小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

シェルブールの雨傘 (小説)

2018-11-28 00:22:07 | Weblog
「シェルブールの雨傘」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その1」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji.htm

に、アップしましたので、よろしかったら、ご覧ください。

(原稿用紙換算14枚)

ブログにも、入れておきます。



「シェルブールの雨傘」

山尾志桜里と、山下貴司、は、共に、東大法学部で、同期だった。
二人は、法学部で、法律を学びながら、ゼミで、親しくなった。
そして、二人は、よく、デートを、した。
「君がきれいなのは、無理ないな。アニーの子役に選ばれたほどだから」
と、山下貴司は、言った。
「あなただって、素敵だわ」
と、山尾志桜里は、顔を赤らめて言った。
山下貴司は、イケメンで、東大で、女生徒の憧れだった。
二人は、ともに、一緒に、法学の勉強に打ち込んだ。
「僕は、将来、検察官になろうと思う」
と、山下貴司は、言った。
「じゃあ、私も、検察官になるわ」
と、山尾志桜里も言った。
二人は、無事、東大法学部を、卒業して、ともに、司法試験に合格して、司法修習を経て、検察官になった。

二人は、ある日、渋谷で、映画、シェルブールの雨傘、の映画を見て、その後、近くの喫茶店ルノアールに入った。
「山尾志桜里さん。僕は、心から、あなたを愛しています。僕と結婚して下さい」
山下貴司が言った。
「嬉しいわ。女にとって、一番、嬉しい言葉だわ。私もあなたを愛しているわ。山下貴司さん」
山尾志桜里は、目に涙を浮かべた。
「ねえ。山下さん。子供が生まれたら、名前は、何としましょうか?」
山尾志桜里が聞いた。
「うーん。そうだなー」
と、山下貴司は、考え込んだ。
「私に提案があるの」
山尾志桜里が言った。
「何だい?」
山下貴司が聞いた。
「女の子だったらフランソワーズ、男の子だったら、フランソワ、というのはどう?」
山尾志桜里が言った。
「うん。いいね。君が望むんだったら、そうするよ」
山下貴司が言った。
「嬉しい」
山尾志桜里が喜んで言った。

二人は、司法修習を終えて、検事になった。
山尾志桜里は、東京地方検察庁、千葉地方検察庁を経て、名古屋地方検察庁岡崎支部に着任した。
一方、山下貴司は、東京地検特捜部、法務省での勤務の他、在ワシントン日本大使館一等書記官・法律顧問、と、同じ検察官でも、司法修習を終えた後は、二人は、別々の道を歩んだ。
職場が異なって、フレッシュな気持ちで、二人は、それぞれ、仕事に夢中になった。
月日の経つのは、速いもので、会わないでいる間に、山尾志桜里と、山下貴司は、それぞれ、日本の政治を立て直す使命を感じ出した。
しかし、運命は残酷だった。
山尾志桜里は、権力の座に長くいて、腐敗した、自民党を嫌い、民主党で、政権をとって、日本を立て直そうという志に燃えていた。
一方の、山下貴司は、保守的な自民党を、改革しようと、燃えている、石破茂の水月会に入って、自民党を改革して、日本を立て直そうと、考えた。
山尾志桜里は、菅直人、鳩山由紀夫、小沢一郎、など、民主党の幹部に、勧められ、民主党から、愛知7区、から立候補し、182,028票、獲得して当選した。
一方の、山下貴司は、石破茂に、勧められて、岡山二区から、自民党推薦で、立候補して、当選した。
政党が全く異なり、政治的イデオロギーが、異なる間柄なのに、結婚する、というのは、国民の非難も、受けるだろうし、国民に、「やっぱり、政治家なんて、八百長だ」、と言われるのを、恐れ、二人は、付き合いにくく、なって、付き合いも、疎遠になってしまった。
そうこうしている内に、二人は、それぞれ、親しい人が、出来て、結婚した。
しかし、それは、本心ではなく、政治上の不本意な結婚であった。
第4次、安倍政権で、安倍晋三は、石破派の、水月会の、山下貴司を法務大臣に任命した。
ちょうど、外国人労働者受け入れ、の入管法改正案の法案で、国会は、もめていた。
山尾志桜里は、立憲民主党から、政府に、厳しい質疑をした。
そして、山下貴司法務大臣と、論戦を交わした。
しかし、山尾志桜里は、政府の方針を批判しながらも、山下貴司に対する、愛は、変わっていなかった。
山尾志桜里は、(山下貴司さん。ごめんなさい)、心の中で、謝りつつも、山下貴司法務大臣に、厳しい質問を投げかけた。
政府を批判するのは、野党の宿命である。
ある日のことである。
山尾志桜里は、買い物も兼ねて、まだ幼い娘と、渋谷に行き、喫茶店ルノワールに入った。
そこは、司法修習の時、山尾志桜里と、山下貴司が、最後に立ち寄った、喫茶店だった。
山尾志桜里は、(ああ。あの頃が懐かしいわ)、と、思いながら、娘と、サンドイッチと、紅茶を食べ、飲んでいた。
すると、ギイと、音がして、喫茶店の戸が開いた。
幼い男の子を、連れた男が入ってきた。
それは、山下貴司だった。
山尾志桜里は、びっくりした。
山下貴司は、幼い息子と一緒だった。
そして、山下貴司は、山尾志桜里の、隣のテーブルに着いた。
そして、ボーイに、サンドイッチと、紅茶を注文した。
「やあ。元気?」
山下貴司は、隣の、山尾志桜里に、話しかけた。
「ええ」
山尾志桜里は、頬を赤くして答えた。
「あなたは?」
今度は、逆に、山尾志桜里が、山下貴司に聞いた。
「ああ。元気だよ」
と、答えた。
「君と、最後に会ったのは、この喫茶店だったよね。覚えているよ。映画、シェルブールの雨傘、を見て、その後、ここで、サンドイッチを食べたよね」
「そうね」
「君は、シェルブールの雨傘、の、ヒロインの、ガソリーヌ・ドヌーヴ・・・じゃなかった・・・・カトリーヌ・ドヌーヴより、美しかった。今でも美しいよ」
「あなただって。今でも、イケメンだわ」
山尾志桜里は、顔を赤くして言った。
「あ、あの。山下貴司さん。国会で、意地悪な質疑をしてしまってごめんなさい。それに、あなたに対して、不信任決議案まで出してしまって・・・」
山尾志桜里が言った。
「いや。野党である以上、当然のことさ」
山下貴司が言った。
「いえ。わかっているわ。あなたは、誠実な人だわ。でも安倍政権に入閣した以上、強行採決は、悪いとわかっていても、安倍首相の意向には逆らえないのでしょう。あなたも、法案通過は拙速だと思っているのでしょう?」
「・・・・い、いや。そ、それは・・・そんなことはないよ」
山下貴司の言葉は苦しげな口調だった。
山尾志桜里は、ニッコリと微笑んだ。
「でも、立憲民主党は、しっかりした政党だね。与党と野党という立ち場は、違っても、僕は、一目、置いているよ」
山下貴司が言った。
「自民党でも、石破茂さん、と、水月会は、立派だと私は思うわ」
山尾志桜里が言った。
「ねえ。ママ。この人、だれ?」
山尾志桜里の娘が言った。
「この人はね、山下貴司さん、といって、私の昔の友達なの。さあ、挨拶しなさい」
山尾志桜里が言った。
「こんにちは。山下さん。私は、山尾フランソワーズと言います。よろしく」
と、山尾志桜里の娘が、山下貴司に挨拶した。
「ねえ。お父さん。この人は誰?」
山下貴司の幼い息子が、父親に聞いた。
「この人はね。僕の昔の友達なんだ。挨拶しなさい」
そう言われて、山下貴司の幼い息子は、山尾志桜里に、向かって、
「はじめまして。山下フランソワ、と言います」
と、ペコリと、頭を下げた。
「こんにちは。山下フランソワ君」
と、山尾志桜里は、フランソワの頭を撫でた。
山尾志桜里は、心の中で、
(ああ。この人は、私との約束を忘れないでいたのね)
と、思うと、目頭が熱くなった。
山尾志桜里の娘と、山下貴司の息子は、すぐに、仲良くなって、キャッ、キャッ、と、はしゃいでいた。
外では、小雨が降り出した。
山下貴司は、時計を見た。
「君とは、もう少し話したいが、マスコミに知られると、週刊文春、や、フライデーなんかに、色々と、悪い記事を書かれるからね。そろそろ、別れよう」
「そうね。それが、私たちの宿命ね」
と、山尾志桜里が言った。
山下貴司は、立ち上がって、息子のフランソワを呼んだ。
「おーい。フランソワ」
山尾志桜里の娘のフランソワーズと、友達になったばかりの、フランソワは、父親に呼ばれて、父親の所に行った。
「山尾志桜里さん。では、さようなら。お互い、頑張ろう。また国会で論戦を正々堂々としよう」
と、山下貴司は、山尾志桜里に言った。
「山下さん。あなたも、頑張って」
山尾志桜里が言った。
「山尾志桜里さん。フランソワーズちゃん。さようなら」
山下貴司の幼い息子、フランソワは、そう言って、ペコリと頭を下げた。
そして、山下貴司は、幼い息子を連れて、喫茶店ルノワールを出ていった。


平成30年11月28日(火)擱筆




小説家・東野圭吾 (小説)

2018-11-24 16:39:17 | Weblog
「小説家・東野圭吾」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

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(原稿用紙換算64枚)

ブログにも入れておきます。



小説家・東野圭吾

娘の元子から、会って欲しい人がいるので、今度、家に連れてきていい、と、言われたのは、夕食を終えた時のことだった。
爪楊枝で歯の掃除をしていた東野圭吾は、ぎくりとした。
もう少しで、爪楊枝の先で、歯茎を突き刺すところだった。
ついに来るべき時が来たのか、と覚悟を決めた。
しかし、狼狽を悟られたくはなかった。
湯のみ茶碗を引き寄せ、わざとゆっくり茶を啜った。
ふうん、と関心のなさそうな声を出した。
「もちろん、男だよな?」
「うん」
と娘の元子は頷いた。
ふうん、と東野圭吾はもう一度言った。
妻の邦子は台所で洗い物をしている。
「どういう人だ?」
東野圭吾は訊いた。
ぶっきらぼうな口調にならないよう気をつけた。
「それがね・・・お父さん、聞いてびっくりしないでよ」
元子は、変な言い方をした。
東野圭吾は、ごくりと唾を呑んだ。
プロレスラーか、イスラム国の戦闘員か、暴力団員か、殺し屋か、などと、色々、考えた。
「彼は小説家志望のフリーターなの」
東野圭吾は、びっくりした。
「な、なにー」
圭吾は、思わず、大声を出した。
元子は、淡々と話し出した。
「彼とは、コンビニのアルバイトで、知り合ったの。一緒に働いているうちに、親しくなってね。彼は、シャイだから、なかなか、自分の事を話さなかったの。でも、ある時、彼が、お父さんの、最新刊を本を読んでいたので、(それ。面白い?)、って聞いたの。そしたら、(うん。面白いよ)、って言ったの。私も、それ、読んだわよ、って言ったら、(へー。君も小説を読むの?)、って、以外そうな目で、私を見たの。それで、小説の話で盛り上がって、彼と話すようになったの。彼は、大学を卒業して、会社勤めをしてたんだけど、本格的に、小説家を目指していてね。会社の長時間労働では、小説が書けないから、と言って、会社を辞めて、フリーターになったって、言ったの。時間のある時は、いつも、小説を書いているらしいの」
元子は、言った。
元子は、大学3年生で、コンビニでアルバイトをしている。
「それで、彼が、勤めていた、会社というのは、どこだ?」
東野圭吾が聞いた。
「電通らしいわ」
「電通といえば。それゃー、一流企業じゃないか。辞めるなんて、もったいない」
「でも、電通は、長時間労働で、ひどかったらしいわよ。彼は、土日、も、休日返上で、働いていて、睡眠時間は、3時間だったらしいわ。それで、これでは、小説が書けない、と言って、辞めたらしいの」
元子は言った。
「それから?」
東野圭吾は娘に話の続きを求めた。
「それでね。私の父も、小説家よ、って、言ったの。そうしたら、彼は、びっくりして、すごく、私の、父のことを、知りたがってね。私の父は、東野圭吾、って言うの、って言ったの。そうしたら、彼は、顔を青ざめて、ま、ま、ま、ま・・・まさか。あ・・・あ・・・あの、容疑者Xの献身、で直木賞をとった、あの、東野圭吾先生?」
と、声を震わせて、聞いたの。
「私が、うん。そうよ、って、言ったら、彼は気絶しちゃってね。救急車で、病院に運ばれたの。彼は、お父さんを、神様のように、尊敬しているみたいよ」
元子が、言った。
「そうか」
東野圭吾は、ため息をついた。
「それで、どうなった?」
東野圭吾は、話の続きを求めた。
「それがね。彼は、翌日、病院を出たの。一過性の脳貧血で、問題は無いって、先生が言ってたわ」
「そうか。それで、どうなった?」
東野圭吾は、話の続きを求めた。
「それがね。困ったことになったの。私の父が、東野圭吾、ということを、知ってから、彼の態度が、変わってしまったの」
元子は、言った。
「どう変わったんだ?」
東野圭吾が聞いた。
「コンビニのアルバイトで、一緒になっても、私と、距離を置くようになったの。何か、いつも、悩んでいるようになったの」
元子は、言った。
「それで、どうした?」
東野圭吾は、話の続きを求めた。
「ある時、彼は、私に、別れよう。もう、付き合うのは、やめにしよう、って言ったの」
元子は、言った。
「何で、彼は、気が変わったんだ?」
東野圭吾が聞いた。
「お父さんは、ミステリー作家でしょ。その理由を推理して、当ててみてよ」
元子は、言った。
東野圭吾は、うーん、と、腕組みをして、眉を寄せ、考え込んだ。
10分ほど、経った。
「わからないな。彼の、心変わりの理由は。教えてくれ」
東野圭吾は、言った。
「それがね。彼は、言ったの。(尊敬する東野圭吾先生の娘さんを不幸にすることは出来ないから)、って」
元子は、言った。
「うーん」
と、東野圭吾は、唸った。
「すごい発想をする男だな」
東野圭吾は、呟いた。
「それが、本当に、お前と別れたい、という理由なのか?」
東野圭吾が聞いた。
「ええ。本当よ。彼は、私を愛してくれているわ。でも、お父さん、は、小説家志望の人たちに、小説家なんて、危険極まりない職業を目指すのは、やめろ、って、言っているでしょ。もっと、無難な堅実な仕事に就けって。彼も、そのことは、知っているわ。それで、彼は、悩んでるのよ。私を幸福に出来る、という保証がない、でも、私を愛している、という、葛藤に」
元子が言った。
「それで、私が言ってあげたの。小説家として、認められない、という保証もないじゃない、って。ともかく、父と会ってみなさいよ、って言ったの」
元子が言った。
「それでどうした?」
東野圭吾が聞いた。
「彼は、もう、自分の意志では、決めかねて、結論を出せないような、状態だったの。それで私は言ったの。あなた男でしょ。そんな、自分に自信の持てないような、弱気な男じゃ、小説家になんか、絶対、なれないわよ、って。それが決め手になって、彼は、(わかった。じゃあ、会うよ)、って、言ったの」
と元子が言った。
「そうか」
と、東野圭吾は言った。
「それで、彼は、どんなジャンルの小説を書いているんだね?」
東野圭吾が聞いた。
「そうね。色々なジャンルに挑戦しているわ。でも、ユーモア小説が、多いわ。お父さんの、小説では、笑小説シリーズの、怪笑小説、毒笑小説、黒笑小説、歪笑小説、が、一番、好きと言っているわ」
と元子が言った。
「そうか。しかしね。文学賞は、ユーモア小説では、受賞しにくいぞ。斬新な、激しい、激情的な、人間ドラマがない作品だと、文学賞は、受賞しにくいぞ」
と、東野圭吾は、言った。
「彼も、それは、自覚しているみたい。だから、職業作家になれるか、迷っているのよ」
と元子は言った。
「彼の創作歴は、知っているかね?」
東野圭吾が聞いた。
「文学賞に、3回、ほど、応募したことがあるらしいの」
元子が言った。
「それで、結果は、どうだった?」
「3回とも、一次予選も通らなかったらしいわ」
「そうか」
東野圭吾は、残念そうに、ため息をついた。
「でも、彼の創作にかける情熱は、本物だと思うわ。だって、彼は、学生時代に書いた、短編小説集を、自費出版したほどだもの」
元子が言った。
「えっ。それは、本当か?」
東野圭吾が聞いた。
「ええ。本当よ。これが、そうよ」
そう言って、元子は、222ページの、ソフトカバーの、単行本を、出した。
タイトルは、「女生徒、カチカチ山と十六の短編」、だった。
「これを彼が、書いて、自費出版したのか?」
「ええ。そうよ」
「ちょっと、見せてみろ」
東野圭吾は、単行本を、ひったくるように、取ると、さっそく、読み始めた。
1時間くらいで、全部、読んだ。
「うん。文章がしっかりしているね。ほのぼのとした、優しい小説を書くんだね」
と、東野圭吾は、感想を言った。
「ええ。彼は、小説だけでなく、性格も優しいわ。彼は、自分よりも、他人のことを、優先して、考えてしまう、優しさがあるの。だから、お父さん、が、私と彼との、付き合いに反対したら、身を引くって、さかんに、言っているわ」
と元子が言った。
「ふーん。思いやり、が、あるんだね。じゃあ、ともかく、彼に伝えてくれ。私が、会いたがっているから、ぜひ、家に来てくれと」
と、東野圭吾は、言った。
「わかったわ」
元子は、ニッコリ笑って、頷いた。
東野圭吾は、二階に上がって書斎に入った。
東野圭吾は、一人になって、タバコを、一服した。
東野圭吾も、悩んでいた。
娘には、絶対、小説家志望の男なんかと、結婚させたくなかったからだ。
小説家になるには、並大抵のことでは、なれない。
それは、自分自身の経験からも、痛いほど、わかっている。
小説家なんて、先物取引のような、危険極まりない、ギャンブルだ。
東野圭吾は、小説家志望の人たちには、「そんな危険なことは、やめなさい」、と、言ってきた。
小説家になれるかは、バクチのような、ものだ。
東野圭吾は、娘には、小説家志望の男となど、結婚させたくはなかった。
娘には、絶対に、堅実なサラリーマンと、結婚させる、と、決めていたのである。
しかし、娘の、元子の話を聞いていると、相手の男は、誠実で、優しい、人間であることが、目に見えるようだった。
(きっと、HSC「ハイリー・センシィティブ・パーソン」、だろう)、と思った。
ひどく、内気で、いつも、オドオドしていて、そして、人に優しい。
そんな、姿が想像された。

よく晴れた日曜日の午後、只野六郎が、東野圭吾の家にやってきた。
紺色のスーツにネクタイという出で立ちだった。
彼は、ガチガチに緊張していた。
ピンポーン。
只野は、コチコチに緊張して、チャイムを押した。
「はーい」
と、中から、元子があらわれた。
「あっ。元子さん。こんにちは」
只野は、挨拶した。
「やあ。只野さん。よくいらっしゃって下さったわね。どうぞ、お上がりください」
そう言われて、只野は、東野圭吾の家の、居間に通された。
居間には、大きなソファーが、あった。
「ちょっと、待っててね。父を呼んでくるから」
そう言って、元子は、大きな声で、二階に向かって、
「おとうさーん。只野さん、が、いらっしゃたわよー」
と、叫んだ。
只野は、緊張した。
東野圭吾が、二階から、降りてきた。
「やあ。只野くん。初めまして。君のことは、元子から、聞いているよ」
と、東野圭吾が、言った。
只野は、緊張して、失神しそうになった。
同時に、目の前に、本物の、東野圭吾が、いることを、実感した。
(本物だ。本物の、東野圭吾が、今、目の前にいる)
と、只野は、感激して、心の中で、言った。
心拍数が、ドクン、ドクン、と、速まっていくのが、自分でもわかった。
只野は、あとで、カバンの中に入っている、持ってきた色紙に、サインしてもらおうと思った。
「ひ、ひ、ひ、ひ・・・・東野(ひがしの)圭吾先生」
只野は、殿様に、物申し上げる、臣下のような口調で言った。
直立不動で、全身が、ブルブル震えている。
無理もない。
小説家を目指す、只野にとって、ベストセラー作家の、東野圭吾は、まさに、雲の上の人、神様のような存在なのである。
「只野さん。安心して。大丈夫よ。ショックで意識を失っても、大丈夫なように、あらかじめ、(もしかすると、急病人が出るかもしれません)、って、ここから、一番近くの、大学病院の救急科に、電話しておいたから。病院の受け入れ態勢は、ちゃんと出来ているから・・・」
そう元子が言った。
「ひ、ひ、ひ、ひ・・・・東野(ひがしの)圭吾先生。こ、こ、こ・・・この度は、お目通りをお許し下さり、誠に身に余る光栄と感謝の念を心より申し上げます。あ、あ、あ、あ・・・・有難き幸せに存じ上げます」
東野圭吾の妻の邦子が、紅茶とケーキを持ってきた。
「さあ。只野さん。お座りになって。くつろいで下さい」
と、微笑んで言った。
「お、お、お、お・・・・奥様。お初にお目にかかれて光栄です。お、お、お・・・奥様におかれましては、ご機嫌うるわしく、ますますご健勝のことと大慶に存じ上げます」
と、只野は、顔を茹蛸のように真っ赤にして頭を下げた。
夫人は、クスクス笑った。
「ははは。只野くん。そう、固くならないでくれ。こっちが、参ってしまう」
そう、東野圭吾は、言った。
「そうよ。こんな人、神様でも、仏様でも、何でもない、唯の人間なんだから。わがままで、ヒステリーな野良犬みたいな物なんだから」
と、夫人は、言って、夫人は、夫の頭を、ポンと叩いた。
「ヒステリーな野良犬とは何だ」
と、東野圭吾は、夫人に、食ってかかった。
「だって、あなたは、小説、書いている時は、(おい。メシ持ってこい)、て、怒鳴るじゃない。ミステリーのアイデアが思いつかないと、(あー思いつかん、思いつかん)、と言って、家の中を、野良犬みたいに、徘徊するじゃない」
と、夫人は、言い返した。
東野圭吾の関心が、夫人への、不快に向かったのが、只野の不安感を、少し、和らげた。
「し、失礼いたします」
そう言って、只野は、体を震わせながら、居間のソファーに、東野圭吾と向き合って、座った。
元子も、只野の横に、チョコンと座った。
只野は、何だか、自分が、元子の恋人として、両親に、挨拶しに来たのではなく、大作家に、お目通り、を、願い出て、許された、新参者として来たような気持ちだった。
もし、元子の父親が、サラリーマンとか、他の職業だったら、どんなに社会的地位の高い人でも、こんなことには、ならなかっただろう。
只野は、小説家を目指す、また、殻から出ていない、ヒナのようなものだが。
一方の、東野圭吾は、直木賞、を、はじめ、あらゆる文学賞を獲って、本屋には、「東野圭吾」、のプレートに、ズラリと、1mほども、500作以上の、長編小説、や、短編集、が、ズラリと並び、それらの多くが、テレビドラマ化されたり、映画化されたり、している、日本で、押しも押されもせぬ、大小説家なのである。
大小説家というより。大大説家といった方がいい。
「只野くん。君の出版した、(女生徒、カチカチ山と十六の短編)、読ませてもらったよ」
そう、東野圭吾は言った。
「あ、あ、あ、あ・・・・有難き幸せにつかまつります」
と、只野は、コチコチになって言った。
「ははは。そう、固くならないでくれ。こっちが参ってしまう」
と、東野圭吾は、言った。
「なかなか、面白かったよ」
と、東野圭吾は、言った。
「あ、ありがとうございます」
と言って、只野は、深く頭を下げた。
本当は、(有難き幸せにつかまつります)、言いたかったのだが、あまり、謙譲し過ぎると、東野圭吾先生に、(ははは。そう、固くならないでくれ。こっちが参ってしまう)、と、東野圭吾先生に気を使わせてしまうと思ったので、普通に言った。
しかし、そう普通に言ったことで、只野も、少し、気持ちが落ち着いた。
「只野くん。ざっくばらんに話そうじゃないか。君には、色々と聞きたいことがある。君は、電通を自分の意志で、辞めたそうじゃないか。一体、どうしてだね?」
東野圭吾が、聞いた。
「はい。電通は、毎日、長時間労働でした。土日、も、休日返上で、働いていて、睡眠時間は、3時間でした。自分の時間は、全くありません。それで、これでは、小説が書けない、と思って、辞めました」
只野が言った。
「ふーん。そうか。それで、君は、大学は、どこを出たんだね?電通に入れるほどだから、一流大学なのじゃないのかね?」
東野圭吾が、聞いた。
「はい。東京大学を出ました。学部は法学部です」
と只野が言った。
「東大とは、それは、すごいじゃないか」
東野圭吾の言葉、には畏敬の念が込められていた。
「彼は、ただの東大卒じゃないわ。彼は、法学部を、二番で卒業よ」
只野の隣に座っている元子が言った。
「へー。それは、すごいな」
東野圭吾は、感心して言った。
「じゃあ、君が小説家になろうと思った経緯を話してくれないかね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい。僕は、小学校から、東京学芸大学付属小学校、中学校、高校、と、学んでまいりました」
只野は言った。
只野には、もう、殿様に対する、家来のような、緊張感は、ほぐれていた。
「ほー。東京学芸大学付属、といえは、進学校じゃないか」
東野圭吾が、感心して言った。
「え、ええ。回りは、みんな、秀才ばかりです。みな、東大を目指していました。それで、僕も、何も考えることなく、東大に行くのが僕の人生だと思い、勉強だけの学生生活を送ってきました。勉強して成績が良ければ、親に褒められますから、それが嬉しくて、僕は、何も考えず、それが僕の人生なのだと疑いませんでした。そして、運よく、東大に入れました。卒業したら、企業か、官庁に就職するものだと、何も考えず、生きてきました。しかし、大学に入って一安心するや、何か、人生に対する虚しさ、を感じるように、なってきたのです。このまま、敷かれたレールに乗っているだけの人生、将来が見えているような人生、を送ることが、はたして、自分の本当の人生なのかと?そんなことで、悩んでいた、ある時、文芸部で、部誌を出すための、小説募集の、張り紙を、見たのです。それで、小説は、勉強のような、受け身ではない、自分の意志で、書くものなのだからと、小説を書くことに挑戦してみたのです。それで、過去の思い出に、自分なりの、創作を加えて、小説を完成させることが出来たのです。それが、(女生徒、カチカチ山と十六の短編)、の、中に入っている、(忍とボッコ)、や、(砂浜の足跡)、です。小説を書くなんて、生まれて初めての経験でした。しかし、小説を完成した時の喜び、それは、言葉では、言い表せない程のものでした。この世に二つとない、自分の子供を産んだような喜びでした。文芸部員が、面白いね、と言ってくれた時の喜びもそうです。その時から、僕は、小説家になろう、と、決意したのです。毎日が、小説のネタ探し、になりました。そして、何か思いつくと、それを小説に書きました。小説を書くことが、僕の人生の目的になりました。そして、小説の勉強のため、多くの小説家の作品を読みました。そして、それまで、親に勧められて、大学の法律の勉強と並行して、司法試験の勉強もしていましたが、全ての時間を小説を書くことに当てたかったので、司法試験の勉強は、やめました。そのため、財務省に入省することは、出来ませんでした。また、主席卒業も、のがしてしまいました。しかし、電通には、入社できたので、働きながら、小説を、コツコツ書こうと思いました」
と、只野は言った。
「うーん。すごく真面目なんだね」
と、東野圭吾が感心して唸った。
続けて、只野は言った。
「電通に入社できたのは、よかったのですが、あそこは、長時間労働でした。それでも、根を上げる気はありませんでした。もしも、小説を書こう、ということを決意していなかったらならば。しかし、土日も返上で、一日の睡眠時間3時間で、自分の時間が全く持てず、小説を書くことが、出来ないので、小説を書くことが出来ないのであれば、生きている意味がないので、辞表を出して辞めました。それからは、フリーターになって、コンビニで、アルバイトしながら、小説を書いています。そこで、コンビニで知り合った、元子さん、を好きになってしまったのです」
と、只野は言った。
東野圭吾は、(この男は努力の鬼だ)、と、心の中で思った。
「電通を辞める時、君の両親は、反対しなかったね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい。もちろん、反対しました。しかし、電通は、長時間労働で、過労死した人がいるほどで、ちょうど今、社会問題になっていますので。死んでは元も子もない。命あってこそ人間は何かが出来る、と言って、認めてくれました。そして、僕の両親は、(こんなことを自分で言うのは、僭越ですが)、僕が、努力家であることを、知っていますから、僕が、小説家になりたい、ことも、認めてくれています」
と、只野は言った。
「でも、どうして、元子と、別れたい、なんて、言いだしたのかね?」
東野圭吾は、その理由は、元子から聞いて、知っていたが、本人の口から、聞いて、確かめたかったのである。
「はい。元子さんは、好きです。今でも好きです。でも、僕は、小説だけでなく、(小説家になるには)的な本も、かなり読んでいますし、また、東野圭吾先生も、さかんに、仰っておられるように、小説家になるには、並大抵のことではなれない、ということは、わかっています。先生は、娘の元子さんには、絶対、小説家志望の男なんかと結婚させたくないと、思っておられます。安定した仕事を持っている人と結婚させて、幸せな家庭を築かせたいと思っておられます。僕も、命ある限り、一生、小説を書こうと思っていますが、小説家として、認められる保証などありません。ですから、元子さんは、好きですが、元子さんを、不幸にしたり、元子さんの、ご両親である、東野圭吾先生を、嘆かせるようなことは、どうしても、出来ないのです。ですから、元子さんは、好きですが、別れようと思ったのです」
と、只野は言った。
東野圭吾は、うーん、と唸った。
「では、ちょっと、残酷な質問になるかも、しれないが、一つ、質問しても、いいかね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい。何でも聞いて下さい」
と、只野は言った。
「もし、君が、どうしても、小説家として、認められなくて、僕が君に、小説家になるのはあきらめて、安定した仕事に就きなさい、と言ったら、君はどうするかね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい。小説を書くことは、僕が、生きること、そのものです。ですから小説を書くな、と言われたら、僕は死にます。ですから、安定した仕事に就くつもりは、ありません」
只野は、ためらうことなく、キッパリと言った。
東野圭吾は、また、うーん、と唸った。
作家の収入が、いかに、少なく、厳しいものであるかは、あの名文豪の、芥川龍之介でさえ、小説の収入の少なさに、悩んでいた、という事実からも、推測されよう。
小説を書いているだけで、食べていける作家など、日本で、数えるほどしかいないのである。
だから、東野圭吾が、小説家を目指すのなんて、やめなさい、というのは、小説家を目指す者たちへの、思いやりからの、発言なのである。
「東野圭吾先生。お聞きしたいことがあるのですが」
初めて、只野の方から、逆に、東野圭吾に聞いた。
「何だね?」
「今度は、僕が先生に質問したいです。僕は、元子さんを愛しています。しかし、僕は、小説家になる夢は、一生、あきらめません。先生が、そんな僕では、大切な娘さんの元子さんとの、付き合いを認めて下さらない、というのなら、僕は、元子さんとの、付き合いを、あきらめます。しかし、そんな僕でも、元子さんとの、付き合いを認めて下さるのであれば、結婚を前提として、元子さんと、お付き合いしたいと、思っています」
と、只野は言った。
只野も、東野圭吾も、両方、悩んでいた。
東野圭吾は、
(この男は、もの凄い努力家で、実際、小説を書き続けるだろうが、はたして、職業作家になれるだろうか、)、と悩んでいた。
東野圭吾の本心は、できることなら、娘の元子は、堅実な、サラリーマンと結婚させたい、と思っていたのである。
それで。
ちょっと、深刻な話になってしまったので、それを、和らげるための意図もあって、東野圭吾は、話題を変えた。
「ところで、只野くん。今、君は、何か小説を書いているかね?」
東野圭吾が、話題を変えて、聞いた。
「はい。少し前ですが、虚無僧ゾフィー、という小説を書きあげました。天川井太郎賞の文学賞に応募しまして、今、結果を待っています。もうすぐ受賞者の発表です」
只野が言った。
「じゃあ、それを、見せてくれないかね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい」
と、言って、只野は、カバンから、USBメモリーを出した。
「この中に、書いた作品が入っております」
そう言って、只野は、東野圭吾に、USBメモリーを渡した。
「そうか。じゃあ、ちょっと、読ませてもらっても、いいかね?」
東野圭吾が聞いた。
「はい」
只野は、コチコチに緊張して言った。
「じゃあ、ちょっと、読ませてもらうよ」
東野圭吾は、そう言って、パソコンの電源を入れて、Windows10を、立ち上げた。
そして、只野から、受け取った、USBメモリーを、パソコンに差し込んだ。
そして、そのUSBメモリー、に、入っている、虚無僧ゾフィー、の、ワード文章を読み出した。
東野圭吾は、書くのも速いが、読むのも速い。
さー、と、目を通して、一気に、300枚の、長編、「虚無僧ゾフィー」、を読んだ。
「うーん」
読み終わって、東野圭吾は、眉間に皺を寄せた。
作品は、無難な出来ではあるが、今一つ、インパクトが無い。
これでは、文学賞に、応募しても、受賞は無理だと思った。
「ストーリー展開は、無難だね。読みやすいよ。しかし、今一つ、斬新な、奇抜さ、が、無いな。これでは、文学賞は、無理だと思うね」
東野圭吾は、率直な感想を言った。
「はい。僕も、それは、自覚してます。僕も、読者受けするために、ちょっと、奇抜な展開にしようかとも、思いましたが、やはり、自分の、思いを素直に表現する方が、いいと思いました」
只野は、言った。
東野圭吾は、内心、ほー、純粋な性格だな、と感心した。
只野という若者の、本心を、東野圭吾は、知りたく思った。
それで。
「只野くん。君も知っていると、思うが、僕は、2014年から、直木賞の選考委員になったからね。虚無僧ゾフィー、を、発表したら、どうかね?僕が、一番、良い作品として、評価してあげるよ」
東野圭吾が言った。
この時である。
畏まっていた、只野は、血相を変えて怒った。
「先生。失礼ですが、そんなことをしたら、僕は、先生を軽蔑します。誰だって、文学賞が欲しいと思って、一生懸命、頑張って、作品を書いています。そんなことは、不正入試と同じです。文学賞は、作品の出来だけによって、決められるべきです。僕は、そんな卑怯な方法で、文学賞を、とりたい、とは、思いません。あくまで、みなと、同じ条件で、フェアープレーで、決めてほしいと、思っています」
只野は、鼻息を荒くして、東野圭吾に食ってかかった。
東野圭吾は、吃驚して、たじろいだ。
只野の性格を知りたくて、軽い気持ちで言った、自分の発言に、只野が、予想以上の反応を示したからだ。
「(渇しても盗泉の水は飲まず)、というのが、僕の信念です」
只野は堂々と言った。
東野圭吾は、気まずくなって、
「ははは。冗談だよ。直木賞の選考委員は、5人いるからね。僕は、その一人に過ぎない。受賞者は、選考委員、全員の多数決で、決めるから、僕一人が、評価しても、それによって決まるということは、ないよ」
と、東野圭吾は、言った。
そう、誤魔化し笑い、したものの、東野圭吾は、「この若者は、純粋で、正しい心を持っている」、と確信した。
その後は、ざっくばらんな、雑談になった。
超売れっ子作家と、無名の小説家志望という違いはあっても、小説を書くという点において価値観を共有していて、実際、小説を書いている者同士、文学論に話が弾んだ。
「あなただって、小説家として認められるまでには、さんざん苦労したじゃない。只野さんが、元子と、巡り合ったのも、何かの縁だわ」
と、東野圭吾の妻の邦子が言った。
もう、夕方になっていた。
「それでは。先生。今日は、先生の御執筆の時間を割いて下さいまして、私と会って下さいまして、どうもありがとうございました。今日は、これで失礼いたします」
と、只野は言った。
「只野さん。また、いらっしゃって下さいね」
と、東野圭吾の妻の邦子が言った。
「それでは、失礼いたします」
そう言って、只野は、立ち上がった。
そして、東野圭吾に、恭しく頭を深く下げて、帰っていった。
只野が、いなくなったので、あとには、いつも通り、父と母と娘の三人になった。
「あーあ。もし、彼が文学に目覚めていなかったら、司法試験も学生時代中に通って、東大法学部を主席で卒業して、今頃は、財務省の官僚になっていただろうにな。文学に目覚めてしまったために、フリーターの小説家志望とは・・・・天と地との差だ」
東野圭吾はため息をついた。
「元子。お前は、どうして彼を好きになったんだ?」
東野圭吾が、娘の元子に聞いた。
「彼は、純粋でしょ。そして、何事にも一途でしょ。誠実な性格でしょ。そういう彼の性格のすべてが好き」
娘の元子は、微笑んで答えた。

その日から、東野圭吾の悩みが始まった。
只野という若者は、性格は、誠実だ。
自分が決めたことをやり抜く、根性を持っている。
しかし、小説家として、認められるのは、並大抵のことでは、なれない。
それは、自分が、経験して一番よく知っている。
只野という若者は、おそらく一生、小説を書き続けるだろう。
その根性は素晴らしい。
しかし、かえって、その根性が、やっかいなのだ。
根性の無いヤツなら、文学賞が、なかなか、とれないと、自分には、才能が無いと、小説家をあきらめてくれる可能性がある。
しかし、あの、只野という若者は、文学賞だの、小説家としての、収入だの名声だの、ということを、度外視して、小説を書いている。
彼にとっては、小説を書くことが、生きること、そのものなのだ。
だから、彼は、文学賞を、とれなくても、小説家として、認められなくても、小説を書いても、収入が全く入らなくても、一生、小説を書き続けるだろう。
小説を書くことが好きで好きで、仕方がないのだから。
これは、やっかいだ。
出来ることなら、娘には、自分の夢を追い続ける人間より、安定した収入で、生活に困らない、幸せな人生を送らせてやりたい。
只野と、話していた時には、只野の、やり抜く根性に、圧倒されていたが、別れて、冷静に考えているうちに、やはり、娘には、堅実な仕事に就いている男と結婚させたい、という思いが、募ってきた。
しかし、只野の、人間としての、誠実さ、にも、東野圭吾は、一目、置いていた。
たとえ、堅実な仕事をしている男でも、誠実さ、が、なければ、これもまた、結婚しても、不幸になるだけだ。
不誠実な男と結婚しても、結局は、離婚するだけだ。
日本での、離婚率が高いのが、それを証明している。
一番いいのは、只野の仕事が、サラリーマンで、あってくれたら、彼は、何事にでも、打ち込む性格だから、会社でも、出世して、まず、幸せな家庭を築けただろうに。
あーあ。なかなか、物事は、いいことだけ、ということが、無いものだな。
と、東野圭吾は、タバコをくゆらせて、宙を見ながら、考えた。

ある時、東野圭吾は、いきつけの、居酒屋に行った。
スナックのカウンターには、自分と同じ歳くらいの、サラリーマンが、二人、並んで、座っていた。
手前は、太った男で、その隣の、奥の方にいるのは、痩せた男だった。
東野圭吾は、カウンターに、座って、ウイスキーを注文した。
カウンターに座って、ウイスキーを飲んでいると、隣に座っている二人の男の話し声が聞こえてきた。
「オレの知り合いに、電通の課長がいてね。この前、彼が、面白いことを、言ったんだ」
太った男が言った。
「どんなことを言ったんだ?」
痩せた男が聞いた。
「東大法学部を、次席で卒業して、電通に入社したヤツがいるんだ。只野六郎とかいう名前だそうだ」
太った男が言った。
「そいつが、どうしたんだ?」
痩せた男が聞いた。
「聞いて驚くなよ。何でも、そいつは、小説家になりたいから、会社を辞めます、と言って、辞めたらしいんだ。バカなヤツだよな」
あっははは、と、痩せた男は、笑った。
「そうだな。小説家になりたい、なんて、子供の夢のようなことを、いい大人になっても、思っているなんて」
痩せた男が相槌を打った。
「そいつは、東京学芸大学付属の、小学校、中学校、高校、そして、東大と、勉強だけしか、していないから、世間のことが、まるで、わからないんだよ。小説家なんかで、食っていけるはずないのにな。温室育ち、は、そんなことも、わからないんだよな」
太った男が言った。
「それと。仮に、小説家になれたとしても、小説なんて、くだらないよな。あんなもの、実用的には、何の役にも立たないからな。読むなら、もっと、実用の役に立つ本を読むべきだな。今の世の中、大変な時代で、真面目に取り組むべき、政治、経済、社会問題が山積しているというのにな。そういう本をこそ、読むべきだよな」
痩せた男が言った。
「そうだな。小説を読むヤツもバカだし、小説を書くヤツもバカだな」
太った男が言った。
「そうだな」
痩せた男が言った。
「そもそも。小説家なんて、ちょこちょこっと、好きなことを書いて、それで、金を貰おうなんて、考えてるんだから厚かましい限りだな」
太った男が言った。
「ちょこちょこっと好きなこと?」
黙って聞いていた東野圭吾の頭の中で、何かが弾けた。
人に認めらる、とか、認められないとか、そんなことは、度外視して、今も、おそらく、夜、寝るまで、一生懸命、小説を書いている、そして、一生懸命、生きている、只野の姿が、頭に浮かんだ。
東野圭吾は立ち上がった。
「もういっぺん言ってみろ」
「何だよ。何か文句あるのか?」
男が睨み返してくる。
「小説家が、どれだけ苦労しているかも、知らんくせに、勝手なことを言うな」
「じゃあ、あんたは、知っているのか?」
「おたくよりは、わかっている」
「どうわかっているんだ。言ってみろよ」
「彼らは心血を注いで、一つの作品を書きあげているんだ」
「ふん、何だよ。それ。どうでもいいよ。関係ないよ」
男は、横を向き、首筋を掻いた。
「馬鹿を相手にしても仕方ないや」
圭吾の頭で何かが、ぷつんと切れた。
ジョッキを手にし、男の顔に、ビールをぶっかけた。
「何をしやがる?」
男のパンチが飛んできた。
・・・・・・・
東野圭吾が警察署を出たのは、十時を過ぎた頃だった。
たっぷり油を絞られた後、妻の邦子に迎えに来てもらったのだ。
「いい歳して何やってるのよ」
それが邦子の第一声だった。
すまん、と答えるしかなかった。
自分でも、ずいぶんと浅はかなことをしたとは思う。
喧嘩をしたのなんて何年ぶりだろうと振り返った。
人を殴ったのは、高校以来で、殴られたのは大学生以来だ。
指の付け根が痛む。顔面の半分が強張っている。
明日の朝になったら腫れるだろうな、とぼんやり考えた。
しかし帰りのタクシーで、邦子は責めるようなことは何も言わなかった。
顔の傷を心配する言葉をかけてきただけだ。
喧嘩の原因が何なのか、警察で話をきかされたからかもしれない。
自宅に戻ると、すぐに着替えてベッドにもぐりこんだ。
娘の元子は、まだ帰っていないようだ。
いつもより遅い。
邦子が氷水で絞ったタオルを持ってきてくれたので、横になったまま、殴られたところを冷やした。
横になって、冷やしながら、東野圭吾は、考えるともなく、ぼんやり考えていた。
娘は幸せになれないかも、しれない。
しかし、それでも、いいじゃないか。
人間の幸せって何だ。
経済的に、不自由しないことか?
経済的に不自由しなければ、それで人間は、幸せ、と言えるのか?
たとえ、安定した、生活が送れなくても、人間の幸せとは、本当に自分のやりたいこと、をやる。
そして、本当に、愛する人間と結婚すること、こそ、本当の幸せなんじゃないか?
たとえ、失敗しても、それでいいじゃないか。
失敗した人生は、それは客観的に、不幸と、他人に評価されるだけで、本人は、不幸と思っていないかも、しれないじゃないか。
たとえ失敗しても、命がけで、生きて、失敗したのなら、他人が、どう言おうと、本人は、「やるべきことは、全力でやった」、という満足感を持って、生きられるのではないのか?
人間の幸せ、というのは、結果ではなく、真剣に生きようとする、意志だ。
それを、持たずに、生活だけ、安定していても、そんなのは、「本当に生きた」、などとは、言えないのじゃないか?
そんなの、偽の人生だ。
そんなことを思っていると、間もなく、階下で物音が聞こえた。
元子が帰ってきたらしい。
階段を上がる足音が聞こえてきた。
元子が自分の部屋に入るのだろうと思っていたら、突然ドアが開いた。
おっ、と東野圭吾は声を漏らしていた。
「お父さん・・・・大丈夫?」
入り口に立ち、元子が心配そうな顔で訊いた。
「おう。別にどうってことない」
タオルを顔に当てたままで答えた。
「どうってことないようには見えないんだけど」
「大丈夫だ」
「そう?でもびっくりした。お父さんが喧嘩だなんて」
「お母さんから聞いたのか?」
「うん。喧嘩の原因も」
「そうか・・・・あっ、そうだ。今日、あれがあったんじゃないのか。天川井太郎賞の発表」
「あったよ」
元子は、すっと息を吸い込んだ。
「だめだった」
「あっ、そうなのか。それは残念だったな」
声に落胆の響きを含ませないよう気をつけて言った。
元子は頭を振った。
「全然、残念じゃない。彼も、あたしも、少しもがっかりしてないもん。目標は、もっと高いところにある。今夜だって、残念会なんかしてないよ。彼は、ますます、ファイトが沸いてきた、と言って、今日も、黙々と小説を書いていたよ」
東野圭吾は頷いた。
「そうか」
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん。ああ、元子」
呼び止めた。
振り返った娘に向かって、静かに言った。
「がんばれよ。しっかりと彼を支えてやりなさい」
元子は大きく胸を上下させた後、うん、と言って、出ていった。



平成30年11月24日(土)擱筆



一人よがりの少女 (小説)

2018-11-16 20:20:52 | Weblog
「一人よがりの少女」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のの目次その1」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/

に、アップしましたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算14枚)

ブログにも入れておきます。



一人よがりの少女

ある初冬の日のことである。
私は、横浜市立中央図書館に、行って、勉強した。
そして、閉館の5時に、図書館を出た。
私は、アイスティーが、飲みたくなって、近くの、マクドナルドに入った。
私は、アイスティーを、持って、二階の客席に、上がって、座った。
そして、アイスティーを、啜り出した。
二階の客席は、すいていた。
しかし、窓際の席に、一組の、女子高生と、男子高生、が、向き合って、座っていた。
客は、その二人と、私だけだった。
女子高生と、男子高生、は、彼氏彼女の仲なのだろう、仲が、良さそうで、さかんに、話していた。
二人の会話が、私の耳に入ってきた。
私は、二人の会話に耳を傾けた。
どうやら、彼女は、アイドル志望で、芸能プロダクションの、オーディションを、受けたのに、落ちてしまったらしい。
彼女は、さかんに、AKB48の、悪口を言っていた。
「高橋みなみ、なんて、大したことないじゃない。そもそも、AKB48なんて、いい加減なものよ。一人で、芸能プロダクションに、応募して、認められたんじゃ、ないわ。大勢、いるから、一人か、二人、ブスが、混じっていても、わからないじゃない。ねえ。そうでしょ」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットを、ちぎって、バーベキューソースをつけて、男の子の口に、入れた。
「スマップにしたって、そうじゃない。あの中で、格好いいのは、木村拓哉だけじゃない。他の、稲垣吾郎、香取慎吾、中居正広、草彅剛、なんて、たいしたことないじゃない」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットを、ちぎって、バーベキューソースをつけて、男の子の口に、入れた。
「草彅剛、なんて、たいしたことないじゃない。あれが、人気があるのは、スマップの一員だから、という理由だけじゃない。もし、草彅剛、が、一人で、芸能プロダクションに、応募したら、プロダクションは、採用したと思う?採用なんて、しっこないわ。自分の実力で、タレントになったんじゃ、ないわ」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットを、ちぎって、バーベキューソースをつけて、男の子の口に、入れた。
「AKB48だって、そうだわ。AKB48なんて、あんな大多数のグループが、今までに無かったから、受けたのに、過ぎないじゃない。で、AKB48が、人気が出たから、グルーブに属する、一人一人、が、アイドルになれた、だけのことじゃない」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットを、ちぎって、男の子の口に、入れた。
男の子は、ニコニコ、笑顔で、少女の、発言に、自分の意見を言う、ということは、せず、黙って、少女の話を聞いていた。
また、少女も、うつむいたまま、顔を上げず、一人で話していた。
少女は、男の子を、話し相手とは、思っておらず、自分の思いを、誰かに話したくて、一方的に、男の子に、話しているのに過ぎない。
だから、別に、少女の、お喋りの、聞き手は、仲のいい、彼でなくても、誰でも、よかったのである。
こういう女は、結構、いるものである。
私は、彼女の、一人よがりさ、が、何とも、面白く、二人の会話を、黙って聞いていた。
その時である。
外で、大きな声がした。
警察のアナウンスだった。
「こちらは、横浜中区警察署です。今、アフリカから、上野動物園に、輸送中の、ゴリラが、車のカギを壊して、脱走しました。凶暴な肉食の人食いゴリラです。この近辺にいると、推測されます。大変、凶暴です。危険ですので、住民のみなさんは、外を出歩かないようにして下さい。そして、ゴリラを見かけた方は、すぐに、警察に通報して下さい」
私は、(ふーん。ゴリラが、街中をうろついているのか)、と、思ったが、私は、自分とは、関係のない、他人事だと、思って、気にかけなかった。
それより、私は、少女の話の方に、関心があった。
「あーあ。私も、芸能プロダクションじゃなくて、AKB48のオーディションを、受ければよかったな。そうすれば、私なら、間違いなく、受かったのに」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットを、ちぎって、バーベキューソースをつけて、男の子の口に、入れた。
男の子は、ニコニコ、笑顔で、少女の、発言に、自分の意見を言う、ということは、せず、黙って、少女の話を聞いていた。
その時である。
私は、吃驚した。
なぜなら、大きなゴリラが、マクドナルドの二階に上がってきたからである。
私は、腰が抜けてしまって、動くことが出来なかった。
男の子は、ゴリラに、気づくと、出来るだけ、物音を立てないように、注意しながら、そっと、席を立って、抜き足差し足で、二階のマクドナルドから、出て行った。
ゴリラは、少女の、席に、向き合って、座った。
ハーハー、鼻息を荒くしている。
しかし、少女は、うつむいて、独り言の愚痴を、話そうとしているので、目の前の、ゴリラに、気づいていない。
「あーあ。AKB48の、オーディションを、受けていれば、私は、受かったのに。もう、募集、締め切りになっちゃった、から、出来ないわ。ねえ。私が、AKB48の、オーディションを、受けていれば、受かったのに」
そう言って、少女は、顔を上げ、チキンマックナゲットをちぎって、バーベキューソースをつけて、ゴリラの口に入れた。
「そうすれば、私は、アイドルになれたのよ。ねえ。あなたも、そう思うでしょ」
そう言って、少女は、チキンマックナゲットをちぎって、バーベキューソースをつけて、ゴリラの口に入れた。
少女は、自分の愚痴を言うことに、関心の全て、が行っているので、目の前に、ゴリラがいる、ということも、ゴリラを、見ていながらも、気づいていなかった。
その時である。
警察官と、機動隊の数人が、そーと、マクドナルドの、二階に、上がって来た。
警察官と、機動隊は、口に、人差し指を立て、「しー」、と、ゴリラを刺激しないように、ゴリラを捕獲しようとした。
「麻酔銃を打とうか?」
「いや。それは、危険だ。ゴリラを刺激する」
「少女の命が危ない。しかし、どうして、あの少女は、逃げようとしないのだろう?」
「きっと、恐怖のあまり、足が竦んでしまっているのだろう」
「少女は何か、ブツブツ独り言、を言っているようだが、なぜだろう?」
「きっと、少女は、もうダメだと、思って、神に、祈っているのだろう」
「では、仕方がない。ゴリラを、機関銃で、射殺するしか、他に、方法がないな」
「よし。それで決まりだ。では、私が合図するから、みな、ゴリラの頭を狙って、一斉に、撃て」
そう言って、機動隊員たちが、機関銃を、ゴリラの頭に向けた時である。
「あなた。さっきから、黙ってばかりで、少しは、相槌を打つなり、自分の意見を言うなりしなさいよ。高橋みなみ、と、私と、一人の女として、どっちが、魅力的だと思うの?あなただって、イケメンだから、草彅剛、とたいして変わりないから、ちゃっかり、スマップに入れるわよ」
そう言って、少女は、怒って、顔を上げ、チキンマックナゲットをちぎって、バーベキューソースをつけて、ゴリラの口に入れた。
しかし、もちろん、ゴリラは、人語なと、わからないし、話せない。
「もう。いいわ。私、帰る」
そう言って、少女は、立ち上がって、スポーツバッグを、肩にかけ、スタスタと、その場を離れ、マクドナルドから、出て行った。
「しめた。少女が去った。もう、少女の身は、安全だ。あとは、どうやって、ゴリラを捕獲するかだ」
機動隊員の一人が言った。
その時である。
ゴリラは、立ち上がって、おとなしく、マクドナルドの二階席から、一階へ降りた。
「しめた。どういう気まぐれ、かは、わからないが、ゴリラが、外へ出てくれた。こうなれば、安全に、捕獲することは、容易だ」
機動隊員の一人が言った。
警察官と、機動隊員は、ゴリラが、マクドナルドの二階席から、出て行ったのを、後から追った。
そして、私も、マクドナルドの二階席を降りた。
警察官と、機動隊、は、何とか、ゴリラが、暴れないように、捕まえようと、輸送車の、観音開きの、戸を開けて、待機していた。
しかし、ゴリラは、自分から、輸送車に、乗り込んだ。
こうして、ゴリラは、無事に捕獲されて、上野動物園に、送られた。



平成30年11月16日(金)擱筆






カルヴァンの予定説 (小説)

2018-11-15 21:42:57 | Weblog
「カルヴァンの予定説」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のの目次その1」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji.htm

に、アップしましたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算21枚)

ブログにも入れておきます。



カルヴァンの予定説

宗教改革は、15世紀に、ドイツで、マルチン・ルターに、よって、起こった。
当時、ヨーロッパでは、ローマ教皇が、絶対的な権力を持っていて、権力を持った人間が、すべて、そうであるように、ローマ教皇を頂点とする、教会は、腐敗、堕落していた。
教会は、「免罪符」、を買えば、罪が救われる、と、説いた。
そして、「免罪符」、を、人々に売った。
しかし、その実態は、教会の、金集め、だった。
これに、怒った、ドイツの神父、マルチン・ルターは、人間は、教会の発行する、「免罪符」、などを、買うことによって、救われるのではなく、ただ、神への信仰によって、救われる、という内容の、「95カ条の意見書」、を、ローマ教皇に訴えた。
しかし、ローマ教皇は、マルチン・ルターの意見を聞くどころか、彼を破門した。
それまで、聖書は、ラテン語で、書かれていて、一般の人は、聖書を読むことが、出来なく、そのため、盲目的に、ローマ教皇に従っていたが、ルターは、聖書をドイツ語に、翻訳した。
そのおかげで、人々は、聖書を読むことが、出来るようになった。
マルチン・ルターの思想に共感するものは、多く、とうとう、ルターの思想は、ドイツ国民の支持を得て、広まった。
さらに、フランスに、マルチン・ルターの影響を、受けた、ジャン・カルヴァン、という牧師で神学者がいた。
彼は、マルチン・ルターの教えを、正しい、と思ったのは、もちろんだか、さらに、ジャン・カルヴァン、は、さらに、この世の中、および、神の御心、に、ついて、考察した。
それまでは、キリスト教は、ローマ教皇に対する、絶対的な、服従だけだった。
ジャン・カルヴァン、は、人間の労働について、
「働くことは、金儲け、のための、悪しき行為ではなく、神から、与えられた使命を、なすことであり、良いことだ」
と、説いた。
そして。
神は、全知全能である以上、
「救われる人間と、救われない人間は、生まれた時から、神によって、決められている」
という、「予定説」、を説いた。
ある家庭です。
ニールスは、真面目な少年です。
彼は、父親、母親、の、言うことを、守り、学校の勉強を真面目にやり、毎週、日曜日は、教会に行く、理想的な神童でした。
ある時、ニールスは、学校の授業で、「カルヴァンの予定説」、の話を聞きました。
しかし、ニールスは、「カルヴァンの予定説」、の意味が、よくわかりませんでした。
それで、その日、家に帰って、母親に、「カルヴァンの予定説」、の意味を聞きました。
「お母さん。カルヴァンの予定説って、なあに?よく、わからないんだ。教えて」
「それはね。中世のローマ教皇の堕落によって、免罪符が、売られるようになり、ドイツで、マルチン・ルターという人が、宗教改革を、起こしたの。それは、知ってる?」
「うん。学校で、習ったよ」
「それでね。ルターは、人は、教皇の売る、免罪符を買うことによって、ではなく、ただ、聖書に書かれている、キリストの、教えに従うことによって、人間は、救われると、説いたのよ」
「うん。それも、学校で習って知ってるよ」
「それでね。ドイツでは、マルチン・ルターの教えが、広まったの。でもね。宗教改革者には、もう一人、強い主張を持った人がいるの」
「それは誰?」
「それは、ジャン・カルヴァンという人よ」
「そのカルヴァンという人は、どういうことを主張したの?」
「人間は、教皇の売る免罪符を買うことによってではなく、聖書に書かれている、キリストの、教えに従うことによってのみ、人間は、救われると、説いたの。その点は、マルチン・ルターと同じ考えなの」
「じゃあ、マルチン・ルターの教えと同じなんだね」
「そうよ。でもね。カルヴァンの教えには、ルターが主張しなかった教えが、二つあるの」
「その教え、というのは何?」
「一つは、働いて、お金を稼ぐことは、悪いことではなく、良いことだと、いう教えなの。それが、今の資本主義の元にもなっているの」
「ふーん。そうなの。それで、もう一つの教えは、何なの?」
「それはね。予定説といってね。人間は、生まれた時に、すでに、神に祝福されて、天国に行ける人と、神に祝福されずに、地獄に堕ちる人は、もうすでに決まっている、という教えなの。だって、神様は、全知全能でしょ」
「ふーん。そうなの。人は、生まれた時点で、天国に行ける人と、地獄に堕ちる人が、決まっているんだね?」
「そうよ」
「じゃあ。お母さん。僕は、天国に行ける人間なの?それとも地獄に堕ちる人間なの?どっちなの?」
と、ニールスは、真剣な眼差しで、母親に聞きました。
「それは。ニールスは、天国に行ける人間に決まっているわ。だって、ニールスは、真面目だし、いい子だし、日曜日は、かかさず教会に行っているじゃない。そんな、いい子が、どうして地獄に堕ちたりするの?」
そう言って、母親は、笑顔で、優しく、息子の頭を撫でました。
もちろん、母親の言う通り、ニールスは、毎週、日曜日には、教会に行っていましたが、それは、敬虔な信仰心からではなく、教会で、貰う、クッキーのお菓子と、友達とお喋りすることが、教会に行く目的でした。
なので、ニールスは、聖書にも、あんまり興味がなく、牧師の説教も、つまらなく、欠伸をして、別の事を考えていました。
「ふーん。そうなの。お母さん。嬉しいな。僕は天国に入れるんだね。よかったー。なんだか、すごく気分が楽になったよ」
「それは、よかったわね。私の可愛いニールス」
そう言って、母親は、笑顔で、優しく、息子の頭を撫でました。
ニールスは、しめしめと、思いました。
なぜなら、自分は、もうすでに、天国に行けることが決まっているのだからです。
自分が、これから、何をしても、どう生きても、天国に行けることが、出来るんだ、と思うと、ニールスは、嬉しくて嬉しくてたまらなくなりました。
その日から、ニールスは、したかったけれど、「してはならないこと」、なので、我慢していたことを、するようになりました。
ニールスは、女の子達の、スカートを、片っ端から、めくったり、落とし穴を、掘って、女の子を、落としたり、学校の給食に、唐辛子を入れたり、カバンの中に、カエルを入れておいたり、体育の授業の時、ジャージに着替えた、女子生徒の、制服を隠してしまったり、テストでの、カンニングしたり、学校を、さぼって、ゲームセンターで、遊んだり、消防署に、どこどこで、火事だー、と、ウソの電話をしたり、など、さんざん、悪戯をするようになりました。
ある日のことです。
ニールスは、同級生の、コレットに、ピクニックに行こうと、誘って、近くの、小山に登りました。
コレットは、ニールスのガールフレンドでした。
ニールスもコレットが、好きでしたし、コレットも、ニールスが好きでした。
二人は、将来は、結婚しようと、言い合っていました。
それは、本気、というよりは、まだ子供の遊び感覚ですが。
コレットは、「うん。いいわよ」、と嬉しそうに、快諾していました。
二人は、その日、いつもの、近くの小山に登りました。
小山に登って、二人は、コレットの持ってきた、サンドイッチを、食べました。
その後。
ニールスは、コレットに向かって、
「さあ。着ている服を脱ぎな」
と、言いました。
「えっ。どうしたの。ニールス君?」
コレットは、いきなり、そんなことを、言われて、たじろぎました。
ニールスは、以前から、コレットの裸を見たいと思っていたのです。
「・・・・」
コレットは、ニールスの豹変に、途方に暮れていました。
「一体、どうしたの。ニールス君。真面目な、ニールス君らしくないわよ」
と、コレットは言いました。
「いいから。脱ぐんだ。脱がないなら、僕が、脱がすぞ」
と、ニールスは、おどしました。
コレットは、どうしていいか、わからず、迷いました。
なので、ニールスは、コレットに、襲いかかりました。
「やめて。ニールス君。私。ニールス君が好きよ。でも、こんな、エッチなこと、しては、いけないって、学校の先生も、教会の牧師先生も、言ったじゃないの」
「ふん。そんなの、大丈夫だよ」
ニールスは、ふてぶてしい口調で言いました。
「悪いことを、すると、地獄に堕ちちゃうわよ」
コレットが言いました。
「ふん。大丈夫だよ。だって、お母さんが、カルヴァンの予定説、によって、僕は、地獄に堕ちないって、言ってくれたんだから」
そう言って、ニールスは、強引に、コレットの、スカートを、脱がし、パンツも、脱がしました。
コレットは、裸にされて、泣きました。
「ひどいわ。ニールス君。好きなニールス君が、こんな、乱暴なことをするなんて」
その後も、ニールスの、悪戯は、続きました。
ある日、学校の先生が、家庭訪問で、ニールスの家にやって来ました。
そして、先生は、最近、ニールスが、悪戯ばかりして、困っていることを、ニールスの母親に告げました。
母親は、驚きました。
(どうして、真面目なニールスが・・・)
母親は、信じられませんでした。
その日、ニールスが、帰ってきました。
「ニールス。この頃、学校で、いつも、悪戯しているって、先生から聞いたけれど、本当なの?」
母親は、ニールスに聞きました。
「・・・・」
ニールスは黙っていました。
「そんな、悪いことしたら、死んだら、地獄に堕ちちゃうわよ」
母親が言いました。
ニールスは、驚きました。
「お母さん。どうして、僕が地獄に落ちるの?だって、僕は、カルヴァンの予定説によって、天国に行けることが、保証されている人間なんでしょう?」
ニールスは、眉毛を寄せて、母親に聞きました。
母親は、困った顔をしました。
それで、苦しげに、話し出しました。
「それはね。カルヴァンの考えによれば。神様は、全知全能だから、天国に行ける人と、地獄に堕ちる人を、生まれた時にすでに、知っている、と、カルヴァンは、言うんだけれど。誰が天国に行ける人で、誰が地獄に堕ちる人かは、人間には、わからないの。それは、神様だけが、知っているの。人間には、それは、わからないの。だけど、ニールスは、真面目で、優しい、いい子、だから、つい、お母さんは、ニールスは、天国に行ける人間だと、言ってしまったの。だけど、本当は、私には、わからないの。でも、いいことをしている人は、天国に行けて、悪いことをしている人、たとえば、泥棒とか、強盗とか、安倍晋三とか、自民党議員とかのように、悪いことをしている人は、きっと地獄に堕ちると思うわ。だから、ニールスも、悪いことをしたら、地獄に堕ちちゃうかもしれないわよ」
母親は、言いました。
ニールスは、真っ青になりました。
「そんなー。お母さん。それなら、そうと、最初に、ちゃんと、言ってよー」
「ごめんなさい。ニールスは、いい子だから、つい、天国に入れる人間だと言ってしまったの」
そう言って、母親は、息子に謝りました。
「そ、そんなあ」
ニールスの顔が青ざめました。
急にニールスに、自分は、地獄に堕ちるかもしれない、という不安が起こってきました。
ニールスは、手を組んで、神様に祈りました。
「神様。ごめんなさい。もう、悪い事は、決してしません」
そして。
ニールスは、すぐに、コレットの所に、謝りに行きました。
「コレット。この前は、ごめんね。僕が悪かったよ。許して。お詫びに何でもするよ」
と、ニールスは、言いました。
「いいわよ。ニールス君。もう、これからは、エッチなことを、しないでくれれば」
コレットは、寛容な性格だったので、ニールスを許しました。
「ありがとう。コレット」
ニールスは、ペコペコと何度も、コレットに頭を下げて、謝りました。
そして、それ以後、ニールスは、悪戯をするのを、ピタッ、と、やめました。
そして、元の、真面目な、少年になりました。
ニールスは、教会で、洗礼も受けました。
ニールスは、悔い改めて、その後は、正直に生きました。
はたして、神様は、ニールスを許して、天国に入れてくれるでしょうか?
それは、誰も、わかりません。
なぜって。
誰が、天国に入れて、誰が、天国に入れない、か、は、人間には、わからず、神様だけにしか、わからないからです。



平成30年11月15日(木)擱筆





イエス・キリスト物語 (小説)

2018-11-14 20:22:28 | Weblog
「イエス・キリスト物語」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のの目次その1」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji.htm

に、アップしましたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算18枚)

ブログにも入れておきます。



イエス・キリスト物語

今から、2000年、前のことです。
ガリラヤのナザレの村に、マリアという、美しい娘がいました。
マリアは、ヨセフという大工を愛していて、二人は、結婚しました。
そして、二人は、ベツレヘムの馬小屋で、イエス・キリスト、という男の子を産みました。
キリストは、自分が、人類を救う、救世主である、運命を、知っていました。
なぜかというと、それは、旧約聖書の、イザヤ 7:14。イザヤ 9:6。イザヤ 11:1。イザヤ 53:1。エレミヤ 23:5。ミカ 5:1。ゼカリヤ 9:9、などで、預言者たち、が、述べているからです。
イエス・キリスト、は、すくすくと、成長していきました。
そして、ガリラヤの村々で、自分の思想を述べて回りました。
多くの人々が、イエス・キリスト、の、教えを、信じるようになりました。
イエス・キリストは、自分の誕生から、最後までを、書かせ、それを、福音書としようと考えました。
そこで、イエスは、福音書の記者として、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の、4人を選びました。
「さあ。お前たちは、私の、言葉と、行い、を、しっかり、書き記すのだぞ」
と、言いました。
4人の、弟子たちは、
「はい。わかりました」
と、言って、イエス・キリストの、言動を書き記しました。
しかし、イエスの弟子の中に、もう一人、イスカリオテのユダという者がいました。
この男も、熱心なイエスの、信者でした。
「主よ。私も、福音書の記者、と、させて下さい」
と、ユダは、言いました。
イエス・キリストは、微笑んで、
「よろしい。お前も、福音書の記者となれ」
と、言いました。
こうして、キリストは、最初は、福音書は、4人に、書かせる、予定でしたが、ユダが、さかんに、福音書の記者になることを、望むので、最初の予定を、変更して、ユダを加えた、5人に、イエス・キリストの、言動を、記録させる、こととしました。
ユダは、福音書を出版して、印税で、儲けるために、イエス・キリストに、福音書の記者になることを、申し出たのではありません。
ユダは、ジャーナリズムの精神が強く、純粋な思いで、ぜひとも、キリストの、言動を、書き記したい、と、思っていたのです。
ユダは、神経質な性格で、絶えず、肌身離さず、ノートとペンを持って、キリストの、全ての、言動を、余すところなく、全て、書き記そうとしました。
ある時、イエスは、ガラリヤ湖の北のカペナウムの、小高い山で、多くの群衆に向かって、自分の思想を語りました。
これは、「山上の垂訓」、と、呼ばれています。
そこで、イエスは口を開き、彼らに教えて言われました。
「こころの貧しい人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである」
「悲しんでいる人たちは、さいわいである、彼らは慰められるであろう」
「柔和な人たちは、さいわいである、彼らは地を受けつぐであろう」
「義に飢えかわいている人たちは、さいわいである、彼らは飽き足りるようになるであろう」
「あわれみ深い人たちは、さいわいである、彼らはあわれみを受けるであろう」
「心の清い人たちは、さいわいである、彼らは神を見るであろう」
「平和をつくり出す人たちは、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう」
「義のために迫害されてきた人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである」
ユダは、感激しました。
「このお方こそ、この世を救って下さる、お方だ」
そう思って、ユダは、一字一句、もらさず、キリストの、言葉を書いていきました。
山上の垂訓が、終わると、イエス・キリストは、
「ちょっと・・・」
と、言って、森林に入って弟子たちから、離れました。
ユダは、キリストは、何を、なさっているのだろう、と、思い、そっと、キリストの後について行きました。
すると、キリストは、しゃがみ込んで、「うーん」、と、踏ん張って、野グソ、を、していました。
ユダは、急いで、ノートに、キリストの行動を書き記しました。
ユダは、
「そして、キリストは、その場を離れた。そして、野グソをなされた・・・」
と、書きました。
キリストは、ユダを見つけると、焦って、ユダに、
「や、やめろ。そんなことまで、書く必要はない」
と、キリストは、あわてて、制止しました。
すると、ユダは、
「そして、キリストは、お述べになった。そんなことまで、書く必要はない・・・と」
と、急いで書きました。
キリストは、焦って、手を振りました。
キリストは、すぐに、ユダの速記を止めたかったのですが、野グソの途中だったので、それは、出来ませんでした。
「ユダ。違うんだ。私の、思想と、関係のない、些細な日常の行為、発言、まで、福音書に書く必要はない、と、言っているんだ」
と、キリストは、言いました。
すると、ユダは、急いで、書きました。
「そして、キリストは、言われた。ユダ。違うんだ。私の、思想と、関係のない、些細な日常の行為、発言、まで、福音書に書く必要はない、と、言っているんだ。と」
キリストは、いい加減、頭にきて、
「やめろ、ユダ。そんなことを、書いたら、福音書が、格好悪くなってしまうではないか」
と、怒鳴りました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。やめろ、ユダ。そんなことを、書いたら、福音書が、格好悪くなってしまうではないか。と」
キリストは、いい加減、頭にきて、
「やめろ。ユダ。書くのをやめないと、目をえぐるぞ」
と、言いました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。やめろ。ユダ。書くのをやめないと、目をえぐるぞ、と」
やっと、キリストは、野グソを、出し切りました。
そして、
「お前は、ばか者だ」
と言って、キリストは、ユダの頭を殴りました。
ユダは、急いで、
「キリストは、お前は、ばか者だ。と言って、ユダの頭を、ぶん殴った」
と、書き記しました。
キリストは、いい加減、あきれて、
「もう、お前には、何を言っても、無駄なようだな。好きなようにするがよい」
と言いました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。もう、お前には、何を言っても、無駄なようだな。好きなようにするがよい、と」
そう言って、イエスは、去って行っていきました。
その晩、ユダは、家に帰って考えました。
「キリストは、何も悪いことをしていない、私を殴り、目をえぐる、とまで、言った。殴られて、私は、全治一カ月の怪我をおった。その上、キリストは、私の目をえぐる、と、まで、脅した。はたして、キリストという人は、本当に良い人なのだろうか?これは、明らかに、傷害罪、脅迫罪だ」
という疑問が、ユダを悩ませたのです。
キリストは、私に、(好きなようにするがよい)、と言われた。
そこで、ユダは、警察署に行き、イエス・キリストに、暴行されたことを伝えました。
キリストに、殴られて、できた、たんこぶ、も、見せました。
警察官が、裁判所に言ったところ、裁判官は、
「それは、十分、傷害罪、および、脅迫罪、に、該当する」
と言って、キリストの、逮捕令状を出しました。
警察官たちは、逮捕令状を持って、キリストの所に行きました。
キリストは、ゲッセマネの園で、祈っていました。
「キリストよ。お前は、ユダに、暴行を加え、脅迫したな。お前を、傷害罪、および、脅迫罪で、逮捕する」
そう言って、警察官たちは、キリストに、逮捕令状を見せました。
逮捕令状には、
「イエス・キリスト。昨日、ユダに対し、暴行を加え、脅迫した。これは、刑法第204条の傷害罪。(人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する)、と、刑法第222条の脅迫罪。(生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する)、に該当する。よって、キリストを逮捕する」
と、書かれてありました。
こうして、イエス・キリストは、正式な裁判にかけられました。
第一審の、裁判員裁判が行われました。
裁判長は、ポンテオ・ピラト、でした。
「ユダは、お前に、殴られ、そして、殺すぞ、と脅された、と言っているが、それは本当か?」
ポンテオ・ピラト、は、イエスに聞きました。
「はい。私は、何の罪もない、ユダに暴行を加え、そして、目をえぐるぞ、と脅しました。軽はずみな行為でした」
と、自らの罪を素直に認めました。
裁判員たちは、みな、
「キリストを十字架にかけろー」
と、叫びましだ。
こうして、キリストは、正式な裁判によって、ゴルゴタの丘で、十字架に磔にされて死にましだ。
福音書の記者の、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の4人は、困りました。
「まいったなあ。キリストは、この世の救い主なのに」
「キリストは、人間の罪を背負って、十字架にかけられるはずだったのに」
「これでは、キリスト教が、成り立たなくなってしまう」
「イエスが、ユダを、福音書の記者に、認めてしまったことが、間違いの原因なんだ」
「そうだな。イエスが、ユダを、福音書の記者に、認めていなければ、キリストは、人間の罪を背負って、十字架にかけられて、キリスト教は、人類を救う、偉大な宗教になれたはずだ」
4人は、どうしたら、いいか、相談しました。
イエス・キリストの降臨は、旧約聖書で、多くの、預言者たちに、預言されていましたから。
その一例を挙げると。
詩篇22篇。詩篇にはメシア詩篇と呼ばれる詩篇があるが、この詩篇もキリストの十字架を預言している。
十字架上のキリストの最後の7つの言葉に関連がある。イザヤ書7章14節。
キリストが処女から生まれることを預言。イザヤ書9章6節。
キリストの誕生の預言。イザヤ書11章1~5節、10節。
キリストが「エッサイの根株」つまり、エッサイの系列、ダビデの子孫から生まれ、どのような者となるか、ということが預言されている。(エッサイはダビデの父)イザヤ書53章。
キリストの受難を預言した箇所。エレミヤ書23章5,6節。
バビロン捕囚の時代(BC.586~)に、ダビデの子孫からキリストが生まれることを預言。ミカ書5章2節。
キリストが生まれる場所を預言。ゼカリヤ書9章9節。
キリストがロバの子に乗ってエルサレムに入城することを預言。
しかし、事実を、そのまま、福音書に書くと、旧約聖書の、預言者たちの、預言がはずれた、ということに、なってしまいます。
しかし、そんなことが、あっては、なりません。
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の4人は、これを、どうするか、相談しました。
そして、結論が出ました。
その結論とは。
「ユダの福音書は無かったこととする」
「ユダは、キリストを売った、裏切り者とする」
「イエスは、罪のないのに、人類の罪を背負って、十字架にかかった、こととする」
という結論です。
そのため、ユダを、秘密のうちに、「裏切り者」、として、その罪悪感から、自殺した、として、ユダの首を絞めて、殺しました。
殺した後、ユダは、自殺したように、見せかけるために、木に首吊りにしておきました。
そして、自分たちで、イエス・キリストの、生涯を、事実とは異なる、立派なものに、創作して、書き記しました。
それが、現在、普及している、キリストの福音書なのです。
しかし、その4人の、機知によって、キリスト教は、博愛の宗教として、全世界で広まりました。



平成30年11月14日(水)擱筆



本音と建前 (小説)

2018-11-11 15:30:18 | Weblog
「本音と建前」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その1」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji.htm

に、アップしましまたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算21枚)

ブログにも入れておきます。



本音と建前

吉田美津子は、一人っ子である。
美津子には、父親しかいない。
美津子の、母親は、美津子を産んだ直後、産褥熱、で死んでしまった。
そのため、美津子は、もの心が、ついてからは、父親の、吉田修一に、育てられた。
父親は、優しく、美津子を愛して、育てたので、美津子は、父親が大好きだった。
美津子は、ファザコンと言っても、間違いではない。
しかし、幼稚園に入って、皆、父親と母親がいるのに、美津子は、父親しか、いないので、友達が、母親のことを、話すと、美津子は、寂しかった。
それで、美津子も、母親を欲しい、と、思うようになった。
父親と娘だけ、という、関係に、美津子は、不満を感じてはいなかったが、他の子には、皆、父親と母親がいるので、その劣等感で、母親が欲しいと思ったのである。
もちろん、美津子は、テレビは、セーラームーンや、秘密のアッコちゃん、などの、女の子向けの、アニメ番組を見たかった。
美津子の父親の、吉田修一は、ある証券会社、(N証券)、に勤める、エコノミスト(経済評論家)だった。
母親がいる家庭だと、母親は、結構、娘に合わせて、一緒に、アニメ番組を見て、娘と一緒に、楽しむのだが、美津子の父親は、仕事一筋の、固い男だったので、会社から帰ってきたり、また、休日も、テレビは、ニュース番組や、政治討論会の番組しか、見なかった。
母親がいると、母親は、結構、娘のことを、考えて、絵本やマンガを買ってきてくれるのだが、美津子の父親は、仕事一筋の、固い男だったので、大手新聞、各社と、経済雑誌しか、買ってこなかった。
日曜日は、美津子の父親は、政治・経済、の討論会の、番組しか、見なかった。
美津子は、優しい父親が好きだったので、父親と、一緒に、父親の見ている、政治・経済、の討論会の、番組を、父親にじゃれつきながら見た。
美津子が五歳になった、誕生日のことである。
父親が、プレゼントとして、「さあ。美津子。面白い本を買ってきてやったぞ」、と言って、ワクワク嬉しがっている、美津子が、父からの、プレゼントの袋を開けた時、それが、絵本ではなく、カールマルクスの、「資本論」、だったのを、見た時は、美津子は、さすがに、うわべは、「ありがとう。パパ」、と、満面の笑顔で、感謝の言葉を言ったものの、内心では、「ウゲー」、と、げんなりしていた。
美津子の父親は、子供の気持ちを察することの出来ない、鈍い男だったので、娘の美津子に、政治の話をしてやった。
まだ、幼稚園の子供は、政治や経済など、に関心などない。
妻がいたら、妻と、政治の話を交わすことも出来るのだが、修一には、妻がいない。
なので、娘の、美津子が、妻の役にされた、のである。
修一は、娘に、色々と、政治の解説をしてやった。
それが、娘に対する思い遣りだと思っていた。
自分は、興味があって、面白くても、娘は、そんなものには、まだ、興味は無く、娘は、歳、相応の、セーラームーンや、秘密のアッコちゃん、などの、女の子向けの、アニメ番組を見たかったのだが、父親は、自分の興味のあることは、他人も興味を持っているものだと、思っていた。
つまり、父親の修一は、相手の求めているものは、何か、ということを、察する能力に欠けていたのである。
これを、医学的に、アスペルガー症候群という。
しかし、娘は、父親が好きだったので、父親の、話しを、わからないまま、聞いた。
それで、政治のことは、わからないまま、日本や、外国の総理大臣や、大統領の、名前や顔を、自然と、覚えることになった。
ある時、娘が、父親に聞いた。
「ねえ。おとうさん。日本と中国は仲が悪いのに、どうして、安部首相と習近平は、仲良く、手をつないでいるの?」
娘は、父親に、そんな、素朴な質問をした。
父親はそれに対して、こう答えた。
「それは、本音と建て前が違うからさ。お前だって、健太くんが好きなのに、好きって言えないだろう」
そう父親は、説明した。
娘は、幼稚園で、同じ組の、健太が、好きだった。
しかし、恥ずかしくて、健太に、「好きです」、とは、言えなかった。
そのことを、娘は、どうしたら、いいのか、わからず、以前に、食事の時に、父親に話したのである。
「お父さん。本音と建て前が、違うって、いけないことなの?」
娘が父親に聞いた。
「そりゃー。当然、悪いことさ。政治家なんて、全員、本音と建て前が違うんだ。だから、日本の政治は、良くならないんだ」
と、父親は、言った。
「そうだったの。本音と建て前が、違うって、悪いことなのね」
と、娘は、ポツリと、呟いた。
「それは、当然そうさ。日本の政治家たちが、正直になったら、日本は、今より、はるかに、良い国になるんだ」
と、父親は、言った。
それで、娘は、その翌日、幼稚園に行った時、勇気を出して、健太に、「好きです」、と言った。
健太は、喜んで、「僕も、美津子ちゃんが好きさ」、と言った。
娘は嬉しかった。
それ以来、美津子と健太は親友になった。
父親に言われたように、何事でも、正直に、言うことが、大切だと、美津子は思った。
ある時、家に、父親の修一の、会社の同僚の、山本、が来た。
山本は、吉田と、大学時代の友人で、卒業後も、同期で、N証券、に入社した。
彼は、以前にも、来たことがあったので、吉田の娘の美津子は、知っていた。
「やあ。美津子ちゃん。久しぶり」
と、同僚の山本は、挨拶した。
「こんにちは。山本さん。お久しぶりです」
と、美津子は、礼儀正しく挨拶した。
美津子は、山本に、お茶と、お菓子を、盆に乗せて、
「はい。どうぞ」、
と言って出した。
と言っても、お菓子は、おやつ用の、クッキー、で、お茶は、冷蔵庫の中の、麦茶を、コップに注いで出しただけだが。
しかし、山本は、
「いやー。どうも、有難う」
と、礼を言った。
そして、美津子は、居間を出て行った。
山本と、父親の、二人は、色々と話した。
「お前も、男手一人で、娘を育てるのは、たいへんだろう。再婚したら、どうだ?」
と、聞いた。
「まあ、そう思う時もあるけどな。しかし、相手がいないからな」
と、父親は、言った。
「会社の、京子は、お前のことが、好きそうだぞ」
と、友達は、言った。
「ええっ。本当か?」
父親は、驚いて聞いた。
「ああ。以前、会社の帰りに、飲み会で、京子に、お前のことを、どう、思う、と、聞いたら、彼女は、顔を赤らめていたぞ。まず、間違いなく、彼女は、お前が好きなんだ」
と、友達は、言った。
「それは、本当か?」
父親は、聞き返した。
「ああ。本当さ。ところで、お前は、京子のことを、どう思っているんだ?」
と、友達が聞いた。
「ま、まあ。嫌いじゃないよ。でも、オレは、子持ちだし。とても、告白する勇気なんてないよ」
と、父親は、言った。
「京子さん、だって、子持ちじゃないか。お前と、京子さん、が、結婚するのが、一番、いいんじゃないか?」
と、友人は、言った。
京子、は、父親の会社、(N証券)、の同僚で、京子とは、同期入社だった。
京子は、入社して、二年後に、大学時代の友人と、結婚した。
そして、健太、という男の子を生んだ。
しかし、京子の夫は、健太、が、生まれた、一年後に、交通事故で死んでしまったのである。
娘の美津子と、京子の息子の、健太は、同年齢で、同じ、幼稚園の、同じクラスだった。
「ともかく、オレは、子持ちだし、夜、遅くまで、仕事で、忙しいだろう。それに、夜中に、いびき、も、かくし・・・。だから、結婚しても、幸せな家庭を築くことは、できないと思うんだ」
と、父親は、言った。
友達は、ニヤリと笑った。
「それは、建て前だろう。お前は、憶病な性格だ。本音は、お前は、京子さんが、好きだけれど、京子さんに、プロポーズして、断られたら、恥ずかしいから、言い出せない、だけなんだろう」
と、友達は言った。
図星だった。
「ま、まあ。そうだけどな」
と、父親は、照れくさそうに言った。
「京子さんは、お前と、結婚したがっているんだよ」
と、友達が言った。
「どうして、そんなことが、わかるんだ?」
と、父親は、間髪を入れず、聞き返した。
「この前の日曜日、たまたま、妻と、ショッピングモールの中の、ファミリーレストランに入ったら、健太君を連れた、京子さんに、出会ったんだ。それで、京子さんに、お前のことを、どう思っているか、聞いてみたんだ。京子さんは、答えられなかったけれど、顔を赤くしていたぞ」
と、友達は言った。
「それは、本当か?」
と、父親は目を輝かせて言った。
「ああ。本当さ」
と、友達は言った。
それから、色々と雑談して、友達は、帰っていった。
「京子さんに、好きです、結婚して下さい、と、ちゃんと言うんだぞ」
と、友達は、ふざけ半分に言い残して。
「ああ。わかったよ」
と、父親は、相手の冗談に、冗談で、答えた。
それを、美津子は、こっそりと聞いていた。
翌日、会社で、京子が、異様に嬉しそうな顔で、吉田に挨拶した。
「おはようございます。吉田さん。お昼に、お話して頂けませんか?」
と、聞いてきた。
修一には、何の用だか、さっぱり、わからなかった。
昼になって、二人は、会社から出て、近くのファミリーレストランに入った。
そして、昼食も兼ねて、カレーライスを、注文した。
「あ、あの。京子さん。ご用は何でしようか?」
修一が聞いた。
京子は、ニッコリ、微笑んだ。そして、
「あ、あの。メール、ありがとうございました。嬉しいです」
と、修一に言ってきた。
修一は、びっくりした。
「あ、あの。何のことでしょうか?」
修一は、聞き返した。
「あ、あの。昨日、送って下さったメールのことです」
と、京子は、顔を赤くして、言った。
それでも、修一には、何のことだか、わからない。
「とぼけないで下さい。修一さんは、昨日、私に、メールを送って下さったじゃないですか」
そう言って、京子は、自分の携帯電話の、受信メールボックスを開けた。
「ちょっと、見せて下さい」
そう言って、修一は、京子の、携帯電話のメールを見た。
そこには、修一から、京子への、メールがあった。
修一も、京子も、同じ職場なので、仕事の打ち合わせ上、携帯番号と、メールアドレスは、登録してあった。
修一から、京子への、メールには、こう書かれてあった。
「好きです。京子さん。結婚して下さい」
修一は、吃驚した。
そして、急いで、自分の、ポケットから、自分の、携帯電話を取り出して、開けてみた。
そして、送信メールボックスを開けてみた。
そこには、修一から、京子への、送信メールがあった。
そして、それには、こう書かれてあった。
「好きです。京子さん。結婚して下さい」
と。
修一は、顔が真っ赤になった。
(誰がこんなイタズラを・・・・)
と、思ったが、すぐに、その容疑者が、頭に浮かんだ。
「あ、あの。修一さん。結婚式は、いつに、なさいますか?」
京子は、モジモジしながら、小娘のように、頬を上気させて、聞いた。
「えっ。いえ。それは・・・」
と、修一は、曖昧な返答をした。
その日、修一は、頭が混乱して、仕事が手につかなかった。
(メールを送ったのは、美津子だ。それ以外にいない)
と、修一は、確信していた。
修一は、今日、家に帰ったら、愛してはいるが、とんでもない悪戯をした、娘の、美津子を、うんと、叱ろうと思った。
仕事が終わって、修一は、家に帰った。
「お帰りなさい。お父さん」
娘は、無邪気に、言った。
父親は、娘をじっと見た。
「美津子。おまえ。パパのメールをいじらなかったか?」
そう父親は聞いた。
「うん。いじったよ。京子さんの、アドレスに、好きです、って書いて送ったよ」
と、娘は、無邪気な顔で言った。
「どうして、勝手に、そんなことをしたんだ。パパの携帯を勝手に、いじるなんて、悪いことだと、そんなことも、わからないのか?パパは、恥ずかしくて仕方がなかったぞ」
と、父親は、言った。
「だって。お父さんは、京子さんが好きなんでしょう。人間は、本音と建て前を使い分けないで、自分の気持ちを、正直に、言うことが大切なんでしょう?」
娘は、キョトンとした、顔で言った。
「ま、まいったなあ」
父親は何も言い返せなかった。
しかし。娘のおかけで、父親は、京子と再婚した。
こうして、修一と京子は、結婚して、京子は、住んでいたアパートを、出て、修一の家に、息子の健太と、移り住んだ。




平成30年11月11日(日)擱筆






うらしま太郎、について

2018-11-09 15:54:43 | Weblog
「うらしま太郎」、と、題して、7作、小説を書いた。

ここで、一つ、言っておきたいことがある。

僕は、亀を、陸に上がらせて、子供たちが、亀を、いじめていた、のは、実は、乙姫の、仕組んだこと、八百長、芝居、という、設定にした小説が多い。

しかし、お伽話の、「うらしま太郎」、の話は、そもそも、その可能性を持っているのである。

なぜ、亀は陸に上がったのか?

なぜ、子供たちは、亀をいじめたのか?

この理由も、述べられていない。

「いじめ」、を、するのは、何か、理由、があるはずである。

人間だったら、「あいつ。気に食わない」、とか、「あいつ。むかつく」、とか、「あいつ。生意気」、とか。

何か、理由が、あるから、「いじめる」、のである。

さて、「うらしま太郎」、の、お伽話では、どうして、子供たちは、亀をいじめたのか?

子供たちは、亀を、「気に食わない。とか、むかつく。とか、生意気」、とか、感じたからであろうか?

子供たちが、亀をいじめた理由は、お伽話、の、「うらしま太郎」、では、書かれていないのである。

これは、亀をいじめている、子供たち、を、うらしま太郎、が、注意して、亀が、助けてもらった、お礼をする、という設定にしないと、お話が作れないからである。

同様に、亀は、乙姫の、家来であるが、どうして、陸に上がったのか?

その理由も、書かれていない。

亀は、メスで、産卵のため、陸に上がった、とも、書かれていないし、陸に対する好奇心で、陸に上がったのかも、しれない。

その理由は、書かれていないので、「わからない」、のである。

だから、乙姫が、人間とは、どういう、生き物か、ということを、知るために、亀に、「陸に上がってみなさい」、と、命じた可能性は、否定できないのである。

そこは、お伽話では、書かれていないので、「わからない」、ままなのである。

多くの人は、亀は、「乙姫の命令で陸にあがった」、のではなく、「陸の人間に対する、好奇心から、自発的な自分の意志で、陸に上がった」、と、勝手に解釈してしまっているのに、過ぎない。

だから、亀が、「乙姫の命令で陸に上がった、というのは、間違い、である」というように、何となくの、雰囲気から、解釈してしまっているのである。

しかし、亀が陸に上がった理由は、「わからない」、し、「書かれていない」、のだから、「亀は乙姫の命令で陸に上がった」、可能性は、十分、考えられるのである。

そもそも、子供たち、は、なぜ、亀をいじめたのか?

普通、害虫でない限り、人間は、動物を、いじめたりはせず、逆に、面白がって、かわいがるものである。

乙姫は、うらしま太郎、と、話が出来るのだから、人語を話せる。

だから、亀を助けてくれる、優しい人を求めて、乙姫が、子供たち、に、亀をいじめるよう、頼んだ、という可能性も否定はできない。

亀の行動にせよ、子供たちの行動にせよ、乙姫の心にせよ、すべて、お伽話には、書かれていないのだから、あらゆる可能性が、考えられるのだから、

「乙姫が、子供たちに、亀をいじめてくれ」、と、頼んだ可能性も否定は出来ない。



お伽話では、残酷な、あるいは、意地悪な、結末が多い。

たとえば、「カチカチ山」、では、ウサギは、タヌキを殺してしまう。

しかし、タヌキは、悪さはしても、ばあさん、を、殺してはいない。

それを、かたき討ち、と言って、殺す、というは、子供向けの話としては、ちょっと、残酷すぎる。

だから、その残酷さを、ゆるめて、ラストで、ドロ船で、おぼれそうになった、タヌキを、「どうだ。もう、悪いことは、しないか?」、と言って、ウサギが、タヌキを、懲らしめる、程度にとどめるのは、悪くはない。

しかし、お伽話の原作は、できるだけ、原作に、忠実に、そのまま、に、しておきたいし、また、しておくべきものだから、(そうしないと、原作が二次創作になり、伝言ゲームのように、どんどん、形を変えていってしまうから)、現在、いくつも、ある、「うらしま太郎」、のお伽話でも、「なぜ、亀は陸に上がったのか」、「なぜ、子供たちは、亀をいじめたのか」、「亀が陸に上がったのは、乙姫の命令なのか、それとも、亀の自発的な意志なのか」、は、分からないままにしてある。

そして、「わからない」、ものには、あらゆる可能性が考えられる余地があるのである。



とは、書いたものの、「書かれていない事」=「なかった事」、と、考えるのも、妥当性がある。

お伽話は、単純な話だから、「あった事」なら、「書かれているはずだ」、と、考えるのも、妥当性がある。

真剣に生きなかったヤツは自分史さえ書けない

2018-11-09 07:23:38 | Weblog
「真剣に生きなかったヤツは自分史さえ書けない」、のである。

誰でも、「自分史」、は、書ける。と、言われている。

確かに、書けるだろう。

なら、書いてみればいい。

しかし。

「真剣に生きなかったヤツは自分史さえ書けない」、のである。

もちろん、真剣に生きなかったヤツも、自分史は、書ける。

しかし。

レールに敷かれた人生を送っただけのヤツ。

人生に、無難さ、や、安定、しか、求めなかったヤツ。

そして、いかに、面白おかしく、遊んで、楽しく過ごすことしか、しなかったヤツ。

そして、何の目標も、理想も持たず、いい学校、や、会社、に入るためにだけに、小学校、中学校、高校、大学、と、何も考えず、勉強しかしなかったヤツ。

そして、いい会社に入り、結婚して、妻子を養うため、つらくても、会社を辞めず、定年退職まで、働いた。そして、退職後は、一日中、ゴロ寝して、ワイドショーを見て過ごした。

そんな、ヤツが、自分史、を、書いたって、クソつまらない、ものになるだけである。

面白くも何ともない。

とても、読めたものじゃない。

そんな、ヤツの自分史なんか、読むヤツがいるのだろうか?

うらしま太郎と桃太郎 (小説)

2018-11-08 06:46:05 | Weblog
「うらしま太郎と桃太郎」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算32枚)

ブログにも入れておきます。





うらしま太郎と桃太郎

うらしま太郎、と、桃太郎、は、大学時代の同級生である。
二人は、慶応大学の経済学部で、ゼミも、一緒にやったりして、また部活も、同じテニス部、で、非常に仲のいい友達だった。
二人は、いつも、
「教授の金子勝先生の授業は、安倍政権の批判ばかりで、経済学、は、全然、教えてくれないからなー。やんなっちゃうよなー。せっかく、経済学、を、しっかり勉強しようと思って入学したのに」
「まあ、先生も、今年で、定年退官だからな。次の教授は、きっと、真面目に、経済学を教えてくれるだろう。それまでの我慢だ」
「だけど、卒業試験では、安倍政権の批判を、いっぱい、書いとけば、単位は、確実にとれるからな。まあ、いいじゃないか」
と、愚痴をこぼしていた。
サークルも、二人とも、テニス部だった。
ある時、慶応大学の、テニス部、の3名と、聖心女子大学の、テニス部、3名で、合コンをした。
慶応大学からは、うらしま太郎、と、桃太郎、と、それに金太郎、の3名が、行った。
一方、聖心女子大学からは、乙姫、と、亀子、と、熊子、の3名の女子大生が、来ていた。
金太郎、は、慶応大学の法学部で、相撲部の主将だった。
色々と、会話が弾んだ。
聖心女子大学の、中では、乙姫、という女学生が一番、きれいだった。
桃太郎は、乙姫、に、一目惚れしてしまって、さかんに、乙姫に、話しかけた。
しかし。
うらしま太郎、も、乙姫を、一目、見た時から、恋してしまったのである。
しかし、うらしま太郎、は、人を、押しのけて、自分の、気持ちを、通すことなど、出来ない、おとなしい、性格だった。
それで、桃太郎が、乙姫に、さかんに、話しかけるので、うらしま太郎、は、黙っていた。
乙姫、の横には、亀子、という、おとなしい子が座っていた。
そして、金太郎、は、さかんに、熊子、に、話しかけていた。
なので、うらしま太郎、は、話し相手のいない、亀子に、話しかけた。
合コンが、終わった後に、桃太郎は、
「乙姫さん。どうでしょう。二人きりで、喫茶店で、お話しませんか?」
と、乙姫を誘った。
乙姫は、
「ええ。いいですよ」
と、言って、桃太郎について行った。
金太郎、は、熊子、と、ばかり話していて、合コンの後、熊子、と、喫茶店に、行くことになった。
熊子、は、聖心女子大の、女子レスリング部で、伊調馨よりも、強く、全国大学学生相撲選手権で優勝した、金太郎、を知っていて、同じ、格闘技を愛する者として、相性が合ったので、話が弾んだ。
「熊子さん。ドライブに行きませんか?」
「どこへですか?」
「足柄山です」
「えっ。でも、あそこは、熊が出ると言いますよ」
「大丈夫です。僕は、熊より強いですから、熊が出たら、やっつけてやりますよ」
「わー。金太郎、さん、て、強いのね。頼もしいわ」
ということで、金太郎、は、熊子、と、足柄山に、ドライブに行った。
あとには、亀子が、一人、とり残された。
うらしま太郎、は、亀子とは、ほとんど話していなかったが、亀子に、
「亀子さん。僕で、よろしかったら、少し、お話しませんか?」
と、亀子に、聞いた。
亀子は、
「ええ。有難うございます」
と、言って、うらしま太郎、は、合コンの後、亀子と、二人で、別の喫茶店に入った。
そして、少し、話した。
「乙姫、さん、は、ミス聖心女子大、なんです。頭もいいです。私なんか、ミスコンの、一次予選も、通らなくて・・・」
と、亀子は、さびしそうに、言った。
亀子は、乙姫、に比べて、器量が劣っていることを気にかけているようだった。
「・・・・・」
うらしま太郎、は、亀子に、かける言葉を見つけられなかった。
安易に、「そんなことないですよ」、などと、同情の言葉は、うらしま太郎、は、かけらなかった。
合コン、が終わった後も、桃太郎、と、乙姫、の二人は、桃太郎、が、さかんに、乙姫、を、デートに誘ったので、それによって、乙姫、と、桃太郎、の、カップルが出来た。
ある時、うらしま太郎、と、桃太郎、と、乙姫、と、亀子の、4人は、テニススクールのレンタルコートを、借りて、ミックスダブルスをした。
誰と、ペアを組むかは、公平に、ジャンケンで決めた。
うらしま太郎、は、乙姫、と、ペアを組むことになった。
桃太郎、は、亀子と、組んだ。
桃太郎、は、乙姫、と、ペアを組みたかったので、少し不本意な様子だった。
ミックスダブルスの試合が始まった。
「さあ。負けないように、頑張りましょう」
と、乙姫、が、うらしま太郎、に、声をかけた。
「はい」
と、うらしま太郎、は、答えた。
うらしま太郎、が、サービスで、試合が始まった。
前衛で、構えている、乙姫、の、テニスウェアの、短いスカートが妙に、艶めかしかった。
うらしま太郎、は、ボールをトスアップして、サービスをした。
レシーバーの、桃太郎、は、いきなり、ダブルスの定石を外し、乙姫を超える、高いロブを上げた。
乙姫は、その球を、スマッシュしようと、ジャンプしたが、届かなかった。
うらしま太郎、が、急いで、乙姫の後ろに回って、ロブを返した。
その後、桃太郎、と、亀子のペアが、サーバーになると、桃太郎、は、うらしま太郎、に、もの凄い、高速サーブを打ち、乙姫には、緩い球のサーブをした。
しかし、うらしま太郎、は、桃太郎、の、打つ、高速サーブを全部、返した。
桃太郎、の打つ、スマッシュ、や、ドロップショットも、全部、うらしま太郎、が、返した。
うらしま太郎、は、何としても、勝って、乙姫を喜ばせたかったのである。
結果、うらしま太郎、と、乙姫、の、ペアが勝った。
乙姫は、うらしま太郎、に、ニコッ、と、微笑んだ。
「有難う。うらしま太郎、さん。私達が、勝てたのは、うらしま太郎、さんが、私のミスを全部、カバーしてくれたから、だわ」
と、言って、ニコッ、と、微笑んだ。
「い、いえ。僕なんか、たいした事はしていません」
と、うらしま太郎、は、顔を赤くして答えた。
しかし、うらしま太郎、は、その時、乙姫は、確かに、自分に、好意を持っているのを、感じとった。
「あ、あの。うらしま太郎、さん。少し、喫茶店で、お話しませんか?」
と、乙姫が、話しかけようとした。
その時である。
桃太郎、が、急いで、乙姫の所にやって来た。
「乙姫さん。最近、いい、イタリアンの店が、出来たんですよ。行きましょう」
そう、桃太郎、は、言って、乙姫を車に乗せて、テニスコートを去って行った。
亀子が、一人、おずおずと、していた。
うらしま太郎、は、亀子の所に行った。
そして、うらしま太郎、は、亀子に、
「よかったら、僕たちも、近くの喫茶店で、少し、話しませんか?」
と、言った。
「はい」
と、亀子は、嬉しそう、返事して、二人は、近くの、喫茶店に入った。
うらしま太郎、も、亀子も、アイスティー、と、苺のショートケーキを注文した。
食べ終わると、亀子は、おずおずと、話し出した。
「うらしま太郎さま。ごめんなさい。乙姫さんは、人を傷つけることは、言えない性格なので、はっきりとは、言っていませんが、乙姫さんは、桃太郎、さん、が、積極的に、誘うので、それを、断れなくて、デートしていますが、乙姫さん、の、本心は、桃太郎、さん、ではなく、うらしま太郎、さん、が、好きなんだと思います。乙姫さんと、話していて、私は、それを、はっきりと感じました」
と、亀子は、言った。
「いえ。いいんです。でも、それを、教えてくれて、有難う」
と、うらしま太郎、は、亀子に、礼を言った。
うらしま太郎、は、亀子が、うらしま太郎、を、好いている、ということは、亀子の態度から、わかった。
しかし、うらしま太郎、は、亀子に、「付き合いませんか?」、とは、言わなかった。
なぜなら、うらしま太郎、は、亀子には、好意を持っておらず、好意を持っていない女と、付き合うのは、結局は、女を不幸にしてしまう、と、思ったからである。
やがて、うらしま太郎、桃太郎、金太郎、と、乙姫、亀子、熊子、の、6人は、大学を卒業した。
そして、それぞれ、民間企業に就職した。
そして、桃太郎は、乙姫、を、口説いて、二人は、結婚した。
うらしま太郎、は、心の中では、本心では、不本意に思いながらも、二人の結婚を祝福した。
そして、続いて、金太郎、と、熊子、も、結婚した。
やがて、桃太郎、と、乙姫、の間には、可愛い、女の子が生まれた。
女の子は、父親の桃太郎、から、とって、桃子、と、名づけられた。
しかし、幸福は長く続かなかった。
桃太郎は、日本で、難病指定されている、筋萎縮性側索硬化症を発症してしまい、入院することになってしまったからである。
しかし、結婚式、以来、うらしま太郎、は、桃太郎、と、疎遠になってしまった。
というより、うらしま太郎、が、桃太郎、と、乙姫、から、意図して、距離をとったのである。
というのは、うらしま太郎、と、乙姫、が、好意を持ちあっていることを、桃太郎、が、気づいていることを、うらしま太郎、は、気づいていたからである。
そして、うらしま太郎、は、乙姫、が、自分のことを、忘れて、桃太郎、と、幸せになって欲しい、と、思っていたからである。
桃太郎、は、根はいい性格だし、うらしま太郎、は、乙姫、も、桃太郎、と、二人きりで暮らしているうちに、桃太郎、を、愛するように、なるだろう、と思ったのである。
そのため、うらしま太郎、は、乙姫、に、自分を忘れさせるために、身を引いたのである。
そのため、うらしま太郎、と、桃太郎、は、一年に一度の、年賀状の、遣り取りも、しなくなってしまった。
ある日、うらしま太郎、は、本を買いに、神保町に行った。
そして、本を買って、近くの喫茶店で、本を読んでいた。
すると。
一人の女性が、喫茶店に入って来た。
うらしま太郎、は、その女性を見た。
そして吃驚した。
何と、その女性は、亀子だったからである。
うらしま太郎、は、亀子に向かって、
「亀子さーん」
と、呼んで、手を振った。
亀子は、うらしま太郎、に、気づくと、急いで、うらしま太郎、の、テーブルに行き、うらしま太郎、と、相対して、座った。
亀子は、ニッコリ、と、笑顔で、うらしま太郎、を、見た。
「やあ。久しぶり」
うらしま太郎、は、挨拶した。
「お久しぶりですね。うらしま太郎、さん」
亀子も、挨拶した。
「元気ですか?」
うらしま太郎、が、聞いた。
「ええ」
うらしま太郎、が、答えた。
「亀子さんは?」
うらしま太郎、が、聞いた。
「私も、何とか、やっています」
と、亀子は、答えた。
「唐突だけど、君は、もう結婚したの?」
うらしま太郎、が、聞いた。
「ええ。桃太郎、さん、の従兄弟に、犬男さん、猿男さん、雉子男さん、という方が、いて、桃太郎、さん、が、紹介してくれたんです。それで、お見合いして、犬男さん、と、結婚しました」
亀子が、答えた。
「うらしま太郎、さん。あなたは?」
亀子が聞き返した。
「僕は、まだだよ」
うらしま太郎、が、答えた。
「うらしま太郎、さん。本当のことを告白します。私は、本当は、うらしま太郎、さん。あなたが、好きだったんです。でも、私は、カンがいいので、あなたが、乙姫さん、を愛していることに気づいていました。乙姫さん、も、あなたを、愛しています。なので、出来たら、あなたと、乙姫さん、が、結ばれてくれるのを、期待して、私は、遠慮していたんです」
と、亀子は、告白した。
「そうだったんですか。それで、今、桃太郎くん、と、乙姫さん、は、上手くやっているのか、どうか、知っているかね?」
うらしま太郎、が、聞いた。
「うらしま太郎、さん。桃太郎さんは、筋萎縮性側索硬化症で、入院しています。乙姫さん、は、まめまめしい性格なので、夫の、桃太郎さん、を、介抱しています。一人で、パートで、働いています。乙姫さん、は、桃太郎さん、と、結婚しましたが、乙姫さん、の、心は、うらしま太郎、さん。あなたに、あります。ですから、どうか、乙姫さん、に、会って、彼女を、励ましてやって下さい」
亀子は、そう言った。
「そうだったんですか。わかりました」
うらしま太郎、は、そう答えた。
翌日。
うらしま太郎、は、亀子に、教えてもらって、知った、乙姫の家に行った。
ピンポーン。
うらしま太郎、は、チャイムを押した。
「はーい」
と、家の中で、声がして、パタパタと、玄関に向かう足の音が聞こえた。
そして、玄関が開いた。
乙姫が、顔を現した。
「あっ。うらしま太郎、さん。お久しぶりです」
乙姫は、恭しく、頭を下げた。
「お久しぶりです。乙姫さん」
うらしま太郎、も、丁寧に挨拶した。
「どうぞ。お入り下さい」
乙姫に、促されて、うらしま太郎、は、乙姫の家に入った。
「どうぞ。おかけ下さい」
乙姫に、勧められて、うらしま太郎、は、居間のソファーに、座った。
「乙姫さん。桃太郎さんの、ことは、昨日、亀子さんに、会って、聞きました。一人で、大変ですね」
うらしま太郎、は、乙姫に、なぐさめ、の言葉をかけた。
「い、いえ・・・・」
乙姫は、謙遜して、何と言っていいか、わからない様子だった。
その時。
ピピピッ。
と、乙姫の携帯電話が鳴った。
乙姫は、携帯電話を取り出して、耳に当てた。
「乙姫さん、ですか?」
「はい」
「私は、小石川療養所の、桃太郎さんの、主治医の、新出去定です。夫の桃太郎さん、が、今、危篤になりました。血圧が、どんどん、下がっています。出来ることなら、今すぐ、病院に、来て下さい」
と、言った。
「はい。わかりました」
と、乙姫は、返事した。
「夫が、危篤だそうです。うらしま太郎、さん。すみませんが、私は、今すぐ、病院に、行きます」
そう言って、乙姫は、立ち上がった。
「僕も行きます」
うらしま太郎、が、言った。
「そうして頂けると、助かります」
こうして、二人は、タクシーで、小石川療養所に行った。
病室には、金太郎、と、熊子、の夫婦、それに、亀子、と、犬男の、夫婦が、来ていた。
そして、主治医の、新出去定と、研修医らしい若い医師が、桃太郎、を、見守っていた。
若い医師の、胸の、プレートには、「安本登」、と書かれてあった。
桃太郎、は、痩せ衰えた体で、酸素マスクをしていた。
「あなた」
乙姫は、夫の、桃太郎の元に、駆け寄った。
うらしま太郎、も、駆け寄った。
「何か、話しますか?」
主治医の新出去定が聞いた。
新出去定は、顔は、髭もじゃ、で、(赤ひげ)、という、あだ名で呼ばれていた。
「ええ。ぜひ」
乙姫、が、言った。
新出去定医師は、酸素マスクを外した。
すると、桃太郎、が、弱々しい目を、うらしま太郎、と、妻の乙姫、に、向けた。
「やあ。うらしま太郎、くん。久しぶり。君と会うのは、大学卒業、以来だね」
桃太郎は、うらしま太郎、に、弱々しい口調で言った。
そして、妻の、乙姫にも、視線を向けた。
「僕は、もう、死ぬだろう。死ぬ前に、君に言っておきたい。僕の、遺言だ。僕の書斎の、机の一番下の引き出しの中に、玉手箱が、置いてある。乙姫。僕が死んだら、どうか、うらしま太郎、くん、と、立ち合いのもとで、玉手箱を開けてくれ」
そう言い終わるや、桃太郎、は、ガックリとして、目を閉じた。
「いかん。呼吸筋の麻痺だ。私が、気管挿管をやる」
赤ひげ、は、そう言うや、桃太郎、の口の中に、喉頭鏡を入れ、気管チューブを口の中に、挿管していった。
「安本。お前は、心臓マッサージを、やれ」
新出去定が言った。
「はい」
安本登医師は、桃太郎、の、胸骨に、両手を当て、「エッシ。エッシ」、と、声をかけながら、心臓マッサージをした。
「ボスミン6ml注入しろ」
新出去定が、看護婦に命じた。
「はい」
看護婦は、新出去定に、言われて、昇圧剤を注入した。
しかし、血圧は、上がらず、どんどん、下がっていった。
新出去定は、安本登医師に目を向けた。
「安本。よく見ておけ。人間の死、ほど、荘厳なものはないぞ」
と、新出去定は、言った。
「はい」
と、研修医の、安本登医師は、桃太郎、の、顔を、じっと見つめなが、心臓マッサージをした。
しかし、ピコーン、ピコーンと、鳴っていた、心電図の波形の間隔が、だんだん、そして、どんどん、長くなっていった。
そして、やがて、心電図は、ツー、と、平坦になった。
そして、桃太郎は、息を引き取った。
新出去定は、ペンライトで、対光反射が無いのを、確かめると、
「ご臨終です」
と、言って、深く一礼した。
うらしま太郎、と、乙姫、の、二人は、タクシーで、家に帰った。
そして、乙姫は、夫の桃太郎に、言われたように、桃太郎の、書斎の、机の一番下の、引き出しを、開けた。
そこには、桃太郎が、言った通り、玉手箱が、置いてあった。
乙姫は、その箱を開けた。
中には、手紙が入っていた。
それには、こう、書かれてあった。
「うらしま太郎くん。僕は、やがて死ぬだろう。妻の、乙姫、は、僕ではなく、うらしま太郎、くん。君を愛していたことは、僕も気づいていた。君の気持ちを、配慮せず、強引に、乙姫、と、結婚してしまった、悪人の僕を許してくれ。僕が、筋萎縮性側索硬化症を発症してしまったのも、きっと、僕が、ワガママを通してしまったために、神様が、僕に与えた罰なのだろう。不治の病になって、僕は初めて気がついたよ。(愛)、とは奪うものではなく、与えるもの、だということを。さらに死に及んでまでの僕の身勝手なお願いを許してくれ。僕が死んだら、どうか、君が、妻の乙姫、と、結婚してくれ。そして、妻と、娘を、幸せにしてくれ。よろしく頼む。愚劣な悪人、桃太郎」
うらしま太郎、と、乙姫は、お互い、見つめ合った。
「乙姫さん。桃太郎くん、の、言う通りなんです。僕は、あなたが、好きでした。誰よりも好きでした」
うらしま太郎、が、言った。
「私も、うらしま太郎、さん。あなたが、好きでした」
乙姫が言った。
「それは、大学の時、4人で、テニスをした時に、亀子さん、から、聞いて知っていました」
うらしま太郎、が、言った。
うらしま太郎、と、乙姫、の二人は、手を固く、握りしめ合った。
二人は、桃太郎の、遺言通り、結婚した。
やがて、うらしま太郎、と、乙姫、の間にも、男の子が、生まれた。
男の子、は、幸一、と名づけられた。
姉の、桃子と、弟の、幸一、は、とても、仲のいい兄妹、となった。
そして、4人は、末永く、幸せに、暮らした。




平成30年11月8日(木)擱筆







人間は他人を雑にあつかい自分を繊細にあつかう

2018-11-08 02:36:00 | Weblog
「人間は他人を雑にあつかい自分を繊細にあつかう」

他人に、キビしい性格の人がいる。

他人に、優しい性格の人もいる。

それは、それで、ともに、構わない。

しかし。

他人に、キビしくするのなら、自分にも、キビしくするべきであり。

自分に、優しくして欲しい、と言うのなら、他人にも、優しくするべきである。

そんなこと、当たり前のことである。

悪いヤツ、わがままな、ヤツというのは。

他人には、キビしくするが、自分には、優しくして欲しい、という、甘ったれた、ヤツのことである。



「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」

(『マタイによる福音書』7章12節,『ルカによる福音書』6章31節)

(黄金律)

「あなたがたは、人に量ってあげるその量りで、自分にも量り与えられる」

(マルコの福音書4章24節)

うらしま太郎7 (小説)

2018-11-04 16:51:02 | Weblog
「うらしま太郎7」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかったらご覧ください。

(原稿用紙換算14枚)

ブログにも入れておきます。



うらしま太郎7

ある街に、うらしま太郎、という若者がいました。
彼は、真面目な、サラリーマンでした。
ある日、うらしま太郎、が、会社の仕事が、終わって、アパートに向かっている時です。
路上で、数人の男が、一人の女に、からんでいるのを、うらしま太郎、は、見つけました。
男たちは、ガラの悪い、人相でした。
行き交う人々は、やっかいな、いざこざ、に、巻き込まれたくなのでしょう。
見て見ぬふりをして、通り過ぎて行きます。
しかし、うらしま太郎、は、正義感が強いので、近くの、ビルの陰から、その様子を、見てみました。
「おい。何で、三日も、休んでいたんだよ」
と、一人の、ガラの悪い男が、女の襟首をつかんで迫りました。
「オレは、あんたに、会いたくて、毎日、通ってるんだぜ」
と、別のガラの悪い男が、女に、詰め寄りました。
「申し訳ございません。風邪をひいてしまって、休んでいたのです」
と、女は、泣きそうな顔で、ペコペコ謝りました。
その後も、うらしま太郎、は、二人の男と、女の会話を聞いていました。
そして、大体の状況を把握しました。
女は、キャバクラに勤める、キャバクラ嬢で、男二人は、常連の客で、彼女が、三日、休んだのを、不快に思って、からんでいる様子です。
うらしま太郎、は、正義感が強いので、二人の男たちの前に、出ました。
「あんたたち。風邪をひいて、休んだのなら、仕方ないだろう」
と、うらしま太郎、は、二人の男に、強気の口調で、言いました。
「何だ。てめえは?」
男の一人が、うらしま太郎、に、聞きました。
「単なる、通りすがりの者だよ」
うらしま太郎、は、答えました。
「ただでさえ、不快なのに、正義感ぶりやがって。やっちまえ」
男二人は、うらしま太郎、に、襲いかかりました。
しかし、うらしま太郎、は、空手を身につけているので、チンピラ二人を、やっつけることは、わけもないことでした。
キエー。ウリャー。
うらしま太郎、は、空手の、パンチとキックで、二人を、倒しました。
二人のチンピラは、うらしま太郎、には、歯が立たないと、思ったのでしょう。
「おぼえてやがれ」
と、捨てセリフを吐いて、去って行きました。
あとには、キャバクラ嬢が、残されました。
彼女は、すぐに、うらしま太郎、の、所に駆け寄りました。
「どうも、有難うございました。私は、源氏名を、亀女と言います。あの客たちは、しつこくて、やたら、体を触ってくるので、私も困っていたのです」
と、彼女は、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いや。別に、当然のことを、しただけですよ」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「あの。お名前は?」
女が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「あ、あの。うらしま太郎、さま。助けて頂いた、お礼を、ぜひとも、したいです。どうか、キャバクラ竜宮城に、お越し頂けないでしょうか。料金も、半額、割り引きにさせて頂きます。指名度ナンバーワンの、きれいな、乙姫、という、女性もいます」
と、女は、言いました。
「そうですか。それなら、行きましょう」
そう言って、うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、歩き出しました。
表通りから、路地裏に、ちょっと、入ると、キャバクラ竜宮城、と、書かれた店がありました。
うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、店に入りました。
亀女は、奥の席に、うらしま太郎、を、連れて行きました。
うらしま太郎、は、その席に座りました。
「ちょっと、お待ち下さい」
と、亀女は、言って、店の奥に、行きました。
そして、すぐに、一人の、きれいな、ホステスを連れて来ました。
「うらしま太郎さま。亀女を助けて下さって有難うございました。私は、源氏名を、乙姫と、申します」
と、言って、恭しく、一礼しました。
「いやー。きれいな人だ」
と、うらしま太郎、は、乙姫を見て、思わず、言いました。
乙姫は、うらしま太郎、の、横に腰掛けて、酒、や、料理を出したり、歌を歌ったりして、うらしま太郎、を、もてなしました。
かなりの時間が経ちました。
「いやー。楽しかったです。有難うございました。乙姫さま」
と言って、うらしま太郎、は、立ち上ろうとしました。
すると。
「ちょっと待って下さい。うらしま太郎、さま」
と、乙姫が、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「どうしたのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
乙姫は、回りを、チラッと、見てから、そっと、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「うらしま太郎さま。あなた様は、いじめられていた、亀女を、助けるほどですから、勇気のある方だと思います。実を言いますと、亀女が、いじめられていた、のは、あれは、客引きのための、お芝居です。この店は、指定暴力団、山口組、が経営している、違法な、悪質キャバクラなのです。「日給、最低3万円。住居保証。健全風俗店」、と言いながら、私たち、ホステスは、暴力団事務所の中の、6畳の、狭い一室に、押し込められているのです。そして、稼ぎの、9割は、暴力団に、ピンハネされているんです。そして、暴力団に見張られていて、辞めたくても、辞められないのです。親への仕送りも、しなければなりませんが、わずかな収入では、自分の生活費だけで、精一杯です。みな、困っています。そして、お客さんから、法外な料金を、ぼったくっています。どうか、私たちを助けて下さい」
と、乙姫は、泣いて、うらしま太郎、に、頼みました。
「そうだったのですか。それは、ひどい。わかりました。あなた達を助けましょう」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「うらしま太郎さま。これを、お持ちになって下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎、に、玉手箱を、渡しました。
「何ですか。これは?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「この中には、催涙ガスが、入っています。きっと、お役に立てると思います」
と、乙姫は、言いました。
「わかりました」
と言って、うらしま太郎、は、玉手箱を、受け取りました。
そして、店を出ようと、レジに行きました。
「料金は、10万円です」
レジの男が言いました。
「それは、ひどい。たかが、1時間、飲んだだけで。しかも、料金は、半額、割り引き、と聞きましたよ」
と、うらしま太郎、は、抗議しました。
「ええ。半額、割り引きですよ。しかし、この店は、高級キャバクラなので、料金は、1時間、20万円なのです。だから、半額、割り引き、で、10万円なのです」
と、男は、居丈高に言いました。
「そんな、お金は、ありません」
うらしま太郎、は、毅然とした、態度で言いました。
すると、さっきの、ガラの悪い男二人が、出てきました。
「おい。にいちゃん。遊んでおいて、金を払わないって法は、ねえだろ。金を払いな」
と、恫喝的に、うらしま太郎、に、迫りました。
「金が、無いなら、キャッシュカードで、現金をおろせ」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
店の中には、ATMが、設置されています。
「さあ。これで、金をおろしな」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
「オレは、そんな恫喝には、屈っしないぞ」
うらしま太郎、は、そう言って、乙姫から、渡された、玉手箱を、を、ガラの悪い男たち、に向かって、開けました。
すると、催涙ガスが、出て、ヤクザ三人は、
「うわっ。これは、何だ?」
「催涙ガスじゃねえか。目、や、咽喉、が痛くて、耐えられん」
と言って、ゴホゴホ、と、咳き込みました。
うらしま太郎、は、ハンカチで、口を塞ぎながら、キエー、ウリャー、と、男三人を、叩きのめしました。
そして、乙姫や、亀女、その他の、ホステス全員を連れて、急いで、店を出ました。
そして、タクシーを拾って、彼女たちを乗せ、自分も、乗り込んで、かなりの遠方の駅まで、行って、彼女たちを、降ろしました。
うらしま太郎、は、駅前のコンビニに入って、ATMで、かなりの額の金を、おろしました。
そして、その金を、ホステスたちに、渡しました。
「さあ。あなた達は、これで、逃げなさい」
うらしま太郎、は、言いました。
「有難うございます。うらしま太郎、さま」
そう言って、ホステス達は、は、電車に乗って、それぞれ、自分の実家にもどりました。
うらしま太郎、は、警察署に行って、暴力団の経営する、違法キャバクラ竜宮城、の、実態を話しました。
警察も、重い腰を上げて、マル暴が、動き出し、指定暴力団、山口組、の事務所に乗り込み、暴力団員、全員を逮捕しました。



平成30年11月4日(日)擱筆







うらしま太郎3、4、5、6、7 (小説)

2018-11-01 14:35:37 | Weblog
「うらしま太郎3、4、5、6、7」

の、5作品の小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」

http://www5f.biglobe.ne.jp/~asanokouji/mokuji2.html

に、アップしましたので、よろしかっらご覧ください。

(原稿用紙換算合計118枚)

ブログにも入れておきます。



うらしま太郎3

昔々のことです。
いつの時代のことかは、わかりません。
平安時代かも、知れませんし、鎌倉時代かもしれません。
ともかく、現代、(平成30年)、から見ると、大昔の時代のことです。
日本に、ある、言い伝えの話がありました。
その、大まかな、あらすじ、を言うと。
・・・・・・・・
ある青年、(名前は、うらしま太郎、と言います)、が、浜辺を歩いていました。
すると、一匹の亀が、子供たち、に、いじめられていました。
青年は、子供たちに、「こらこら。亀をいじめてはいけないよ」、と、注意しました。
すると、子供たちは、逃げていきました。
すると、残された亀が、人語を話し出しました。
「うらしま太郎、さん。助けてくれて、有難うございました。お礼に、竜宮城にお連れしたい、と思います。きれいな乙姫さま、も、います」
と、言いました。
うらしま太郎、は、亀の背に乗って、海の中の竜宮城に、行きました。
そこには、綺麗な、乙姫さまがいて、乙姫さまは、亀を助けてくれたお礼に、うらしま太郎、に、ご馳走を出したり、魚の踊り、を見せたりして、最恵国待遇で、もてなしました。
うらしま太郎、は、長い期間、乙姫と、竜宮城で、楽しく暮らした後、宝物のたくさん入った玉手箱をもらって、亀の背に乗って、元の浜辺の村に帰りました。
・・・・・・・・・・・
と、いうものです。
その話は、(浦島太郎)、の話、と、言われて、後々まで、伝承されました。
(浦島太郎)、の、話が、本当なのか、それとも、作り話、なのかは、定かではありません。
そして時代が、100年、くらい、経ちました。
ある、浜辺の村に、うらしま太郎、と、いう名前の、青年がいました。
青年は、(浦島太郎)、の、話を、いたく、気に入っていました。
青年は、
(本当に、海の中に、竜宮城、や、乙姫さま、が、いたら、どんなに、素敵だろうな)
と、夢想しつづけていました。
ある日のことです。
うらしま太郎、が、浜辺を歩いていると、大きな亀が、いて、亀は、村の子供たち、に、いじめられていました。
うらしま太郎、は、(これは、言い伝えの、浦島太郎の話とそっくりだ)、と、驚きながら、子供たちに、
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、子供たちを叱りました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
と、亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
亀が、人語を話すので、うらしま太郎、は、
(やはり、浦島太郎の話は、作り話、ではなく、事実だったのだ)
と、感動しました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神(海の神)の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
うらしま太郎、は、子供の頃に、憧れて続けていた、夢が、本当に、かなって、言葉に言い表せない、最高の喜びを感じていました。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
乙姫は、それは、それは、きれいで、その奇麗さ、といったら、言葉では、言い表せないほどで、深田恭子、や、小川彩佳、も、乙姫の美しさと、比べると、見劣りしてしまう、ほどでした。
うらしま太郎、は、
(乙姫の体は、人魚なのだろうか、それとも、人間と同じなのだろうか?)
という、疑問を持っていましたが、乙姫の体は、人間と全く同じで、二本の、美しい足を持っていました。
そのことに、うらしま太郎、は、ほっと、安心しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が亀の横に立っている男を見て、亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
その晩、乙姫は、うらしま太郎、を、最恵国待遇で、もてなしました。
乙姫は、うらしま太郎、に、豪華なご馳走を出しました。
しかし、それは、全部、魚料理でした。
食後に、乙姫は、
「うらしま太郎、さま。どうぞ、魚たちの、躍りを、ご覧になって下さい」
と言って、パンパンと、手を叩きました。
すると、鯛、や、ヒラメ、が、現れて、音楽に合わせて、躍り出しました。
うらしま太郎、は、食後、タバコを吸って、鯛、や、ヒラメ、の舞い踊りを見ていましたが、
「つまらんな」
と、不機嫌そうに、つぶやきました。
「えっ。うらしま太郎、さま。何が、ご不愉快なのでしょうか?」
と、乙姫は、何がなんだか、わからない、といった顔つきで、驚いて、うらしま太郎、に、聞きました。
「魚の躍り、なんて、つまらないぜ」
と、うらしま太郎、は、不満そうに、言いました。
「で、では。どうすれば、ご満足いただけるのでしょうか?」
乙姫が、おそるおそる、うらしま太郎、に、聞きました。
「魚の躍り、なんて、つまらないぜ。それよりも、オレは、あんたの、ストリップショーが、見たいな」
と、ふてぶてしく言いました。
乙姫は、しばし、困惑した表情で、唇を噛みしめていましたが、
「わ、わかりました。私が、ストリップショーを致します」
と、言いました。
そして、立ち上がりました。
「おい。音楽を、ストリップショーに、ふさわしい、Sam Taylor - Harlem Nocturne、にでも、変えろ」
と、うらしま太郎、は、乙姫に、命じました。
「はい。わかりました」
乙姫が、そう言うと、音楽は、妖艶な、Sam Taylor - Harlem Nocturne、の、怪しいムードミュージックに変わりました。
乙姫は、その、Sam Taylor - Harlem Nocturne、の、音楽に、合わせて、体をくねらせながら、十二単の、衣装を、一枚一枚、脱いでいきました。
そして、ついに、ブラジャー、と、パンティー、だけに、なりました。
乙姫は、(これ以上は、もう許して下さい)、とでも、訴えるかのような、悲しそうな目を、うらしま太郎、に、向けました。
しかし、うらしま太郎、は、許しません。
乙姫は、うらしま太郎、の、命令には、逆らえませんでした。
亀を助けてもらった恩がありますから。
「おい。ブラジャー、と、パンティー、も、脱ぐんだ」
うらしま太郎、は、怒鳴りつけました。
乙姫は、シクシク泣きながら、ブラジャー、を、外し、パンティー、も、脱いで、全裸になると、手で、胸と、恥部を、隠しながら、体を、くねらせて、踊りました。
しばし、うらしま太郎、は、乙姫の、体をくねらせた、ヌードダンスを、見ていましたが、だんだん、その色気に興奮してきて、我慢できなくなってきました。
うらしま太郎、の、マラ、は、激しく、勃起し出しました。
うらしま太郎、の、息は、ハアハアと、荒くなっていきました。
そして、勃起した、マラを、さかんに、さすりました。
「も、もう。我慢できん」
そう言うと、うらしま太郎、は、立ち上がって、ズボンを脱ぎ、乙姫に、襲いかかりました。
「や、やめて下さい、うらしま太郎、さま」
乙姫は、泣きながら、うらしま太郎、に、哀願しましたが、うらしま太郎、は、乙姫の言うことなど、聞く耳を持たず、荒々しく、乙姫の胸を揉み、そして、怒張した、マラを、乙姫の、股間の穴に、挿入しました。
うらしま太郎、は、ハアハア、と、息を荒くしながら、腰を激しく動かしました。
ついに、うらしま太郎、は、射精の予感を感じました。
「ああー。出るー」
そう、叫んで、うらしま太郎、は、乙姫の、体内に、ザーメンを、放出しました。
乙姫は、シクシク泣いています。
うらしま太郎、は、
「はあ。気持ちよかった。長年の夢、かなったり、だ」
と言って、ズボンを履きました。
「おい。乙姫。宝物の入った、玉手箱が、あるんだろう。出せ」
と、命じました。
乙姫は、シクシク泣きながら、玉手箱を持ってきました。
うらしま太郎、は、玉手箱を開けました。
中には、真珠、や、サンゴ、が入っていました。
しかし、玉手箱は、小さく、うらしま太郎、は、もっと、他にも、海の財宝があると、思いました。
それで。
「おい。乙姫。これが、全部じゃないだろう。財宝を全部、出せ」
と、言いました。
乙姫は、泣く泣く、竜宮城にある、大きな行李を、持ってきました。
「これが、全てです。うらしま太郎、さま」
乙姫は、泣きながら、言いました。
うらしま太郎、は、行李を、開けてみました。
中には、真珠、や、サンゴ、などか、ぎっしり、詰まっていました。
「よし。もう、お前に、用はない」
うらしま太郎、は、大きな行李、を持って、亀に乗って、竜宮城を出て、元の、村の浜辺へと、もどりました。
うらしま太郎、は、莫大な、真珠、や、サンゴ、を、全部、売りました。
それによって、うらしま太郎、は、大金持ちになり、その後は、働かず、優雅に暮らしました。
一方、海の中の、乙姫は、三日三晩、泣いて悲しみました。
乙姫は、海の中で、ひとりぼっちで、人間と、友達になれたことが、嬉しかったのです。
しかし、うらしま太郎、によって、人間不信に陥ってしまいました。
「もう、人間なんて、生き物は、信じないわ」
と、乙姫は固く誓いました。
(もう人間が来ないようにするには、どうしたら、いいかしら?)
乙姫は、それを、考え抜きました。
乙姫は、しばししてから、竜宮城から、出て、海の中を、泳いで、陸に上がりました。
そして、村の子供たちに、紙芝居を、作って、見せました。
その紙芝居の題は、(浦島太郎)、と言って、その内容は、こういうものでした。
・・・・・
ある青年、(名前は、うらしま太郎、と言います)、が、浜辺を歩いていました。
すると、一匹の亀が、子供たち、に、いじめられていました。
青年は、子供たちに、「こらこら。亀をいじめてはいけないよ」、と、注意しました。
すると、子供たちは、逃げていきました。
すると、残された亀が、人語を話し出しました。
「うらしま太郎、さん。助けてくれて、有難うございました。お礼に、竜宮城にお連れしたい、と思います。きれいな乙姫さま、も、いますよ」
と、言いました。
うらしま太郎、は、亀の背に乗って、海の中の竜宮城に、行きました。
そこには、綺麗な、乙姫さまがいて、乙姫さまは、亀を助けてくれたお礼に、うらしま太郎、に、ご馳走を出したり、魚の踊り、を見せたりして、最恵国待遇で、もてなしました。
うらしま太郎、は、長い期間、乙姫と、竜宮城で、楽しく暮らしました。
しかし、うらしま太郎、は、故郷が恋しくなって、乙姫に、家に帰りたい、と言うようになりました。
乙姫は、了解し、「これは、おみやげですが、開けないで下さいね」、と言って、玉手箱を、うらしま太郎、に、渡しました。
うらしま太郎、は、亀の背中に乗って、元の浜辺の村に帰りました。
しかし、村は、変わり果ててしまっていて、村の人は、見知らぬ人ばかりです。
自分の家もなくなっていました。
うらしま太郎、は、心細くなって、乙姫に、渡された、玉手箱を、開けてみました。
すると、白い煙が出てきて、うらしま太郎、は、一気に、老人になって、老衰で死んでしまいました。
なぜなら、竜宮城の1時間は、人間の世界では、1年間にも、相当するものだからです。
・・・・・
というものです。
乙姫は、何度も、陸に上がっては、村の子供たちに、(浦島太郎)、の話をしました。
その甲斐あってか、その話が、(浦島太郎)、という、お伽話として、定着しました。
人間たちは、竜宮城へ行くと、一時は楽しくても、竜宮城の1時間は、人間の世界の、1年間にも、相当するものだと思い、竜宮城、や、乙姫を、おそれるようになりました。
大人たちは、「亀に竜宮城、に、来るよう誘われても、決して行ってはなりません」、と、子供たちに、忠告するようになりました。
幕府も、そういう、おふれ、を出しました。
これで、人間は、竜宮城、へ、行くことは、なくなりました。
一方、海の中の、乙姫は、人間が、来なくなったので、
「ああ。これで、安心して、暮らせるわ」、
と、ほっとしました。
しかし、ひとりぼっちになってしまったので、さびしくなってしまいました。
しかし。
ある時、乙姫が、海の中を、泳いでいると、素敵な、王子に会いました。
彼は、人間ではなく、乙姫と、同類の、海の中で、暮らしている、海の王子でした。
海の王子の存在は、乙姫も、以前から知っていましたが、どこにいるのか、わからず、かなり、遠方まで、探しましたが、見つけることが、出来ませんでした。
しかし、その日、乙姫は、やっと、海の王子に、出会うことが出来ました。
「会いたかったわ。王子さま」
乙姫が言いました。
「僕も会いたかったよ。乙姫さま。僕も、竜宮城、の乙姫さま、と、会いたくて、海の中を、泳ぎまわって、竜宮城、を探していたのですけれど、竜宮城、を見つけることが出来なかったのです」
と、王子が言いました。
こうして、乙姫と王子は、結婚して、竜宮城、で、幸せに、寄り添って、暮らしました。
人間は、歳をとり、やがて、老いて、死んでしまいますが、乙姫と王子は、歳をとることがなく、永遠に若いまま、海の中で、生き続けることが出来るのです。
一方、地上の人間は、大国、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、イラン、シリア、ミャンマー、北朝鮮、など、世界の国々が、核ミサイルの軍備増強に走り、また、原子力発電所の事故によって、放射能が撒き散らされ、そして、各国は、自分の国だけよければ、それでいい、という保守主義に走り、とうとう、核戦争を起こして、滅んでしまいました。
一方、乙姫と、王子、には、可愛い、男の子、と、可愛い、女の子、が、生まれました。
そして、男の子と、女の子は、すくすくと育ち、二人の間から、乙姫と、王子の孫が、たくさん生まれ、それは、どんどん増えて、海の中の世界は、人間世界と違って、豊かに、そして、平和に、いついつまでも、永遠に、栄えつづけました。


うらしま太郎4

ある高校、A、です。
うらしま太郎は、一年の時から、エースでした。
そして、1年生、2年生、3年生、と、三度とも、A高校は、甲子園に出て、決勝戦まで、勝ち抜きました。
そのため、それまで、地区予選一回戦で敗退していた、A高校は、3年、連続、甲子園優勝の偉業を成し遂げました。
これは、すべて、うらしま太郎の、180km/h の、ストレートと、打率10割り、のバッティングのおかげでした。
うらしま太郎は、当然、セ・パ、両リーグ、の全12球団から、ドラフト1位指名されました。
野球部のマネージャーは、海野乙姫という、可愛い女子生徒、一人でした。
乙姫は、相手チームの研究、スコアつけ、交流試合の取り決め、部員のユニフォームの洗濯、など、一生懸命、一人で、野球部のために、尽くしました。
なので、A高校が、三年連続、甲子園、優勝できたのは、乙姫の協力が、大きかったのです。
しかし、乙姫は、3年の、二学期になると、休学して、学校に、来なくなりました。
理由は、詳しくは、わかりませんが、何か、体調が悪くなって休養するため、ということだそうです。
夏の甲子園大会の終わった、ある日のことです。
学校が終わって、うらしま太郎が、家に、帰る帰途のことです。
5人の生徒、が、一人の、弱々しそうな男子生徒、を、取り囲んで、いじめていました。
どうやら、中学生らしいようです。
「おい。亀蔵。金、貸せよ。そうしないと、ヤキ入れるぞ」
と、チンピラ風の、生徒が、一人の、弱々しそうな、少年の胸ぐらを、つかんでいました。
「友達だろ。金、貸せよ。ゲーセン行くんだから」
と、別の生徒が、少年に、膝蹴りを入れていました。
「ごめんなさい。もう、家から、お金を盗んでくることは、出来ません」
と、少年は、泣きながら、訴えていました。
うらしま太郎、は、すぐに、彼らの所に行きました。
「おい。君たち。弱い者いじめは、よくないな。やめなよ」
と、不良生徒たちに、注意しました。
体格のいい、高校生に、注意されて、不良生徒たちは、
「やべえ。逃げろ」
と、言って、一目散に、逃げていきました。
「どうも、有難うございました」
助けられた少年は、うらしま太郎、に、お礼を言いました。
「いじめられているの?」
うらしま太郎、が聞きました。
「ええ」
少年が、答えました。
「あ、あの。お名前は?」
少年が聞きました。
「僕は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「僕は、亀蔵と言います。ぜひ助けて下さった、お礼をしたいです。家は、近くです。どうか、家へ、来て頂けないでしょうか?」
少年が言いました。
「わかったよ。それじゃあ、君の家に、行こう」
うらしま太郎、は、そう言って、亀蔵と、歩き出しました。
家は、A高校の、すぐ、近くでした。
「ここです」
そう言って、亀蔵は、立派な、家の前で、足を止めました。
太平洋市竜宮城町1―1―1、と、住所が、書いてありました。
「どうぞ、お入り下さい」
と、少年に、言われて、うらしま太郎、は、少年と、家に入りました。
うらしま太郎、は、居間に通されました。
「ちょっと、待ってて下さい」
と言って、少年は、パタパタと、二階に上がって行った。
うらしま太郎、は、居間の、ソファーに、座って、少年を待ちました。
少年は、すぐに、もどってきました。
「うらしま太郎、さん。姉に、うらしま太郎、さまに、不良たちから、助けてもらったことを、話したら、姉は、ぜひ、お礼を言いたい、と、言っています。どうか、姉に会って頂けないでしょうか?」
少年は、言いました。
うらしま太郎、は、恩着せがましいのが、嫌いでしたが、一応、姉に、会ってみることにしました。
(少年のお姉さん、は、どんな人だろう?)
と思いながら。
うらしま太郎、は、少年に、ついて、二階に上がりました。
そして、ある部屋の前で、少年は、立ち止まり、
「お姉さん。うらしま太郎、さま、を、お連れいたしました」
と、言いました。
「はーい。どうぞ、お入り下さい」
と、部屋の中で、声がしました。
「失礼します」
と言って、うらしま太郎、は、ドアノブを回し、戸を開けました。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
何と、少年の姉は、休学中の、乙姫だったからです。
さらに、乙姫は、車椅子に、乗って、下半身に毛布をかけていました。
(一体、どういうことなんだろう?)
と、うらしま太郎、は、疑問に思いました。
しかし、とりあえず。
「やあ。乙姫。久しぶり」
と、挨拶しました。
「お久しぶりです。うらしま太郎、さん」
と、乙姫も、お辞儀しました。
「ところで。君は。車椅子に、乗っているけれど、どうしたの?」
うらしま太郎、が、聞きました。
すると、乙姫が語り出しました。
「実を言うと、今年の夏の甲子園大会の後、右足に違和感を感じるようになり、病院の検査を受けました。すると、右足に、骨肉腫、があることが、わかったのです。かなり進行していて、足を切るしか、ありませんでした。肺にも、転移していて、学校へ通うことは、出来なくなり、家で、療養しながら、病院で、放射線治療を、定期的に、受けているのです」
乙姫が言った。
「そうだったんですか。そんなこととは、知らなかった。君がいなくなって、野球部は、さびしくなったよ」
うらしま太郎、が、言いました。
「うらしま太郎、さん。ごめんなさい。私は、謝らなければ、ならないことがあります」
と、乙姫が言いました。
「はい。何でしょうか?」
うらしま太郎、は、聞き返しました。
「実は、弟がいじめられていたのは、あれは、お芝居です。弟の友達に、頼んで、弟を、うらしま太郎、さん、が、帰宅する道で、いじめて欲しい、と、言っておいたのです。うらしま太郎、さん、は、優しいから、きっと、弟を助けてくれる、と思っていました」
乙姫は言いました。
「そうだったのですか。それは、別に構いません。でも、闘病生活しているのなら、どうして、それを野球部のみなに、話してくれなかったのですか?みなは、あなたのことを、心配していたのですよ」
うらしま太郎、が、聞きました。
「ごめんなさい。皆に気を使わせて、心配させたくなかったのです」
乙姫が言いました。
「では、どうして、今日、私に会おうと思ったのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「実は、昨日、受けた病院の検査で、肺、や、肝臓、など、全身への、転移が、大きく、治療をしても、せいぜい、余命1年と言われたのです。それで、死ぬ前に、どうしても、うらしま太郎、さんに会っておきたくて・・・」
そう言って、乙姫は、涙を流しました。
「そうだったのですか。そんなことだとは、知りませんでした。私には、何と、言っていいか、言葉が見つかりません」
そう、うらしま太郎、は、言いました。
「うらしま太郎、さん。野球部のマネージャーをしていた時には、言えませんでしたが。もう、私は、死んでいく身です。なので、私の本心を打ち明けます。うらしま太郎、さん。私は、あなたを、愛していました。今も、愛しています」
乙姫は、告白しました。
「有難う。実は、僕も君を、愛していました。いずれは、告白して、結婚したいと思っていました」
うらしま太郎、も、告白しました。
「嬉しいわ。うらしま太郎、さん、が、私を愛してくれていたなんて・・・」
乙姫の目に、涙が、キラリと光りました。
「でも。乙姫さん。どうして、早く言ってくれなかったんですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「うらしま太郎、さん。だって、私は、死んでいく身ですもの。あなたは、プロ野球選手になるでしょう。だけど、私では、あなたに、食事を作ってあげることも、出来ないし、掃除や、身の回りの世話をすることも、出来ませんもの。あなたには、きれいな女子アナと、結婚して、幸せになって欲しかったのです。でも、私は、死んでいく身です。最後に告白だけは、しておきたくて、勇気を出して、あなたを、ここへ呼び寄せたのです」
乙姫は、言いました。
「そうだったのですか。あなたは、思いやりのある人だ」
うらしま太郎、は、感動しました。
「私は、あなたが、私を愛してくれていたことを知れて、嬉しいです。私は、幸福に死んでいけます」
そう言って、乙姫は、涙を流しました。
「乙姫さん。勇気を出して、告白してくれて、有難う。間に合ってよかった」
うらしま太郎、が、言いました。
「えっ。それは、どういう意味ですか?」
乙姫は、眉を寄せて、うらしま太郎、に、聞き返しました。
「乙姫さん。実は。僕は、高校を卒業して、プロ野球選手となって、一軍のレギュラーになってから、あなたに、プロポーズするつもりでした。プロ野球は、高校野球より、ずっと厳しく、はたして、僕の実力がプロ野球でも、通用するか、どうか、が、不安でした。そのため、告白できなかったのです」
「そうだったのですか。そうとは知りませんでした」
「でも、間に合ってよかった。乙姫さん。すぐに、結婚しましょう」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「えっ。でも、私は、死んでいく身ですよ」
「そんなこと、関係ありません。結婚って、世界中で、一番、好きな人とするものでしょう」
うらしま太郎、は、力強く言いました。
「有難うございます」
乙姫は泣いていました。
こうして、二日後に、うらしま太郎、と、乙姫は、町の小さな教会で、結婚式を挙げました。
うらしま太郎、は、乙姫を、自分の家に住まわせて、毎日、まめまめしく乙姫を介抱しました。
もう、高校の卒業も、数カ月です。
うらしま太郎、は、ドラフト会議で、横浜DeNAベイスターズに、1位、指名されました。
「あなた。よかったわね」
「うん」
「あなた。私が、死んだら、私のことは、忘れて、別の好きな人と結婚して下さい。お願いです」
乙姫は、訴えるように言いました。
「・・・・」
うらしま太郎、は、それには、答えませんでした。
そして、うらしま太郎、は、高校を卒業して、横浜DeNAベイスターズに入団しました。
うらしま太郎、の野球の実力は、プロ野球でも、即戦力として、通用して、うらしま太郎、は、1年目から、先発ピッチャーとして活躍しました。
その年、横浜DeNAベイスターズは、うらしま太郎、の、おかげて、リーグ優勝し、日本シリーズでも、優勝しました。
そして、乙姫は、シーズンオフに、病身の身でありながら、女の子を産みました。
名前は、由香里と名づけました。
オギャー、オギャー、と、赤ん坊は、泣いています。
「ほら。見てごらん。僕と君の、かわいい子供だよ」
そう言って、うらしま太郎、は、赤ん坊を抱いて、産後の、乙姫に、赤ん坊を見せました。
「ふふ。嬉しいわ。私と、あなたの、愛の結晶ね」
と、乙姫も、ニコッ、と、笑顔を見せました。
しかし。
女の子を、産んで、三日後に、乙姫は、ガンの進行に、産褥熱、加わって、死にました。
うらしま太郎、は、泣いて、悲しみました。
うらしま太郎、は、乙姫の骨壺と、乙姫の写真を、部屋の仏壇に置いて、毎日、拝みました。
そして、試合に行く時は、乙姫の写真に向かって、
「行ってくるよ」
と言い、試合が終わって、帰ってくると、
「ただいま」
と、まるで、乙姫に語りかけるように、仏壇の乙姫の写真に向かって、語りかけました。
うらしま太郎、は、その後も、横浜DeNAベイスターズで活躍し、次の年も、リーグ優勝し、そして、日本シリーズも、優勝しました。
うらしま太郎、と、乙姫の、子の由香里は、1歳になりましたが、顔が、乙姫そっくりでした。
育っていくにつれ、子の由香里は、ますます、乙姫に似た、美しい女の子になっていきました。
うらしま太郎、は、バツイチだという、ことが、世間に知られて、多くの女子アナが、うらしま太郎、に、プロポーズしました。
しかし、うらしま太郎、は、それを全部、断りました。
なぜ、と言って。
うらしま太郎、の心には、乙姫が生きているからです。


うらしま太郎5

海の底には、美しい竜宮城がありました。
乙姫は、一人ぼっちで、話し相手といえば、鯛や、平目の魚たちだけです。
当然、魚なんかと、話していても、面白くありません。
ある時、乙姫は、そっと、人間という生き物の住む、陸に近づいてみました。
陸に住む人間とは、一体、どういう、生き物なのかしら?
もちろん、乙姫は、足がなく、下半身は、魚で、人魚のような、姿です。
浜辺では、子供たちが、遊んでいました。
下半身が、二本の、太い腕のようになっていて、自由に、陸の上を走り回っていました。
乙姫は、しばらく、子供たちの、遊びを、じっと、見ていました。
乙姫が、見ていると、一人の、イケメン男が、歩いて、きました。
男は、子供達と、楽しそうに、遊びました。
乙姫は、さびしく、竜宮城へ帰りました。
あの、「人間」、という生き物は、どういう、動物なのだろう?
鮫のような、怖い、生き物なのだろうか?
イルカのような、優しい、生き物なのだろうか?
乙姫は、好奇心が、募っていきました。
ある時。
乙姫は、カメに言いました。
「カメや。私は、人間というものを知りたいわ。お前は、這って歩けるのだから、ちょっと、人間の所に行ってくれない?私も一緒に行くから」
カメは、
「はい。わかりました。乙姫さま」
と言いました。
乙姫と、カメは、竜宮城から、出て、海の中を泳いで、陸に、上がって行きました。
すると。この前、見た、人間の、子供達が、ノロノロ歩く、カメを取り囲みました。
「おーい。カメがいるよ」
「めずらしいな。こんな、大きなカメ」
「しかし、歩くのが、のろいな」
そう言って、子供たちは、棒を持って、カメを叩き出しました。
「やーい。ばーカメ」
「ここまで、来てみな」
カメは、首を甲羅の中に引っ込めてしまいました。
乙姫は、それを、岩陰から、そっと見ていました。
「やっぱり、陸の人間、というのは、サメのように、残忍な性格の動物なのだわ。関わらないようにしましょう」
乙姫は、そう言って、溜め息を、つきました。
その時です。
前回の、イケメン男が、歩いて、やってきました。
「あっ。浦島さん。ここに、大きな、カメがいるよ」
と言いました。
イケメン男は、子供たちに、
「こらこら。歩みの遅い、カメをいじめては、かわいそうじゃないか。やめなさい」
と、注意しました。
子供達は、叱られて、
「ごめんなさい」
と言って、散り散りに、去って行きました。
男は、カメを、持ち上げて、海へ、
「ほーら。お帰り」
と言って、海へ放してやりました。
乙姫は、驚きました。
「人間は、全てが、悪い生物ではないのだ。彼のような、優しい心を持った、人間も、いるのだわ」
乙姫は、いたく感激しました。
乙姫は、カメと一緒に、竜宮城へもどりました。
「ごめんね。カメ。お前を、実験台に、使ってしまって」
「いえ。いいんです。乙姫さまは、僕の女神さまです」
と言いました。
その日から、乙姫は、不思議な感情に襲われ出しました。
それは、今まで、一度も、経験したことのない感情でした。
「ああ。あの、浦島という、優しい、男の人と、話してみたいわ」
乙姫は、何度も、そう呟きました。
カメは、乙姫の、さびしさ、を、見るに見かねました。
そして、乙姫の気持ちを、忖度しました。
「竜宮城に、浦島さんを連れてこよう」
そう、カメは、決意しました。
カメは、ある日、こっそりと、あの、浜辺へ行きました。
すると、ちょうど、あのイケメン男が、漁のため、船を出す所でした。
カメは、陸に這い上がって行きました。
そして、男に話しかけました。
「浦島さん。この前は、助けてくださって、有難うございました。おかげで命びろいしました」
と、丁寧に、お辞儀しました。
「はは。いいんだよ」
と、浦島は、言いました。
「あ、あの。浦島さん」
「なんだね?」
「実は、この前、助けてもらった、ことを、竜宮城の乙姫さまに、話しましたら、ぜひ、お礼がしたい、と言うのです。よろしかったら、一緒に、竜宮城へ来ていただけませんか?」
カメは、そう言いました。
「竜宮城か。どんな所なんだ?」
「とても、いい所ですよ。気に食わなかったら、帰ってもいいです。私が送ります」
「そうか。どんな、所か、一度、見てみよう」
と、浦島は、言いました。
「では、私の背中に乗って下さい」
「よし。わかった」
そう言って、浦島は、カメの背中に乗りました。
カメは、水中深く、潜って行きました。
「う。息が苦しい」
「もうちょっと、我慢して下さい。もうすぐ、竜宮城です」
やっとのことで、浦島を乗せたカメは、竜宮城へ、着きました。
「乙姫さま。浦島さんを、お連れ致しました」
そう、カメは、大きな声で言いました。
乙姫が、そっと、おそるおそる、顔を、のぞかせました。
「あなたが、乙姫さま、ですか。何と、美しい方だ」
浦島は、乙姫を見ると、そう言いました。
乙姫は、顔が、真っ赤になりました。
乙姫は、カメを見ました。
「乙姫さま。勝手に、浦島さんを、竜宮城へ、連れてきてしまって、すみません」
と、カメは、謝りました。
「い、いいの」
と、乙姫は、カメを、なだめました。
「あ、あの。私の、家来のカメを、助けて下さって有難うごさいました。どうぞ、ごゆるりと、くつろいで下さい」
と、乙姫は、言いました。
「それでは、お言葉にあまえて」
と言って、浦島は、竜宮城へ入っていきました。
乙姫は、横座りになって、家来の、魚たちに、酒や、海鮮料理を、たくさん、もって来させました。
浦島は、
「うわー。美味しそうだー。それじゃあ、失礼して、頂きます」
と言って、酒を飲み、豪華な料理を食べました。
乙姫も、一緒に、酒を飲み、料理を食べました。
「うわー。美味しい。美味しい」
と言いながら、浦島は、パクパクと、食べました。
乙姫は、嬉しくなって、浦島の体に、ピッタリと、くっつけて、寄り添いました。
食べ終わると、浦島は、乙姫に向かって、
「ありがとう」
と言いました。
そして、乙姫の肩に手をかけて、乙姫の髪を、優しく撫でました。
そして、歌を歌ってやりました。
乙姫は、今までに経験したことのない最高に幸せな気分になりました。
「乙姫さま」
「はい。何でしょうか?」
「ここは、隠された方が、いいのでは、ないでしょうか?」
そう言って、浦島は、乙姫の、豊満な胸を指しました。
「そうね。何だか、恥ずかしいわ」 
乙姫は、裸を見られることに、恥ずかしさが、起こって、思わず、胸を手で覆いました。
浦島は、近くにある、大きな貝を開き、それを、乙姫の、胸の二つの、膨らみに、かぶせてやりました。そして、その上から、昆布で、巻いて、貝が、落ちないように、してやりました。
「優しい方」
乙姫は、ポッと顔を赤くしましまた。
乙姫にとって、こんな、素晴らしい、気持ちになったのは、はじめてでした。
「あ、あの。浦島さま。あなたさま、さえ、よろしければ、いつまでも、ここに、いて、くださって、構いませんのよ」
と、乙姫は、顔を赤くして言いました。
「そうですか。それは、うれしいです」
そう言って、浦島は、竜宮城で、乙姫と、楽しく過ごしました。
しかし、竜宮城には、時計がありません。
浦島が、竜宮城に来て、かなりの日にちが、経ちました。
「一体、何日、経ったのだろう?」
という疑問が浦島に起こってきました。
ある日。
「乙姫さま。あなたとの生活は、楽しい。しかし、私の家には、老いた母がいます。漁もしなければなりません。私は、母を看護し、働かなくてはなりません」
と言い、
「それと。私には、将来を誓い合った、婚約者が、います。なので、あなたと、別れるのは、つらいですが、私は、家に戻らなくては、なりません」
と浦島は、言いました。
「あ、あの。婚約者って、一体、何なのでしょうか?」
乙姫が、聞きました。
「つまりですね。今の、私と、あなたの、関係のように、いつも、仲良く、一緒に生活する女性のことです」
と、浦島は、言いました。
乙姫は、ガッカリしました。
一生、優しい、浦島と、楽しく過ごせると思っていたのですから、無理もありません。
この時、乙姫に、今までに、経験したことのない、ある感情が起こってきました。
乙姫は、非常に激しい、苦悩に悩まされました。
この気持ちを、どう処理していいか、乙姫には、わかりませんでした。
そして、考え抜いた、あげく、乙姫は、浦島に、ある箱を渡しました。
「浦島さま。わかりました。それでは、陸へおかえり下さい。長い間、引き止めてしまって、もうしわけありませんでした」
乙姫は、そう言いました。
そして、浦島に、きれいな漆塗りの箱を差し出しました。
「浦島さま。これは・・・おみやげです。受けとって、いただけないでしようか?」
乙姫が、そういうと、浦島は、嬉しそうに、
「どうも、ありがとう。こんな、お礼まで、頂けるなんて」
と言いました。
浦島は、陸に帰るために、カメの背中に乗りました。
カメが、泳ぎ出そうとした時、乙姫は、
「あ、あの。浦島さま。その箱は、やっぱり、開けないで下さい」
と言いました。
しかし、浦島を乗せたカメは、竜宮城から、かなり、離れていて、その声は、浦島に届きませんでした。
「まって。まって」
と乙姫は、必死で、浦島を引き止めようとしました。
微かな声が、浦島に届いたのでしょう。
浦島は、後ろを振り向きました。
竜宮城では、乙姫が、激しく手を振っています。
浦島は、それを、別れの、あいさつ、だと、とらえました。
そして、浦島も、笑顔で、目一杯、力強く、乙姫に向かって、手を振りました。
やがて、竜宮城との距離が、離れていき、乙姫の姿も、見えなくなりました。
陸に上がった、浦島は、はて、自分の、家の、方向は、どちらだろうと、迷いました。
カメが、辿り着いて、浦島を降ろした場所は、元の場所ではなかったからです。
それは、乙姫が、カメに、「浦島さまを、ちょっと、離れた場所に返して」、と言ったからです。
カメが、それは、どうして、ですか?と聞くと、乙姫は、黙ってしまいました。
陸に上がった、浦島は、はて、自分の、家の、方向は、どちらだろうと、迷いました。
見知らぬ土地、見知らぬ人ばかりです。
「まあ、しかし、人に聞けば、ここは、どこで、どの方角に行ったら、家に戻れるかは、わかるだろう」
と、そんなに、あせりませんでした。
浦島は、とりあえず、浜辺に座りました。
乙姫が、くれた、きれいな箱が目にとまりました。
「一体、何が入っているんだろう。優しい、乙姫のことだから、きっと、素晴らしい、お土産に違いない」
そう思って、浦島は、玉手箱を開けてみました。
すると、どうでしょう。
箱の中から、煙が、モクモクと出てきました。
「うわっ」
と、浦島は、びっくりしました。
箱の中には、カガミ、がありました。
竜宮城には、カガミはありませんでしたから、自分の顔を見るのは久しぶりのことです。
浦島は、カガミを見てみました。
そして、驚きました。
なぜなら、浦島の顔は、老人の顔になっていた、からです。
蛇足。言うまでもないが、聡明な読者諸兄には、おわかりのことだと思うが、玉手箱の煙とは、「嫉妬」、の感情、なのです。


うらしま太郎6

1994年(平成6年)、の、5月1日のことです。
この年、松本サリン事件が、起こりました。
1994年の、6月27日、から翌日、6月28日、の早朝にかけて、長野県松本市北深志の住宅街で、化学兵器として使用される神経ガスのサリンの散布により7人が死亡、約600人が負傷したのです。
戦争状態にない国において、サリンのような化学兵器クラスの毒物が一般市民に対して無差別に使用されたのは、世界初の事例でした。
当然、警察は、総力を挙げて、犯人をつきとめようとしました。
ある浜辺の村に、うらしま太郎、という青年がいました。
1994年(平成6年)、の、5月1日のことです。
うらしま太郎、は、漁師で、その日も、漁港に向かいました。
(さあ。今日も、うんと魚をとるぞ)
と、元気を出して。
うらしま太郎、は、漁港に向かう、いつもの浜辺を歩いていました。
すると、どうでしょう。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
なぜなら、村の子供たちが、寄ってたかって、大きな亀を、いじめていたからです。
「やーい。やーい。ドン亀」
と、子供たちは、囃し立てて、棒で、巨大な亀を、叩いていました。
うらしま太郎、は、当然、子供たちを、注意しました。
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、うらしま太郎、は、子供たちを諌めました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、うらしま太郎、に、叱られて、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
「あ、あの。お名前は?」
亀が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神、(海の神)、の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
うらしま太郎、は、ホントかな、と思いましたが、亀を信じることにしました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が、うらしま太郎、の方を見て、亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
うらしま太郎、は、乙姫を見て、驚きました。
あまりにも、美しかったからです。
「これは、これは、乙姫さま。お目にかかれて光栄です」
と、うらしま太郎、は、恭しく、深くお辞儀しました。
「さあ。どうぞ、お上がり下さい」
乙姫は、うらしま太郎、の、礼儀正しさ、に、喜んだのでしょう。
ニコッと、微笑んで、言いました。
「それでは、お邪魔いたします」
そう言って、うらしま太郎、は、竜宮城の中に、入りました。
竜宮城の中は、地上と同じように、海水ではなく、空気で満たされていました。
「浦島さま。家来の、亀蔵を助けて下さってありがとうございました」
乙姫は、あらためて、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いえ。人間として当然のことをしたまでです」
うらしま太郎、は、謙虚に言いました。
「優しい方なんですね」
乙姫は、また、ニコッと、微笑みました。
その晩は、乙姫は、手によりをかけて、うらしま太郎、のために、豪勢な料理を作りました。
豪勢、と言っても、その料理は、全部、魚料理でした。
乙姫は、海の中で、暮らしているので、それも、無理はありません。
それでも、うらしま太郎、は、「美味しい。美味しい」、と言って、乙姫の作った魚料理を食べました。
「お味はいかが?」
という、乙姫の少し自慢げな質問に対し、うらしま太郎、は、
「最高の美味です」
と、答えました。
うらしま太郎、は、「最高の美味です」、とは、言ったものの、本心では、「温かい、ご飯や、肉、や、野菜も、欲しいものだな」、と思っていました。
しかし、乙姫を失望させたくないので、それは、言わず、「美味しい。美味しい」、と、だけ言いながら、食べました。
食後。
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、を、大勢、呼びました。
「さあ。あなた達。うらしま太郎、さま、の、おもてなし、です。踊りなさい」
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、に命じました。
乙姫は、魚と話が出来るのです。
「はい。乙姫さま。わかりました」
そう言って、鯛、や、ヒラメ、は、優美な踊りを、うらしま太郎、に披露しました。
その夜は、うらしま太郎、は、乙姫と、巨大な、真珠貝の、中の、フカフカの、ベットで、手をつないで寝ました。
もちろん、乙姫とセックスすることは、出来ません。
なにせ、乙姫は、下半身が、魚なのですから。
しかし、そういう物理的な理由も、ありますが、うらしま太郎、は、ジェントルマンシップを持っていたので、というか、ストイックなので、いきなり、抱きつく、という趣のないことは、したくなかったのです。
こうして、うらしま太郎、は、竜宮城、で、乙姫と、一緒に、楽しく暮らしました。
どのくらい、の日が、経ったのかは、竜宮城、には、時計がないので、わかりません。
しかし、竜宮城、には、テレビも、パソコンも、何もなく、だんだん、うらしま太郎、は、退屈になってきました。
その上、料理は、毎日、魚料理ばかりです。
それに、家族のことも、漁の仕事のことも、自分がいなくて、大丈夫かな、と心配になってきました。
それで、ある時、うらしま太郎、は、乙姫に、
「乙姫さま。長い間、有難うございました。私は、出来ることなら、もっと、ここに、いたいのですが、家族や仕事のことが、ずっと気にかかっていました。そろそろ、村に帰りたいと思います」
と、申し出ました。
乙姫は、
「そうですか。それは、とても残念です。私も、楽しかったです。しかし、うらしま太郎、さまも、家族や仕事のことが、心配でしょう。別れは、惜しいですが、どうぞ、亀に乗って、村へお帰り下さい」
と、親切に言いました。
「どうも有難うございます」
うらしま太郎、は、乙姫に、感謝して、握手しました。
うらしま太郎、が、亀の背中に、乗ろうとすると、乙姫は、
「ちょっと、待って下さい」
と、うらしま太郎、を、引き留めました。
そして、きれいな玉手箱を、差し出しました。
「うらしま太郎、さま。楽しい日々を送らせてもらった、お礼です。たいした物では、ありませんが、受けとって、下さい」
と言いました。
「中には、何が、入っているのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「うらしま太郎、さま。まことに、申し上げにくいことなのですが、そして、おわびしなければ、ならないのですが、竜宮城、での、1日は、地上での、50日、に、当たるのです。なので、玉手箱を、開けると、うらしま太郎、さま、は、一気に、50歳、歳をとって、老人になってしまいます」
と、乙姫は、言いました。
うらしま太郎、は、首を傾げました。
「それなら、玉手箱を、開けなければ、いいじゃないですか?」
と、うらしま太郎、は、乙姫に、言い返しました。
「それは、そうですが。何かの役に立つかもしれないと思います。どうぞ、持ち帰って下さい」
と、乙姫は、言いました。
うらしま太郎、は、玉手箱を、開けなければ、歳をとることもないのに、どうして、玉手箱を、乙姫は、渡したのだろうと、疑問に思いながらも、親切な、乙姫の、忠告なので、玉手箱を、持って帰ることに、しました。
そして、うらしま太郎、は、玉手箱を、持って、亀の背に乗って、海の中を、陸に向かって進み、そして、元の、村に、もどりました。
村は、少し、様子が、変わっていましたが、それほど、変わっては、いませんでした。
近くに、いる村人に、今は、平成、何年の何月何日、なのか、聞きました。
すると、村人は、訝しそうな目で、うらしま太郎、を、見て。
「今は、1995年(平成7年5月1日)、ですよ」
と、朴訥に答えました。
うらしま太郎、は。
(そうか。それなら、オレは、一年間、竜宮城、で過ごした、ことになるな)
と、感慨深そうに、つぶやきました。
しかし、村人の様子が、変です。
村民は、うらしま太郎、に、おびえているような、様子で、急いで、近くの警察署に駆け込みました。
すると、すぐに、警察官が、出てきて、うらしま太郎、の、所に来ました。
そして、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「ちょっと、任意で、聞きたいことがある。警察署まで、同行してもらえないか?」
と、警察官は、言いました。
うらしま太郎、は、
「はい」
と言って、警察署に、生きました。
警察官は、しばし、うらしま太郎、の顔を、じっと、見つめていましたが、
「警視庁に、行ってもらえないかね?」
と、言いました。
うらしま太郎、には、何のことだか、さっぱり、わかりませんでした。
しかし、ともかく、うらしま太郎、は、
「はい。行きます」
と、答えました。
すぐに、うらしま太郎、は、パトカーで、警視庁に、輸送されました。
(オレは、何かの事件で、疑われているのだろう)
と、うらしま太郎、は、漠然と、感じました。
しかし、一体、何の事件かは、全くわかりません。
パトカーは、警視庁につきました。
うらしま太郎、は、取調室に、入れられました。
取調室は、薄暗く、裸電球と、机一つがあるだけで、うらしま太郎、は、机の前の椅子に、座らされました。
やがて、二人の検事が来て、机を挟んで、うらしま太郎、と、向き合うように、座りました。
「私は、主任検事のAという。あなたに聞きたいことがある」
と言いました。
「はい。何でも、正直に、答えます」
と、うらしま太郎、は、言いました。
取り調べが始まりました。
「あなたの名前は?」
「うらしま太郎、です」
「歳は?」
「25歳です」
「職業は?」
「漁師です」
「ところで、あなたは、去年の、5月1日から、今日の、5月1日まで、どこに、いましたか?」
うらしま太郎、は、言いためらいました。
竜宮城、に、いました、と言っても、信じてもらえない、ような気がしたからです。
しかし、検事は、
「さあ。答えて下さい」
と、威圧的に、うらしま太郎、に、詰め寄りました。
なので、うらしま太郎、は、仕方なく、
「竜宮城、に、いました」
と、答えました。
「竜宮城、だと?それは、どこにある?」
「海の中です」
「何をねぼけたことを言っている」
検事は、うらしま太郎、を、にらみつけました。
うらしま太郎、は、一体、自分は、何の容疑で疑われているのか、知りたくなりました。
それで、
「検事さん。一体、私は、何の犯罪で、疑われているのですか?」
うらしま太郎、は、聞きました。
「あんたは、去年の、6月27日の、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件を、知っているだろう?」
検事は、言いました。
「はっ。何ですか。それは?」
うらしま太郎、は、首を傾げました。
「とぼけるな。去年の、6月27日の、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件、は、テレビでも、新聞でも、大々的に、報道されて、日本人は、みな、知っているはずだぞ」
検事は、怒鳴りつけました。
「何ですか。その、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件、というのは?」
うらしま太郎、は、聞き返しました。
うらしま太郎、は、去年の、5月1日に、竜宮城に行きましたから、松本サリン事件、も、地下鉄サリン事件も、知りません。
「とぼけるな。二つの事件とも、オウム真理教が、無差別テロとして、サリンを撒いた事件だ」
検事は、怒鳴りつけました。
「あっ。あの、変な、オウム真理教ですか。麻原とかいう人が教祖の。あの宗教集団が、サリンを撒いたんですか?」
うらしま太郎、は、始めて、知って、驚きました。
「そうだ」
と、検事は、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「これを見ろ」
検事は、そう言って、写真を、うらしま太郎、に、見せました。
それは、地下鉄サリン事件に、関わった、オウム真理教の、幹部の一人でした。
うらしま太郎、は、1990年(平成2年)に、第39回衆議院議員総選挙に、立候補した、その、オウム真理教の幹部S氏を知っていました。
なぜなら、うらしま太郎、は、その幹部に、顔が、とても、似ているので、「お前。オウム真理教の、S氏に、似ているなー。そっくりだぜ」、と、漁師仲間から、からかわれていましたから。
「これで、もう、わかっただろう。お前は、S氏に、そっくりだ。お前は、去年の、松本サリン事件と、今年の、地下鉄サリン事件、に、関わっておきながら、その後、韓国か、どこかへ、逃亡して、おおかた、プチ整形でも、したんだろう。しかし、プチ整形しても、地顔が、完全に、他人の顔になることなど、出来ないからな。顔の雰囲気は、はっきり、残っているぞ」
と、検事は、言いました。
「え、冤罪だ。私は、S氏ではない」
うらしま太郎、は、叫びました。
「そう言うんなら、去年の5月1日から、今日まで、1年間、どこに、いたか、アリバイを示せ。お前は、一年間、どこにいたんだ?」
検事が、聞きました。
「竜宮城、に、いました」
うらしま太郎、は、正直に答えました。
「そうか。では。その、竜宮城の住所を言え」
「竜宮城、は、海の中です。どこの海域なのかは、私には、わかりません。それに、海の中には、住所など、ありません」
「なにを、寝ぼけたことを言っている」
検事は、鬼面で、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「検事。もしかすると、この男は、頭がおかしいのかも、しれませんよ?」
もう一人、主任検事の隣に座っていた副検事が、主任検事に、言いました。
「ふーむ。そうだな。ここまで、支離滅裂なことなど、まともな、人間なら、言うはずがないからな」
と、主任検事は眉を顰めました。
「いや。もしかすると、こいつは、支離滅裂なことを、言って、精神障害者を装っているのかもしれんぞ」
と、主任検事が言いました。
「そうですね。その可能性は、否定できませんね」
副検事が言いました。
(ああっ。このままでは、オレは、犯罪者にされてしまう)
うらしま太郎、は、心の中で、焦り、嘆きました。
と、その時。
うらしま太郎、は、自分の、無実を、証明できる、物を思いつきました。
玉手箱です。
玉手箱を、開けると、自分は、老人になってしまいますが、冤罪で、死刑になるよりは、マシだ、と、うらしま太郎、は、咄嗟に、判断しました。
「検事さん。私が、持っていた、玉手箱、を、持ってきて下さい。あれが、私の無実を証明してくれます」
うらしま太郎、は、強い語調で、訴えました。
「ああ。あれか。あの箱か。あれは、押収品として、預かっている」
「あれを、持ってきて下さい。そうすれば、私の無実が証明できます」
「どうして、あの箱で、お前の無実が、証明できるのだ?」
「それは、開けてみれば、わかります」
うらしま太郎、は、執拗に、食らいつきました。
「そうか。お前が、そんなに、言うなら、持ってきてやろう」
そう言って、主任検事は、副検事に、目を向けました。
「おい。あの、箱を持ってこい」
「はい」
そう言って、副検事は、取り調べ室を出ていきました。
しばしして、副検事は、玉手箱を、持って、取調室に帰ってきました。
「さあ。持ってきたぞ。お前の、無実を証明してみろ」
主任検事が言いました。
「はい。わかりました」
そう言って、うらしま太郎、は、玉手箱を、開けました。
すると、モクモクと白い煙が、玉手箱から、出てきました。
「うわっ。何だ。こりゃ」
二人の検事は、驚きました。
しかし、それ以上に、二人の検事には、驚いたことがあります。
それは、今まで、目の前にいた、若者が、いなくなり、かわりに、白髪の老人が、いたからです。
二人の検事は、動揺しました。
「一体、これは、どういうことだ?」
主任検事が言いました。
「わかりません。全く、わかりません」
副検事が言いました。
「と、ともかく、このことは、決して、マスコミに発表しては、ならない。テレビのニュースにも発表してはならない。こんな、白髪の老人が、25歳の、S氏だ、などと言ったら、検察は、完全に、国民の、笑いものにされる」
主任検事が言いました。
「そうですね。村木厚子事件。鈴木宗男事件。三井環事件。小沢一郎の、陸山会事件、以来、国民は検察を信用しなくなってきていますからね。これ以上、検察の、威信が、失墜するのは、何としても、食い止めねばならないですね」
副検事が言いました。
「あんた。何がなんだか、わからないが、とにかく、あんたは、無罪放免だ。疑ってすまなかった」
主任検事が言いました。
こうして、うらしま太郎、は、釈放されました。
うらしま太郎、は、心の中で、乙姫に、「ありがとうございました。乙姫さま」、と、言って、晴れ晴れとした心もちで、家に帰りました。
家に帰る途中の浜辺で、うらしま太郎、は、1年前に、竜宮城、に、連れていった、亀が、いるのを見つけました。
亀は、うらしま太郎、を、見ると、こう言いました。
「うらしま太郎、さま。実は、乙姫さま、は、うらしま、さま、が、竜宮城、に来られた後に、松本サリン事件が起こったのを知りました。そして、地下鉄サリン事件が、起こったのも。そして、乙姫さまは、人間社会の、検察の横暴さも、知っていました。乙姫さまは、このままでは、うらしま太郎、さまは、死刑にされてしまう、と、焦りました。なので、うらしま太郎、さまを、守るには、玉手箱を、渡すしかない、と、苦渋の決断をなされました。死刑にされるよりは、竜宮城、で、楽しんで、そして、老いてしまっても、死刑にされるよりは、老いた方が、まだ、救われると、判断なされました。乙姫さまも、悩まれたのです。どうか、乙姫さまを、許してやって下さい」
と、亀は言いました。
「そうだったのか。そんなこととは、知らなかったな。乙姫さまに、(どうも、有難う)、と、伝えて下さい」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「有難うごさいます。うらしま太郎、さま」
と、亀は、一礼して、海の中へ潜っていきました。




平成30年11月1日(木)擱筆



うらしま太郎7

ある街に、うらしま太郎、という若者がいました。
彼は、真面目な、サラリーマンでした。
ある日、うらしま太郎、が、会社の仕事が、終わって、アパートに向かっている時です。
路上で、数人の男が、一人の女に、からんでいるのを、うらしま太郎、は、見つけました。
男たちは、ガラの悪い、人相でした。
行き交う人々は、やっかいな、いざこざ、に、巻き込まれたくなのでしょう。
見て見ぬふりをして、通り過ぎて行きます。
しかし、うらしま太郎、は、正義感が強いので、近くの、ビルの陰から、その様子を、見てみました。
「おい。何で、三日も、休んでいたんだよ」
と、一人の、ガラの悪い男が、女の襟首をつかんで迫りました。
「オレは、あんたに、会いたくて、毎日、通ってるんだぜ」
と、別のガラの悪い男が、女に、詰め寄りました。
「申し訳ございません。風邪をひいてしまって、休んでいたのです」
と、女は、泣きそうな顔で、ペコペコ謝りました。
その後も、うらしま太郎、は、二人の男と、女の会話を聞いていました。
そして、大体の状況を把握しました。
女は、キャバクラに勤める、キャバクラ嬢で、男二人は、常連の客で、彼女が、三日、休んだのを、不快に思って、からんでいる様子です。
うらしま太郎、は、正義感が強いので、二人の男たちの前に、出ました。
「あんたたち。風邪をひいて、休んだのなら、仕方ないだろう」
と、うらしま太郎、は、二人の男に、強気の口調で、言いました。
「何だ。てめえは?」
男の一人が、うらしま太郎、に、聞きました。
「単なる、通りすがりの者だよ」
うらしま太郎、は、答えました。
「ただでさえ、不快なのに、正義感ぶりやがって。やっちまえ」
男二人は、うらしま太郎、に、襲いかかりました。
しかし、うらしま太郎、は、空手を身につけているので、チンピラ二人を、やっつけることは、わけもないことでした。
キエー。ウリャー。
うらしま太郎、は、空手の、パンチとキックで、二人を、倒しました。
二人のチンピラは、うらしま太郎、には、歯が立たないと、思ったのでしょう。
「おぼえてやがれ」
と、捨てセリフを吐いて、去って行きました。
あとには、キャバクラ嬢が、残されました。
彼女は、すぐに、うらしま太郎、の、所に駆け寄りました。
「どうも、有難うございました。私は、源氏名を、亀女と言います。あの客たちは、しつこくて、やたら、体を触ってくるので、私も困っていたのです」
と、彼女は、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いや。別に、当然のことを、しただけですよ」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「あの。お名前は?」
女が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「あ、あの。うらしま太郎、さま。助けて頂いた、お礼を、ぜひとも、したいです。どうか、キャバクラ竜宮城に、お越し頂けないでしょうか。料金も、半額、割り引きにさせて頂きます。指名度ナンバーワンの、きれいな、乙姫、という、女性もいます」
と、女は、言いました。
「そうですか。それなら、行きましょう」
そう言って、うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、歩き出しました。
表通りから、路地裏に、ちょっと、入ると、キャバクラ竜宮城、と、書かれた店がありました。
うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、店に入りました。
亀女は、奥の席に、うらしま太郎、を、連れて行きました。
うらしま太郎、は、その席に座りました。
「ちょっと、お待ち下さい」
と、亀女は、言って、店の奥に、行きました。
そして、すぐに、一人の、きれいな、ホステスを連れて来ました。
「うらしま太郎さま。亀女を助けて下さって有難うございました。私は、源氏名を、乙姫と、申します」
と、言って、恭しく、一礼しました。
「いやー。きれいな人だ」
と、うらしま太郎、は、乙姫を見て、思わず、言いました。
乙姫は、うらしま太郎、の、横に腰掛けて、酒、や、料理を出したり、歌を歌ったりして、うらしま太郎、を、もてなしました。
かなりの時間が経ちました。
「いやー。楽しかったです。有難うございました。乙姫さま」
と言って、うらしま太郎、は、立ち上ろうとしました。
すると。
「ちょっと待って下さい。うらしま太郎、さま」
と、乙姫が、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「どうしたのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
乙姫は、回りを、チラッと、見てから、そっと、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「うらしま太郎さま。あなた様は、いじめられていた、亀女を、助けるほどですから、勇気のある方だと思います。実を言いますと、亀女が、いじめられていた、のは、あれは、客引きのための、お芝居です。この店は、指定暴力団、山口組、が経営している、違法な、悪質キャバクラなのです。「日給、最低3万円。住居保証。健全風俗店」、と言いながら、私たち、ホステスは、暴力団事務所の中の、6畳の、狭い一室に、押し込められているのです。そして、稼ぎの、9割は、暴力団に、ピンハネされているんです。そして、暴力団に見張られていて、辞めたくても、辞められないのです。親への仕送りも、しなければなりませんが、わずかな収入では、自分の生活費だけで、精一杯です。みな、困っています。そして、お客さんから、法外な料金を、ぼったくっています。どうか、私たちを助けて下さい」
と、乙姫は、泣いて、うらしま太郎、に、頼みました。
「そうだったのですか。それは、ひどい。わかりました。あなた達を助けましょう」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「うらしま太郎さま。これを、お持ちになって下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎、に、玉手箱を、渡しました。
「何ですか。これは?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「この中には、催涙ガスが、入っています。きっと、お役に立てると思います」
と、乙姫は、言いました。
「わかりました」
と言って、うらしま太郎、は、玉手箱を、受け取りました。
そして、店を出ようと、レジに行きました。
「料金は、10万円です」
レジの男が言いました。
「それは、ひどい。たかが、1時間、飲んだだけで。しかも、料金は、半額、割り引き、と聞きましたよ」
と、うらしま太郎、は、抗議しました。
「ええ。半額、割り引きですよ。しかし、この店は、高級キャバクラなので、料金は、1時間、20万円なのです。だから、半額、割り引き、で、10万円なのです」
と、男は、居丈高に言いました。
「そんな、お金は、ありません」
うらしま太郎、は、毅然とした、態度で言いました。
すると、さっきの、ガラの悪い男二人が、出てきました。
「おい。にいちゃん。遊んでおいて、金を払わないって法は、ねえだろ。金を払いな」
と、恫喝的に、うらしま太郎、に、迫りました。
「金が、無いなら、キャッシュカードで、現金をおろせ」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
店の中には、ATMが、設置されています。
「さあ。これで、金をおろしな」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
「オレは、そんな恫喝には、屈っしないぞ」
うらしま太郎、は、そう言って、乙姫から、渡された、玉手箱を、を、ガラの悪い男たち、に向かって、開けました。
すると、催涙ガスが、出て、ヤクザ三人は、
「うわっ。これは、何だ?」
「催涙ガスじゃねえか。目、や、咽喉、が痛くて、耐えられん」
と言って、ゴホゴホ、と、咳き込みました。
うらしま太郎、は、ハンカチで、口を塞ぎながら、キエー、ウリャー、と、男三人を、叩きのめしました。
そして、乙姫や、亀女、その他の、ホステス全員を連れて、急いで、店を出ました。
そして、タクシーを拾って、彼女たちを乗せ、自分も、乗り込んで、かなりの遠方の駅まで、行って、彼女たちを、降ろしました。
うらしま太郎、は、駅前のコンビニに入って、ATMで、かなりの額の金を、おろしました。
そして、その金を、ホステスたちに、渡しました。
「さあ。あなた達は、これで、逃げなさい」
うらしま太郎、は、言いました。
「有難うございます。うらしま太郎、さま」
そう言って、ホステス達は、は、電車に乗って、それぞれ、自分の実家にもどりました。
うらしま太郎、は、警察署に行って、暴力団の経営する、違法キャバクラ竜宮城、の、実態を話しました。
警察も、重い腰を上げて、マル暴が、動き出し、指定暴力団、山口組、の事務所に乗り込み、暴力団員、全員を逮捕しました。



平成30年11月4日(日)擱筆