マッサージである。
「あはっ。気持ちいい」
少女はくすぐったそうに笑った。
純は土踏まず、といわず、指の付け根や足裏の壺をじっくりと指圧した。
純は少女の体の感触を足の裏を通じてじっくり感じていた。
純には、それだけで十分だった。
少女は嫌がる様子も見せず、素足を純に任せている。
十分、足裏を指圧してから純はそっと少女に靴下を履かせて元にもどした。
少女の腹がグーと鳴った。
純はキッチンからお菓子とオレンジジュースを盆に載せてもってきた。
そして、それを少女の前に置いた。
純はビスケットを少女の口に持っていった。
「はい。アーンして」
純が言うと、少女はそっと小さな口を開けた。
純は、開いた少女の口にビスケットを入れた。
少女はモグモクと口を動かしてゴクリと飲み込んだ。
純は、じっとその様子を楽しげに見ていた。
食べ物が胃に入って胃が動き出したのだろう。
少女は黙っているが、菓子をそっと見る少女の目が、もっと食べたい事を語っているのが見てとれた。
純はビスケットをもう一つ後ろ手に縛られて柱につなぎとめられている少女に食べさせた。
「おいしい」
純が聞くと、少女はコクリとうなずいた。
そうやって純はクッキーを次々と少女に食べさせた。
咽喉も渇いただろうと思って純はオレンジジュースにストローを入れて少女の口に持っていった。
少女は小さな口でストローをパクリとつかまえると、一心に吸った。
咽喉がゴクゴク動き、それにともなって、コップの中のジュースの水位が減っていく。
それが純には面白かった。

ふと純に意地悪したい気持ちが起こって純はストローで一心にジュースを吸っている少女からサッとコップを離した。
あっ、と言って少女は離されたジュースを恨めしそうに見た。
そのもの欲しげな目つきが何とも愛らしかった。
その少女の可愛らしさを見たいためだけに純は、ちょっと意地悪したのである。
純がストローの先を少女の口に近づけると、少女はそれをつかまえて、またゴクゴクと飲みだした。
何て、可愛いんだろうと純は思った。
あたかも腹をすかせた雛鳥が一心に餌を食べているようだった。
純は、そうやってクッキーとジュースを交互に少女に食べさせた。

純は、はじめ、今日中に少女を元の場所にもどすつもりだった。
だが、純は、ちょっと、それが勿体ないような気がしてきた。
こんな事はもう人生で二度とないだろう。
その上、さらった女の子は、純の憧れの子で、しかも彼女は抵抗しようとしない。
もう少し、少女を置いておきたいという欲求が起こってきた。

「京子ちゃん。お願いがあるんだけど・・・」
と言いかけて、純は言いためらった。
「なあに」
少女はあどけない口調で聞き返した。
「京子ちゃん。今日一日、泊まってってくれない。明日、必ず無事に返すから」
純は訴えるように言った。
少女は、突然の純の申し出に驚いて、しばし思案げな様子で考えていたが、
「いいよ」
と、屈託のない口調で答えた。
純は飛び上がらんばかりに喜んだ。
同時に、どうして、少女が純の申し出を受け入れてくれたのか、その理由が知りたくなった。
「京子ちゃん。どうして、僕の無茶な頼みを聞いてくれたの」
純は疑問に眉を寄せて聞いた。
「おにいさんは悪い人じゃないから」
さらに少女は言った。
「十分、満足した方が、おにいさんも欲求不満が解消されるでしょ」
そう言って少女はニコッと笑った。
純は感激した。
少女が、自分を信頼してくれた事と、人をも思いやる、さやしい性格に。

さて、少女の諒解がとれたのは、よかったが、すぐに純は、一つの難問にどう対処すべきか、頭をひねって考えた。
それは、当然、今日、帰るはずの少女が帰らない事で親が一大事として心配する事だ。
連絡がなければ、警察にも知らせるだろう。
ともかく親が心配しないように連絡させなければ。
純は頭を捻った。
「京子ちゃん。友達の家に泊まることある」
純は聞いた。
「ううん。全然ない」
少女は首を振った。
少女のおとなしそうな性格からして、さもありなん、と純は思った。
それに、その方法には、問題がある。
友達の家、と言えば、親は、どの子で、どうして、と理由を聞くだろう。
親が、友達の家に電話すればウソがすぐにばれてしまう。
親戚の家ではもっと悪い。
「おにいさん。こうしてはどう」
考えあぐねている純に少女が声をかけた。
「私が、以前からメールをやりとりしていた仲のいいメル達がいたって言うの」
うん、と純は聞き耳を立てた。
「それでね、その子は難病の病気で、以前から私が励ましていたんだけど、数日前から危篤になったっていうの。それで、どうしても、その子に会いたいから、今日は帰れないって言うの。どう」
なあるほど、と純は感心した。
それが一番で、それなら、親も納得するだろう。
純は少女に家に電話させるため少女の後ろ手の縄を解いた。
少女はスポーツバッグを開けて、携帯電話をとりだした。
一瞬、少女が、家に拉致監禁されていることを、急いで告げるかもしれない、という不安が純の頭を過ぎった。
だが、今までの少女との会話から、まずそんなことはないだろうと思った。
それに、仮に、少女が豹変して、そう言っても、まだ純の素性は知られてはいない。
何もせず、一日、連れ去って無事に返した程度なら、警察もわざわざモンタージュ写真をつくって、捜査する事もあるまい。

少女は家に電話した。
母親が出た。
「京子ちゃん。どうしたの。帰りが遅いわね。何かあったの」
「お母さん。私、今日、帰らない」
「ええっ。どうして」
母親は驚倒して食いつくように聞いた。
「あのね。理由を説明するね」
そう言って少女はさっき話した理由を話し出した。
「あのね。私、以前からメールを遣り取りしていた友達がいるの。その子は難病で、以前から一度、会いたいと思っていたの。それで、数日前から、危篤になってしまったの。もしかすると今日が山かもしれないの。だから、会いに行きます。明日、帰ります。だから心配しないでね」
少女は淡々と話した。
「そう。そういう事なら仕方がないわね。気をつけてね。その子の家の住所か電話番号がわかるなら教えて」
「ごめんね。それは秘密。その子とは、私だけで関わりたいの」
「そう。わかったわ。くれぐれも気をつけてね。何か困った事があったら、すぐに連絡してね」
そう言って少女は携帯を切った。
「どう。これで安心でしょう」
少女はニコッと笑った。
「ありがとう」
純は、ほっと胸を撫で下ろした。
少女は携帯をスポーツバッグの中にもどした。
同時に純は無上の喜びで満たされた。
これから、明日一日、少女と過ごせるのである。
しかも、何の不安も心配も無く。
そう思うと純は飛び上がって、喜びを叫びたくなるほどの思いだった。


少女の腹がグーと鳴った。
「京子ちゃん。お腹、減ったでしょう。お弁当、買ってくるよ。何がいい」
「何でもいいです」
一瞬、純の京子を見る目が静止した。
それは、どうしてもしなくてはならない事だった。
純は、自由になった京子の華奢な腕を背中に廻し、手首を重ね合わせて縛り、さらに胸を二巻きし、その縄尻を柱に結びつけた。
両足首も縛った。
「ごめんね。京子ちゃん」
純が謝ると、少女は、
「いえ。いいです」
と、慎ましく答えた。
さらに純は豆絞りの手拭いを持ってきた。
「ごめんね。京子ちゃん。口を開けて」
純が言うと少女は素直に小さな口を開けた。
純は豆絞りの手拭いを京子の口にかけて頭の後ろで縛って、京子に猿轡をした。
これで京子は声を出せなくなった。
純は、しげしげと縛られた京子の姿を眺めた。
純は、その姿に激しく興奮した。
もちろん、少女を縛ったのは、純がいない間に少女に逃げられたり、声を出されたりさせないためであるが、性倒錯癖のある純には、縛られて猿轡されている女性の姿に激しく興奮するのである。
純は浴槽の栓を開いて湯を出した。

純は家を出て、車を飛ばしてスーパーに行った。
純の家の近くに24時間営業のスーパーがあった。
純はいつも、ここを利用していた。
純は駐車場に車を止めて、スーパーに入った。
純は、何を買おうかと迷ったが、半額になったハンバーグ弁当があったので、それを二つとってカゴに入れた。
そして、ストロベリーショートケーキを二つカゴに入れた。
帰ってあの子と一緒に食べると思うとウキウキした。
一階の食品売り場を出た純は、二階に上がった。
そしてパジャマと歯ブラシも買った。
純はスーパーを出て、車に乗った。
自分の家で縛られて猿轡されている少女の姿を想像すると純はウキウキした。
純は少女を人間ではなく、可愛いペットのように思っていた。
長年、夢見ていた事が現実になったのである。
しかも、少女は嫌がっていない。
純はスーパーを出ると車に乗ってエンジンをかけ、家に向かって車を走らせた。

家に着いた。
六畳の部屋に入ると、家を出た時と同じように、後ろ手に縛られて柱につなぎとめられた京子が、じっと座っていた。
ガックリと項垂れている。
純がもどってきたのを知ると、少女はつぶらな瞳を純に向けた。
純は嬉しくなった。
純は少女の猿轡をはずした。
猿轡は、少女が耐えていた唾液で濡れていた。
「京子ちゃん。ごめんね」
純が笑顔で謝ると、少女は、
「いえ」
と、小さな声で慎ましく答えた。
純は浴槽に行った。
風呂は湯で一杯になっていた。
ちょうどいい湯加減である。
純は京子の所にもどった。
そして、京子の後ろ手の縛めを解いた。
これでやっと京子は自由になった。
「京子ちゃん。ご飯の前にお風呂に入らない」
純がそう勧めると、京子は、
「はい」
と素直に返事した。
「風呂場の前にパジャマを置いといたから、それに着替えなよ。制服が汚れるとよくないし」
純が言うと、京子は、
「はい」
と素直に返事した。
京子は風呂場に向かった。
一瞬、京子は風呂場の前でためらって純の方を見た。
「京子ちゃん。着替えるところを見たりしないから安心して」
そう言って純は、京子に目隠ししていたアイマスクをかけて部屋にもどった。
普通の男なら、こっそり少女の着替えを覗くだろう。
だが、純は、そんなことはしない。
これは約束を守る純の誠実な性格もあるが、純はストイックな性格なのである。
ストア派の哲学によれば禁欲的であることは、欲望を満たしてしまうより、より次元の高い快楽なのである。
しかし、少女には、そんな純の性格はわからない。
京子は、ちょっと部屋の方を見たが、純の姿が見えないので、ためらいがちに制服を脱ぎだした。
セーラー服を脱ぎ、スカートを脱いだ。
そして、ブラキャミとパンツも脱いで、風呂場に入った。
シャワーの音が聞こえてくる。
裸の京子が体を洗っている姿が、ありありと想像されて、純は興奮した。
純は、そっと風呂場の前に行った。
すりガラスから裸の京子の体の輪郭がおぼろげに見える。
「京子ちゃん。湯加減はどう」
「は、はい。いいです」
京子はあせった様子で答えた。
純は嬉しくなって、それだけ言って、部屋にもどった。
ほどなく湯がタイルを叩く音が止まった。

しばし風呂場の所でゴソゴソ音がしていたが、京子はパジャマを着て、服を持ってもどってきた。
制服姿も可愛いが、パジャマ姿も何とも可愛い。
京子は腰を降ろして座った。
発育ざかりの体は、赤ん坊のように瑞々しい。
少女の髪は、バスタオルで拭いただけでクシャクシャである。
少女も、それを気にして手で髪をとかしている。
「はい。ドライアー」
純はドライアーのプラグをコンセントにつないで少女に渡した。
「ありがとうございます」
少女は礼を言って、ドライアーを髪に噴きつけた。
濡れてクシャクシャだった髪が乾いて整った。
制服を着ていないパジャマ姿だと、まだ小学生のように見える。
純は、買ってきた二つのハンバーグ弁当をレンジで温めて、持ってきて座り、その一つを京子の前に置いた。
「さあ。食べなよ」
そう言って純は弁当を開けて食べだした。
少女もお腹が減っている様子は見てとれた。
「いただきます」
少女は小さな声で言って、弁当をとって、モシャモシャ食べだした。
純は少女の小さな口がモグモク動くのを楽しげに眺めた。
少女は、お腹が減っていたとみえて、一心に食べた。
「おいしい?」
純が聞くと、少女は、
「うん」
と、ハンバーグをほおばりながら答えた。
「本当はね。京子ちゃんの手作りの料理を食べたかったんだ。京子ちゃん。何か料理つくれる」
「はい。少しなら」
「どんなもの」
「オムライスとか、ビーフシチューとか、サンドイッチなんかです」
「じゃあ、明日、何かつくってくれる」
「はい。でも、あんまり自信ないです」
少女は弁当を全部、食べた。
デザートのストロベリーショートケーキを渡すと、少女はモシャモシャと食べた。
純は京子の口についたクリームをティッシュで拭いた。

食事が終わって、純はやっと一安心した気持ちがした。
手足が自由になっても少女に逃げようという感じは無い。
逃げようとしてみても、少女の力ではすぐに捕まえられてしまうだろう。
少女も、その事をわかっているから、逃げようとしないのだろう。
それに少女は、体も華奢で性格もおとなしい。

少女のパジャマから見える瑞々しい足を見ているうちに、純は少女の体を触りたくなってきた。
だが、あやしい事は出来ない。
あくまで日常的な行為の中で、少女に気づかれないようしなくてはならない。
純は耳かきを持ってきて、少女に渡した。
「京子ちゃん。これで僕の耳をかいて」
そう言って純は横にねて、正座している少女の膝の上に頭をのせた。
顔は外側に向けた。
少女は、おそるおそる純の耳をかきだした。
だが、深く入れて傷つける事をおそれて、耳の穴の浅い所を用心深くそっと触れるだけにとどめている。
だが、それでは気持ちが良くない。
「京子ちゃん。もっと深く入れて大丈夫だよ」
そう言って、純は少女から耳かき棒をとって、自分で安全な深さまで入れて、その位置で耳の穴の入り口の所で指先でつまんで、引き抜いた。
安全な深さは2cmくらいあった。
純は、そこの所に、ポケットからボールペンで印をつけた。
そして、それを少女に渡した。
「さあ。やって」
純は耳かき棒を少女に渡した。
今度は印がついているので安全である。
少女は印のついている所まで耳かき棒を入れて一心に耳をかいた。
奥まで耳の穴を擦られて気持ちがいい。
「ああ。京子ちゃん。気持ちがいい」
純は目をつぶって言った。
だが、それより純にとって、もっと気持ちが良かったのは、少女の膝に頭をのせて、少女に耳を触られるスキンシップだった。
少女も慣れてきたと見え、耳の中が程よい加減に擦られて気持ちがいい。
純は出来ることなら時間が止まって、ずっとこのままでいたいと思った。
京子は、かなりの時間、純の耳をかいた後、少女に身を任せている純に声をかけた。
「はい。これだけ取れました」
そう言って京子は、とれた耳垢を掌の上にのせて純の顔の前に出した。
少女は耳垢をとるのが面白くなったのか、ニッコリ笑った。
「ありがとう。じゃ、今度は反対もやって」
純はそう言って体を反転し、顔を少女の腹の方に向けた。
純の顔は少女の下腹にくっつかんばかりになった。
少女はまた純の耳垢をとりだした。
実はこの顔の向きが純の本命だったのである。
純は耳垢をとられる事に気持ちよさそうに少女に身を任せていたが、少女の体に触れることに最高のスキンシップの喜びと興奮を感じていた。
純は京子に頭を抱かれる形になっている。
ピッチリ閉じた華奢な太腿を膝枕に、目の前には少女の太腿の付け根、女の部分がある。
それは洗ったばかりの体の上に買ったばかりのパジャマを着ているため、直接には触れていなく、パジャマと下着越しである。しかし女の柔肌を求めつつも、女と付き合えない性格のため、純の想像力は異常に発達して、服を着た女を見ただけで、純は服の下の下着や、その中の柔肌の様子まで感じとってしまう超能力的想像力が身についていた。
そしてそんな想像は、もはや純の意志とは関係なく起こってしまうのだった。
純は、ありありとパジャマと下着越しに、少女の体を観念で透視していた。
ピッチリ閉じ合わさった女の秘部。
純は女を見ると、その秘部にある穴を想像して、自分が小さな細胞になって、その中に入っていき、フカフカの子宮に着床して、眠りつづけたいと思うのだった。
これは年齢に関係なく、女という女すべてに感じてしまうのである。
もちろん目の前の少女にも、それを感じている。
純は生まれてきたくなかったのである。
実際、内気で病弱な純には、この世は地獄だった。
純の安住の場所は女の子宮の中だった。
純の子宮回帰願望は病的なほどのものだった。
純にとって女はすべて母親だった。
目前の少女にも純は母親のやさしさを感じていた。

純は出来ることなら時間が止まって、ずっとこのままでいたいと思った。
京子は、かなりの時間、純の耳をかいた後、少女に身を任せている純に声をかけた。
「はい。これだけ取れました」
そう言って京子は、とれた耳垢を掌の上にのせて純の顔の前に出した。
「ありがとう。気持ちよかったよ」
そう言って純はムクッと起き上がった。
「今度は京子ちゃんの耳をかいてあげる。横になって」
そう言うと京子は躊躇うことなく、横になって純の膝に頭をのせた。
純は、さっそく少女の耳をかいた。
少女はもはや警戒心はなく、目をつぶって気持ちよさそうに純に身を任せている。
何て可愛いんだろうと、純は少女の顔をまじまじと眺めた。
発育中の瑞々しい肌。
愛らしい顔。
華奢な体。
この子は、今が人生で一番、美しい時だ、と純は思った。
この可愛らしさが成長によって無くなってしまうと思うと純は耐えられない思いになるのだった。
純は頭を固定して少女の耳をかきながら、さりげなく少女の愛らしい湯上りの黒髪をさわった。
この体勢では純は大人の男になっていて、目をつぶって身を任せている少女を抱きしめてしまいたい誘惑にかられたが、理性で我慢した。
純は医者だったので、どこかの天才医学者が成長を止める薬を研究してつくってくれないか、などと本気で思った。
片方の耳をかいた後、反対側の耳もかいた。
「はい。おしまい」
そう言って純は、耳かきを止めた。
「ありがとうございます」
京子は礼を言ってムクッと起き上がりそうになった。
それを純は止めた。
「うつ伏せになって。マッサージしてあげる」
少女は、素直にうつ伏せになって目を閉じた。
まだ大人の女の起伏に富んだ曲線美が出来ていない体。
だが、起こり始めた第二次性徴が、わずかに尻を大きくしている。
少なくとも女特有の器官はちゃんと備わっている。

それは間違いなく女の体だった。
純は足裏を親指で指圧した。
そして脹脛や背骨、腕、掌など体全体を力を入れて指圧した。
「あはっ。気持ちいい」
純が指圧する度に少女はくすぐったそうに声を出した。
少女は目を閉じて気持ちよさそうに純の指圧に身を任せている。
純は時間をかけて念入りに指圧した。
かなりの時間がたった。
「はい。交代。今度は僕をマッサージして」
そう言って純はうつ伏せに寝た。
京子はムクッと起き上がって、純がやったように足の裏を親指で圧した。
だが少女の非力さでは十分な指圧は無理だった。
「京子ちゃんの力じゃ指圧は無理だよ。背中を踏んで」
純が言うと、少女は立ち上がって、そっと足を純の背骨の上にのせた。
だが遠慮がちである。
足で体を踏む事に抵抗を持っているのだろう。
「京子ちゃん。両足を乗せて体中を踏んで」
純が言うと、少女は壁を両手で押さえて、バランスをとり、両足を純の背中に乗せた。
「大丈夫?」
京子は心配そうに聞いた。
「大丈夫。京子ちゃんの体重では、全然、物足りないよ。自由に体中を踏みまくって」
少女は、はじめ、おぼつかない足取りで両足をのせて体重をかけていたが、純が全然、反応しないので、だんだん遠慮なく踏み始めた。
またバランスをとれるようになってきて、また純が何も言わないので面白くなってきたのだろう、もう少女は遠慮なく、純の背中を踏み始めた。
「京子ちゃん。掌を踏んで」
とか、
「京子ちゃん。お尻を踏んで」
とか言うと、京子はそこに体重をのせて踏んだ。

「ああ。気持ちがいい」
純がそう言うと京子の踏む力は強くなった。
マッサージという名目で、純は少女に踏みまくられる事に被虐の快感を感じていた。
純には元々、マゾヒスティックな性格があり、女に虐められる事に快感を感じるのである。
だが純のマゾヒズムは世間の男のマゾヒズムとは、違っていた。
世間のマゾヒストは、残忍な女に虐められると喜ぶ。
それは男が精神的に一人前に独立しているからである。
精神的に独立しているから、そういう愛のないゲームも楽しめるのである。
だが純が求めている女は、そういう女ではなく完全無欠な、やさしい女だけである。
純は神のような、やさしい心を持った女に愛を持って懲罰されたいのである。
それは純の依存的な性格と女を神と見ているために出来た宗教的な心境であった。

今、まさに純を踏んでいる少女は、完全無欠な性格のやさしい、可愛い女神である。
純はモットフンデクレ、モットフンデクレと心の中で叫んだ。
純は腕を伸ばして掌を上に向けた。
「京子ちゃん」
「なあに」
「両足で掌を踏んで」
「うん」
少女は元気よく返事して、純の両方の掌を体をまたぐようにして踏んだ。
「痛くない?」
「うん」
純は少女に掌を踏まれながら、少女の足の裏の感触に神経を集中した。
純は谷崎潤一郎と同じように女の足に最も興奮するのである。
一度、少女の足を触りたいと思っていたが、いい口実が無く、望みが叶って少女の足に触れる心地良さに純は、しばし瞑目して浸っていた。
両手を踏まれる事もマゾヒスティックな快感があった。
「京子ちゃん」
「なあに」
「立っているの疲れたでしょ。そのまま背中に座って」
「うん」
少女は、もはや純の言う事には何でも聞くようになっていた。
少女は、膝を曲げて屈み、尻を落として、純の背中に馬乗りになった。
少女の尻がペタンと純の背中に触れた。
純は激しくに興奮した。
背中とはいえども触覚はある。
体重も加わって、少女の尻や女の部分の柔らかい肉の感触が背中に伝わってくる。
最高の感触に純はとろけるような極楽の気分だった。
馬乗りにされている事にも被虐の快感があった。
「京子ちゃん。首筋を揉んで」
純が頼むと京子は、馬乗りのまま、純の首筋を揉み出した。
少女は力を込めて純の首筋を揉んだ。
体が揺れ、それとともに、少女の尻や女の部分の肉が動いて、よりハッキリ体の感触が伝わってくる。
だが、少女が触れているのは、平べったい背中で、背中に感触は無く、自分が触れられているとは気づいていない。純は背中に伝わってくる少女の柔らかい尻の肉の感触と、馬乗りにされている被虐感に夢心地の気分だった。
少女は一心に純の首筋や肩を揉んだ。
しばしたった。
「京子ちゃん」
「なあに」
「疲れたでしょ。ありがとう。もういいよ」
純がそう言うと京子は、揉む手を止めた。
「京子ちゃん。そのまま乗っかってて」
そう言って純は京子が背中に乗ったまま、肘と膝を立て、四つん這いになった。
あっ、と京子は持ち上げられて声を出した。
京子は純の背中に馬乗りする形になった。
「京子ちゃん。そのまま乗ってて。マッサージしてくれたお礼に僕、お馬さんになるから」
そう言って純は、京子を背中に乗せたまま、のそのそと四つん這いで歩き出した。
「どう」
「おもしろーい」
京子はニコニコ笑って、答えた。
純は、ヒヒン、ヒヒンと馬の鳴き声を上げた。
「走れ。走れ」
そう言って京子は腰を揺すった。
純は適度な速さで部屋を一周した。

時計を見ると、もう11時を過ぎていた。
「京子ちゃん。降りて」
純が言うと京子は純の背中から降りた。
「もう遅いから今日は寝よう」
純が言うと、京子は素直に、
「はい」
と答えた。
純は京子を洗面所に連れて行き、スーパーで買った歯ブラシを京子に渡した。
「ありがとう」
少女は礼を言って、歯磨き粉をつけてシャカシャカと歯を磨いた。
そしてクチュクチュと口を漱いだ。
そんな日常的な、何でもない仕草がとても可愛らしく見えた。

純は六畳の部屋に蒲団を敷いた。
「京子ちゃん。僕がつかってる蒲団で悪いけど、これに寝てくれない」
「はい」
純は一瞬、まよって京子の顔を覗き込んだ。
京子に逃げられないよう、縛っておこうかと思った。
「おにいさん。私を縛ってもいいよ」
少女は、純の気持ちを察したように、両腕を背中に廻して手首を重ね合わせた。
純は思った。
『縛られては寝づらいだろう。今晩は起きていよう。そして、明日の朝、少女が起きたら、縛って柱につなぎとめ、少女と交代するように少し寝よう』
純はポンと京子の肩をたたいた。
「京子ちゃん。縛らないから、おやすみ。その代わり、明日の朝、京子ちゃんが起きたら、京子ちゃんを縛って、少し寝させてもらうよ」
「おにいさんは寝ないの」
「僕は、ちょっとやることがあるから」
そう言って純は少女の肩を押して促した。
少女は横になって、
「おやすみなさい」
と言って蒲団をかぶって目を閉じた。
やることがある、と言ったが、実際、純はやることがあった。
それは、小説を書くことだった。
純は医者だが、医者の仕事が嫌いで、小説家になることを目指していた。
単に医者の仕事が嫌だから、という理由ではなく、純は小説を書く事が好きだった。
大学時代から文芸部に入っていて、かなりの小説を書いていた。
書いた小説を文学賞に投稿したり、小説を一冊、自費出版までしていた。
だが、なかなか認められない。
プロになるのはきびしい。
だからといって、純は書くのをやめたりはしない。
別にプロでなくてもいいのである。
純は小説を書く事が好きで、それが唯一の趣味だったのである。
純は座卓について、原稿用紙を置いた。
さて、何を書こうかと思ったが、目前の少女の寝姿を見ているうちに、すぐにアイデアが見つかった。
『そうだ。今日の出来事は小説になる。記憶が新しいうちに現実に忠実に小説にしてしまおう』
そう思って純は書き出した。
タイトルは、「ロリータ」とした。
純は記憶をさかのぼって、少女を車でさらった所から書き出した。
書いているうちに、だんだん興がのってきた。
しばらくすると蒲団の方からクークー寝息が聞こえてきた。
寝たな、と思って純はそっと蒲団の所に行った。
少女の寝顔は可愛らしかった。
寝顔は全くの無防備である。
体を動かして少女も疲れたのだろう。
純は嬉しくなって、再び座卓にもどって、小説を書き出した。
2時を過ぎ、3時を過ぎた。
少し睡魔が襲ってきた。
純は前日、当直で病院に泊まった。
何もなかったから、眠れたが、当直は寝るだけでも疲れるのである。
これではいけないと、純はコーヒーを入れて飲んだ。
そして、また小説のつづきを書きはじめた。
だがまた眠気が襲ってきた。
これではいけないと、純は腕立て伏せを20回した。
少女の様子から、まず少女は逃げないだろう。
だが、その保障はない。
もし逃げられたら大変な事になる。
身の破滅である。
純はコーヒーを飲みながら小説を書き、時々、腕立て伏せをして睡魔と戦った。
だが、だんだんコックリ、コックリとやりだした。
ついに純は睡魔に負けてしまった。

  ☆  ☆  ☆

翌日、昼近く、純は目を覚ました。
蒲団を見ると京子がいない。家中、探したがどこにもいない。
蛻の殻である。
蒲団の傍らにパジャマがあり、制服とカバンが無い。
純は真っ青になった。
逃げられてしまったのだ。
やはり、寝る時、しっかりと縛っておけばよかったとつくづく後悔した。
だが、もう遅い。
純はパニック状態になったが、コーヒーを飲んで、これからどうなるか、冷静に考えてみた。
『京子は、警察に行っただろうか、それとも家に帰っただろうか。やはり家に帰っただろう。昨日、京子は、メル友の病気の友達の家に行くと連絡した。だが親は当然、どこに行って、誰に合ってきたか、根掘り葉掘り聞くだろう。京子が親を納得させるほど辻褄の合う作り話が出来るとは思えない。何かで、ばれて、親に詰問されて、洗いざらい正直に喋ってしまうだろう。京子は電車で帰ったか、タクシーで帰ったか、わからないが、ここの場所はわかってしまうだろう。そうすると自分もわかってしまう。拉致監禁罪である。拉致監禁罪は親告罪ではない。刑事犯罪である。となると自分は刑事事件の犯罪者となる。少女が何と言うかわからないが、世間では当然、いたずらした、と見るだろう。少女を誘拐して性的な悪戯を何もしなかった、などという方がよっぽど不自然である。目撃者がいない以上、一生、疑惑がついてまわる。新聞の三面記事や週刊誌にのる。「ロリコン医者、中一少女を拉致監禁、猥褻行為」病院を解雇される。もはや採用する病院も無い。そもそも医道審議会にかけられて、医師免許を剥奪される。医療ミスや自動車事故で人を死なせても、それらは、過失であって医師免許が剥奪されることはまず無い。しかし、悪質な故意の犯罪では医道審議会の判断で医師免許は剥奪されうるのである』

そう考えてるうちに純は、自分の人生はもう、おしまい、だと絶望した。
その時。
玄関でガチャリと音がした。
さっさく警察か、と純はブルブル震えながら玄関に向かった。
もう純はすべてを覚悟していた。
純は、そっと玄関を見た。
見て純は我が目を疑った。
少女がニコニコ笑って立っているのである。
小脇にスポーツバッグを抱えている。
いったい、どういう事なのか。
「おはよう。おにいさん」
そう言って少女は運動靴を脱いで、家に上がった。
少女は、つかつかと歩いて六畳の部屋に入ってチョコンと座った。
純も座って、少女の顔をまじまじと見た。
少女は何もなかったかのように、落ち着いている。
純は何から聞いていいか、わからなかったが、とりあえず一番、心配している事を聞いた。
「家に帰ったの」
「ううん」
少女は首を振った。
「じゃ、どこに行ったの」
「スーパー」
「他には」
「どこにもいってません」
「警察には」
「行ってません」
「よかったー」
純は、ほっと胸を撫で下ろした。
ともかく、今のところ一応、身の安全が保障されたのである。
「スーパーに何しに行ったの」
「お昼の材料、買ってきたの」
そう言って、少女は、スポーツバッグを開けた。
中には、食パンと卵とトマトとツナの缶詰とレタスが入っていた。
「何で、そんなの買ってきたの」
「おにいさん。私の手作りの料理が食べたいって、昨日、言ったでしょ。だからサンドイッチをつくろうと思って」
純はわけもわからないまま、ともかく少女が無上にやさしい子なのだと感動した。
「おにいさん。お医者さんなんですね」
「うん。どうしてわかったの」
「今朝、起きたら、おにいさんが寝てたから、となりの部屋を見たの。そしたら医学の本が、いっぱいあったから」
「どうして黙ってスーパーに行ったの」
「おにいさん。小説も書くんでしょ」
「うん」
それは理由を聞く必要もなかった。
座卓の上の書きかけの小説を見たのだろう。
「机の上の小説、読んでしまいました」
と言って少女は舌を出した。
「どうだった」
「面白いです。でも私の事、書かれちゃって恥ずかしいです」
と言って少女は頬を赤くした。
純は少女が寝るところまでを一気に書いていた。
「それでね。これから、この小説がどうなるかは、私が、その後どう行動するかにかかっているでしょ」
「うん」
「だから、ちょっと緊張して、おにいさんが困る場面もあった方がいいと思ったの。それで、おにいさんに黙って出かけたの。そしたら、近くにスーパーがあったから、私の手作りの料理を食べたいって言ったのを思い出して、サンドイッチの材料を買ってきたの」
純はすべてがわかって感動して涙が出てきた。
純は少女に抱きついた。
「ああ。京子ちゃん。ありがとう」
純は少女を抱きしめた。
「京子ちゃん。京子ちゃんは僕の女神様です」
「そんなんじゃないです。そんな風に書かれると、ちょっと恥ずかしいです」
少女は照れくさそうに言った。

「おにいさんのことは親にも警察にも言いませんから安心して下さい」
「ありがとう。京子ちゃん」
京子は自分を抱きしめている純の頭をやさしく撫でた。
それは傷つき疲れはてたキリストを抱きしめるピエタの像の姿に似ていた。
「おにいさん。お昼をつくります」
京子がそう言ったので純は京子を放した。

京子は台所に行くと、まな板に、買ってきたパンなどをのせ、サクサクと切り出した。
そして、湯を沸かし、卵を入れた。
京子が調理している姿は、とても可愛らしかった。
すぐに出来て、京子は出来たサンドイッチを冷蔵庫のオレンジジュースなどと一緒に持ってきた。
ツナサンドと卵サンドとトマトサンドが皿にのっている。
「はい。私の手作りのサンドイッチです。でも、サンドイッチなんて手作り料理なんて言えませんね」
京子は、笑いながらオレンジジュースをコップに注いだ。
「ありがとう。十分、京子ちゃんの手作り料理だよ」
いただきます、と言って、純は食べだした。
「おいしい。世界一おいしい」
純はいかにもおいしそうな顔をした。
京子はニコッと笑った。
「京子ちゃんは食べないの」
「私は、お腹が減っちゃったもんでスーパーで炒飯を食べてきました」
純は京子のつくったサンドイッチは全部、食べたかった。
それで、かまわず一人で食べた。
「おにいさんは食事はつくるんですか」
「つくれない」
「じゃあ、食事はどうしてるんですか」
「外食かコンビニ弁当」
「でも、それじゃあ、厭きちゃうんじゃないんですか」
「うん」
「彼女はいるんですか」
「いなかったけど、最近、出来た」
「誰ですか」
「京子ちゃん」
少女はクスッと笑った。
「無理ですよ。歳が離れすぎていますから」
「恋愛に年齢は関係ないよ」
「将来、結婚はするんですか」
「しない」
「どうしてですか」
「僕は病気があって、僕の遺伝子には病気の遺伝子が組み込まれているんだ。だから、子供を生んだら、その子はつらい人生を送る事になる。僕は、そんなかわいそうな事したくないんだ。それに結婚とは女の人を幸せにすることだと僕は思ってる。僕は女の人を幸せにする自信がない。だから結婚しないんだ。それに本当に純粋な人間なんて今まで一度も会った事がない。人間なんて、みんなスレッカラシばかりだ」
「おにいさんは、やさしいんですね。でも、一人だと老後がさびしくなるんじゃないんですか」
「僕は歳をとらない」
「そんなの無理ですよ」
だが確かに、それは事実だった。
純は病弱で体力も無いが、スポーツは出来て、体を鍛えていた。
純は18才の青年以上の引き締まった肉体と柔軟性を持っていた。
「おにいさんが小説を書く理由が何となくわかります。さびしいから小説を書くんですね」
「うん。そう」
「将来、作家になるんですか」
「わからない。なりたいと思っても認められなくては作家になれないからね」
「なれるといいですね」
そう言って少女は微笑した。
「でも、別にプロ作家になれなくてもいいんだ。後世に作品が残らなくてもいいんだ。小説で、僕の子供をつくれれば、それで十分、満足なんだ」
そう言って純は乾いた口を濡らすためオレンジジュースを飲んだ。
「でも京子ちゃんのような、やさしい純粋な子を見ると、創作より現実の生の方に魅力が傾くね。僕の創作の動機は、現実にはいない純粋な人間を描きたい事だから、現実に京子ちゃんのような純粋な子がいると僕は創作する情熱がなくなってしまう。でも、京子ちゃんのような子は世界に一人しかいないだろうし、京子ちゃんとの付き合いも今日限りで、明日から、また孤独になるから、やはり創作しつづけることになるね。ともかくこの小説はいいものになりそうだから、しっかり書いて投稿しようと思う」
「当選するといいですね」
純のくたくだした発言を黙って聞いていた少女は微笑して言った。
京子の腹がグーと鳴った。
純はとっさに気づいた。
お金もそんなに持ってないはずである。
「京子ちゃん。本当はお昼、食べてないんでしょう」
「い、いえ。ちゃんと食べました」
否定する少女の顔は苦しげだった。
純は聴診器を持ってきて京子の腹に当てた。
そして、しばらく、それらしく調べる振りをした。
「京子ちゃん。お腹がキューキュー鳴ってるよ。食事をした後はこういう音は出ないんだよ」
純は医者らしく、もっともらしく言った。
「本当は食べてないんだね」
純が問い詰めると少女はコクリと肯いた。
「じゃあ、昼御飯、食べに行こう」

そう言って純は京子の手を連れて家を出た。
純は車のドアを開けた。
「さあ。京子ちゃん。乗って」
純に言われて京子は助手席にチョコンと座った。
純はドアを閉めると、回って、右のドアを開け、運転席に座って、ドアを閉めた。

純はエンジンをかけた。
京子とこうして車に乗るのは、昨日、京子を無理矢理、車にのせた時、以来である。
あの時は、人に見つからないよう、また少女に逃げられないようフルスピードで飛ばした。
それが、今度は、完全な安心感で、憧れの女性とのドライブ感覚である。
さらった時も今も、少女は大人しくしているという点は同じである。
そう思うと純は愉快な気持ちになった。

「京子ちゃん。これかけて」
と言って、純は少女にマスクを渡した。
マスクをしていれば、人に見つかっても大丈夫である。
京子は、
「はい」
と言って口にマスクをした。
純は、これで安心、と思ってアクセルペダルを踏んだ。
純は、いつも行く近くのスーパーではなく、少し離れたショッピングセンターに行こうと思った。
いつものスーパーでは、顔見知りの店員に見られてしまう。
車は市街地を出て郊外へ出た。
「京子ちゃん。マスクとっていいよ」
「はい」
純が言うと京子はマスクをとった。
純は京子とドライブしているのを楽しみたかったのである。
純は気持ちよく運転した。
純が車に女性を乗せて運転したのは、これがはじめてだった。
「おにいさん。車のキーについているキーホルダーの絵はなあに」
京子が興味深そうな目で見た。
「これ。ああ。これは、ヒピコといって、手塚治虫の『海のトリトン』という漫画に出てくる幼い人魚の絵さ」
純は、海のトリトン、のピピコが好きで、以前、ファンシーショップでたまたま見つけて買ったのである。
純は気持ちいい気分で運転した。
しばしして京子が言った。
「おにいさん。車を止めてくれませんか」
「うん。いいよ。どうしたの」
「あそこにコンビニがあるでしょ。トイレに行きたいの」
確かに、走行車線側の先にコンビニがある。
「うん。いいよ」
純はコンビニの前で車を止めた。
「おにいさん。ちょっとキーホルダーの絵を見せてくれない」
「うん。いいよ」
純はキーを抜いて、京子に渡した。
京子はピピコの絵を興味深そうに見ていた。
「かわいいですね」
京子は純を見てニコッと笑った。
純も微笑した。
「気に入った?」
「うん」
「じゃあ、京子ちゃんにあげるよ」
「本当。じゃあ、もらいます。でも、おにいさんにとって、大切なものじゃないですか」
「いやあ。そんなに大切じゃないよ。京子ちゃんが気に入ってくれた物をプレゼントできる方がずっと嬉しいよ」
「ありがとう。じゃあ、もらいます」
「京子ちゃん。早くトイレに行ってきなよ」
そう言って純は助手席のドアを開けた。
京子はキーを持ったまま車から出た。
「あっ。京子ちゃん。キーは返して」
「だーめ。私がトイレに入っている間におにいさんが、いなくなっちゃうかもしれませんから」
「ははは。そんな事するわけ、ないじゃない」
「それは、わかりません」
そう言って京子はキーを持ったまま、小走りにコンビニに入っていった。
純はドアを閉めた。
片側二車線の道なので、一時停止しても、そう気にする必要もない。
純はリクライニングシートを傾けた。
純は最高の幸福感に浸っていた。
少し前には横断歩道がある。
純がふと反対車線を見ると小さな交番があった。
警察官が机に座っているのが見える。
純は何となく愉快な気分になった。
『ふふふ。今、俺は少女を誘拐している立場にある。なのに、その少女は、こうやって自由に行動している。世の中には、こんな変わった事もあるもんなのだな』
やっと京子が出てきた。
純は笑顔で手を振った。
しかし、京子は無視して少し先の横断歩道に小走りに行った。
純は、どうしたんだろう、と首をかしげた。
歩行者側が青信号だったので、京子は急いで横断歩道を渡って反対車線に渡った。
そして交番に入った。
純はびっくりした。
一体、何のために交番に入ったのだろう。
車の中から交番の中が見える。
京子は警察官に話しかけた。
京子は座って、警察官と話しはじめた。
「ま、まさか・・・」
純は真っ青になった。
交番に入る理由など思いつかない。
だが、京子はさかんに警察官と話している。
純のおそろしい不安はどんどんつのっていった。
京子は純の車を指差した。
警察官は純と純の車に視線を向けた。
もう純のおそろしい不安は確信になった。
純は思った。
『そうか。今朝、外出した時には交番が見つからなかったのだ。いや、もしかすると交番は見つけたのかもしれない。しかし警官に話しても決定的な証拠はない。私が寝てる間に警官を連れてきても、その間に私が起きて、逃げてしまうか、証拠は全て消してしまうと考えたのだ。彼女は頭のいい子だ。だから、こうやって確実な現場を警官に見せて現行犯逮捕させようと考えたのだ。彼女は頭がいい。車のキーをとって、私が逃げられないようにし、彼女が車のキーを持っている事から、彼女が私の車に乗っていたという確実な証拠をおさえてしまったのだ。家に行けば京子のスポーツバッグもある』
考えてみれば、さっきの京子のキーホルダーに関する発言も暗示的なものがあった。
しばし京子は警察官と話した後、警察官と京子は交番を出て、交差点を渡り出した。
「ああ。これでもう俺の人生はおわりだ」
純は覚悟した。
「ロリコン医者少女を拉致監禁。新聞の三面記事。テレビのニュース。週刊誌。ブログでの総攻撃。病院解雇。医師免許剥奪」
そんなものが一斉に頭をよぎった。
交差点を渡ると警察官は純の車の横に立って中の純を覗き込み、窓をトントンとノックした。
純は窓を開けた。
開口一番、
「もうしわけありませんでした」
純は深々と頭を下げた。
「どうしたんですか?」
警察官が淡白な口調で言った。
「はあ?」
純はわけがわからず、顔を上げた。
「いやあ、どうもありがとうございました。よろしくお願いいたします」
警察官はそう言って交番に向かって戻って行った。
京子は車の左側に回って、ドアを開け、助手席にチョコンと座ってドアを閉めた。
「京子ちゃん。一体、どういうことなの」
純は首をかしげて聞いた。
「あのね。用があって電車でこっちの方に来たけど、お財布を落としちゃったと言ったの。それで、家に帰れず困って座っていたら、あのおにいさんが、どうしたの、と声をかけてくれて、事情を言ったら、送ってくれると言ったの」
「何でそんな事したの」
「私がお巡りさんと話しても、おにいさんの事は言わないという所を見せたかったの。これで安心できるでしょ」
純はほっと胸を撫で下ろした。
「京子ちゃん。僕、寿命が一年、縮んだよ」
「でも、これで安心できるでしょ」
「う、うん。確かに、おかげて安心できるよ」
はい、と言って京子は純にキーを返した。
キーには、ピピコの絵のキーホルダーはついていなかった。
「キーホルダーは、さっき、くれると言いましたからもらいます。おにいさんの形見としてとっておきます」
そう言って京子はキーホルダーをポケットに入れた。
純はとっさに笑った。
「ははは。京子ちゃん。形見っていうのはね・・・」
と言った時点で純は言葉の説明をやめた。
「ありがとう」
それだけ言って純はキーホルダーのなくなったキーを差し込んでエンジンをかけ、車を出した。
ほどなくショッピングセンターについた。

車を立体駐車場に止めて、ショッピングセンターに入った。
純は京子と手をつないで洋服売り場に行った。
「京子ちゃん。ここで着替えてほしいから、洋服買って。京子ちゃんの好きなの選んで」
「はい」
純が言うと京子は、さっそく服を探し出した。
どれにしようか、迷っている姿がかわいい。
ようやく決まったらしく、京子は服を持ってきた。
それはジーンズのオーバーオールと灰色のトレーナーだった。
純はあせった。
「おにいさん。これでいい」
京子は笑顔で聞いた。
「う、うん。確かにそれもいいかもしれないね。でも、もっと京子ちゃんに似合うものもあると思うよ」
純はサッと京子からオーバーオールとトレーナーをとりあげると、それを元の場所にもどした。
純は、急いで服を探してもどってきた。
「京子ちゃん。僕はこれが京子ちゃんに似合うと思うんだけと、これじゃだめ」
そう言って純は京子に選んだ服を差し出した。
それは短めのスカートとブラウスだった。
「はい。それにします」
京子は微笑して言った。
「大きさが合うかどうか試着してみて」
「はい」
京子は服を持って、試着室に入った。
ゴソゴソ着替えの音がする。
京子のセーラー服がパサリと床に落ちたのが、カーテンの下の隙間から見えた。
カーテンが開いた。
純が選んだブラウスにスカートを着た京子が立っている。
「どう」
そう言って京子はクルリと一回りした。
「うん。よく似合うよ。サイズは合う?」
「はい」
「じゃあ、それにしよう」
「はい」
京子は再び、カーテンを閉めて着替え、セーラー服を着てカーテンを開けた。
純はスカートとブラウスを持って、京子とレジに行って買った。
「おにいさん。ありがとう」
「いやあ。別に」
京子は例を一言、いっただけで、さほど嬉しそうではなかった。
それは当然と言えば当然である。
服は京子の好みではなく、純の好みで選んだものだったからだ。
京子が選んだのはオーバーオールとトレーナーで、京子はそれが欲しかったのだろう。
しかし、純はそれは、ダサいと思ったのである。
純は女はスカートでなければ満足できないのである。
買った服を京子が、どれほど気に入っているのか、あるいは気に入っていないのか、それはわからない。
純がスカートが好きな理由は、スカートは屈んだり、腰を曲げたり、風か吹いたりするとパンツが見える時があるからである。
「あ。そうだ。京子ちゃん。昨日から下着、替えてないよね」
そう言って純はパンツと靴下を急いで、とって持ってきてレジに出して買った。

純はショッピングセンターの中のトイレに京子を連れて行った。
「京子ちゃん。トイレの中で着替えて。下着も」
そう言って純は、今、買った服と下着を京子に渡した。
「はい」
と言って京子は、服の入った袋を持ってトイレに入った。
しばしして、京子は着替えて出てきた。
ブラウスと膝より少し上までのスカートがかわいらしい。
「これは僕が持つよ」
そう言って純は制服と下着の入った袋を持った。
純は京子とジュエリーショップに行った。
「京子ちゃん。ここで待ってて」
そう言って純は店に入った。
そして10万円の婚約指輪を買った。
「さあ。京子ちゃん。御飯を食べよう」
純はエスカレーターで飲食店のフロアーへ上がった。
そして本格的な高級レストランに入った。
ここからは外の景色が見える。
純と京子は窓際の席に向かい合わせに座った。
ウェイターが注文を聞きにきて、メニューを渡した。
京子はメニューを開いた。
京子は興味深そうにメニューを見た。
純はボーイを呼び、京子の意向を聞かずフルコースを注文した。
メニューは以下の通りである。

アミューズ 
ホワイトアスパラのフリット 
オードブル
フォアグラのポアレ赤ワインソース
スープ
コーンポタージュポタージュ
魚料理
鮭の白ワイン蒸し ハーブ風味
肉料理
糸島豚の岩塩包み焼き 紅茶風味
デザート 
チーズケーキ
紅茶

はじめに出されたオレンジジュースを京子が飲もうとしたので純は制止した。
「まって。京子ちゃん」
京子は言われて手を止めた。
「京子ちゃん。乾杯しよう」
「うん」
京子は笑顔でグラスをさしだした。
カチンとガラスの触れ合う音がした。
「かんぱーい」
京子はコクコクと飲みだした。
お腹が減っていたのだろう。
京子は、入れ替わり出される料理をパクパクおいしそうに食べた。
「おいしい」
「うん」
純が聞くと京子は笑顔で答えた。
「おにいさんは」
「それほどじゃない」
「どうして」
「僕には、京子ちゃんのつくったサンドイッチの方がおいしい」
言われて京子はニコッと笑った。
食事を全部食べ、デザートのチーズケーキも食べた。
「京子さん」
純はあらたまった口調で言った。
「なんですか。おにいさん」
純は照れくさそうな笑顔で京子の顔を見た。
「京子さん。僕と結婚して下さい」
純が言うと京子も微笑した。
「はい。結婚します」
京子は微笑んで言った。
「ありがとう。今日は僕にとって最高に幸せ日です」
「私にとっても最高に幸せな日です」
京子は微笑んで言った。
純は目頭が熱くなった。
とっさに純はうつむいた。
ポタリ。
純の目から涙が落ちた。
純が人間の愛に涙を流したのは今日が初めてだった。
「どうしたの。おにいさん」
「い、いや。なんでもない」
純はすぐにハンカチで目を拭いて顔を上げた。
「はい。京子さん」
純はまた改まった口調で言って、さっきジュエリーショップで買った小さな箱を渡した。
「なあに。これ」
「え、エンゲージリングです」
京子は箱を開けた。
「あっ。かわいい指輪。ありがとう」
そう言って京子は指輪を小指に刺した。
そして指輪のはまった手を嬉しそうに宙にかざした。
「京子ちゃん。それ、玩具じゃないから捨てないでね」
「うん。おにいさんの形見として、大切にとっておます」
「形見・・・か。確かにそうだね。そういう形で僕は京子ちゃんと結婚できるね」
純は独り言のように言った。
「でも京子ちゃんが大きくなって、本当に好きな人が出来て結婚する時になったら、捨ててもいいよ。エンゲージリングを二つ持っていたら、おかしいもんね」
純は愛とは求めるものではなく、与えるものだと思っていた。
純は京子とレストランを出た。

純は京子とショッピングセンター内のゲームコーナーに行って、もぐら叩きなどをして遊んだ。
京子はキャッ、キャッと笑いながら、もぐらを叩いた。
純は京子の本来の姿を見たような気がした。
純は時のたつのも忘れて、京子と色々なゲームで遊んだ。
時計を見ると5時近くになっていた。
「京子ちゃん。もう帰ろう」
「うん」
二人は駐車場にもどった。
純は京子の制服と下着の入った買い物袋を後部座席に置いた。
そして京子を乗せた。
純はカーナビに「シェルブールの雨傘」のDVDをかけた。
そして車をだした。
純は少し急いで家に向かった。
家には京子のスポーツバッグがあるからだ。
渋滞はなく、すぐに家に着いた。
「さあ。京子ちゃん。制服に着替えて」
そう言って純は買い物袋から制服を出して京子に渡した。
京子は浴室の方に行き、着替えて、制服を着てもどってきた。
純が買ったブラウスとスカートを持って。
純はそれを京子からとった。
「これは僕に頂戴。京子ちゃんの記念にしたいから」
「うん。いいよ」
純はそれを買い物袋に入れた。
京子はスポーツバッグを持った。
「じゃあ、帰ろう」
「うん」
「今日はありがとう。最高に幸せな一日だったよ」
「私も楽しかったです」
そう言って京子はニコッと笑った。
純と京子は車に乗った。
「京子ちゃん。ここの最寄駅は××だけど知ってる」
「はい。知ってます」
「京子ちゃんの家まで乗り換えある」
「一回、乗り換えがあります」
「じゃあ、最寄駅まで送るよ」
そう言って純は車を出した。
最寄駅には五分で着いた。
なぜ純が車で京子の家まで送らないかというと、京子は家に連絡をとったものの、もしかすると、京子の親が不審に思って警察に連絡し、非常線が張られているかもしれない、と用心深い純は思ったからである。
純は映画の「レオン」より用心深い性格だった。
京子は切符を買った。
そして改札を通った。
「おにいさん。また来てもいい」
大歓迎だよ」
夕闇の中で電車がきた。
京子は電車に乗った。
発車の合図が鳴り、電車が動き出した。
京子は窓から笑顔で手を振った。
純も笑顔で手を振った。
純は電車が見えなくった後も少しの間、感動の余韻に浸っていた。

余韻が去って、純は車に戻った。
純は頭が空白になったような気がした。
家にもどった純は、机に向かってさっそく小説の続きを書き出した。
筆か乗ってすいすい書けた。
何か、小説を面白くするためにフィクションの挿話を入れようか、とも思ったが、これは京子との記念の小説なのでフィクションは一切、入れないことにした。
ふと、一休みした時、純の目に買い物袋が目についた。
純の心臓がドキドキしだした。
その中には、今日買った服と、京子が履いていたパンツと靴下がある。
純は買い物袋を持ってきて、そっと京子のパンツを取り出した。
二日はいたパンツなので、少し汚れてシミが出来ていた。
純はパンツを裏返して、シミの所に鼻を当てた。
「ああ。京子ちゃん」
純はパンツの匂いを貪り嗅いだ。
靴下も取り出して匂いを嗅いだ。
靴下の方がはっきりと強い体臭がした。
純は、しばし、京子の下着の匂いを嗅いだ後、買い物袋にもどした。
京子は今、どうしているだろう。
もう家についているだろう。
親に叱られたり、詰問されたりされていないたろうか、と色々と不安がよぎった。
しかし仮にばれてしまったとしても、悪戯もしないで、ちゃんと家に返し、京子も合意してくれたのだから、まずそんなに問題ないだろうと思った。
そう思って純は、再び小説の続きを書き始めた。
時間の経つのも忘れて。
とうとう純は、京子を帰して夜遅くまで小説を書いた今の所まで書いた。
もうその続きは書けない。
時計を見ると2時を過ぎていた。
純は歯をみがいて、パジャマに着替え、ふとんに入った。
傍に、昨日、京子に買ったパジャマがある。
純はパジャマにも鼻を当てて、匂いをかいだ。
そして、パジャマも買い物袋に入れた。
そして床についた。

その時、メールの着信音が鳴った。
開いてみると京子からのメールだった。
「おにいちゃん。おにいちゃんが寝てる間に携帯のメールアドレスをメモしてしまいました。うまく説明して親も疑ってないよ。私、メル友が死んだと涙まで流してお芝居したよ。親は警察に連絡してなかったよ。今度の土曜、また行くね。 京子」

純は飛び上がらんばかりに嬉しくなった。
「ありがとう。京子ちゃん。楽しみに待ってます。でも何か、やりたい事ができたら無理しないでね」
純はそう書いて返信のメールをすぐに送った。
すぐに京子から返信のメールが来た。
「土曜は用はありません。ので電車で行きます。10時頃、駅に着くよう行きます」

  ☆   ☆   ☆

次の土曜になった。
純は車で駅に行った。
メールのやりとりは、あまりしなかった。
京子がメールにはまって、勉強がおろそかにならないよう配慮したのである。
メールは一日、一回にしようと純はメールに書いて送った。
10時近くになった。
電車が来た。
ドアが開くと京子が飛び出して笑顔で走ってきた。
純も手を振った。
「おにいさん。ずっと会いたかった」
京子は改札を出ると大声で言って純のふところに飛び込んだ。
「僕もずっと会いたかったよ」
そう言って純も京子を力一杯、抱きしめた。


平成20年11月26日(水)擱筆

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少林拳 (小説)

2020-08-03 03:22:27 | 小説
「少林拳」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換算26枚)


少林拳

2019年5月3日のことである。
私は、ザ横浜パレード、を、見に行った。
中国拳法を習っている、友達、松田君と。
ザ横浜パレード、とは、昭和27年から、開催されるようになった、大規模な国際仮装行列、である。
別名を、横浜開港記念みなと祭 国際仮装行列、という。
毎年5月3日の憲法記念日に、開催される
・・・・・・
10時45分から、山下公園前を出発し、シルクセンター前、横浜税関前、横浜赤レンガ倉庫前、新港埠頭万国橋交差点、馬車道商店街、吉田橋、イセザキモールを通り伊勢佐木町6丁目に至る3.4kmのコースである。
・・・・・・
その日は、パレードと、同時に、横浜赤レンガ倉庫前、で、イベント、も、開催される。
ザ横浜パレード、の、午前の部、と、午後の部の、間の、12時から1時の間に。
なので、私と、松田君、と、イベント、を、見にいった。
今回の、イベントは、少林拳の演武大会だった。
「おい。山野。これから、横浜赤レンガ倉庫前、で、中国拳法演武大会、が、行われるぞ。見に行こうぜ」
と、松田君が言った。
「うん。行こう」
私たちは、中国拳法演武大会、が、行われる、横浜赤レンガ倉庫前、に行った。
ステージがあって、ステージの前に、椅子がたくさん、並べられていて、多くの、人が、集まっていた。
ステージは、幕で、覆われていた。
私たちは、一番前の、椅子に、並んで座った。
開始時刻の、12時になると、幕が、サー、と開かれた。
司会者が出てきた。
「それでは、皆さま。これから、中国武術、少林拳、の模範演武、を、行います。どうぞ、少林拳の演武、を、とくと、ご覧ください」
そう言って、司会者が、引っ込むと、少林拳の演武、が、行われ出した。
・・・・・・・
少林拳の達人の、修行、そして、それによって、鍛え上げられた、身体能力、のすごさ、は、多くの人が、知っていると思う。
拳法の技も、凄いが、肉体の鍛錬の激しさ、も、すごい。
坊主刈りで、僧の衣装を着た、少林拳の達人たちが、10人ほど、そろって、「はっ。はっ」、と、息を吐きながら、ダイナミックや、突きや、蹴り、の、少林拳の型を、全員、そろって、演武してた。
地面を這う拳法である、地躺拳では、手を使わない、連続ヘッドスプリング、をしている。
あれは、首の筋肉を鍛えている上に、タイミングを、ちょっとでも、間違えると、首の骨を折ってしまう。
さらに、彼らは、連続バク転、バク宙、前方宙返り、なども、出来て、その上手さは、オリンピックの、体操選手にも、引けをとらないほどだった。
「あいつら、体操に専念したら、オリンピックの床で、金メダル、とれるだろうな」
と、松田君が言った。
「そうだな」
と、私、も、相槌を打った。
「でも、何で、バク転、バク宙、前方宙返り、などを、するんだろう?あれは、武術とは、関係ないだろう?」
と、私が、聞いた。
「そりゃー、確かに、バク転、バク宙、前方宙返り、などは、武術とは、関係ないよ。しかし、彼らは、肉体の鍛錬のために、身体能力を、極限まで、鍛えるために、やっているんだ。体力を鍛え、体を外面から強くして剛力を用いる武術を外家拳と呼び、太極拳のように呼吸や内面を鍛えて柔軟な力を用いる武術を内家拳と呼ぶんだ」
と、松田君が言った。
「なるほどな」
私は、納得した。
「中国拳法は、その源流の最初は、武術だったんだ。その頃は、武器も無ければ、法律も無かった。自分の身は自分で守るしかなかった。しかし、時代が進んで、科学が発達して、銃、が出来ただろう。そして、人間は法律というものを、作って、世界の、ほとんどの国は、法治国家となって、人間が、素手で、戦う必要がなくなったんだ」
と、松田君は、言った。
「うん。そうだな」
と私はうなずいた。
「そこで、武術には、単に、戦うためだけではなく、呼吸法、や、技の修行が、肉体の鍛錬、にも、すごく役立つことに、気づいたんだ。太極拳の、ゆっくりした、動作などは、あれは、どう見たって、武術には、見えないだろう。突き、の動作も無ければ、蹴りの動作も無い。あれは、知らない人が、見たら、健康体操にしか見えないだろう。しかし、太極拳の達人にとってみれば、太極拳とは、呼吸、と、気、が、一体となった、発勁、という方法によって、爆発的な、非常に、強い力を出せる、武術の面もあるんだ。だから、太極拳の達人は、太極拳は、単なる健康体操とは思っていないんだ」
と、松田君が言った。
「その、発勁、というは、何なの?」
と、私は聞いた。
「その原理は、オレもわからない。ただ、中国拳法の達人は、日本の空手の威力を、中国拳法の威力より、低い、と、思っているよ。ブルース・リーだって、空手のパンチと、中国拳法のパンチの違いを、聞かれて、(空手のパンチは、鉄の棒のようなもので、敵の体の外部にダメージを与えるけれど、中国拳法のパンチは、鎖のついた鉄の球を、ブンブン、振り回して、敵に当てるようなものだから、敵の内臓を破壊する)、と、言っているよ」
と、松田君は言った。
「ふーん。なるほどな」
と、私は言った。
その時、司会者が、出てきた。そして、
「では、これから、肉体を極限まで鍛えた、外家拳の達人たちの、演武を行います」
と言った。
何人もの、中国拳法の達人たちが、出て来て、演武をしだした。
それは、もの凄いものだった。
空手の試割り、とは、比べものにならないほどだった。
レンガを頭で割ったり、指一本で、倒立したり、槍を自分の咽喉に当てて、グイグイ突いて、その槍を折ってしまったり、した。
「すごいな。槍を、咽喉に当てて、突いたりしたら、普通の人間だったら、槍が、咽喉に突き刺さって、死んでしまうだろうに」
「そうだな。肉体を極限まで、鍛えると、あんなことまで、出来るようになるんだな」
と、私たち、二人は、感心した。
一人の、少林拳の達人が、ステージの前に立った。
彼は、上着を脱いだ。
ボディービルダーほどの、ムキムキの筋肉ではなかったが、鍛え抜かれていることは、太い、腕や、肩、や、引き締まった背中の筋肉、脂肪が全くついていない、割れた腹筋などから、明らかだった。
・・・・・・・・
司会者が出て来た。
「それでは、最後に、外家拳である、羅漢拳の達人の、楊斯さん、の、不死身さを、演武してもらいます」
と、司会者は、言った。
楊斯、は、四股立ちして、拳を握りしめ、腕を、水平に、広げた、姿、を、とった。
いかにも、(さあ。打ってこい)、といった様子である。
何人もの、少林拳の、使い手たちが、太い角材を持って、彼の回りを、囲んだ。
そして、少林拳の、使い手たちは、それぞれ、持っていた角材で、思い切り、楊斯、の、腕、腹、背中、尻、脚、など全身を、叩いた。
しかし、楊斯、は、あたかも、銅像になったかのように、ビクとも動かなかった。
「すごいな。あの不死身さは」
「そうだな」
「痛くないのかな?」
「鍛えているから、痛くないんだろう」
「しかし、あれだけ、角材で、思い切り、叩かれても、何ともない、というのなら、敵が、殴ったり、蹴ったりしてきても、ダメージを、与えることが、出来ないということに、なるな」
「そうだな。そうすると、敵の攻撃に対する防御、というものも、必要なくなるな」
「肉体を鍛える、というのは、そういう目的も、あるんじゃないか?つまり、ダメージを受けない肉体にしておけば、敵の攻撃を受けても、ダメージを受けないから、絶対に、負けない、ということになるな」
私たち、二人は、中国拳法の、すごさ、に、ただただ、感心していた。
・・・・・・・
司会者が出て来た。
「それでは、楊斯さん、の、演武を、終わります。これをもちまして、今日の、少林拳の、演武大会を終了させて頂きます。みなさん。どうか、盛大な、拍手をお願い致します」
と、司会者は、言った。
パチパチパチ、と、会場には、盛大な、拍手が、起った。
おそらく、観客の全員が、拍手したでしょう。
楊斯、を、角材で、叩いていた、少林拳の使い手たちも、角材で、叩くのを、やめた。
観客たちは、てっきり、楊斯、が、ニコッ、と、笑って、お辞儀するものだと思っていた。
しかし、様子が変である。
楊斯、は、四股立ちして、拳を握りしめ、腕を、水平に、広げた、姿、を、とり続けている。
「楊斯さん。もう、演武大会は、終わりですよ」
司会者が、楊斯に、そう言っても、楊斯、は、微動だにせず、同じポーズをとり続けている。
会場が、ザワザワ、ざわめきだした。
医師が、急いで、ステージの上に、上がって、揚斯を、診察し始めた。
「脈が無い。死んでいる」
と、医師は言った。
私は、すぐに、「弁慶の立ち往生」、を、思い出した。
義経の忠実な家来であり、武術に優れた人として知られている武蔵坊弁慶。
その最期は、衣川の合戦で、数本の矢を全身に受けながら、立ったまま死んでいったと言われている。
これは後々まで、「弁慶の立ち往生」、として語り継がれていたが、本当に立ったまま死ぬというのは、可能なのだろうか?
私は、それを、調べてみたことがある。
すると、こう書かれてあった。
「人間が何人もの人間と戦って、筋肉内に疲労物質の量が増えている時、矢が刺さるという強い刺激が与えられると、全身の筋肉が瞬間的に痙攣し、強く固まる事はありえる。つまり、死んですぐに、立った状態のまま、死後硬直が起こることは、あり得る・・・と」
楊斯さん、が、いつ、死んだのかは、わからない。
少林拳は、肉体と精神を極限まで、鍛える。
命あっての、修行である。
楊斯さん、は、おそらく、少林拳の、凄まじい修行に、耐えて、肉体的にも、精神的にも、人知を超える境地に達していたのだろう。
どんな、痛み、を、受けても、「痛い」、と、言わない、精神力を身につけてしまったのだろう。
私は、少林拳の演武を見た、はじめの時は、その超人的な、身体能力に、ただただ、感心するばかり、だったが、少林拳の演武を見おわった時には、その価値観は正反対になっていた。
私は、それほどまでの、精神力を身につけた、楊斯さん、を尊敬すると、同時に、何事でも、「限界を極める」、よりも、「何事もほどほどに」、しておいた方がいいと思った。
・・・・・・・・
私が、そんなことを、思っていると、司会者が、焦って出てきた。
「みなさま。ちょっと、予想せぬ、アクシデントが、起こってしまって、申し訳ありませんでした。少林拳は、肉体を極度に、鍛錬します。その修行には、咽喉を槍で突いたり、体を棒で、思い切り、叩いたり、という、一般の人から見ると、信じられないような、一見すると、過激で、残酷なように見える、修行も含まれています。しかし、修行を始めた、初心者、には、もちろん、いきなり、そんなことは、致しません。し、出来ません。初心者に、いきなり、そんな事を、したら、当然、死んでしまいます。しかし、少林拳の鍛錬は、人体の理論を研究し尽くした上での、科学的根拠に裏づけされた、正しい理論の元に、行われているのです。少林拳の鍛錬は、一日、10時間、以上の、きびしい基礎訓練を、10年、以上、続けた後、はじめて、超人的に見える肉体、や、身体能力、が形成されていくのです。ですので、その成果を、示す、一見すると、危険極まりないように、見える、今日のような演武も、厳しい鍛錬を行ってきた、少林拳の達人たちには、全く、危険なものでは、ありません。今日のような、アクシデント、は、今まで、一度も、起こったことは、ありません。今回が初めてです。ですので、お客様がたに、おかれましては、少林拳は危険だ、というような、間違った偏見を、持たれないよう、切に切に、お願い申し上げます」
と、司会者は言った。
「それでは、これをもちまして、本日の、少林拳の、演武大会を終了とさせて頂きます。みなさま。どうか、盛大な、拍手をお願い致します」
と、司会者は、言った。
パチパチパチ、と、会場には、盛大な、拍手が、起った。
急いで、ステージに、幕が、サーと引かれた。
私には、司会者の焦りの、気持ち、がわかった。
日本には、たくさんの、中国拳法の演武会、や、中国拳法の教室、がある。
それらは、日本で、ビジネス、として、成り立っている。
中国拳法は、危険なもの、と、思われてしまうと、それらの、ビジネス、が、出来なくなってしまう。
日本政府が、少林拳の演武は、危険なもの、として、禁止してしまう可能性もある。
それを、おそれて、司会者は、中国拳法、少林拳、は、危険なものでは、ない、と、必死で訴えたのだ。
私たちは、演武会が、終わった後、午後のザ横浜パレードを見た。
パレードが終わった。
「じゃあ、オレは、用があるから、帰るよ」
彼が言った。
「私も、図書館に、行く用事があるんだ」
と、私は言った。
「じゃあ、またな」
そう言って、私たちは、関内駅前で別れた。
・・・・・・・
私は、医学関係のことで、調べたいことがあったので、横浜中央図書館に、行った。
私は、図書館の閉館の、7時まで、横浜中央図書館、で、勉強した。
図書館が閉館すると、私は、関内駅に向かった。
腹が減ってきたので、私は、伊勢佐木町にある、ある中華料理店に入った。
私は、ラーメン炒飯セットを注文した。
すると、私の、後ろのテーブルで、話し声が聞こえてきた。
「しかし、楊斯も、バカなヤツだな」
「そうだな。無茶し過ぎだよ」
「少林拳の、イメージが台無しだよ」
「日本政府は、少林拳の演武、は、危険だから、と言って、禁止するかもしれないぞ」
明らかに、今日の、少林拳の演武の話だった。
私は、そっと後ろを振り向いた。
すると、今日、少林拳の演武をしていた、人たち、が、集まっていた。
司会者もいた。
「あなた達は、今日の、少林拳の演武大会の、人々ですね」
私は、そう、彼らに、話しかけた。
「あっ」
彼らは、気まずい、顔つきをして、黙ってしまった。
「今日の、楊斯さんのような、アクシデントは、本当に、今日が、初めてなのですか?」
私は、勇気を出して、司会者に聞いた。
「決して、誰にもいいません。私は、正確な事実を知りたいだけのです。ですから、ぜひ、本当の事を話して頂けないでしょうか?」
私は聞いた。
「本当に、誰にも言わないと、約束してくれますか?」
司会者が念を押した。
「ええ。約束します」
「では、特別に、お話しましょう」
そう言って、司会者は、話し始めた。
「少林拳で、あのような、アクシデントが、起きたのは、初めてです。少なくとも、私の知る限りでは。ですから、少林拳は、決して、危険なものでは、ありません。少林拳の、修行者は、みな、厳しい鍛錬を、長い年月、かけることによって、不死身の肉体、と、なっているのです。少林拳の修行者は、みな、精神力が強いのです。もちろん、楊斯さんも、少林拳の厳しい、修行を、経てきているのです。しかし、楊斯さんの、少林拳を、極めたい思いは、他の、修行者とは、比べものにならない、ものだったのです。楊斯さんは、体を筋肉だけにして、体脂肪率を、0、に、まで、しようとする、無茶を何度も、しました。そのため、食事は、プロテインだけしかとらず、炭水化物、や、糖質、は、一切、摂りませんでした。そのため、低血糖になり、脳に糖が行かず、失神してしまうことが、何度もあったのです。みんな、彼の根性を、凄い、と言いましたが、同時に、あまり無茶をするな、そんなことをしていたら、死んでしまうぞ、とも、忠告していたのです。楊斯さんの、妹さんも、(お兄ちゃん。お願い。あめ玉でもいいから、なめて)、と、何度も泣きながら、頼んでいたのです。しかし、楊斯さんは、(僕は、少林拳を極めることに、命をかけているんだ。少林拳を極められなかったら、僕は、死んだ方がマシだ)、と言って、妹さんの、忠告も、聞きませんでした。しかし、自分に、厳しい修行を課すことによって、楊斯さんは、少林拳の達人になりました。今回の演武大会の時も、楊斯さんは、自分の体を鉄の筋肉だけに、鍛え上げるために、食事は、タンパク質、だけで、炭水化物、や、糖質、は、一切、とりませんでした。私も、皆も、楊斯さんに、そんな無茶はするな、と、言いましたが、楊斯さんは、聞きませんでした。私は、楊斯さんの演武が心配でなりませんでした。楊斯さんは、修行の時も、どんなに、叩かれても、決して、痛い、と、言わないからです。実際は、絶対、相当、痛かったはずです。楊斯さんは、人間離れした、根性の持ち主でした。あんな人は、本当に、例外なのです。我々も、楊斯さんに、あまり、無茶をしないよう、何度も忠告していたのです。しかし、楊斯さんは、聞きませんでした。そして、痛みに耐え、糖分を全く、取らなかったため、脳に糖が行かず、死んでしまったのです。これでは、少林拳は、危険な武術と思われ、禁止されるのではないかと、私は、不安に思いました。そのため、焦って、少林拳の安全さ、を、話したのです。実際、少林拳は、ちゃんとした修行を積めば、決して、危険なものでは、ありません。楊斯さんの場合は、極めて例外的なのです。これが、本当の所です。どうか、このことは、他言しないよう、お願い致します」
と、司会者は、言った。
「そうだったんですか。わかりました。決して、誰にも言いません。教えて下さって、ありがとうございました」
私は、礼を言った。
そして、立ち上がって、レジで、金を払い、店を出た。
そして、横浜市営地下鉄に乗って、家に帰った。
そして、楊斯さんのことを、考えだした。
楊斯さんは、(僕は、少林拳を極めることに、命をかけているんだ。少林拳を極められなかったら、僕は、死んだ方がマシだ)、と、言っていたのか。
命をかけて少林拳を、極めて、死んでしまう、のと、無茶はしないで、人並みの、鍛錬をして、少林拳の達人となって、それで、満足して、生きていく、ことの方を、選ぶ、のと、どっちが、いいのだろうか、と、私は、考えた。
私には、どうしても、無難な後者の選択の方が、いいと、思った。
しかし、楊斯さんにとっては、超人的な修行をして、少林拳の最上位の達人に、なれて、死んだことを、後悔しては、いないのかも、しれない。
一般の人間が、常識人の感覚、や、価値観で、人並外れた、人間の生き方の、是非を、判断することは、出来ない、だろうし、してもならない、と、私は、思った。



令和2年8月3日(月)擱筆

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