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小説家、反ワク医師、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、反ワク医師、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

高校野球小説「頭脳的勝利」(小説)

2025-04-30 11:03:00 | 小説
高校野球小説「頭脳的勝利」

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

高校野球小説「頭脳的勝利」

2025年の第107回全国高校野球大会である。
全国の球児たちが甲子園を目指しこの大会のために頑張ってきたのである。
当然、どの高校も甲子園出場を咽喉から手が出るほど望んでいる。
甲子園に出場するためにはまず地区予選に勝たねばならない。
地区予選で甲子園に出場するのも甲子園大会で優勝するのも一発勝負のトーナメント制である。
ここ。神奈川県でも地区予選の組み合わせが行われた。
その結果、何と神奈川で強豪校の横浜高校と湘南台高校が第一回戦で対戦することになった。
どちらも甲子園出場の経験があり、どちらの高校も甲子園で優勝する可能性が十分あった。
地区予選の第一試合が甲子園大会の決勝戦になってしまったようなものである。
当然、全国の注目の的となった。
横浜高校も湘南台高校も投打において強かった。
横浜高校のエース横田は160km/h以上のストレートとカーブが持ち味だった。
一方の湘南台高校のエース山野はサイドスローでストレートは140km/h台しか出せなかったが、チェンジアップ、カーブ、スライダーなどほとんどの変化球を自在に操ることが出来てコントロールも抜群で打たせてとる頭脳派のピッチャーだった。
この試合は投手戦になりそうだ、と野球解説者は予想した。
しかし超高校級の160km/hのストレートを投げられる横田がいる横浜高校が勝つだろうというのがほとんどの野球解説者の予想だった。
ウーウーウー。
試合開始のサイレンが鳴り試合が始まった。
先攻は横浜高校で後攻は湘南台高校となった。
予想通り試合は投手戦となった。
湘南台高校の打者たちは横田の超高校級の160km/hのストレートには手が出なかった。
当たってもファールになるか差し込まれて内野ゴロになるかだった。
湘南台高校の打者はセーフティーバントをしてかろうじてパーフェクトゲームは逃れることが出来た。しかし後続が続かないので得点することは出来なかった。
・・・・・・・・・・・・・・
湘南台高校の監督も選手たちに、
「お前たち。お前たちの実力では到底、横田の160km/hのストレートは打てない。カーブを狙っていけ」
と指示をした。
選手たちも監督の指示に従って横田のストレートは捨ててカーブに絞った。
解説者は、それを見て、
「どうやら湘南台高校の監督は横田のストレートはあきらめてカーブに絞るように指示したらしいですね」
と言った。
しかし湘南台高校のバッターたちは横田のカーブも打つことは出来なかった。
むなしく空を切り空振りするだけだった。
3番4番5番のクリーンアップトリオも横田のカーブを空振りした。
三振した湘南台高校のバッターたちは、チクショウと言ってバットを地面に叩きつけた。
横田も自分のカーブを空振りしている湘南台高校の打者を見て自信に満ちた顔でニヤリと笑った。それはオレのカーブを湘南台高校は打てないという自信の嬉しさだった。
解説者も、
「うーん。横田君のカーブはそれほど良く落ちているようには見えないんですがね。湘南台高校の打線の実力から考えると打てるように思えるんですが・・・・やはり打席に立ったバッターには落差が大きく見えるんでしょうね。あるいは湘南台高校では打撃練習ではあまり変化球を打つ練習をしてこなかったのかもしれませんね」
と言った。
一方の横浜高校の打者たちも湘南台高校の山野の打たせてとる技巧派ピッチングに苦しめられランナーを3塁まで出すことが出来てもホームベースを踏むことは出来なかった。
こうして試合は9回裏まで0対0で進んでいった。
これは延長戦になるな、1点を先にとった方が勝ちだな、と観客たちは思った。
9回裏の湘南台高校の攻撃になった。
3番の末吉がバッターボックスに立った。
横田は一球目は160km/hのストレートを投げた。
末吉はその球をセーフティーバントしようとした。
バットに当てることは出来たが残念ながらファールになってしまった。
湘南台高校は3回セーフティーバントに成功している。
得点にはつながらなかったが。
湘南台高校は対横浜高校対策としてセーフティーバントや短距離走の練習をしてきたのだろうと横田は思った。
うかつにストレートを投げてセーフティーバントが成功して、足も速いので盗塁されて得点されることを横田はおそれた。
しかし打線の実力から言えば横浜高校の方が湘南台高校よりも上である。
延長戦になるが、もう勝ったも同然だ、という喜びが横田の顔に浮かんでいた。
二球目に横田は得意のカーブを投げた。
すると、3番の末吉はニヤリと笑い、横田のカーブをフルスイングした。
それまで一度もかすらなかった末吉のバットは横田のカーブをバットの芯でとらえた。
ボールはきれいに宙を舞いライトスタンド上段に叩き込まれた。
観客たちは、おおー、と歓声を上げた。
末吉は余裕で一塁、二塁、三塁とベースを踏んでいきホームベースを踏んだ。
「ホームイン。1対0で湘南台高校の勝ち」
審判が言った。
横浜高校の選手たちはキツネにつつまれたような様子だった。
うわーと湘南台高校を応援していた観客たちは歓声を上げた。
「よくやったな」
と湘南台高校の監督は選手たちを讃えた。
一方、横浜高校のエース横田はマウンドにひれ伏し涙を流した。
解説者は、
「いやー。野球はまさに筋書きのないドラマですね。まさか甲子園出場は当然のこと、甲子園大会でも優勝候補の横浜高校がまさか地区予選の第一試合で敗退してしまうとは・・・・しかしこう言っては失礼ですが、これは湘南台高校の、まぐれ当たりのラッキー勝利ですね。ボクシングでも実力が明らかに上の世界チャンピオンがランキングにも入っていない格下の挑戦者に一発のラッキーパンチがきっかけで負けてしまうということはありますからね。湘南台高校には失礼ですが、これは湘南台高校のまぐれ勝ちとしか言いようがありませんね。横浜高校の横田君は160km/hのストレートはもちろんのことカーブも湘南台高校にかすらせもしませんでしたからね」
と言った。
神奈川県で最強の横浜高校に勝ったことで、湘南台高校はその後の試合で難なく勝ち進み、地区予選の決勝戦でも勝って甲子園出場を果たした。
当然、藤沢市では湘南台高校の勝利を町をあげて祝福した。
そして甲子園大会でも湘南台高校は優勝して真紅の優勝旗を手にした。
・・・・・・・・・・・・
試合後に監督のインタビューが行われた。
記者「優勝おめでとうございます」
監督「どうもありがとうございます」
記者「勝因は何だったんでしょうか?やはり地区予選の第一試合で優勝候補の横浜高校に勝ったことで選手たちに自信がついたからでしょうか?」
監督「いや。違いますね。我々は実力で勝ったんです。まあ頭脳作戦の勝利でしょうね」
日本人は謙虚なので普通、勝ったチームの監督は相手チームの善戦を褒めたたえるのだが、湘南台高校の監督は自信に満ちた態度だった。記者もそれを不思議に思った。
記者「頭脳作戦の勝利とはどういうことでしょうか?」
監督「優勝した今だから、その秘密を言ってもいいですよ。聞きたいですか?」
記者「ええ。ぜひうかがいたいです」
監督「では話しましょう。実力で勝ったのに、まぐれで勝ったなどと思われたままでは我が校の選手たちが可哀想ですからね」
監督のあまりにも自信のある態度に記者はキツネにつつまれたような顔をしていた。
監督は話し出した。
監督「実はですね。我が校の選手たちには、横田君のカーブをわざと9回裏まで空振りするように指示していたんです」
記者「ええー。野球の試合で、わざと空振りさせるなんてことがあるんでしょうか?一体、何のためにそんなことをしたんですか?」
記者は目を白黒させて驚いた。
監督「横田君の160km/hのストレートは我が校の打者の実力では打てません。地区予選の前に1度、交流試合をしたことがありますが、それを痛感しました。しかし横田君はカーブも投げられます。しかし解説者も言っていましたが、あのカーブは特別、落差の大きい打てないカーブではありません。そこそこのピッチャーなら誰でも投げられるカーブです」
記者「そうでしたね。解説者もそのようなことを言っていましたね」
監督「そこで我が校は横浜高校対策として徹底的にカーブ打ちの練習をしました。そしてセーフティーバントおよび短距離走の練習も徹底的にしました」
記者「どうしてそういう練習を重点的にしたのですか?」
監督「横田君にカーブを投げさせるためです。私は選手たちに、横田君がカーブを投げても、決して打つな、球筋を良く見るだけで振らないか、打てると思っても決して打つな、空振りしろと厳しく言いましたからね」
「・・・・」
記者は何と言っていいかわからず黙っていた。
なので監督が続けて話した。
監督「もし我が校の打者が横田君のカーブを最初から打っていたらどうなったでしょうか?ヒットが出たことでしょう。そうすると横田君はカーブを投げるのは危険だと感じて、カーブは投げなくなり、160km/hのストレートのみで勝負してくるでしょう。そうされたら負けたでしょう。あのストレートは打てませんからね。我が校のエースの山野君は横田君ほどの強肩ではありません。しかし山野は多彩な変化球を投げられ、打たせてとる技術を持っています。なので、横浜高校との試合は投手戦となり、1点をとった方が勝ちだ、と思ったのです。案の定、9回裏まで0対0の1点をとった方が勝つ投手戦となりましたよね。横田君は自分のカーブは打たれないという自信があります。と言うより我々が自信をつけさせてやったのです。そして我が校の打者たちにはセーフティーバントと短距離走を徹底的に練習させていましたから、試合でも3回、セーフティーバントが成功しましたよね。だから横田君はストレートだけでは危険だ、カーブもまじえて投球しなければいけない、と思ったはずです。案の定、横田君は9回裏にカーブを投げてきましたよね。私の予想通りです。そして予想通り3番の末吉は横田君のカーブを打ってホームランにしましたよね。まぐれ当たりでも何でもないです。3番の末吉君が打てなくても次の4番の高山君か5番の佐々木君がホームランを打ったでしょう。私の考えた作戦、および私の提案した作戦を信じて私についてきてくれた部員たちの頭脳的野球の勝利なのです」
監督は堂々と言った。
記者「なーるほど。打てる球をわざと空振りさせるなんてことは前代未聞の作戦ですが。打てる球をわざと空振りさせて相手の投手に自信をつけさせ、その球を最後に投げさせるなんていう戦法はまさしく頭脳的野球ですね」
湘南台高校の選手たちが藤沢市に帰ると藤沢市では湘南台高校の勝利を町をあげて祝福した。
山野はスマートフォンで落ち込んでいるであろう横浜高校の横田に電話した。
「横田君。僕たちが優勝したけれど君は負けていないよ。僕たちの野球部の監督のおかげで勝てたようなものだよ」
と山野が横田を慰めた。
「ああ。してやられたよ。でもいい勉強になったよ。油断は大敵だな」
横田が言った。
「君のチームは負けたけど君は負けていないよ。君は間違いなくセ・パ両リーグからドラフト1位で指名されるよ。羨ましいな。僕は今回の甲子園大会での勝利投手だけど、勝ったのは監督のおかげだよ。僕を指名してくれる球団があるか心配だな。ははは」
そんな会話がなされた。
夏が終わり秋になった。
ドラフト会議が行われ、当然のごとく横田は全球団からドラフト1位で指名された。
しかし山野もかろうじて横浜DeNAベイスターズに指名された。
横田は読売ジャイアンツがドラフトのくじ引きで引き当てたので横田は読売ジャイアンツに入団した。一方、山野は横浜DeNAベイスターズに入団した。
二人はプロ野球選手として活躍している。
めでたし。めでたし。


2025年4月29日(火)擱筆

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僕の両親は気が狂っている

2025-04-20 19:56:51 | Weblog
僕の両親は気が狂っている。

父親も母親も。

気が狂っているというより性格が愚劣すぎる。

僕の両親は自分を正当化するためには手段を選ばない。

狂った事を平気で言う。

スポーツをすると勝者と敗者ができてしまうのは当たり前である。

しかしそれはフェアな戦いである。

だからスポーツをすることを否定する人間はこの世にいない。

しかし。

僕の親はスポーツをすると勝者と敗者が出来てしまい、スポーツは他人を蹴落とし不幸にすることだから良くない悪いことだと平気で言う。

スポーツだけではなく、あらゆることにチャレンジすることもいけないことだと言う。

司法試験に通ると法律の仕事ができるようになる。

弁護士か検察官か裁判官になれる。

多くは弁護士になる。

しかし司法試験に合格しても弁護士にならない人もいる。

しかし親によると「弁護士になる気もないのに司法試験を受験する」ことは悪いことだと言う。

中小企業診断士になる気がないのに中小企業診断士の試験を受験するのは悪いことだと平気で言う。

それ以外でも、この世のあらゆる試験(漢字検定試験、宅建、中小企業診断士、ファイナンシャルプランナーなど)に、その仕事に就く気がないのに受験することは悪いことだと言う。

もちろん他人には言わない。

他人には善人ヅラをしている。

しかし僕に対しては、他人が聞いていないことをいいことに平気で狂ったことを言う。

自分を正当化するために。

スポーツは悪い事だと言いながら、親はテレビで平気でスポーツ観戦を楽しんでいる。

こういうふうに僕の親は自分を正当化するためには平気で狂ったことを言う。

僕はこういう狂った親に虐待されて育った。

僕が過敏性腸症候群という辛い病気になってしまったのも、こういう性格の悪い親に虐待されて育ったためである。

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コンタクト眼科医の恋(小説)

2025-04-09 19:20:27 | 小説
コンタクト眼科医の恋

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

コンタクト眼科医の恋

山野哲也はコンタクト眼科医である。このコンタクト眼科医というのはコンタクトレンズの処方、コンタクトレンズを装用することによって起こるアレルギー性結膜炎、角膜の傷、その他、麦粒腫(ものもらい)、角膜異物の除去、などの簡単な治療をする医師である。
いわゆる眼科医とは日本眼科学会が認定する眼科専門医である。
眼科専門医は5年間の眼科医としての常勤の経験が必要で、その上日本眼科学会が行う眼科専門医の試験に通った医師のことである。眼科専門医ほどになれば白内障、緑内障の手術も出来、要するに普通の、というか本当の眼科医である。それにくらべ山野は眼科専門医の資格など持っていない。大学の眼科の医局にも所属したことがないので眼科の臨床経験は一日もない。しかしコンタクト眼科はコンタクトレンズの処方やアレルギー性結膜炎には抗アレルギー薬、角膜の傷にはヒアレインを処方すればいいくらいなので、一週間もやれば出来るようになるのである。山野は大学(奈良県立医科大学)を卒業した後、Uターンして千葉にある下総精神医療センターという所で精神科医として二年間研修した。別に精神科をやりたかったわけではない。山野は医学部に入ってしまった手前、医師になるしかなかったので楽だと言われている精神科を選んだのに過ぎない。実際、精神科は楽だった。2年間の研修が終わった後は地元の神奈川の精神病院に就職が決まった。
なので藤沢市に引っ越して賃貸アパートを借り週4日という条件で働いた。
しかし山野は医師という仕事に生きがいを感じられなかった。
山野は大学3年の時から小説を書きだして小説を書くことに自分の生きがいを感じるようになってしまって医師の仕事はつまらなくなってしまったのである。
それでも山野は医師いがいに出来る仕事もないので精神科を続けた。
出来ることなら精神保健指定医の資格は取っておきたかった。
しかし精神保健指定医の資格は大学の医局に所属していなければ取れないということがわかった。精神保健指定医の資格を持っていないと精神病院に就職も出来ないとわかった。
なので仕方なくコンタクト眼科医のアルバイトをして収入を得ていた。
中央コンタクトが中央コンタクトのコンタクトショップに隣接した所に眼科クリニックを出していて、山野は中央コンタクトの隣接眼科クリニックで仕事した。
精神病院に常勤で働いていた時より収入は、ずっと落ちたが、仕事は楽だし小説を書く時間も持てるので山野に不満はなかった。
眼科クリニックで働いていると時々、中央コンタクトの社員の人がやってきた。
要件は「今度、どこどこでコンタクト眼科クリニックを開きますので院長になってくれませんか」というものだった。しかし山野は断った。なぜかというと、中央コンタクトが求める条件として、週4日~5日は働いて欲しいと言ってくるので、金より小説創作に時間をかけたい山野にとっては、それが嫌だったのである。
そんなことで山野はコンタクト眼科のアルバイトをしながら小説を書いていた。
しかしある時。
「今度、岩手県の盛岡に新しくコンタクトショップと隣接眼科クリニックを開くので院長になってくれませんか」と中央コンタクトの人が言ってきたのである。
条件は土日の週二日で、交通費とホテル代は出すということだった。
山野は二つ返事でこれを引き受けた。
盛岡と場所は遠いが、週二日、という条件が山野の心を動かしたのである。
それで山野は土日に盛岡に行って働くようになった。
土曜日の朝5:00に起きて湘南台→戸塚→東京駅→東北新幹線で盛岡である。
土曜日も日曜日も10:00時~19:00時までである。
新しくオープンした所なのでなのか、あまり患者は来なかった。
クリニックは小さく、待合室に受け付けがあり、その奥が検査室で、その奥が院長室だった。
山野はここでの院長は長くやろうと思っていた。
というのは今までは、どこかのコンタクト眼科クリニックの院長の代診という形で働いていたので院長が休まなければ仕事の募集はなく不規則だったからだ。
しかし院長になれば盛岡と遠くはあるが、毎週二回、土日と仕事が決まっている。
なので中央コンタクトの方からクリニックを閉鎖するか別の院長に替えると言ってくるまで働こうと思っていた。別の院長に替えるというのは、中央コンタクトの方でも出来れば院長は眼科専門医であって欲しいと思っているからである。
盛岡駅と直結しているショッピングモールの中のフェザンの三階が眼科クリニックで二階に中央コンタクトのコンタクトショップがある。
コンタクトを欲しいと思う客はまず、三階の眼科クリニックで検査を受けて、処方箋を出して貰い、それを二階のコンタクトショップに持って行き処方されたコンタクトを買い、その他ケア用品を買う。
眼科クリニックには中央コンタクトのコンタクトショップの社員かアルバイトの人が一人来てくれて、事務と検査をやってくれる。山野はスリットランプで目とコンタクトのフィッティングを見てカルテに「近視性乱視」と書いて中央コンタクトの人に渡す。それだけである。
それで山野は4年間、院長を続けた。
クリニックの仕事を手伝ってくれるスタッフはほとんどが若い女の人でアルバイトが多く3~4ヵ月で変わることが多かった。
スタッフの人がきれいで優しそうな女の人になると山野はすぐに恋した。
しかし山野は彼女たちに親しげに声をかける勇気がなかった。
なので事務的な関係以上になることはなかった。
女が好きになる男のタイプはイケメンで格好いい男だが山野はイケメンではなかった。
なので山野はほとんどスタッフの女に好かれなかった。もつとも嫌われてもいなかったが。それはスタッフの山野に対する、素っ気ない態度でわかった。
しかし山野は可愛いスタッフが来るとすぐに好きになった。
「恋人」という関係でなくても「友達」という関係でも十分満足だったのだが、好かれていない女に親しげに話しかけても女に気がなければ、さびしいだけである。
なので山野は一人さびしく院長室に居るだけだった。
しかし。5年目に新しい女のスタッフが入って来た。
彼女を一目見た途端、山野は「うっ。きれいだ」と思った。
その子は鈴木さんという名前だった。アルバイトなのか正社員なのかはわからない。
鈴木さんも他のスタッフ同様、山野に対しては特別な感情は持っていなかった。
しかし彼女は他のスタッフとは性格がちょっと違っていた。
それは彼女が、あまり物事にこだわらない、おっとりした性格だったということである。
彼女になら「好きです」と告白して彼女が「ごめんなさい」と断っても、それほど気になることはないように思えた。し事実そうだろう。
なので山野は彼女に「好きです」と告白してみたいという気持ちが募っていった。
盛岡に行く週末が近づくと山野は鈴木さんと会えることにワクワクし出した。
「今度行ったら、好きですと告白しよう」と思っていたが、しかしやはり山野は臆病でシャイなので、なかなか声をかけることは出来なかった。
それでも鈴木さんの姿を見れるだけで山野は嬉しかった。
そんなことで鈴木さんが来てから二カ月ほど経った。
・・・・・・・・・・・・
ある時、午前中の診療が終わった時である。
鈴木さんは受け付けに座っていた。
山野は鈴木さんの所に行った。
「ちょっとスリットランプの事でわからないことがあるんですけれど教えてもらえないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
彼女は「はい」と言って席を立って山野と一緒に院長室に入った。
彼女が院長室に入ると山野はすぐに内カギをかけた。
そして彼女の背後に回って両手でそっと彼女の腰をつかんだ。
そして「あ、あの。鈴木さん。好きです」と告白した。
彼女は動くことなく黙っていた。
なにせそれまでずっと無表情、無感情だった山野に腰をつかまれ「愛」を告白されたのだから。彼女はどう対処していいかわからないといった様子だった。
山野は腰に触れていた片手を彼女の腹に回した。
それでも彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
「あ、あの。鈴木さん。ごめんなさい。いきなりこんな事をして。嫌だったら言って下さい」
山野が聞いた。
「い、いえ。別にかまいません」
彼女は答えた。
この答は山野を安心させた。
本当は彼女は嫌なのかもしれない。控えめな彼女の性格のため、そう言っているのかもしれない。しかし山野はもうあまり彼女の心を詮索するのをやめた。
山野は膝を曲げて腰を落とし膝立ちになった。
彼の目の前には鈴木さんのピンクの制服のヒップがある。
山野はそっとピンクのスカートの上から鈴木さんの尻に頬を当てた。
これはかなり勇気が要った。山野は鈴木さんのヒップにさかんに頬ずりした。
「あ、あの。鈴木さん。嫌ですか?」
山野が聞いた。
「い、いえ」
彼女は答えた。もしかすると彼女は嫌なのかもしれない。山野の方が院長という立ち場なので断れないでいるのかもしれない。しかし山野は我慢に我慢をし続けていたので自分の感情を抑えることが出来なかった。手でヒップを触るのはいやらしいが頬ずりをするのは女を愛している意思表示であるような気がした。実際の所は、山野は彼女に対し「性愛」と「恋愛」の両方を持っていた。十分にヒップに頬ずりをすると山野は立ち上がって彼女の正面に立った。
そして彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野はそっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からは性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。
ピンポーン。
クリニックのチャイムが鳴った。
まだ1時にはなっていなかったが午後の患者が来たのだろう。
山野は唇を彼女の唇から離した。
「ごめんなさい。鈴木さん。いきなりこんなことをして」
山野は謝った。
「い、いえ。いいんです。実を言うと私も先生、好きだったので・・・でも先生は私のことをどう思っているのかわからなかったので親し気に話しかけなかったんです」
と彼女が少し顔を赤らめて言った。
患者が来たので彼女は急いで受け付けに行った。
山野も院長室の机の前の椅子に座った。
彼女が裸眼視力、RGテスト、眼圧、などをする声が聞こえてきた。
そして患者が希望するコンタクトを入れての矯正視力を計った。
「先生。2Wのソフトレンズご希望の患者さんです」
そう言って彼女はカルテを山野に渡した。
彼女は今あったことなどなかったかのように平静な態度だった。
山野はスリットランプの上に患者の顔を乗せてもらい、角膜にキズはないか、アレルギー性結膜炎はないかを調べ、コンタクトが目にフィットしているかを調べた。
どれも問題はない。なのでカルテに「異常なし」と書いて彼女に渡した。
その日の午後は結構、患者が多く、彼女と話す時間はなかった。
ようやく18:30時になり彼女はクリニックの前に「本日受け付け終了」のボードを出した。
19:00になりクリニックが終了した。
山野は荷物をまとめて院長室を出た。
早く行かないと、いつも乗っている上りの東北新幹線に間に合わなくなる。
彼女は今日来た患者の事務処理をやっていた。
「あ、あの。鈴木さん。さようなら」
山野は彼女の前をきまり悪そうに通ろうとした。
「さようなら。先生」
彼女はニコッと笑って挨拶した。
「今日はいきなり突飛な事をしてしまってごめんなさい。気にさわりましたか?」
山野は謝った。彼女はニコッと微笑んだ。
「いえ。いいんです。私、先生、好きですから」
この言葉に山野は喜んだ。
「あ、あの。鈴木さん」
「はい。何でしょうか?」
「ちょっと言いにくいんですが・・・・」
「はい。何でしょうか?」
「今、履いているパンティーを貰えないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
「はい」
彼女は少し恥ずかしそうな顔でスカートの中に手を入れてパンティーを抜きとった。
そしてそれを山野に恥ずかしそうに差し出した。
普通の女の子だったら、そんな変態な要求をされたら、ためらうだろうが彼女はおっとりした性格なので山野の要求を聞いてくれた。
「うわー。嬉しいです。ありがとう」
山野は照れくさそうにそれを受けとった。
・・・・・・・・・・・・
普通の女だったら、そんな事を言われたら恥ずかしくてためらうだろうが、彼女はおっとりした性格なので別に気にしていなさそうだった。
山野は彼女に頼んで立ってもらってスマートフォンで彼女の写真をパシャパシャと数枚、撮らせてもらった。彼女も写真を撮られてまんざらでもない様子だった。
「さようなら」
「さようなら」
こうして山野はクリニックを出た。
最終の上りの東北新幹線こまち号には間に合った。
山野は嬉しさで有頂天だった。
彼女が来てからずっと恋焦がれていたが想いを告白することが出来ず煩悶していた想いが叶ったのである。
山野の性格はそうなのである。
山野はイケメンではないが、そんなにブサイクでもなく彼の評価は「普通」だった。
しかし山野は好きな女に告白するということをしたことが人生で一度もなかった。
山野は極度に神経質で「好きです」と告白して相手に断られることを極度におそれていた。
そして奥手だった。医学部の4年の時に初めて風俗店(SМクラブ)に勇気を出して行ってみた。風俗店といっても働いているのはアルバイトの女の子である。
山野はそこで、きれいな女の子とペッティングした。別にSМクラブである必要もないのだが、SМクラブ以外の他の風俗店がどういうものかわからなかったからである。
きれいな女の子でも山野に好感を持ってくれた。
SМクラブだからといって縛ったりすることはなかった。
縛るのは女の子を拘束して怖がらせるのが目的だが、SМクラブはSコースなら90分3万円、Мコースなら90分2万円が相場だった。90分で相手を解放できると双方わかっている以上、わざわざ縛るのは時間がもったいない。山野は女をペッティングした。Sコースで入っても山野は女の子に顔面騎乗させたりした。
風俗店では店外デートは禁止である。しかし店の中の空間だけというのはさびしかった。
それに風俗店の女の子はエッチが好きで仕事とわりきっている子が多い。
所詮、部屋の中の金銭関係での付き合いである。
なので山野は一度、金銭関係でない異性との付き合いをしてみたかったのである。
その夢がかなったのである。
山野は家に着くと布団の中に入り、鈴木さんの写真を見ながら、鈴木さんがくれたパンティーを鼻に当てて、その匂いを嗅いだ。
「ああ。鈴木さん。好きだ。好きだ」
と言いながら。
ああ、ここに鈴木さんの女の部分が当たっていたんだと思うと山野は激しく興奮した。
そして鈴木さんの写真を見ながらオナニーした。
そしてその晩は寝た。
・・・・・・・・・・
翌日の月曜日になった。
山野の唯一の生きがいは小説を書くことだった。なので図書館に行ってパソコン席でパソコンを開いた。書きかけの小説の続きを書こうかと思ったが、やっと夢がかなって鈴木さんと親しくなれたので鈴木さんとのことを私小説ふうに書こうと思って書き出した。
けっこうスラスラと楽に書けた。
山野は女に飢えていた。いつも頭の中は女のことだった。
しかし「現実の女との恋愛」と「小説創作」を比べると山野にとっては「小説創作」の方が上だった。好きな女と付き合えるのは嬉しい。しかし「現実の女との恋愛」は精神的な心地よい快楽ではあっても、それはやがて消えてしまうもの。しかし芸術はその出来が良ければ形として残るものである。それは世間で認められないかもしれない。しかし山野は小説を書いていればそれで満足だった。山野は「現実の女との恋愛」は虚しいと思っているがそれは風俗の女の子との場合である。今回の鈴木さんは金銭関係でも90分の部屋の中だけの関係でもない。生まれて初めての「生きた恋愛」である。彼女のおっとりした性格ならもしかすると長続きするかもしれないし、一生の伴侶となるかもしれない。そう思うと彼の筆は進んだ。
鈴木さんはおっとりした性格なので前回、彼女に携帯電話の番号とメールアドレスを聞けば教えてくれただろう。しかし山野はあえて聞かなかった。山野はおくゆかしい所があって携帯電話やメールのやりとりが出来てもそれをしたがらない所があった。
それは好きな人が出来るとすぐに電話やメールをするのは趣きがないと思っていたからである。文明の利器を利用してすぐに相手となれなれしくなってしまうのは軽率で、軽々しく山野は嫌だった。好きな人とは会いたくても会えない時間があって、やっと会える方が恋愛のボルテージが高くなると思っていたのである。
実際、日を経るごとに山野の鈴木さんに対する想いは激しく募っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
そしてとうとう待ちに待った土曜日になった。
山野は金曜日に盛岡に行って盛岡駅前のホテルに泊まることもあったが、土曜日の朝はやくに家を出て、そのまま土日の診療をすることもあった。
それはその時の状況によっていた。
山野は朝5:00時に起き、始発の5:20分の市営地下鉄ブルーラインに乗って東京へ出て、東北新幹線に乗って盛岡駅に着いた。
クリニックは10:00時から始まるが、クリニックには9:50分に着いた。
クリニックのガラスの戸を開けると受け付けに鈴木さんが座っていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
何もなかったような挨拶が交わされた。
山野はすぐに院長室に入った。
10:00時になると患者(というか客)がちらほらと入って来た。
鈴木さんは受け付けをして、患者の求めるコンタクトレンズを聞き、裸眼視力、テストレンズによる矯正視力、RGテスト、眼圧、などを書き込んだカルテを山野に渡した。
テキパキと極めて事務的に仕事をこなした。
山野も客に顔をスリットランプの上に乗せてもらい、角膜、結膜、コンタクトレンズのフィッティング、をチェックした。
ようやく12:00時になった。
彼女は「午前の診療は終了しました。午後の診療は1:00時からです」と書かれたボードをクリニックの前に出した。そして受け付けにもどった。
山野はドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えながら受け付けに座っている鈴木さんの所に行った。
「鈴木さん。ちょっと来てくれませんか?」
と聞くと彼女はニコッと微笑んで黙って院長室に入ってくれた。
山野は彼女の背後に回り、前回と同じように彼女の腰を触り、そしてすぐに手を伸ばして彼女の腹を触った。背後から彼女を抱きしめる形になった。
山野が彼女によせる想いは「恋愛」も強かったが「性愛」も強かった。
あまり彼女に近づきすぎると勃起したおちんちんが彼女の尻に触れてしまう。
なので山野は腰を引いて、おちんちんが彼女の尻に触れないようにした。
山野は腰を落とし前回と同じようにスカートの上から鈴木さんのお尻に頬を押しつけた。
「ああ。鈴木さん。好きです」
と言いながら山野は彼女の柔らかい尻の感触を味わっていた。
彼女は「ふふふ」と笑って山野を軽くいなした。
山野は彼女の二本の太腿をタックルのようにからめて抱きしめた。
そして太腿に少し頬ずりしてから、彼女のピンクの制服の短めのスカートの中に顔を入れた。
そして彼女のパンティーの尻に顔を押し当てた。
こうやって順序を踏んでいくと女は警戒しなくなるものである。
尻を手で触るのは痴漢のようで嫌らしいが、頬を当てられるというのは男が女の母性を求めていると女は思うのである。実際、山野は彼女に母性愛を求めていた。
彼女の尻の感触を十分、味わうと山野は前回と同じように、立ち上がって彼女の前に立った。
そして前回と同じように、彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せない。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野は相手の反応を確かめながら、そっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からも性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。山野はもっと彼女の体を愛撫したかったのだが、キスだけでやめておいた。
山野は彼女に対して「性愛」をしたい欲求があったが、彼女は山野の「性愛」を受けたいのかどうかはわからなかったからである。彼女の心はわからない。彼女は山野を嫌っていないから山野がもっと彼女をペッティングしても彼女は嫌がらなかったかもしれない。彼女はそういう、おっとりした子なのである。男の性欲は女に対して積極的だが女の性欲は能動的である。男はいつも発情しているが女はそうではない。女は全身が性感帯だから男の愛撫を受けているうちに男以上に性欲が亢進するものである。そういう男の手技によって女の性欲を開花させることも男には出来るのだが、山野はそれが嫌だった。そういう小賢しい戦術によって彼女の性欲を開花させてしまうことが嫌だったのである。山野は性格の良い人間につけこむことが嫌いだったのである。
しばしのディープキスの後、彼女は舌を引っ込めて唇を離した。
「先生」
「はい。何でしょうか?」
「あ、あの。先生にお弁当つくってきました」
「あっ。それは有難う」
「今持って来ます」
そう言って彼女は院長室を出た。
そしてハンカチで包んだアルミの弁当箱を持ってもどってきて山野に渡した。
「はい。先生」
「ああ。どうも有難う」
山野は弁当を受けとった。
これは山野のペッティングを回避するためではなく彼女の心づくしである。
彼女はそういう心づくしのある優しい子なのである。
弁当はのり弁にハンバーグと卵焼きだった。
女の子にしてみれば、この程度は簡単なことで日常的なことなのだろうが料理など何も出来ない山野にとってはとても嬉しいことだった。
山野は「ああ。この弁当は鈴木さんが作ったんだ」ということを噛みしめながら食べた。
とても美味しかった。彼女も受け付けで同じ内容の弁当を食べていた。
こういう時は、せっかく彼女が作ってくれた弁当なので二人ならんで食べるのが普通の男女だろうが、山野はシャイで女の子と二人になっても何を話したらいいのかわからないので院長室で一人で食べた。
食べ終わると山野は弁当箱をもって受け付けにいる鈴木さんの所に行き、
「有難うございました。美味しかったでした」
と言って弁当箱を渡した。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
と彼女はニコッと微笑んだ。
そうこうしているうちに1:00になり午後の診療が始まった。
患者はそれほど来なかったが、クリニックは予約制ではないので、ちらほら来た。
いつ患者が来るかはわからないので、患者がいなくても山野は院長室に居て彼女は受け付けに居た。
ようやく午後7:00になって診療が終わった。
・・・・・・・・・・・
「鈴木さん」
「はい」
「よかったら、焼き肉店に行きませんか?」
「はい。行きます」
彼女は喜んで答えた。
山野はいつも土曜日の診療が終わると、駅近くの東横インホテルに泊まって翌日、診療してそれが終わると東北新幹線で家に返るのだが、鈴木さんと親しくなったので、焼き肉店に誘ったのである。
山野と鈴木さんは焼き肉店で焼き肉を食べながら色々と話した。
「鈴木さん。あなたはどういう経歴でここで働くようになったのですか。というよりあなたは正社員なのですか、アルバイトなのですか?」
「私はアルバイトです」
「そうだったんですか。僕は中央コンタクトの人が来ても事務的なことを話すだけで、その人が正社員なのかアルバイトなのかも聞かないんです。鈴木さんはどっちかなと思っていたんですが、たぶんアルバイトじゃないかと思っていたんです」
「私も正社員で中央コンタクトに応募したんですが、アルバイトということで採用して貰えました」
「そうだったんですか。ところで鈴木さんは高校は女子高ですか。それとも男女共学ですか?」
「男女共学です」
「なら、彼氏とかナンパとかされなかったんですか?」
「それは数回あります。でも相手の男の人にあまり魅力を感じなかったので付き合いませんでした」
「そうですか」
「じゃあ今度は先生の経歴を教えて下さい」
彼女が聞いてきた。
「そうですね。僕は医者になりたいと思って医学部に入ったんではありません。医者は収入がいいからという理由でもありません。僕は子供の頃から喘息で病弱で高校生の時から過敏性腸症候群が発症してしまって、自分の病気は自分で治そうと思って医学部に入ったんです」
「大学はどこですか?」
「奈良県立医科大学です。本当は家に近い横浜市立大学医学部に入りたくて受験もしたんですが落ちてしまって・・・・」
「そうだったんですか。それでどうしてコンタクト眼科クリニックの院長になったんですか?」
「僕は大学を卒業した後、Uターンして千葉県の下総精神医療センターという所で2年間、研修しました。それでその後、藤沢の130床の精神病院に就職したんですが、僕は大学の時、小説を書く喜びを知ってしまって、医者の仕事はむなしいように思うようになってしまったんです。それでそこの病院も辞めることになって。でも精神科いがいの科目はやったことがないし、楽なコンタクト眼科のアルバイトをしていたんです。それで今度、盛岡に眼科クリニックを開くから院長になって週2日、土曜と日曜日に働いて欲しいと誘われてやることに決めたんです」
「そうだっんですか。先生は地元の神奈川県のどこかの病院に勤めていて、ここでの仕事はアルバイトなのかなーと思っていました。もしかするともう結婚もしていて、ローンで家を買ったため、その支払いのためのアルバイトなのかなーと思っていました」
「いやー。僕にはそんな体力はないです。それに僕は結婚したいとも思っていません」
「どうしてですか?」
「僕は結婚とは女性を幸せにしてあげることだと思っているんです。でも僕は病弱ですし、その自信がないんです」
「先生って理想が高いんですね」
と言って彼女は微笑んだ。
「でもあなたのような人となら結婚できるかもしれないな」
山野は独り言のように笑って言った。
「ええ。私も先生のような人となら結婚したいと思っているんです」
本心なのか冗談なのか彼女もそんな事を言った。
「鈴木さんは何だか淡泊な性格ですね。それが魅力なんですが・・・」
「ええ。私、よく友達に、あなた、おっとりしているわね、と言われます」
「普通、女ってもっと、じっとしていられなくて、お喋りで一瞬たりとも黙っていられない人が多いですよ」
「ええ。私もそう思います」
そう言って彼女は微笑した。
「ところで先生は小説を書くんですか?」
「ええ。山野哲也というペンネームでホームページに書いた小説を出しています」
「そうなんですか。すごいですね。あとで読ませてもらいます」
そう言って彼女はスマートフォンを取り出すと「山野哲也」で検索した。
「あっ。本当ですね。先生って本も一冊、出版しているんですね」
「え、ええ。でも自費出版です」
「自費出版でも凄いと思います。先生は作家になりたいんですか?」
「そりゃーなれるものならなりたいですけど・・・プロ作家になるのは大変ですからね。僕にはその体力もないし、そもそも僕の気質からいってプロ作家にはなれないように思うんです」
「そうですか」
「あなたと出会えたことも一つの大きな物語ですから小説に書こうと思っているんです」
「私のことを小説に書くんですか。何だか恥ずかしいです」
「大丈夫です。あなたは素晴らしい人ですから、素晴らしい小説になると思います」
山野がそう言うと彼女はニコッと笑った。
焼き肉を食べながら、そんな事を話して山野は彼女と別れた。
そして山野はいつも泊っている駅前の東横インホテルに泊まった。
山野はストイックな性格だったので、彼女をホテルに呼ぼうと思えば呼ぶことも出来たが、それはしなかったし、したくなかった。
なぜなら山野は彼女と行きつく所までは行きたくなく、彼女を一定の距離をもった憧れの女性にとどめておきたかったからである。それは鈴木さんだけではなく、女全般に対する山野の態度だった。
・・・・・・・・・・
翌日の9:50分に山野はクリニックに行った。
鈴木さんはもう来ていて受け付けに座っていた。
「おはよう」
「おはようございます。先生。昨日の夜、先生の小説のうち、短いのを読みました。先生って恋愛小説を書くんですね。上手いと思いました」
「いやあ。恥ずかしい。僕はエッチな小説もかなり書いていますからね。あまりそういうのは読まないで下さいね」
そんな事を言って山野は院長室に入った。
10:00時になり午前中の診療が始まった。
いつものように仕事中は山野は院長室に居て彼女は受け付けにいて、患者が来るとそれぞれの仕事をした。
12:00時になり午前中の診療が終わった。
山野は受け付けに居る鈴木さんの所に行った。
もう鈴木さんも山野が何を要求しているかわかっていて、黙って微笑して立ち上がり山野と一緒に院長室に入った。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
院長室に入るや否や山野は鈴木さんを背後から抱きしめた。
そして腰を落として膝立ちになった。
「ああ。好きだ。鈴木さん」と言いながら山野は鈴木さんのピンクの制服のスカートの上からお尻に頬を押し当てた。
何て大きくて柔らかいんだろうと山野は恍惚としていた。
彼女は、ふふふ、と笑った。
「鈴木さん。ちょっとお願いがあるんですが・・・」
そう言って山野は立ち上がった。
「はい。何でしょうか?」
「これを着て貰えないでしょうか?」
山野はワンピースの競泳水着をカバンの中から取り出した。
「これ。ここのショッピングモールの中の水着売り場で買ったんです。鈴木さんの体ならМサイズで合うと思います」
「はい。わかりました」
と彼女は理由も聞かず山野の要求を受けてくれた。
山野はクルリと後ろを向いた。
女性の着替えを見るのは失礼でおもむきがないからだ。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
「はい。先生。着ましたよ」
すぐに彼女が言った。
クルリと山野が振り返ると、ワンピースの競泳水着を着た鈴木さんが立っていた。
それを見た瞬間、山野は、ああ、と感嘆した。
ワンピースの水着姿の鈴木さんがあまりにも美しかったからである。
水着はハイレグではなく、お尻もフルバックの普通のワンピース水着だが、山野は一度、鈴木さんのワンピース水着姿を見てみたいと思っていたのである。
ハイレグではなくフルバックとはいえ、女のヴィーナスの丘はモッコリと盛り上がり、フルバックは彼女の大きな尻を弾力をもって形よく収めて整えていたからである。
体のボリュームのある女は着やせするものである。
ワンピース水着の縁からニュッと弾け出ている太腿、華奢な腕、繊細な手、理想的なプロポーションだった。
山野は急いでスマートフォンを取り出して、パシャパシャと水着姿の彼女を撮った。
そして。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
と言って山野は背後から膝立ちになって、水着の縁からニュッと出た太腿を抱きしめ、お尻に頬を当てた。
「ふふふ」
と彼女は山野をいなすように笑った。
山野は健康のため屋内プールでよく泳ぐのだが、たまにプールの女の監視員や水泳好きでやって来る若い女のワンピース水着姿を見ると激しく欲情していたのである。
「ああ。鈴木さんの競泳水着姿を見たいとずっと思っていたんです」
山野は鈴木さんのお尻を水着の上からチュッ、チュッとキスした。
そして前に回って、彼女のヴィーナスの丘の部分にもキスをした。
「あん。恥ずかしいです」
と言いながらも水着ということもあってか彼女は拒まなかった。
山野はいつまでもこうしていたいと思った。
が、鈴木さんは、
「先生。今日もお弁当、作って持って来ました」
と言ったので彼女から離れた。
山野としてはいつまでも彼女に触れていたいと思っていたのだが、彼女の好意を拒むわけにもいかない。
山野はクルリと彼女に背を向けた。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
彼女は水着を脱いでピンクの制服を着ていた。
そして受け付けに行って、弁当を持って院長室にやって来た。
「はい。先生。お弁当です」
そう言って彼女は弁当を差し出した。
「ありがとう」
山野は彼女から弁当箱を受けとった。
今回は鯵のフライにほうれん草のおひたしだった。
やがて1:00時になり午後の診療が始まった。
そして19:00に診療が終わった。
「鈴木さん。今日はありがとう」
「いえ」
彼女はニコッと笑って言った。
「鈴木さん。出来たらあなたと大磯ロングビーチに行きたいです」
山野は思い切って自分の思いを告白した。
「そのためにこの水着を買ってくれたのですか?」
「いや。大磯ロングビーチに来る女の客はみんなセクシーなビキニですよ。ワンピースの水着なんか着ていると返って目立っちゃいますよ」
山野は夏、最低一度は大磯ロングビーチと片瀬西浜の海水浴場に行っていた。
もちろん泳ぐためではない。
ビキニ姿の女を見るためである。
片瀬西浜に来る女は肉体に自信のある女ばかりだが、大磯ロングビーチに来る客は遊びに来るのが目的なのである。
山野には彼女がいないので、ビキニ姿の彼女と手をつないで、ビーチサイドや海水浴場を歩いてみたい、というのが山野の夢だったのである。
「僕はあなたのようなきれいな人とビーチサイドや海水浴場を手をつないで歩くのが夢なんです。そんなこと普通の男なら簡単に出来ることなんでしょうが、僕は垢ぬけていないので、しかもネクラなので普通のことが出来ないんです」
山野は勇気を出して言った。
「じゃあ、私、先生と大磯ロングビーチに行きます。いつがいいですか?」
「ええっ。本当ですか。それは嬉しいな。大磯ロングビーチは7月は土日に行きたいですね。土日祝日は人がたくさん来ますから。出来るだけ多くの人に僕とあなたが一緒に居るのを見られたいですから」
幸い明日の7月15日は「海の日」の祝日だった。
「先生。明日は祝日ですね。じゃあ、さっそく明日、行くというのはどうでしょうか?」
「えっ。いいんですか。鈴木さんの都合は大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。私、明日は休みですし・・・」
「それは嬉しいです。じゃあ、今日、僕の家に来てくれませんか。それで明日、車で大磯ロングビーチに行くというのは」
「はい。そうします」
こうして山野と彼女は盛岡駅に行って、上りの東北新幹線に乗った。
そして二人で並んで座った。
東北新幹線は時速300km/hで走り出した。
山野は口下手なので女の子と何を話していいのかわからなかった。
なので黙っていた。
彼女もおっとりした性格で沈黙が苦痛ではない女の子だった。
その性格も山野が彼女を好きになった理由である。
鈴木さんはスマートフォンを出して山野の小説を読んでいた。
東北新幹線は仙台、大宮、上野、東京、と止まる駅が少なく2時間で東京駅に着いた。
そして東海道線に乗って戸塚で降り、横浜市営地下鉄ブルーラインで湘南台駅に着いた。
山野は湘南第一ホテルに空きがあるか、スマートフォンで聞いた。
空いていて十分、空きがあるとのことだった。
「じゃあ、鈴木さん。今日は湘南第一ホテルに泊まって下さい。明日の朝、8:00時に車で迎えに来ます」
「はい。わかりました」
そう言って二人は別れた。
山野としては自分のアパートに泊めてもよかったのだが、やはり彼女とは一定の距離をとった関係でいたかったのである。
その夜、山野は翌日、鈴木さんと大磯ロングビーチに行けると思うと至福の思いでなかなか寝つけなかった。
翌日になった。
山野は50万円で買ったホンダのライフに乗って、8:00時に湘南第一ホテルに行った。
鈴木さんはホテルのロビーにいた。
彼女は山野を見つけると、急いでフロントに行き、チェックアウトした。
「あっ。先生。おはようございます」
「おはよう。鈴木さん」
そう言って山野は助手席を開けた。
彼女が助手席に乗り込んだ。
「昨日は眠れましたか?」
山野が聞いた。
「ええ」
「それはよかった。じゃあ、行きますよ」
そう言って山野はアクセルペダルを踏んだ。
「鈴木さん。大磯ロングビーチに行ったことはありますか?」
「いえ。ないです。名前と場所は知っていますが・・・」
「そうですか。昨夜は湘南台のホテルではなく大磯ロングビーチのホテルに泊まってもらってもよかったですね。あそこのホテルからは相模湾の海が目前に見えますから・・・でもこうして、あなたとドライブしていることが僕には凄く嬉しいんです」
山野が助手席に女の子を乗せてドライブするのはこれが初めてだった。
なので山野は有頂天だった。
「先生。私、ビキニ持っていないんですが・・・」
「ははは。大丈夫ですよ。大磯ロングビーチで色々な種類のを売っていますから」
「そうですか」
そんなことを話しながら、山野は車を飛ばした。
やがて大磯ロングビーチに着いた。
もう多くの人がチケット売り場の前に並んでいた。
山野も彼女と一緒に列の後ろに並んだ。
8:30分になり、チケット売り場が開いた。
客がチケットを買ってゾロゾロと場内に入り始めた。
すぐに山野と鈴木さんの番になった。
「チケット大人二人一日券」
山野は最高の快感でそう言った。
山野は夏、最低一回は大磯ロングビーチに来ることにしているのだが、チケット売り場で「大人一人」と言う時が、恥ずかしくさびしかったのである。
他人はそうは思っていないかもしれないが、あの人ひとりで彼女いないのねー、クライわよねー、と言われているような気がしていたのである。
しかし今日は違う。鈴木さんという可愛い恋人がいるのである。
山野はチケット二人分、買うと、その一つを鈴木さんに渡した。
「有難うございます。先生」
「鈴木さん。お礼なんか言わないで下さい。お礼を言うのは僕の方です」
二人は一緒に場内に入った。
入ったすぐの所が、女のビキニ、や、男のトランクス、浮き輪、ビーチサンダル、ビニールシートなど水泳用品を売っている場所だった。山野は鈴木さんに一万円、渡した。
「さあ。鈴木さん。好きなビキニを買って下さい」
「たくさんあるんですね」
彼女はビキニをキョロキョロ見ていたが、なかなか決められなかった。
あまりカットが大きく布面積の小さいのからは恥ずかしそうに目をそらした。
「これにします」
彼女はやっとシンプルなピンク色のビキニに決めた。
「ええ。それがいいですね」
山野もその方がいいと思った。
セックスアピールを意識していない女の方が魅力的である。
シンプルなビキニを恥ずかしそうに着る方が、かえってセクシーなのである。
更衣室の前で二人は別れた。
山野はすぐにトランクスを履いてロビーに出た。
そして鈴木さんが出てくるのを待った。
ほどなくピンクのビキニを着た鈴木さんが出てきた。
彼女もすぐに山野を見つけた。
山野は思わず、うっ、と息をのんだ。
「うわっ。鈴木さん。きれいだ。セクシーだ」
山野が言った。
「なんだか恥ずかしいです。私、ビキニ着るの初めてなので。なんだか下着を着て人前に出ているような感じです」
彼女は顔を赤らめて言った。
「大丈夫ですよ。ここに来る女の人はみんなビキニですから。夏は女の人は解放的な気持ちになりますから。女の人はみんなもっとセクシーなビキニですよ」
二人は並んでロビーからプールサイドに出た。
空は雲一つない快晴で真夏の太陽がサンサンと無限の青空の中で光と熱を放っていた。
もう入場者はかなり居てビーチサイドを歩いていた。
山野が言った通り女はセクシーな露出度の高いビキニを着ている人が多い。
鈴木さんは山野の右に居る。
山野はそっと右手を鈴木さんの方に近づけた。
それは鈴木さんの左手の甲に触れた。
鈴木さんは山野の右手をギュッと握った。
山野も鈴木さんの左手を握った。
「ああ。幸せです。鈴木さん。あなたのようなきいな人とこうして手をつないでプールサイドを歩くのが僕の夢だったんです」
山野にとってはそれが長年の夢だったのである。
夢がかなえられた時の幸福感はたとえようもなかった。
普通の男にとっては彼女を作り手をつないでプールサイドを歩く、なんてことは簡単なことである。誰でも出来る。しかし山野はそういう凡庸なことが出来なかったのである。
山野は自分は今、憧れのビキニ姿の鈴木さんと手をつないでプールサイドを歩いているんだ、という事実を牛が食べ物を反芻するように何度も噛みしめた。
「ふふふ。先生。何だか私たち恋人のようですね」
鈴木さんが笑って言った。
山野はこうやってビキニ姿の鈴木さんとプールサイドを歩くことが夢で目的だったので、「ビニールシートを何処に敷きましょうか」と言いう口実で、彼女と手をつないで大磯ロングビーチの中を歩き回った。
「ここにしましょう」
「ええ」
ようやくダイビングプールの前の芝生にビニールシートを敷いた。
「鈴木さん。あなたの美しいビキニ姿を写真に撮らせて下さい」
「はい」
彼女は立ち上がった。
山野は鈴木さんに「はい。髪を搔き上げて」とか「腰に手を当てて」とか「顔を上に向けて」とか言って色々なセクシーポーズをとってもらって色々な角度からスマートフォンで撮影した。何だが女優を撮影するカメラマンになったような気分だった。
鈴木さんもまんざらでもなさそうだった。
20枚くらい彼女のビキニ姿を撮影した。
「はい。もういいです」
と言うと鈴木さんも、
「先生。どんなふうに撮れたか私にもちょっと見せて下さい」
と急いで山野の所に来た。
「わあ。恥ずかしいわ」
と言いながらも彼女も自分のビキニ姿に満足しているようだった。
その後はビーチで日光浴をした。
「じゃあ日光浴をしませんか」
「はい」
山野と鈴木さんは並んで仰向けに寝た。
こうやって女性と真夏のプールサイドで日光浴をするのが山野の夢だったのである。
彼女も真夏の太陽を浴びる日光浴を楽しんでいる様だった。
「鈴木さん。紫外線は体によくないですからコパトーンを塗った方がいいですよ」
「え、ええ」
「僕が塗ってもいいでしょうか?」
「え、ええ。お願いします」
山野は内心、やったーと思った。
山野はコパトーンを仰向けの鈴木さんの体に隈なく塗っていった。
ビキニで覆われた所いがいは全て。
彼女は山野に身をまかせているかのようだった。
鈴木さんは目をつぶって脱力して、まるで柔らかい生きたお人形さんのようだった。
仰向けの状態の彼女の体にコパトーンを塗り終わると山野は鈴木さんに、
「じゃあ今度はうつ伏せになって下さい」
と言った。
「はい」
山野に身をまかせるのが気持ちいいのか、鈴木さんはクルリと体を反転してうつ伏せになった。山野は鈴木さんの背面にもコパトーンを塗った。
ビキニの縁から出ている所は全て。
ただ単に塗るだけじゃなくて、たっぷりした肉を時間をかけて揉みほぐすように。
彼女も気持ち良さそうに目をつぶっていた。
しかし山野には性的興奮は起こっていなかった。
エロティシズムは精神と肉体が結合して起こる。
なので精神の入っていない肉体は単なる柔らかい物質に過ぎない。
「先生。気持ちいいです。何だか先生にマッサージしてもらっているようで」
彼女も夏の女がみなそうなるように夏の解放的な気分になっているようだった。
そのあと、二人でビーチサイドにある売店で、焼きそばを買って食べ、二人乗りのウォータースライダーで滑走したりして夏の一日を満喫した。
時計を見ると午後4時になっていた。
「鈴木さん。今日は楽しかったです。もう帰りましょうか?」
「ええ」
大磯ロングビーチは午後6時までやっている。
しかし鈴木さんにも明日からきっと何か予定があるだろうと山野は気をつかったのである。
山野と彼女は手をつないでロビーに向かった。
そしてお互い更衣室で着替えて出てきた。
「先生。今日は楽しかったです。夏を満喫しました」
「僕も楽しかったです」
二人は車に乗った。
山野は大磯駅まで彼女を送った。
「先生。今日は楽しかったです。有難うございました」
「鈴木さん。さようなら」
こうして二人は別れた。
山野はその夜、大磯ロングビーチで撮った鈴木さんのビキニ写真を眺めながら寝た。
・・・・・・・・・・・・
一週間経って土曜日になった。
山野は朝5:00時に起きて東北新幹線に乗り盛岡に向かった。
盛岡には9:50分に着いた。
鈴木さんはいなかった。
代わりに別の女の子が来ていた。
こういうアルバイトの交代はよくあることだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「鈴木さんはどうしたんですか?」
「盛岡仲通り店のスタッフが辞めてしまったもので鈴木さんはそっちに行くことになりました。私は千田祥子と言います」
千田祥子さんも可愛かったが彼女は鈴木さんのような、しとやかさ、がなかった。
山野は鈴木さんが来なくなったことで彼女との付き合いはこれで終わりにしようと思った。
鈴木さんは20代で若い。彼女には彼女にふさわしい若い素敵な男と付き合って欲しい。短い期間ながらも鈴木さんという素敵な人と付き合えたことだけで山野にはもう十分だった。彼女の山野に対する想いはわからないが、彼女の人の良さにつけ込んではいけないと山野は思った。
その日、中央コンタクトのエリアマネージャーがやって来た。
クリニックの院長募集に眼科専門医の先生が応募してくれたので山野には三ヵ月後に辞めて欲しいとのことだった。そして経営も医療法人としてやると言った。
山野もそのことは覚悟していた。
眼科専門医は日本眼科学会が認める専門医資格だが、5年間の眼科医としての常勤の経験と日本眼科学会が行う眼科の学科試験に通った医者である。白内障や緑内障の手術も出来る一人前の眼科医である。
山野は眼科専門医の資格など持っていないので、眼科専門医でクリニックの院長をやる人が見つかったら、辞めさせられるだろうことは覚悟していた。もっともここのクリニックはスリットランプと眼底鏡くらいしかなく、手術器具もなく、眼科専門医がやっても山野がやっても同じようなものだが、眼科専門医の方が何かと有利なのは間違いない。
中央コンタクトの方からか、山野の方からか、辞めたいと言ったら院長交代しなくてはならない、という契約書を交わしているので仕方がない。
しかしそのため仕事がなくなってしまった。
なので山野はネットにある医師の斡旋業者の募集で何か自分に出来る仕事を探した。
それで人工透析の仕事の募集があったので、それに応募してみた。
仕事の条件に「経験不問」と書いてあったし、以前から人工透析の仕事は楽と聞いていたので、どんなものかやってみようと思っていたのである。
それで人工透析の仕事をやってみた。
これが結構、簡単で楽だった。
外来の血液透析は一つのクリニックに患者が40人くらいで、「具合はどうですか?」と聞いて、カルテ記載し、透析ナースが求める臨時処方にサインするのと、緊急時に紹介状を買いて救急病院に送ることくらいだった。
これなら最初からコンタクト眼科ではなく、人工透析をやっていれば良かったと山野は後悔した。人工透析というからには、腎臓内科や人工透析の知識が必要で難しそうという先入観があったのだ。人工透析が楽だとわかって、山野も人工透析の本を5~6冊買って勉強した。
理屈がわかると面白いものである。
なので山野は今、人工透析をやっている。
しかし、盛岡でコンタクト眼科をやっていた時に知り合った鈴木さんとの思い出は山野の人生にとって貴重なものとなっている。


2025年4月9日(火)擱筆



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OLとおじさんの恋(小説)

2025-04-07 18:41:25 | 小説
OLとおじさんの恋

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2
にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。


OLとおじさんの恋

電車の中で居眠りをしている人は、夢とうつつの間の状態であり、眉を八の字にして、苦しそうな顔して、コックリ、コックリしてる。女の人だった。OLらしいが、英会話のテキストブックを持っている。きっと、海外旅行へ行くためだろう。となりには、50才くらいの、会社の中堅、(か、重役かは知らない)の、おじさんが座っている。とてもやさしそうな感じ。また、おじさんは、この不安定な状態をほほえましく思っている様子。彼女は、きっと今年、短大を卒業して就職したばかりなのだろう。まだ学生気分が抜けきらない。とうとう彼女は、おじさんに身をまかせてしまった形になった。彼女の筋緊張は完全になくなって、だらしなくなってしまった。口をだらしなく開け諸臓器の括約筋はゆるんだ状態である。脚もちょっと開いている。(とてもエロティック)おじさんは、いやがるようでもなく、かといって少しも、いやらしい感じはない。(ゆえに、この不徳はゆるされるのダ)
おじさんは山野哲男という名前で湘南台に家があり、妻と一人息子がいる。息子は東北大学医学部の6年生で来年、卒業である。だから彼女はおじさんの息子と同い年くらいの年齢なのである。
この電車は、次の駅(上大岡)で降りる人が多い。彼女もそこで降りる人かもしれない。それで、おじさんは彼女を少しゆすった。
「もし、おじょうさん」
彼女は、よほど深いねむりに入ってしまったらしく、数回ゆすった後に、やっと目をさまし、首をおこした。彼女はまだポカンとした表情で、半開きの口のまま、ねむそうな目をおじさんに向けた。おじさんが微笑して、
「だいじょうぶですか。次、上大岡駅ですよ」
と言うと彼女は、やっと現実に気づいて真っ赤になった。おじさんのやさしそうな顔は彼女をよけい苦しめた。彼女はうつむいて、
「あ、ありがとうございます」
と小声で言った。彼女は膝をピッタリ閉じて英会話のテキストをギュッと握った。彼女は、まるで裸を見られたかのように真っ赤になっている。おじさんは、やさしさが人を苦しめると知っていて彼女に、ごく自然な質問をした。
「英会話ですか?」
彼女は再び顔を真っ赤にして、
「ええ」
と小声で答えた。
「海外旅行ですか?」
つい、おじさんの口からコトバが出てしまう。彼女はまた小声で、
「ええ」
と答えた。
「ハワイでしょう」
「ええ」
この会話は、おじさんの自由意志というよりライプニッツの予定調和だった。この時、彼女の心に微妙な変化が起こった。きわめて、自然な、そして、不埒ないたずらである。彼女は早鐘を打つ心とうらはらに、きわめて自然にみえるよう巧妙に、コックリ、コックリと、居眠りをする人を演じてみた。そして、とうとう、おじさんの肩に頭をのせた。おじさんは少しもふるいはらおうとしない。安心感が彼女をますます不埒な行為へいざなった。彼女は頭の重さを少しずつ、おじさんの肩にのせて、さいごは全部のせてしまった。そして、おじさんにべったりくっついた。でもおじさんは、振り払おうとしない。彼女は生まれてはじめての最高の心のなごみを感じた。
(こんな、やさしい、おじさんと、ずーとこーしていられたら・・・)
いくつかの駅を電車は通過した。その度に人々のおりる足音がきこえた。しかしその足音もだんだん少なくなっていった。
・・・・・・・・・・・・・
やがて電車は終点の湘南台駅に着いた。
「もしもし。お嬢さん。終点の湘南台駅ですよ」
おじさんがお嬢さんの肩を揺すった。
「あ、有難うございます」
彼女は狸寝入りをしていたのだが、あたかも、おじさんに起こされたように演じた。
彼女はペコペコと頭を下げてお礼を言った。
「終着駅ですけれど大丈夫ですか?降りる駅を乗り越してしまいませんでしたか?心配していたんですけれど、あなたがあまりにも気持ちよさそうに寝ているので、つい声をかけて起こしてしまうのをためらってしまっていました。それと・・・ちょっと私もあなたのような奇麗な人に触れられているのが心地よくて・・・ははは・・・つい言えませんでした」
おじさんは屈託ない表情で笑った。
「いえ。このターミナルの湘南台駅が私の降車駅です。どうも有難うございました」
彼女はペコリと頭を下げた。
「そうですか。それはよかった」
そう言って、おじさんは立ち上がった。彼女も立ち上がった。
そして二人ならんでエスカレーターに乗って改札口に向かった。
二人はSUICAで改札を出た。
「夜道は暗いですから気をつけて下さい」
そう言って、おじさんは東口に向かって歩き出した。
「あ、あの。どうも有難うございました」
彼女は少し頬を赤らめて礼を言い西口の出口に向かって歩き出した。
・・・・・・・・・・・
ピンポーン。
おじさんは家に着くとインターホンを押した。
「はーい」
家の中から妻の声がしてパタパタと玄関に向かう足音が聞こえた。
玄関の戸が開いて妻の悦子が顔を出した。
「お帰りなさい」
「ただいま」
夫は靴ベラで革靴を脱いで家に上がった。
そして居間のソファーに座った。
「お帰りなさい。あなた。今日は遅かったわね。何かあったの?」
妻が聞いた。
「いやね。アメリカでトランプ大統領が再び選出されただろう。各国に高い関税を課すと言っているからね。我が社としては、どういう対策で対抗するかという臨時の会議があってね。それで遅くなったんだ」
「そうだったの」
「ああ。悦子。水をくれ」
言われて妻の悦子は台所に行ってコップに冷水を入れて持ってきた。
「はい。あなた」
夫は妻の持ってきた水を受けとってゴクゴクと飲んだ。
「それはそうと。あなた。会社の健康診断の結果はどうだった?」
「コレステロールが260と高かったよ。前回は240なのにさらに上がってしまったな。体重も2kg増えたよ」
夫は笑いながら言った。
「あなたは焼肉が好きだからよ。仕事の後の会合でも焼肉たくさん食べているんでしょ」
「ま、まあ。そうだけれどね」
と夫は子供のように笑った。
「ねえ。あなた。健康のためにNASスポーツクラブで水泳をしたら?水泳がダイエットに一番いいと浅野浩二先生が言っていたわ」
「水泳か。面倒くさいなあ。それにNASスポーツクラブに入会すると入会金と月会費も払わなくちゃならないんだろう?三日坊主で終わっちゃいそうな気がするな」
夫は独り言のように言った。
夫は妻が近くのNASスポーツクラブに入ってランニングしたり筋トレしたりしているのを知っていた。
「ううん。そんなことないわ。NASスポーツクラブは一人、入っていれば、その家族や友人も使うことが出来るのよ。だから、あなたはタダで使うことが出来るわ」
「え、そうなの?」
「ええ。そうよ。もう、あなた用に水泳用トランクスとキャップとゴーグルも買っておいたわ」
そう言って妻はそれらを夫の前に出した。
「用意がいいなあ。でもどうしてそんなにダイエットにこだわるんだ?」
夫が聞いた。
「そりゃー。私が生涯の伴侶として選んだ人ですもの。長生きして欲しいし。いつまでも若々しくいて欲しいわ。水泳をすると新陳代謝が活発になって、そのおかげで私、肌もつやつやだわ」
実際、妻はNASスポーツクラブで運動しているため、20代の頃のプロポーションを維持していた。
「わかったよ。仕方がないな。じゃあ今度の日曜に行ってみるよ」
こうして夫は妻の作った夕食を食べ、そして翌日の仕事のために寝た。
夫は妻との営みはしなかった。
毎日のデスクワークで疲れて、その気になれなかったのである。
妻には夫が運動して新陳代謝がよくなれば、その気にもなってくれるかもしれない、という思いもあった。
・・・・・・・・・・・・・
さて。その週の日曜日になった。
「さあさあ。あなた。NASスポーツクラブに行ってらっしゃい。最低5時間は泳ぐのよ。あそこは日曜日は子供のスイミングスクールが無いからすいているわよ」
妻は学校嫌いの子供を送り出すように言った。
「わかったよ」
妻に背中を押されるように夫は家を出た。
夫はデイパックに、妻が夫のために買った水泳用トランクスとキャップとゴーグルと運動靴とタオルを入れて、自転車に乗ってNASスポーツクラブに行った。
夫はエレベーターで3階に行った。そしてロッカーに脱いだ着物を入れ、水着を着て2階に降りた。NASスポーツクラブは3階がロッカールームと風呂、サウナであり、2階が屋内プールだった。妻の言った通りプールはすいていた。
5レーンある25mプールに利用者は3~4人ほどだった。
夫はプールに入り泳ぎ出した。
夫は水泳は嫌いではなかった。しかしそれは夏に50mの屋外プールで10回くらい泳げばそれでよく、屋外プールをやっていない季節に、わざわざ、25mのプールで泳ぎたいとは思っていなかった。しかし有酸素運動の不思議な作用で、泳いでいるうちに脳内にβエンドルフィンが分泌され出したのだろう。だんだん気分が良くなってきた。
夫は25mをクロールで泳ぎ、25mを平泳ぎで泳いでいた。
・・・・・・・・・・・・
2時間くらい経った頃だろうか。
山野はプールから出て、プール室内のベンチに座って一休みしていた。
その時である。
プールの入口の方から紺色のワンピースの水着を着た若い女性が入って来た。
(う、美しい)
と山野は思わずため息をついた。
山野の視線が彼女の体に向けられているので彼女もそれを感じとって山野の方を見た。
「あっ」
という声が山野と女の両方から出た。
彼女はまだスイミングキャップをかぶっていなかったので、お互いの顔は一目でわかった。
彼女は数日前に電車の中で眠ってしまって山野の肩に頭を乗せて終点の湘南台駅まで隣り合わせに一緒に並んでいた女性だった。
彼女の方でもベンチに座っている男が電車の中で肩を乗せていた優しい、おじさん、ということにすぐに気がついた。
彼女はベンチに座って一休みしている山野に近づいてきた。
「あっ。先日は失礼しました」
と彼女は笑顔でペコリと挨拶した。
「あっ。いえ。こちらこそ」
山野もへどもどして挨拶した。
彼女はさり気なく山野の隣に座った。
「いやあ。奇遇ですね。こんな所でお会いするなんて」
山野が笑って言った。
「そ、そうですね」
彼女も山野に合わすように微笑して言った。
「あ、あの。あなた様はここのスポーツクラブの会員なのでしょうか?」
山野が聞いた。
「え、ええ。私、こっちに越して来て、まだ日が浅いのですが近くのスポーツクラブに入ってみようと思いまして・・・ここに入会しました」
「そうですか。あなた様はここのスポーツクラブの会員なのですか?」
彼女が聞いた。
「い、いえ。妻がこのクラブに入会しているんです。一人入会すれば、その人の友人、知人もここを利用できますからね。運動不足なものなので妻にプールに行って泳いできなさいと言われてしぶしぶ来てみたんです」
山野が言った。
「そうだったんですか」
そう言って彼女はニコッと微笑んだ。
彼女のワンピースの競泳水着姿は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
競泳水着はただでさえ美しい女の肉体をピッチリと少しきつめの弾力によって絞めつけるように女の肉体を引き締めていた。それが女の体を美しく見せる効果を発揮していた。
特に女の股間の肉をしっかりと収めて引き締めて、ほどよく出来て上がっている小さな盛り上がり(ヴィーナスの丘)と、競泳水着のクッキリした輪郭からニュッと露出している太腿は小心な山野を激しく刺激した。
山野の心臓は興奮でドキドキと高鳴った。
「い、いやあ。お美しいですね」
山野は少し赤面して言った。
「いえ。そんなことないですわ」
彼女は、ふふふ、と微笑んで言った。
彼女は山野に名前を聞いてみようという気持ちになっていた。
「あ、あの。お名前は何と言うんでしょうか?」
女が聞いた。
「私は山野哲男といいます」
彼女が名前を聞いてきたので、山野はここぞとばかり彼女にも名前を聞いた。
「あ、あなたのお名前は?」
「私は佐藤京子と申します」
彼女はニコッと微笑んで言った。
お互い名前を教え合ったことで二人の気持ちは少しほぐれていた。
「佐藤さんはどうしてスポーツクラブに入っているんですか?」
山野が聞いた。
「私、小学生の時、体が弱くて水泳の授業に出れなかったんです。でも泳げている人を見ると羨ましくて。私も泳げるようになりたいなと思っていたんです。私、海が好きで人魚のように海を自由に泳ぎ回れるようになりたいという憧れがあるんです」
彼女は照れくさそうに言った。
「ふーん。佐藤さんはロマンチックなんですね」
「そうかもしれません。もちろん現実に人魚になることなんて出来ないですから、それは無理です。でも夏に屋外で50mプールを何時間でも泳げるようになりたいな、とは思っているんです」
「そうですか。僕も夏、屋外の50mプールで長時間泳いでいると確かに海を自由に泳ぎ回っているような感覚になりますからね」
「山野さんはクロールで泳げるんですね?」
「ええ。泳げますよ」
「うらやましいわ。私クロールは下手なんです。遅い平泳ぎがちょっと出来る程度なんです。平泳ぎなんてカエルみたいで格好よくないですね。やっぱりクロールで泳げるようになりたいと思っているんです」
彼女と話しているうちに山野はだんだん彼女の泳ぎの実力を知りたくなってきた。
しかしその前に自分がクロールで泳ぐ姿を彼女に見せて自慢したい気持ちが起こった。
「じゃあ、ちょっと泳ごうかな」
山野はさりげなく独り言のように言ってプールに入った。
そしてプールの壁を蹴ってクロールで泳ぎ出した。山野はいかに速く泳ぐかではなく、泳ぎのスビートは全力ではなく少しセーブして、バシャバシャ水飛沫をたてないように意識した。
エントリーでも水飛沫を立てないように、スーと入水し、バタ足もバシャバシャと水飛沫を上げないで、それでいて、可能な限り速く泳いだ。華麗なクロールを彼女に見せて得意になりたかったのである。
25mを1往復して元の所にもどると山野はプールから出た。
そして京子の座っているベンチに腰掛けた。
「わあー。山野さん。上手いんですね。スーと魚が泳いでいるみたいだわ」
京子は一切の夾雑物のない羨望で山野の泳ぎを誉めた。
「いやー。僕は小学生の頃、親に言われてスイミングスクールに通わされましたからね。泳げるのは当たり前ですよ」
山野は謙遜して照れくさそうに言った。
「じゃあ、今度は京子さんの泳ぎを見せてくれませんか?」
山野はソフトに言った。彼女はクロールは出来ず遅い平泳ぎしか出来ないと言ったから山野は気をつかったのである。
「はい。下手ですけど笑わないで下さいね」
そう言って彼女はベンチから立ち上がった。
山野は思わず、うっ、と声を洩らしそうになった。
なぜなら、彼女の体に弾力をもってピッチリと貼りついている競泳水着の後ろ姿がもろに間近に見えたからである。競泳水着はハイレグではなく、フルバックだったが、ほどよく脂肪の乗った女の柔らかい体を小さな面積の布で絶えず窮屈そうに縮むように貼りついているだけのワンピース水着は裸以上に女の体を美しく引き締めて見せる効果を発揮していた。
絶えず縮もうとする僅かな面積の布の中に豊富な量の女の肉を窮屈そうに収め込んでいるワンピース水着姿の女はこの上なく美しかった。
・・・・・・・・・・・・
彼女は長い髪をスイミングキャップの中に入れた。
そして目にゴーグルをかけた。そしてプールの中に入った。
彼女は平泳ぎでゆっくり泳ぎ出した。
まだ十分、水のキャッチが出来ていない。水は粘度のある流体であり水泳が上手くなるとは水をしっかりとつかめるようになることなのである。しかし、ゆっくりではあっても彼女は25mプールを一往復してもどって来た。
彼女はプールの底に足をついてプールの中から顔を出した。
「これが私に出来る精一杯なんです」
彼女は目からゴーグルを外して山野に言った。
彼女はハアハアと息を切らしていた。
「いやあ。平泳ぎはしっかり出来ていますね」
そう言って山野もプールに入った。
「佐藤さん。クロールは出来ますか?」
「ええ。でも全然ダメです」
「ちょっとクロールで泳いでみて貰えませんか?」
「はい」
彼女は目にゴーグルをかけ、壁を蹴ってクロールで泳ぎ出した。
水のキャッチが出来ていないので入水した手を強く下へ押すことによって顔を必死に上げ呼吸している。バタ足も下半身が沈まないように、バタバタとあわてて蹴っているので、お世辞にもきれいなクロールとは言えなかった。それでも何とか25mプールを往復して50m泳いでもどってくることは出来た。
彼女は壁にタッチするとプールの底に立って水中から顔を出した。
ハアハアとかなり息が荒かった。
「下手でしょう。これが私のクロールの限界なんです」
彼女はハアハアと荒い呼吸をしながら言った。
「いやあ。水泳の初心者はみなそうですよ。僕も最初はそうでした」
山野が言った。
「私、You-Tubeでクロールの動画をいくつも見てみました。さかんに水をキャッチすると言っていますが水のキャッチってどういうことなんですか?水をつかまえるってどういうことなんですか?」
彼女が聞いた。
「まあ、それはちょっと説明が難しいですね。水を掻き出す時、掌に水の抵抗がグッとくるような感覚のことなんですけれど・・・」
「それでは。どうすれば、その水のキャッチというものが出来るようになるんですか?」
彼女が聞いた。
「それは、今の泳ぎ方でいいですから根気よく続けること・・・その一言に尽きます・・・・そうすればいつか、水をキャッチ出来るようになります。僕もそうでした。難しく考える必要はありませんよ」
山野は言った。
「運動は根気よく反復練習しているうちに、雨だれが岩をも穿つように、体の動きがその運動の動作に順応していくものなのです」
山野はそう説明した。
「そうですか。それを聞くと何だか安心しました」
彼女はニコッと微笑んだ。
山野は何だか彼女のコーチになったようで嬉しかった。
「ただ。反復練習して疲れてきたら少しインターバルの休みを入れて、疲れをとってから再び練習した方がいいです。疲れている時にがむしゃらに泳いでも上達の効果はあまり期待できませんからね」
と山野はアドバイスした。
「そうですか。それではこれからそういうふうに練習するようにしてみます」
上手く泳げている山野のアドバイスなので京子は山野のアドバイスの理論的な意味はわからなかったが彼の意見に従おうと思った。
山野は、バタ足はムチのようにしなやかに、だとか、S字プル、や、息継ぎはどうだのこうこうだの、だとか、だのの些末的な事は言わなかったし言いたくもなかった。
なので言わなかった。世のスポーツコーチはやたらと、そんな事をくどくどと説明したがるものなのだが、そんなことは反復練習して上手くなっていけば自然とそうなっていくからだ。その点において山野は世のスポーツコーチをスポーツの理論がわかっていない頭の悪い人間だとバカにしていた。
「僕は妻に最低、5時間は泳ぐように言われていますので、あと2時間は泳ぎます」
そう言って山野は目にゴーグルをかけた。
「じゃあ私も一緒に泳ぎます」
彼女が自分についてきてくれることが山野にはこの上なく嬉しかった。
彼女もゴーグルをした。
山野は平泳ぎでゆっくりと泳ぎ出した。
京子も山野のあとを追って平泳ぎで泳ぎ出した。
同じレーンの中を山野と京子は往復して泳いだ。
ゴーグルはマジックミラーの役割りをするので彼女には山野の視線がわからない。
山野はその利点を生かして水中で揺らめくワンピース水着姿の京子の肉体を思うさま眺めた。当然、山野の方が泳ぎが速く京子はゆっくりなので、山野と京子の距離は開いていった。
山野は平泳ぎで泳いでいる京子の2mくらい後ろになると、泳ぎの速度を京子と同じにした。
京子が平泳ぎで足を後方に開いて蹴る時に、下肢がパックリと開き、水着で隠されている京子の股間がもろに見えた。水圧が京子の柔らかい太腿を揺らめかしていた。
その光景はとてもエロティックで悩ましかった。
山野は、こんなことはもう二度とないかもしれないと思い、しっかりと目に焼きつけるように、とろけるような快感と共に、しっかりと水着が貼りついている京子の股間をゴクリと息を呑みながら眺めて泳いだ。
しかしあまりそればかりしていると京子に不埒な企みを気づかれてしまうことをおそれ、山野は速度をあげて京子を抜いた。あくまでそんな企みは無く、純粋に有酸素運動としての水泳に励んでいるように装った。京子も山野の密かな企みには気づいていないように見えた。
京子は時々、クロールでも泳いだが、山野にアドバイスされたように疲れると時々、プールの端に着いて立ち止まって休みをとっていた。それも山野には無上の光景だった。
ワンピース水着で覆われている京子の股間の盛り上がりを水中でまじまじと見ることが出来るからである。恥肉を窮屈に収めてこんもりと形よく盛り上がっている女の悩ましい股間のふくらみ(ヴィーナスの丘)を山野は無上の幸せで眺めた。もちろん、そんな不埒な目的は無く純粋に有酸素運動としての水泳に励んでいるように装ったが。京子も山野の密かな楽しみの企みには気づいていないように見えた。
ふと見ると屋内プールの時計が6時を示していた。
NASスポーツクラブはウィークデーは夜11時までの営業だが、日曜は夜8時までの営業だった。
(よし。今日はこれくらいにしておこう)
壁にタッチすると山野は立ち止まってターンして泳ぎをやめた。
京子が平泳ぎでもどってきた。
京子も泳ぐのをやめた。
「京子さん。私は今日はこれで帰ります」
山野は京子に言った。
「じゃあ私も今日はこれで帰ります。疲れてきましたし・・・」
京子は微笑して言った。
二人はプールから上がった。
山野としては本当はもっと京子のワンピース水着に包まれたセクシーで美しい体を見ていたかったのだが、それを彼女にさとられないように、自分の方から「やめる」と言い出したのである。
二人は更衣室のある3階に上がった。
左側が男性更衣室で、右側が女性更衣室だった。
「山野さん。今日は色々とためになるアドバイスをして下さり有難うございました」
そう言って彼女は頭を下げた。
「いえ。嫌々ながら来てみましたが、奇遇にもあなたと出会えて私の方こそ楽しかったでした」
山野も笑顔で言った。
「あ、あの。山野さん」
「はい。何でしょうか?」
「またお会いしたいですね。今まで一人で泳いでいましたが、二人の方がモチベーションが上がってやる気が出るような気がします」
「私もです」
「山野さんは今度はいつ来られますか?」
「そうですね。スケジュール表にもありますが、平日は子供のスイミング教室でいっぱいなので、また来週の日曜日にでも来ようかと思っています」
「それはラッキーです。私もいつも日曜日に来ているので・・・また来週の日曜日にお目にかかりたいですね」
・・・・・・・・・・・・・・・
お互い笑顔で「さようなら」と言って二人は別れた。
山野は彼女に「ちょっとお食事しませんか」とか「よろしかったらアドレスを教えてくれませんか」とは言わなかった。山野の気持ちとしては熱烈にそうしたかったのだが、山野はいい歳してシャイなので自分が京子に熱烈に恋焦がれているということをさとられたくなかったのである。あくまでたまたま出会った女性と親しくなったと彼女に思わせておきたかったのである。歳も親子ほど離れているし、山野には妻も一人息子もいる。京子には彼女と同い年くらいの若者と親しくなって幸せになって欲しいと思っていたのである。
NASスポーツクラブにはいくつもの風呂がありサウナもあった。
山野は体を洗ってジェットバスや薬湯に浸かった。
おそらく彼女も風呂やサウナに入っているだろう。せっかくあるのに利用しない理由はない。
山野は想像力過多なので、彼女が着替えする姿や体を洗っている姿が頭に浮かんできた。
山野は10分ほどサウナに入ってからロッカールームで服を着てNASスポーツクラブを出た。
すると薄いブラウスに白いスカートを着た女性が自転車に乗って湘南台駅の方に向かっていく後ろ姿が見えた。京子さんだった。後ろ姿でも彼女のプロポーションや洗いたての長い黒髪からそれはわかった。山野は丁度いいタイミングで彼女がNASを出たことに感謝した。
山野は自転車に乗って彼女に気づかれないように、十分な間隔の距離をとり、彼女の跡を追った。彼女は山野の今までの態度から尾行されているとは思っていないのだろう。後ろを気にしたり振り返ったりする様子は全くなかった。湘南台駅の周辺は車の通行をスムーズにするためだろう、駅の近くには踏切りがなく、小田急線の下をくぐる車道が駅から少し離れた所に作られていた。彼女は湘南台駅の西口に住んでいる。
東口から西口に出るには湘南台駅の地下を通るのが一番の早道である。
山野は彼女に気づかれないように自転車で彼女を追った。
予想通り彼女は地下に入る坂道の前で自転車を降りて自転車を押しながら湘南台駅の地下に入って行った。山野も彼女に気づかれないようにあとを追った。
湘南台駅の地下には広いスペースがあって、いつも若者が集まってヒップホップダンスをしていた。しかし少し前から時々、ピアノが置かれている時も出てきた。ストリートピアニストのハラミちゃんの影響だろう。全国の大きな駅にはかなりストリートピアノが置かれるようになった。ストリートピアノは誰でも自由に演奏していいのである。
彼女はストリートピアノを見つけると自転車を止めた。演奏者はいなかったので、彼女はストリートピアノの椅子に腰かけた。ピアノの前には椅子が10個ほど並んでいて彼女がピアノの前に座ると、通行人が数人、椅子に座った。彼女は鍵盤にしなやかな指を乗せ、リストの愛の夢・第3番を演奏し出した。しなやかな指が腱板の上で力強く踊った。山野はピアニストの演奏の巧拙はわからなかったので、彼女の演奏がプロ級なのかそれとも趣味レベルのものなのかは判別できなかった。しかし間違えることなく、よどみなく美しいメロディーを奏でることが出来ることから、かなり上級者なのではないかと思った。演奏が終わると皆がパチパチと拍手した。彼女は立ち上がって皆に一礼し、自転車を押して西口を出た。
山野も彼女のあとを追った。
もう日が暮れて真っ暗だった。
彼女は円行公園の隣にある賃貸アパートの一室に入った。
部屋の明かりがポッと灯った。
山野は内心しめしめと思った。彼女がどこに住んでいるかは山野にとっては咽喉から手が出るほど知りたかったことだったからである。彼女には彼女の生活があり、山野は彼女の生活にズカズカ入り込んで行く気は全くなかったが、彼女との縁はどうしてもつなげておきたかったのである。
・・・・・・・・・・・・・
山野は自転車に乗って家にもどった。
「お帰りなさい。あなた」
妻が玄関に出迎えた。
「ただいま」
夫は家に上がった。
そしてソファーに座った。
「あなた。もう10時よ。こんな時間に帰って来るということは、ちゃんと5時間以上、泳いだということなのね?」
「ああ。お前の言う通りちゃんと5時間以上、泳いださ」
「立派。立派。よく頑張れたわね」
妻は子供を誉めるように言った。
「どうせつまらないだろうという予想は外れるものだね。やってみると結構、いいことがあるものだね」
「何?いいことって?」
「つまりだね。有酸素運動を長時間、続けていると脳からβエンドルフィンが出るのだろう。ランナーズハイと同じでね。お前もNASでランニングを続けられるのはβエンドルフィンが出て気分がハイになるからだろう」
「ええ。そうよ。ところであなた。夕食はまだでしょ。今日はステーキにしたわ。いますぐ焼きますわ」
夫は妻を見た。運動しているのでプロポーションは20代の頃をキープしている。
というより妻は絶対20代のプロポーションを維持しようという強固な意志を持っていた。
「いや。夕食はいい」
「どうして?」
「食欲が起こらないんだ」
「有酸素運動では、息が切れる寸前の強度(最大酸素摂取量の60%前後)を超えると、運動誘発性食欲不振が生じやすくなるらしいわ。少しの運動では返って食欲が亢進してしまうから逆効果だけど、あなたは頑張ったから、きっと運動誘発性食欲不振が起こったのね」
夫はあらためて妻の悦子をまじまじと見た。
初めて悦子を見た時は、世の中にこれほど美しい女性がいるだろうかと山野の頭は悦子のことだけで一杯になった。美しい女に対する恋愛と性愛に山野は毎日、悩まされた。
しかし結婚して10年以上も経つと、初心の頃の熱い想いは徐々に薄れ、男の関心事は女から離れて仕事になるようになった。それは男の宿命である。
妻とは夫が働く傍らで買い物をし、食事を作り、育児、家事をこなすハウスキーパーという感覚に落ちていくものである。
だから世の中では不倫が絶えないのである。
「ど、どうしたの?あなた」
夫になぜかまじまじと見つめられて妻は、その訳がわからなかったのである。
「悦子。お前はワンピース水着をもっているだろう?」
夫が聞いた。
「え、ええ」
「じゃあ、ワンピース水着に着替えてくれないか?」
「ど、とうして?」
「まあ理由なんていいじゃないか」
「わ、わかったわ」
夫は妻を連れて二階の寝室に入った。
「さあ。悦子。ワンピース水着を着てくれ」
夫に言われて妻は引き出しを開けて黄色のワンピース水着を取り出した。
そして着ている服を脱いでワンピース水着を着た。
妻はスポーツクラブでしっかりとランニングしているので、その肉体は20代の時と変わらぬ美しいプロポーションを保っていた。
「うっ。美しい」
夫はそう言うと妻の後ろに回って水着に包まれた妻の尻に唇を当て、チュッ、チュッとキスをした。
そして今度は妻の正面に回り、太腿を抱きしめて、もっこり膨らんでいるヴィーナスの丘や太腿に貪るように、チュッ、チュッとキスをした。
「あ、あなた。どうしたの?いい歳して?」
妻は夜、夫婦の営みに誘っても「疲れているんだ」と言って全然のってきてくれない夫に不満を持っていた。それがどうしてこのように急に性欲旺盛になったのか、わからなかった。
しかし理由はわからなくても久しぶりに夫に愛撫されて妻は、くすぐったい嬉しさを感じていた。
「ふふふ。あなた。一体どうしたの。こんな子供じみたことをするなんて?」
妻は笑いながら言った。
しかしもちろん夫にはその理由がわかっている。
今日、長い時間、京子さんのワンピース水着姿をじっくり見てしまったことが夫に激しい若返りの回春効果をもたらしていたのである。
「ああ。京子さんのワンピース水着姿は何とセクシーなんだろう」
と夫は悩まされ続けた。しかし夫はスポーツに励む仲間という関係を装い続けて決して、彼女に恋してしまった内心は打ち明けなかった。
また夫は彼女に対し男女間の関係を持つことを自分に厳しく禁じていた。
妻子のある歳のいったオッサンと若い女性の恋など美しくない。
若く美しい女性は彼女にふさわしい若く逞しい男と若く美しい人生を築いて欲しいと思っていたからである。
京子さんの美しいワンピース水着姿の体に触れたいという本能的欲求と触れてはいけないという理性の葛藤に夫は激しく悩まされ、それが夫に強力な性欲亢進をもたらしたのである。
それは京子だけではなく女一般のワンピース水着姿に対しても同様だった。
京子さんのワンピース水着姿に触れることは出来ないが妻に対してなら出来る。
夫は妻の体を京子さんの体だと思い込もうとしていた。
女の体の構造に違いはない。
夫は今、妻を京子さんだと思い込んでいた。
したくても出来なかった欲求不満が解放された時ほど男の性欲が満たされる時はない。
夫は妻の太腿を抱きしめて、尻や、もっこり膨らんでいるヴィーナスの丘や太腿に貪るように、チュッ、チュッと激しくキスをし続けた。
しかし、理想とするものが手に入らない時に似たようなものを代わりにして満足する代償行動をしている夫の心が妻にはわからなかった。
「ふふふ。あなた。一体どうしたの?」
妻には夫の心がわからなかったが久しぶりに熱烈に愛撫されることに妻はくすぐったい喜びを感じていた。
その晩、夫の命令で妻はワンピース水着を着たまま眠らされた。
夫にとっては裸よりそれが一番、興奮する姿だったからである。
夫はワンピース水着を着た妻を抱いた。
・・・・・・・・・・・・・
翌朝。
妻の作った朝食を食べ、「じゃあ出かける」と言って山野は家を出た。
「あなた。いってらっしゃい」
と妻も久々に夫に愛撫されて嬉しそうに夫を見送った。
その日は、山野は今度の日曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。
会社でも、京子のワンピース水着姿で頭が一杯だった。
なので仕事も手につかなかった。
会社が終わった。
山野は帰りにNASスポーツクラブに寄った。
佐藤京子が着ていたワンピース水着はNASスポーツクラブで売っているものなので、それと同じ物を買って妻に着せたいと思ったからである。
「あっ。山野さん。佐藤京子さんがついさっき、あなたが来たら渡して欲しいと言って封筒を置いて行きました」
そう言ってNASの受け付け嬢が山野に封筒を渡した。
山野はすぐに封筒を開けて見た。
「山野さん。今週の日曜日には初夏の鎌倉を一緒に歩きませんか。12時に日曜日に鎌倉駅前の喫茶店ルノアールで待っています。佐藤京子」
と書かれてあった。
(ああ。彼女も私に好意を持っていてくれたんだな)と嬉しくはあった。
しかし。山野にはそれを素直に喜べない複雑な感情が起こっていた。
自分には妻も子もいる。彼女には将来がある。彼女には彼女にふさわしい若い男と人生を築いて欲しい。しかし、彼女との縁も切りたくはなかった。どうしたらいいか。迷っている山野にふと息子のことが思い浮かんだ。そうだ。息子は東北大学医学部を来年、卒業する。まず医師国家試験にも通るだろう。息子はオレと同じように真面目な性格だ。オレの代わりに、息子に今度の日曜は喫茶店ルノアールで会ってもらおう。もし彼女と親しくなれたらこれ以上に嬉しいことはない。
そこで山野は息子の修一に電話をかけた。
「おい。修一」
「なんだ。おやじ?」
「国家試験は大丈夫か?」
「ああ。模擬試験でも80点はキープしているよ。まず大丈夫だと思う」
「そうか。ところで今週の日曜なんだが、こっちへ来ないか」
「なんで?」
「会って欲しい人がいるんだ。お前。恋人はいるか?」
「いないよ」
「じゃあ、今週の日曜、鎌倉駅前の喫茶店ルノアールに行ってくれないか。そこに佐藤京子という人がいるから」
「どんな人なの?」
「しとやかで、つつましくて、きれいな人だ。社会人になりたての人だ」
「おやじとどういう関係の人なの?」
「同じ湘南台に住んでいてな。NASスポーツクラブで知り合って親しくなったんだ。お前とは同い年くらいだ。僕は山野哲男の息子です。父が急に用が出来たので父の代わりに来ました、と言えばきっと会ってくれると思う。奇麗で優しい人と二人で鎌倉を散策しないか?」
「その人はおやじにそう誘ったんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、どうしておやじが合わないんだ?」
「オレには愛する妻がいる。オレは妻を愛しているし妻もオレを愛している。オレが彼女と親しくなり過ぎると妻を悲しませることになるだろう。それに彼女とは親と子ほど歳も離れている。彼女には若い者どうしで素敵な未来の人生を送って欲しいんだ。お前と彼女が親しくなってくれれば、オレにとってこれに越したことはないんだ。どうだ?」
「わかったよ。見合いだと思って会ってみるよ」
「そうか。じゃあ、オレの代わりに彼女と会ってくれ」
「わかった。そうするよ」
・・・・・・・・・・・・・・・
日曜日になった。
山野はその日、京子さんのいないNASスポーツクラブに行って5時間、泳いだ。
一人きりだが、有酸素運動も一定の時間、泳ぎ続けてるとβエンドルフィンが出て気分がハイになることを前回知ったからだった。
1時に山野は息子にスマートフォンで電話をかけてみた。
「修一。どうだ。佐藤京子さんとは会えたか?」
「ああ。会えたよ。今、鎌倉駅前の喫茶店ルノアールで彼女と色々と話をしている所だよ。これから鶴岡八幡宮に行く所さ」
「そうか。それはよかったな。ところでお前、今日はこっちへ泊っていくか。それとも仙台に帰るか?」
「仙台に帰るよ。明日も臨床実習が9時からあるからね」
「そうか」
そう言って山野は電話を切った。
そして泳ぎ続けた。
・・・・・・・・・・・・
その日の夜遅く。
山野は息子に電話をかけた。
「どうだった。今日は?」
「レンタカーで鶴岡八幡宮や大仏、由比ヶ浜、江ノ島などに行ったよ。僕が山野哲男の息子です、と言ったら、彼女はとても喜んでくれたよ。彼女とは親しくなれそうだ」
「そりゃーよかった。しかしよく初対面のお前に彼女は親しくしてれたな?」
「おやじ。今だから言うけど、彼女とは初対面じゃないんだ」
「ええっ。どういうことだ?」
「実はね。先月、家に帰ってきたことがあったろう。あの時、横浜市営地下鉄ブルーラインに乗ってもうすぐ湘南台だなと思っていた時だったんだ。彼女がしょんぼりして悲しそうな様子だったもので、何かあったんですか、と聞いてみたんだ。その前に彼女が湘南台駅の地下のストリートピアノを弾いていたのを見たことがあって、ちょっと話したこともあったんだ。それで、あっ、ストリートピアノを弾いていた人ですね、と声をかけてみたんだ。彼女も悩み事を誰かに聞いて欲しそうな態度だったんで、湘南台駅を降りたら、少し話しませんかと言って駅前のマクドナルドに一緒に入ったんだ。そして少し話したんだ」
「そうか。そんな事があったのか」
「聞く所によると彼女は大学を卒業して、ある会社に勤めたばかりの頃だったんだが。在日朝鮮人であることがわかってしまってね。その会社は社長が在日朝鮮人を嫌っていてね。彼女は友達も出来ず一人ぼっちでさみしいことを涙ぐみながら話したんだ。可哀想になってね。だから、スマートフォンで父親の写真を見せたんだ。そして、父親は在日朝鮮人を差別するようなことはしない優しい性格ですよ、会社からの帰りは夜10時の横浜市営地下鉄ブルーラインに乗って帰ってきますよ、と言ったんだ。彼女はきっとおやじにも話しかけるんじゃないかと思ってね。案の定、彼女はおやじと親しくなったな。きっとこんなことになるだろうことは、うすうす予想していたよ」
「そうだったのか。そんなこととは知らなかったよ」
「今日は京子さんと鎌倉めぐりが出来て本当に楽しかったよ」
「そりゃーよかったな。ところでお前、卒業したらどうするんだ?当然、東北大学医学部のどこかの医局に入るんだろう」
「それはまだ決めていない」
・・・・・・・・・・・・・・
修一は翌年、無事、東北大学医学部を卒業した。
そして医師国家試験にも通った。
山野は修一に医局は東北大学医学部ではなく横浜市立大学医学部に入るよう勧めた。
修一もそれに納得してくれた。
しかし修一が彼女にそれを伝えた所、彼女はそこまで私の都合を優先させてしまっては申し訳ありません、私が仙台に引っ越します、と言った。
彼女は仙台に引っ越し、仕事も仙台で見つけ、修一の近くにアパートを借りて住んでいる。


2025年3月21日(金)擱筆

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松戸市。ロットによる死亡率

2025-04-05 22:02:08 | 医学・病気
松戸市。ロットによる死亡率

みのり先生による診察室

ワクチンロット差


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好きな「短編映画」

2025-03-18 02:33:23 | Weblog
好きな「短編映画」

面白い「短編映画」はない。

恋愛ものはイチャイチャするだけでつまらん。

それでも少しはいい物もある。

「転校生」

私もただの女の子なんだ

いじめ

いじめ②


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ヒップヒンジ

2025-03-17 11:20:19 | 医学・病気
ヒップヒンジ。

背中の調子が良くないので調べたら「ヒップヒンジ」というのが出できた。

股関節が硬くなったのを無理にストレッチしたり背筋を鍛えたりしたが効果がなかった。

で調べたら「ヒップヒンジ」というのが出てきた。

さっそくやってみたが効果がある。

方法を誤った努力は無意味。

ヒップヒンジで股関節まわりの動きが良くなり、お尻の大殿筋やモモ裏のハムストリングスを上手く使えます。 大殿筋やハムストリングスをうまく使えるようになると、下半身の強化や姿勢を安定させる力が身につき、パフォーマンス向上の効果が期待できますよ


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【LIVE】全国一斉で財務省解体デモ 霞が関から生中継(2025年3月14日)

2025-03-14 17:33:38 | 政治
【LIVE】全国一斉で財務省解体デモ 霞が関から生中継(2025年3月14日)

全国で今日、今、行われている「財務省解体デモ」にでも参加したらどうだ?

無理か。

頭の中お花畑の連中には。

なっさけな。

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今年初仕事

2025-03-14 08:58:33 | 医学・病気
今年初仕事。

信じられないようだが今年働くの初めて。

朝8:00~夜11時の15時間勤務。

なんせ今まで一度も大学医学部の医局に所属したこともないし、ナントカ専門医というモノも何も持っていない。

ナントカ学会にももちろん何一つ入っていない。

もちろん医学博士号なんて持っていない。

私が持っているのは医師免許だけである。

そもそも世間では誤解しているが・・・・。

医学博士号というのは、ほとんど価値ゼロ。

医者なら100%全員もっている。

医学博士号というのは代筆なんて当たり前、引用回数ゼロの、教授が認めりゃ誰でも取れるもの。

手塚治虫は漫画家としては天才だが、博士号は単に電子顕微鏡でタニシの精子をスケッチしただけ。

こんなの医学生の解剖学の組織学のスケッチじゃねーか。

医学博士号というのは医者の肩書きにハクをつけるのが目的なだけ。

特に開業した時には待合室に医学博士号を御大層に額縁に入れて飾っておけば、「ああ。ここの先生は医学博士なのだな。研究熱心なのだな。なら安心して受診できる」というクリニックの経営、集客集めなのが目的なだけ。

バカほどそういうモノを欲しがる。

医学博士とは普通の医師より優れているのですか?

NATURE、サイエンスの論文だって無価値のクズ論文ばかり。

NATURE、サイエンスの論文の9割はウソ(本庶佑)

医者にだまされるな。

この本庶佑やiPS細胞でノーベル医学・生理学賞をとった山中伸弥も、コロナのmRNAワクチンの宣伝をしてたぞ。

アホなのかワルなのか、どっちかはわからない。

困ったことに「日本感染症学会」や「日本呼吸器学会」までもが政府の補助金ほしさ、自分の医者としての地位大事さ、クリニック、病院経営のためにmRNAワクチンを推奨していることだ。

世の中何も信じるべきではない。

正しい正義感のある医者は100人に1人だそうだ。(私はその方の医者)

↓正しい勇気のある医者・福島雅典先生たち

令和4年11月25日「新型コロナワクチン接種と死亡事例の因果関係を考える」勉強会

2024年1月のワクチン問題研究会の記者会見

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1月に日本人が100万人激減していた(原口一博)

2025-03-10 02:51:34 | 医学・病気
1月に日本人が100万人激減していた(原口一博)

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ゼレンスキーが合意を断ったのは「自分たちが豪遊したいからだろ?」原口一博

2025-03-05 20:24:13 | 政治
ゼレンスキーが合意を断ったのは「自分たちが豪遊したいからだろ?」原口一博

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財務省解体デモ(ヘライザー総統)

2025-02-24 06:55:37 | 政治
財務省解体デモ(ヘライザー総統)

ザイム真理教・森永卓郎

財務省解体デモ

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ここが山本太郎さんの唯一のネック

2025-02-22 02:06:56 | 政治
ここが山本太郎さんの唯一のネック

それでも私は当然、比例は「れいわ」と書くけどね。

角を矯めて牛を殺すべきではない。

他に良い政党ないからね。

「参政党」か「共産党」でもいい。

たとえば山本太郎さんは「竹島は韓国にくれてやればいい」とかなり以前に言ったが、そんなことをしたら、韓国は、「日本はお人好しの国だから強硬に訴えていれば従軍慰安婦問題でも徴用工問題でも賠償金を認めるだろう」と増々つけあがるのは目に見えている。

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石破茂には失望した

2025-02-21 05:30:19 | 政治
石破茂には失望した。

石破茂ならもっと良心的な政治をするかと思っていた。

確かに石破茂は安倍晋三のようなウソまみれの答弁はしない。

しかし。企業献金の廃止は憲法違反だと言い出した。

企業献金の透明性が大事だと言い出した。

理由なく政治献金する企業があるかよ?見返りを求めて献金すんだろうが。この世でタダで動くのは地震だけ。

東証一部の0.1%に満たないトップの大企業の組織票と政治献金はどうしても欲しいらしい。

財務省の解体とまではいかなくても財務省の批判はしない。

消費税についても言及しない。

絶対わかってはいるはずだ。

自民党が政権であることが日本にはどうしても必要と言うのか?

彼が本心では何を考えているのかはわからない。

このままだと日本はぶっ壊れる。

トランプ大統領の方がよっぽど日本の味方

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「非正規制度つくった人たちを一生恨む」 図書館職員たちから悲痛な声、関係団体が待遇改善を要求

2025-02-20 22:52:45 | Weblog
「非正規制度つくった人たちを一生恨む」 図書館職員たちから悲痛な声、関係団体が待遇改善を要求

地方公共団体が設置する「公共図書館」の職員の4割以上、学校図書館の職員の9割近くが、1年ごとに契約される「会計年度任用職員」として働く中、図書館職員の安定した雇用や待遇改善を求める院内集会が2月19日、東京・永田町の衆議院第1議員会館で開かれた。

集会を開いたのは、図書館問題研究会や公務非正規女性全国ネットワークなど、この問題に取り組んできた6団体で構成する実行委員会で、日本図書館協会(日図協)も協力した。図書館関係者だけでなく、与野党の国会議員や関係省庁の担当者らも参加した。

集会では、文科省が推進している「1校につき学校司書1人」の裏で、1人の職員が複数の学校を掛け持ちしている過酷な実態が明らかになった。

また、会計年度任用職員に対する調査では、低賃金や待遇の低さが浮き彫りとなり、中には「非正規雇用や会計年度任用職員なんて制度をつくった人たちを一生恨んでも恨みきれない」といった声もあったという。

●「ボーナス支給されたら時給下げられた」
この集会に先立ち、実行委員会は1月、総務大臣と文部科学大臣に対し、会計年度任用職員の継続雇用を求める要望書を提出している。

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