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小説家、反ワク医師、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、反ワク医師、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

g00ブログ殺人事件(小説)

2025-05-18 19:27:05 | 小説
gooブログ殺人事件

という小説を書きました。

浅野浩二のHPの目次その2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

gooブログ殺人事件

哲也が小説を書き出したのは大学3年の時である。
医学部に入ってしまった哲也だが彼は医者になってバリバリ働こうとは全く思っていなかった。自分は将来、何をやろうか全くわからなかったからである。哲也は理系が得意だったが、どこかの大学の理工学部に入りたいとは思っていなかった。理系であろうと文系であろうと日本では大学とは、いい企業に就職するための手段に過ぎない。なので大学に進学する目的は学問を身につけようという志ではない。大学に入っても、ほとんどの生徒はアルバイトに励み、合コンで女と付き合い、部活やサークルに励み、海外旅行に行き、つまりは遊ぶために大学に行くのである。大学の授業に出るのは100人中2、3人である。そして教授は試験は過去問しか出さないから、勉強は試験の数日前から過去問題をわけがわからなくても丸暗記する。それで単位が取れて卒業できるのである。日本の大学は遊ぶためのレジャーランドであり、大学を卒業したからといって学問が身につくものでもない。日本の大学は四年間、遊ぶためのモラトリアムであり、いい企業に就職するための手段に過ぎない。
哲也が医学部に入ったのは、哲也は子供の頃から病弱で医学に興味があったからである。
哲也は真面目で勉強熱心だったので、1年2年の教養課程で誰も出席しない講義にも出席した。そして3年からは基礎医学が始まった。
しかし哲也は「ああ。オレも一介のどこにでもいる、つまらない医者になってしまうのか」とため息をつく毎日だった。
生きがいが欲しい。自分の全身全霊を打ち込めるような生きがいが。
そんな潜在意識が哲也の心の中でくすぶり続けていた。
3年の一学期のある日のことである。
「小説家になろう」という天啓が突然、哲也に下った。
今まで一度も小説など書いたこともないのに。
しかしその天啓は哲也をガッシリと捉えてしまって、哲也はその日から小説を書き出した。
もちろんプロ作家になって筆一本で生活していくのは至難である。
俗にも筆二本という。なので、せっかく医学部に入ったのだから卒業して医者として働き、それで収入を得て、そしてプロ作家を目指そうと思ったのである。
そして哲也は医学部を卒業して医者となり、医者の仕事の傍ら小説を書いた。
2001年に哲也は、それまで書いてきた短編小説をまとめて自費出版した。
デキのいいと思う18作品の短編小説と研修病院で働いていた時に書いた5編のエッセイも加えた。タイトルは「女生徒、カチカチ山と十六の短編」とした。
しかし無名の書き手の小説なので売れない。
ネットで宣伝しなくては売れないのである。
なので哲也は急いでホームページビルダーというソフトを買ってホームページを作った。
そして「女生徒、カチカチ山と十六の短編」をホームページに載せた。
しかしやはり無名の書き手の小説は読まれない。
だが哲也にとっては小説を書いていれば満足なので小説を書き続けた。
そして小説が完成すると、それをホームページに出した。
2005年くらいからブログというものが現れ始めた。
日記のようなものである。
皆がブログをするようになった。
哲也もブログには興味があった。
哲也は小説いがいでも色々と政治のこととか、医療のこととか、スポーツのことで書きたいと思っていることがたくさんあったからである。
それで哲也は2008年の4月にブログを始めた。
ブログをサービスしている会社はいくつもあったが哲也はgooブログにした。
そして自分の思っていることをブログで書いた。
哲也の書いた記事を読んでくれる人は結構いた。
もちろん小説を書き上げると、それはホームページだけではなくブログにも載せた。
しかしgooブログでは一つの記事に1万文字までしか入れられなかった。
哲也の書く小説の傾向も学生時代の時と変わっていった。小説を書き始めた頃は3000文字くらいの短編小説も書けたのだが、短編でキリッとうまくまとめることが難しくなっていったのである。
哲也の書く小説は長くなっていき、3万文字から6万文字と長くなっていった。
なので哲也は1万文字を越す小説を書いてもブログには載せなかった。
2万文字以下の小説なら記事を二コマ使って二つに分けて載せることも出来るが、哲也にはそれがしっくりしなくて嫌だった。やはり一コマの中に入れたかった。
しかし有難いことにブログの性能が向上してくれた。
2015年にgooブログがバージョンアップして一つの記事に2万文字まで入力できるようになった。
これは助かった。
さらにその3年後には一つの記事に3万文字まで入力できるようになった。
これも助かった。
これで3万文字以下の小説はブログの一コマの中に入れて出すことが出来るようになった。
6万文字以下の小説は(上)(下)として、分けて二コマ使って入れることにした。
そうして哲也は小説を書きながらブログ記事も書いた。
2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが起こった。
gooブログにも変化が起こった。
gooブログの記事の下に4つの〇がつくようになったのである。
それは(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)、の4つある。
なぜか(いいね)は「グッド」で(応援)は「フレーフレー」で(続き希望)は「ワクワク」で(役立った)は「パチパチ」である。
全部、似たような意味だと思うのだが。
別に記事が役立っていなくても(役立った)ボタンを押すことが出来るのである。
他の所のブログでは気に入った記事には一つの「お気に入り」ボタンがあるだけである。
しかしgooブログでは4つの〇がつくようになったのである。
gooブログにログインすると「編集トップ」という画面が現れる。
ここで8人のgooブロガーの記事が出ている。
これは「アピールチャンス」という機能でgooブロガーに平等に突然やってくるという機能だった。
「アピールチャンス」が出たら他人に見せたい自分の一つの記事を選び「登録」ボタンを押すと「編集トップ」の画面に出ている8人のgooブロガーの一人として表示されるのである。
といってもgooブログの利用者は300万人もいるので表示されるのは、1秒にも満たないほんの一瞬である。
「アピールチャンス」はgooブロガー全員に平等に突然やってくるとgooブログでは言っているがこれはウソで記事をほとんど毎日書いている人にやって来やすいのである。
中にはたまにしか記事を書かない人もいる。そういう人には「アピールチャンス」はやってこないのである。
さらにgooブログでは「アドバンス」という機能をつけた。
「アドバンス」にすると「アピールチャンス」が出やすくなるという宣伝文句だった。
「アドバンス」にすると最初の一カ月は無料と宣伝した。
しかし一カ月を過ぎると月300円クレジットカードで引き落とされる。
月300円ならたいした金額ではないが、これを1年やると一人で一年間3600円である。
「アドバンス」にする人は結構いて、gooブログ利用者300万人の10人に1人くらいは「アドバンス」にしていた。gooブログにしてみれば、一年間で30万×3600円=10億8千万円の儲けである。これに味をしめてgooブログは金の亡者になるようになった。
しかしこんなのは道義的には可笑しなことである。
ブログ記事の「いいね」の評価は記事の内容の価値によって決められるべきものであり、金をとってブログを他人に宣伝させてやるというのは道義的に可笑しい。
しかも記事の内容は「今日はねむたい」とかの一言の何の価値もないクズ文でいいのである。
ちもろん哲也はそんなバカげたことはしたくない性格だったので、「アドバンス」にはしなかった。しかしこの「アピールチャンス」機能は哲也にとって都合がよかった。というのは、「アピールチャンス」に出ている8人の記事を開いて、(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押すと相手も哲也のブログを見てくれる人が出て来るのである。もちろん全員が見てくれるわけではない。さらに相手のブログをフォローすると相手も哲也のブログをフォローバックしてくれる人もいる。もちろん相手をフォローしてもフォローバックしてくれない人の方が多い。しかし100人に1人くらいはフォローバックしてくれる人もいるのである。こうしてフォロワー0だった哲也のブログもフォロワーが増えていった。
しかし有名人や価値のあるブログ記事を書く人はアメーバブログで、gooブログは内容のない記事ばかりのじいさん、ばあさんのブログだった。
記事の内容は、圧倒的にペットの飼い猫の写真と食事の写真とスポーツ選手の写真と釣りや旅行などの趣味の記事ばかりだった。しかし哲也は内容のない記事にも、(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押した。アピールチャンスに出てくる人は大体、決まっていて、ブログランキングの上位に入りたがっている人ばかりだった。そういう人たちは、ほとんど毎日、ブログ記事を書いて投稿していた。
そして相手の人柄というものもわかってきた。
誠実で親切な人間性の優れた人は哲也が(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押すと、相手も哲也の記事に(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押してくれた。これはやはり嬉しかった。
しかし中には、いくら哲也が(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押しても、全く無反応の人もいた。
・・・・・・・・・・・
その中に岩手県に住んでいて、食事、趣味、ペットのネコ、野鳥の記事などを投稿している南原恵子という人がいた。
いつも、クソつまらん記事に、(いいね)、(応援)、(続き希望)、(役立った)の4つの〇を押してやっているのに、無反応とは失敬なヤツだと哲也もいい加減、頭にきた。
それで哲也はその人のコメント欄に、
「いつも楽しい記事を拝見しています。ペットの猫は可愛いですね。いつか一度お会いしたく思っています。いかがでしょうか?山野哲也」
と書いた。
ついでに哲也のヤフーメールのアドレスも書いておいた。
コメントを表示するかどうかはそのブロガーに任されている。
その人は哲也のコメントを表示しなかった。
その代わりに彼女は哲也のyahooメールにメールを送ってきた。
それにはこう書かれてあった。
「山野哲也さん。いつも(いいね)を押して下さって有難うございます。私も山野さんにお会いしたく思っています。南原恵子」
と書かれて住所も書かれてあった。
その後、数回メールのやりとりをして一週間後に会うことになった。
哲也は東北新幹線に乗って南原恵子の家に行った。
彼女の家に着いた。
大きな家だった。
ピンポーン。
哲也は玄関のチャイムを押した。
「はい。どなたでしょうか?」
インターホンから女の声がした。
「あの。山野哲也です」
哲也は答えた。
「あっ。山野さんですね。いらっしゃい。今すぐに行きまーす」
彼女が答えた。
家の中でパタパタと走る音が聞こえた。
そして玄関の戸が開かれた。
女が出てきた。
彼女はニコッと笑った。
「あっ。山野哲也さんですね。お待ちしておりました。私が南原恵子です。今日はようこそおいでくださいました。どうぞお入り下さい」
彼女は丁重に挨拶した。
「はじめまして。山野哲也です。それではお邪魔します」
そう言って哲也は彼女の家に入って行った。
彼女といっても南原恵子は80歳のばあさんである。
彼女は腰痛や変形性膝関節症や痛風で、そのことがつらい記事も書いていた。
哲也は6畳の部屋に通された。
部屋には彼女が可愛がっているペットの猫のリリーがいた。
彼女はブログ記事でいつもペットのリリーの写真を何枚も出していた。
「リリーや。大切なお客様が来たからね。ちょっと出て行っておくれ」
と言って彼女は猫を追い払う仕草をした。
もちろん猫には人間の言葉はわからない。
だが追い払う仕草で主人が何を求めているかは理解できたようでリリーは部屋から出て行った。
「山野さん。お食事を作って待っていました。お食事を持ってきます」
そう言って彼女は立ち上がった。
そしてキッチンに向かおうとした。
哲也はしめたと思った。
山野はカバンの中からロープを取り出すと南原恵子に襲いかかった。
山野はロープを南原恵子の首に巻いた。
「ああっ。山野さん。何をするんですか?」
「何をするかだと?そんなこともわからないのか?」
「わかりません」
「オレはお前のクソつまらん記事に100回以上も、いいね、を押してやったのにお前はオレに一度も、いいね、を押してくれなかった。相手が好意を示したならそれに応えるというのが人間としての礼儀というものだろう。仁義礼智信忠孝悌に欠ける者は死ね」
そう言って哲也は力の限り首を絞めた。
南原恵子は体をバタつかせたが80歳の体力のない婆さんである。
10分くらい哲也が首を絞めつけているうちに南原恵子はダランと脱力して動かなくなった。
こうして南原恵子は死んだ。
リリーがのっそりとやって来て死んだ南原恵子の近くでニャーニャー泣いていた。
(ふん。猫が目撃者か。しかし猫になんか人間の言葉は理解できないし喋れないからな。目撃者とは成りえないな)
と哲也は思った。
哲也はすぐに犯罪隠蔽にかかった。
哲也は床に倒れている南原恵子の首を天井の梁に引っ掛けた。
こうすれば他殺ではなく自殺と思うだろう。
そして南原恵子のパソコンを開きログインした。
そして南原恵子になりすましてブログ記事を書いた。
「私は腰痛や変形性膝関節症や痛風があり毎日がつらいです。なので今日、死にます。私のブログを読んで下さった皆さん。ありがとう。さようなら」
記事を投稿したのは午後2時頃だった。
そして哲也は持ってきた自分のパソコンを取り出して開いた。
そして自分のブログにログインして政治に関するブログ記事を書いた。
その記事はかなり長く、それは以前に書いておいた文章で、それをコピペしたのである。
そして南原恵子のyahooメールにもログインして哲也に送ったり哲也から来たメールは削除した。
もちろん哲也も南原恵子の家に行く前に彼女とのメールは全部、削除していた。
(やった。これで完全犯罪が成功した。アリバイもちゃんとある)
と哲也は喜んだ。
そして哲也は急いで南原恵子の家を出た。
幸い岩手県は人が少ないので人通りのない裏路地を通って盛岡駅に行った。
人に見られることはなかった。
哲也は東北新幹線こまち号に乗って藤沢にもどってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・
家に着くと哲也は急いでパソコンを開いた。
そして南原恵子のブログを開いた。
「本当ですか?南原さん」「すぐに救急車を呼びます」「死なないで。南原さん」
などと彼女を心配するコメントが多数、書かれてあった。
そしてネットの記事にも彼女の「死」がニュースとして出ていた。
「本日、午後2時頃、岩手県盛岡市に住む南原恵子さん(80)が首を吊って自殺しました。南原恵子さんはgooブログ記事を書くことが趣味で、今日の2時頃に投稿したブログ記事は死ぬことを書いた遺書でした。すぐに彼女と親しいgooブログ仲間が警察と消防署に連絡して、南原恵子さんは岩手大学医学部付属病院に搬送されましたが、その時はすでに死んでおり救命措置は行われませんでした」
記事はそういうものだった。
哲也は、あっははは、ざまあみろ、と高笑いした。
その夜のニュースウォッチ9、報道ステーション、news11でも南原恵子の死が報道された。
その夜、哲也は長年の不快感が解消されて、ぐっすり眠ることが出来た。
翌日。
朝起きるのが遅い哲也はいつも午前11時くらいに起きていた。
しかし、その日は午前10時くらいにピンポーンとチャイムが鳴って哲也は起こされた。
「はーい」
と言って哲也は玄関の戸を開けた。
警察官が二人、立っていた。
「山野哲也。お前を殺人容疑で逮捕する」
そう言って警察官は山野に逮捕状を見せた。
哲也はとまどった。犯行は完全なはずだ。アリバイもある。ばれるはずかない。
「一体、僕が誰をいつ殺したというのですか?」
哲也は強い口調で言った。
「それは警察署に来てから聞こう。ともかく警察署に来てくれ」
警察官も強気の口調だった。
仕方なく哲也は家を出た。
家の前にはパトカーが止めてあったので山野はそれに乗った。
そして山野は藤沢北警察署に連れて行かれた。
そして取り調べ室に入れられた。
「君は南原恵子という人を知っているかね?」
刑事が聞いた。
「ええ。知っています。昨日、自殺したお婆さんですね。ニュースでやっていましたから」
と哲也は答えた。
「君は昨日、盛岡に行かなかったかね?」
と刑事が聞いた。
「いえ。行っていませんよ。なぜ僕が盛岡に行かなくてはならないんですか?」
と哲也が答えた。
「それを示すアリバイはあるかね?」
と刑事が聞いた。
「昨日は家でブログ記事を書いていました。政治問題に関する僕の見解です。それを2時頃にgooブログにアップしましたからね。まあそれがアリバイです」
と哲也が言った。
「それはアリバイにはならないな。ブログ記事はパスワードを知っていれば、どこでもログイン出来て記事を投稿できるからね」
と刑事が言った。
「まあ、それは確かにそうですが・・・・」
と哲也が言った。
「南原恵子さんが遺書のようなブログ記事を投稿したのは昨日の午後2時頃ですよね。それで彼女のブログ友達がそれを岩手県警に電話して、岩手大学医学部付属病院に運ばれましたが、その時にはすでに死んでいたそうじゃないですか。これは彼女の自殺で、何で僕が警察に逮捕されなきゃならないんですか?」
と哲也。
「確かに彼女は昨日の午後2時頃にブログ記事をアップしているね。しかしブログ記事はパスワードを知っていれば、他人がログイン出来て書けるじゃないかね?」
と刑事。
「それはその通りです。あなたは何か僕を疑っているように思えますが、彼女は体調不良を苦にして自殺したんじゃないんですか?」
と哲也。
「ああ。確かに彼女は腰痛、膝痛、痛風に悩まされていたよ。しかしだね、彼女の体調不良はそんなひどいものじゃないと彼女がかかっていた主治医は言うんだ。それで死亡診断書を岩手大学医学部の法医学教室で作ろうとした時、彼女が死んだのが本当に縊死なのかどうか調べたんだ。結果は彼女の首の縄の跡から、彼女は縊死ではなく誰かに絞殺されて、その後、縊死に見せかけるように彼女を吊るしておいたということがわかったんだ。君も医者だから医学生時代に法医学を学んで、法医学の死因同定の技術が凄いことは知っているだろう」
と刑事。
「ええ。知っていますよ。でもそれと僕とどういう関係があるんですか?」
と哲也。
「もうしらばっくれるのはいい加減にしたらどうかね。南原恵子さんを殺したのは君だ。君は昨日、岩手へ新幹線で行き、南原恵子さんの家へ行って彼女を絞め殺したんだ。そして縊死に見えるようにしておいたんだ。昨日の彼女のブログ記事は君が彼女のパソコンで書いたものだろう。違うかね?」
と刑事。
「僕が彼女を殺す動機は何なんですか?それと僕が昨日、南原恵子さんの家に行って彼女を殺したという証拠はあるんですか?」
哲也はいささか興奮していた。
「証拠はあるよ。確実な証拠がね」
刑事は自信に満ちた口調で言った。
「じゃあ、それを見せて下さい」
哲也は強気に言った。
刑事はデジカメを一つ哲也の前に出した。
「彼女が自殺ではなく他殺だということがわかってから警察が彼女の家を捜査したんだ。そうしたら彼女の家の中を写すデジカメが彼女の部屋の中に設置されていたんだ。彼女は一人暮らしでね。買い物や病院に行く時には、彼女は彼女にとってかけがえのない愛猫のリリーの様子を写していたんだ。一人でいる時のリリーがどんなことをするのか、後で見るのが彼女の楽しみだったんだ。君が来た時もデジカメは回っていたんだ。だから君がとった行動は全てデジカメに録画されているよ」
そう言って刑事はデジカメで昨日の様子を写し出した。
哲也が南原恵子の部屋に入った時から彼女を絞め殺した様子、そして彼女が縊死したように見せかける様子、彼女のパソコンを開いてブログ記事を書いている様子が、ハッキリと写し出された。
そして山野がロープを南原恵子の首に巻いた時からの会話もしっかりと録音されていた。
「ああっ。山野さん。何をするんですか?」
「何をするかだと?そんなこともわからないのか?」
「わかりません」
「オレはお前のクソつまらん記事に100回以上も、いいね、を押してやったのにお前はオレに一度も、いいね、を押してくれなかった。相手が好意を示したならそれに応えるというのが人間としての礼儀というものだろう。仁義礼智信忠孝悌に欠ける者は死ね」
そして哲也が力の限り首を絞めた様子。
そして彼女のパソコンを操作している様子もしっかりと写し出された。
もうここまで決定的な証拠を見せつけられては哲也は言い逃れ出来なかった。
「け、刑事さん。その通りです。彼女は僕が殺したのです。動機は、僕が言っているように、僕は彼女のブログ記事に、いいね、を押してあげたのに、彼女は僕に、いいね、を押してくれなかったからです」
哲也はガックリと項垂れて罪を認めた。
「君は確かに天才だよ。君は頭が良く努力家で公立の医学部に入った。小説家になろうと志し30年以上も小説を書いてきた。君の関心事は政治や医療の真実を追求することだ。君は精神レベルが常人とは比べ物にならないほど高い。そういう君から見ると世の人間は、ペットの猫とか食い物やスポーツなど面白おかしいことにしか興味のない世の人間たちが低レベルの人間に見えるのだろう。それでイライラしていたんだろう。違うかね?」
刑事が聞いた。
「そ、その通りです。僕は世の人間たちが低レベルだなーといつしか見下すようになっていました。僕は罪を認めます。僕はいつしか傲慢になっていました。僕は死刑になるでしょう。しかしそれは自分の犯した罪に対する罰であり僕はそれを甘んじて受けます」
哲也はポロポロ涙を流していた。
・・・・・・・・・・・・・
「うわー」
哲也は目を覚ました。
全身、汗だくだった。
時計を見ると午前3時だった。
ハアハアと息が荒かった。
あー嫌な夢を見たものだ、と哲也は思ったが、だんだん落ち着いてくると、夢でよかったな、と思うようになった。
いつしか自分が傲慢になっていたことを哲也は反省した。
これはもしかすると「お前は最近、傲慢になっているんじゃないか。それは間違っているぞ」というお釈迦様のお告げなのかもしれないと思った。


2025年5月18日(日)擱筆

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伯父の妻と甥の恋(小説)(上)

2025-05-14 23:51:48 | 小説
伯父の妻と甥の恋

という小説を書きました。

浅野浩二のHPの目次その2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

伯父の妻と甥の恋

山田健二は開成高校の3年生である。
開成高校の優秀な生徒が皆そうするように健二も東大理科三類を第一志望としていた。
別に特に医者になりたいわけではない。
優秀な生徒は日本で最難関の東大理科三類に合格することによって我こそは超秀才であるぞという権勢を誇示するためである。
東大理三に一番合格者を出しているのは灘高校である。
しかし健二は駿台の模擬試験でもトップの成績を出したほどだったので東大理三の合格可能性は十分にあった。
健二の母親は健二が幼い頃、死んで、健二は父親との二人暮らしだった。
健二が開成高校の3年になった時、健二の父親は大阪の支社に出向が決まった。
それで父親は健二を残して大阪に単身赴任してしまった。
なので二階建ての大きな家を健二ひとりで暮らすことになった。
・・・・・・・・・
大阪に出向する前、健二の父親は息子にこう聞いた。
「おい。東大理三は大丈夫か?」
「うん。駿台模擬試験でも十分、合格の可能性が出ているよ」
「そうか。しかし東大理三は偏差値のバケモノが何人も受験するからな。別に東大理三でなくてもいいぞ。東京医科歯科大学の医学部を受験してもいいぞ。駿台模試で東大理三の合格可能性が十分あるのなら東京医科歯科大学の医学部は余裕で合格出来るだろう。試験は水物だからな。落ちたら意味がないからな」
「うん。僕もそのことは考えているよ。これからラストスパートをかけて、最後の駿台模擬試験の結果で東大理三にするか東京医科歯科大学の医学部にするか決めようと思っているよ」
「そうか。ところで頼みがあるんだが、夏休みに一度、石川県のオレの弟の山田一秀さんの所へ行ってくれないか?」
「どうして?」
「まあ、ちょっとした理由があってな。嫌か?」
「いや。いいよ」
「よし。じゃあ、弟の所に一度行って泊めて貰え。頼むぞ」
「うん」
伯父さんの所と聞いて健二はドキンとした。
伯父さんは健二の父親の弟である。
伯父さんは日本全国および世界22カ国に支店をもつ化粧品会社の社長である。
伯父さんには10歳年下の智子さんという妻がいる。
以前、健二は伯父さんの妻の智子さんを見た時に(きれいな人だな)と淡い恋心を抱いてしまった。
それは1年前の高校2年生の時である。
伯父夫婦が健二の家に来た時である。
健二は石川県の金沢に興味があったので行くことにした。
父親にそのことを話すと父親は、
「伯父さんには智子さんという奇麗な妻がいるぞ。まだ30代だ。おれも数回、会ったことがあるが、凄くきれいで優しい人だぞ」
と言った。
「う、うん。行くよ」
健二は平静を装っていたが、内心は智子さんに会えると思うと心臓がドキドキと高鳴った。
・・・・・・・・・・
そう言って父親は大阪の支社に出向した。
あとには健二が一人残された。
父親がいなくなっても健二の生活は変わらなかった。
学校でも学校から帰っても、勉強、勉強の毎日である。
そんなことで3年の一学期が終わって夏休みになった。
健二は伯父の山田一秀さんに電話した。
「あ、あの。伯父さん。目的はわからないんですけど、僕の父親が夏休みに伯父さんの家に行くように言ったんです。行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。ぜひ来てくれ。健二くんにはぜひ来て欲しいんだ」
伯父さんの口調から、ぜひとも来て欲しいという思いが伝わってきた。
「じゃあ、行きます。いつなら都合がいいでしょうか?」
「いつでもいい。出来るだけ早く来て欲しいな。明日でもいいよ」
伯父さんの喜びように健二は驚いた。
どんな理由かはわからないが、父親と伯父さんの間では話をして、その理由を分かっているのだろうと健二は思った。
「じゃあ、明日、行きます」
「そうか。有難う。楽しみに待っているよ。何日泊まるかね?」
「2泊3日でいいでしょうか?」
「ああ。構わんよ。2泊3日と言わず一週間くらい泊っていって欲しいな」
こうして健二は翌日、伯父さんの家に行くことになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の北陸に行く日になった。
健二は午後2時に家を出た。そして東京駅で15時24分発のJR新幹線はくたか569号に乗った。新幹線は3時間かかって金沢駅には18時20分に着いた。
健二にとって北陸は初めてだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
1日目。
山田一秀の家に着くと、山田夫婦は健二を快く迎えてくれた。
「やあ。健二くん。よく来てくれたね。遠慮はいらん。ゆっくりくつろいでいってくれ」
と山田一秀は言った。
伯父さんは日本全国および世界22カ国に支店をもつ化粧品会社の社長である。
「健二くん。こんにちは」
と妻の山田智子も満面の笑顔で迎えてくれた。
健二はシャイで人見知りするタチだったので、
「こんにちは」
と小さな声で挨拶した。
しかし、健二は山田智子を見た時、思わず心臓がドキンと高鳴ってしまったのである。
彼女があまりにも美しかったからである。
その晩は、智子さんが腕によりをかけて豪華な料理を作って、もてなしてくれた。
山田一秀は大らかな性格だったので健二に色々なことを聞いた。
しかし健二はシャイなので、「はい」「はい」と言うだけで、緊張して、あまり喋れなかった。
健二が緊張してしまったのは、元々シャイな性格ということもあるが、健二は、山田さんの妻の智子さんに一目惚れしてしまって、智子さんを見ると顔が真っ赤になってしまうので、それを叔父の山田一秀さんに悟られるのが、こわかったからである。
その晩、健二は6畳の客間に寝た。
家は古くからの大きな日本家屋で部屋がたくさんあった。
他人の家では、なかなか寝つけない健二であるが、その晩は旅の疲れもあってか、容易に眠りについた。
しかし夜中の2時頃、あーあーという叫び声とも呻き声ともつかぬ何やら妖艶な声が聞こえて来て健二は目を覚ました。
健二は起き上がって声のする所へ向かった。
すると、山田夫婦の寝室が昼間のように煌々と明るい。
何か呻き声のようなものも微かに聞こえてきた。
こんな夜中に一体、何をしているんだろう、と健二は疑問に思った。
夫婦の夜の営みなら、電気を消して暗い中でするので、おかしいな、と健二は思った。
それで健二は山田夫婦に気づかれないよう音をたてずに伯父夫婦の寝室の方に行ってみた。寝室の障子は1cmほど開いていた。
健二はそっとその隙間から寝室の中を見た。
見て健二は心臓が止まるかと思うほど驚いた。
なぜなら、山田智子さんが丸裸にされて麻縄で後ろ手に縛られて、布団の上に横にされて、片足を高く吊られていたからである。
幸い一秀さんも智子さんも障子の隙間からは背中を向けていた体勢だったので健二は二人に見られないで二人を見ることが出来た。
夫の一秀さんは蝋燭を持って立っており蝋燭を妻の体の上から垂らしていた。
蝋涙がポタリと智子さんの体に垂らされる度に、智子さんは、ああん、と切ない喘ぎ声を上げていた。
「ふふ。智子。どうだ。蝋燭責めの味は」と一秀さんが、智子さんの体をグリグリ踏みながら聞くと、智子さんは「ああっ。いいわ。もっと虐めて」と口を半開きにして言った。
彼女は被虐の快感に浸っているのか目を閉じていて、一秀さんは健二に背を向けた状態だったので、健二は見られることがなくて済んだ。
健二は、その光景を一瞬、見ただけで、そーと音を立てずに障子を閉めた。
そして、伯父夫婦に気づかれないように、抜き足差し足で部屋にもどって布団の中に入った。
健二は興奮するというより、激しい緊張で心臓の鼓動がバクバク高鳴っていた。
あんなに明るくて大らかな伯父夫婦に、あんなSM趣味があったとは。
智子さんは、夫に虐められながらも、「ああっ。いいわっ。もっと虐めて」と酩酊した様子で言っていたので、智子さんは間違いなくマゾなのだろう。二人がどういう経緯で結婚したか、について詳細なことは健二は知らなかったが、見合い結婚ではなく、恋愛結婚ということは聞いて知っていた。なので、おそらく一秀さんはサドで智子さんはマゾで相性が合って結婚したのだろうと健二は思った。智子さんのように、あんな綺麗な人にあんな被虐性癖があったことに健二は驚いて、その夜は、なかなか寝つけなかった。
・・・・・・・・・・・・・
翌日(2日目)
健二は7時に起きた。
「もしもし。健二くん」
智子さんが健二の寝ている客間をトントンと叩いた。
「はい」
「健二さん。朝食の用意が出来ましたよ」
と知らせてくれた。
それで目を覚ました健二は、
「おはようございます」
とあわてて言って急いで浴衣を脱いで服を着て食卓に行った。
食卓には一秀さんと智子さんがもうすでに着いていて健二の来るのを待っていた。
食卓には智子さんが作ってくれた、厚切りトーストとスクランブルエッグとサラダとコーンスープが乗っていた。
「やあ。健二くん。おはよう」
一秀さんが読んでいた新聞をたたんで健二に挨拶した。
「お、おはようございます」
健二が挨拶した。
「昨日は眠れましたか?」
智子さんが笑顔で聞いた。
「は、はい。よく眠れました」
と健二は言った。
「今日の予定は何かね?」
伯父さんが聞いた。
「今日は定期観光バスで兼六園や金沢城公園などを見ようと思います」
健二は答えた。
「そうか。今ならギボウシ、ハギ、ナンテン、ハンゲショウが綺麗に咲いているよ」
伯父さんが言った。
二人の様子はごく普通の夫婦である。それが夜はあんな事をしているなんて、二人は、まるでジキル博士とハイド氏のように見えてきた。
三人食卓につくと、
「では。いただきます」
と言ってパクパクと朝食を食べ出した。
健二は昨日のことを思い出して恥ずかしくて智子さんを見ることが出来なかった。
「健二くん。急に仕事関係の用事が出来てね。私は今日から一週間くらい友人の家に泊まることになったよ。せっかく来てくれたのに済まないね。しかし智子が面倒を見てくれるから二人で過ごしてくれたまえ」
伯父さんが言った。
食事が終わって健二は部屋にもどった。
健二が出かける用意をしていると伯父さんがやって来た。
「健二君。面白いものを見せてやろう」
一秀さんはニヤリと笑って言った。
健二は無言で立ち上がった。
健二は一秀さんの後に着いて行った。
寝室の前に来た。
「健二君。面白いものを見せてやろう」
そう言って一秀さんは寝室の戸を開いた。
びっくりした。なぜなら、智子さんが丸裸にされて後ろ手に縛られて片足を吊られていたからだ。智子さんはアイマスクで目隠しをされていた。智子さんは唇を半開きにして酩酊している様子だった。智子さんは、服を着ている時には特別グラマラスな体形には見えず普通の体形に見えたが、裸になると、ムッチリとした男の欲情をそそる体だった。着やせするタイプなのだろう。
「ははは。健二くん。この女はマゾでね。こうされて恥ずかしい姿を見られることに興奮するんだよ」
一秀さんは健二にそう説明した後、智子さんに目を向けた。
「そうだな。智子」
「は、はい。そうです」
健二はどうして、一秀さんが健二にそんなモノを見せるのか、わからなかった。
それを察するように一秀さんが言った。
「結婚してから夜の営みは全部こういうのだった。しかし、二人きりでやっていても、厭きてきてね。もっと強い刺激が欲しくなったんだ。それで、君にも参加して欲しくてね。さあ。智子を君にあげるから、智子をオモチャにして、うんと楽しんでくれ」
じゃあ私は友人の家に行くよと言って伯父さんは寝室を出た。
「じゃあ私は出かけるよ」
すぐに伯父さんは家を出た。すぐにブロロロロと車のエンジン音がして伯父さんは去ってしまった。
あとには健二と一糸まとわぬ丸裸にされて後ろ手に縛られ片足を吊り上げられている智子さんの二人きりになった。
・・・・・・・・・・・・・・・
智子さんは目隠しをされているので健二を見ることはない。
健二はゴクリと唾を呑んだ。健二が女の裸を間近で見るのはこれが生まれて初めてだった。
健二は智子さんに見られていないのをいいことに丸裸の智子さんの体をしげしげと見た。
半開きになった唇。華奢な肩と腕。仲良さそうに並んでいる二つの豊満な乳房。大きな円柱状の乳首。雨だれで穿たれたような臍の穴。片足を吊り上げられているので女の恥ずかしい所は丸見えだった。恥毛はきれいに剃られていて恥丘は割れ目が丸見えである。片足を吊り上げられていたが割れ目はしっかりと閉じていた。大きな尻とそれに続く脂肪が程よくついた柔らかそうな太腿。
すべて健二にとって生まれて初めて見るものだった。
健二はハアハアと興奮しながら女の体を眺めた。
健二は極力、智子さんにさとられないように黙っていだが、智子は間近にいる健二の存在を感じとったのだろう。智子は健二に話しかけた。
「いいわ。健二くん。私をオモチャにして。うんと虐めて」
智子が言った。
「い、いいんですか。智子さん?」
「いいわよ。何をしても。私をオモチャにして」
健二は何をしようかと迷ったが、無防備の智子の首筋の右側を指一本でスーと触れた。
「ああー。ひいー」
くすぐったさのため瞬時に智子さんの首の右側がキュッと収縮した。
しかしそのため、左側の首筋がガラ空きになってしまった。
健二は今度はガラ空きになった左側の首筋をスーと指一本でなぞった。
「ああー。ひいー」
智子さんは大きな悲鳴を上げた。
「つらいですか?智子さん」
健二が聞いた。
「つらいわ。でもそのつらさがいいの。もっと私をつらい目にあわせて」
健二は、ふふふ、と笑った。
そして健二は、智子の脇腹や太腿の付け根のアソコの近くを指一本でスーと触れた。
その度に智子は、「ひいー。ひいー」と大きな叫び声を上げた。
健二は丸出しの乳房やアソコは触らなかった。
女の性器をわざと触らないことによって、女をじらし、恥ずかしい所を見られているという羞恥心を智子に起こさせるためだった。
智子は、ひいー、ひいー、と叫び声を上げ続けた。
智子のアソコからは白濁したドロドロした愛液が溢れ続けた。
健二は智子を責め続けた。
1時間くらいして健二は智子への責めをやめた。
「智子さん。僕は兼六園と金沢城公園に行かなくではならないので、これで終わりにします」
そう言って健二は、智子の恥丘に溢れ出ている白濁した愛液をティッシュペーパーで拭きとった。そして智子の片足を吊っている縄を解き、智子の後ろ手の縄も解いた。
これで智子のさんの縛めはなくなり彼女はムクッと起き上がった。
そしてアイマスクを外した。
「有難う。健二くん。健二くんって女を責めるのが凄く上手いのね。私、最高の快感だったわ」
そう言って智子はパンティーを履き、ブラジャーを着けた。
そしてスカートを履きブラウスを着た。
「じゃあ智子さん。僕は観光バスで兼六園と金沢城公園に行きます」
そう言って健二は玄関に向かった。
智子も玄関までついてきて、
「行ってらっしゃい」
と手を振って嬉しそうに健二を見送った。
・・・・・・・・・・・・・・
その日、健二は観光バスで、金沢駅→近江町市場→長町武家屋敷跡界隈→金沢21世紀美術館→兼六園→金沢城公園・玉泉院丸庭園→ひがし茶屋街→金沢駅、と見て回った。
健二が伯父さんの家に帰ってきたのは夜の7:00時になっていた。
ピンポーン。
チャイムを押すと家の中からパタパタと足音が聞こえ玄関の戸が開いた。
智子さんが嬉しそうに出てきた。
「お帰りなさい。健二君。金沢観光はどうだった?」
智子さんが聞いた。
「うん。とてもよかったよ」
健二は答えた。
「そう。それはよかったわね。ちょうど夕食の支度が出来て待っていた所だったの」
健二は家に上がった。
食卓にはすき焼きがぐつぐつ煮えていた。
二人は食卓に着いた。
頂きます、と言って二人は食べ始めた。
「今日はすき焼きにしたの。よかったかしら?」
「ええ。とても美味しいです」
健二は智子さんの作ったすき焼きをハフハフ言いながら食べた。
一秀さんはいないので、まるで智子さんが恋人のような感じだった。
出かける前に裸の智子さんを思う存分、虐めたのに、こうして一緒に食事していると、何だか、智子さんを虐めたことがウソのように思われてきた。
「健二君。お風呂が沸いているから入って」
食事が終わると智子さんが言った。
「有難うございます」
と言って健二は風呂に入った。
一日中、観光スポットを歩き回った疲れがとれていった。
健二の次に智子さんが風呂に入った。
健二は寝ようと思って客間に布団を敷いて布団の中に入った。
しかし智子さんのことが気になっていた。
案の定、トントンと部屋をノックする音がした。
「哲也君。開けてもいい?」
「ええ」
智子さんが戸を開けた。
風呂から出たばかりなのだろう。
智子さんは風呂上りでバスタオルを一枚、体に巻きつけただけの格好だった。
それが何を意味するかはすぐに予想がついた。
家には健二と智子さんの二人きりである。
しかし健二は一般の男のように、ベッタリと女と一緒になってしまいたくはなかった。
一つの家に男と女が居ながら何もせず、一人スヤスヤ寝ている智子さんを想い想像力で興奮を高めたいと思う変わり者だった。
「何でしょうか?智子さん」
「あ、あの。健二くん。お願いがあるの」
「何でしょうか?」
「来てくれる?」
智子さんに頼まれたのなら仕方がないと思い健二は起き上がった。
健二は智子さんについて行った
智子さんは一秀さんとの夫婦の寝室に入った。
そして智子さんは両手を前に差し出した。
「健二くん。手首を縛ってくれない?」
智子さんは切実そうな様子だったので、健二は畳の上に置いてある縄を拾って智子さんの手首を縛った。
「健二くん。縄尻を天井の梁に引っ掛けて」
言われて健二は智子の手首を縛った縄尻を天井の梁に向かって投げて天井の梁に引っ掛けた。
「健二くん。じゃあ縄尻を思いきり引っ張って私を吊るして」
健二は智子の言う通り縄尻をグイグイ引っ張っていった。
そして縄尻を智子の手首を縛っている縄に縛りつけた。
それによって智子の手は頭の上に引っ張られ智子は天井から吊るされる形になった。
智子は天井の梁から吊るされて湯上りの体をバスタオル一枚、巻きつけているという姿である。
「哲也くん」
「はい。何でしょうか?」
「胸の所でバスタオルを重ね合わせて留めてあるでしょう。それを解いて下さい」
智子さんが言った。
健二は一瞬、迷った。そんなことをしたら体に巻きつけているバスタオルが解けて落ちてしまう。しかし智子さんの頼みとあれば健二はそれに従うしかなかった。
健二は胸の所にあるバスタオルの重ね合わせを解いた。
パサリ。
バスタオルが落ちた。
それによって一糸まとわぬ丸裸があらわになった。しかも智子さんは天井から吊るされているので裸の体を隠す術がない。
「ああっ。恥ずかしいわ」
智子は体をモジモジさせた。
しかし智子は天井から吊るされているので裸の体を隠す術がない。
「け、健二くん」
「はい」
「私の惨めな姿をとっくり見て下さい」
そう言われても健二は自分がスケベなことを智子さんに知られるのはためらわれた。
なので智子さんを直視することは出来なかった。
しかし健二は寝室を去ることは出来なかった。健二が寝室を去ってしまったら智子さんは吊られっぱなしのままである。それは可哀想である。
智子さんは必死にアソコを隠そうと太腿をモジモジさせていた。
だが寝室には2つの等身大のカガミが立ててあるので智子さんが健二に対してどんな角度をとっても全裸を見られてしまった。
「ああっ。いいわっ。一人暮らしの女の部屋に押し入り強盗が入って女を裸にして吊るして虐めているようだわ。私、一度こういうふうに虐められたかったの。健二くんは一人暮らしの女の部屋に入った押し入り強盗よ。さあ私をうんと弄んで」
智子さんが言った。
うんと弄んで、と言われても健二はシャイなのでそんなことは出来なかった。
恥ずかしがって被虐の快感に浸っているのは智子さんだが、健二もスケベと思われたくなかったので、裸の智子さんを直視することは出来なかった。
しかし目をそらすには智子さんの全裸姿はあまりにもエロチックで健二はチラッ、チラッと智子さんを見た。
「健二くん。遠慮しなくていいのよ。一秀さんは日曜日には、必ず、私を色々な恥ずかしい格好にして、近所の人たちを呼んでいたの。近所の人たちが私を遠慮なく嬲るのを夫はニヤニヤして見て楽しんでいたわ。だから健二くんも遠慮しないで」
智子さんが言った。
一秀さんがそんなことをしていたと知って健二に、智子さんを思うさま嬲った人達に対する激しい嫉妬が起こった。
SM趣味のある人達はM女を遠慮なく嬲る。
そんな人たちに嬲られるくらいなら、いっそ女に優しい自分が智子さんを優しく虐めて智子さんに被虐の快感を味あわせてあげた方が、ずっといいと健二は思った。
それに全裸で吊られて太腿をモジモジさせている智子さんを見ているうちに健二に激しいサディズムの性欲が嵩じてきて、健二のおちんちんは激しく勃起していて、もう我慢の限界だった。
健二は吊られている智子さんの所へ行くと智子さんの背後から智子さんの腹をそっと抱きしめた。
「あっ。健二くん。私を虐めてくれるのね。有難う」
智和は嬉しそうに言った。
確かに誰もいない一軒家の一室で女が裸にされて吊るされて服を着ている男が裸の女を抱きしめている図は、一人暮らしの女の部屋に入った押し入り強盗が女を嬲っている図だった。
しかも智子は一糸まとわぬ丸裸で吊るされているのに、健二は浴衣を着ているので、その図は男が女を嬲っているように見える。
「と、智子さん。ごめんなさい」
そう言って健二は背後から智子の胸を揉んだり尻を触ったりした。
健二は智子を優しく愛撫した。
健二が智子の乳首の突起をコリコリさせると、智子の乳首はすぐに勃起した。
健二は屈み込んで智子の大きな尻に、チュッ、チュッとキスをした。
智子は、ああん、と喘ぎ声を出し続けた。
智子のアソコからは女が性的に興奮した時に出る白濁した愛液がドロドロと出ていた。
「健二くん。遠慮しなくていいのよ。アソコに指を入れて。愛液で濡れているから入れやすいわ」
健二の心を見透かしているかのように智子は言った。
そして、それは事実だった。
ウブでシャイな健二は女の体を触るのは、生まれて初めてであり、女のアソコに指を入れるのは、はばかられていたのである。
しかし智子の言葉は健二に勇気を与えた。
健二はそっと智子の股間をまさぐり、女の穴を探し当て、そっと中指を入れてみた。
智子の言った通り、股間は愛液でヌルヌルしていたので指はスルッと穴の中に入った。
「ああっ。いいわっ」
智子が喘ぎ声を出した。
初めて触れた女の穴の中はヌルヌルしていた。
これが女の穴なんだな、と健二は興奮する以上に驚いていた。
健二が指先を動かして、ある所に指先が触れると智子は、ああん、と喘ぎ声を出した。
「そ、そこ。Gスポットと言って女はそこを刺激されると感じるの」
Gスポットの存在は健二も知っていた。
女の膣の中の前面にはGスポットという所があり、女はそこを刺激されると興奮するということを。
健二がGスポットを刺激すると智子は、ああん、と喘ぎ声を出した。
そして智子の膣がキューと収縮して健二の指を締めつけた。
「女は興奮すると膣が収縮するの。男のモノを離さないようにするために」
智子は説明したが、健二もそのことは知識として知っていた。
ただ、あまりにも締めつける力が強いので驚いた。
健二は立ち上がった。
そして左手で智子の乳房を揉み、乳首をコリコリさせ、右手で智子の恥丘を触ったり、女の穴に指を入れたりした。
「ああっ。いいわっ。感じちゃうわ。押し入り強盗に裸にされて嬲られているのに感じちゃうなんて私マゾなのね」
そんなことを言って智子は健二のサディズムを刺激しようとした。
実際に健二の加虐心は激しく高まっていた。
「ねえ。健二くん。私の髪を後ろに思い切り引っ張ってくれない?押し入り強盗は女にもっと乱暴なこともするでしょ」
智子が言った。
「はい。わかりました」
そう言って健二は智子の長い美しい黒髪をグイと引っ張った。
「ああっ」
智子は髪を引っ張られて顔がのけぞり顔は天井を向いた。
鼻の穴が見え口は半開きとなった。
健二のサディズムを目覚めさせようとする智子の計画に健二はまんまとはまっていた。
もう健二は智子に対して遠慮がなくなっていた。
「健二くん。部屋の隅に箱があるでしょ。その箱の中にムチがあるわ。それで私をムチ打って」
智子が言った。
「はい」
健二は喜んで箱の中を見た。
箱の中には、縄、ムチ、蝋燭、洗濯バサミ、毛筆、アイマスクなどの責め具が入っていた。
健二は縄とムチを取り出して智子の所に行った。
そして健二は座り込んで智子の足首を縄で縛った。
「な、何をするの?」
智子が聞いた。
「智子さんが足をバタつかせないようにするためです」
健二は平然と言った。
そして健二は立ち上がってムチを手にして智子の背後に立った。
「じゃあ、やりますよー」
そう言って健二は智子の尻めがけて思い切りムチを振り下ろした。
ビシーン。
ムチは智子の柔らかい尻に当たった。
意気のいい炸裂音が鳴り、智子の尻にはムチ打たれた所に赤い跡が出来ていた。
「ああー」
智子は髪を振り乱し全身を震わせて叫んだ。
足もバタつく所だったろうが、健二が両足首を縄で縛ってしまったのでそれは出来なかった。
ビシーン。ビシーン。ビシーン。
健二は尻から背中、太腿の裏側と智子の背後を滅多打ちにした。
10分くらい健二は鞭打った。
「許して。お願い。健二くん。もう許して」
智子は本当に涙をポロポロ流しながら哀願した。
それはサド男が本当に女を虐めている姿だった。
しかし、智子が、許して、と言ったので健二は鞭打ちをやめた。
健二はムチを落として智子の所に駆けつけた。
「痛かったでしょう。智子さん。ごめんなさい。今、縄を解きます」
そう言って健二は智子の足首の縄を解いた。
そして智子を吊っている手首の縄も解いた。
これによって智子は手足が自由になった。
智子はクナクナと倒れ伏した。
健二は押し入れを開けて布団を出し寝室に敷いた。
そして智子を布団の上に乗せた。
健二は台所へ行き氷の入った冷水とタオルを持ってきた。
そして鞭打たれて赤くなっている智子の尻や背中をふいた。
「痛かったでしょう。智子さん」
「ううん。気にしないで。私が健二くんにサディストになるように仕向けたんだもの。健二くんに泣くまで鞭打たれて私、本当に嬉しかったわ」
健二は智子の体を冷水タオルで何度もふいた後、智子に布団をかけた。
そして「お休みなさい」と言って寝室を出た。
健二も客間にもどって布団に入った。
健二も責め疲れていたのですぐに眠りに就いた。
・・・・・・・・・・
翌日(3日目)
健二は7時に起きた。
「もしもし。健二くん」
智子さんが健二の寝ている客間をトントンと叩いた。
「はい」
「健二さん。朝食の用意が出来ましたよ」
と知らせてくれた。
それで目を覚ました健二は、
「おはようございます」
とあわてて言って急いで浴衣を脱いで服を着て食卓に行った。
食卓には智子さんが作ってくれた、厚切りトーストとスクランブルエッグとサラダとコーンスープが乗っていた。
「おはよう。健二くん」
智子さんがニコッと笑って挨拶した。
「お、おはようございます」
健二も挨拶を返した。
二人は食卓につくと、
「いただきます」
と言ってパクパクと朝食を食べ出した。
「昨夜は眠れましたか?」
智子さんが笑顔で聞いた。
「は、はい。よく眠れました」
と健二は顔を赤くして言った。
「智子さんこそ、あの後、眠れましたか?」
健二が聞いた。
「ええ。眠れたわわよ」
智子さんは平然とした様子で言った。
智子さんは昨夜あんなに責められたのに本当に眠れたのかなと疑問に思った。
「昨夜、あんなに責められたのに本当に眠れたのですか?」
健二が聞いた。
「ええ。本当よ。だって私、夫に夜おそくまで責められることに慣れているから」
「なるほど。そうですか」
健二はそれを聞いて納得した。
「健二くん。今日の予定は?」
智子さんが聞いた。
「今日は定期観光バスで金沢能楽美術館、鈴木大拙館、西田幾多郎記念哲学館などを見ようと思います」
健二は答えた。
「じゃあ私は健二くんが帰ってくるのを待っているわ。今日の夕食は何がいい?」
「智子さんの作って下さる物なら何でもいいです」
「わかったわ。じゃあ、今日も美味しい夕食を作るわ」
「有難うございます」
朝食が済んだ。
「じゃあ智子さん。僕は観光バスで金沢の色々な所に行ってきます」
そう言って健二は玄関に向かった。
智子も玄関までついてきた。そして、
「行ってらっしゃい」
と手を振って嬉しそうに健二を見送った。
智子さんはまるで健二の恋人であるかのようだった。
・・・・・・・・・・・・・・
その日、健二は観光バスで、金沢駅→尾山神社→長町友禅館→武家屋敷跡・野村家→金沢市老舗記念館→金沢能楽美術館→鈴木大拙館→西田幾多郎記念哲学館、と見て回った。
健二が智子さんの待つ伯父さんの家に帰ってきたのは夜の7:00時頃だった。
ピンポーン。
チャイムを押すと家の中からパタパタと足音が聞こえ玄関の戸が開いた。
「お帰りなさい」
智子さんが嬉しそうに出てきた。
健二は吃驚した。なぜなら智子さんは布面積が極めて小さな黒いビキニ姿だったからだ。
ビキニのトップは三角の紐ビキニで智子さんの豊満な乳房を包んではいたが、まるで智子さんの乳房に貼りついているだけのようで、ビキニの下は女の性器を隠しているだけの小ささで、それは、まるで智子さんのアソコに貼りついているだけのようだった。後ろはTバックで、大きな尻が丸見えだった。健二は昨日、さんざんに智子さんの裸を見ていたので智子さんに対して遠慮がなくなっていた。
「ああっ。智子さん。好きです」
そう言って健二は智子に抱きつこうとした。
しかし智子さんは健二を制した。
「ああん。それは食事の後にして。食事が冷めちゃうわ」
智子さんに言われて健二は智子さんに抱きつくのをやめた。
二人は食卓に着いた。
頂きます、と言って二人は食べ始めた。
「今日は金沢の郷土料理の治部煮にしたの。よかったかしら?」
「ええ。とても美味しいです」
健二は智子さんの作った治部煮をハフハフ言いながら食べた。
伯父の一秀さんはいないので、まるで智子さんが恋人のような感じだった。
「健二君。今日の金沢観光はどうだった?」
智子さんが聞いた。
「はい。とてもよかったです」
そうは答えたが健二の関心は食後のことで頭がいっぱいだった。
食事が終わると智子さんは健二の手を引いて昨夜の寝室に入った。
「さあ。健二くん。何でも好きなことをしていいわよ」
智子さんが言った。
「ああっ。智子さん。好きです」
健二は叫ぶように言って、立っている黒いビキニの智子に抱きついた。
健二は飢えた狼のように智子の前に屈み込んで、智子の黒い薄いビキニで覆われたアソコを、チュッ、チュッとキスした。
ビキニの下は腰を一本の紐で巻いて薄い生地でVラインの内側がかなり見えている女のアソコを隠すだけの褌のような形だったので、ほとんどアソコにキスしているような感覚だった。
健二はアソコにキスした次は、智子の後ろに回った。
後ろはTバックでムッチリ閉じ合わさった尻が丸見えだった。
「ああっ。智子さん。好きです」
健二は叫ぶように言って、智子の豊臀に顔を押し当てたり、チュッ、チュッとキスしたりした。次に健二は立ち上がって背後から智子を抱きしめようとした。
その時。
「待って。健二くん」
と智子が健二を制した。
「やはり私、被虐の快感を味わいたいの。私を弄ぶのは、昨日のように私を吊るしてからにして」
智子はあられもないことを言った。
「はい」
と健二は嬉しそうに返事した。
健二は畳の上に置いてある縄を拾って智子の手首を前で縛った。
そして縄の余りを天井の梁に引っ掛けた。
そして縄の先をグイグイ引っ張って、それを智子の手首を縛っている縄に縛りつけた。
智子の手は頭の上に引っ張られ智子は昨日と同じように天井から吊るされる形になった。
「ああっ。好きです。智子さん」
健二は叫んで智子を背後から抱きしめた。
そして、ビキニの上から智子の乳房を揉んだり、アソコに手を当てたりして智子の体を触りまくった。
「ふふふ。私、押し入り強盗に捕まって犯されているみたいだわ」
智子は余裕の口調で言った。
「智子さん。ビキニの紐を解いてもいいでしょうか?」
健二が聞いた。
「ええ。いいわよ」
智子が答えた。
健二は三角ビキニを吊っている首紐の後ろの蝶結びを解いた。
そしてブラ下部のサイド紐の背中の蝶結びも解いた。
ブラを支えていた二つの紐が解かれたので、ブラはスルリと落ちて、智子の乳房が露わになった。
次いで健二は腰に留めておくための下のサイド紐の両方の蝶結びも解いた。
それによってビキニの下もスルリと落ちた。
これによって智子は昨日と同じように、一糸まとわぬ丸裸になった。
「ああっ。好きです。智子さん」
そう叫んで健二は、片手で胸を揉み、片手でアソコを触って揉んだ。
健二は、乳首の突起をコリコリさせたり、ガラ空きの脇の下をくすぐったり、ムッチリと閉じ合わさった豊臀を触ったりと智子の体を触りまくった。
健二の愛撫というか責めに智子は、ああん、と喘ぎ声を出した。
「ああん。私、押し入り強盗に捕まって犯されているみたいだわ」
智子も被虐の快感に陶酔し興奮していた。
智子の乳首の突起は激しく勃起し、アソコからは愛液が出ていた。
・・・・・・・・・・・・・
健二は智子の股間を責めようと智子の横に座り込んだ。
健二は閉じている智子の足をつかんで30cmほど開いた。
そして智子の股間を間近に観察しながら、左手で智子のアソコを触り、右手で智子の尻を撫でたり尻の割れ目に手を入れたりした。
健二にとって女の股間を間近で見て弄ぶのは初めてだった。
健二は智子の女の穴を探し当て中指を入れようとした。
智子のアソコは愛液で濡れていたので中指はスポッと容易に入った。
健二がGスポットを刺激すると智子は、ああん、と喘ぎ声を出した。
そして智子の膣がキューと収縮して健二の指を締めつけた。
健二は右手で尻の割れ目をなぞった。
「け、健二くん」
「はい」
「私、健二くんにもっと恥ずかしい格好で責められたくなっちゃったわ」
智子はハアハアと息を荒くしながら言った。
「健二くん。そのために一度、縄を解いてくれない?」
「はい」
どんな格好なのだろうかと思いながら、健二は智子を吊っている縄を解いた。
智子を吊るしていた縄が解かれ智子は吊りから解放された。
両手首は縛られているが。
「健二くん。手首の縄も解いてくれない?」
「はい」
健二は智子の手首の縄も解いた。
これで智子は裸ではあるが手足が自由になった。
智子は畳の上に屈み、犬のように四つん這いになった。
そして智子は手を曲げて顔を床につけた。
そのため大きな尻がニュッと持ち上げられた。
智子は膝を大きく開いた。
そのため尻の割れ目がパックリと開き女の股間が丸見えになった。
ネットのエロサイトの画像でその格好は見たことがあったが、実物を目の前で見るのは、これが生まれて初めてだった。
窄まった尻の穴がもろに見え、その下には女のアソコの割れ目がもろに露出していた。
「さ、さあ。健二くん。私は動かないから、好きなように私を責めて」
智子が声を震わせながら言った。
健二は智子の尻の前に座り、智子のパックリと開いた股間をしげしげと眺めた。
健二はパックリと開いた智子の尻の割れ目を指でスーとなぞった。
「ああー。ひいー」
智子激しい叫び声を上げた。
よほど感じているのだろう。
健二はパックリと開いている智子の尻の割れ目を指で何度もスーとなぞった。
窄まった尻の穴に指が触れた時、智子は、ひいー、と大きな悲鳴を上げた。
尻の穴に触れられることが一番、感じるのだろう。
智子のアソコからは白濁した愛液が出続けている。
健二は尻の割れ目だけではなく、丸出しになっている智子の尻の肉や太腿やふくらはぎ、や、足の裏をも、指先でスーとなぞった。
智子は尻や太腿をプルプルと震わせながら、ひいー、ひいー、と叫び声を上げ続けた。
「い、いいわっ。感じちゃう」
智子は女の最も恥ずかしい所を見られ弄ばれていることに最高の被虐の快感を感じていた。
「け、健二くん」
「はい。何でしょうか?」
「お願いがあるの」
「はい。どんなことでしょうか?」
「お尻の穴に触れるだけではなく、お尻の穴に指を入れてくれない?」
健二はとまどった。そんな事したことがないからだ。女のアソコの穴は男のおちんちんを入れられるほどだから容易だが、お尻の穴はいつもきつく窄まっているので入れられないだろうと思っていたからだ。そもそも男女のセックスでもお尻の穴に指を入れるということはしない。そんな健二の思いを察してか智子が言った。
「箱の中にローションがあるでしょ。それをお尻の穴に塗ってくれれば入れられるわ」
健二は智子に言われてローションを取り出し、蓋を開け智子の尻の穴に塗った。
「さあ。入れて」
智子に言われて健二は智子の尻の穴に中指を当てて押し込んでみようとした。
予想と違ってローションが潤滑油の作用をはたして指はヌルッと容易に入った。
健二は指をどんどん入れた。指の付け根まで入った。
しかしいったん尻の穴に入ってしまった指を智子の肛門括約筋はキュッと力強く締めつけた。
「ああー。ひいー」
智子は悲鳴を上げた。
「ああっ。みじめの極致だわ。健二くんにお尻の穴にまで指を入れられてしまうなんて」
そう言いながらも智子は被虐の快感に興奮しているようだった。
智子の肛門括約筋はギュッと力強く締まって健二の指を離さない。
健二もそれを面白いと思った。
何もしなくても智子の尻の穴は健二の左手の中指を締めつけて離さないので、健二は右手で智子の乳房を触った。
智子は腕を伸ばして犬のように四つん這いになった。
重力で下垂している智子の乳房を健二は揉んだ。
まるで牛の搾乳をしているような感じだった。
健二は右手で智子の首筋や脇の下や脇腹や太腿など智子の体のあらゆる所を触りまくった。
「ああっ。みじめの極致だわ。私、人間じゃなく犬になったみたい。健二くんのペットの犬になったみたいだわ」
智子は自分の心境を告白した。
それには健二の加虐心を煽ろうとする意図もあっただろう。
「僕も何だか人間ではなく犬を愛撫しているような感じがします」
健二にも智子を虐めてやろうという加虐心が起こっていたので、そんな揶揄をした。
智子が被虐の快感に酔っているのは、アソコから白濁した愛液がドロドロと出ているのでわかった。
健二は左手の中指を智子の肛門括約筋に締めつけられたまま、右手で智子のアソコに指を入れた。
愛液で濡れているので指は容易に入った。
そして膣の中でGスポットを刺激した。
智子の膣がキュッと閉まって健二の指を締めつけた。
健二はゆっくり指を前後に動かした。
「ああー。ひいー」
尻の穴とアソコの穴の二点を指で刺激されて智子は激しく興奮していた。
健二は女の二つの穴に入れた指を前後に動かしていき、その速さを速めていった。
「ああー。イクー」
そう叫んで智子は全身をブルブル震わせてイッた。
健二はそっと智子の二つの穴から指を抜いた。
そして濡れている智子の愛液をティッシュペーパーでふきとった。
そして押し入れから布団を出して敷いて智子を布団の上に乗せた。
「有難う。健二くん。気持ちよかったわ」
智子は微笑して言った。
「僕も楽しかったです」
健二も嬉しそうに言った。
「ふふふ。私、健二くんに体の隅々まで見られて弄ばれてしまったわ」
智子はニコッと笑って言った。
智子はまだまだ元気だった。
「ねえ。健二くん。明日、帰るんでしょ?」
「ええ」
「じゃあ、もう一つ健二くんにやって欲しいことがあるわ」
そう言って智子はムクッと体を起こした。
「はい。何でしょうか?」
「私、裸で恥ずかしいわ。だからビキニを着せてくれない?」
「はい。わかりました」
そう言って健二は畳の上に落ちている智子の黒の三角ビキニを拾った。
そしてそれを智子の方へ持って行こうとした。
すると智子は首を振った。
「ふふふ。健二くん。そのビキニじゃないわ」
智子は思わせ振りに言った。
健二は訳が分からずとまどった。
「健二くん。箱の中に絵の具と筆とパレットがあるわ。それを持ってきて」
言われて健二は箱の中を見た。
箱の中には絵の具と筆とパレットがあったので健二はそれを持って智子の所に行った。
「健二くん。ボディーペインティングって知ってる?」
「ええ。ハロウィンとかで女の子たちがやっていますよね」
「その絵の具で私の体にビキニのボディーペインティングをして欲しいの」
健二はビキニのボディーペインティングも知っていた。
日本ではあまりされていないが欧米の女はかなり大胆なことをやる。
欧米の女は裸の体にビキニのようなペインティングをしてビーチを歩くこともしている。
遠くから見るとちゃんとビキニを着ているようにも見える。
近くで見ればビキニを着ているのではなくてボディーペインティングとわかるが。
智子はそれをして欲しいと言っているのだ。
「わかりました。では智子さんの体にペインティングさせて頂きます」
絵の具は青色しかなかった。
健二はパレットに青い絵の具を垂らし水と混ぜた。
そして筆に青色の絵の具をつけた。
「さあ。やって」
智子は豊満な乳房を健二に向かって突き出した。
「はい」
健二は絵の具のついた筆で智子の乳房に塗り始めた。
右の乳房に三角ブラに見えるように絵の具を塗っていった。
手で触るより筆で乳房に絵の具を塗りつける方が女の体にイタズラしているようで健二は興奮した。
これは手で触るよりエッチだなと健二は思った。
三角ブラに見えるように乳房全体を隈なく丁寧に塗っていった。
筆で智子さんの乳房を塗る度に智子さんの柔らかい乳房が揺れて健二は激しく興奮した。
乳首を塗った時には、智子さんは、ああん、と喘ぎ声を出し、智子さんの乳首は勃起した。
右の乳房をペインティングすると次は左の乳房をペインティングした。
健二は首紐とサイド紐もペインティングした。
これでビキニのトップのペインティングが完成した。
一見すると智子は青い三角ビキニを着けているように見える。
「上手いわ。健二くん。じゃあ今度はビキニの下もやって」
そう言って智子は立ち上がった。
智子はちゃんとペインティングしてもらえるようにアソコを隠さなかった。
両足を少し開いて健二がペインティングしやすいようにした。
健二はハアハアと興奮しながら、智子の恥部に絵の具を塗っていった。
恥丘をしっかりと塗り、女の太腿の付け根のVラインに沿ってビキニに見えるように塗った。
そして後ろに回り尻は臀溝はもちろんのこと智子の豊臀が半分くらい見えるように塗った。蝶結びのサイド紐も描いた。
これでビキニの上下のペインティングが完成した。
体に絵の具を塗っただけなのに、遠くから見ると本当にビキニの下を履いているように見える。
しかし近くで見ると、勃起した乳首が露出しているので、そして尻の割れ目が見えてしまうことでビキニを着ているのではなく、ペインティングであることがわかってしまう。
「有難う。健二くん」
智子は等身大のカガミでビキニを着けているようにペインティングされた自分の姿を見た。
結構、満足しているようだった。
「夏に夫がね。私にこういうペインティングをして、車で少し離れた海水浴場に私を連れて行き、私を波打ち際で歩かせたの。遠くの人は気づかなかった人もいるけれど、近くの男の人たちでペインティングだと気づいた人もいたわ。すごく恥ずかしかったわ。健二くんもそういう意地悪をする子なのかしら?それとも健二くんはそういう意地悪はしないでくれる子なのかしら?」
智子は健二を見て言った。
健二は智子さんが何を思っているのかわからなかった。
智子さんはマゾだから、健二にもそういう意地悪をして欲しいということなのか、それとも、それほどまでの意地悪はしないで欲しいということなのか、健二にはわからなかったのである。
智子は、ふふふ、と笑い、
「健二くんは優しいでしょ。だから私が、やってと言えばやってくれるだろうし、私がやめてーと言えばきっとやめてくれるだろうと思うの。健二くんになら安心して身をまかせられるわ」
智子が微笑して言った。
智子さんは健二にならそういう露出プレイをやってもいいわよ、と遠回りに言っているのだと思った。
健二はスマートフォンを取り出して、ビキニのペインティングをされた智子をパシャ、パシャと撮った。
「じゃあ私は風呂場でペインティングを洗い流して寝るわ。夜中に私をイタズラしたくなったらいつでも来ていいわよ」
そう言って智子は風呂場へ行った。
シャーとシャワーの音がした。
健二は客間に行って布団の中にもぐった。
智子さんは、浴衣で寝室で寝ているだろう。
智子さんはイタズラしたければ来ていいと言ったが、智子さんに色々な意地悪をしてしまったので健二はもう十分だった。
健二も疲れていたので、すぐに眠りに就いた。
・・・・・・・・・・・・・・・
翌日(4日目)。
昼頃、健二は目を覚ました。
三泊四日して今日は帰る日である。
健二が疲れていることを察して、智子さんは、健二がぐっすり眠っていると思って、健二の熟眠をさまたげないように気をつかってくれたのだろう。
昼頃。
智子さんがトントンと部屋の戸をたたいた。
「健二くん。起きている?」
智子さんが戸を少し開けて聞いた。
「は、はい」
健二はあわてて返事した。
「じゃあ、お食事にしない。もう11時よ」
智子さんが言った。
「はい」
健二は服を着て食卓に行った。
食卓には智子さんが作ってくれた、厚切りトーストとスクランブルエッグとサラダとコーンスープが乗っていた。
「頂きます」
健二は智子さんと遅い朝食を食べた。
「健二くん。昨日は有難う。すごく気持ちよかったわ」
智子さんは笑顔で言った。
「い、いえ。僕の方こそ、智子さんに、やりたい放題のことをしてしまって申し訳なく思っています」
「そんなことないわ。健二くんが、あんなに、女をじらせて虐めるのが上手いとは知らなかったわ」
智子さんは笑顔で言った。
智子さんの笑顔を見ていると、昨日のことがウソのように思えてきた。
あんな激しい性行為をしても、こうして服を着て、なごやかに話していると、SMプレイなんてスポーツのようなものに思えてきた。
スポーツをしている時は、絶対に負けないよう、絶対に勝つよう全力で戦う。
スポーツをしている時には、勝つか負けるかの真剣勝負の戦いである。しかし、試合が終わってしまえば、そんなことはケロリと忘れ、仲のいい友達にもどる。
SMもそれと同じだと思った。
こうして、日常的な会話をしている時が、つかれない、本来の人間の付き合いなのだ。
「智子さん。今日、僕は帰ります。今日も宝円寺と天徳院と見てから帰りますので食後、すぐにここを出ます」
健二が言った。
「そう。健二くん。楽しかったわ。ぜひ、また会いたいわ」
「僕もです」
食事が終わると健二は客間にもどってデイパックを持って出てきた。
智子さんは玄関までついてきた。
「健二くん。楽しかったわ。有難う」
智子が言った。
「僕もすごく楽しかったです」
健二が言った。
「智子さん。お願いがあるんです」
「なあに?」
「智子さんの履いているパンティーをくれないでしょうか」
「いいわよ。ちょっと恥ずかしいけれど」
そう言って智子さんは、スカートの中に手を入れて愛液の沁み込んだパンティーをくれた。
「健二くん。恥ずかしいけれど。これ、あげるわ」
そう言って智子さんは健二にUSBメモリーを渡してくれた。
「何ですか?何が入っているんですか?」
「あ、あの。夫が撮影した私の写真がたくさん入っているわ」
智子さんは恥ずかしそうに言った。
「有難うございます。では、さようなら」
「さようなら」
こうして健二は伯父の家を出た。
そして宝円寺と天徳院を見てから金沢駅に行った。
健二は金沢駅で15時24分発のJR新幹線はくたか569号に乗った。東京駅には18時20分に着いた。
・・・・・・・・・・・
健二はパソコンを持って行かなかったので帰りの電車の中では、智子さんが渡してくれたUSBメモリーの中を見ることが出来なかった。
見たくて見たくて仕方がなかったが。
なので家に着くと急いでパソコンを開きUSBメモリーをパソコンに差し込んだ。
何が出てくるかとハラハラドキドキしながら。
案の定。USBメモリーのフォルダーの中には、智子さんの緊縛写真や動画がたくさん入っていた。
蟹縛り、胡坐縛り、狸縛り、海老縛り、吊るし縛り、机上縛り、椅子縛り、大股開き。責めも、棒つつき、蝋燭、剃毛、擽り、顔踏み、虫責め、錘吊るし、梯子責め、など智子さんが丸裸にされて、あらん限りの恥ずかしい姿に縛られている写真が出てきた。
そして健二が智子さんを虐めた動画も出で来た。智子さんが隠しカメラを寝室に仕掛けて回していたのだろう。
健二はドキン、ドキンと高鳴る心臓の鼓動を感じながら、食い入るように智子さんの緊縛写真を時の経つのも忘れて眺めた。
伯父さんは健二がSMに興味を持っていることを知っていたのだろうか、という疑問が起こった。健二がSMに興味を持っていることなど誰も知らない。この性癖だけは態度や性格で見抜けるものではない。なので自分がSM趣味を持っていることは黙っていれば隠し通せるのである。
Mの女の人は別にサディストにだけ責められたいとは思っていない。むしろ、SMになんか関心のない人に、「変態」と軽蔑の目で見られることにもMの女の人は興奮するのである。むしろS男がM女を虐めるのは、完全な和解、理解の行為だから、SMプレイを長く続けているとマンネリ化して厭きてくる場合もあるのである。そういう意味で伯父さんは自分に智子さんを虐めさせたのかもしれない。そんな色々な思いが健二の頭の中をグルグルと駆け巡った。しかし智子さんという素敵なM女と出会えて健二は最高に幸せだった。またいつか智子さんと会いたいと健二は熱烈に思った。
そして智子さんがくれたパンティーのクロッチ部分を鼻に当ててオナニーした。
伯父さんの家に行って智子さんというマゾの女性と親しくなれたことは、健二にとって最高に嬉しかったことだった。
しかし健二は女に現を抜かして学業を怠るような性格ではない。
健二はすぐに気持ちを切り替えた。
智子さんとの出会いは、一夏の楽しい思いでとして、心の中の引き出しの中に仕舞い込み、第一志望の東大理三を目指して、1日12時間以上の、つまり朝起きてから夜寝るまで、一日中勉強に打ち込んだ。
・・・・・・・・・・・
年が明けて2024年になった。
元旦に能登半島でマグニチュード7.5の大地震が起こった。
伯父さんや智子さんは大丈夫かなと思ったが、もし何か甚大な被害を被っていたら、伯父さんや父が電話してくるだろうと思っていたので、何の連絡もないので、伯父さんや智子さんは無事なのだろうと思った。
健二は受験勉強のラストスパートをかけた。
そして健二は東大理三を受験した。
手ごたえは十分にあった。
結果。
健二は第一志望の東大理三に合格することが出来た。
駿台の模擬試験の結果から、まず合格は大丈夫だろうと確信していたが、そして、試験本番でも十分な手ごたえがあったが、合格発表の掲示板に自分の名前を見つけた時は、やはりほっとした。健二は大学に入学後も必死で勉強して主席で卒業するつもりだった。そして大学院に入って将来は研究者になるつもりだった。
すぐに大阪にいる父親から「健二。合格おめでとう」という電話が来た。
健二は正月の元旦に起こったマグニチュード7.5の能登半島地震が気になった。
伯父さんの家は大丈夫かなと心配だったが、伯父さんからは連絡はなく、連絡がないということは、大丈夫だと健二は思っていた。
しかし東大の合格発表があった翌日に智子さんから電話が来た。
「もしもし。健二くん」
「はい。そうです」
「私です。智子です。東大理三合格おめでとう」
東大の合格者は新聞にも載るからそれで知ったのだろう。
「有難うございます。ところで元旦に能登半島沖で地震が起きましたが、身の安全や家は大丈夫でしたか?」
健二は連絡がないので、大丈夫だろうと思い込んでいたので落ち着いた口調で聞いた。
「あ。健二くん。健二くんは受験のラストスパートだったでしょ。だから健二くんには余計な心配をさせないように何も連絡しなかったの。でも本当は、家は全壊してしまったの。今日、健二くんが合格したのを新聞で知って急いで連絡したの」
智子さんはそう言った。
「ああ。そうだったんですか。それは大変でしたね。それで今、智子さんはどうしているんですか?」
「東京に手ごろな一軒家の物件があったから、そこに住んでいるわ」
そう言って智子さんはその住所を教えてくれた。
「一秀さんは元気ですか?」
「夫は去年の12月に病気で死んでしまいました」
健二は吃驚した。
「ええっ。本当ですか。何の病気ですか?」
「ガンです」
「どこのガンですか?」
「大腸です」
「何か込み入った事情があるようですね。ところで智子さんは今、どこに住んでいるんですか?」
「東京の一軒家を買ってそこに住んでいます。夫の会社は東京に本社があるから、そして夫が死んでしまったから、私が社長になったわ」
「そうだったんですか。大変だったんですね」
「いえ。社長といっても、それは名ばかりで、優秀な取締役の人達が会社の経営をやってくれるから私は飾り物のようなものだわ」
「そうだったんですか。そんなことになっていたとは知りませんでした。でも僕の受験のことを心配してくれていたなんて、本当にどうも有難うございました」
「いえ。そんなことは気にしないで下さい。健二くん。合格おめでとう」
「有難うございます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
智子さんが近くに引っ越してきたのかと思うと健二はドキドキと心臓が高鳴った。
健二は智子さんに自分にSM趣味があることは言っていない。だから智子さんは健二にSM趣味があることは知らない。世間の人間にはSM趣味がある人と無い人がある。無い人の方が多いだろう。世間の男は女とセックスしたいと思っている人がほとんどだからである。
抱き合い、キスし、ペッティングし、そして挿入する。それが正常な男の性欲である。
これに対し女を縛る、特に股縄などと女の股間を縛ってしまっては、男がもっともしたいと思っている挿入が出来なくなる。後ろ手に縛ったり、色々な奇態な格好にしたりするのも同様である。そんなことをしたらセックスがしにくくなる。だから正常な男はSMなどはわからないのである。一方、先天的SM的性倒錯者はセックスをしたいとは思っていないのである。サディストの男にとっては女を辱しめることに興奮し、苦しんでいる女を見ることに興奮するのであって、それだけでいいのである。一方マゾヒストの女は辱しめられ、死の恐怖におののくことに最高の性的快感を感じるのである。
受験というストレスから解放されて健二はやっと肩の荷がおりて気持ちがリラックスしてきた。
受験前は性欲など起こらなかったが、受験が終わってリラックスしているうちに、健二の心に潜む性欲が起こり出した。健二はパソコンを開いて智子さんの緊縛写真を見ることにふけった。去年の夏休みに智子さんにしたエッチな行為が思い出されて健二は興奮しながら、おちんちんをしごいた。
「智子さんは今どうしているだろうか」
「智子さんは僕のことをどう思っているだろうか」
という気持ちは「智子さんに会いたい」という激しい想いに変わっていった。
そんなある日のことである。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「はーい」
健二は玄関に行って戸を開けた。
すると何と智子さんが玄関の前に立っていた。
「あっ。智子さん。お久しぶり」
「あ、あの。健二さん。連絡もせず、いきなり来てしまってごめんなさい」
「いえ。僕、あなたにぜひとも会いたいと思っていた所だったんです。どうぞお入り下さい」
お邪魔します、と言って智子さんは入ってきた。
健二は智子さんを6畳の部屋に案内した。
「健二さん。第一志望の東大理三に合格できておめでとう」
「あ。どうも有難うございます」
「ところで去年の夏、健二さんに変なことをさせちゃってごめんなさい。気持ち悪かったでしょう?」
「いえ。そんなことはありません。あの時は最高に楽しかったです」
「本当ですか?」
「ええ。本当です」
「健二さんには、ああいうSM趣味があるんですか?」
「ありますとも。あの時は恥ずかしくて言えませんでしたが。僕もあなたと同じように普通のセックスには興味がないんです」
「本当ですか?」
「ええ。本当ですとも」
そう言って健二は押し入れの戸を開けた。
押し入れの中にはSM写真集が200冊以上あった。
それは健二が神田の神保町で買い集めたものだった。
「僕は最近のSMには興味ありません。昔の1970年代から1990年代の頃の杉浦則夫の撮影による緊縛写真集にしか興味ありません。あの頃はSM出版社が7社もあってSMの全盛期でした。出版社のSMモデル募集に応募してくる女性は皆、お金目当てではなくMの願望がある女の人達です。人に言えない被虐心をどうしても抑えることが出来なくなって、出版社に救いを求めるように応募した人達です。僕はそういうM女性が好きです。2000年からパソコンやインターネットが急速に発達してからは、アダルト女優はMの気質がないのにSMビデオや写真は売れる、という理由でSMビデオが粗製乱造されるようになりました。しかしそれは残念です。なぜならSMとセックスがごっちゃになってしまいましたから。なので僕は最近のSMには全く興味がありません」
健二は自分のSM観を述べた。
「そうたったんですか。それを聞いて嬉しいです」
そう言って智子さんは話し始めた。
「ところで夫の一秀さんはどうしてガンで死んでしまったんですか?」
「実を言うと夫は大腸ガンのステージ4だったんです」
「ええっ。本当ですか?」
健二は吃驚した。
「ええ。本当です」
「それがわかったのはいつですか?」
「去年の4月です。血便が出るのに気づいて病院で検査してもらったら大腸ガンのステージ4だとわかりました。全身に転移していて長くもって1年の命だろうと医師に言われました。もちろん私は夫には生きて欲しいので、すぐに夫に病院に入院して治療するように勧めました。夫もそれを了解してくれて病院に入院して原病巣である直腸を切除して放射線治療や抗ガン薬の治療を受けました。しかしガンは全身に転移しているので抗ガン薬や放射線治療をしてもガンは再発して完治させることは無理だろうと医師は言っていました」
「そうだったんですか」
「長くもって1年の命と言われて夫も覚悟を決めていたようです。夫はどうせ死ぬのなら、つらい治療を受けて少しばかり寿命を延ばすよりも好きなことをやって生きることを夫は選択しました」
「そうだったんですか。そうとは知りませんでした」
「私、夫に死なれてからずっとさびしかったんです。夫とはSMパートナー募集のサイトで知り合った仲でした。SMの欲求は十分に満たされましたし、私は夫を愛していました。でも去年の夏、健二さんに恥ずかしいことをされて、もしかすると健二さんはSM趣味があるかもしれないとずっと思っていたんです。でも健二さんの受験に差し障りがあってはよくないと思って健二さんが大学に合格するまでは連絡をしなかったんです」
「そうだったんですか」
健二は疑問に思っていることを聞こうと思った。
「ところで去年の夏、父がさかんに伯父さんに会うように勧めましたが、それは伯父さんの病気と関係があるんでしょうか?」
「ええ。おおいにあります」
「どんなことでしょうか?」
「健二さんのお父さんは、健二さんがSMに興味を持っていることをうすうす知っていたようです。また私に好意を持ってくれていることも。それで夫が死んだあと、夫の一秀は私がさびしくならないよう健二さんに私のSMパートナーとなって欲しいと思っていたんです」
「そうだったんですか。僕は去年の夏、智子さんが虐められているのを見て心の中では物凄く興奮していました。うわべは平静を装っていましたが僕も智子さんを虐めたいと思っていました」
「それを聞いて安心しました。すごく嬉しいです」
「じゃあ伯父さんは死んだあと僕に智子さんのSMパートナーになって欲しいと思ってああいうことをしたんですね」
「ええ。そうです」
「そうですか。それを聞いて疑問が解けました」
・・・・・・・・・・・・・・





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伯父の妻と甥の恋(小説)(下)

2025-05-14 23:39:40 | 小説
「健二さん。お願いです。どうか私をうんと辱めて下さい。今日は健二さんに虐められたくて来たんです」
そう言って智子さんはどっと健二の前に身を投げ出した。
「ええ。わかりました。僕も智子さんを縛りたくて仕方がなかったんです」
こうしてサディストとマゾヒストの完全な欲求の一致が成立した。
「では智子さん。着ているブラウスとスカートを脱いでブラジャーとパンティーだけの下着姿になって下さい」
健二は言った。
「はい」
智子さんはブラウスを脱ぎスカートを降ろした。
豊満な二つの乳房を包んでいる白いブラジャーと腰にピッタリと貼りついて恥部を隠している白いパンティーだけの姿がまぶしいほどに露わになった。
健二は縄を持って智子さんの背後に回った。
「さあ。両手を背中に回して下さい」
健二は命令的な口調で智子さんの華奢な腕をつかみグイと背中に回し手首を重ね合わせた。
「ああっ」
智子さんが早くも被虐の喘ぎ声を上げた。
健二は智子さんの重ね合わさった手首を麻縄できつめに二巻き縛った。
そしてその縄尻を前に回して智子さんのブラジャーに覆われた豊満な乳房の上をカッチリと二巻き縛り、そしてその縄を智子さんの手首を縛った縄に固く結びつけた。そして今度は智子さんのアンダーバストを二巻き縛った。
豊満な乳房の下垂によって乳房の下の縄は一部、隠された。それがエロチックだった。
智子さんの乳房は上下の縄によって挟み込まれる、というか、縄の縛めから絞り出されるようになった。
健二は前に回って後ろ手に縛られて胸縄をされた智子さんをしげしげと眺めた。
智子さんは横座りしている。
「ああっ。健二くん。いいわっ。夫がいなくなって四ヶ月、ずっとごぶさただったの。久しぶりに縛られて最高の快感だわ」
智子さんはあられもない告白をした。
華奢な腕の肉にきつく縛った縄が食い込んで縄が彼女を虐めているかのようである。
ブラジャーとパンティーの女の恥部を覆う二切れの布を身につけているとはいえ、もう手は自由に使えない。これから何をされるんだろうかという想像力が彼女の恐怖感を高めていた。
叔父さんの家に行った時には、あくまで、伯父さんの許可のもとで智子さんを虐めはしたものの、そこには伯父さんに対する遠慮があった。しかし今は智子さんは完全に健二の支配下にある。
健二がどんな趣向で智子さんをどのようにするかは智子さんには分からない。その恐怖が智子さんの被虐心を激しく興奮させていた。
「ふふふ。智子さん。このままブラジャーとパンティーを抜きとってしまえばもっと恥ずかしい格好になりますね」
健二は智子さんの被虐心を刺激するためにそんなことを言った。
「あっ。ああっ。こわいわ」
智子さんは恐怖におびえて言った。
「ふふ。大きなおっぱいですね。もう乳首が勃起しているんじゃないですか?」
と言うと智子さんの意識が胸に行き、胸がブルッと揺れた。しかし、後ろ手に縛られている以上、ブラジャーに覆われている胸のふくらみを隠すことは出来ない。彼女はしげしげと見られることに耐えるしかないのである。
「あっ。嫌っ。虐めないで」
そうは言ったものの、そう言われることでM女は興奮するのである。
正常な男だったら、こういう状況ではすぐに女に抱きついて胸を揉み、ブラジャーとパンティーを脱がせてセックスする。しかし真のSM的人間は違うのである。真のSM的人間は相手には決して手を触れない。なぜならサディストの男にとっては女を辱しめることが、そしてマゾヒストの女にとっては辱められることにのみ最高の快感を感じるからである。
なので健二はこれ以上、彼女に何かをしたいわけではない。このまま、じっと彼女を見ているだけで十分なのだ。自由を奪われて、これから何をされるかわからないという恐怖感が高まっていくことに彼女の興奮の度合いも高まっていくのである。
健二は押し入れを開けてSM写真集を何冊も持って来て智子さんの前で開いた。
そこには、蟹縛り、胡坐縛り、狸縛り、海老縛り、吊るし縛り、机上縛り、椅子縛り、大股開き、棒つつき、蝋燭、剃毛、擽り、顔踏み、虫責め、錘吊るし、梯子責め、逆さ吊り、とM女が丸裸にされて、あられもない惨めの極致の格好にさせられている姿がページをめくる度にあらわれた。
「ふふふ。智子さんはどんな格好にされたいですか?」
健二は意地悪く質問した。
「こ、こわいわ」
恥ずかしい格好にさせられている女の写真を見せつけられて、智子さんも自分もそうさせられるかもしれないという恐怖感が現実的になったのだろう。智子さんは本当におびえて震えていた。
「ふふふ。こんなのはどうですか?」
健二はあるページを開いた。
それは美しい女が全裸にされて、後ろ手に縛られて、両足首を縛られて逆さ吊りにされている写真だった。
美しい長い黒髪が逆さになって床に垂れ、女はやるせない表情で顔は歪み、逆さ吊りの苦しみと、許しを乞う哀切的な表情で切れ長の目をじっと閉じて、いつ終わるかわからない、つらい責めに耐えていた。
「こ、こわいわ」
もろに、逆さ吊りにされている女の写真を見せつけられて、自分もそうさせられるかもしれないという恐怖感が起こったのだろう。智子さんは本当にこわがって震えていた。
しかし健二の目的は智子さんをこわがらせることで、いきなりそんな激しい責めをするつもりはなかった。
健二は智子さんの背後に回った。
「じゃあ、智子さん。後ろ手の縄を解きますから自分でブラジャーとパンティーを脱いで全裸になって下さい」
「はい」
健二は智子さんの後ろ手に縛った縄を解いた。
そしてすぐに智子さんの前に回った。
智子さんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら座っていた。
「さあ。智子さん。ブラジャーとパンティーを脱いで全裸になって下さい」
健二は命令的な口調で智子さんをせかした。
「はい」
智子さんはブラジャーの背中のホックを外し肩紐を外してブラジャーを抜きとった。
智子さんの豊満な二つ仲良く並んでいる乳房が丸見えになった。
智子さんは片手で二つの乳房を隠しながら中腰になり、急いでパンティーを降ろして足から抜きとった。そしてペタンと座ってしまった。もとのままの横座りである。
彼女は顔を火照らせて片手で胸を、片手でアソコを隠していた。
裸を見られることの恥ずかしさからではなく、裸を何とか隠そうとする行為をすることによって女のいじらしさ、羞恥心を自分に自覚させ、そして健二に加虐心を起こさせるためである。
「ああっ。いいわっ。感じちゃう」
彼女は被虐の快感を叫んだ。
健二は黙っていた。彼女は被虐心に久々に酔っているのだし。それに下手に言葉をかけたり下手な言葉責めはしない方がいいのだ。男が何を考えているのか分からないことが、M女の想像力を掻き立てるからだ。
智子さんは片手で胸を、片手でアソコを隠していた。だが手が自分の豊満な乳房に触れることによって、だんだん胸を隠すというより、手を乳房に触れさせることによって、健二に分らないようにそっと自慰したいと思っているのを、健二は乳房に触れている指が少し動く仕草で感じとった。
「ふふふ。智子さん。乳首が勃起し始めているんじゃないんですか?」
健二はさりげなく聞いた。
「ああっ。もうダメ」
智子さんはハアハアと息を荒くしながら胸を覆っていた指で乳首をつまんでコリコリさせた。
どんどん智子さんの乳首が勃起していった。
アソコを覆う手もアソコを隠すというより、アソコの肉を揉む動きに変わっていった。
ああっ、ああっ、と喘ぎ声を上げながら。
もう智子さんはオナニーを見抜かれても、オナニーを隠そうとはしなくなっていた。
「ふふふ。智子さん。ご主人に死なれてからエッチなことはしていたんですか?」
「し、していません」
「じゃあ、さびしくなったらどうしていたんですか?」
「オナニーしていました。受験が終わって健二くんの家に行って健二くんに虐められることを想像して」
「じゃあ智子さんはこの部屋でオナニーして下さい。僕は出て行きます」
そう言って健二は智子さんの居る部屋を出た。
健二は別の部屋から、一人になった智子さんの様子を見た。
智子さんは初めデジカメが何処にあるのだろうかと部屋の四隅を見ていたが見つけられなかった。もしかするとデジカメは設置されていないと思ったのかもしれない。かえって見られていない状態に一人にして思う存分、長い間、一人でさびしくしていたオナニーを、今度はいつでも虐めてもらえる保障がある立場で思う存分オナニーさせてやろうという健二の考えなのかもしれないと考えたのかもしれない。そんなふうに考えが変わったのだろう。
また見られているか見られていないか、わからない事にも興奮したのだろう。
智子さんはだんだんハアハアと息を荒くしながらオナニーを始めた。
智子さんは乳房を隠すのをやめて、荒々しく乳房を揉み、乳首をつまんでコリコリさせた。
乳首は激しく勃起した。
「ああっ。いいっ」
智子さんにもう恥じらいはなかった。
智子さんは畳の上に犬のように四つん這いになると膝を開いて、片手を伸ばして床を押さえ、片手でアソコを揉み出した。
豊満な二つ仲良く並んだ乳房がその重さによって床に向かって下垂していた。
クチャクチャとだんだんバルトリン腺液の鳴る音が聞こえ出した。
「ああっ。いいっ」
智子さんは全身をプルプル震わせながら喜悦の叫びを上げた。
彼女は片手で床を支えるのをやめた。顔と肩が床にくっつき、顔と乳房がへしゃげた。
床に押しつぶされた乳房も色っぽかった。
彼女は両手を背中に回し、背中で手首を重ね合わせた。
尻を突き出した屈辱的なポーズをとるため。
実際、彼女は膝を開いて手首を背中で重ね合わせているので、大きな尻が高々と天井に向けられ、それを支えているムッチリした太腿はプルプルと小刻みに震えていた。
膝を大きく開いているので尻の割れ目が開いて窄まった尻の穴は丸見えで、激しい被虐の興奮のため、恥丘の肉がふくらんで、そのため女の割れ目は閉じていた。
「ああっ。いいっ」
尻の穴はヒクヒクと窄まったり開いたりした。
それはこれから健二に尻の穴まで晒して虐めて欲しいという智子の意思表示なのだろう。
かなりの時間、智子は尻を上げるポーズをとっていたが、足も疲れてきたのか、太腿の力を抜いた。そのため智子は床にペシャンとうつ伏せになった。
智子はすぐに起き上がった。そして持ってきたカバンから縄を取り出した。
智子は一本の縄を二つに折った。そして折った所を首の後ろにかけた。そして体の前面に垂れている二本の縄を胸の所で固結びにし、さらに臍のすぐ下でまた固結びにした。智子はハアハアと喘ぎながら、縄尻を股間に持って行った。智子は股間を開き、二本の縄をその中にグイと食い込ませた。ああっ、と智子は喘ぎ声を上げた。智子はさらに、アソコの割れ目に食い込ませた縄を後ろに持って行き、尻の割れ目に厳しく食い込ませた。そして股間に食い込ませた縄を背中の上に持って行き、首の後ろの縄に通した。そして、今度は、その縄を胸と臍の下を結んでいる体の全面の二本の縄に両側から通して、背中に引っ張った。これによって智子の胸と臍の所に◇が出来た。智子はさらに胸の下と臍の下の固結びの所に、同様に、縄尻を背後から前に出して、引っ掛け、背中の方にグイと引っ張って固結びにした。これで胸と臍の下にも◇が出来た。菱形縛りが完成した。縦縄がただでさえ股間に厳しく食い込んでいるのに、それを横縄で引っ張ることで縄がさらに引っ張られて智子の柔らかい体に厳しく食い込んだ。ああっ、と智子は喘ぎ声を上げた。
菱形縛りは自分でも出来るので智子は時々、していたのであろう。
菱形縛りは柔らかい女の体に意地悪く食い込んでくる縄ではあるが、二本の股間縄が女の性器を隠す役割りも果たしていた。女の股間に深く食い込んだ縦縄は、女がどんな格好をしても女の恥ずかしい所を隠している。智子はそれを確かめるように、カガミに向かって、立ったり、大きく足を開いたりして、それを確かめた。また智子には、菱形縛りを健二にして欲しいという思いもあるのだろう。
智子が体を動かす度に意地悪な股間の縄が智子の敏感な所を擦り、智子は、ハアハアと喘ぎ声を上げた。
智子さんの興奮が高まったのだろう。
彼女は股間に食い込んでいる縦縄の前を右手でつかみ後ろを左手でつかんだ。
そして縄を前後に動かし出した。ただでさえ縦縄は彼女の股間に厳しく食い込んでいるのに、縄を前後に動かすことによって、縄は陰核から肛門までの女の感じやすい所を刺激した。
「ああっ。ああっ」
と智子さんは蛭のような唇を半開きに開け、苦し気に眉を寄せ、その行為を続けた。
智子さんは時々、左手を離してその手で乳房を揉んだり乳首をつまんでコリコリさせたりした。やがて智子さんにオルガズムが起こったのだろう。
彼女は髪を振り乱し、全身を激しくブルブル揺すり出した。
そして。
「ああーイクー」
と叫んで全身を震わせた。
オルガズムに達した後は、智子さんはガックリと死人のように床に倒れ伏してしまった。
彼女はしばらくの間、ピクリとも微動だにしなかったが、やがてムクッとゆっくりと起き上がった。そして背中に手を回して菱形縛りを解いていった。
縦縄を弓のように引っ張って体に◇を作っていた横縄が解けた。
次いで智子さんは首の後ろにかかっていた横縄の縄尻を首から抜き、股間に食い込んでいた縦縄を解いた。三つの固結びのある菱形縛りの縄を智子さんはカバンにしまった。
智子さんは少し、ソワソワした様子だったが、やがてパンティーを履き、ブラジャーをつけた。そしてスカートを履き、ワイシャツを着た。
そして彼女はつつましく正座した。
・・・・・・・・・・・・・
健二は戸を開けて智子さんの居る部屋に入った。
そして彼女の前に座った。
彼女は健二が部屋を出たあとに、四つん這いになって尻を突き上げたり、自分で亀甲縛りをしたりしてオナニーしていた姿を健二が見ていたか、見ていなかったかどうかはわからない。
彼女が服を着てつつましく座っているのは、健二が部屋を出た後に彼女はすぐに服を着て、おとなしく、じっとしていたということを装うためだろう。しかしそれはこの部屋に隠しカメラが仕掛けてなくて健二が彼女のあられもないオナニーを見ていない場合である。しかし見られていたとしても健二が部屋にもどってきた時に、亀甲縛りの姿のままでいるのを見られるのも彼女としては恥ずかしいだろう。ともかく女は服を着ていれば美しいのである。
しかし彼女は、あられもない淫らな姿や行為を見られたのか見られていないのか、わからないので緊張して顔を火照らせていた。
健二はその膠着状態を穏やかな口調で破った。
「ふふふ。智子さん。この部屋には隠しカメラが仕掛けてあります。僕は別の部屋で智子さんが、四つん這いになってお尻を突き上げたり、自分で亀甲縛りしたオナニー姿を全部見させてもらいました」
健二はニヤリと笑って言った。
「健二くん。見ていたのね。恥ずかしいわ」
智子さんは顔を赤くした。
「智子さん。今日はこれからどうしますか。まだ何かやりますか。それとも今日は帰りますか。それは智子さんにまかせます」
健二は判断を彼女にゆだねた。
「健二さん。私、夫に死なれて四ヵ月、ずっとモヤモヤした気持ちでいたんです。今日、やっと決断して、健二さんに徹底的に虐めてもらいたいと思って来たんです。健二さん。お願いです。どうか私を徹底的に私を虐めて下さい」
彼女はあられもない懇願をした。
「わかりました。じゃあ、また続きをしましょう」
「有難う。嬉しいわ」
「智子さんは何をされたいですか?」
「健二くんにまかせます。健二さんはどんなことをして虐めてくれるのか、ワクワクします」
健二はニヤリと笑った。
「じゃあ、智子さん。またワイシャツとスカートを脱いで下さい」
「はい」
彼女はワイシャツのボタンを外した。そして中腰になってスカートを降ろした。
豊満な二つの乳房を包んでいる白いブラジャーと腰にピッタリと貼りついて恥部を隠している白いパンティーだけの姿がまぶしいほどに露わになった。
健二はどんな方法で智子さんを虐めようかと迷った。
責め方は無数といえるほどある。
彼女を後ろ手に縛ってパンティーを膝の所まで降ろしてしまえば彼女は手を使えないのでパンティーを引き上げることは出来ない。そういうふうな、もどかしい羞恥責めをしようかとも思った。あるいは彼女がさっきやったように、後ろ手に縛って四つん這いにさせ尻を上げるポーズをとらせようかとも思った。
あるいは彼女のブラジャーを外し、両方の乳首を割り箸とゴムで挟もうかとも思った。
しかし彼女は四ヵ月もSMプレイをしておらず、やむにやまれぬ思いで健二の家にやって来たのだから、そしてさっきの彼女のオナニーからも、彼女の被虐心は炎のように彼女の心の中でメラメラと燃え盛っているだろうし、健二も羞恥責めではなく、もっと激しく彼女を虐めたいというサディズムが募っていた。
それで健二はある意地悪な責めをしようと決めた。
「さあ。智子さん。ブラジャーとパンティーも脱いで全裸になって下さい」
健二は命令的な口調で智子さんに言った。
「はい」
智子さんはブラジャーの背中のホックを外し肩紐を外してブラジャーを抜きとった。
智子さんの豊満な二つ仲良く並んでいる乳房が丸見えになった。
智子さんは片手で二つの乳房を隠しながら中腰になり、急いでパンティーを降ろして足から抜きとった。そしてペタンと座ってしまった。もとのままの横座りである。
彼女は顔を火照らせて片手で胸を、片手でアソコを隠していた。
さっきの亀甲縛りの縄の跡が体に印されていた。
健二は縄を持って彼女の背後に座った。
そして彼女の両手をつかんで背中に回し、手首を重ね合わせて縄でカッチリと縛った。
そして健二は丈夫な太い縄を二本もって、一本の縄を彼女の右の足首に結びつけ、もう一本を彼女の左の足首に結びつけた。
「な、何をするの?」
彼女はいきなり全裸にされ、後ろ手に縛られて、両方の足首をそれぞれ縄で縛られて何をされるのだろうかと分らない様子だった。
健二は椅子を持って来た。
そして彼女の足首を縛った縄を持って椅子の上に乗った。
そして天井の梁にその縄を引っ掛けて、まずは右足の縄をグイグイと引っ張っていった。
「ああ。健二くん。逆さ吊りにしてくれるのね」
智子さんが気づいて言った。
健二は智子さんの右足が天井に引き上げられて、尻が浮き、背中も床を離れ、頭と肩だけが床に着いている状態で右足を縛った縄を天井の梁に結びつけた。
そして、左足の縄も右足と同じ高さまで引き上げて天井の梁に結びつけた。
両足首の間隔は1mくらいに開いた。
そして健二は椅子から降りて逆さ吊りにされている智子さんをしげしげと見た。
智子さんのムッチリ閉じ合わさった大きな尻が丸出しになり、アソコも丸見えになった。
といっても、アソコの割れ目は閉じている。
激しい興奮で恥肉がふくらんでいることもあるが、女の大陰唇は自分や他人が意識して手で開かない限り構造的に閉じているものなのである。
智子さんの豊満な二つの乳房も丸見えになっている。
「どうですか。智子さん。こういう格好で縛られる気持ちは?」
「い、いいわっ。惨めの極致だわ。だって健二さんが許してくれるまで私はずっと全裸で逆さ吊りの惨めな格好でいなくてはならないもの」
彼女は被虐の陶酔に酔っていた。
健二も少しの間、全裸の逆さ吊りの彼女の姿を眺めた。
健二の目の前には彼女の美しい顔があり、ばらけて床に散らかった彼女の美しい黒髪がある。
彼女は手と足を拘束されているので健二は彼女の体を自由に触ることが出来る。
普通(ノーマル)な性欲の男だったら、飢えた狼が獲物に襲いかかるように彼女の体を思うさま弄ぶだろう。しかし健二はそうしなかった。なぜならSMとは相手を惨めの極致にして、羞恥心を弄ぶものだからである。彼女は今、惨めの極致にされて、その姿を見られる被虐に陶酔している。なので健二は何もせず、彼女を見下すだけでいいのである。
しかし健二にはもっと意地悪な計画があった。
健二はニヤニヤ笑いながら太い蝋燭を取り出した。そして蝋燭の棒の真ん中をヒモで縛った。
「な、何をするの?」
智子さんが不安そうに健二の方を向いて聞いた。
しかし健二は黙っていた。
健二は蝋燭を持って椅子の上に登った。
そしてヒモを智子さんの両足首を縛りつけてある梁の真ん中に結びつけた。
蝋燭の棒は梁からダラリと垂れている。しかし蝋燭のすぐ下は智子さんのアソコである。
健二はライターを取り出して火を灯した。
そして蝋燭の芯に火をつけた。蝋燭は少し傾いていたが、おおむね水平だった。
すぐに蝋燭に灯った火によって熱せられて蝋燭が溶け出し、ポタリ、ポタリと蝋涙が垂れ始めた。それは否応なしに智子さんの股間に垂れていった。
蝋涙はポタリ、ポタリと智子さんの尻の肉から股間、アソコの肉に容赦なく垂れた。
蝋涙が智子さんの柔肌に垂れると同時に智子さんは、
「ああっ。熱い。熱い」
と叫んで蝋燭の攻撃を避けようと身を捩った。
しかし頭と肩がかろうじて床に着いているだけで、ほとんど逆さ吊りのような状態なので、いくら身をくねらせても、股間を蝋涙の攻撃からそらすことは出来なかった。
意地悪な蝋燭は情け容赦なくポタリ、ポタリと智子さんの尻の肉から股間、アソコの肉に向かって蝋涙を放ち続けた。
「ああっ。健二くん。お願い。許して」
智子さんは身をくねらせながら哀願した。
ここに至って、智子さんは、この意地悪な責めから逃れることは出来ないのだとさとった。
それと同時に健二のサディズムの激しさにも。
健二はもう完全なサディストになりきっていた。女が苦しみもがく姿は何て愉快なんだろう。
口にこそ出さね、健二は心の中で、「女を虐めるのは何て楽しいんだろう。智子。もっと苦しめ。もっと苦しめ」と悪魔の喜びに歓喜していた。
蝋涙は智子さんの股間にポタポタと滴り落ち続け、その蝋涙がくっつき合って智子さんのアソコは蝋涙の面によって隠されて見えなくなるまでになった。「許して。許して」と言って体を苦し気にくねらせていた彼女だってが、彼女も太腿や体をくねらせ続けることに疲れはててしまったと見え、ぐったりと動かなくなってしまった。健二はふっと蝋燭の火に息を吹きかけて蝋燭の火を消した。
「ああ。健二さま。お許し下さり有難うございます」
智子さんが言った。
「智子さん。疲れたでしょう」
健二は椅子の上に乗った。そして智子さんを逆さ吊りにしている縄の固定を解き、ゆっくりと彼女の足首を降ろしていった。彼女の尻が床に着き、そしてさらに縄を緩めることによって、彼女の足も床に着き、彼女の逆さ吊りは完全に解かれた。
「ああ。健二くん。許して下さって有難う」
健二は彼女の両足首の縄を解いた。そして彼女の後ろ手の縄も解いた。
彼女の引き締まった足首には彼女の体重を支えていたために、クッキリと赤い縄の跡が印されていた。彼女は全裸ではあるが縄の縛めは全部なくなり彼女の手足は自由になった。
しかし彼女はよっぽどクタクタに疲れていると見え、何をする気力も起こらないのだろう。そして被虐の余韻に浸りたいのだろう。グッタリと床に伏したまま動かなかった。
健二は彼女の股間に貼りついた蝋涙をペリペリと剥がした。蝋涙はくっつき合って面になっていたので、ペリペリと簡単に剥がれた。彼女は久しぶりの被虐の余韻に浸っていたいのだろうが、いつまでも裸にさせてはおきたくなかった。なので健二は床に散らかっている彼女の服を集めて持ってきた。そして彼女の足首にパンティーをくぐらせて腰まで引き上げた。そして彼女の上半身を起こして、彼女の胸にブラジャーを着けた。そして彼女にスカートを履かせ、ワイシャツを着せた。疲れているとはいえ彼女も自分で服を着ることは出来るだろう。しかし彼女が健二に身をまかせていたのは、健二のお人形になるためであり、実際、健二は彼女を生きた着せ替え人形のように扱うことに楽しさを感じていた。
彼女はしばしぐったりとしていたが、やがてムクッと体を起こした。
「健二くん。有難う。久しぶりに被虐の快感を味わうことが出来て幸せだったわ」
「智子さん。僕も楽しかったです」
「でも健二くんが、あんなハードな責めが出来るなんて驚いたわ」
「僕は真面目な人間を装っていますが本当は凄くスケベなんです」
「健二くんはSMに興味があるの?」
去年の夏、伯父の家で彼女を弄んだことや彼女が渡してくれた彼女の緊縛写真から彼女は健二が無理して彼女の欲求を満たしてあげたのか、それとも本当に健二にSM趣味があるのか知りたくて聞いたのだろう。
「智子さん。正直に言います。僕は先天的にSMの性癖があります」
「それを聞いて安心したわ。ところで健二くんはサディストなんでしょう?」
「ええ。でもマゾヒズムもあります」
「そうかなあ。そうは見えないけど」
「智子さんは僕にとって女神さまです。だから僕は智子さんに虐められたいとも思っています」
「嬉しいわ。でも私そんな事できないわ」
「そうでしょうね。智子さんにサディズムは感じられません。僕のマゾヒズムは精神的な男から女への変身です。僕は裸にされて縛られている女の人の緊縛写真を見ると、その女の人に感情移入してしまうんです。虐められている女になりたいと思うんです。それが僕が最も興奮する性欲の形なんです」
「そうだったの。嬉しいわ。これからもまた私を虐めてくれる?」
「ええ。智子さんが虐められたくなったら、またいつでも来て下さい」
「有難う。健二くん」
そう言って智子さんは去って行った。
智子さんは伯父さんの会社の社長として働いている。
健二も医学部に入って高校とは違う大学の勉強が始まった。
しかし医学部の1年と2年は教養課程で本格的な医学の勉強は3年からである。
教養課程はかなり楽で、皆、車の免許を取りアルバイトに励んでいた。
健二も自動車教習所に通って運転免許を取った。
しかし土曜日には、智子さんから電話がかかってくることが多かった。
「健二くん。明日、うかがってもいいでしょうか?」
健二は智子さんから電話があると、「はい。構いません。楽しみに待っています」と言っている。虐められたいという被虐心が耐えられなくなると彼女は健二に電話してきた。
健二は毎回、趣向を変えた方法で、智子さんを虐めている。
こうして健二は智子さんとSMパートナーとして付き合っている。


2025年5月14日(水)擱筆





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高校野球小説「頭脳的勝利」(小説)

2025-04-30 11:03:00 | 小説
高校野球小説「頭脳的勝利」

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

高校野球小説「頭脳的勝利」

2025年の第107回全国高校野球大会である。
全国の球児たちが甲子園を目指しこの大会のために頑張ってきたのである。
当然、どの高校も甲子園出場を咽喉から手が出るほど望んでいる。
甲子園に出場するためにはまず地区予選に勝たねばならない。
地区予選で甲子園に出場するのも甲子園大会で優勝するのも一発勝負のトーナメント制である。
ここ。神奈川県でも地区予選の組み合わせが行われた。
その結果、何と神奈川で強豪校の横浜高校と湘南台高校が第一回戦で対戦することになった。
どちらも甲子園出場の経験があり、どちらの高校も甲子園で優勝する可能性が十分あった。
地区予選の第一試合が甲子園大会の決勝戦になってしまったようなものである。
当然、全国の注目の的となった。
横浜高校も湘南台高校も投打において強かった。
横浜高校のエース横田は160km/h以上のストレートとカーブが持ち味だった。
一方の湘南台高校のエース山野はサイドスローでストレートは140km/h台しか出せなかったが、チェンジアップ、カーブ、スライダーなどほとんどの変化球を自在に操ることが出来てコントロールも抜群で打たせてとる頭脳派のピッチャーだった。
この試合は投手戦になりそうだ、と野球解説者は予想した。
しかし超高校級の160km/hのストレートを投げられる横田がいる横浜高校が勝つだろうというのがほとんどの野球解説者の予想だった。
ウーウーウー。
試合開始のサイレンが鳴り試合が始まった。
先攻は横浜高校で後攻は湘南台高校となった。
予想通り試合は投手戦となった。
湘南台高校の打者たちは横田の超高校級の160km/hのストレートには手が出なかった。
当たってもファールになるか差し込まれて内野ゴロになるかだった。
湘南台高校の打者はセーフティーバントをしてかろうじてパーフェクトゲームは逃れることが出来た。しかし後続が続かないので得点することは出来なかった。
・・・・・・・・・・・・・・
湘南台高校の監督も選手たちに、
「お前たち。お前たちの実力では到底、横田の160km/hのストレートは打てない。カーブを狙っていけ」
と指示をした。
選手たちも監督の指示に従って横田のストレートは捨ててカーブに絞った。
解説者は、それを見て、
「どうやら湘南台高校の監督は横田のストレートはあきらめてカーブに絞るように指示したらしいですね」
と言った。
しかし湘南台高校のバッターたちは横田のカーブも打つことは出来なかった。
むなしく空を切り空振りするだけだった。
3番4番5番のクリーンアップトリオも横田のカーブを空振りした。
三振した湘南台高校のバッターたちは、チクショウと言ってバットを地面に叩きつけた。
横田も自分のカーブを空振りしている湘南台高校の打者を見て自信に満ちた顔でニヤリと笑った。それはオレのカーブを湘南台高校は打てないという自信の嬉しさだった。
解説者も、
「うーん。横田君のカーブはそれほど良く落ちているようには見えないんですがね。湘南台高校の打線の実力から考えると打てるように思えるんですが・・・・やはり打席に立ったバッターには落差が大きく見えるんでしょうね。あるいは湘南台高校では打撃練習ではあまり変化球を打つ練習をしてこなかったのかもしれませんね」
と言った。
一方の横浜高校の打者たちも湘南台高校の山野の打たせてとる技巧派ピッチングに苦しめられランナーを3塁まで出すことが出来てもホームベースを踏むことは出来なかった。
こうして試合は9回裏まで0対0で進んでいった。
これは延長戦になるな、1点を先にとった方が勝ちだな、と観客たちは思った。
9回裏の湘南台高校の攻撃になった。
3番の末吉がバッターボックスに立った。
横田は一球目は160km/hのストレートを投げた。
末吉はその球をセーフティーバントしようとした。
バットに当てることは出来たが残念ながらファールになってしまった。
湘南台高校は3回セーフティーバントに成功している。
得点にはつながらなかったが。
湘南台高校は対横浜高校対策としてセーフティーバントや短距離走の練習をしてきたのだろうと横田は思った。
うかつにストレートを投げてセーフティーバントが成功して、足も速いので盗塁されて得点されることを横田はおそれた。
しかし打線の実力から言えば横浜高校の方が湘南台高校よりも上である。
延長戦になるが、もう勝ったも同然だ、という喜びが横田の顔に浮かんでいた。
二球目に横田は得意のカーブを投げた。
すると、3番の末吉はニヤリと笑い、横田のカーブをフルスイングした。
それまで一度もかすらなかった末吉のバットは横田のカーブをバットの芯でとらえた。
ボールはきれいに宙を舞いライトスタンド上段に叩き込まれた。
観客たちは、おおー、と歓声を上げた。
末吉は余裕で一塁、二塁、三塁とベースを踏んでいきホームベースを踏んだ。
「ホームイン。1対0で湘南台高校の勝ち」
審判が言った。
横浜高校の選手たちはキツネにつつまれたような様子だった。
うわーと湘南台高校を応援していた観客たちは歓声を上げた。
「よくやったな」
と湘南台高校の監督は選手たちを讃えた。
一方、横浜高校のエース横田はマウンドにひれ伏し涙を流した。
解説者は、
「いやー。野球はまさに筋書きのないドラマですね。まさか甲子園出場は当然のこと、甲子園大会でも優勝候補の横浜高校がまさか地区予選の第一試合で敗退してしまうとは・・・・しかしこう言っては失礼ですが、これは湘南台高校の、まぐれ当たりのラッキー勝利ですね。ボクシングでも実力が明らかに上の世界チャンピオンがランキングにも入っていない格下の挑戦者に一発のラッキーパンチがきっかけで負けてしまうということはありますからね。湘南台高校には失礼ですが、これは湘南台高校のまぐれ勝ちとしか言いようがありませんね。横浜高校の横田君は160km/hのストレートはもちろんのことカーブも湘南台高校にかすらせもしませんでしたからね」
と言った。
神奈川県で最強の横浜高校に勝ったことで、湘南台高校はその後の試合で難なく勝ち進み、地区予選の決勝戦でも勝って甲子園出場を果たした。
当然、藤沢市では湘南台高校の勝利を町をあげて祝福した。
そして甲子園大会でも湘南台高校は優勝して真紅の優勝旗を手にした。
・・・・・・・・・・・・
試合後に監督のインタビューが行われた。
記者「優勝おめでとうございます」
監督「どうもありがとうございます」
記者「勝因は何だったんでしょうか?やはり地区予選の第一試合で優勝候補の横浜高校に勝ったことで選手たちに自信がついたからでしょうか?」
監督「いや。違いますね。我々は実力で勝ったんです。まあ頭脳作戦の勝利でしょうね」
日本人は謙虚なので普通、勝ったチームの監督は相手チームの善戦を褒めたたえるのだが、湘南台高校の監督は自信に満ちた態度だった。記者もそれを不思議に思った。
記者「頭脳作戦の勝利とはどういうことでしょうか?」
監督「優勝した今だから、その秘密を言ってもいいですよ。聞きたいですか?」
記者「ええ。ぜひうかがいたいです」
監督「では話しましょう。実力で勝ったのに、まぐれで勝ったなどと思われたままでは我が校の選手たちが可哀想ですからね」
監督のあまりにも自信のある態度に記者はキツネにつつまれたような顔をしていた。
監督は話し出した。
監督「実はですね。我が校の選手たちには、横田君のカーブをわざと9回裏まで空振りするように指示していたんです」
記者「ええー。野球の試合で、わざと空振りさせるなんてことがあるんでしょうか?一体、何のためにそんなことをしたんですか?」
記者は目を白黒させて驚いた。
監督「横田君の160km/hのストレートは我が校の打者の実力では打てません。地区予選の前に1度、交流試合をしたことがありますが、それを痛感しました。しかし横田君はカーブも投げられます。しかし解説者も言っていましたが、あのカーブは特別、落差の大きい打てないカーブではありません。そこそこのピッチャーなら誰でも投げられるカーブです」
記者「そうでしたね。解説者もそのようなことを言っていましたね」
監督「そこで我が校は横浜高校対策として徹底的にカーブ打ちの練習をしました。そしてセーフティーバントおよび短距離走の練習も徹底的にしました」
記者「どうしてそういう練習を重点的にしたのですか?」
監督「横田君にカーブを投げさせるためです。私は選手たちに、横田君がカーブを投げても、決して打つな、球筋を良く見るだけで振らないか、打てると思っても決して打つな、空振りしろと厳しく言いましたからね」
「・・・・」
記者は何と言っていいかわからず黙っていた。
なので監督が続けて話した。
監督「もし我が校の打者が横田君のカーブを最初から打っていたらどうなったでしょうか?ヒットが出たことでしょう。そうすると横田君はカーブを投げるのは危険だと感じて、カーブは投げなくなり、160km/hのストレートのみで勝負してくるでしょう。そうされたら負けたでしょう。あのストレートは打てませんからね。我が校のエースの山野君は横田君ほどの強肩ではありません。しかし山野は多彩な変化球を投げられ、打たせてとる技術を持っています。なので、横浜高校との試合は投手戦となり、1点をとった方が勝ちだ、と思ったのです。案の定、9回裏まで0対0の1点をとった方が勝つ投手戦となりましたよね。横田君は自分のカーブは打たれないという自信があります。と言うより我々が自信をつけさせてやったのです。そして我が校の打者たちにはセーフティーバントと短距離走を徹底的に練習させていましたから、試合でも3回、セーフティーバントが成功しましたよね。だから横田君はストレートだけでは危険だ、カーブもまじえて投球しなければいけない、と思ったはずです。案の定、横田君は9回裏にカーブを投げてきましたよね。私の予想通りです。そして予想通り3番の末吉は横田君のカーブを打ってホームランにしましたよね。まぐれ当たりでも何でもないです。3番の末吉君が打てなくても次の4番の高山君か5番の佐々木君がホームランを打ったでしょう。私の考えた作戦、および私の提案した作戦を信じて私についてきてくれた部員たちの頭脳的野球の勝利なのです」
監督は堂々と言った。
記者「なーるほど。打てる球をわざと空振りさせるなんてことは前代未聞の作戦ですが。打てる球をわざと空振りさせて相手の投手に自信をつけさせ、その球を最後に投げさせるなんていう戦法はまさしく頭脳的野球ですね」
湘南台高校の選手たちが藤沢市に帰ると藤沢市では湘南台高校の勝利を町をあげて祝福した。
山野はスマートフォンで落ち込んでいるであろう横浜高校の横田に電話した。
「横田君。僕たちが優勝したけれど君は負けていないよ。僕たちの野球部の監督のおかげで勝てたようなものだよ」
と山野が横田を慰めた。
「ああ。してやられたよ。でもいい勉強になったよ。油断は大敵だな」
横田が言った。
「君のチームは負けたけど君は負けていないよ。君は間違いなくセ・パ両リーグからドラフト1位で指名されるよ。羨ましいな。僕は今回の甲子園大会での勝利投手だけど、勝ったのは監督のおかげだよ。僕を指名してくれる球団があるか心配だな。ははは」
そんな会話がなされた。
夏が終わり秋になった。
ドラフト会議が行われ、当然のごとく横田は全球団からドラフト1位で指名された。
しかし山野もかろうじて横浜DeNAベイスターズに指名された。
横田は読売ジャイアンツがドラフトのくじ引きで引き当てたので横田は読売ジャイアンツに入団した。一方、山野は横浜DeNAベイスターズに入団した。
二人はプロ野球選手として活躍している。
めでたし。めでたし。


2025年4月29日(火)擱筆

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コンタクト眼科医の恋(小説)

2025-04-09 19:20:27 | 小説
コンタクト眼科医の恋

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

コンタクト眼科医の恋

山野哲也はコンタクト眼科医である。このコンタクト眼科医というのはコンタクトレンズの処方、コンタクトレンズを装用することによって起こるアレルギー性結膜炎、角膜の傷、その他、麦粒腫(ものもらい)、角膜異物の除去、などの簡単な治療をする医師である。
いわゆる眼科医とは日本眼科学会が認定する眼科専門医である。
眼科専門医は5年間の眼科医としての常勤の経験が必要で、その上日本眼科学会が行う眼科専門医の試験に通った医師のことである。眼科専門医ほどになれば白内障、緑内障の手術も出来、要するに普通の、というか本当の眼科医である。それにくらべ山野は眼科専門医の資格など持っていない。大学の眼科の医局にも所属したことがないので眼科の臨床経験は一日もない。しかしコンタクト眼科はコンタクトレンズの処方やアレルギー性結膜炎には抗アレルギー薬、角膜の傷にはヒアレインを処方すればいいくらいなので、一週間もやれば出来るようになるのである。山野は大学(奈良県立医科大学)を卒業した後、Uターンして千葉にある下総精神医療センターという所で精神科医として二年間研修した。別に精神科をやりたかったわけではない。山野は医学部に入ってしまった手前、医師になるしかなかったので楽だと言われている精神科を選んだのに過ぎない。実際、精神科は楽だった。2年間の研修が終わった後は地元の神奈川の精神病院に就職が決まった。
なので藤沢市に引っ越して賃貸アパートを借り週4日という条件で働いた。
しかし山野は医師という仕事に生きがいを感じられなかった。
山野は大学3年の時から小説を書きだして小説を書くことに自分の生きがいを感じるようになってしまって医師の仕事はつまらなくなってしまったのである。
それでも山野は医師いがいに出来る仕事もないので精神科を続けた。
出来ることなら精神保健指定医の資格は取っておきたかった。
しかし精神保健指定医の資格は大学の医局に所属していなければ取れないということがわかった。精神保健指定医の資格を持っていないと精神病院に就職も出来ないとわかった。
なので仕方なくコンタクト眼科医のアルバイトをして収入を得ていた。
中央コンタクトが中央コンタクトのコンタクトショップに隣接した所に眼科クリニックを出していて、山野は中央コンタクトの隣接眼科クリニックで仕事した。
精神病院に常勤で働いていた時より収入は、ずっと落ちたが、仕事は楽だし小説を書く時間も持てるので山野に不満はなかった。
眼科クリニックで働いていると時々、中央コンタクトの社員の人がやってきた。
要件は「今度、どこどこでコンタクト眼科クリニックを開きますので院長になってくれませんか」というものだった。しかし山野は断った。なぜかというと、中央コンタクトが求める条件として、週4日~5日は働いて欲しいと言ってくるので、金より小説創作に時間をかけたい山野にとっては、それが嫌だったのである。
そんなことで山野はコンタクト眼科のアルバイトをしながら小説を書いていた。
しかしある時。
「今度、岩手県の盛岡に新しくコンタクトショップと隣接眼科クリニックを開くので院長になってくれませんか」と中央コンタクトの人が言ってきたのである。
条件は土日の週二日で、交通費とホテル代は出すということだった。
山野は二つ返事でこれを引き受けた。
盛岡と場所は遠いが、週二日、という条件が山野の心を動かしたのである。
それで山野は土日に盛岡に行って働くようになった。
土曜日の朝5:00に起きて湘南台→戸塚→東京駅→東北新幹線で盛岡である。
土曜日も日曜日も10:00時~19:00時までである。
新しくオープンした所なのでなのか、あまり患者は来なかった。
クリニックは小さく、待合室に受け付けがあり、その奥が検査室で、その奥が院長室だった。
山野はここでの院長は長くやろうと思っていた。
というのは今までは、どこかのコンタクト眼科クリニックの院長の代診という形で働いていたので院長が休まなければ仕事の募集はなく不規則だったからだ。
しかし院長になれば盛岡と遠くはあるが、毎週二回、土日と仕事が決まっている。
なので中央コンタクトの方からクリニックを閉鎖するか別の院長に替えると言ってくるまで働こうと思っていた。別の院長に替えるというのは、中央コンタクトの方でも出来れば院長は眼科専門医であって欲しいと思っているからである。
盛岡駅と直結しているショッピングモールの中のフェザンの三階が眼科クリニックで二階に中央コンタクトのコンタクトショップがある。
コンタクトを欲しいと思う客はまず、三階の眼科クリニックで検査を受けて、処方箋を出して貰い、それを二階のコンタクトショップに持って行き処方されたコンタクトを買い、その他ケア用品を買う。
眼科クリニックには中央コンタクトのコンタクトショップの社員かアルバイトの人が一人来てくれて、事務と検査をやってくれる。山野はスリットランプで目とコンタクトのフィッティングを見てカルテに「近視性乱視」と書いて中央コンタクトの人に渡す。それだけである。
それで山野は4年間、院長を続けた。
クリニックの仕事を手伝ってくれるスタッフはほとんどが若い女の人でアルバイトが多く3~4ヵ月で変わることが多かった。
スタッフの人がきれいで優しそうな女の人になると山野はすぐに恋した。
しかし山野は彼女たちに親しげに声をかける勇気がなかった。
なので事務的な関係以上になることはなかった。
女が好きになる男のタイプはイケメンで格好いい男だが山野はイケメンではなかった。
なので山野はほとんどスタッフの女に好かれなかった。もつとも嫌われてもいなかったが。それはスタッフの山野に対する、素っ気ない態度でわかった。
しかし山野は可愛いスタッフが来るとすぐに好きになった。
「恋人」という関係でなくても「友達」という関係でも十分満足だったのだが、好かれていない女に親しげに話しかけても女に気がなければ、さびしいだけである。
なので山野は一人さびしく院長室に居るだけだった。
しかし。5年目に新しい女のスタッフが入って来た。
彼女を一目見た途端、山野は「うっ。きれいだ」と思った。
その子は鈴木さんという名前だった。アルバイトなのか正社員なのかはわからない。
鈴木さんも他のスタッフ同様、山野に対しては特別な感情は持っていなかった。
しかし彼女は他のスタッフとは性格がちょっと違っていた。
それは彼女が、あまり物事にこだわらない、おっとりした性格だったということである。
彼女になら「好きです」と告白して彼女が「ごめんなさい」と断っても、それほど気になることはないように思えた。し事実そうだろう。
なので山野は彼女に「好きです」と告白してみたいという気持ちが募っていった。
盛岡に行く週末が近づくと山野は鈴木さんと会えることにワクワクし出した。
「今度行ったら、好きですと告白しよう」と思っていたが、しかしやはり山野は臆病でシャイなので、なかなか声をかけることは出来なかった。
それでも鈴木さんの姿を見れるだけで山野は嬉しかった。
そんなことで鈴木さんが来てから二カ月ほど経った。
・・・・・・・・・・・・
ある時、午前中の診療が終わった時である。
鈴木さんは受け付けに座っていた。
山野は鈴木さんの所に行った。
「ちょっとスリットランプの事でわからないことがあるんですけれど教えてもらえないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
彼女は「はい」と言って席を立って山野と一緒に院長室に入った。
彼女が院長室に入ると山野はすぐに内カギをかけた。
そして彼女の背後に回って両手でそっと彼女の腰をつかんだ。
そして「あ、あの。鈴木さん。好きです」と告白した。
彼女は動くことなく黙っていた。
なにせそれまでずっと無表情、無感情だった山野に腰をつかまれ「愛」を告白されたのだから。彼女はどう対処していいかわからないといった様子だった。
山野は腰に触れていた片手を彼女の腹に回した。
それでも彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
「あ、あの。鈴木さん。ごめんなさい。いきなりこんな事をして。嫌だったら言って下さい」
山野が聞いた。
「い、いえ。別にかまいません」
彼女は答えた。
この答は山野を安心させた。
本当は彼女は嫌なのかもしれない。控えめな彼女の性格のため、そう言っているのかもしれない。しかし山野はもうあまり彼女の心を詮索するのをやめた。
山野は膝を曲げて腰を落とし膝立ちになった。
彼の目の前には鈴木さんのピンクの制服のヒップがある。
山野はそっとピンクのスカートの上から鈴木さんの尻に頬を当てた。
これはかなり勇気が要った。山野は鈴木さんのヒップにさかんに頬ずりした。
「あ、あの。鈴木さん。嫌ですか?」
山野が聞いた。
「い、いえ」
彼女は答えた。もしかすると彼女は嫌なのかもしれない。山野の方が院長という立ち場なので断れないでいるのかもしれない。しかし山野は我慢に我慢をし続けていたので自分の感情を抑えることが出来なかった。手でヒップを触るのはいやらしいが頬ずりをするのは女を愛している意思表示であるような気がした。実際の所は、山野は彼女に対し「性愛」と「恋愛」の両方を持っていた。十分にヒップに頬ずりをすると山野は立ち上がって彼女の正面に立った。
そして彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野はそっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からは性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。
ピンポーン。
クリニックのチャイムが鳴った。
まだ1時にはなっていなかったが午後の患者が来たのだろう。
山野は唇を彼女の唇から離した。
「ごめんなさい。鈴木さん。いきなりこんなことをして」
山野は謝った。
「い、いえ。いいんです。実を言うと私も先生、好きだったので・・・でも先生は私のことをどう思っているのかわからなかったので親し気に話しかけなかったんです」
と彼女が少し顔を赤らめて言った。
患者が来たので彼女は急いで受け付けに行った。
山野も院長室の机の前の椅子に座った。
彼女が裸眼視力、RGテスト、眼圧、などをする声が聞こえてきた。
そして患者が希望するコンタクトを入れての矯正視力を計った。
「先生。2Wのソフトレンズご希望の患者さんです」
そう言って彼女はカルテを山野に渡した。
彼女は今あったことなどなかったかのように平静な態度だった。
山野はスリットランプの上に患者の顔を乗せてもらい、角膜にキズはないか、アレルギー性結膜炎はないかを調べ、コンタクトが目にフィットしているかを調べた。
どれも問題はない。なのでカルテに「異常なし」と書いて彼女に渡した。
その日の午後は結構、患者が多く、彼女と話す時間はなかった。
ようやく18:30時になり彼女はクリニックの前に「本日受け付け終了」のボードを出した。
19:00になりクリニックが終了した。
山野は荷物をまとめて院長室を出た。
早く行かないと、いつも乗っている上りの東北新幹線に間に合わなくなる。
彼女は今日来た患者の事務処理をやっていた。
「あ、あの。鈴木さん。さようなら」
山野は彼女の前をきまり悪そうに通ろうとした。
「さようなら。先生」
彼女はニコッと笑って挨拶した。
「今日はいきなり突飛な事をしてしまってごめんなさい。気にさわりましたか?」
山野は謝った。彼女はニコッと微笑んだ。
「いえ。いいんです。私、先生、好きですから」
この言葉に山野は喜んだ。
「あ、あの。鈴木さん」
「はい。何でしょうか?」
「ちょっと言いにくいんですが・・・・」
「はい。何でしょうか?」
「今、履いているパンティーを貰えないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
「はい」
彼女は少し恥ずかしそうな顔でスカートの中に手を入れてパンティーを抜きとった。
そしてそれを山野に恥ずかしそうに差し出した。
普通の女の子だったら、そんな変態な要求をされたら、ためらうだろうが彼女はおっとりした性格なので山野の要求を聞いてくれた。
「うわー。嬉しいです。ありがとう」
山野は照れくさそうにそれを受けとった。
・・・・・・・・・・・・
普通の女だったら、そんな事を言われたら恥ずかしくてためらうだろうが、彼女はおっとりした性格なので別に気にしていなさそうだった。
山野は彼女に頼んで立ってもらってスマートフォンで彼女の写真をパシャパシャと数枚、撮らせてもらった。彼女も写真を撮られてまんざらでもない様子だった。
「さようなら」
「さようなら」
こうして山野はクリニックを出た。
最終の上りの東北新幹線こまち号には間に合った。
山野は嬉しさで有頂天だった。
彼女が来てからずっと恋焦がれていたが想いを告白することが出来ず煩悶していた想いが叶ったのである。
山野の性格はそうなのである。
山野はイケメンではないが、そんなにブサイクでもなく彼の評価は「普通」だった。
しかし山野は好きな女に告白するということをしたことが人生で一度もなかった。
山野は極度に神経質で「好きです」と告白して相手に断られることを極度におそれていた。
そして奥手だった。医学部の4年の時に初めて風俗店(SМクラブ)に勇気を出して行ってみた。風俗店といっても働いているのはアルバイトの女の子である。
山野はそこで、きれいな女の子とペッティングした。別にSМクラブである必要もないのだが、SМクラブ以外の他の風俗店がどういうものかわからなかったからである。
きれいな女の子でも山野に好感を持ってくれた。
SМクラブだからといって縛ったりすることはなかった。
縛るのは女の子を拘束して怖がらせるのが目的だが、SМクラブはSコースなら90分3万円、Мコースなら90分2万円が相場だった。90分で相手を解放できると双方わかっている以上、わざわざ縛るのは時間がもったいない。山野は女をペッティングした。Sコースで入っても山野は女の子に顔面騎乗させたりした。
風俗店では店外デートは禁止である。しかし店の中の空間だけというのはさびしかった。
それに風俗店の女の子はエッチが好きで仕事とわりきっている子が多い。
所詮、部屋の中の金銭関係での付き合いである。
なので山野は一度、金銭関係でない異性との付き合いをしてみたかったのである。
その夢がかなったのである。
山野は家に着くと布団の中に入り、鈴木さんの写真を見ながら、鈴木さんがくれたパンティーを鼻に当てて、その匂いを嗅いだ。
「ああ。鈴木さん。好きだ。好きだ」
と言いながら。
ああ、ここに鈴木さんの女の部分が当たっていたんだと思うと山野は激しく興奮した。
そして鈴木さんの写真を見ながらオナニーした。
そしてその晩は寝た。
・・・・・・・・・・
翌日の月曜日になった。
山野の唯一の生きがいは小説を書くことだった。なので図書館に行ってパソコン席でパソコンを開いた。書きかけの小説の続きを書こうかと思ったが、やっと夢がかなって鈴木さんと親しくなれたので鈴木さんとのことを私小説ふうに書こうと思って書き出した。
けっこうスラスラと楽に書けた。
山野は女に飢えていた。いつも頭の中は女のことだった。
しかし「現実の女との恋愛」と「小説創作」を比べると山野にとっては「小説創作」の方が上だった。好きな女と付き合えるのは嬉しい。しかし「現実の女との恋愛」は精神的な心地よい快楽ではあっても、それはやがて消えてしまうもの。しかし芸術はその出来が良ければ形として残るものである。それは世間で認められないかもしれない。しかし山野は小説を書いていればそれで満足だった。山野は「現実の女との恋愛」は虚しいと思っているがそれは風俗の女の子との場合である。今回の鈴木さんは金銭関係でも90分の部屋の中だけの関係でもない。生まれて初めての「生きた恋愛」である。彼女のおっとりした性格ならもしかすると長続きするかもしれないし、一生の伴侶となるかもしれない。そう思うと彼の筆は進んだ。
鈴木さんはおっとりした性格なので前回、彼女に携帯電話の番号とメールアドレスを聞けば教えてくれただろう。しかし山野はあえて聞かなかった。山野はおくゆかしい所があって携帯電話やメールのやりとりが出来てもそれをしたがらない所があった。
それは好きな人が出来るとすぐに電話やメールをするのは趣きがないと思っていたからである。文明の利器を利用してすぐに相手となれなれしくなってしまうのは軽率で、軽々しく山野は嫌だった。好きな人とは会いたくても会えない時間があって、やっと会える方が恋愛のボルテージが高くなると思っていたのである。
実際、日を経るごとに山野の鈴木さんに対する想いは激しく募っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
そしてとうとう待ちに待った土曜日になった。
山野は金曜日に盛岡に行って盛岡駅前のホテルに泊まることもあったが、土曜日の朝はやくに家を出て、そのまま土日の診療をすることもあった。
それはその時の状況によっていた。
山野は朝5:00時に起き、始発の5:20分の市営地下鉄ブルーラインに乗って東京へ出て、東北新幹線に乗って盛岡駅に着いた。
クリニックは10:00時から始まるが、クリニックには9:50分に着いた。
クリニックのガラスの戸を開けると受け付けに鈴木さんが座っていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
何もなかったような挨拶が交わされた。
山野はすぐに院長室に入った。
10:00時になると患者(というか客)がちらほらと入って来た。
鈴木さんは受け付けをして、患者の求めるコンタクトレンズを聞き、裸眼視力、テストレンズによる矯正視力、RGテスト、眼圧、などを書き込んだカルテを山野に渡した。
テキパキと極めて事務的に仕事をこなした。
山野も客に顔をスリットランプの上に乗せてもらい、角膜、結膜、コンタクトレンズのフィッティング、をチェックした。
ようやく12:00時になった。
彼女は「午前の診療は終了しました。午後の診療は1:00時からです」と書かれたボードをクリニックの前に出した。そして受け付けにもどった。
山野はドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えながら受け付けに座っている鈴木さんの所に行った。
「鈴木さん。ちょっと来てくれませんか?」
と聞くと彼女はニコッと微笑んで黙って院長室に入ってくれた。
山野は彼女の背後に回り、前回と同じように彼女の腰を触り、そしてすぐに手を伸ばして彼女の腹を触った。背後から彼女を抱きしめる形になった。
山野が彼女によせる想いは「恋愛」も強かったが「性愛」も強かった。
あまり彼女に近づきすぎると勃起したおちんちんが彼女の尻に触れてしまう。
なので山野は腰を引いて、おちんちんが彼女の尻に触れないようにした。
山野は腰を落とし前回と同じようにスカートの上から鈴木さんのお尻に頬を押しつけた。
「ああ。鈴木さん。好きです」
と言いながら山野は彼女の柔らかい尻の感触を味わっていた。
彼女は「ふふふ」と笑って山野を軽くいなした。
山野は彼女の二本の太腿をタックルのようにからめて抱きしめた。
そして太腿に少し頬ずりしてから、彼女のピンクの制服の短めのスカートの中に顔を入れた。
そして彼女のパンティーの尻に顔を押し当てた。
こうやって順序を踏んでいくと女は警戒しなくなるものである。
尻を手で触るのは痴漢のようで嫌らしいが、頬を当てられるというのは男が女の母性を求めていると女は思うのである。実際、山野は彼女に母性愛を求めていた。
彼女の尻の感触を十分、味わうと山野は前回と同じように、立ち上がって彼女の前に立った。
そして前回と同じように、彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せない。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野は相手の反応を確かめながら、そっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からも性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。山野はもっと彼女の体を愛撫したかったのだが、キスだけでやめておいた。
山野は彼女に対して「性愛」をしたい欲求があったが、彼女は山野の「性愛」を受けたいのかどうかはわからなかったからである。彼女の心はわからない。彼女は山野を嫌っていないから山野がもっと彼女をペッティングしても彼女は嫌がらなかったかもしれない。彼女はそういう、おっとりした子なのである。男の性欲は女に対して積極的だが女の性欲は能動的である。男はいつも発情しているが女はそうではない。女は全身が性感帯だから男の愛撫を受けているうちに男以上に性欲が亢進するものである。そういう男の手技によって女の性欲を開花させることも男には出来るのだが、山野はそれが嫌だった。そういう小賢しい戦術によって彼女の性欲を開花させてしまうことが嫌だったのである。山野は性格の良い人間につけこむことが嫌いだったのである。
しばしのディープキスの後、彼女は舌を引っ込めて唇を離した。
「先生」
「はい。何でしょうか?」
「あ、あの。先生にお弁当つくってきました」
「あっ。それは有難う」
「今持って来ます」
そう言って彼女は院長室を出た。
そしてハンカチで包んだアルミの弁当箱を持ってもどってきて山野に渡した。
「はい。先生」
「ああ。どうも有難う」
山野は弁当を受けとった。
これは山野のペッティングを回避するためではなく彼女の心づくしである。
彼女はそういう心づくしのある優しい子なのである。
弁当はのり弁にハンバーグと卵焼きだった。
女の子にしてみれば、この程度は簡単なことで日常的なことなのだろうが料理など何も出来ない山野にとってはとても嬉しいことだった。
山野は「ああ。この弁当は鈴木さんが作ったんだ」ということを噛みしめながら食べた。
とても美味しかった。彼女も受け付けで同じ内容の弁当を食べていた。
こういう時は、せっかく彼女が作ってくれた弁当なので二人ならんで食べるのが普通の男女だろうが、山野はシャイで女の子と二人になっても何を話したらいいのかわからないので院長室で一人で食べた。
食べ終わると山野は弁当箱をもって受け付けにいる鈴木さんの所に行き、
「有難うございました。美味しかったでした」
と言って弁当箱を渡した。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
と彼女はニコッと微笑んだ。
そうこうしているうちに1:00になり午後の診療が始まった。
患者はそれほど来なかったが、クリニックは予約制ではないので、ちらほら来た。
いつ患者が来るかはわからないので、患者がいなくても山野は院長室に居て彼女は受け付けに居た。
ようやく午後7:00になって診療が終わった。
・・・・・・・・・・・
「鈴木さん」
「はい」
「よかったら、焼き肉店に行きませんか?」
「はい。行きます」
彼女は喜んで答えた。
山野はいつも土曜日の診療が終わると、駅近くの東横インホテルに泊まって翌日、診療してそれが終わると東北新幹線で家に返るのだが、鈴木さんと親しくなったので、焼き肉店に誘ったのである。
山野と鈴木さんは焼き肉店で焼き肉を食べながら色々と話した。
「鈴木さん。あなたはどういう経歴でここで働くようになったのですか。というよりあなたは正社員なのですか、アルバイトなのですか?」
「私はアルバイトです」
「そうだったんですか。僕は中央コンタクトの人が来ても事務的なことを話すだけで、その人が正社員なのかアルバイトなのかも聞かないんです。鈴木さんはどっちかなと思っていたんですが、たぶんアルバイトじゃないかと思っていたんです」
「私も正社員で中央コンタクトに応募したんですが、アルバイトということで採用して貰えました」
「そうだったんですか。ところで鈴木さんは高校は女子高ですか。それとも男女共学ですか?」
「男女共学です」
「なら、彼氏とかナンパとかされなかったんですか?」
「それは数回あります。でも相手の男の人にあまり魅力を感じなかったので付き合いませんでした」
「そうですか」
「じゃあ今度は先生の経歴を教えて下さい」
彼女が聞いてきた。
「そうですね。僕は医者になりたいと思って医学部に入ったんではありません。医者は収入がいいからという理由でもありません。僕は子供の頃から喘息で病弱で高校生の時から過敏性腸症候群が発症してしまって、自分の病気は自分で治そうと思って医学部に入ったんです」
「大学はどこですか?」
「奈良県立医科大学です。本当は家に近い横浜市立大学医学部に入りたくて受験もしたんですが落ちてしまって・・・・」
「そうだったんですか。それでどうしてコンタクト眼科クリニックの院長になったんですか?」
「僕は大学を卒業した後、Uターンして千葉県の下総精神医療センターという所で2年間、研修しました。それでその後、藤沢の130床の精神病院に就職したんですが、僕は大学の時、小説を書く喜びを知ってしまって、医者の仕事はむなしいように思うようになってしまったんです。それでそこの病院も辞めることになって。でも精神科いがいの科目はやったことがないし、楽なコンタクト眼科のアルバイトをしていたんです。それで今度、盛岡に眼科クリニックを開くから院長になって週2日、土曜と日曜日に働いて欲しいと誘われてやることに決めたんです」
「そうだっんですか。先生は地元の神奈川県のどこかの病院に勤めていて、ここでの仕事はアルバイトなのかなーと思っていました。もしかするともう結婚もしていて、ローンで家を買ったため、その支払いのためのアルバイトなのかなーと思っていました」
「いやー。僕にはそんな体力はないです。それに僕は結婚したいとも思っていません」
「どうしてですか?」
「僕は結婚とは女性を幸せにしてあげることだと思っているんです。でも僕は病弱ですし、その自信がないんです」
「先生って理想が高いんですね」
と言って彼女は微笑んだ。
「でもあなたのような人となら結婚できるかもしれないな」
山野は独り言のように笑って言った。
「ええ。私も先生のような人となら結婚したいと思っているんです」
本心なのか冗談なのか彼女もそんな事を言った。
「鈴木さんは何だか淡泊な性格ですね。それが魅力なんですが・・・」
「ええ。私、よく友達に、あなた、おっとりしているわね、と言われます」
「普通、女ってもっと、じっとしていられなくて、お喋りで一瞬たりとも黙っていられない人が多いですよ」
「ええ。私もそう思います」
そう言って彼女は微笑した。
「ところで先生は小説を書くんですか?」
「ええ。山野哲也というペンネームでホームページに書いた小説を出しています」
「そうなんですか。すごいですね。あとで読ませてもらいます」
そう言って彼女はスマートフォンを取り出すと「山野哲也」で検索した。
「あっ。本当ですね。先生って本も一冊、出版しているんですね」
「え、ええ。でも自費出版です」
「自費出版でも凄いと思います。先生は作家になりたいんですか?」
「そりゃーなれるものならなりたいですけど・・・プロ作家になるのは大変ですからね。僕にはその体力もないし、そもそも僕の気質からいってプロ作家にはなれないように思うんです」
「そうですか」
「あなたと出会えたことも一つの大きな物語ですから小説に書こうと思っているんです」
「私のことを小説に書くんですか。何だか恥ずかしいです」
「大丈夫です。あなたは素晴らしい人ですから、素晴らしい小説になると思います」
山野がそう言うと彼女はニコッと笑った。
焼き肉を食べながら、そんな事を話して山野は彼女と別れた。
そして山野はいつも泊っている駅前の東横インホテルに泊まった。
山野はストイックな性格だったので、彼女をホテルに呼ぼうと思えば呼ぶことも出来たが、それはしなかったし、したくなかった。
なぜなら山野は彼女と行きつく所までは行きたくなく、彼女を一定の距離をもった憧れの女性にとどめておきたかったからである。それは鈴木さんだけではなく、女全般に対する山野の態度だった。
・・・・・・・・・・
翌日の9:50分に山野はクリニックに行った。
鈴木さんはもう来ていて受け付けに座っていた。
「おはよう」
「おはようございます。先生。昨日の夜、先生の小説のうち、短いのを読みました。先生って恋愛小説を書くんですね。上手いと思いました」
「いやあ。恥ずかしい。僕はエッチな小説もかなり書いていますからね。あまりそういうのは読まないで下さいね」
そんな事を言って山野は院長室に入った。
10:00時になり午前中の診療が始まった。
いつものように仕事中は山野は院長室に居て彼女は受け付けにいて、患者が来るとそれぞれの仕事をした。
12:00時になり午前中の診療が終わった。
山野は受け付けに居る鈴木さんの所に行った。
もう鈴木さんも山野が何を要求しているかわかっていて、黙って微笑して立ち上がり山野と一緒に院長室に入った。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
院長室に入るや否や山野は鈴木さんを背後から抱きしめた。
そして腰を落として膝立ちになった。
「ああ。好きだ。鈴木さん」と言いながら山野は鈴木さんのピンクの制服のスカートの上からお尻に頬を押し当てた。
何て大きくて柔らかいんだろうと山野は恍惚としていた。
彼女は、ふふふ、と笑った。
「鈴木さん。ちょっとお願いがあるんですが・・・」
そう言って山野は立ち上がった。
「はい。何でしょうか?」
「これを着て貰えないでしょうか?」
山野はワンピースの競泳水着をカバンの中から取り出した。
「これ。ここのショッピングモールの中の水着売り場で買ったんです。鈴木さんの体ならМサイズで合うと思います」
「はい。わかりました」
と彼女は理由も聞かず山野の要求を受けてくれた。
山野はクルリと後ろを向いた。
女性の着替えを見るのは失礼でおもむきがないからだ。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
「はい。先生。着ましたよ」
すぐに彼女が言った。
クルリと山野が振り返ると、ワンピースの競泳水着を着た鈴木さんが立っていた。
それを見た瞬間、山野は、ああ、と感嘆した。
ワンピースの水着姿の鈴木さんがあまりにも美しかったからである。
水着はハイレグではなく、お尻もフルバックの普通のワンピース水着だが、山野は一度、鈴木さんのワンピース水着姿を見てみたいと思っていたのである。
ハイレグではなくフルバックとはいえ、女のヴィーナスの丘はモッコリと盛り上がり、フルバックは彼女の大きな尻を弾力をもって形よく収めて整えていたからである。
体のボリュームのある女は着やせするものである。
ワンピース水着の縁からニュッと弾け出ている太腿、華奢な腕、繊細な手、理想的なプロポーションだった。
山野は急いでスマートフォンを取り出して、パシャパシャと水着姿の彼女を撮った。
そして。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
と言って山野は背後から膝立ちになって、水着の縁からニュッと出た太腿を抱きしめ、お尻に頬を当てた。
「ふふふ」
と彼女は山野をいなすように笑った。
山野は健康のため屋内プールでよく泳ぐのだが、たまにプールの女の監視員や水泳好きでやって来る若い女のワンピース水着姿を見ると激しく欲情していたのである。
「ああ。鈴木さんの競泳水着姿を見たいとずっと思っていたんです」
山野は鈴木さんのお尻を水着の上からチュッ、チュッとキスした。
そして前に回って、彼女のヴィーナスの丘の部分にもキスをした。
「あん。恥ずかしいです」
と言いながらも水着ということもあってか彼女は拒まなかった。
山野はいつまでもこうしていたいと思った。
が、鈴木さんは、
「先生。今日もお弁当、作って持って来ました」
と言ったので彼女から離れた。
山野としてはいつまでも彼女に触れていたいと思っていたのだが、彼女の好意を拒むわけにもいかない。
山野はクルリと彼女に背を向けた。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
彼女は水着を脱いでピンクの制服を着ていた。
そして受け付けに行って、弁当を持って院長室にやって来た。
「はい。先生。お弁当です」
そう言って彼女は弁当を差し出した。
「ありがとう」
山野は彼女から弁当箱を受けとった。
今回は鯵のフライにほうれん草のおひたしだった。
やがて1:00時になり午後の診療が始まった。
そして19:00に診療が終わった。
「鈴木さん。今日はありがとう」
「いえ」
彼女はニコッと笑って言った。
「鈴木さん。出来たらあなたと大磯ロングビーチに行きたいです」
山野は思い切って自分の思いを告白した。
「そのためにこの水着を買ってくれたのですか?」
「いや。大磯ロングビーチに来る女の客はみんなセクシーなビキニですよ。ワンピースの水着なんか着ていると返って目立っちゃいますよ」
山野は夏、最低一度は大磯ロングビーチと片瀬西浜の海水浴場に行っていた。
もちろん泳ぐためではない。
ビキニ姿の女を見るためである。
片瀬西浜に来る女は肉体に自信のある女ばかりだが、大磯ロングビーチに来る客は遊びに来るのが目的なのである。
山野には彼女がいないので、ビキニ姿の彼女と手をつないで、ビーチサイドや海水浴場を歩いてみたい、というのが山野の夢だったのである。
「僕はあなたのようなきれいな人とビーチサイドや海水浴場を手をつないで歩くのが夢なんです。そんなこと普通の男なら簡単に出来ることなんでしょうが、僕は垢ぬけていないので、しかもネクラなので普通のことが出来ないんです」
山野は勇気を出して言った。
「じゃあ、私、先生と大磯ロングビーチに行きます。いつがいいですか?」
「ええっ。本当ですか。それは嬉しいな。大磯ロングビーチは7月は土日に行きたいですね。土日祝日は人がたくさん来ますから。出来るだけ多くの人に僕とあなたが一緒に居るのを見られたいですから」
幸い明日の7月15日は「海の日」の祝日だった。
「先生。明日は祝日ですね。じゃあ、さっそく明日、行くというのはどうでしょうか?」
「えっ。いいんですか。鈴木さんの都合は大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。私、明日は休みですし・・・」
「それは嬉しいです。じゃあ、今日、僕の家に来てくれませんか。それで明日、車で大磯ロングビーチに行くというのは」
「はい。そうします」
こうして山野と彼女は盛岡駅に行って、上りの東北新幹線に乗った。
そして二人で並んで座った。
東北新幹線は時速300km/hで走り出した。
山野は口下手なので女の子と何を話していいのかわからなかった。
なので黙っていた。
彼女もおっとりした性格で沈黙が苦痛ではない女の子だった。
その性格も山野が彼女を好きになった理由である。
鈴木さんはスマートフォンを出して山野の小説を読んでいた。
東北新幹線は仙台、大宮、上野、東京、と止まる駅が少なく2時間で東京駅に着いた。
そして東海道線に乗って戸塚で降り、横浜市営地下鉄ブルーラインで湘南台駅に着いた。
山野は湘南第一ホテルに空きがあるか、スマートフォンで聞いた。
空いていて十分、空きがあるとのことだった。
「じゃあ、鈴木さん。今日は湘南第一ホテルに泊まって下さい。明日の朝、8:00時に車で迎えに来ます」
「はい。わかりました」
そう言って二人は別れた。
山野としては自分のアパートに泊めてもよかったのだが、やはり彼女とは一定の距離をとった関係でいたかったのである。
その夜、山野は翌日、鈴木さんと大磯ロングビーチに行けると思うと至福の思いでなかなか寝つけなかった。
翌日になった。
山野は50万円で買ったホンダのライフに乗って、8:00時に湘南第一ホテルに行った。
鈴木さんはホテルのロビーにいた。
彼女は山野を見つけると、急いでフロントに行き、チェックアウトした。
「あっ。先生。おはようございます」
「おはよう。鈴木さん」
そう言って山野は助手席を開けた。
彼女が助手席に乗り込んだ。
「昨日は眠れましたか?」
山野が聞いた。
「ええ」
「それはよかった。じゃあ、行きますよ」
そう言って山野はアクセルペダルを踏んだ。
「鈴木さん。大磯ロングビーチに行ったことはありますか?」
「いえ。ないです。名前と場所は知っていますが・・・」
「そうですか。昨夜は湘南台のホテルではなく大磯ロングビーチのホテルに泊まってもらってもよかったですね。あそこのホテルからは相模湾の海が目前に見えますから・・・でもこうして、あなたとドライブしていることが僕には凄く嬉しいんです」
山野が助手席に女の子を乗せてドライブするのはこれが初めてだった。
なので山野は有頂天だった。
「先生。私、ビキニ持っていないんですが・・・」
「ははは。大丈夫ですよ。大磯ロングビーチで色々な種類のを売っていますから」
「そうですか」
そんなことを話しながら、山野は車を飛ばした。
やがて大磯ロングビーチに着いた。
もう多くの人がチケット売り場の前に並んでいた。
山野も彼女と一緒に列の後ろに並んだ。
8:30分になり、チケット売り場が開いた。
客がチケットを買ってゾロゾロと場内に入り始めた。
すぐに山野と鈴木さんの番になった。
「チケット大人二人一日券」
山野は最高の快感でそう言った。
山野は夏、最低一回は大磯ロングビーチに来ることにしているのだが、チケット売り場で「大人一人」と言う時が、恥ずかしくさびしかったのである。
他人はそうは思っていないかもしれないが、あの人ひとりで彼女いないのねー、クライわよねー、と言われているような気がしていたのである。
しかし今日は違う。鈴木さんという可愛い恋人がいるのである。
山野はチケット二人分、買うと、その一つを鈴木さんに渡した。
「有難うございます。先生」
「鈴木さん。お礼なんか言わないで下さい。お礼を言うのは僕の方です」
二人は一緒に場内に入った。
入ったすぐの所が、女のビキニ、や、男のトランクス、浮き輪、ビーチサンダル、ビニールシートなど水泳用品を売っている場所だった。山野は鈴木さんに一万円、渡した。
「さあ。鈴木さん。好きなビキニを買って下さい」
「たくさんあるんですね」
彼女はビキニをキョロキョロ見ていたが、なかなか決められなかった。
あまりカットが大きく布面積の小さいのからは恥ずかしそうに目をそらした。
「これにします」
彼女はやっとシンプルなピンク色のビキニに決めた。
「ええ。それがいいですね」
山野もその方がいいと思った。
セックスアピールを意識していない女の方が魅力的である。
シンプルなビキニを恥ずかしそうに着る方が、かえってセクシーなのである。
更衣室の前で二人は別れた。
山野はすぐにトランクスを履いてロビーに出た。
そして鈴木さんが出てくるのを待った。
ほどなくピンクのビキニを着た鈴木さんが出てきた。
彼女もすぐに山野を見つけた。
山野は思わず、うっ、と息をのんだ。
「うわっ。鈴木さん。きれいだ。セクシーだ」
山野が言った。
「なんだか恥ずかしいです。私、ビキニ着るの初めてなので。なんだか下着を着て人前に出ているような感じです」
彼女は顔を赤らめて言った。
「大丈夫ですよ。ここに来る女の人はみんなビキニですから。夏は女の人は解放的な気持ちになりますから。女の人はみんなもっとセクシーなビキニですよ」
二人は並んでロビーからプールサイドに出た。
空は雲一つない快晴で真夏の太陽がサンサンと無限の青空の中で光と熱を放っていた。
もう入場者はかなり居てビーチサイドを歩いていた。
山野が言った通り女はセクシーな露出度の高いビキニを着ている人が多い。
鈴木さんは山野の右に居る。
山野はそっと右手を鈴木さんの方に近づけた。
それは鈴木さんの左手の甲に触れた。
鈴木さんは山野の右手をギュッと握った。
山野も鈴木さんの左手を握った。
「ああ。幸せです。鈴木さん。あなたのようなきいな人とこうして手をつないでプールサイドを歩くのが僕の夢だったんです」
山野にとってはそれが長年の夢だったのである。
夢がかなえられた時の幸福感はたとえようもなかった。
普通の男にとっては彼女を作り手をつないでプールサイドを歩く、なんてことは簡単なことである。誰でも出来る。しかし山野はそういう凡庸なことが出来なかったのである。
山野は自分は今、憧れのビキニ姿の鈴木さんと手をつないでプールサイドを歩いているんだ、という事実を牛が食べ物を反芻するように何度も噛みしめた。
「ふふふ。先生。何だか私たち恋人のようですね」
鈴木さんが笑って言った。
山野はこうやってビキニ姿の鈴木さんとプールサイドを歩くことが夢で目的だったので、「ビニールシートを何処に敷きましょうか」と言いう口実で、彼女と手をつないで大磯ロングビーチの中を歩き回った。
「ここにしましょう」
「ええ」
ようやくダイビングプールの前の芝生にビニールシートを敷いた。
「鈴木さん。あなたの美しいビキニ姿を写真に撮らせて下さい」
「はい」
彼女は立ち上がった。
山野は鈴木さんに「はい。髪を搔き上げて」とか「腰に手を当てて」とか「顔を上に向けて」とか言って色々なセクシーポーズをとってもらって色々な角度からスマートフォンで撮影した。何だが女優を撮影するカメラマンになったような気分だった。
鈴木さんもまんざらでもなさそうだった。
20枚くらい彼女のビキニ姿を撮影した。
「はい。もういいです」
と言うと鈴木さんも、
「先生。どんなふうに撮れたか私にもちょっと見せて下さい」
と急いで山野の所に来た。
「わあ。恥ずかしいわ」
と言いながらも彼女も自分のビキニ姿に満足しているようだった。
その後はビーチで日光浴をした。
「じゃあ日光浴をしませんか」
「はい」
山野と鈴木さんは並んで仰向けに寝た。
こうやって女性と真夏のプールサイドで日光浴をするのが山野の夢だったのである。
彼女も真夏の太陽を浴びる日光浴を楽しんでいる様だった。
「鈴木さん。紫外線は体によくないですからコパトーンを塗った方がいいですよ」
「え、ええ」
「僕が塗ってもいいでしょうか?」
「え、ええ。お願いします」
山野は内心、やったーと思った。
山野はコパトーンを仰向けの鈴木さんの体に隈なく塗っていった。
ビキニで覆われた所いがいは全て。
彼女は山野に身をまかせているかのようだった。
鈴木さんは目をつぶって脱力して、まるで柔らかい生きたお人形さんのようだった。
仰向けの状態の彼女の体にコパトーンを塗り終わると山野は鈴木さんに、
「じゃあ今度はうつ伏せになって下さい」
と言った。
「はい」
山野に身をまかせるのが気持ちいいのか、鈴木さんはクルリと体を反転してうつ伏せになった。山野は鈴木さんの背面にもコパトーンを塗った。
ビキニの縁から出ている所は全て。
ただ単に塗るだけじゃなくて、たっぷりした肉を時間をかけて揉みほぐすように。
彼女も気持ち良さそうに目をつぶっていた。
しかし山野には性的興奮は起こっていなかった。
エロティシズムは精神と肉体が結合して起こる。
なので精神の入っていない肉体は単なる柔らかい物質に過ぎない。
「先生。気持ちいいです。何だか先生にマッサージしてもらっているようで」
彼女も夏の女がみなそうなるように夏の解放的な気分になっているようだった。
そのあと、二人でビーチサイドにある売店で、焼きそばを買って食べ、二人乗りのウォータースライダーで滑走したりして夏の一日を満喫した。
時計を見ると午後4時になっていた。
「鈴木さん。今日は楽しかったです。もう帰りましょうか?」
「ええ」
大磯ロングビーチは午後6時までやっている。
しかし鈴木さんにも明日からきっと何か予定があるだろうと山野は気をつかったのである。
山野と彼女は手をつないでロビーに向かった。
そしてお互い更衣室で着替えて出てきた。
「先生。今日は楽しかったです。夏を満喫しました」
「僕も楽しかったです」
二人は車に乗った。
山野は大磯駅まで彼女を送った。
「先生。今日は楽しかったです。有難うございました」
「鈴木さん。さようなら」
こうして二人は別れた。
山野はその夜、大磯ロングビーチで撮った鈴木さんのビキニ写真を眺めながら寝た。
・・・・・・・・・・・・
一週間経って土曜日になった。
山野は朝5:00時に起きて東北新幹線に乗り盛岡に向かった。
盛岡には9:50分に着いた。
鈴木さんはいなかった。
代わりに別の女の子が来ていた。
こういうアルバイトの交代はよくあることだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「鈴木さんはどうしたんですか?」
「盛岡仲通り店のスタッフが辞めてしまったもので鈴木さんはそっちに行くことになりました。私は千田祥子と言います」
千田祥子さんも可愛かったが彼女は鈴木さんのような、しとやかさ、がなかった。
山野は鈴木さんが来なくなったことで彼女との付き合いはこれで終わりにしようと思った。
鈴木さんは20代で若い。彼女には彼女にふさわしい若い素敵な男と付き合って欲しい。短い期間ながらも鈴木さんという素敵な人と付き合えたことだけで山野にはもう十分だった。彼女の山野に対する想いはわからないが、彼女の人の良さにつけ込んではいけないと山野は思った。
その日、中央コンタクトのエリアマネージャーがやって来た。
クリニックの院長募集に眼科専門医の先生が応募してくれたので山野には三ヵ月後に辞めて欲しいとのことだった。そして経営も医療法人としてやると言った。
山野もそのことは覚悟していた。
眼科専門医は日本眼科学会が認める専門医資格だが、5年間の眼科医としての常勤の経験と日本眼科学会が行う眼科の学科試験に通った医者である。白内障や緑内障の手術も出来る一人前の眼科医である。
山野は眼科専門医の資格など持っていないので、眼科専門医でクリニックの院長をやる人が見つかったら、辞めさせられるだろうことは覚悟していた。もっともここのクリニックはスリットランプと眼底鏡くらいしかなく、手術器具もなく、眼科専門医がやっても山野がやっても同じようなものだが、眼科専門医の方が何かと有利なのは間違いない。
中央コンタクトの方からか、山野の方からか、辞めたいと言ったら院長交代しなくてはならない、という契約書を交わしているので仕方がない。
しかしそのため仕事がなくなってしまった。
なので山野はネットにある医師の斡旋業者の募集で何か自分に出来る仕事を探した。
それで人工透析の仕事の募集があったので、それに応募してみた。
仕事の条件に「経験不問」と書いてあったし、以前から人工透析の仕事は楽と聞いていたので、どんなものかやってみようと思っていたのである。
それで人工透析の仕事をやってみた。
これが結構、簡単で楽だった。
外来の血液透析は一つのクリニックに患者が40人くらいで、「具合はどうですか?」と聞いて、カルテ記載し、透析ナースが求める臨時処方にサインするのと、緊急時に紹介状を買いて救急病院に送ることくらいだった。
これなら最初からコンタクト眼科ではなく、人工透析をやっていれば良かったと山野は後悔した。人工透析というからには、腎臓内科や人工透析の知識が必要で難しそうという先入観があったのだ。人工透析が楽だとわかって、山野も人工透析の本を5~6冊買って勉強した。
理屈がわかると面白いものである。
なので山野は今、人工透析をやっている。
しかし、盛岡でコンタクト眼科をやっていた時に知り合った鈴木さんとの思い出は山野の人生にとって貴重なものとなっている。


2025年4月9日(火)擱筆



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OLとおじさんの恋(小説)

2025-04-07 18:41:25 | 小説
OLとおじさんの恋

という小説を書きました。

浅野浩二のHPその2
にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。


OLとおじさんの恋

電車の中で居眠りをしている人は、夢とうつつの間の状態であり、眉を八の字にして、苦しそうな顔して、コックリ、コックリしてる。女の人だった。OLらしいが、英会話のテキストブックを持っている。きっと、海外旅行へ行くためだろう。となりには、50才くらいの、会社の中堅、(か、重役かは知らない)の、おじさんが座っている。とてもやさしそうな感じ。また、おじさんは、この不安定な状態をほほえましく思っている様子。彼女は、きっと今年、短大を卒業して就職したばかりなのだろう。まだ学生気分が抜けきらない。とうとう彼女は、おじさんに身をまかせてしまった形になった。彼女の筋緊張は完全になくなって、だらしなくなってしまった。口をだらしなく開け諸臓器の括約筋はゆるんだ状態である。脚もちょっと開いている。(とてもエロティック)おじさんは、いやがるようでもなく、かといって少しも、いやらしい感じはない。(ゆえに、この不徳はゆるされるのダ)
おじさんは山野哲男という名前で湘南台に家があり、妻と一人息子がいる。息子は東北大学医学部の6年生で来年、卒業である。だから彼女はおじさんの息子と同い年くらいの年齢なのである。
この電車は、次の駅(上大岡)で降りる人が多い。彼女もそこで降りる人かもしれない。それで、おじさんは彼女を少しゆすった。
「もし、おじょうさん」
彼女は、よほど深いねむりに入ってしまったらしく、数回ゆすった後に、やっと目をさまし、首をおこした。彼女はまだポカンとした表情で、半開きの口のまま、ねむそうな目をおじさんに向けた。おじさんが微笑して、
「だいじょうぶですか。次、上大岡駅ですよ」
と言うと彼女は、やっと現実に気づいて真っ赤になった。おじさんのやさしそうな顔は彼女をよけい苦しめた。彼女はうつむいて、
「あ、ありがとうございます」
と小声で言った。彼女は膝をピッタリ閉じて英会話のテキストをギュッと握った。彼女は、まるで裸を見られたかのように真っ赤になっている。おじさんは、やさしさが人を苦しめると知っていて彼女に、ごく自然な質問をした。
「英会話ですか?」
彼女は再び顔を真っ赤にして、
「ええ」
と小声で答えた。
「海外旅行ですか?」
つい、おじさんの口からコトバが出てしまう。彼女はまた小声で、
「ええ」
と答えた。
「ハワイでしょう」
「ええ」
この会話は、おじさんの自由意志というよりライプニッツの予定調和だった。この時、彼女の心に微妙な変化が起こった。きわめて、自然な、そして、不埒ないたずらである。彼女は早鐘を打つ心とうらはらに、きわめて自然にみえるよう巧妙に、コックリ、コックリと、居眠りをする人を演じてみた。そして、とうとう、おじさんの肩に頭をのせた。おじさんは少しもふるいはらおうとしない。安心感が彼女をますます不埒な行為へいざなった。彼女は頭の重さを少しずつ、おじさんの肩にのせて、さいごは全部のせてしまった。そして、おじさんにべったりくっついた。でもおじさんは、振り払おうとしない。彼女は生まれてはじめての最高の心のなごみを感じた。
(こんな、やさしい、おじさんと、ずーとこーしていられたら・・・)
いくつかの駅を電車は通過した。その度に人々のおりる足音がきこえた。しかしその足音もだんだん少なくなっていった。
・・・・・・・・・・・・・
やがて電車は終点の湘南台駅に着いた。
「もしもし。お嬢さん。終点の湘南台駅ですよ」
おじさんがお嬢さんの肩を揺すった。
「あ、有難うございます」
彼女は狸寝入りをしていたのだが、あたかも、おじさんに起こされたように演じた。
彼女はペコペコと頭を下げてお礼を言った。
「終着駅ですけれど大丈夫ですか?降りる駅を乗り越してしまいませんでしたか?心配していたんですけれど、あなたがあまりにも気持ちよさそうに寝ているので、つい声をかけて起こしてしまうのをためらってしまっていました。それと・・・ちょっと私もあなたのような奇麗な人に触れられているのが心地よくて・・・ははは・・・つい言えませんでした」
おじさんは屈託ない表情で笑った。
「いえ。このターミナルの湘南台駅が私の降車駅です。どうも有難うございました」
彼女はペコリと頭を下げた。
「そうですか。それはよかった」
そう言って、おじさんは立ち上がった。彼女も立ち上がった。
そして二人ならんでエスカレーターに乗って改札口に向かった。
二人はSUICAで改札を出た。
「夜道は暗いですから気をつけて下さい」
そう言って、おじさんは東口に向かって歩き出した。
「あ、あの。どうも有難うございました」
彼女は少し頬を赤らめて礼を言い西口の出口に向かって歩き出した。
・・・・・・・・・・・
ピンポーン。
おじさんは家に着くとインターホンを押した。
「はーい」
家の中から妻の声がしてパタパタと玄関に向かう足音が聞こえた。
玄関の戸が開いて妻の悦子が顔を出した。
「お帰りなさい」
「ただいま」
夫は靴ベラで革靴を脱いで家に上がった。
そして居間のソファーに座った。
「お帰りなさい。あなた。今日は遅かったわね。何かあったの?」
妻が聞いた。
「いやね。アメリカでトランプ大統領が再び選出されただろう。各国に高い関税を課すと言っているからね。我が社としては、どういう対策で対抗するかという臨時の会議があってね。それで遅くなったんだ」
「そうだったの」
「ああ。悦子。水をくれ」
言われて妻の悦子は台所に行ってコップに冷水を入れて持ってきた。
「はい。あなた」
夫は妻の持ってきた水を受けとってゴクゴクと飲んだ。
「それはそうと。あなた。会社の健康診断の結果はどうだった?」
「コレステロールが260と高かったよ。前回は240なのにさらに上がってしまったな。体重も2kg増えたよ」
夫は笑いながら言った。
「あなたは焼肉が好きだからよ。仕事の後の会合でも焼肉たくさん食べているんでしょ」
「ま、まあ。そうだけれどね」
と夫は子供のように笑った。
「ねえ。あなた。健康のためにNASスポーツクラブで水泳をしたら?水泳がダイエットに一番いいと浅野浩二先生が言っていたわ」
「水泳か。面倒くさいなあ。それにNASスポーツクラブに入会すると入会金と月会費も払わなくちゃならないんだろう?三日坊主で終わっちゃいそうな気がするな」
夫は独り言のように言った。
夫は妻が近くのNASスポーツクラブに入ってランニングしたり筋トレしたりしているのを知っていた。
「ううん。そんなことないわ。NASスポーツクラブは一人、入っていれば、その家族や友人も使うことが出来るのよ。だから、あなたはタダで使うことが出来るわ」
「え、そうなの?」
「ええ。そうよ。もう、あなた用に水泳用トランクスとキャップとゴーグルも買っておいたわ」
そう言って妻はそれらを夫の前に出した。
「用意がいいなあ。でもどうしてそんなにダイエットにこだわるんだ?」
夫が聞いた。
「そりゃー。私が生涯の伴侶として選んだ人ですもの。長生きして欲しいし。いつまでも若々しくいて欲しいわ。水泳をすると新陳代謝が活発になって、そのおかげで私、肌もつやつやだわ」
実際、妻はNASスポーツクラブで運動しているため、20代の頃のプロポーションを維持していた。
「わかったよ。仕方がないな。じゃあ今度の日曜に行ってみるよ」
こうして夫は妻の作った夕食を食べ、そして翌日の仕事のために寝た。
夫は妻との営みはしなかった。
毎日のデスクワークで疲れて、その気になれなかったのである。
妻には夫が運動して新陳代謝がよくなれば、その気にもなってくれるかもしれない、という思いもあった。
・・・・・・・・・・・・・
さて。その週の日曜日になった。
「さあさあ。あなた。NASスポーツクラブに行ってらっしゃい。最低5時間は泳ぐのよ。あそこは日曜日は子供のスイミングスクールが無いからすいているわよ」
妻は学校嫌いの子供を送り出すように言った。
「わかったよ」
妻に背中を押されるように夫は家を出た。
夫はデイパックに、妻が夫のために買った水泳用トランクスとキャップとゴーグルと運動靴とタオルを入れて、自転車に乗ってNASスポーツクラブに行った。
夫はエレベーターで3階に行った。そしてロッカーに脱いだ着物を入れ、水着を着て2階に降りた。NASスポーツクラブは3階がロッカールームと風呂、サウナであり、2階が屋内プールだった。妻の言った通りプールはすいていた。
5レーンある25mプールに利用者は3~4人ほどだった。
夫はプールに入り泳ぎ出した。
夫は水泳は嫌いではなかった。しかしそれは夏に50mの屋外プールで10回くらい泳げばそれでよく、屋外プールをやっていない季節に、わざわざ、25mのプールで泳ぎたいとは思っていなかった。しかし有酸素運動の不思議な作用で、泳いでいるうちに脳内にβエンドルフィンが分泌され出したのだろう。だんだん気分が良くなってきた。
夫は25mをクロールで泳ぎ、25mを平泳ぎで泳いでいた。
・・・・・・・・・・・・
2時間くらい経った頃だろうか。
山野はプールから出て、プール室内のベンチに座って一休みしていた。
その時である。
プールの入口の方から紺色のワンピースの水着を着た若い女性が入って来た。
(う、美しい)
と山野は思わずため息をついた。
山野の視線が彼女の体に向けられているので彼女もそれを感じとって山野の方を見た。
「あっ」
という声が山野と女の両方から出た。
彼女はまだスイミングキャップをかぶっていなかったので、お互いの顔は一目でわかった。
彼女は数日前に電車の中で眠ってしまって山野の肩に頭を乗せて終点の湘南台駅まで隣り合わせに一緒に並んでいた女性だった。
彼女の方でもベンチに座っている男が電車の中で肩を乗せていた優しい、おじさん、ということにすぐに気がついた。
彼女はベンチに座って一休みしている山野に近づいてきた。
「あっ。先日は失礼しました」
と彼女は笑顔でペコリと挨拶した。
「あっ。いえ。こちらこそ」
山野もへどもどして挨拶した。
彼女はさり気なく山野の隣に座った。
「いやあ。奇遇ですね。こんな所でお会いするなんて」
山野が笑って言った。
「そ、そうですね」
彼女も山野に合わすように微笑して言った。
「あ、あの。あなた様はここのスポーツクラブの会員なのでしょうか?」
山野が聞いた。
「え、ええ。私、こっちに越して来て、まだ日が浅いのですが近くのスポーツクラブに入ってみようと思いまして・・・ここに入会しました」
「そうですか。あなた様はここのスポーツクラブの会員なのですか?」
彼女が聞いた。
「い、いえ。妻がこのクラブに入会しているんです。一人入会すれば、その人の友人、知人もここを利用できますからね。運動不足なものなので妻にプールに行って泳いできなさいと言われてしぶしぶ来てみたんです」
山野が言った。
「そうだったんですか」
そう言って彼女はニコッと微笑んだ。
彼女のワンピースの競泳水着姿は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
競泳水着はただでさえ美しい女の肉体をピッチリと少しきつめの弾力によって絞めつけるように女の肉体を引き締めていた。それが女の体を美しく見せる効果を発揮していた。
特に女の股間の肉をしっかりと収めて引き締めて、ほどよく出来て上がっている小さな盛り上がり(ヴィーナスの丘)と、競泳水着のクッキリした輪郭からニュッと露出している太腿は小心な山野を激しく刺激した。
山野の心臓は興奮でドキドキと高鳴った。
「い、いやあ。お美しいですね」
山野は少し赤面して言った。
「いえ。そんなことないですわ」
彼女は、ふふふ、と微笑んで言った。
彼女は山野に名前を聞いてみようという気持ちになっていた。
「あ、あの。お名前は何と言うんでしょうか?」
女が聞いた。
「私は山野哲男といいます」
彼女が名前を聞いてきたので、山野はここぞとばかり彼女にも名前を聞いた。
「あ、あなたのお名前は?」
「私は佐藤京子と申します」
彼女はニコッと微笑んで言った。
お互い名前を教え合ったことで二人の気持ちは少しほぐれていた。
「佐藤さんはどうしてスポーツクラブに入っているんですか?」
山野が聞いた。
「私、小学生の時、体が弱くて水泳の授業に出れなかったんです。でも泳げている人を見ると羨ましくて。私も泳げるようになりたいなと思っていたんです。私、海が好きで人魚のように海を自由に泳ぎ回れるようになりたいという憧れがあるんです」
彼女は照れくさそうに言った。
「ふーん。佐藤さんはロマンチックなんですね」
「そうかもしれません。もちろん現実に人魚になることなんて出来ないですから、それは無理です。でも夏に屋外で50mプールを何時間でも泳げるようになりたいな、とは思っているんです」
「そうですか。僕も夏、屋外の50mプールで長時間泳いでいると確かに海を自由に泳ぎ回っているような感覚になりますからね」
「山野さんはクロールで泳げるんですね?」
「ええ。泳げますよ」
「うらやましいわ。私クロールは下手なんです。遅い平泳ぎがちょっと出来る程度なんです。平泳ぎなんてカエルみたいで格好よくないですね。やっぱりクロールで泳げるようになりたいと思っているんです」
彼女と話しているうちに山野はだんだん彼女の泳ぎの実力を知りたくなってきた。
しかしその前に自分がクロールで泳ぐ姿を彼女に見せて自慢したい気持ちが起こった。
「じゃあ、ちょっと泳ごうかな」
山野はさりげなく独り言のように言ってプールに入った。
そしてプールの壁を蹴ってクロールで泳ぎ出した。山野はいかに速く泳ぐかではなく、泳ぎのスビートは全力ではなく少しセーブして、バシャバシャ水飛沫をたてないように意識した。
エントリーでも水飛沫を立てないように、スーと入水し、バタ足もバシャバシャと水飛沫を上げないで、それでいて、可能な限り速く泳いだ。華麗なクロールを彼女に見せて得意になりたかったのである。
25mを1往復して元の所にもどると山野はプールから出た。
そして京子の座っているベンチに腰掛けた。
「わあー。山野さん。上手いんですね。スーと魚が泳いでいるみたいだわ」
京子は一切の夾雑物のない羨望で山野の泳ぎを誉めた。
「いやー。僕は小学生の頃、親に言われてスイミングスクールに通わされましたからね。泳げるのは当たり前ですよ」
山野は謙遜して照れくさそうに言った。
「じゃあ、今度は京子さんの泳ぎを見せてくれませんか?」
山野はソフトに言った。彼女はクロールは出来ず遅い平泳ぎしか出来ないと言ったから山野は気をつかったのである。
「はい。下手ですけど笑わないで下さいね」
そう言って彼女はベンチから立ち上がった。
山野は思わず、うっ、と声を洩らしそうになった。
なぜなら、彼女の体に弾力をもってピッチリと貼りついている競泳水着の後ろ姿がもろに間近に見えたからである。競泳水着はハイレグではなく、フルバックだったが、ほどよく脂肪の乗った女の柔らかい体を小さな面積の布で絶えず窮屈そうに縮むように貼りついているだけのワンピース水着は裸以上に女の体を美しく引き締めて見せる効果を発揮していた。
絶えず縮もうとする僅かな面積の布の中に豊富な量の女の肉を窮屈そうに収め込んでいるワンピース水着姿の女はこの上なく美しかった。
・・・・・・・・・・・・
彼女は長い髪をスイミングキャップの中に入れた。
そして目にゴーグルをかけた。そしてプールの中に入った。
彼女は平泳ぎでゆっくり泳ぎ出した。
まだ十分、水のキャッチが出来ていない。水は粘度のある流体であり水泳が上手くなるとは水をしっかりとつかめるようになることなのである。しかし、ゆっくりではあっても彼女は25mプールを一往復してもどって来た。
彼女はプールの底に足をついてプールの中から顔を出した。
「これが私に出来る精一杯なんです」
彼女は目からゴーグルを外して山野に言った。
彼女はハアハアと息を切らしていた。
「いやあ。平泳ぎはしっかり出来ていますね」
そう言って山野もプールに入った。
「佐藤さん。クロールは出来ますか?」
「ええ。でも全然ダメです」
「ちょっとクロールで泳いでみて貰えませんか?」
「はい」
彼女は目にゴーグルをかけ、壁を蹴ってクロールで泳ぎ出した。
水のキャッチが出来ていないので入水した手を強く下へ押すことによって顔を必死に上げ呼吸している。バタ足も下半身が沈まないように、バタバタとあわてて蹴っているので、お世辞にもきれいなクロールとは言えなかった。それでも何とか25mプールを往復して50m泳いでもどってくることは出来た。
彼女は壁にタッチするとプールの底に立って水中から顔を出した。
ハアハアとかなり息が荒かった。
「下手でしょう。これが私のクロールの限界なんです」
彼女はハアハアと荒い呼吸をしながら言った。
「いやあ。水泳の初心者はみなそうですよ。僕も最初はそうでした」
山野が言った。
「私、You-Tubeでクロールの動画をいくつも見てみました。さかんに水をキャッチすると言っていますが水のキャッチってどういうことなんですか?水をつかまえるってどういうことなんですか?」
彼女が聞いた。
「まあ、それはちょっと説明が難しいですね。水を掻き出す時、掌に水の抵抗がグッとくるような感覚のことなんですけれど・・・」
「それでは。どうすれば、その水のキャッチというものが出来るようになるんですか?」
彼女が聞いた。
「それは、今の泳ぎ方でいいですから根気よく続けること・・・その一言に尽きます・・・・そうすればいつか、水をキャッチ出来るようになります。僕もそうでした。難しく考える必要はありませんよ」
山野は言った。
「運動は根気よく反復練習しているうちに、雨だれが岩をも穿つように、体の動きがその運動の動作に順応していくものなのです」
山野はそう説明した。
「そうですか。それを聞くと何だか安心しました」
彼女はニコッと微笑んだ。
山野は何だか彼女のコーチになったようで嬉しかった。
「ただ。反復練習して疲れてきたら少しインターバルの休みを入れて、疲れをとってから再び練習した方がいいです。疲れている時にがむしゃらに泳いでも上達の効果はあまり期待できませんからね」
と山野はアドバイスした。
「そうですか。それではこれからそういうふうに練習するようにしてみます」
上手く泳げている山野のアドバイスなので京子は山野のアドバイスの理論的な意味はわからなかったが彼の意見に従おうと思った。
山野は、バタ足はムチのようにしなやかに、だとか、S字プル、や、息継ぎはどうだのこうこうだの、だとか、だのの些末的な事は言わなかったし言いたくもなかった。
なので言わなかった。世のスポーツコーチはやたらと、そんな事をくどくどと説明したがるものなのだが、そんなことは反復練習して上手くなっていけば自然とそうなっていくからだ。その点において山野は世のスポーツコーチをスポーツの理論がわかっていない頭の悪い人間だとバカにしていた。
「僕は妻に最低、5時間は泳ぐように言われていますので、あと2時間は泳ぎます」
そう言って山野は目にゴーグルをかけた。
「じゃあ私も一緒に泳ぎます」
彼女が自分についてきてくれることが山野にはこの上なく嬉しかった。
彼女もゴーグルをした。
山野は平泳ぎでゆっくりと泳ぎ出した。
京子も山野のあとを追って平泳ぎで泳ぎ出した。
同じレーンの中を山野と京子は往復して泳いだ。
ゴーグルはマジックミラーの役割りをするので彼女には山野の視線がわからない。
山野はその利点を生かして水中で揺らめくワンピース水着姿の京子の肉体を思うさま眺めた。当然、山野の方が泳ぎが速く京子はゆっくりなので、山野と京子の距離は開いていった。
山野は平泳ぎで泳いでいる京子の2mくらい後ろになると、泳ぎの速度を京子と同じにした。
京子が平泳ぎで足を後方に開いて蹴る時に、下肢がパックリと開き、水着で隠されている京子の股間がもろに見えた。水圧が京子の柔らかい太腿を揺らめかしていた。
その光景はとてもエロティックで悩ましかった。
山野は、こんなことはもう二度とないかもしれないと思い、しっかりと目に焼きつけるように、とろけるような快感と共に、しっかりと水着が貼りついている京子の股間をゴクリと息を呑みながら眺めて泳いだ。
しかしあまりそればかりしていると京子に不埒な企みを気づかれてしまうことをおそれ、山野は速度をあげて京子を抜いた。あくまでそんな企みは無く、純粋に有酸素運動としての水泳に励んでいるように装った。京子も山野の密かな企みには気づいていないように見えた。
京子は時々、クロールでも泳いだが、山野にアドバイスされたように疲れると時々、プールの端に着いて立ち止まって休みをとっていた。それも山野には無上の光景だった。
ワンピース水着で覆われている京子の股間の盛り上がりを水中でまじまじと見ることが出来るからである。恥肉を窮屈に収めてこんもりと形よく盛り上がっている女の悩ましい股間のふくらみ(ヴィーナスの丘)を山野は無上の幸せで眺めた。もちろん、そんな不埒な目的は無く純粋に有酸素運動としての水泳に励んでいるように装ったが。京子も山野の密かな楽しみの企みには気づいていないように見えた。
ふと見ると屋内プールの時計が6時を示していた。
NASスポーツクラブはウィークデーは夜11時までの営業だが、日曜は夜8時までの営業だった。
(よし。今日はこれくらいにしておこう)
壁にタッチすると山野は立ち止まってターンして泳ぎをやめた。
京子が平泳ぎでもどってきた。
京子も泳ぐのをやめた。
「京子さん。私は今日はこれで帰ります」
山野は京子に言った。
「じゃあ私も今日はこれで帰ります。疲れてきましたし・・・」
京子は微笑して言った。
二人はプールから上がった。
山野としては本当はもっと京子のワンピース水着に包まれたセクシーで美しい体を見ていたかったのだが、それを彼女にさとられないように、自分の方から「やめる」と言い出したのである。
二人は更衣室のある3階に上がった。
左側が男性更衣室で、右側が女性更衣室だった。
「山野さん。今日は色々とためになるアドバイスをして下さり有難うございました」
そう言って彼女は頭を下げた。
「いえ。嫌々ながら来てみましたが、奇遇にもあなたと出会えて私の方こそ楽しかったでした」
山野も笑顔で言った。
「あ、あの。山野さん」
「はい。何でしょうか?」
「またお会いしたいですね。今まで一人で泳いでいましたが、二人の方がモチベーションが上がってやる気が出るような気がします」
「私もです」
「山野さんは今度はいつ来られますか?」
「そうですね。スケジュール表にもありますが、平日は子供のスイミング教室でいっぱいなので、また来週の日曜日にでも来ようかと思っています」
「それはラッキーです。私もいつも日曜日に来ているので・・・また来週の日曜日にお目にかかりたいですね」
・・・・・・・・・・・・・・・
お互い笑顔で「さようなら」と言って二人は別れた。
山野は彼女に「ちょっとお食事しませんか」とか「よろしかったらアドレスを教えてくれませんか」とは言わなかった。山野の気持ちとしては熱烈にそうしたかったのだが、山野はいい歳してシャイなので自分が京子に熱烈に恋焦がれているということをさとられたくなかったのである。あくまでたまたま出会った女性と親しくなったと彼女に思わせておきたかったのである。歳も親子ほど離れているし、山野には妻も一人息子もいる。京子には彼女と同い年くらいの若者と親しくなって幸せになって欲しいと思っていたのである。
NASスポーツクラブにはいくつもの風呂がありサウナもあった。
山野は体を洗ってジェットバスや薬湯に浸かった。
おそらく彼女も風呂やサウナに入っているだろう。せっかくあるのに利用しない理由はない。
山野は想像力過多なので、彼女が着替えする姿や体を洗っている姿が頭に浮かんできた。
山野は10分ほどサウナに入ってからロッカールームで服を着てNASスポーツクラブを出た。
すると薄いブラウスに白いスカートを着た女性が自転車に乗って湘南台駅の方に向かっていく後ろ姿が見えた。京子さんだった。後ろ姿でも彼女のプロポーションや洗いたての長い黒髪からそれはわかった。山野は丁度いいタイミングで彼女がNASを出たことに感謝した。
山野は自転車に乗って彼女に気づかれないように、十分な間隔の距離をとり、彼女の跡を追った。彼女は山野の今までの態度から尾行されているとは思っていないのだろう。後ろを気にしたり振り返ったりする様子は全くなかった。湘南台駅の周辺は車の通行をスムーズにするためだろう、駅の近くには踏切りがなく、小田急線の下をくぐる車道が駅から少し離れた所に作られていた。彼女は湘南台駅の西口に住んでいる。
東口から西口に出るには湘南台駅の地下を通るのが一番の早道である。
山野は彼女に気づかれないように自転車で彼女を追った。
予想通り彼女は地下に入る坂道の前で自転車を降りて自転車を押しながら湘南台駅の地下に入って行った。山野も彼女に気づかれないようにあとを追った。
湘南台駅の地下には広いスペースがあって、いつも若者が集まってヒップホップダンスをしていた。しかし少し前から時々、ピアノが置かれている時も出てきた。ストリートピアニストのハラミちゃんの影響だろう。全国の大きな駅にはかなりストリートピアノが置かれるようになった。ストリートピアノは誰でも自由に演奏していいのである。
彼女はストリートピアノを見つけると自転車を止めた。演奏者はいなかったので、彼女はストリートピアノの椅子に腰かけた。ピアノの前には椅子が10個ほど並んでいて彼女がピアノの前に座ると、通行人が数人、椅子に座った。彼女は鍵盤にしなやかな指を乗せ、リストの愛の夢・第3番を演奏し出した。しなやかな指が腱板の上で力強く踊った。山野はピアニストの演奏の巧拙はわからなかったので、彼女の演奏がプロ級なのかそれとも趣味レベルのものなのかは判別できなかった。しかし間違えることなく、よどみなく美しいメロディーを奏でることが出来ることから、かなり上級者なのではないかと思った。演奏が終わると皆がパチパチと拍手した。彼女は立ち上がって皆に一礼し、自転車を押して西口を出た。
山野も彼女のあとを追った。
もう日が暮れて真っ暗だった。
彼女は円行公園の隣にある賃貸アパートの一室に入った。
部屋の明かりがポッと灯った。
山野は内心しめしめと思った。彼女がどこに住んでいるかは山野にとっては咽喉から手が出るほど知りたかったことだったからである。彼女には彼女の生活があり、山野は彼女の生活にズカズカ入り込んで行く気は全くなかったが、彼女との縁はどうしてもつなげておきたかったのである。
・・・・・・・・・・・・・
山野は自転車に乗って家にもどった。
「お帰りなさい。あなた」
妻が玄関に出迎えた。
「ただいま」
夫は家に上がった。
そしてソファーに座った。
「あなた。もう10時よ。こんな時間に帰って来るということは、ちゃんと5時間以上、泳いだということなのね?」
「ああ。お前の言う通りちゃんと5時間以上、泳いださ」
「立派。立派。よく頑張れたわね」
妻は子供を誉めるように言った。
「どうせつまらないだろうという予想は外れるものだね。やってみると結構、いいことがあるものだね」
「何?いいことって?」
「つまりだね。有酸素運動を長時間、続けていると脳からβエンドルフィンが出るのだろう。ランナーズハイと同じでね。お前もNASでランニングを続けられるのはβエンドルフィンが出て気分がハイになるからだろう」
「ええ。そうよ。ところであなた。夕食はまだでしょ。今日はステーキにしたわ。いますぐ焼きますわ」
夫は妻を見た。運動しているのでプロポーションは20代の頃をキープしている。
というより妻は絶対20代のプロポーションを維持しようという強固な意志を持っていた。
「いや。夕食はいい」
「どうして?」
「食欲が起こらないんだ」
「有酸素運動では、息が切れる寸前の強度(最大酸素摂取量の60%前後)を超えると、運動誘発性食欲不振が生じやすくなるらしいわ。少しの運動では返って食欲が亢進してしまうから逆効果だけど、あなたは頑張ったから、きっと運動誘発性食欲不振が起こったのね」
夫はあらためて妻の悦子をまじまじと見た。
初めて悦子を見た時は、世の中にこれほど美しい女性がいるだろうかと山野の頭は悦子のことだけで一杯になった。美しい女に対する恋愛と性愛に山野は毎日、悩まされた。
しかし結婚して10年以上も経つと、初心の頃の熱い想いは徐々に薄れ、男の関心事は女から離れて仕事になるようになった。それは男の宿命である。
妻とは夫が働く傍らで買い物をし、食事を作り、育児、家事をこなすハウスキーパーという感覚に落ちていくものである。
だから世の中では不倫が絶えないのである。
「ど、どうしたの?あなた」
夫になぜかまじまじと見つめられて妻は、その訳がわからなかったのである。
「悦子。お前はワンピース水着をもっているだろう?」
夫が聞いた。
「え、ええ」
「じゃあ、ワンピース水着に着替えてくれないか?」
「ど、とうして?」
「まあ理由なんていいじゃないか」
「わ、わかったわ」
夫は妻を連れて二階の寝室に入った。
「さあ。悦子。ワンピース水着を着てくれ」
夫に言われて妻は引き出しを開けて黄色のワンピース水着を取り出した。
そして着ている服を脱いでワンピース水着を着た。
妻はスポーツクラブでしっかりとランニングしているので、その肉体は20代の時と変わらぬ美しいプロポーションを保っていた。
「うっ。美しい」
夫はそう言うと妻の後ろに回って水着に包まれた妻の尻に唇を当て、チュッ、チュッとキスをした。
そして今度は妻の正面に回り、太腿を抱きしめて、もっこり膨らんでいるヴィーナスの丘や太腿に貪るように、チュッ、チュッとキスをした。
「あ、あなた。どうしたの?いい歳して?」
妻は夜、夫婦の営みに誘っても「疲れているんだ」と言って全然のってきてくれない夫に不満を持っていた。それがどうしてこのように急に性欲旺盛になったのか、わからなかった。
しかし理由はわからなくても久しぶりに夫に愛撫されて妻は、くすぐったい嬉しさを感じていた。
「ふふふ。あなた。一体どうしたの。こんな子供じみたことをするなんて?」
妻は笑いながら言った。
しかしもちろん夫にはその理由がわかっている。
今日、長い時間、京子さんのワンピース水着姿をじっくり見てしまったことが夫に激しい若返りの回春効果をもたらしていたのである。
「ああ。京子さんのワンピース水着姿は何とセクシーなんだろう」
と夫は悩まされ続けた。しかし夫はスポーツに励む仲間という関係を装い続けて決して、彼女に恋してしまった内心は打ち明けなかった。
また夫は彼女に対し男女間の関係を持つことを自分に厳しく禁じていた。
妻子のある歳のいったオッサンと若い女性の恋など美しくない。
若く美しい女性は彼女にふさわしい若く逞しい男と若く美しい人生を築いて欲しいと思っていたからである。
京子さんの美しいワンピース水着姿の体に触れたいという本能的欲求と触れてはいけないという理性の葛藤に夫は激しく悩まされ、それが夫に強力な性欲亢進をもたらしたのである。
それは京子だけではなく女一般のワンピース水着姿に対しても同様だった。
京子さんのワンピース水着姿に触れることは出来ないが妻に対してなら出来る。
夫は妻の体を京子さんの体だと思い込もうとしていた。
女の体の構造に違いはない。
夫は今、妻を京子さんだと思い込んでいた。
したくても出来なかった欲求不満が解放された時ほど男の性欲が満たされる時はない。
夫は妻の太腿を抱きしめて、尻や、もっこり膨らんでいるヴィーナスの丘や太腿に貪るように、チュッ、チュッと激しくキスをし続けた。
しかし、理想とするものが手に入らない時に似たようなものを代わりにして満足する代償行動をしている夫の心が妻にはわからなかった。
「ふふふ。あなた。一体どうしたの?」
妻には夫の心がわからなかったが久しぶりに熱烈に愛撫されることに妻はくすぐったい喜びを感じていた。
その晩、夫の命令で妻はワンピース水着を着たまま眠らされた。
夫にとっては裸よりそれが一番、興奮する姿だったからである。
夫はワンピース水着を着た妻を抱いた。
・・・・・・・・・・・・・
翌朝。
妻の作った朝食を食べ、「じゃあ出かける」と言って山野は家を出た。
「あなた。いってらっしゃい」
と妻も久々に夫に愛撫されて嬉しそうに夫を見送った。
その日は、山野は今度の日曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。
会社でも、京子のワンピース水着姿で頭が一杯だった。
なので仕事も手につかなかった。
会社が終わった。
山野は帰りにNASスポーツクラブに寄った。
佐藤京子が着ていたワンピース水着はNASスポーツクラブで売っているものなので、それと同じ物を買って妻に着せたいと思ったからである。
「あっ。山野さん。佐藤京子さんがついさっき、あなたが来たら渡して欲しいと言って封筒を置いて行きました」
そう言ってNASの受け付け嬢が山野に封筒を渡した。
山野はすぐに封筒を開けて見た。
「山野さん。今週の日曜日には初夏の鎌倉を一緒に歩きませんか。12時に日曜日に鎌倉駅前の喫茶店ルノアールで待っています。佐藤京子」
と書かれてあった。
(ああ。彼女も私に好意を持っていてくれたんだな)と嬉しくはあった。
しかし。山野にはそれを素直に喜べない複雑な感情が起こっていた。
自分には妻も子もいる。彼女には将来がある。彼女には彼女にふさわしい若い男と人生を築いて欲しい。しかし、彼女との縁も切りたくはなかった。どうしたらいいか。迷っている山野にふと息子のことが思い浮かんだ。そうだ。息子は東北大学医学部を来年、卒業する。まず医師国家試験にも通るだろう。息子はオレと同じように真面目な性格だ。オレの代わりに、息子に今度の日曜は喫茶店ルノアールで会ってもらおう。もし彼女と親しくなれたらこれ以上に嬉しいことはない。
そこで山野は息子の修一に電話をかけた。
「おい。修一」
「なんだ。おやじ?」
「国家試験は大丈夫か?」
「ああ。模擬試験でも80点はキープしているよ。まず大丈夫だと思う」
「そうか。ところで今週の日曜なんだが、こっちへ来ないか」
「なんで?」
「会って欲しい人がいるんだ。お前。恋人はいるか?」
「いないよ」
「じゃあ、今週の日曜、鎌倉駅前の喫茶店ルノアールに行ってくれないか。そこに佐藤京子という人がいるから」
「どんな人なの?」
「しとやかで、つつましくて、きれいな人だ。社会人になりたての人だ」
「おやじとどういう関係の人なの?」
「同じ湘南台に住んでいてな。NASスポーツクラブで知り合って親しくなったんだ。お前とは同い年くらいだ。僕は山野哲男の息子です。父が急に用が出来たので父の代わりに来ました、と言えばきっと会ってくれると思う。奇麗で優しい人と二人で鎌倉を散策しないか?」
「その人はおやじにそう誘ったんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、どうしておやじが合わないんだ?」
「オレには愛する妻がいる。オレは妻を愛しているし妻もオレを愛している。オレが彼女と親しくなり過ぎると妻を悲しませることになるだろう。それに彼女とは親と子ほど歳も離れている。彼女には若い者どうしで素敵な未来の人生を送って欲しいんだ。お前と彼女が親しくなってくれれば、オレにとってこれに越したことはないんだ。どうだ?」
「わかったよ。見合いだと思って会ってみるよ」
「そうか。じゃあ、オレの代わりに彼女と会ってくれ」
「わかった。そうするよ」
・・・・・・・・・・・・・・・
日曜日になった。
山野はその日、京子さんのいないNASスポーツクラブに行って5時間、泳いだ。
一人きりだが、有酸素運動も一定の時間、泳ぎ続けてるとβエンドルフィンが出て気分がハイになることを前回知ったからだった。
1時に山野は息子にスマートフォンで電話をかけてみた。
「修一。どうだ。佐藤京子さんとは会えたか?」
「ああ。会えたよ。今、鎌倉駅前の喫茶店ルノアールで彼女と色々と話をしている所だよ。これから鶴岡八幡宮に行く所さ」
「そうか。それはよかったな。ところでお前、今日はこっちへ泊っていくか。それとも仙台に帰るか?」
「仙台に帰るよ。明日も臨床実習が9時からあるからね」
「そうか」
そう言って山野は電話を切った。
そして泳ぎ続けた。
・・・・・・・・・・・・
その日の夜遅く。
山野は息子に電話をかけた。
「どうだった。今日は?」
「レンタカーで鶴岡八幡宮や大仏、由比ヶ浜、江ノ島などに行ったよ。僕が山野哲男の息子です、と言ったら、彼女はとても喜んでくれたよ。彼女とは親しくなれそうだ」
「そりゃーよかった。しかしよく初対面のお前に彼女は親しくしてれたな?」
「おやじ。今だから言うけど、彼女とは初対面じゃないんだ」
「ええっ。どういうことだ?」
「実はね。先月、家に帰ってきたことがあったろう。あの時、横浜市営地下鉄ブルーラインに乗ってもうすぐ湘南台だなと思っていた時だったんだ。彼女がしょんぼりして悲しそうな様子だったもので、何かあったんですか、と聞いてみたんだ。その前に彼女が湘南台駅の地下のストリートピアノを弾いていたのを見たことがあって、ちょっと話したこともあったんだ。それで、あっ、ストリートピアノを弾いていた人ですね、と声をかけてみたんだ。彼女も悩み事を誰かに聞いて欲しそうな態度だったんで、湘南台駅を降りたら、少し話しませんかと言って駅前のマクドナルドに一緒に入ったんだ。そして少し話したんだ」
「そうか。そんな事があったのか」
「聞く所によると彼女は大学を卒業して、ある会社に勤めたばかりの頃だったんだが。在日朝鮮人であることがわかってしまってね。その会社は社長が在日朝鮮人を嫌っていてね。彼女は友達も出来ず一人ぼっちでさみしいことを涙ぐみながら話したんだ。可哀想になってね。だから、スマートフォンで父親の写真を見せたんだ。そして、父親は在日朝鮮人を差別するようなことはしない優しい性格ですよ、会社からの帰りは夜10時の横浜市営地下鉄ブルーラインに乗って帰ってきますよ、と言ったんだ。彼女はきっとおやじにも話しかけるんじゃないかと思ってね。案の定、彼女はおやじと親しくなったな。きっとこんなことになるだろうことは、うすうす予想していたよ」
「そうだったのか。そんなこととは知らなかったよ」
「今日は京子さんと鎌倉めぐりが出来て本当に楽しかったよ」
「そりゃーよかったな。ところでお前、卒業したらどうするんだ?当然、東北大学医学部のどこかの医局に入るんだろう」
「それはまだ決めていない」
・・・・・・・・・・・・・・
修一は翌年、無事、東北大学医学部を卒業した。
そして医師国家試験にも通った。
山野は修一に医局は東北大学医学部ではなく横浜市立大学医学部に入るよう勧めた。
修一もそれに納得してくれた。
しかし修一が彼女にそれを伝えた所、彼女はそこまで私の都合を優先させてしまっては申し訳ありません、私が仙台に引っ越します、と言った。
彼女は仙台に引っ越し、仕事も仙台で見つけ、修一の近くにアパートを借りて住んでいる。


2025年3月21日(金)擱筆

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協力出版物語(小説)(上)

2024-09-24 11:05:11 | 小説
「協力出版物語」

という小説を書きました。

ホームページ・浅野浩二のHPの目次その2

にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

協力出版物語

(1)

1991年、日本はバブル経済が崩壊した。地価は下落し株価は暴落した。バブル景気に浮かれて株に投機し土地を買いあさった日本人は未曽有の不況に苦しむことになった。
北海道拓殖銀行が倒産し、ついで日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券が倒産した。日本の土地神話が崩れ、銀行の持つ債権は不良債権となり、銀行は企業に融資しなくなった。日銀はこれを何とかしようと、都市銀行に貸し出す金利を下げ、さらに日銀は金利をゼロにした。しかし不況でモノが売れない以上、企業は事業を拡大することはなく、また企業が融資を求めても銀行も企業の倒産を恐れ貸し渋りするようになった。
多くの企業が倒産し銀行は単に金を預けておくだけの貯金箱に成り下がった。
大量の失業者が出て、フリーターやニートはもはや、その存在が当たり前になった。
この不況は当然、出版業界にも及んだ。
日用品、生活必需品でさえ売れない時代に娯楽本など売れなくなるのは当たり前である。
それと、急速に発達したパソコンによって、人々はわざわざ紙の本を買わなくても、ネットで情報を集められるようになったのが出版不況に拍車をかけた。
大手でない、いくつかの出版社は、この出版不況を逆手にとって悪質商法に走った。
それは、「協力出版」「共同出版」などと名づけて、全国の書店に流通させる出版形態である。
それは、一言でいって、本を売ることによって、出版社が儲けを出す通常の出版形態ではなく、本を出版してみたいと思う人の心をくすぐる詐欺商法だった。
つまり、「作家としてデビューしてみませんか」という宣伝によって、全国から原稿を募集する。そして出版社に投稿してくるアマチュアの原稿に対して、「素晴らしい」「埋もれさせるにはもったいない」などと褒めちぎった感想を返し、投稿者を舞い上がらせる。そして、「我が社も出版費用の幾分かを払いますので商業出版してみませんか」と著者に誘いをかける。そして、版権(本の所有権)は出版社にある本を作る、というものである。しかし、実際は、出版社は本の制作費に金などビタ一文出しはせず、製作費、流通費、倉庫代、など、すべて著者負担の金額であり、さらに、その上に出版社が、100万円から200万円などという法外な金額を著者から、ふんだくって利益を出す、本を作って著者から得た法外な製作費によって利益を上げる詐欺商法だった。
・・・・・・・・・・・・
北海道十勝病院である。
個室の病室には、松田ゆみこの父親の松田白が脳梗塞で入院しており、肺炎を起こしていた。危篤の状態だった。病院からの「お父様は今日が山場かもしれません。ぜひともお越しください」という連絡をうけて、ゆみこは、急いで病院に駆けつけた。
個室には「面会謝絶」のカードがかけられていた。
ゆみこはトントンと病室の戸をノックした。
すると戸が開いて看護婦が出てきた。
「どちら様でしょうか?」
「松田白の娘、松田ゆみこです。父が危篤と聞いてやって来ました」
ゆみこはハアハアと息を切らしながら言った。
「どうぞお入りください」
看護婦に言われてゆみこは病室に入った。
病室には、うかない顔をした主治医とナースが立っていた。
父親の口には酸素マスクが被せてあった。
心電図のモニターには波形は時々、期外収縮の波が出ていた。
血圧は60/30。脈拍は120。SpO2は80%だった。
「松田さま。お父様は危篤状態です。昇圧剤も投与しましたが血圧が上がりません。不整脈も起こってきたのでカルチコールという抗不整脈薬を投与して何とか、持ちこたえていますが、あと1時間もつかどうかでしょう。話したいことがあったら、何なりとお話ください」
そう言って主治医は酸素マスクのキャップを取り外した。
「お、お父さん」
ゆみこは涙をハラハラと流しながらヒッシと父親に抱きついた。
「ゆ、ゆみこ」
父親の閉じていた目がうっすらと開き、かすかに唇が動いた。
「ゆ、ゆみこ。わ、私は死んでいく。しかし悲しむことはない。人はいつかは死ぬのは当然のことだ。私は79歳まで生きて幸せな人生だった。母さんと恋愛結婚し、仕事も成功した。そして、お前のような優しい立派な美しい娘まで生まれて・・・お前に看取られて死んでいくのはこの上ない幸せだ」
それは死んでいく者が最期の力を振り絞って発する言葉だった。
「お父さん」
ゆみこはハラハラと涙を流した。
「ゆ、ゆみこ。死ぬ前に最後のお願いがあるんだ」
「なあに。お父さん」
「わしは、山の挽歌、という随筆を書いた」
「ええ。知っているわよ。私家本として自費出版したわよね。お父さん」
「ゆみこ。あれはわしの拙い随筆だが、わしは自分が生きた証として、あれを出版して世に残しておきたい。どうか、あれを自費出版でかまわないから出版してくれないか」
「わかったわ。お父さん。必ず出版するわ」
「あ、ありがとう。わしの人生は幸せだった。こんな孝行娘に看取られて死んでいくのだから・・・」
そう言うや、父親は静かに目をつぶった。
心電図のモニターに映し出されいるバイタルが急に乱れだした。
血圧がどんどん下がっていくので医師は昇圧剤を静脈注射した。
「いかん。血圧が上がらない。心筋虚血が起こったのだろう」
それでも血圧は上がらず、さらに心電図の波形が出なくなっていき、やがてツーと平坦になり出した。
「私が心臓マッサージをする」
そう言って医師は、エッシ、エッシと胸骨に手を当てて心臓マッサージをした。
心臓マッサージによって、少しは心電図に波が現れ、血圧も少し上がったが、それは死んでいく人間をほんの少しの時間、僅かに延命する効果しかなかった。
数分経った。
医師の心臓マッサージも虚しく、心電図の波形はツーと平坦になった。
医師は心臓マッサージをやめた。
そして主治医は、呼吸と脈拍と対光反射を調べた。
すべての生存反応がなくなり、ペンライトを瞳に当てたが瞳孔は開きっぱなしで収縮することはなかった。
医師はゆみこに顔を向けて、
「ご臨終です」
と一言いった。
ゆみこの目からどっと涙が溢れ出した。
「おとうさーん」
ゆみこは泣きじゃくりながら父親を抱きしめた。
「おとうさん。わかったわ。約束は守るわ。山の挽歌は必ず出版するわ」
ゆみこは、もう息をしていない父親に向かって誓うように言った。
医師が死亡診断書を書いた。
ゆみこは葬儀社に電話して葬式の手続きを迅速にとった。
すぐに霊柩車が来て、ゆみこの父親の遺体は霊柩車で十勝の実家に運ばれた。
翌日の夜、松田白の通夜が行われた。
喪主は当然のごとく、ゆみこが勤めた。
通夜には、松田白の友人、知人、会社の同僚などがたくさん来た。
「いやあ。松田白さんはいい人だった」
「松田白さんは山を愛し、自然をこよなく愛するいい人だった」
「私も職場では白さんに色々と親切にしてもらったよ。本当にいい人だった」
などと、皆、松田白を懐かしむ発言ばかりだった。
その度に黒い喪服に身を包んだ、松田ゆみこは、「有難うございます」と深く頭を下げた。
父はこんなに皆に愛されていたんだ、という実感があらためて湧き上がってきて、ゆみこは、よよと涙を流した。
「しかし白さんも、こんな美しく正義感の強い気丈夫な娘さんを、この世に残してあの世へ行ったんだ。白さんも十分に満足した人生だっただろう」
「ゆみこさんの正義感の強さは父親ゆずりなんだろう」
「白さんは、いつも言っていたよ。親バカと言われるかもしれないが、わしの娘はわしの唯一の自慢なんじゃ、とね」
などと、来客たちは、喪主を務める、ゆみこを讃えた。
それはお世辞ではなかった。
ゆみこは子供の頃から、この世に二人といない絶世の美女として全校生徒の憧れの的だった。
大学は慶応大学の生物学部に進学した、ゆみこだったが、「ゆみこならミス日本に選ばれるわよ」と友達に言われて、本人は気が進まなかったが、ミス日本に応募したら、何と優勝してしまったのである。その美しさは、大学を卒業し結婚し子供を産んだ今でも、色あせることはなかった。
通夜が済み、翌日、葬式が行われ、松田白の骨は松田家の墓に葬られた。
これで父の死は一区切りついて、ゆみこはほっとした。
(さあ。父との約束だわ。父の遺稿集・山の挽歌を出版しなければ)
と、ゆみこは気持ちを切り替えた。
しかし、ゆみこは、本の出版については全く知識がなく父の遺稿をどこの出版社で出版すればいいのか、わからなかった。
そんな、ある日の夕食の時である。
新聞を読んでいたゆみこの娘の繭子が母親に言った。
「お母さん。文興社という出版社が原稿を募集しているわよ。何でも単なる自費出版ではなく、全国の書店に置かれる商業出版だって」
そう言って娘の繭子は母親に北海道新聞を渡した。
どれどれ、とゆみこは娘から北海道新聞を受けとって見てみた。
すると新聞には半面をとった文興社の大きな広告があった。
それには、こんな宣伝が書かれてあった。
「広くアマチュアの人からの原稿を募集します。原稿をお送り下さい。当社で原稿を詳しく読み込ませて頂きます。内容が良くて売れる見込みのある原稿は当社が費用の全額を持つ商業出版とします、内容は良いが売れるかどうかわからない原稿も商業出版としますが著者の方にも多少の費用負担をして頂く協力出版をお勧めします、売れる見込みのないと判断した原稿には自費出版をお勧めいたします」
と書かれてあった。
ゆみこは本の出版に関しては知識がなかったので、
「ふーん、面白そうね」
と興味を持った。
世間的な知名度も名もないアマチュアの書いた原稿など売れるものではない、ということは仄聞で知っていた。
しかし死んでいく父が今際の時に頼んだお願いである。
責任感が強く、父をこよなく愛していた、ゆみこは出来ることなら、父の遺稿集を出来るだけ多くの人に読んでもらいたいと思い、ダメで元々と思いながら勇気を出して文興社に父の原稿、山の挽歌、を送ってみた。
出版社から、どんな返事が返ってくるか、ハラハラドキドキものだった。
しかし驚いたことに、2週間後に、文興社から返事の封書が来た。
それには出版契約書と原稿に対する僅かな評価が書かれてあった。
「松田様がお送り致しました、山の挽歌、を拝読させて頂きました。慎重な出版会議の結果、作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました。このような優れた作品はぜひ世に問う価値があると思います。我が社としましても、山の挽歌、を書籍化して全国の書店に配布したいと思っております。おめでとうございます。しかしながら、作者であるお父様は知名度も名声もありません。なので出版にかかる費用は我が社も出させて頂きますが、松田様にも本の制作費の一部として200万円の協力金をお支払い頂けないでしょうか。ぜひとも協力出版をご検討ください」
との返事だった。
ゆみこに瞬時に疑問が起こった。
一番は「作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました」と言いながらも、作品のどこがとのように良いのかは一言も触れていないことだ。
本当に出版社は父の原稿を読んだのだろうか?
もしちゃんと読んでいるのなら、山の挽歌、の内容について、具体的にどこがどういう風に良いと一言くらいは出版社は言ってもいいではないか。
それが一言も述べられていないというのはおかしい。
本当に出版社は、父の遺稿・山の挽歌、を読んだのだろうか?
そして、おかしいと思ったことは著者への印税が、たったの2%であるということである。
普通、本を制作すると著者への印税は10%位である。
つまり定価1000円の本が1冊売れたのなら著者は100円、受け取れるのである。
そして、さらにおかしいと思ったことは。
出版契約書では版権(作った本の所有権)が文興社になっていることである。
普通、商売では、買い手が売り手に代金を支払い、そして物を買う。自費出版なら本は著者の所有物であるから、これは問題ない。しかし著者が出版社に金を払って、その上出版社の所有物である本を作るというのはおかしい。これはまるで買い手が金を払って、その上売り手に物を差し上げるようなものである。
ゆみこは、文興社に疑いをもつようになった。
それでネットで色々と文興社についての評判を調べてみた。
すると、文興社に対する悪評がわんさと出てきた。
ゆみこの疑惑は募っていった。
ちょうどその頃、自費出版本の制作を手掛け自費出版本を書店流通させていた渡辺勝二という人を知った。
渡辺勝二氏は日本の自費出版の文化を守りたいと思っている良心的な人だった。
そして、(本の所有権は著者にある)自費出版本を作成し、それを知人に差し上げるだけではなく、内容の良い、売れる見込みのある本であれば、それを書店に置くことをしていた。
ゆみこは渡辺勝二氏に電話をかけてみた。
ゆみこは、文興社が示してきた、山の挽歌、を本にした場合の制作費の概算を渡辺勝二氏に聞いてみた。
すると渡辺勝二氏は鼻息も荒く怒りに満ちた口調で言った。
「松田さん。山の挽歌、を本にした場合、その制作費は200万円などかかりません。1刷は1000部ですね。それなら50万円で作れます。文興社はとんでもない詐欺出版社です。あんな出版社にだまされてはいけない。あなたには200万円と言ってきたようですが、確かに文興社は著者に大体200万円くらい本の制作費の一部と言って請求しています。それだけでもう文興社は150万円以上の利益を得ています。文興社は本を売ることによって利益を出している出版社ではなく、本を作るという口実で著者から、巻き上げる製作費で莫大な利益を出している悪質詐な詐欺的な出版社です」
これを聞いて、ゆみこも文興社にだまされたことを確信した。
「わかりました。教えて下さって有難うございます。あやうく文興社にだまされる所でした。私も何とかして文興社との契約を取り消すよう動いてみます」
「松田さんは、もう文興社と出版契約を結んだのですか?」
「いえ。まだ文興社が一方的に出版契約書を送ってきただけでサインはしていません。仮契約はしてしまいましたが。文興社に出版に関する疑問を色々と電話で聞いているのですが、なかなか答えてくれないのです」
「そうですか。出版契約を結んでいないのなら、まだ本の制作は行われていないでしょう。早く手を打てば契約を反故にして、200万円もの大金を支払わなくて済む可能性はあると思います」
「そうですか。では頑張ってみます」
「文興社は非常に悪質な出版社です。実は私も自費出版業界のモラルの向上を目的として『文興社商法の研究』というわずかな内部資料を30部程度作成したのです。ところが、それが不運にも文興社の手に渡り、私を訴えてきたのです。名誉棄損、営業妨害だから1億円の損害賠償金を支払え、と言ってきたのです。文興社は数えきれない多くの著者から、ふんだくってきた法外な資金源で何人もの弁護士をつけて私を訴えてきたのです。これは名誉棄損ではなく文興社に対する批判封じです。私は堂々と戦う覚悟です。文興社は投稿者から送られてきた原稿を、おだてあげて、著者を舞い上がらせ、製作費の一部と言って法外な金額を著者から、ふんだくって、それで莫大な利益を上げている悪質出版社です。版権(本の所有権)は出版社にありますから、著者と出版契約をして200万円、著者からふんだくった後は本は自分で宣伝して売りな、です。著者はみな泣き寝入りしています。こんな悪質商法が許されていいはずがない」
「そうだったんですか」
「文興社だけじゃない。近代文〇社。新〇舎。碧〇社、なども同様です。協力出版などと銘打って、文興社と同じ手法で悪質出版をしている出版社は多くあります」
「そうなんですか?」
「ええ。そうです」
ゆみこは渡辺勝二からそれ以外でも出版に関する色々なことを教えてもらった。
さて、文興社が渡辺勝二氏を訴えた裁判の第一審では裁判長の判決は次のようなものであった。
「被告、渡辺勝二氏の『文興社商法の研究』は自費出版文化を守りたいという強い気持ちから公益を図る目的で作成されたものと考えられる。しかし『文興社商法の研究』は左側に文興社側の商法の事実が箇条書きで書かれており、その右側に渡辺勝二氏の見解が述べられている。これを読む者は、右側の渡辺勝二氏の見解だけを読む者もいる可能性がある。それによって文興社を批判的に見る者も出る可能性もある。よってその点は名誉棄損と考えられ、被告、渡辺勝二に300万円の支払いを命じる。なお訴訟費用の大部分(20分の19)は文興社の負担とする」
というものだった。
渡辺勝二氏は、このこじつけ判決に納得したわけではないが、これ以上、裁判を続けても意味は無いと考え控訴せず文興社に300万円支払って文興社と和解した。
しかし文興社はテレビ局、新聞社、全てに「全面勝利」とのファックスを送った。
さて。外国と違って日本、日本人のほとんどは裁判を好まない。裁判には弁護士をつけ高額な報酬を支払わねばならず、時間と金を非常に浪費するからだ。しかも判決は裁判長の気まぐれで決められ、裁判を起こしたからといって勝てるものでもない。
裁判長が異なれば判決はコロッと変わる。なので日本人は裁判を好まない。
しかし、ゆみこは違った。ゆみこは、それまで、えりもの森の裁判、サホロ岳ナキウサギの裁判、など不条理と思えることは堂々と裁判で訴えていた。たとえ判決に不服があっても、不条理なことに対しては、時間と金を費やしても戦う覚悟をもった肝の座った女だった。
ゆみこは文興社との仮契約を取り消そうと思った。
しかし相手は悪質な詐欺商法の出版社である。
それで、ゆみこは文興社とのやりとり、は後で裁判になった時の証拠として「メールでのやりとりでお願いします」と言った。
ゆみこの、冷静で堂々とした、物怖じしない態度に文興社も、「これはやっかいな相手だ」と思い、「仮契約は反故にしても構いません。200万円の全額返金にも応じます」との言質を取ることが出来た。
やったー、とゆみこが喜んだのはもちろんだが、ゆみこは、協力出版と銘打って、その実、本を作ることによって利益を出している出版社に対する強い義憤と悪質商法にだまされる被害者をださないようにとの思いは抑えることが出来なかった。
そんなある日の夕食の時である。
「お母さん。社会に対して言いたい事がたくさんあるんでしょ。それならブログをやってみない?」
娘の繭子が言った。
「えっ。ブログってあの何か日記みたいなもの?でもどうやって設定するのかわからないし。私はアナログ人間だから・・・・」
ゆみこは躊躇した。
「そんなに難しくはないわよ。お母さんは社会に対して言いたい事がいっぱいあるんだから、ブログでそれを発言したらいいと思うわ」
繭子は嬉しそうに言った。
・・・・・・・・・・
翌日の昼は日曜だった。
繭子は朝からパソコンをカチカチやっていた。
「繭子ちゃん。何やっているの?」
「へへ。いいこと」
1時間くらい経った。
「出来たわよ」
娘が大きな声で言った。
「どうしたの。何が出来たの?」
昼食の準備をしていた、ゆみこが娘のいじっていたパソコンを覗き込んだ。
「へへへ。お母さん。ブログの設定をしちゃったわよ。お母さんのブログよ」
「まあ、繭子ちゃん。そんな勝手にしないでよ」
「でももう設定しちゃったもん。まだ公開していないからタイトルやカテゴリーやプロフィールはお母さんが決めて」
しょうがないわね、と言いながらも、もう乗りかかった舟である。
ゆみこは、娘に教えてもらいながらブログを始める決意をした。
タイトルは。
エート。
何としようかしら?
ゆみこはストレートの美しい黒髪を掻きむしりながら考えた。
「ヒステリー女のブログ」「ザ・女瞬間湯沸し器」「独蜘蛛おばさんの批判箱」などなど。
いくつか考えたが「独蜘蛛おばさんの批判箱」で決定した。
名前は実名の「松田ゆみこ」にした。
プロフィールは以下のように書いた。
「北海道十勝地方在住。蜘蛛や野鳥、野生動物など自然に広く関心を持ち、自然保護活動に関わっています。寒いのは苦手ですが、北国の雄大な自然が大好きです。十勝自然保護協会会員。日本蜘蛛学会会員」
こうして松田ゆみこのブログ「毒蜘蛛おばさんの批判箱」が出来た。
一旦ブログが出来てしまえば、あとは記事のタイトルを決めて、記事をかけばいいだけだった。
ゆみこは自分が関わった文興社だけではなく共同出版・協力出版・共創出版などと名乗っている出版社すべての動向を調べて記事にしていった。
ネット上でいくつもある掲示板で匿名で文興社の批判を書く人はたくさん居たが、それらはみな感情的な幼稚な悪口ばかりだった。
その中で実名を出して、しっかりと読むに耐える記事を書いているのは、日本で、松田ゆみこ一人だけだった。
ゆみこは文興社にだまされた被害者ではない。
ゆみこが出版の仮契約をしていた、父の遺稿・山の挽歌、は、契約解除することが出来、200万円の全額を文興社に支払うことなく済んだのであるから。
しかし、ゆみこは正義感が強く度胸があったので、自分の恨みを書きなぐるのではなく、冷静に、協力出版の問題点を書いた。
そして、excite blogで、「共同出版・自費出版の被害をなくす会」というブログをも開設した。
ゆみことしては、協力出版をしている出版社を潰そうという意図は全く無く、原稿を投稿しようとする出版に疎い素人を錯誤するようなことは止めて欲しい、という思いだった。
ゆみこは記事に対して誰からでもコメントを受け入れるように、コメントをオープンにした。
しかし、ゆみこの記事に文興社は怒り狂った。
文興社は黙っていなかった。
・・・・・・・・・・・
ある日、日本蜘蛛学会会員からニュースレター「遊絲」が来た。
日本蜘蛛学会は会員220人の小規模学会である。
「この度、札幌市で活動報告を兼ねた懇親会を催したいと思っております。会員の方は奮って御参加ください」
と書かれてあった。
ゆみこは返信用ハガキの「出席」の方に〇をして投函した。
当日。ゆみこは質素倹約をモットーにしているので、白のリネンタッチトップスと青いスカートでANA Crowne Plazaホテル千歳へ行った。
一階の宴会場には、すでに20人ほどの学会員が来ていた。
ゆみこは実名でブログを出している上、元ミス日本で、その美しさは、アラサーになった今でも色あせていないので日本蜘蛛学会では皆の人気者だった。
「やあ。松田さん。お久しぶり」
「ブログ拝見していますよ。えりもの森裁判、サホロ岳ナキウサギ裁判に次ぎ、今度は、共同出版批判ですか。いやあ。松田さんは勇気があるお方だ。文興社から何か嫌がらせをされていませんか?」
「皆様。心配して下さって有難うございます。しかし大丈夫です。日本は言論の自由が保障されています。私は公共の福祉を目的として批判記事を書いています。向こうも言論には言論で対応してくるでしょう」
と堂々と言った。
そのように、ゆみこは悪いことは悪い、と物怖じせず堂々と言う性格だった。
日本蜘蛛学会の会合が終わった帰り。
・・・・・・・・・・・・
ゆみこは路上でタバコを吸ってる、北海道一の札付きの不良高校、北悪道工業高校の生徒10名を見かけ、
「あなた達、高校生でしょ。タバコは止めなさい」
と果敢にも注意したところ、リーゼントにサングラスの不良生徒達は立ち上がって、ゆみこに詰め寄った。
「なんやと。オバハン。われ。ええ度胸しとるやんけ。わしらを誰だちゅう思うとるねん」
と何故か北海道なのに関西弁ですごまれて、腕をつかまれたが、
「離しなさい」
とゆみこは毅然と注意した。それに怒った不良どもはゆみこを取り囲んだ。
「へへ。いいケツしてるやんけ」
一人がゆみこの尻をいやらしい手つきで触った。
「このチンピラ不良どもー」
ゆみこは、天地が裂けんばかりの声で怒鳴って、腕を掴んでいる前の男に思い切り膝で金蹴りを食らわせた。それが見事に命中し、男は、「うぎゃー」と叫び、玉を押えてピョンピョン跳ね回り、地面を這い回って悶え苦しんだ。大切な玉が潰れてしまったかもしれない。ゆみこの怒髪天を突くような声と虎のような眼差しに、不良達は、怖れをなして、スゴスゴと逃げてしまった。ゆみこはパッパッと服を掃って、唖然としている衆人をあとに、その場を去ろうとした。その時、一人の男がゆみこに駆け寄ってきた。
「あなたのド迫力に感服しました。どうか我が全日本女子プロレスに入って頂けないでしょうか」
声を掛けてきたのは、ヒール(悪役)がなく、今一人気がでない全日本女子プロレスのスカウトマンだった。
「いえ。私はか弱い女で、とても運動は出来ません」
と丁重に断わった。その日、ゆみこは家に帰ってから、「高校生の喫煙について」と題してブログ記事を書いて投稿した事は言うまでもない。
ゆみこは文興社に限らず共同出版をしている出版社、すべての動向を注意深く見て記事にしていった。
しかしその中でも文興社が一番、悪質なのがわかってきた。
尾崎浩二氏という無名の自称ジャーナリストが「危ない!共同出版」という本を出版した。
ゆみこは、共同出版を批判する正義感のある人もいるのだな、と感心してその本を買って読んでみた。しかし驚いたことに「危ない!共同出版」では共同出版社すべてを公正・中立な立場から批判しているのではなかった。しかもページ数もごくわずかだった。「危ない!共同出版」ではもっぱら新〇舎だけを批判していて、他の共同出版社の批判は全くなかった。新〇舎は自社ビルを持っておらず、貸しビルにテナント料を払って共同出版をしていた。しかしこの「危ない!共同出版」やネットの掲示板での新〇舎批判によって、新〇舎に原稿を投稿する者の数は激減し、新〇舎は高額なテナント料を支払うことが出来なくなってしまって倒産した。出版社が倒産してしまっては出版社から協力出版で出版している著者たちの本は発売出来なくなってしまう。そこで新〇舎の著者たちの本を発売できるようにと新〇舎は文興社に事業譲渡した。そして尾崎浩二氏はリタイアメント情報センターという協力出版に関する相談をするNPO法人の所長になった。しかしこのリタイアメント情報センターは文興社の傘下の組織であった。文興社は尾崎浩二という者を使い新〇舎を倒産させ、新〇舎の著者たちの本を全部、文興社から出版を継続して出来るようにしようと文興社は最初から計画していたのである。そして、その通りになった。リタイアメント情報センターはうわべは、協力出版・自費出版に関する相談をするという名目だが、実質的には、すべての相談者を文興社から出版することを、言葉巧み勧める組織なのである。つまりこれは文興社にとって協力出版社の競争社である新〇舎を潰し協力出版社は文興社一社にしようという文興社の計画だったのである。それ以外でも文興社の悪質商法は数えきれないほどたくさんあった。

ある時、ゆみこに柴田晴郎という歴史に詳しい男からメールが届いた。
それには、「あなたの主張に賛同しました。私は本の出版にある程度くわしいので、出版に関してわからないことがあったら何でも聞いて下さい」と言ってきた。ゆみこも初めは柴田晴郎を信じた。しかし柴田晴郎は実は文興社の工作員で、ゆみこの貴重な時間を奪って、ゆみこに多大な労力を払わせて疲労させるのが目的だったのである。

ゆみこは、協力出版の問題を、ブログで、ひるむことなく批判し続けた。
ゆみこは、文興社に「共同出版と銘打って文興社に出版権のある本をつくり、著者から本の制作費の一部と言って法外な金額を取って、本を売ることによってではなく、本を制作する費用によって利益を得て経営している貴社の商法は錯誤的、詐欺的商法であると思います。泣き寝入りしている著者もたくさんいます。それは間違っているのではないでしょうか?」という内容の公開質問状を送った。
しかし文興社は良心のカケラも無い悪質な人間ばかりなので、ゆみこの質問状は無視した。
文興社はゆみこに対し匿名でウイルスメールを送ったり、さらには営業妨害だからブログの文興社批判の記事は削除するように言ってきた。
しかし、ゆみこは気性の強い女だったので、文興社の悪質な要求にひるむことなく、ブログで文興社を批判し続けた。
・・・・・・・・・・・・・
2010年の7月7日のことである。
風呂の蛇口をひねったがお湯が出てこなかった。
ガスはつく。
どうしてだろうと思って、ゆみこは、風呂のお湯の栓を開けたまま、家の外に出て給湯器を見てみた。すると給湯器は動いていなかった。
給湯器は20年前に設置したものなので、もう寿命になったのだろう。
ゆみこは急いで、給湯器交換業者に電話した。
「もしもし。給湯器が故障してしまったのですが、見ていただけないでしょうか?」
「はい。わかりました。今、使っている給湯器はいつ設置したのですか?」
「20年前です」
「音はなりますか?」
「いいえ。全く鳴りません」
「そうですか。給湯器の寿命は10年が目途です。まず寿命で交換時期だと思います。7万円ほどの給湯器がありますから、交換ということでよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願い致します」
10分ほどで給湯器交換業者が来た。
修理人は給湯器を開いた。
中は激しく劣化していた。
「やはり、もう寿命ですね。交換しかないですね。新しい給湯器は7万円ほどですが、交換でよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願いします」
「では交換にとりかかります。交換には1時間ほどかかりますので、家の中で待っていて下さい」
と修理人は言った。
修理人は給湯器の交換の作業を始めた。
心の優しいゆみこは、
「素早い対応を有難うございます。お茶とお菓子を召し上がって下さい」
と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いた。
すると修理人は、
「これはこれは、どうも有難うございます」
と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。しかし修理人は茶を飲み終わると、人が変わったように素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して、いきなり由美子の口に当てた。
「な、何をするんですか?」
修理人の、いきなりの訳の分からない行為に、ゆみこは大声を出して抵抗した。
しかしなぜか急激な眠気がゆみこを襲ってきて、ゆみこの意識は薄れていった。

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協力出版物語(小説)(下)

2024-09-24 11:00:16 | 小説
(2)

由美子は目を覚ました。
見知らぬ、どこかの部屋の一室だった。
見知らぬ大勢の男たちが、由美子を取り囲んでタバコを吹かしながら、ニヤニヤ由美子に視線を向けていた。
「ここはどこ?あなた達は一体、誰なのですか?」
由美子は回りの男たちを見まわしながら、おびえながら言った。
「何処だと思う?」
一人の男が、薄ら笑いを浮かべながら由美子をからかうように聞いた。
「わ、わかりません。教えて下さい」
由美子は高まってくる心臓の鼓動を感じながら聞いた。
「ふふふ。教えてやろう。ここは東京の文興社の本社の社長室さ」
男はふてぶてしい口調で言った。
「な、なぜ私が東京の文興社の本社に居るのですか?」
由美子の不安は募っていき、得体の知れない恐怖から、その声は震えていた。
由美子には、さっぱり訳が分からなかった。
由美子の記憶にあるのは、北海道の自宅にいた時、給湯器が故障して修理の人が来てくれて給湯器を交換してくれた時のことが、記憶している直近のことだった。
心の優しい由美子は、修理人に、「お疲れでしょう。お茶とお菓子を召し上がって下さい」と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いたのである。
修理人は、「これはこれは、どうも有難うございます」と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。修理人は茶を飲み終わると、素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して由美子の口に当てた。「な、何をするんですか?」庭師の、いきなりの訳の分からない行為に対して大声を出したのが、由美子が覚えている最後の記憶だった。その後、由美子は気を失ってしまったのである。
それが、どうして今、自分が東京の新宿の文興社の本社に居るのか、由美子には、さっぱりわからなかった。
「ふふふ。教えてやろう。確かにあの給湯器は20年前に設置された物だが、まだ使えたんだ。しかし、わざと故障させて使えなくしたんだよ。そして、あの給湯器の修理人に100万円と引き換えに、ある仕事を頼んだのさ。給湯器の取り付けの、合間に、お前の口をタオルで塞げと。あのタオルにはクロロホルムがたっぷり沁み込んでいたのさ。我が社の社員が3人、車でお前の家の近くに、ひかえていたのさ。眠ってしまったお前を、車に乗せ、北海道から青函トンネルを抜け、東北自動車道を走らせて、お前をここまで連れてきたってわけさ」
男は勝ち誇ったように言った。
「な、何でそんなことをしたのですか。これは犯罪ですよ。私は警察に訴えます」
由美子は男たちをにらみつけて激しい口調で言った。
「何でそんなことをするのですか、だとよ。トロい女だな。そんなこともわからないのか?」
男が言うと、皆が、わっははは、と嘲るように笑った。
「本当にお前を拉致した理由が分からないのか?」
男が念を押して確かめるように聞いた。
「わ、わかりません」
由美子は堂々と言った。
「トロい女だな。じゃあ教えてやるぜ。お前は我が社に何をした?」
男は余裕の口調で、口元を歪めながら言った。
「な、何って何でしょうか、私は何も違法なことはしていません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけるんじゃないよ。お前はブログやJANJAN記事で、さんざん、我が社の信用を落としてきたじゃねえか」
男は怒鳴りつけるように言った。
男は続けて言った。
「お前が2007年にブログを始めて、我が社を批判する記事を書くようになってから、我が社に送られて来る原稿が、それまでの1/3までに減ってしまったんだ。全部お前のせいだ。お前は自分のしたことが、とんでもない営業妨害の名誉棄損だということが、わからないのか?」
男は怒鳴りつけるように言った。
それは違います、と由美子は言った。
「た、確かに私は、2007年にブログを始めて、文興社に対して批判的な記事を書いてきました。しかし私は、事実を調べて事実を書いてきただけです。公共の福祉に反していませんから、私の書いてきた記事は、営業妨害でも名誉棄損でもありません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけんじゃねえ」
窓際に居た別の男が怒鳴りつけた。
「何が営業妨害でも名誉棄損ないだ。これは立派な営業妨害だ」
男は口角泡を飛ばして言った。
「そうだ。そうだ。これは営業妨害、名誉棄損いがいの何物でもないぞ」
男はドスの効いた声で恫喝的に言った。
その場に居合わせた、みな、男と同じことを唱和した。
由美子は文興社の無法な態度に驚いた。
「と、ところで、なぜ私にクロロホルムを嗅がせたり、意識のない私を車で輸送したりしたのですか。これこそ完全な犯罪ですよ」
由美子は理路整然とした態度で言った。
「その理由がわからねーか?」
男が由美子を小ばかにするような口調で言った。
「わかりません」
由美子はキッパリと言った。
「やれやれ。トロい女だな。わからねーなら教えてやるよ。我が社に対する、お前の営業妨害、名誉棄損のオトシマエをつけさせるためさ。俺たちに詫びを入れさせるためさ」
ここに至って、由美子は文興社のアクドサに気づいた。
「あなた達は卑劣です。あなた達のしていることは犯罪です」
由美子はキッパリと言った。
「わかってねーな。俺たちは法を守ろう、なんて気持ちはカケラも持ち合わせていないんだぜ」
男は堂々と言った。
「卑劣です。あなた達は卑劣です」
由美子は腹から声を振り絞って立て続けに叫んだ。
しかし、文興社の社員たちは、由美子の訴えなど、どこ吹く風といった様子だった。
「おい。この女の詫び、まず何からする?」
男が皆を見回して言った。
「決まってんだろ。今まで散々、煮え湯を飲まされてきたんだ。まず素っ裸になって、オレ達の前で裸踊りをしてもらおうじゃねえか」
一人の男が言うと他の男たちも、おう、そうだそうだ、と言い囃した。
裸踊りと聞いて、咄嗟にそのイメージが由美子の頭に映って、由美子はぞっとして全身に鳥肌が立った。
「おう。由美子。まず着ている服を全部、脱いで、素っ裸になりな」
男が恫喝的な口調で言った。
「ほら。早く脱げ」
皆が囃し立てた。
「嫌です。そんなこと。あなた達は人間としての良心というものは無いのですか」
由美子は目を吊り上げて言った。
「強情な女だ。自分で脱ぐのが嫌というのならオレ達が脱がすまでだぞ」
一人の男が言った。
「それが嫌ならオレ達でお前を素っ裸にして浣腸するぞ」
別の男が言った。
一人の男が大きな、1000mlのガラス製浣腸器と、ぬるま湯で満たされた大きな洗面器を由美子の前に置いた。
「ふふふ。この洗面器には1リットルのグリセリンが入っているぜ。お前が自分で服を脱がない、というのなら、お前を俺たちが脱がせ、後ろ手に縛り、四つん這いのポーズにして、こいつを全部、お前の尻の穴に注ぎ込んでやる」
「ふふふ。1リットル全部、注ぎ込んでやる。そしてトイレには行かせないぜ。お前は便を排泄したい苦しい欲求に耐えるか、オレ達の前で、クソを大量にぶちまける、かのどっちかだ。お前が苦しみ、のたうち回る姿、そしてクソをぶちまける姿、をしっかりビデオに撮ってやる」
男たちが由美子に、そんな脅しをした。
由美子は、なかなか決断がつかなかった。
悪魔たちは実際、それをやるだろう。
由美子は、ぞっとしてすくんでしまった。
由美子は眉を寄せて、渋面で悩んでいた。
由美子は今まで、夫いがいの男に体を見られたことは一度もない。
その由美子が迷う姿を見るのも、悪魔たちにとっては、この上ない楽しみだった。
健全で自然や動物を愛する由美子にとってSМプレイなどというものは、訳の分からない、頭のおかしな人間のする行為としか思えなかった。
由美子も子供の頃、便秘になったことがあり、自分で浣腸した経験はあった。
誰に見られているわけでもなく、イチジク浣腸、1本だったが、尻の穴に、プスッとイチジク浣腸の茎を差し込む恥ずかしさ、そして液体を注ぎ込む恥ずかしさ、そして苦しい便意が起こってきた経験はしているので、浣腸の苦しさは知っている。衆人環視の中、四つん這いにされ、大きな浣腸器で浣腸され、悶え苦しんだ挙句、一気に便を排泄するのを見られ、さらに、それをビデオで撮影される恥ずかしさには、とても耐えられなかった。
しかも文興社の悪質商法をブログ記事で批判してきた、その社員たちの前で裸になることなど屈辱の極みだった。
「ふふふ。脱がないというのなら浣腸だな」
そう言って、決断できず迷っている由美子に男たちが近づいてきた。
「ま、待って」
由美子が制した。
男たちの足がピタリと止まった。
「どうした?」
男たちは、せせら笑って立ち止まった。
「ぬ、脱ぎます」
由美子は、とうとう観念して、顔を真っ赤にして、小さな声で言った。
由美子は今まで手厳しく文興社批判のブログ記事を書いてきた。
社長の瓜谷綱延にまで公開質問状を送りもした。
当然、由美子は、文興社は自分のことを快く思っていなく、目障り極まりない存在と思っていることは容易に推測できた。文興社と由美子は敵対関係だった。
由美子は、文興社に騙されて、法外な金を払って、文興社から著者として本を出版した被害者ではない。なので文興社に恨みはない。協力出版と銘打って、著者を心地の良い言葉でおだて、本の制作費用といって儲けるアクドイ商法の犠牲者を無くしたいという、正義感から文興社批判の記事を書いてきたのである。版権が文興社にあるから、契約を交わして金を受けとったら、もう文興社は、著者の本を裁断処分しようが、どうしようが一向に構わないのである。
むしろ、文興社は月に500冊も協力出版本を出版するので、倉庫代がかさみ、そしてそもそもプロ作家でない無名の一般人の本など、売れないのである。なので、宣伝など全くせず、宣伝は自分でやれ、それで、友人、親戚、知人なと数人は買うだろう。あとは、倉庫代がかさむから、裁断処分にする、というのが、文興社商法なのである。由美子は文興社に騙されそうになった時、真っ先に考えたのは、この悪質商法での被害者を無くさなくては、という強い正義感であり、悪質商法に騙されて泣いている著者たちに対する憐憫、慈愛の念であり、これ以上、文興社の悪質商法に騙される被害者を出してはならない、という強い正義感だった。
しかし由美子は、天使のように心が優しいので、悪を憎んで人を憎まず、であり、文興社を憎んではいなかった。しかし文興社の社員たちは、良心のカケラも持ち合わせていない外道の集まりだったのである。そのため、由美子のブログには、文興社からの嫌がらせのコメントが、多く書き込まれた。さらに柴田晴郎などという、実名の人間を使って由美子に、散々な嫌がらせ、をしたのである。
由美子は膨大な時間と手間をかけて、それらの嫌がらせに対応した。
そういう辛抱強さも由美子は持っていた。
しかし由美子は人間を信じていた。
どんなに文興社が自分を嫌っていても、文興社も言論には言論で対応してくるだろうと確信していたのである。
しかし現実は違った。ことを由美子は今、思い知らされた。
文興社は犯罪をも何とも思わない、無法者の集団だったのである。
「ほら。由美子。脱ぐ、と言っただろう。早くとっとと服を脱げ」
男が吐き捨てるように言った。
「ほら。早く脱ぎな。脱がないと、オレ達が強引に脱がして、浣腸するぞ」
グリセリン液のたっぷり入った浣腸器を持っていた男が、立ち上がって由美子に近づいてきた。
「わ、わかりました。ぬ、脱ぎます」
由美子は声を震わせながら言った。
由美子は横座りしたまま、着ていたジャケットを、手をブルブル震わせながら、取った。
これで由美子は、ロングスカートに、白いシャツという姿となった。
シャツの下には、豊満な乳房を納めたブラジャーの輪郭が、クッキリと見えた。
二つの大きな果実を納めたブラジャーは内側から白いシャツを力強く押し上げて、シャツに二つの仲良く並んだ、こんもりとした盛り上がりを形作っていた。
「おおー。すげー、おっぱいじゃねえか」
男たちは、思わずゴクリと唾を呑み込んだ。
中には、もうすでに、股間がテントを張っている者もいた。
「おい。シャツも脱いで、スカートも脱ぐんだ」
男が言った。
由美子は、ワナワナと手を震わせながら、シャツのボタンを上から外していった。
シャツの内側からは、胸の上に仲良く並んで、張りついている二つの乳房を、窮屈そうに納めて、形よく盛り上がっている、白いブラジャーの二つの膨らみが、顕わになった。
「おい。由美子。シャツをとれ。そしてスカートも降ろせ」
男が言った。
由美子は今にも泣き出しそうな、哀愁のある憂いの表情で、シャツを腕から抜きとって外した。そして、中腰になり、スカートのホックを外し、スカート下げて、足から抜きとった。
悪魔どもの命令には逆らえないと覚悟が出来ていたのである。
スカートを降ろしたことによって、ムッチリとした、大きな尻の肉を納めて、股間に貼りついている、由美子の白いパンティーが露わになった。
由美子はスカートを抜きとると、必死で両手で胸の膨らみを押さえながら、ペタンと座り込んでしまった。
由美子は今にも泣き出しそうな感じだった。
無理もない。
今まで、散々、強気にブログ記事で批判してきた文興社の男たちに、乳房と尻の肉を覆い隠すだけの下着姿で取り囲まれているのである。
どうして、こんな屈辱にか弱い女の精神が耐えられよう。
しかし、男たちは、そんな由美子の心を見透かしているかの如く、ことさら意地悪く、ニヤニヤと、ピッチリと閉じ合わせた由美子の体に、いやらしい視線を向けている。
「ふふふ。どうだ。由美子。今の気持ちは?」
ポタリ。
由美子の目から、キラリと光る一筋の涙が頬を伝わって流れた。
「おい。由美子。こんなことで泣くくらいなら、女の分際で、オレ達に戦いを挑もうなんて考えるんじゃねーよ」
「お前もバカなヤツだぜ。女のクセにオレ達をコケにしよう、なんて大それた事をするから、こんなザマになるんだぜ」
悪魔たちは、由美子を徹底的に貶めるような言葉を吐きかけた。
由美子は、太腿をピッチリと閉じ、両手で胸の膨らみをヒシッと覆うことによって、狂せんばかりの屈辱に耐えた。
普通の女なら、とっくに泣き崩れていただろう。
人並みはずれた強靭な精神の由美子だから、こんな屈辱にも、かろうじて耐えれたのである。
しばしの時間が流れた。
由美子は、この屈辱的な姿を見られることで、悪魔たちの、復讐の炎が消え、彼らの溜飲が下がることを、祈るように期待した。
しかし事態はそうは動かなかった。
「おい。由美子。座ってじっとしていないで、立ち上がれ。お前の下着の立ち姿を見せろ」
男の一人が言った。
「由美子。さあ。立ちな。下着を着ているから恥ずかしくはないだろう」
「お前の立ち姿を見たら、予定していた、裸踊りは勘弁してやるぜ」
最後の発言が由美子の心を動かした。
下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がるのなら・・・
自分の下着姿を見ることで彼らが満足するのなら・・・
そう思って、由美子は、横座りから、ゆっくりと立ち上がった。
ヒシッと胸の二つの膨らみを覆っている白いブラジャーを覆い隠していた両手の一方を、パンティーの谷間に当てた。
それでも恥肉を納めて盛り上がっている女の部分であるビーナスの丘は隠しきれなかったが。
由美子は片手で胸の膨らみを覆い、片手で恥部を覆った。
それは、ボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
由美子の白いパンティーと白いブラジャーだけの下着姿は美しかった。
華奢な肩、細い腕、見事にくびれた腰。その割には、豊満な胸の膨らみと、大きな尻、それに続く大きな太腿。まさに理想のプロポーションであり、グラビアアイドルとして、週刊誌の表紙を飾っても何ら不思議ではなかった。
下着姿を見られることは恥ずかしかったが、下着姿はビキニと同じように、女の恥ずかしい所を隠している。
由美子は、彼らが自分の下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がって、解放されるのなら、それに甘んじよう、と思った。
彼らの視線は女の恥肉を納めて、こんもりと盛り上がっている、ビーナスの丘に集中していた。
「おお。何て美しい体つきだ」
「何て大きな尻なんだ」
「何て大きな太腿なんだ。しがみついて頬ずりしたいな」
男たちの発言は、由美子をおとしめ、嘲笑するものから、由美子の肉体美を賛美するものに変わっていた。
無理もない。
由美子は大学1年の夏、友達に誘われて、海水浴場に行ったことがあるが、その時、由美子は友達が選んでくれた、ビキニを着て、浜辺の出た経験があるのだが、由美子は海水浴場にいる男たち全員の激しい、食い入るように向けられた視線を痛いほど感じたのである。
「おー。ハクイ女」
「女優かグラビアアイドルじゃねーか」
という声も聞こえてきた。
由美子は恥ずかしくなって、友人の手をヒシッと掴んで、友人に頼んで、ビーチの端の方の、人があまりいない所にビニールシートを敷いてもらって、日光浴をした経験があるのだが、海水浴場の男たち全員の視線は由美子に集まっていた。
由美子がビキニを着て、衆人の前に、ビキニに覆われているとはいえ裸同然の体を晒すのは、恥ずかしいくはあったが、自分の肉体が、海水浴場の男たちを惹きつけていることに、ほの甘い、心地よい快感が起こっていたことも事実だった。
今、由美子はそれと同じ気分だった。
男たちに取り囲まれて、下着姿をまじまじと見られているのは屈辱とはいえ、それで彼らが満足して、それで放免されるのなら、それもよかろう、という気持ちに由美子は変わっていたのである。
しばしの沈黙の時間が経った。
(さあ。私の下着姿を見ることで満足できるのなら、見るがいいわ)
由美子は、そんな優越感に浸っていた。
しかし、この後のストーリーは、由美子の予想していた展開にはならなかった。
由美子の背後にいた文興社の社員が二人、由美子に気づかれないよう、抜き足差し足で由美子に近づいてきたのである。
由美子はそれに気づいていない。
男の一人が、素早く由美子のブラジャーのホックをプチンと外してしまったのである。
豊満な由美子の乳房を包んでいた、ブラジャーがその弾力を失って、一気に収縮した。
そして男はブラジャーの肩紐を肩から外してしまった。
肩紐はブラジャーを由美子の体に取りつけている機能を失って、肘の辺りに、だらしなく、引っ掛かっているだけの状態になった。
「ああっ。な、何をするの?」
由美子は思わず、大声で叫んだ。
由美子は、何とかブラジャーが落ちてしまわないように、必死で両手でブラジャーを押さえた。
と、その時。
由美子の背後に居た、もう一人の男が、素早く、由美子のパンティーを掴んで、一気に、サーと引き下げてしまったのである。
「ああっ」
由美子は、こういう時には女は誰でもするように、反射的に両手でアソコを隠した。
男の一人は、由美子の肘が伸びたのをいいことに、由美子のブラジャーの肩紐を由美子の腕から抜きとってしまった。
もう一人の男は、由美子のパンティーを足首まで引き下げ、足首を持ち上げて、足から抜きとってしまった。
一瞬のことだった。
これで由美子はブラジャーもパンティーもむしり取られて、一糸まとわぬ丸裸になってしまった。
由美子は乳房とアソコを手で隠しながら、クナクナと座り込んでしまった。
「あっははは」
部屋にいる男たち全員が嘲笑した。
「卑劣だわ。あなた達は卑劣だわ」
由美子は涙まじりに言った。
「ふふふ。由美子。セクシーな下着姿をオレ達に見せつけて、いい気になっていたようだが、残念だったな」
男が言った。
「ふふふ。由美子。たかが下着の立ち姿を見ただけで、お前のしてきた営業妨害をチャラにしてやろう、なんてオレ達が思うわけがねえんだよ」
「ふふふ。最初っから、こういうふうに、お前に期待をもたせて、いい気持ちにさせておいて、そして、貶めてやろう、という計画を立てていたのさ」
悪魔たちは、そう言って、あっははは、と哄笑した。
由美子は文興社の社員たちの、卑劣さを、あらためて実感した。
もう由美子は文興社の社員たちの言う事を絶対、信じない確信をもった。
由美子からブラジャーとパンティーをとった男は、由美子のパンティーを調べ出した。
パンティーを裏返して、体に触れている面を出した。
パンティーのクロッチ部分には、うっすらと黄色がかった一条の線の跡が見えた。
男は由美子のパンティーを、突きつけるように差し出して、
「おい。由美子。この染みは何だ?」
と聞いた。
由美子は、それを見ると真っ赤になった。
「おい。由美子。この染みは何だ、と聞いているんだ」
由美子が答えないので男は再度、恫喝的な口調で聞いた。
しかし由美子は答えられない。当然である。花も恥じらう乙女の由美子に、そんなことを答えられるはずがない。答えられないことを知った上で、悪魔どもは由美子に意地の悪い質問をしているのである。
由美子は顔を真っ赤にして俯いている。
「やれやれ。オレ達に戦いを挑もうという、のなら、パンティーにオシッコの跡なんて、つけちゃいけねーぜ。子供じゃねーんだから」
男はそんな揶揄をした。
由美子は真っ赤になった。
「どれ、匂いを嗅いでみるか。勇ましい女戦士のパンティーの匂いを」
そう言って男は由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を近づけた。
「や、やめてー」
黙っていた由美子が、羞恥心に耐えきれず、叫んだ。
しかし悪魔たちは、由美子の叫びなど、どこ吹く風と聞く耳など持たない。
悪魔たちは、ニヤニヤ笑いながら、裏返した由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
「女はマンコの中までは洗わないんだよ。何故だか知っているか?」
隣にいた文興社の社員が聞いた。
「知らなかった。なぜ洗わないんだ?」
悪魔男が聞き返した。
「女の膣内にはデーデルライン桿菌という菌があってな。それがグリコーゲンから乳酸を作っているんだよ。そのため膣内がpHが5.0くらいに保たれていて、それが雑菌の侵入を防いでいるんだよ。それが膣や子宮を雑菌から守っているんだよ。だから女は膣の中までは決して洗わないんだよ」
男が説明した。
「ふーん。そうだったのか。知らなかったぜ。男は、毎日、包皮を剝いて亀頭についた恥垢をちゃんと洗って清潔にしているというのにな。女って不潔なんだな」
悪魔たちは感心したように言った。
そして、なぜ由美子がパンティーを嗅がれそうになった時、声に出して嫌がったかを理解した。
「おい。オレにもパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」
「オレにも」
「オレにも」
男たちが騒めき始めた。
「おい。由美子。パンティーを返してほしいか?」
男が聞いた。
「か、返して下さい」
由美子は泣きじゃくりながら言った。
「だったら、ここまで取りに来な」
そう言って男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
パンティーは男の手から、物憂げにダランと垂れていた。
由美子は、乳房とアソコを手で隠しながら、ゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、反対側にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
由美子は男の持っている自分のパンティーをとろうと手を伸ばした。
すると男はサッと手を引っ込めた。
「ああっ」
由美子はパンティーを取れず困惑した。
「ふふふ。あいつがお前のパンティーの匂いを嗅ぎたいと言っているんだ。残念だったな」
と男はふてぶてしい口調で言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
そしてパンティーを投げた男と同様に、
「おい。由美子。パンティーを返してやるぜ。オレはウソは言わない。だから、ここまで取りに来な」
そう言って、男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
由美子は頭の中がグチャグチャになってしまっていて、もう正常な判断力が無くなっていた。
そのため、「返して下さい」と言ってヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、別の所にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
ここに至って由美子は悪魔たちは、パンティーを返す気などないのだ、ということを100%確信した。
「うわーん」
由美子は泣きながら、床の上に座り込んでしまった。
由美子のパンティーのパス回しが部屋にいる文興社の社員たち全員に行われた。
男たちは、パンティーを受けとると、
「うわー。本当だ。オシッコの跡がついているよ」
と言ったり、クロッチ部分に鼻を当てて、パンティーの匂いを嗅いで、
「うわー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
と言ったりした。
由美子にとってこれ以上の屈辱はなかった。
毅然とした態度で堂々と文興社を批判するブログ記事を書いてきた由美子。
文興社の反論や嫌がらせは覚悟していた、由美子だっだが、まさか、こんな非道な犯罪までするとは思っていなかったのである。
しかし悪魔どもは人間なら必ず持っているはずの良心というものを、完全に捨て去っていたのである。
「おい。由美子。お前は、こんな臭いパンティーを履きながら、オレたちを批難していたのか。恥ずかしくないのか」
などと、由美子を揶揄した。
「ふふふ。裸になったくらいで、オトシマエがついたなどと、甘ったれたことを思うなよ。お前の記事のおかげで、投稿者が1/3に減ってしまったんだ。年間の損失額は低く見積もってみても、10億だ」
「おい。由美子。オレ達をコケにした詫びを言え」
男たちは恫喝的な口調で言った。
しかし由美子に答えられるはずがない。
由美子は正当な批判記事を書いてきただけであって、悪いのは詐欺的商法をしている文興社の方なのだから。
しかし無法者どもに、そんなことは通用しない。
黙っている由美子に、男の一人が一枚の紙を放り投げた。
「おい。由美子。どうしても詫びを言わないというのなら、ここに書いてある文を読め。土下座してな」
男は恫喝的な口調で言った。
由美子はおそるおそる、その紙を開いてみた。
それは全身の毛穴から血が噴き出るかと思うほど、の屈辱的な文章だったからだ。
・・・・・・・・・・・・・
それには、こう書かれてあった。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
紙には、こう書かれてあった。
何という強悪な人間たちだろうと由美子は思った。
文興社の悪魔たちはクロロホルムを嗅がせて、車に乗せて拉致して文興社本社に連れ込み、その上、由美子を一糸まとわぬ丸裸にして、その姿で、屈辱的な詫びを言わせようというのだ。
由美子は一瞬、舌を噛んで死のうかと思った。
その思いは、どんとん募っていき、由美子は舌を歯で挟んで死ぬ用意をした。
もう由美子には死ぬ覚悟が出来ていた。
しかし人間が死ぬ間際には、これまで生きてきた中の様々なことが、一瞬の内に頭に浮かんでくるものである。
死を覚悟した由美子にも、それが起こっていた。
学生時代の楽しかった思い出。
文興社に父の原稿を送って騙されたこと。
ブログを始め、文興社と戦おうと思い決めて、文興社批判の記事を書き出した時のこと。
それらが走馬灯のように、由美子の頭をよぎっていった。
それらの思い出の中で、由美子の父親の姿が一際、明瞭に浮かび上がった。
由美子が物心がついた時から優しく、時には、厳しく、由美子を可愛がり、色々なことを教えてくれた父。由美子の苦手な数学を何時間もかけて教えてくれた父。
自然の美しさ、そして人の命の尊さを教えてくれた父。
由美子は父を世界一尊敬していた。
その父が末期ガンになって入院し死ぬ間際に言った言葉が明瞭に思い出されてきたのである。
余命、一カ月と告げられて以来、由美子は病院に泊まり込みで父を看病した。
「お父さん。死なないで」
病院のベッドに酸素マスクと点滴をつけられ、血圧が低下してきた父は、遺言として、由美子にこう言ったのである。
「ゆ、由美子。世の中で一番、大切なものが二つある。それが何だかわかるか?」
由美子は即座には答えられなかった。
なので父親がすぐに、その答えを言った。
「由美子。それは人の命だ。そして正義だ。この二つが人間にとって一番、大切なものだ。この二つは決して捨ててはならない。由美子。お前はこの二つを決して捨ててはならない。他人の命を大切にし、そして自分の命も大切にしろ。たとえ、どんなに苦しい過酷な目にあっても、決して死んではならない。わかったな」
「わかったわ。お父さん」
その言葉を最期に父は死んだのである。
由美子は、うわーん、と洪水のように溢れ出る涙を流して泣きながら、いつまでも死んだ父にすがりついて泣いた。
その言葉が明瞭に浮かんできたのである。
そして由美子は、今、その意味に隠された真意を理解させられた思いがした。
正義感の強い、由美子の父は、由美子がブログで文興社を批判する記事を書き出したのを止めなかった。由美子の正義感の強さも父親ゆずりなのである。
由美子は今、はっきりと悟った。
世間そして人間というものを知っていた父。
人間の善も悪も知っていた父。
一人の人間が巨大な悪の組織に戦いを挑めば、こういう事になることを父は予見していたのだ。
由美子は文興社批判の記事を書いている由美子を黙って、止めなかった父の言葉の真意を理解した。
由美子に父と交わした約束を守らねば、という思いが込み上げてきた。
死を覚悟したことで、かえって、生きることへの、ゆるぎない決意が由美子に起こった。
どんな生き恥を晒しても生きねば。
どんな屈辱にも耐えなくては。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は心の中で、そう呟いた。
由美子は四つん這いになった。
そして、頭を床につけて土下座した。
そして紙に書いてある文を読んだ。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
あっははは、と文興社の悪魔たちは哄笑した。
何という人間たちなのだろう。
自分は文興社に騙された被害者ではないのに、文興社の詐欺商法を知ったことで、これ以上、文興社に騙される被害者をなくそう、という正義感からブログ記事で実名で文興社を批判する記事を書いてきた由美子。その由美子にクロロホルムを嗅がせて、眠らせ、車に乗せて、北海道から文興社本部に連れ込んで、丸裸にして、その上、社員みなの前で、土下座させて、詫びを言わせるとは。
しかし良心を持ち合わせていない悪魔たちには、それは通用しないことだった。
「おい。由美子。裸踊りをすると言ったんだ。立って裸踊りをしろ」
男が言った。
由美子は立ち上がった。
そしてフラダンスを踊り始めた。
由美子の関心は、自然や生物、蜘蛛、社会問題などであって、おおよそ由美子は子供の頃から運動やスポーツは苦手で興味なかった。
しかし由美子は、日本蜘蛛学会の会員であり、そこで吉田順子という会員と親しくなった。
吉田順子はフラダンスをしていて、由美子にフラダンスをやってみない、と誘ったのである。
運動神経のニブい由美子にフラダンスなど興味なかったが、友達のよしみで一度、フラダンス教室に出てみたのである。
吉田順子に勧められてフラダンスを踊ってみると、これが結構、腰を使った全身運動になることがわかって、健康にも良く、由美子はフラダンス教室に通い続けることになったのである。運動神経はニブいが何事にも熱心な由美子の性格のため、由美子はフラダンスの基本をマスターしてしまった。
フラダンスは、ハワイの伝統的な歌舞音曲で、最初は男が踊っていたのだが、いつの間にか女の踊りとなった。ゆったりとした足の運び、繊細な手の動き、腰を振る踊りであり、ラフィアスカートを履いていても、腰の動きが男を悩殺するほど、美しく、男を魅惑する踊りだった。
もちろんフラダンスはブラジャーとラフィアスカートを履いて踊るものだが、今の由美子は、一糸まとわぬ丸裸である。
顕わになった豊満な由美子の乳房が揺れ、腰のくねりが悪魔たちを悩殺した。
悪魔たちは、
「ははは。どうだ。由美子。オレ達に逆らうヤツはこういう羽目になるのさ」
「もっと色っぽく腰を振れ」
などと由美子をおとしめる揶揄の言葉を吐いた。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は、どんなに苦しい逆境におちいっても生き抜くと、父の今際の時に誓った約束を心の中で唱えながら、一心にフラダンスを踊った。
約1時間くらい踊り続けた。
由美子は、汗だくになって、息もハアハアと荒くなって、とうとう倒れ伏してしまった。
「おい。由美子。これで放免と思ったら大間違いだからな」
悪魔たちは、そう言って、由美子の前にノートパソコンを置いた。
「おい。由美子。さぽろぐのブログと、ここログのブログに出している、148の文興社批判のブログ記事を全部、削除しろ。それと24のJANJAN記事もだ。それと、excieブログに作った共同出版・自費出版の被害をなくす会もだ」
ああ。何ということをする人間たちなのだろう。
文興社に騙されてはおらず金銭的被害は受けてはいないのに、文興社の悪質な詐欺まがいの商法を知り、これ以上、泣き寝入りする著者が出ないよう、そして文興社と著者との間でトラブルが起こらないようにと、貴重な時間を割いて、ブログ記事によって世間に文興社の行っている商法を正確に述べているだけだというのに。
悪魔どもは、それらのブログ記事を全部、消せ、というのだ。
ブログのログインパスワードは由美子しか知らないから、これは由美子にしか出来ない。
由美子はノートパソコンの電源を入れ、ログインIDとログインパスワードでさぽろぐブログにログインした。
そして、涙をハラハラと流しながら、今まで書いてきた、148もの文興社批判のブログ記事を削除していった。
由美子にとっては耐えがたいことだっだが「嫌です」と言っても、悪魔たちは暴力を振るって由美子を拷問にかけ、パスワードを聞き出すことは明白だったからだ。
さぽろぐの148の文興社批判の記事を全部、削除すると、次は、ここログの148の文興社批判のブログ記事を削除した。そして次は、JANJAN記事を削除し、次に、excieブログの「共同出版・自費出版の被害をなくす会」のブログも消した。
これによって、由美子が書いてきた、文興社批判の記事は完全に無くなってしまった。
由美子の目からは涙がとめどなく流れ続けた。
しかし悪魔たちは、もっと酷いことしか考えていなかった。
「おい。由美子。ブログに新しい記事を書け。記事のタイトルと文はここに書いてある」
そう言って文興社の悪魔たちは、由美子に紙切れを渡した。
タイトルは「文興社に対するお詫び」だった。
それにはこう書かれてあった。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
ああ。何ということだろう。
文興社の悪魔たちは、由美子の文興社批判の記事を削除させるだけではなく、詫びの文章まで書かせようというのだ。
由美子は切れ長の美しい目から、ハラハラと涙を流しながら、渡されたメモに書いてある文章を入力していった。
「文興社に対するお詫び」というタイトルで。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
と書いた。
「ふふふ。ざまあみろ。これで我が社は安全だ。お前のように我が社を本気で批判してくるヤツはもういないだろう。これで我が社は永遠に安全だ」
あっははは、と悪魔たちは笑った。
「ふふふ。由美子。これで済んだと思うなよ。お前のおかげで、我が社は10億の損失をこうむったんだ。それに、記事を削除したとはいえ、多くの人がお前の記事を読んで、我が社を疑うようになったからな。お前の我が社に対する批判記事をワードにコピペして保存しているヤツもいるだろう。それに、ネットで我が社を批判するヤツを説得する役の柴田晴郎も使えなくなってしまったからな」
「おい。由美子。お前はさっき(私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください)と言ったな。じゃあ、さっそくもう一度、裸踊りをしろ」
男が恫喝的な口調で言った。
何という極悪非道の集団なのだろう。
卑劣にも、自分を拉致監禁して、北海道の家から東京の文興社の本部に連れてきて、丸裸にして、詫びを言わせ、148の文興社批判のブログ記事、および、JANJAN記事を削除させ、(私が間違っていました)という文興社に対する謝罪記事をブログに書かせた、憎みても余りある文興社。
それでも、まだ気が済まず、由美子をとことん嬲ろうというのだ。
通常の人間なら精神がおかしくなってしまうだろう。
しかし、由美子の強靭な精神力が、由美子を発狂から守っていた。
しかし、由美子はどうしても裸踊りをする気にはなれなかった。
なので、乳房とアソコをヒッシと手で隠して、微動だにせず、じっとしていた。
由美子の気持ちを察してか、男が由美子に、ある発言をした。
「おい。由美子。お前も一糸まとわぬ丸裸の裸踊りはつらいだろう。オレ達にも人の情けはある。パンティーとブラジャーは返してやるから、それを身につけて、さっきのようにフラダンスをしろ」
そう言って男が由美子の前に、純白のブラジャーとパンティーを放り投げた。
由美子は堅苦しいほど誠実な性格なので、たとえ相手に力づくで言わされたとはいえ、相手の暴力に屈してしまったのは、自分の意志であり、自分の意志で言った以上、約束は守らなければいけない、という健気な信念も由美子の心の中にはあった。
(パンティーとブラジャーを着けていれば地獄の屈辱にも何とか耐えられるわ)
由美子は急いで立ち上がり、まずは右足にパンティーを通し、そして次に左足にパンティーを通した。そしてスルスルとパンティーを腰の位置まで引き上げていきパンティーを完全に履いた。
これでアソコと尻は隠された。
次に由美子はブラジャーに両腕を通して、手を背中に回して背中のホックをした。
これで二つの乳房はブラジャーの中に納まった。
その滑稽な仕草に、男たちは、あっはは、と腹をかかえて笑った。
由美子は、たとえ力づくでも、自分が約束したことは守らねば、という健気な信念から、立ち上がった。
「おい。由美子。情けで下着を身につけることを許してやったんだ。これで恥ずかしくないだろう。さあ。とっとと色っぽく腰を振って踊れ」
口惜しいが確かに彼らの言う通り、一糸まとわぬ丸裸での裸踊りは屈辱だったが、女の恥ずかしい所をしっかり隠している下着を身につけているのなら、まだ何とか耐えられた。
由美子は、またフラダンスを踊り出した。
由美子は腰をくねらせ、全身をゆったりとくねらせながら、フラダンスを踊った。
その、ゆったりとした動きは、この世のものとは思えないほど美しかった。
(パンティーとブラジャーがしっかりと私の体を覆い隠してくれている)
さっきの一糸まとわぬ丸裸の屈辱の裸踊りに比べれば、そして、その屈辱的な裸踊りをしてしまった後では、パンティーとブラジャーをしっかりと身につけて踊るフラダンスでは、屈辱感は軽減されていた。
由美子は精一杯のサービス精神をもって、一心不乱にフラダンスを踊った。
もう由美子は観客を楽しませることだけを考えているフラダンサーになりきっていた。
こうやって彼らを満足させてやれば、彼らも情にほだされて、拉致監禁したことを反省して、自分を文興社本部の部屋から解放してくれることを期待した。
そうすれば北海道の自宅へ戻れる。
(さあ。私のフラダンスをうんと鑑賞するがいいわ)
由美子はそう思いながら一心不乱にフラダンスを踊った。
文興社の社員たちも、みな黙って、誰も、由美子をおとしめる発言をする者はなく、由美子のフラダンスを心地よく鑑賞しているように、由美子には思われた。
実際、文興社の社員たちは、由美子のフラダンスに、ただただ酔い痴れているような態度だった。
由美子の念頭には文興社が自社の悪質商法を反省し、拉致監禁したことを反省し、(由美子さん。すまなかった。私たちが悪かった)と言って、全員が由美子の前に身を投げたしてくることを期待をした。
しばしの時間が経った。
由美子もフラダンスを踊り続けることに酩酊していた。
その一瞬の隙である。
文興社の社員が、一人、優雅にフラダンスを踊っている由美子に、そっと背後から忍び寄った。
彼は優雅に踊っている由美子に気づかれないよう、ハサミで由美子のパンティーの両サイドをプチン、プチンと切ってしまった。
パンティーは、由美子の腰に貼りついている機能を失って、前も後ろもダランとめくれ、そのまま床に落ちてしまった。
そして彼は、間髪を入れず、由美子のブラジャーの背中のホックの所と、両方の肩紐の所も、ハサミで、プチン、プチンと切ってしまった。
ブラジャーも由美子の胸に貼りついている機能を失って、スルリと床に落ちてしまった。
「いや―」
不意のことに、由美子はアソコを両手で隠し、ペタンと座り込んでしまった。
「あっははは」
男たちは、ここぞとばかりに腹をかかえて笑った。
「おい。由美子。お前はオレ達がお前に見とれていて、お前の健気な心情に同情して、踊りが終わったら、お前に謝罪するとでも思っていたのだろう。バカなヤツだ。お前に見とれていた態度は、あらかじめ計画しておいたお芝居だ。お前に少し希望の光を与えておいて、そして、お前を地獄に突き落とすのが最初からの狙いだったのさ」
男の一人がタバコをくゆらせて、せせら笑いながら言った。
由美子の前にある純白のパンティーとブラジャー。
それは、もう体に貼りついておく機能を失って、何の役にも立たない物でしかなくなっていた。
「おい。由美子。踊りを続けろ。もう、踊りは終わりにしてやる、とは言ってないぜ」
悪魔の一人が吐き捨てるように言った。
しかし由美子は立てなかった。
極度の絶望感と、今度は丸裸を晒して、悪魔どもの前で踊らなくてはならないかと思うと、どうしても立てなかった。
「おい。由美子。立て。裸が恥ずかしいというのなら、恥ずかしい所を隠す物をやるぜ」
そう言ってポイ、ポイ、と小さい物を由美子の前に放り投げた。
由美子は、それを見て真っ赤になった。
それはピンク色の小さな♡型のニプレスだった。
3つある。
「おい。由美子。そのニプレスを恥ずかしい所に着けな。そうすれば恥ずかしい所は隠せるぜ」
「おい。由美子。ニプレスの裏にシールが貼ってあるだろう。それを剥がしな。そこには接着剤がついているから、体に貼れば、外れることはないぜ。恥ずかしい所は隠せるぜ」
男たちは吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、すぐに彼らの言うことを聞くことは出来なかった。
ニプレスは確かに乳首やアソコに貼って、女の恥ずかしい所を隠すものではあるが、それはストリップショーで着けて、女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
小さな、申し訳程度のニプレスをつけたところで、体全体として見れば、裸とほとんど変わりはない。むしろ全裸よりも、男たちの性欲を掻き立てる効果もある。
見れそうだけれど、見れないことがエロティシズムなのである。
そんな恥ずかしい物をつけさせて踊らせようとは。
由美子は悪魔たちの、執拗な嫌がらせに辟易していた。
「おい。由美子。ニプレスをつけるのか、つけないのか、どっちだ?」
男が恫喝的な口調で怒鳴りつけた。
「ニプレスをつけたくないなら、つけなくてもいいぜ。それなら全裸で踊りな」
別の男が吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、どうしてもニプレスをつける気にはならなかった。
一人の男が、ツカツカと躊躇している由美子の前に歩み寄ってきた。
「そうか。ニプレスはつけたくない、というんだな」
そう言って男は、由美子の前にある、3つのニプレスを取り上げようと手を伸ばした。
その時である。
「ま、待って」
由美子は男にニプレスを取られる前に、3つのニプレスに手を伸ばして、ひったくるように掴みとった。
確かに、ニプレスはストリップショーで女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
しかし女の恥ずかしい所をギリギリに隠せる物でもあるのだ。
「そうか。ニプレスをつけるというんだな。なら早くつけろ」
男が言った。
悪魔たちは、ニプレスをつけるかどうかを由美子の判断に任せて、その決断を由美子にさせることで、由美子の狼狽する様子を楽しもうというのだ。
ここに至って由美子は、悪魔たちのヘビのような執拗さに気づかされた。
しばし迷ったが由美子は決断した。
相手は人間の良心というものを持たない悪魔たちである。
いうことを聞かなければ間違いなく、もっと酷い仕打ちをするだろう。
由美子は小さな♡型のニプレスをアソコと乳首につけた。
確かに、ニプレスの裏のシールを外すと、そこには、ネバネバした接着剤がついていて、両乳首とアソコにつけると、ニプレスは由美子の体にピタリと貼りついた。
由美子は立ち上がって、さっきと同じようにフラダンスを踊った。
両乳首とアソコをギリギリにかろうじて隠しているだけの小さな♡型のニプレスをつけている姿は全裸と変わりなく、いや全裸以上にエロチックだった。
それは悪魔たちの性欲を激しく刺激した。
悪魔たちは、激しい興奮のあまり、ハアハアと息を荒くしながら、勃起した股間をズボンを上からさすって由美子の踊りを見た。
30分くらいした。
もう日が沈んで夜中になっていた。
「よし。今日はこのくらいにしておこう。明日からも、うんと楽しめるからな」
悪魔たちの一人が言った。
「そうだな」
皆が賛同した。
「よし。じゃあ、こいつを地下室に連れていけ」
由美子は文興社の社員二人に腕をつかまれて、エレベーターで文興社のビルの地下室に連れて行かれた。
地下室にはゴリラが飼えるほどの大きな檻があった。
「さあ。入りな」
と言われて由美子は檻の中に入った。
「ふふふ。これはお前を飼うために買った檻さ。お前は死ぬまでこの檻の中で暮らすんだ」
そう言って二人の男は去って行った。
由美子は途方にくれた。
自分は一体どうなってしまうのか?
このまま悪魔たちに弄ばれて殺されてしまうのだろうか?
発狂しそうなほどの激しい不安が由美子に襲いかかった。

(3)

「うわー」
由美子は目を覚ました。
全身が汗びっしょりだった。
呼吸もハアハアと荒かった。
「松田さん。どうしたんですか。給湯器の交換は終わりましたよ。何だかひどくうなされていたようですけれど悪い夢でも見ていたんですか?」
修理人がニコニコ笑いながら聞いた。
由美子は咄嗟にスマートフォンを見た。
2010年7月7日の午後5時だった。
(はあ。夢だったのか。私は恐ろしい夢を見ていたのね。夢でよかったわ)
由美子はほっと一安心した。
「給湯器の交換をして下さって有難うございました」
由美子は修理人に礼を言って代金を払った。
・・・・・・・・・・・・
それからも由美子はブログで文興社の批判記事を書き続けた。
しかし柴田晴郎が文興社の関係者であることがわかり、文興社から柴田晴郎に関する記事を削除するように、さぽろぐが言ってきた。
削除しなければ、さぽろぐでの記事の投稿は禁止する、と言ってきたのである。
文興社が強権的にさぽろぐに圧力をかけてきたのである。
由美子はやむなくこの条件を受け入れた。
由美子にとって文興社だけではなくブログでの世の中の不正批判はもう生きていくうえで欠かせないものになっていたからである。
それで予備のため、@niftyココログにもブログを開設した。
その翌年の2011年に東日本大震災が起こり、その翌年の2012年には第二次安倍政権が発足した。
由美子は文興社批判を続けながらも、由美子は東日本大震災の東電と政府の対応を批判する記事を書き、そして安倍政権の悪政を批判する記事を書いた。
平和を愛する由美子にとって集団的自衛権を認める安保法制は我慢が出来なかったのである。
文興社は相変わらず、版権が文興社にある、著者から受けとる製作費で儲ける悪質商法を続けていたが、由美子の文興社批判のおかげで、文興社が悪質商法で儲けているということが、世間に認知され、文興社も「協力出版」の名前を使わなくなった。
由美子は2011年から、ツイッターを始めた。
2020年から起こったコロナ禍およびコロナワクチンの危険性についての記事を連日書くようになった。
文興社批判どころではない政府がワクチンと称して毒を日本全国民に打つ大変な時代になった。これから世界はどうなるのかと由美子は驚愕した。
2024年の現在でも由美子は実名の松田ゆみこの名前で、ツイッターおよび、さぽろぐ、および@niftyココログで、世の不正を糾弾する記事を書き続けている。


2024年9月16日(月)擱筆


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小説教室・ごはん学校(小説)

2024-09-09 08:31:30 | 小説
小説教室・ごはん学校

という小説を書きました。

ホームページ、浅野浩二のHPの目次その2

にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

小説教室・ごはん学校

ある小説教室である。
ここは西暦2000年以前から始まって今日(2024年)まで続いている。
主催者はバクチが好きで、先物取引に手を出してしまって1億円を超す借金をつくってしまったので、その借金の返済のために小説教室を開いて儲けようと思ったのである。
コンセプトは「将来のプロ作家を目指すための小説教室」とした。
宣伝には、「必ずプロ作家としてデビューさせます」と書いた。
小説教室の名前は、将来プロ作家になり筆一本で食べていける人を育てる、という意図から、ごはん学校、と名づけられた。
立地場所も新宿の一等地にした。
入会費は10万円で月会費は月5万円に設定した。
入会金と月会費はかなり高く、入会者は少ししかいなかったが、「必ずプロ作家としてデビューさせます」の宣伝が効いて、だんだん入会者が増えてきた。
入会者はみな才能がないくせに、自分には才能があるから、この小説教室に入れば、プロ作家になれるという、自惚れだけが強いバカが集まってきたのである。
主催者はしめしめと喜んだ。
しかしこの小説教室には生徒の書いた小説を添削する教師がいなかった。
指導する教師を採用する費用がなかったからである。
そこで主催者は、
「君たちは才能があるから教師は不要だ。作家は作品を書くだけが仕事ではなく、他人の作品の評論文を書くことも作家の仕事だ。その訓練のためにも、お互いに自由に他人の作品を批評し合って文芸評論の腕を磨くのが一番いいと思う」
ともっともらしいことを言った。
ごはん学校の生徒たちはプライドだけあって才能のないバカばかりなので、主催者の言うことを信じた。
それで、ごはん学校の生徒たちは、作品を書き、お互いにそれを評価しあった。
しかし、生徒たちは所詮、才能のないバカばかりである。
なので、この小説教室は、生徒たちが好き勝手な稚拙な小説を書いて、それを生徒同士が好き勝手に品評をするという、荒れた小説教室になってしまった。
みな、自分の駄作には自信を持っていても、他人の作品はボロクソにけなした。
そのため、生徒たちは次々とごはん学校をやめていった。
経営は赤字である。
このままでは、ごはん学校は廃校にするしかないという状況になった。
廃校にするか継続するかで主催者は悩んだ。
しかし、ある時ラッキーなことが起こった。
それは伊藤夜雨という文学好きの絶世の美女が、小説教室ごはん学校に入学してきたことである。
伊藤夜雨は文学、小説をよく読んでいて色々と知っていた。
彼女は小説を書く目的で、ごはん学校に入ってきたのではなく、プロの文芸評論家になるために、ごはん学校に入ってきたのである。
そこで主催者は伊藤夜雨に相談をもちかけた。
「伊藤夜雨さん。小説教室ごはん学校は経営的に厳しいです。それは、小説の執筆を指導してくれる先生がいないからです。先生を雇う経済的なゆとりもありません。なので、生徒たちのレベルが低くなって、書きかけの小説や、駄作、軽い気持ちで書いた思いつきの文章ばかりを書くようになってしまっています。そして、生徒たちが書いた小説を、けなしまくる状態になってしまっています。それで辞める生徒が増えています」
「そうですか。それは私も生徒さん達の書く文章を見ていても感じています」
と伊藤夜雨は言った。
「そこで、あなたにお願いがあるのです」
「はい。何でしょうか?」
「あなたは小説、文学に精通しています。そして、あなたには人を褒める才能がある。ですから、あなたに、生徒たちの書く駄文を褒めちぎる文芸評論家先生になって欲しいのです。生徒さん達の書いた駄文に対する、あなたの批評文を見て、あなたになら、それが出来ると私は確信しました。その方法だけが、小説教室ごはん学校を存続させていく唯一の手段だと思っています」
「そうですか。そう言われましても私も興味本位で、小説教室ごはん学校に入ってみましたが、生徒さん達の書く駄文に、嫌気がさして、ちょうど辞めようと思っていた所なのです。失礼ですが生徒さん達の書く文章は、読む価値の全くない駄文ばかりです」
「そこを何とかお願いしたいのです。どうか生徒さん達の書く文章、すべてに目を通して、褒めちぎった批評を書いてほしいのです。はっきり言って生徒たちはバカばかりですから、誉められれば、うかれて、ごはん学校に通い続けてくれると思うのです。お礼は払います。月に100万円、あなたに支払います。どうでしょうか?」
月100万円という言葉が効いた。
伊藤夜雨は金の亡者だったのである。
「わかりました。私は、ごはん学校の生徒さん達の書く文章すべてに目を通して、褒めちぎった批評文を書きます。その代わり、月100万円は必ず、私の銀行口座に振り込んで下さいね」
「ええ。それは間違いなくします」
こうして、伊藤夜雨はごはん学校の指導者、添削者になった。
伊藤夜雨はごはん学校の生徒の書く文章すべてに、目を通し、作者をおだてる批評を書き続けた。
クズ文にも「お作はとてもいい作品です」と書いた。
具体的にどこがどういいか、ということも作者におだてとわからないように、しっかりと書いた。
そして最後に「執筆おつかれさまでした」と書いた。
ごはん学校の生徒たちはバカばかりなので、伊藤夜雨に褒めちぎられて、うかれて、辞退者は少なくなっていった。
それどころか、ごはん学校には、素晴らしい文芸評論家の先生が来たそうだぞ、という噂が世間に広まった。そのため、ごはん学校に入学してくる生徒はうなぎ登りに増えていった。
こうして、ごはん学校は大盛況になった。
しかも伊藤夜雨は25歳でグラビアアイドル顔負けの絶世の美女である。
伊藤夜雨がセクシーな上下揃いのスーツ姿で教室を歩く姿に、ごはん学校の生徒たちは、ただただ茫然とした。
伊藤夜雨は絶世の美女だった。橋本環奈に勝るとも劣らぬ容貌。85、60、85の理想的なスリーサイズ。腰にピッタリとフィットしている膝上までのスカート。夜雨が教室の中を歩く度にムッチリとした腰が悩ましげに左右に揺れた。生徒たちは、その悩ましい美しさに酩酊するのだった。
美しい優秀な小説指導教師が、ごはん学校に来た、という噂は瞬く間に世間に広がった。
小説には興味ないが、伊藤夜雨みたさに、ごはん学校に入学してくる者もうなぎ上りに増えていった。
こうして、ごはん学校は大盛況になった。
ある時、主催者と伊藤夜雨が校長室で話し合っていた。
「いやー。伊藤夜雨さん。あなたのおかげで、ごはん学校は大盛況だ。月の収入は500万円を越している。やはり私の目に狂いはなかった。あなたは天才的な、おだて上手だ。あなたには感謝してもしきれない」
校長は恵比須顔だった。
さあ今月の給料100万円をお受け取りください、と言って、ごはん学校の社長は伊藤夜雨の前のテーブルに100万円の札束をポンと置いた。
伊藤夜雨はニヤリと笑って当然の如くそれを受けとった。
「ささ。伊藤夜雨さん。舶来の高級タバコです」
社長は巻きタバコを伊藤夜雨に差し出した。
伊藤夜雨がそれを口に咥えると、社長はライターで葉巻に火をつけた。
伊藤夜雨は、ふーと一服した。
「社長。100万は確かに頂きました。しかしお礼は言いませんよ。だって内容も何にもない駄文を読むことは凄く苦痛を通りこして不快ですし、作者に気づかれないような、おだての批評文を書くのも物凄く疲れるんですもの。バカ共をおだてるのって胸くそ悪くなるんです。飼い猫とか上松とか、他のヤツラでも、同じ作品を何度も何度も、こうした方がもっと良くなりますよ、とおだててやると、それを真に受けて本当に、書き直してきます。それも一度や二度ではなく、10回以上もですよ。やっぱり才能のないバカ共は、あらゆる面で頭が悪いので、心にも無いおだてを本当に真に受けてしまうんですね」
そう言って伊藤夜雨はふーとタバコの煙を吐いた。
その時である。
校長室の戸が開いた。
ごはん学校の生徒たちがズラリと並んでいた。
生徒たちは刺すような鋭い憎しみに満ちた視線を伊藤夜雨に向けていた。
「おい。伊藤夜雨。聞いたぞ。そういうことだったのか。お前は、誉める批評しかしないから、だんだん、あやしくなっていったんだ。それで、お前の本心を聞こうと思って、こうやって張り込んでいたんだ。オレ達に才能がないなら、ないとはっきり言ってほしかったな。お前のせいで、どれだけ人生の時間と金を浪費したことか」
伊藤夜雨は真っ青な顔になっていた。
「い、いえ。違います。わ、私の本心は皆さんに自信を持ってもらおうと思っていたんです。自分に自信を持った人は必ず人間として成長しますから・・・」
伊藤夜雨は苦し気な言い訳をした。
「ふふふ。伊藤夜雨。もうオレ達は天才的な詭弁のお前の言うことなんか信じてないぜ」
「おう。そうだ。そうだ」
皆、怒りに狂っていた。
証拠にお前が今、言ったことを録音しておいたぜ。
そう言って、生徒の一人がカセットテープの再生ボタンを押した。
すると伊藤夜雨の声がボリュームいっぱいの大きさで再生された。
「社長。100万は確かに頂きました。しかしお礼は言いませんよ。だって内容も何にもない駄文を読むことは凄く苦痛を通りこして不快ですし、作者に気づかれないような、おだての批評文を書くのも物凄く疲れるんですもの。バカ共をおだてるのって胸くそ悪くなるんです。飼い猫とか上松とか、他のヤツラでも、同じ作品を何度も何度も、こうした方がもっと良くなりますよ、とおだててやると、それを真に受けて本当に、書き直してきます。それも一度や二度ではなく、10回以上もですよ。やっぱり才能のないバカ共は、あらゆる面で頭が悪いので、心にも無いおだてを本当に真に受けてしまうんですね」
伊藤夜雨の顔は真っ青になった。
「どうだ。夜雨。何とか言ってみろ」
夜雨は決定的な証拠を握られて返す言葉がなかった。
眉を寄せ苦しそうに唇を噛んだ。
「この落とし前はつけてもらうぜ」
そう言って、ごはん学校の生徒たちは伊藤夜雨を取り囲んだ。
「さあ。立ちな」
「わ、私をどうしようっていうの?」
ここに至って夜雨に恐怖心が起こり出した。
「オレ達をだまして、人生の貴重な時間と金と労力を無駄にさせた、お前を罰するのさ」
そう言って、ごはん学校の生徒の一人が夜雨の腕をつかんで立たせた。
そして彼らは夜雨を、ごはん学校の外に追い出した。
ごはん学校の裏手には荒れた廃屋があった。
夜雨はその廃屋の中に入れられた。
ごはん学校の生徒たちは夜雨に対する復讐に燃えていた。
伊藤夜雨をどうするかで、ごはん学校の生徒たちは、しばしボソボソと話し合った。
「おい。みんな。夜雨の仕置きはオレ達二人にまかせてくれないか?」
生徒Aと生徒Bの二人が言った。
二人は小説創作には興味はなく、伊藤夜雨、見たさにごはん学校に入ってきた生徒である。
「おお。たのむぜ。たっぷりと仕置きしてくれ。オレ達はそれをしっかりと見物させてもらうぜ」
ごはん学校の生徒たちが皆、異口同音に言った。
生徒Aと生徒Bがツカツカと笑いながら伊藤夜雨に近づいてきた。
「あなた達。私に何をしようというの?」
夜雨は恐怖心から声を震わせて聞いた。
「ふふふ。何をすると思う?」
Aはふてぶしい口調で言った。
「わ、わからないわ」
「ふふふ。教えてやろう。あんたにここでストリップショーをしてもらうのさ。そしてそれを撮影するのさ。そしてそれをエロ動画投稿サイトに投稿するのさ。佐藤夜雨のストリップショーがネットで全国に知れ渡るというわけさ」
そう言ってAはデジカメを三角脚立の上に固定した。
「卑劣だわ。あなた達が才能のない怠け者だとはわかっていたけれどそんな犯罪までするとは思わなかったわ」
Bが横座りしている夜雨の隣に座った。
Bは夜雨の頬をナイフでピチャピャ叩きながら夜雨の美しいストレートの黒髪をつかんだ。
「ふふふ。夜雨さん。さあ。立ってちゃんと自分の手で色っぽく服を脱いでいきな」
Bは夜雨の髪の毛を弄びながら言った。
「い、嫌です。そんなこと」
夜雨は体を震わせながら言った。
女なら当然言う言葉を夜雨も反射的に言った。
「手間をとらせるな。強情を張るなら強引に脱がしてもっと恥ずかしいことをさせるぞ」
そう言ってBはハサミを取り出して夜雨のロングヘアーを少しジョキンと切った。
切り取られた夜雨の美しい髪の毛が少しパサリと床に落ちた。
「ああー。やめてー」
「ふふふ。これでオレ達が本気だということがわかっただろう。嫌というのならきれいな髪の毛を全部切ってバリカンで丸坊主にしてしまうぞ」
夜雨は渋面で唇を噛んで悩んでいたが抵抗しても無駄で時間の問題で抵抗するともっと酷いことをされると悟ったのだろう。
「わ、わかりました。服を脱ぎます。だからもう髪を切るのはやめて下さい」
と言った。
「わかりゃいいんだよ。立ってちゃんとストリップショーをするんだぞ」
そう言われても夜雨は立てなかった。
女の恥じらいから夜雨はそっと両手を胸に当ていた。
「ほら。さっさと立ってストリップショーをしな」
Bが言った。
しかし夜雨はためらっている。
「ふふふ。別にすぐ脱がなくてもいいぜ。女が恥ずかしいことが出来なくてためらっている姿はサディストの男を興奮させるからな」
Aのこの言葉が効いたのだろう。
「わ、わかりました。脱ぎます」
と言って夜雨は立ち上がった。
「わかりゃいいんだよ。さあとっとと服を脱ぎな」
夜雨は、恐る恐る立ち上がり、ワナワナと手を震わせてワイシャツのボタンを外していった。
AとBとごはん学校の生徒たちは食い入るように夜雨を見ている。
今まで才色兼備の、ごはん学校の憧れの女神と崇められていた夜雨にとって、ごはん学校の生徒たちの前で服を脱ぐのを見られるのは耐え難い屈辱だった。
しかし女のか弱い力では屈強な男二人に抵抗しても無駄ということはわかっているので夜雨は諦めていた。
ワイシャツのボタンを全部外すとAとBの二人は、
「さあ。ワイシャツを取り去りな」
と命じた。
夜雨はワナワナとワイシャツの袖から手を抜きとった。
パサリと夜雨のワイシャツが床に落ちた。
夜雨の豊満な乳房を納めている白いブラジャーが露わになった。
ブラジャーは夜雨の豊満な乳房を窮屈そうに納めてムッチリと膨らんでいた。
「おー。すげー。凄いセクシーなおっぱいだな」
「オレ。いつも夜雨のブラウスの胸のふくらみに悩まされてオナニーしていたんだ。それを拝めるなんて夢のようだぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を言った。
夜雨は顔を真っ赤にして思わず両手を胸に当てた。
AとBの二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし、ごはん学校の生徒たちは恥じらっている夜雨の姿をデジカメで撮影した。
「さあ。次はスカートを脱ぎな」
Aが言った。
命じられて夜雨はワナワナとスカートのチャックを外してスカートを降ろしていき足から抜き取った。
これで夜雨はブラジャーとパンティーという下着だけの姿になった。
夜雨の腰部にピッタリと貼りついている純白のパンティーは夜雨の股間の輪郭を包み隠さず露わにしているのでパンティーを履いていても夜雨はもう裸同然に近かった。
むしろパンティーの弾力のためパンティーの中に収まっている恥肉がモッコリとパンティーを盛り上げていた。
「うわー。すげー。凄いセクシーだ」
「まさか夜雨のパンティーを拝めるとはな。オレ興奮して心臓がドキドキしているぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を言った。
夜雨は羞恥心から顔を真っ赤にして思わず両手をパンティーに当てた。
AとBの二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばしごはん学校の生徒たちは恥じらっている夜雨の姿をデジカメで撮影した。
しはしして。
「さあ。次はブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になりな」
Aが言った。
「お願い。Aくん。Bくん。これ以上は許して」
夜雨は純白のブラジャーとパンティーを必死で手で覆いながら言った。
「ふふふ。だいぶ風向きが変わってきたな。しかし今さらくん付けにしたって遅いぜ。オレ達の怒りはトサカにきているんだから。脱がないというのならオレ達が強引に脱がすだけだぜ」
そう言ってBはカバンから大きな浣腸器を取り出した。
「おい。夜雨。とっととブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になれ。強情を張っているとオレ達が丸裸にひん剥いて後ろ手に縛って1リットルのグリセリン液の浣腸をするぞ」
Aが大きな浣腸器を手にしながら言った。
夜雨は恐怖心で顔が真っ青になった。
「わ、わかりました」
逆らっても無駄だと悟ったのだろう。
夜雨はブラジャーのホックを外した。
プルンと夜雨の大きな乳房が弾け出て露わになった。
「うわー。すげー。夢にまで見た夜雨のおっぱいを見れるとは。オレ。興奮しておちんちんが勃起しっぱなしだぜ」
そう言ってBはズボンの上からテントを張った股間をさすった。
「オレもだぜ」
Aもビンビンに勃起してテントを張っているズボンの股間をさすった。
夜雨は思わず両手で露わになったおっぱいを隠した。
「ふふふ。いいポーズだぜ」
Bは純白のパンティー一枚だけ履いて両手でおっぱいを隠している夜雨の姿を撮影した。
夜雨の姿はあたかも胸の前で収穫した二つの大きな桃が落ちないように大事にかかえている女のように見えた。
両手で胸を隠しているので夜雨の純白のパンティーは丸見えである。
夜雨の恥肉を収めたパンティーはその弾力によって恥部をモッコリとふくらませ女の恥部の輪郭をクッキリとあらわしていた。
パンティーは女の股間を引き締めて整える効果があるのでそれは全裸以上にエロチックでもあった。男はパンティーやビキニに包まれた女の股間のモッコリに興奮するのである。
「ふふふ。夜雨。股間のモッコリが丸見えだぜ」
Bが言った。
「股間のモッコリは隠さなくてもいいのか?」
Aが言った。
言われて夜雨は股間の防備を忘れていたことに気づき、おっぱいを隠していた両手のうち左手で股間を覆った。
それはボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
「ふふふ。その格好も色っぽいぜ」
そう言ってBは恥じらっている夜雨の姿を撮影した。
「さあ。夜雨。最後の一枚のパンティーも脱ぎな」
Aが言った。
「胸とアソコを隠すポーズならパンティーを履いているより全裸の方が芸術的だせ」
「もうブラジャーは脱いじゃっているんだからパンティーも脱いだ方がスッキリするぜ」
「手でアソコを隠しながら素早くパンティーを脱げばいいじゃないか」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を投げかけた。
しかし夜雨にしてみればパンティーは女の最後の砦だった。
AとBが夜雨にパンティーを脱ぐように命じても夜雨は女の最後の砦はどうしても守りたかった。
「ええい。じれってえ」
夜雨がどうしてもパンティーを脱ごうとしないのでBが夜雨の所に行った。
Bはニヤニヤ笑っている。
「ふふふ。そんなに脱ぎたくないなら脱がないでいいぜ。それよりももっと面白いことを思いついたからな」
Bは夜雨の隣に腰を下ろして意味深なことを言った。
「な、何をするの?Bくん」
夜雨は脅えながら必死に胸とアソコを手で隠している。
Bはポケットからハサミを取り出すとサッと素早く夜雨のパンティーの右側のサイドをプチンと切ってしまった。
片方のサイドを切られたパンティーはもう腰に貼りつく役割りを果たせない。
パンティーの弾力によってパンティーは一気に収縮してしまった。
「いやー」
夜雨はあわててパンティーがずり落ちないように太腿をピッチリと閉じてパンティーを太腿で挟みつけパンティーが落ちないようにした。
そして両手で切れた右側のサイドの端をつかんで縮もうとするパンティーを何とか引っ張って留めようとした。
夜雨は右手でパンティーの右側の切れたサイドの後ろの方の端を必死でつかんで引っ張り、お尻を見られないようにし、左手でパンティーの右側の切れたサイドの前の方の端をつかんで引っ張って、必死で何とか女の恥部を見られないようにした。
必死で片方のサイドが切れたパンティーをそれでも身につけていようとするのは女にとっては最後まで恥ずかしい所を隠そうとする健気な努力なのだが男は皆スケベでサディストなので困っている女の姿は男を最高に興奮させるのである。
両手で切れた右側のサイドの端をつかんでいるので夜雨のおっぱいは丸見えである。
「あっははは。夜雨。サイドが切れたパンティーなんてもう使い物にならないぜ」
「もうそのパンティーは使い物にならないんだから無駄な頑張りはやめてパンティーは脱いじゃいな」
「でもお前が困っている姿は最高にセクシーでエロチックで男を興奮させるぜ。だからお前がそうしたいのならいつまでもその格好で無駄な頑張りを続けてもいいぜ」
AとBの二人はデジカメで惨めな夜雨の姿を撮影しながら夜雨にそんな揶揄の言葉を投げつけた。
そう言われても夜雨は体を覆う最後の一枚を何とか死守しようとした。
「ふふふ。パンティーは絶対脱がないという決死の覚悟なんだな」
Aはそう言うや再び夜雨の所に行った。
そしてハサミを取り出してサッと夜雨のパンティーの切れてない方の左側のサイドをプチンと切ってしまった。
夜雨はパンティーの右側のサイドを両手で引っ張っていたので、そして引っ張らなくてはならないので切れていない反対側の左側のサイドはガラ空きだった。
なのでAは余裕で夜雨のパンティーの左側のサイドを切ることが出来た。
「ああー。いやー」
両サイドを切られたパンティーはもう腰に貼りついておく機能を完全に失った。
両サイドが切れたパンティーは一気に収縮した。
それでも夜雨はアソコを両手で隠した。
しかしパンティーは両サイドが切られているので後ろがペロンと剥げ落ち大きな尻と尻の割れ目が露わになった。
Aはパンティーの切れ端をつかんで引っ張った。
たいした力も要らずパンティーは夜雨の股間からスルリと抜きとられた。
これで夜雨は一糸まとわぬ丸裸になった。
全裸の女が男の視線から身を守ろうと片手で胸を片手でアソコを隠している姿は女の羞恥心の現れの芸術的な基本形である。
「どうだ。夜雨。スッポンポンになってスッキリしただろう」
「いくら頭が良くても女を屈服させるのは簡単さ。裸にさせればいいだけのことさ」
「ふふふ。今まで散々コケにしてきたオレ達の前でスッポンポンの裸を晒す気分はどうだ?」
AとBの二人は全裸で女の恥ずかしい所を隠している夜雨にそんな揶揄を言った。
「さあ。夜雨さんの尻もしっかり録画しておかないとな」
そう言ってBは夜雨の後ろに回ってスマートフォンで夜雨の後ろ姿を撮影した。
女にはアソコと乳房と尻という三カ所の恥ずかしい所がある。
しかし手は二本しかない。
なのでアソコと乳房を隠すためにはどうしても二本の手を使わねばならず尻までは隠せない。
「ふふふ。夜雨。大きな尻とピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目が丸見えだぜ」
Bがスマートフォンで夜雨の後ろ姿を撮影しながら言った。
そういう卑猥な言葉を投げかけられることによって夜雨の意識が無防備に丸見えになっている尻に行き尻の割れ目がキュッと反射的に閉まった。
「いやー。やめてー。Bくん」
夜雨は思わず乳房を隠していた左手を外し左手で尻の割れ目を隠した。
夜雨はアソコを右手で隠し尻の割れ目を左手で隠しているという姿である。
乳房を隠していた手が外されたので夜雨のおっぱいが丸見えになった。
それは滑稽な姿だった。
「ふふふ。夜雨さん。おっぱいが丸見えだぜ」
Aが言った。
あっはははとAとBの二人は笑った。
自分が滑稽な姿であるということは夜雨もわかっているので夜雨はやむなく尻の割れ目を隠していた左手を胸に持って行きおっぱいを隠した。
そのため尻の割れ目は丸見えになった。
尻の割れ目を撮影されることはやむなくあきらめるしかなかった。
このように女を困らせることがスケベな男達のサディズムをそそるのである。
夜雨はアソコを右手で隠し胸を左手で隠すという基本形にもどった。
10分くらい二人は夜雨が困る姿をスマートフォンで撮影しながら鑑賞した。
「Aくん。Bくん。お願い。もうやめて。許して」
夜雨は耐えきれなくなって丸裸の体のアソコとおっぱいを隠しながらAとBの二人に哀願した。
「ふふふ。ダメだぜ。夜雨さん。こういう事になった原因はあんたが性悪でオレ達をだましたからじゃないか。自業自得ってやつさ。あんたの性悪な性格を徹底的に叩き直してやるよ。あんたをしとやかでつつましい女に調教してやるぜ」
Aが言った。
「よし。じゃあ次の責めといくか」
Bが言った。
「な、何をするの?」
夜雨は脅えながら聞いた。
AとBの二人は立ち上がって夜雨に近づいてきた。
「さあ。夜雨さん。両手を前に出しな」
Aが言った。
「い、いや。こわいわ。何をするの?」
夜雨は何をされるのかわからない恐怖からAに言われても両手でヒッシと女の恥部を押さえているだけだった。
それが夜雨のせめてもの抵抗だった。
「ええい。じれってえ」
AとBの二人は強引に夜雨の手をつかんで胸の前に出させた。
やめてーと言って夜雨も抵抗したが女のか弱い力では屈強な男二人の膂力の前には全く無力だった。
二人は夜雨の両手を体の前に出させ夜雨の手首に手錠をかけた。
「ふふふ。これで、あんたを天井から吊るしてやるぜ」
Aがせせら笑いながら言った。
「おい。B。天井にフックを取りつけろ」
AがBに命じた。
「オッケー」
Bはホクホクしながら椅子を持ってきてその上に立った。
Bは登山用のカラビナが固定されている正方形の板を持っていた。
Bはそれを持って椅子の上に立つと板の裏に瞬間協力接着剤アロンアルファをたっぷりつけた。
そしてその板を天井に貼り付けた。
Bはカラビナを思いきり引っ張ってみたが板が天井にしっかりくっついていて剥がれることはなかった。
「よし。大丈夫だ」
Bが言った。
一方、Aは夜雨の手錠に縄を結び付けた。
そしてその縄尻を椅子の上に立っているBに渡した。
Bはカラビナの輪の中に縄尻を通した。
「ふふふ。さあ。お前を吊るしてやるぜ」
Aがふてぶてしい口調で言った。
「い、嫌。こわいわ。やめて。お願い。そんなこと。Aくん。Bくん」
夜雨の訴えを無視してAはBがカラビナに通した夜雨の縄尻をつかんでグイグイと引っ張っていった。
「ああー。やめてー」
夜雨が叫んだがAとBの二人は聞く耳を持たない。
滑車の原理で二人が縄を引っ張ることによって夜雨の手首はグイグイと天井に向かって引っ張られていった。
夜雨はバンザイさせられた格好になった。
さらに二人は縄をグイグイと引っ張っていき夜雨の手は頭上でピンと伸び夜雨は天井から吊るされる格好になった。
「ふふふ。つま先立ちになるまで引っ張ってやる」
Bが言った。
しかし。
「まて。つま先立ちになるまでは引っ張るな。足の裏は床につける程度にしておけ」
とAが言った。
どうしてだ?とBが聞くとAは、
「まあ。いいじゃないか」
と意味深に笑った。
「よし。わかった」
そう言ってBは夜雨がつま先立ちになるまでは引っ張らず、手は頭の上で肘が少し曲がる程度の所で縄尻をカラビナに結びつけた。
夜雨の手は頭の上にあるので夜雨はもう女の恥ずかしい所を隠すことが出来ない。
乳房もアソコも丸見えである。
もちろん大きな尻も尻の割れ目も。
夜雨の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
「ふふふ。夜雨さん。残念だな。もう手で体を隠すことは出来なくなったな」
「ふふふ。いつもは大きなおっぱいでワイシャツに膨らみを作って男を挑発しているんだろうけれど剝き出しになったおっぱいは惨めなもんだな」
「胸にこんな大きな肉の塊を二つもだらしなくぶら下げて恥ずかしくないのか。ちゃんとブラジャーに収めておかなきゃいけねーぜ」
「それにしても大きい乳首だな。頭脳明晰なエリートの才女はこんな大きな乳首をしていちゃいけねーぜ」
AとBの二人は露わになった夜雨の胸をまじまじと見ながらそんな揶揄をした。
夜雨は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
しかし縄で手を吊られている以上どうすることも出来ない。
しかしAとBとごはん学校の生徒たちに乳房と乳首をまじまじと見られていることを思うと夜雨の乳首は大きくなり出した。
それをAとBは見逃さなかった。
「おおっ。夜雨の乳首が勃起し出したぜ」
「嫌がっていてもこうやって見られることに興奮しているんだな」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を吐いた。
夜雨は乳首が勃起してしまったことを死にたいほど恥ずかしく思った。
いっそ荒々しく乳房を揉まれる方がまだマシだと夜雨は思った。
丸裸にされてこんなにネチネチと鑑賞され品評されることの方がはるかに屈辱だった。
二人の男の視線は下に降りた。
夜雨は太腿を寄り合わせて何とかアソコを隠そうとモジモジしていた。
「ふふふ。夜雨さんが太腿をモジモジさせているぜ」
「何としてもアソコは隠したいんだな。いじらしいな」
「B。これでわかっただろう。夜雨を吊るす縄を緩めにしておいたのはこのモジモジを見たかったからさ。女は両手を使わなくても太腿を寄り合わすことで何とかアソコの割れ目は隠せるんだ。このいじらしいモジモジをさせるために縄を緩めにしておいたんだ」
「なるほどな。確かにこの方が面白いな」
Bは納得したようにニヤニヤ笑って言った。
二人の男にそんな揶揄をされても女の哀しい性で夜雨は太腿のモジモジをやめることは出来なかった。
「じゃあこのいじらしいモジモジを撮影するとするか」
そう言ってAとBは夜雨から離れて座って太腿をモジモジさせている夜雨をスマートフォンで撮影した。
二人の男はいつ夜雨の太腿の寄り合わせが緩んでアソコの割れ目が見えるかを気長に待つ方針のようだった。
20分くらい経った。
夜雨は太腿を寄り合せての立ち続けの疲れからハアハアと息が荒くなっていきそして太腿の疲れから太腿の寄り合わせが緩んできた。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おっ。夜雨のアソコの割れ目が見え出したぜ」
Aは待ってましたとばかりにスマートフォンのカメラのズームをアップしてカメラの焦点を夜雨のアソコに当てた。
夜雨のアソコは無毛だった。
それは最初からわかっていたことだが。
「どうしてアソコの毛を剃っているんだろう」
「さあな。きれい好きだからじゃないか」
「しかし裸の女の立ち姿のアソコは理想的だな。モッコリ盛り上がった恥肉の下の方にアソコの割れ目がほんの少しだけちょっと顔をのぞかせているなんて。憎いまでに男の性欲を刺激させるぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を夜雨に吐いた。
「お願い。Aくん。Bくん。もう許して。もう意地悪しないで。お願い。虐めないで」
夜雨は耐えられなくなって徹底的に自分を辱しめようとしている二人に哀願した。
夜雨は泣きながらまた太腿を寄り合わせてアソコの割れ目を隠そうとした。
「おい。夜雨。裸は恥ずかしいか?」
「はい。恥ずかしいです」
「じゃあパンティーとブラジャーを身につけたいか?」
「は、はい」
「よし。じゃあ下着を履かせてやるよ。ただしビキニだけどな。オレ達はあんたのビキニ姿を一度見たいと思っていたんだ」
そう言ってAとBの二人は立ち上がって夜雨に近づいてきた。
「ほら。これでおっぱいを隠してやるよ」
そう言ってBがピンク色のストラップレスブラで夜雨のおっぱいを含んで背中で蝶結びにした。これで夜雨のおっぱいはブラの中に収まり乳房は隠された。
「じゃあ下の恥ずかしい所も隠してやるよ。ほら。アンヨを広げな」
そう言ってAは夜雨の太腿をピシャピシャ叩いた。
Aが持っていたのは両サイドを紐で結ぶ紐ビキニだった。
夜雨はアソコを見られるのは一瞬のことだと思って少し足を開いた。
Aは紐ビキニの底を夜雨の股間にピッタリと当てた。
そして両サイドを紐ビキニの紐で蝶結びにした。
これで夜雨は女の恥ずかしいアソコとおっぱいと尻を隠すことが出来た。
ビキニは上も下も際どいハイレグカットではなく十分な面積があり尻はフルバックだった。
夜雨はどうして意地悪な彼らが乳首だけ隠すブラやTフロントやTバックのビキニではなく十分な面積のビキニを履かせてくれたのかわからなかったがともかく普通のビキニを身につけられてほっとした。
「おい。夜雨。ビキニを履かせてやったんだ。お礼くらい言ったらどうだ」
Aが怒鳴りつけた。
「あ、有難うございます」
お礼を言ったものの夜雨はなぜ彼らがビキニを履かせてくれたのかはどうしてもわからなかった。
今までの丸裸に比べたら吊るされているとはいえビキニ姿を彼らに見られることは相当な救いだった。
ビキニを履いたことによりアソコの肉がビキニの弾力によって形よく整えられてビキニの中に窮屈そうに収まりモッコリとした小高い盛り上がりを作っているためそれは全裸よりもエロチックに見える。
胸も同様である。
剝き出しのおっぱいは胸板に貼りついてだらしなくぶら下がっている二つの大きな肉塊であり、それを見られるのが女の恥ずかしさであるがブラジャーはそのカップの中にその肉塊をきれいに収めて、そしてブラジャーの弾力によって女の乳房をせり上げてほどよい弾力のある蠱惑的な小高い盛り上がりを作っている。
「ふふふ。夜雨さん。綺麗だねー。アソコがモッコリしていて」
「オレ一度、夜雨さんのビキニ姿を見てみたかったんだ。上下揃いのスーツをいつも見せつけられてその姿にも興奮させられて毎日オナニーしていたけれど夜雨さんのビキニのモッコリも一度見てみたいと思っていたんだ。まさに夢かなったりだ」
「お臍もかわいいな」
「太腿もビキニの縁からニュッと出ていて物凄くセクシーだな」
「ビキニは女が自分の体を男たちに見せつけるものだからな」
「真面目な夜雨さんも夏は海水浴場に行ってビキニで男たちを挑発するんだろうか?」
「さあな。だがまあいいじゃないか。今こうして目の前で夜雨さんのビキニ姿を見ているんだから」
AとBの二人は心地よさそうにビキニ姿の夜雨を鑑賞している。
夜雨はそれを彼らはもう嬲るのは終わりにしようとしていることだと解釈した。
夜雨は言葉には出さないが(いいわよ。私のビキニ姿を鑑賞したいというのなら)と言いたい気分だった。
しばし二人はスマートフォンで夜雨のビキニ姿を撮影しながら夜雨のビキニ姿を鑑賞していた。
「じゃあオレ。ちょっと後ろ姿も撮影するぜ」
そう言ってBは夜雨の背後に回った。
「うわっ。ヒップも大きくて物凄くセクシーだぜ」
「フルバックのビキニからニュッと出ている太腿も素晴らしいぜ」
Bはことさら驚いたように大声で言った。
夜雨はビキニ姿の前をAに見られスマートフォンで撮影され後ろ姿をBに見られ撮影されているという立ち姿である。
後ろのBは見えないが夜雨は(いいわよ。ビキニ姿を撮影するのなら)と言いたい思いだった。
夜雨はひそかに自分のプロポーションに自信をもっていた。
何だか自分がグラビアアイドルになって撮影されているような心地よさに浸っていた。
「夜雨さん。自慢のヒップを近くで撮影させてもらうぜ。いいだろ?」
Bが背後から声をかけた。
「い、いいわよ」
夜雨は自分がグラビアアイドルになったような酩酊からBの申し出を受け入れた。
返事をするのはちょっと恥ずかしかったが。
しかしそれが油断だった。
Bは夜雨の傍らに来ると夜雨のビキニのサイドを結んでいる紐の両方をスーと引っ張った。
サイドの紐は蝶結びで結ばれているだけなので軽く引くだけで蝶結びは解けてしまった。
「ああっ」
夜雨は思わず悲鳴を上げた。
紐ビキニの両方の紐が解けてしまったビキニは腰に貼りついている機能を失ってビキニはハラリと床に落ちてしまった。
Bはニヤリと笑って立ち上がりストラップレスブラの背中の蝶結びも解いた。
ストラップレスブラは肩紐が無く背中の蝶結びだけが胸に張りついておく機能なのでそれを解かれると、もはやブラは胸に張りついておくことが出来ずスーと床に落ちてしまった。
Bは床に落ちたビキニの上下を取るとそそくさと夜雨の前に行った。
夜雨はまた覆う物何一つない丸裸になってしまった。
「あっははは。夜雨。残念だったな。せっかくオレ達にセクシーなビキニ姿を見せつけていい気分になっていたのに」
「しかしお前のビキニ姿は本当に美しかったぜ」
AとBの二人は笑いながらそんな揶揄の言葉を夜雨に吐いた。
ここに至って夜雨はやっと彼らの念の入った意地悪を理解した。
彼らはビキニ姿を見たいなどとおだてておいて夜雨にビキニを履かせ散々褒めちぎって夜雨をいい気分にさせておいてそれでビキニの紐を解いていい気分に浸っていた自分を元の地獄に落とすのが彼らの計画だったのだと気づいた。
夜雨は彼らの計画に気づかずまんまと彼らの罠にはまってしまった人の良さを後悔した。
夜雨はまた太腿を寄り合わせてアソコを隠そうとした。
しかし胸は手をバンザイさせられているので隠しようがなく二つの乳房がもろに露わになり乳房の真ん中にチョコンと乗っている女の大きな乳首がもろに露わになった。
女の大きな乳首を見られることが恥ずかしいのだと夜雨はあらためて知った。
「お願い。Aくん。Bくん。もう意地悪しないで」
夜雨は泣きながら訴えた。
しかしAとBの二人は夜雨の哀願などどこ吹く風といった様子でニヤニヤと裸の夜雨がモジモジ困惑する姿を眺めている。
「よし。もうたっぷり嬲ったからな。じゃあオレ達は帰るぜ」
「達者でな。夜雨」
そう言ってAとBの二人は踵を返して小屋の戸に向かって歩き出した。
見物していた、ごはん学校の生徒たちも小屋の戸に向かって歩き出した。
「待って」
夜雨が声をかけた。
「何だよ?」
AとBの二人は五月蠅そうに振り向いた。
「あ、あの。いつ縄を解いてくれるの?」
夜雨は小声で恐る恐る聞いた。
「もうオレ達は来ないぜ」
「大声で助けを求める叫び声を出しな。そうすりゃ、いつか運よく通行人が来て、お前がいることに気づいて助けてくれるかもしれないぜ」
AとBの二人は、そう言って、せせら笑った。
夜雨は背筋が凍る思いでゾッとした。
ここは滅多に人など来ない。
夜おそくになれば-10度になる。凍死してしまう。
「お願い。縄を解いて。私、凍死してしまうわ」
夜雨はポロポロと涙を流しながら訴えた。
それを見て二人の心にもっと残忍な気持ちが芽生えた。
AとBの二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「おっと。そうだったな。夜雨。やっておくべ事があったな」
そう言ってAとBの二人は踵を返して夜雨の方にもどって来た。
夜雨はそれを縄を解いてくれることだと思って二人に感謝した。
(やっぱりいい人なんだわ)
と夜雨は思った。
「有難う。Aくん。Bくん」
夜雨の涙は悲し涙から嬉し涙に変わった。
しかし二人の様子が変であることに夜雨は気づいた。
「ほら。夜雨。アーンと口を大きく開けな」
そう言ってAが夜雨の顎をつかんで大きく口を開いた。
「な、何をするの?」
夜雨が聞いた。
「お前が大声で助けを求めて叫んだら、もしかしたら、助け人が気づいてしまうじゃないか」
「だからこうやって、お前が声を出せないようにするのさ」
そう言ってAはハンカチとボールギャグ(口枷)を取り出した。
「ひ、ひどいわ」
夜雨はポロポロ涙を流したがAとBの二人は容赦しなかった。
Aは夜雨の顎をつかんで大きく口を開き、夜雨の口の中にハンカチを詰め込んだ。
そして、その口にボールギャグ(口枷)を咥えさせた。
「ふふふ。これなら声が出せないからな。助けを求められないぜ」
夜雨は真っ青になって、やめて、こんなこと、と叫ぼうとしたが、それは、アグ、アグ、という唸りにしかならなかった。
「ふふふ。それじゃあな。夜雨。達者でな」
「あばよ」
そう言い捨ててAとBの二人は小屋を出て行った。
ニヤニヤ見ていた、ごはん学校の生徒たちも小屋を出て行った。
あとには裸で吊るされてボールギャグを口に咥えさせられて項垂れている夜雨が一人、小屋の中に取り残された。
夜雨の目からはポロポロと涙がとめどなく流れ続けた。
それには自分のしてきた悪業に対する罪責の念からであった。
日が暮れてきた。
(ああ。夜になったら寒くなるわ。私、凍死してしまうわ)
その恐怖が実感として夜雨に襲いかかった。
その時である。
ギイーと小屋の戸が開いた。
一人のイケメン男が入って来た。
それは何と浅野浩二だった。
しかし夜雨は喜んでいいのか悲しむべきなのか判断に迷った。
それは浅野浩二が救助者なのか、それともAやBのように自分を嬲り者にする方の人間なのか、わからなかったからである。
しかし、あえて言えば、自分を嬲りに来た者だと夜雨は思った。
なぜなら夜雨は以前、浅野浩二の人の良さにつけ込んで、浅野浩二が書いた「太陽の季節」という小説を「あちゃーな小説」と言ってボロクソにけなしたことがあるからである。
(浅野浩二さんは、きっとAとBの二人がいなくなってから一人だけで、たっぷりと思う存分、私を嬲りに来たんだわ)
と夜雨は覚悟した。
しかし浅野浩二は夜雨を嬲ろうとはしなかった。
「夜雨さん。つらかったでしょう。すぐ助けます」
そう言って浅野浩二は慈悲に溢れた目で夜雨のボールギャグを外し、口の中に詰め込まれたハンカチを取り出した。
これで夜雨は喋れるようになった。
「ああ。浅野くん。助けに来てくれたのね。有難う」
夜雨は感動で泣いていた。
「今、吊り縄も解きます」
そう言って浅野浩二は椅子の上に昇った。
そして夜雨を吊っている縄を天井から解いた。
これで夜雨は爪先立ちから解放された。
「夜雨さん。すまなかった。もっと早く助けてあげたかったんだがけどね。そうすると、ごはん学校の生徒たちが不愉快になってしまうからね」
そう言って浅野浩二は夜雨の手錠もはずした。
そして浅野浩二は裸の夜雨にコートを掛けてやった。
「ああ。浅野くん。有難う。前に浅野くんの小説を、あちゃーな小説などと言ってごめんなさい。浅野くんて凄く優しくて寛大な人なのね。エロチックな小説も文学であるということがどうしても分からなかった私の頭の方が、あちゃーでした」
夜雨は感動でポロポロと涙を流していた。
「いやー。いいんですよ。僕は気にしていませんでしたから」
と浅野浩二は言った。
「夜雨さん。さあ。逃げなさい。ごはん学校の生徒たちに捕まえられる前に」
浅野浩二は優しく言った。
「有難うございます。浅野浩二さま。ご恩は一生、忘れません」
こうして夜雨は、ごはん学校の生徒たちに殺されることなく逃げおおせた。
・・・・・・・・・・・・・
翌日。
AとBの二人が夜雨がどうなっているか調べに来た。
夜雨がいなく、もぬけの殻で、吊り縄に手錠が無いのを見ると二人は狐につつまれたような顔になった。
「一体、何が起こったんだろう?」
「夜雨のヤツ。逃げやがったんだ」
「しかし、あいつ一人で手錠から抜け出せるか?」
「誰かが来て夜雨を逃がしたんだろう」
「誰だろう。そいつは?」
あいつか、あいつか、と二人は、ごはん学校の生徒で夜雨を逃がしそうな者を推測してみたが、どうしても分からなかった。
なのでAとBの二人は、ごはん学校にもどって、夜雨に逃げられたことを正直に報告した。
夜雨はカナダに逃亡した。
美人教師・夜雨がいなくなってしまったので、小説教室ごはん学校は人気がなくなって廃校になってしまった。
しかし、その代わりに、ネット上で「作家でごはん」という2週間に一作、小説を投稿できるサイトが出来た。
小説教室、ごはん学校に通っていた生徒たちのメンバーのほとんどが懲りずに、この小説投稿サイトに2週間に一作、小説を投稿している。
夜雨にとって文芸評論は生きがいだったので、カナダから、投稿された小説のほとんどに、相も変わらず、愚にもつかない評論文を書いている。
居住地がもう日本ではなく、カナダなので捕まえられる心配もなくなった。
めでたし。めでたし。


2024年9月8日(日)擱筆





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からかい上手のエリート税理士の佐藤さん(小説)(上)

2024-04-18 23:18:34 | 小説
「からかい上手のエリート税理士の佐藤さん」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「からかい上手のエリート税理士の佐藤さん」

佐藤京子は税理士である。
彼女は子供の頃から頭がよく東大法学部を卒業した。
大学を卒業して大手銀行に就職した。
彼女はバリバリに仕事をこなした。
上司の評価もよく出世は間違いなかった。
しかし転勤が多く彼女は地元に密着した仕事がしたく2年で会社を辞めた。
そして地元の神奈川県で税理士になった。
はじめは税理士法人クラリスに所属した。
税理士の資格は大学卒業後に銀行勤務の傍ら勉強し1年で税理士国家試験に通った。
彼女の頭の良さといったらそれはそれはズバ抜けて凄く税理士国家試験の多くの問題で模範解答より少ない税額を出したほどだった。
採点者が目を丸くして驚いたのは言うまでもない。
当然、彼女が受けた時の税理士国家試験ではトップの成績だった。
彼女は税理士法人クラリスで2年働いた。
税理士になるには税理士試験に合格した後2年の実務経験をすることが必要条件なのである。
なので彼女は税理士法人クラリスで2年働いた。
彼女はクラリスの2年間でもう何でもこなせるようになっていた。
なので神奈川県の横浜市の関内にある貸しビルの一室を借りて佐藤京子税理士事務所を開いて独立した。
彼女は佐藤京子税理士事務所の所長となった。
テナント料は高かったが彼女はやり手の税理士なのでクラリスの時からの顧客が彼女の個人税理士事務所の顧客となった。
なのでテナント料をはるかに超える収入があった。
その上彼女はこの世離れした美人である。
次から次へと大企業、中小企業、個人事業主、が彼女に会社の税理業務の依頼をしてきた。
それで1年であれよあれよという間に300件の会社と顧問契約を結ぶことになった。
顧客の彼女に対する信頼もあつかった。
顧客には、貿易会社、製造業、IT企業、その他ありとあらゆる職種の会社に佐藤京子は対応できた。
つまりオールラウンドである。
その他、相続税の相談、会社の資金調達、M&A、事業継承のアドバイスなど何でもやった。
そうなるとさすがの京子も一人では忙しくなって一人では仕事をこなせなくなった。
そのため京子は佐藤京子税理士事務所の求人の募集を出した。
・・・・・・・・・・・・
さて。
京子が佐藤京子税理士事務所のスタッフ募集の広告を出した時である。
横浜市内に住む二人の男がその記事を見た。
川田と森田という男である。
二人は同じ高校の友達だった。
二人は怠け者で勉強は全くせずギャンブルやスマホゲームに明け暮れていた。
高校を卒業した後はニートとなり働かずパチンコを一緒にするようなだらけた生活をしていた。
「おい。佐藤京子税理士事務所がスタッフ募集だとよ」
タブレットのネット広告を見ていた川田が言った。
どれどれと言って森田がタブレットを覗き込んだ。
「佐藤京子税理士事務所。スタッフ募集。時給××円。一緒に働きませんか」と書いてあった。
「ああー。本当だ」
森田が言った。
「おい。どうだ。応募してみないか?」
川田が言った。
「・・・・どうして?」
「だって佐藤京子と言ったら東大法学部を主席卒業したインテリだろ。頭が良くて仕事が出来てしかも超美人でやさしい性格だろ。面白そうじゃないか」
佐藤京子は美人で世事にも精通していて、やり手の税理士としてしばしばテレビ出演もしたことがあったので世間では知られていた。
クイズ番組の頭脳王に出て優勝したこともあった。
「・・・・でも真面目に働くのなんてウザったいし。お前は働くのウザったくないの?」
「佐藤京子さんはやさしいから多少サボっても叱らないだろう。飯をおごってくれるかもしれないし仕事外でも付き合ってくれるかもしれないし楽して美人と付き合えるなんて最高じゃないか?」
「なるほどな。確かにそうだな。じゃあ応募しよう」
「応募者は多いかもしれないぞ。競争倍率は高いかもしれないぞ。早く応募しないか?」
「そうだな。早い方がいいな」
「でも応募者には税理士試験に通ったヤツがいるだろうし。日商簿記1級のヤツもいるだろうし。オレたちが応募しても採用してくれるかな?」
「日商簿記1級に通ったってウソ言えばいいんだよ。どうせ面接では日商簿記のテストなんかしないだろうから」
「そうだな。落ちて元々。通ったらハッピーで応募してみるか」
「そうだな。決まり」
・・・・・・・・・・・・
こうして二人は翌日、佐藤京子税理士事務所に面接を受けに行った。
二人は何年ぶりか久しぶりにきちんとしたスーツを着て。
二人は電車に乗り関内駅で降りた。
そしてスマホの地図アプリを頼りに港の方に向かって歩いた。
「落ちて元々とはいえちょっと緊張するなー」
川田が言った。
「オレもだよ」
森田が言った。
やがて7階建てのビルが見えてきた。
1階のエレベーターの前の各階の案内表示には7階に「佐藤京子税理士事務所」との表記があった。
「緊張してきたなー」
「そうだな。何だか死刑台の前に立たされているみたいな感じがしてきたよ」
死ぬとわかっている人間でも人間の不思議な心理で「死の実感」というものは直前になって初めて急激に高まっていくものなのである。
そしてわからないものは人間に恐怖感を与える。
二人はエレベーターのボタンを押した。
▼のマークが点灯しすぐにエレベーターは1階に着いてドアが開いた。
・・・・・・・・・・・・・
二人はエレベーターに入った。
そして7階のボタンを押した。
エレベーターはグングン上がっていきすぐに7階に着いた。
二人はエレベーターを降りた。
目の前にはフロアー案内の図があって「佐藤京子税理士事務所」の場所がそれに書かれてあった。
二人はそれに従って「佐藤京子税理士事務所」に向かった。
1分もかからず二人は「佐藤京子税理士事務所」と書かれた部屋の前に辿り着いた。
「緊張するなー」
「そうだな。頭が良い女は気が強いからな。こわいな」
家を出た時には無かったがいざ彼女の事務所の前に立つと緊張感が実感となって二人の心臓はドキドキと早鐘を打ってきた。
しかしもうここまで来たので入らないわけにはいかない。
二人は勇気を出してチャイムを押した。
ピンポーン。
「はい。どなたでしょうか?」
インターホンから声が聞こえた。
「あ、あの。スタッフ募集の広告を見て応募に来た者です」
川田がしどろもどろの口調で言った。
「はい。わかりました。今すぐ行きます」
テキパキした返事が返ってきた。
部屋の中でパタパタ走る音がした。
そして部屋のドアが開かれた。
佐藤京子が顔を出した。
「あ、あの。スタッフ募集の広告を見て応募に来た者です」
二人はコチコチに緊張して佇立していた。
しかし。
彼女は二人を見るとニッコリ笑って、
「いらっしゃい。どうぞ入って下さい」
と笑顔で言った。
彼女の対応が優しかったので二人はほっと胸をなでおろした。
二人は事務所の中に入って行った。
事務所の中には彼女のデスクと接客用の大理石のテーブルとソファーがあった。
「さあ。どうぞ座って」
と彼女に促されて二人はソファーに座った。
「あ、あの。僕たちスタッフ募集の広告を見て応募に来ました」
「嬉しいわ」
ちょっと待っててと言って佐藤京子は立ち上がった。
佐藤京子はチーズケーキと紅茶を持ってきて「どうぞ」と言って二人に差し出した。
二人は「頂きます」と言ってチーズケーキを食べた。
「よくいらっしゃって下さいましたね。有難う。求人の広告を出したけれどなかなか応募してくれる人がいなくて困っていたの」
佐藤京子はニコッと笑顔で言った。
二人は予想と違って彼女が優しい態度で接してくれたことにほっと胸を撫でおろした。
二人は顔を見合わせた。
「あ、あの。佐藤京子さん。ちょっと二人で相談したいことがあるので席を外してもよろしいでしょうか?」
「ええ。いいわよ」
二人は立ち上がって事務所の外に出た。
「おい。どうする?」
「ウソついてもいいんじゃないか。彼女はそんなに細かく調べようという様子もなさそうだし」
「そうだな」
こうして二人はまたもどってきた。
「一応履歴書を見せてくれる?」
「はい」
二人は履歴書を差し出した。
佐藤京子はそれを見ながら、
「ふーん。森田くんは慶応大学卒業で川田くんは明治大学卒業なのね。二人とも日商簿記1級を持っているのね」
佐藤京子は感心した様子で言った。
その後は大学時代何をやっていたかとか卒後就職した会社のことなどたわいもないことを話した。
佐藤京子も二人の履歴を信じているようで突っ込んだ質問はしなかった。
20分くらい話した。
「わかったわ。じゃあ1週間後に採用するかどうかを連絡するわ。今日は来てくれてどうも有難う」
こうして二人の面接は終わった。
「よかったな。突っ込まれなくて」
「ああ」
「でも採用されて働き出したらバレちゃうんじゃないか?」
「バレても彼女は優しい性格だから大丈夫なんじゃないか」
「そうだな。バレても許してくれそうな雰囲気だからな」
・・・・・・・・・・・・
1週間後二人に採用の電話がかかってきた。
「やった」
二人は小躍りして喜んだ。
そして二人は佐藤京子税理士事務所で働くようになった。
しかし大卒でないことや日商簿記1級の資格を持っていないことは簿記について何も知らないことですぐバレてしまった。
二人は面接の時の佐藤京子の大らかで寛容な態度からバレても怒らないだろうと予想していた。
しかし現実は違った。
彼女は二人が面接でウソをついたこと、そして仕事が出来ないことが分かると二人を罵りまくった。
彼女の態度の豹変に二人は驚いた。
「あんた達最低よ」
「とんでもない無能なウソつきを採用しちゃったものね」
こんな罵倒を彼女は二人に投げつけた。
しかし二人は雑用係りということでクビはまぬがれた。
・・・・・・・・・・・・・・
ある日の様子はこんな具合である。
その日は趣味で料理教室を開催していた杉山信子だった。
彼女は料理教室の先生だった。結婚して一男一女を産み子育ても終わったので趣味で料理教室を開いていた。週一回自宅で近所に住む主婦や未婚の女が10人くらいやってきて彼女の料理教室に出ていた。しかしそれが評判になってどんどん人数が増えていき、またテレビ局に目をつけられてテレビ出演するようになり料理教室も自宅ではなくビルの一室を借りて本格的にやるようになった。本を出版したり色々な外食チェーン店にも料理の指導の依頼を頼まれるようになったのである。
そのため収入が増え経理が複雑になっていった。
そのため経理を佐藤京子税理士事務所にやって欲しいと頼みに来たのである。
「杉山信子さん。わかりました。これからは経理は私の事務所でさせて頂きます」
「有難うございます。佐藤京子さん。助かります」
「いえ。私も杉山信子さんの料理教室に出てみようかしら」
「それは嬉しいです」
「いえ。私も料理に興味ありますから。それに実際に見てみた方が経理も実感が沸きやすいですから」
「それは嬉しいです」
と杉山信子は言った。
「ところで佐藤京子さんも仕事が多くて大変でしょう。スタッフは当然ここにいる二人の他にもたくさんおられるのでしょう?」
杉山信子は二人の男を見て言った。
「いやあ。スタッフは今の所この二人だけです」
「そうなんですか。そうとは知りませんでした。では二人はとても優秀な方なんですね?」
「いえー。こいつらは大卒で日商簿記一級を持っているとか言ったので採用したのですが何にも知らないフリーターだったのです。私もだまされました。世の中には平気でウソをつくヤツが多いですからね。杉山さんも気をつけて下さい」
おーいろくでなしのブタ野郎二人お茶を持ってくるくらいの気はきかせろと佐藤京子は二人を怒鳴りつけた。
「す、すみません」
と言って二人は急いでお茶を持ってきた。
二人がお茶をテーブルの上に乗せると、
「おい。ブタ野郎。どうぞくらいの言葉を言うのが礼儀だろ」
と佐藤京子は二人をののしった。
杉山信子は予想と違って佐藤京子の厳しさに驚いて目を白黒させたが他人のことに干渉することも出来にくいので黙っていた。
その後も佐藤京子と杉山信子は色々なことを雑談した。
「では今日はこれで帰ります。これからよろしくお願い致します」
と言って杉山信子は玄関に向かった。
二人はボサッとしている。
「おい。ブタ野郎二匹。大切なお客さまだぞ。玄関を開けて(今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい)くらいのこと言うのが礼儀だろ」
と言って男二人を蹴飛ばした。
二人は京子に言われて焦って玄関の戸を開けた。
そして、
「今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい」
と佐藤京子に言われた言葉を述べた。
杉山信子は佐藤京子に、
「今日はどうも有難うございました。これからよろしくお願い致します」
とニコッと微笑んで言った。
「いえ。わからないことがあったらいつでも遠慮なくどんな事でも電話でもメールでもして下さい」
と佐藤京子も微笑んで言った。
そして杉山信子は去って行った。
・・・・・・・・・・
万事がこの調子だった。
佐藤京子に税務処理を頼む客が来ると佐藤京子はテーブルを挟んで客の依頼を詳しく聞き丁寧にアドバイスした。
依頼客と佐藤京子は実に和気あいあいとした会話だった。
二人の男はその横で床を雑巾がけしていた。
それは佐藤京子の命令だった。
依頼客が疑問に思って佐藤京子に、
「この二人はどういう方なのですか?」
と聞くと佐藤京子は、
「いやー。こいつらは大卒でないのに大卒と偽って簿記について何も知らないのに日商簿記1級の資格を持っていますなどと言って面接に来たので採用してしまったんです。クビにしようかとも思いましたがこいつらの腐った根性を叩き直すためにクビにはしないでやっているんですよ」
と佐藤京子は言った。
「そうだったんですか」
「ええ。そうです。世の中にはこういうとんでもない詐欺師、悪い人間がいますから人を安易に信用しないで下さいね」
「まあ。本当ですか。こわいですね。人間って信用できないんですね。私もこれから会社が大きくなりますから人を採用する時は採用面接の時は履歴書を信用しないで興信所に調査してもらって本当かどうか確かめてから決めようと思います」
「ええ。ぜひそうした方がいいですよ」
と万事がこの調子だった。
そして仕事が終わると佐藤京子は、
「おらおら。ブタども。とっとと帰れ」
と言って追い出した。
・・・・・・・・・・・・・・・
その日。
川田と森田の二人は家に帰る前にマクドナルドに寄った。
「いい加減頭くるよな」
「そうだな」
「佐藤京子は優しいという評判だったのにな」
「もしかしてアイツ、サド女なんじゃないか?」
「それは考えられるな。オレ達を虐めて楽しんでいるんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
「もしかしてオレ達を採用したのはオレ達を欲求不満のはけ口にするためじゃないか?」
「そうだよな。面接の時日商簿記1級の資格を持っていると言ったんだからそれが本当かどうか確かめるために簿記の基本的な質問をして答えさせ本当かどうか確かめてもいいのにな。何も聞かずに信じて即採用するっていうのは確かにおかしいな」
二人の男がそんなことを話している時だった。
森田のスマートフォンにメールの着信音がピピピッと鳴った。
森田はすぐにメールを開いた。
佐藤京子からだった。
「森田。川田。今日であなた達を解雇します。採用の時約束した給料は支払いません。学歴資格等を詐称したのですからあなた達は詐欺罪です。訴えてもあなた達が違法なことをしたのですから勝ち目はありませんよ。佐藤京子」
と書かれてあった。
「ちくしょう。一ヶ月タダ働きだ。佐藤京子のヤツ最初から欲求不満のはけ口にするためにオレ達を採用したんだ」
「アクドイ女だな。直接言いにくいことはメールでしやがって」
二人の怒りは頂点に達していた。
・・・・・・・・・・・・
数日後。
5時になったので佐藤京子は帰り支度をして事務所を出ようとした。
その時。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「はーい」
佐藤京子は玄関の戸を開けた。
川田と森田の二人が立っていた。
「な、何の用?あなた達は解雇したはずよ。私は今からマンションに帰るところよ」
佐藤京子はそう言って急いでドアを閉じようとした。
「おっと。そうはいかねえぜ」
森田はサッと靴をドアの隙間に入れた。
「な、何をするの?」
京子は焦ってドアを閉じようとしたが森田の靴がはさまっているので女のか弱い膂力ではドアを閉めることは出来なかった。
森田と川田の二人が開いているドアをつかんで、えーい、と思い切り引っ張った。
男二人の力とか弱い女一人の力比べでは女に勝ち目はない。
ドアが開かれ森田と川田の二人は佐藤京子税理士事務所にズカズカと入ってきた。
「あなた達、何を考えているの?これは住居不法侵入よ。出て行って」
そう言いながらも京子の声は少し震えていた。
「ああ。確かに住居不法侵入だな。しかしそれはあんたが人に言わなきゃ誰にもわかんないことだろう」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「な、何の用なの」
「今日は給料の支払い日なのに銀行口座に給料が振り込まれていないからな。支払ってもらおうと思ってここへ来たのさ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「そ、それは。メールでも告げたでしょ。あなた達は学歴資格を詐称したでしょ。だからあなた達は詐欺罪よ。私はあなた達を正当な理由で解雇したのだからあなた達に給料を支払う義務は私にはないわ」
「一方的に詐欺よばわりされたくないな。あんただってオレ達を最初から雑用係りと欲求不満のはけ口とサディズムを楽しむためにオレ達を採用したんじゃねえか。あんただってオレ達をだましたじゃねえか」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「だましたなんて勝手に決めつけないで。わたしがあなた達をだましたという証拠でもあるの?」
「物的証拠なんてないな。しかしあんたの行動をじかに受けたオレ達にとってはあんたの心ははっきりわかるぜ」
「一体、私をどうしようというの?」
「ふふふ。ただ働きさせておいて給料を払わないというのならそれでもいいぜ。しかしオレ達も生活保護になっちゃうからな。あんたに金を払ってもらうぜ」
「ふふふ。ただ働きさせておいて給料を払わないというのならそれでもいいぜ。しかし散々、オレ達をコケにしたオトシマエはつけてもらうぜ。そうすりゃあんたもオレ達に金を払わざるを得なくなるぜ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
そう言うや森田と川田の二人はそれっと言って京子に襲い掛かった。
「あっ。いやっ。何をするの?」
京子は抵抗したが屈強な男二人の力とか弱い女一人の力の差では女に勝ち目はなかった。
京子は両手を背中に捩じり上げられて縄で後ろ手に縛られてしまった。
これでもう京子は身動き出来なくなってペタンと床に座り込んでしまった。
足は動かせるので立って逃げようとすることは出来るが後ろ手に縛られて手が使えない以上逃げようとしても屈強な男二人が居る前では二人に容易に取り押さえられてしまうのは明らかなので京子は無駄な抵抗はしなかった。
「あなた達。私を縛って何をしようというの?」
「ふふふ。何をすると思う?」
「わ、わからないわ」
「ふふふ。教えてやろう。あんたにここでストリップショーをしてもらうのさ。そしてそれを撮影するのさ。金を払わないのならそれをエロ動画投稿サイトに投稿するのさ。佐藤京子のストリップショーがネットで全国に知れ渡るというわけさ」
そう言って森田はデジカメを三角脚立の上に固定した。
「卑劣だわ。あなた達が怠け者だとはわかっていたけれどそんな犯罪までするとは思わなかったわ」
川田が後ろ手に縛られて横座りしている京子の隣に座った。
川田は京子の頬をナイフでピチャピャ叩きながら京子の美しいストレートの黒髪をつかんだ。
「ふふふ。京子さん。後ろ手の縄を解いてやるぜ。その代わりちゃんと自分の手で色っぽく服を脱いでいきな」
川田は京子の髪の毛を弄びながら言った。
「い、嫌です。そんなこと」
京子は体を震わせながら言った。
女なら当然言う言葉を京子も反射的に言った。
「手間をとらせるな。強情を張るなら強引に脱がしてもっと恥ずかしいことをさせるぞ」
そう言って川田はハサミを取り出して京子のロングヘアーを少しジョキンと切った。
切り取られた京子の美しい髪の毛が少しパサリと床に落ちた。
「ああー。やめてー」
「ふふふ。これでオレ達が本気だということがわかっただろう。嫌というのならきれいな髪の毛を全部切ってバリカンで丸坊主にしてしまうぞ」
京子は渋面で唇を噛んで悩んでいたが抵抗しても無駄で時間の問題で抵抗するともっと酷いことをされると悟ったのだろう。
「わ、わかりました。服を脱ぎます。だからもう髪を切るのはやめて下さい」
と言った。
「わかりゃいいんだよ。じゃあ縄を解くからな。ちゃんとストリップショーをするんだぞ」
そう言って川田は京子の後ろ手の縄を解いた。
縄を解かれて京子は手が自由になった。
女の恥じらいから京子は両手を胸に当てた。
「ほら。さっさと立ってストリップショーをしな」
川田が言った。
しかし京子はためらっている。
「ふふふ。別にすぐ脱がなくてもいいぜ。女が恥ずかしいことが出来なくてためらっている姿はサディストの男を興奮させるからな」
森田のこの言葉が効いたのだろう。
「わ、わかりました。脱ぎます」
と言って京子は立ち上がった。
「わかりゃいいんだよ。さあとっとと服を脱ぎな」
京子はワナワナと手を震わせてワイシャツのボタンを外していった。
森田と川田の二人は食い入るように京子を見ている。
今まで散々奴隷のように扱っていた森田と川田の二人に服を脱ぐのを見られるのは京子にとって耐えられない屈辱だった。
しかし女のか弱い力では屈強な男二人に抵抗しても無駄ということはわかっているので京子は諦めていた。
ワイシャツのボタンを全部外すと森田と川田の二人は、
「さあ。ワイシャツを取り去りな」
と命じた。
京子はワナワナとワイシャツの袖から手を抜きとった。
パサリと京子のワイシャツが床に落ちた。
京子の豊満な乳房を納めている白いブラジャーが露わになった。
ブラジャーは京子の豊満な乳房を窮屈そうに納めてムッチリと膨らんでいた。
「おー。すげー。凄いセクシーなおっぱいだな」
「オレ。いつも京子のブラウスの胸のふくらみに悩まされてオナニーしていたんだ。それを拝めるなんて夢のようだぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を言った。
京子は顔を真っ赤にして思わず両手を胸に当てた。
森田と川田の二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし男たちは恥じらっている京子の姿をデジカメで撮影した。
「さあ。次はスカートを脱ぎな」
森田が言った。
命じられて京子はワナワナとスカートのチャックを外してスカートを降ろしていき足から抜き取った。
これで京子はブラジャーとパンティーという下着だけの姿になった。
京子の腰部にピッタリと貼りついている純白のパンティーは京子の股間の輪郭を包み隠さず露わにしているのでパンティーを履いていても京子はもう裸同然と同じだった。
むしろパンティーの弾力のためパンティーの中に収まっている恥肉がモッコリと盛り上がって見えた。
「うわー。すげー。凄いセクシーだ」
「まさか京子のパンティーを拝めるとはな。オレ興奮して心臓がドキドキしているぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を言った。
京子は羞恥心から顔を真っ赤にして思わず両手をパンティーに当てた。
森田と川田の二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし男たちは恥じらっている京子の姿をデジカメで撮影した。
しはしして。
「さあ。次はブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になりな」
森田が言った。
「お願い。森田くん。川田くん。これ以上は許して」
京子は純白のブラジャーとパンティーを必死で手で覆いながら言った。
「ふふふ。だいぶ風向きが変わってきたな。しかし今さらくん付けにしたって遅いぜ。オレ達の怒りはトサカにきているんだから。脱がないというのならオレ達が強引に脱がすだけだぜ」
そう言って川田はカバンから大きな浣腸器を取り出した。
「おい。京子。とっととブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になれ。強情を張っているとオレ達が丸裸にひん剥いて後ろ手に縛って1リットルのグリセリン液の浣腸をするぞ」
森田が大きな浣腸器を手にしながら言った。
京子は恐怖心で顔が真っ青になった。
「わ、わかりました」
逆らっても無駄だと悟ったのだろう。
京子はブラジャーのホックを外した。
プルンと京子の大きな乳房が弾け出て露わになった。
「うわー。すげー。夢にまで見た京子のおっぱいを見れるとは。オレ。興奮しておちんちんが勃起しっぱなしだぜ」
そう言って川田はズボンの上からテントを張った股間をさすった。
「オレもだぜ」
森田もビンビンに勃起してテントを張っているズボンの股間をさすった。
京子は思わず両手で露わになったおっぱいを隠した。
「ふふふ。いいポーズだぜ」
川田は純白のパンティー一枚だけ履いて両手でおっぱいを隠している京子の姿を撮影した。
京子の姿はあたかも胸の前で収穫した二つの大きな桃が落ちないように大事にかかえている女のように見えた。
両手で胸を隠しているので京子の純白のパンティーは丸見えである。
京子の恥肉を収めたパンティーはその弾力によって恥部をモッコリとふくらませ女の恥部の輪郭をクッキリとあらわしていた。
パンティーは女の股間を引き締めて整える効果があるのでそれは全裸以上にエロチックでもあった。男はパンティーやビキニに包まれた女の股間のモッコリに興奮するのである。
「ふふふ。京子。股間のモッコリが丸見えだぜ」
川田が言った。
「股間のモッコリは隠さなくてもいいのか?」
森田が言った。
言われて京子は股間の防備を忘れていたことに気づき、おっぱいを隠していた両手のうち左手で股間を覆った。
それはボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
「ふふふ。その格好も色っぽいぜ」
そう言って川田は恥じらっている京子の姿を撮影した。
「さあ。京子。最後の一枚のパンティーも脱ぎな」
森田が言った。
「胸とアソコを隠すポーズならパンティーを履いているより全裸の方が芸術的だせ」
「もうブラジャーは脱いじゃっているんだからパンティーも脱いだ方がスッキリするぜ」
「手でアソコを隠しながら素早くパンティーを脱げばいいじゃないか」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を投げかけた。
しかし京子にしてみればパンティーは女の最後の砦だった。
男たちが京子にパンティーを脱ぐように命じても最後の砦はどうしても脱げなかった。
「ええい。じれってえ」
京子がどうしてもパンティーを脱ごうとしないので川田が京子の所に行った。
川田はニヤニヤ笑っている。
「ふふふ。そんなに脱ぎたくないなら脱がないでいいぜ。それよりももっと面白いことを思いついたからな」
川田は京子の隣に腰を下ろして意味深なことを言った。
「な、何をするの?川田くん」
京子は脅えながら必死に胸とアソコを手で隠している。
川田はポケットからハサミを取り出すとサッと素早く京子のパンティーの右側のサイドをプチンと切ってしまった。
片方のサイドを切られたパンティーはもう腰に貼りつく役割りを果たせない。
パンティーの弾力によってパンティーは一気に収縮してしまった。
「いやー」
京子はあわててパンティーがずり落ちないように太腿をピッチリと閉じてパンティーを太腿で挟みつけパンティーが落ちないようにした。
そして両手で切れた右側のサイドの端をつかんで縮もうとするパンティーを何とか引っ張って留めようとした。
京子は右手でパンティーの右側の切れたサイドの後ろの方の端を必死でつかんで引っ張り、お尻を見られないようにし、左手でパンティーの右側の切れたサイドの前の方の端をつかんで引っ張って、必死で何とか女の恥部を見られないようにした。
必死で片方のサイドが切れたパンティーをそれでも身につけていようとするのは女にとっては最後まで恥ずかしい所を隠そうとする健気な努力なのだが男は皆スケベでサディストなので困っている女の姿は男を最高に興奮させるのである。
両手で切れた右側のサイドの端をつかんでいるので京子のおっぱいは丸見えである。
「あっははは。京子。サイドが切れたパンティーなんてもう使い物にならないぜ」
「もうそのパンティーは使い物にならないんだから無駄な頑張りはやめてパンティーは脱いじゃいな」
「でもお前が困っている姿は最高にセクシーでエロチックで男を興奮させるぜ。だからお前がそうしたいのならいつまでもその格好で無駄な頑張りを続けてもいいぜ」
森田と川田の二人はデジカメで惨めな京子の姿を撮影しながら京子にそんな揶揄の言葉を投げつけた。
そう言われても京子は体を覆う最後の一枚を何とか死守しようとした。
「ふふふ。パンティーは絶対脱がないという決死の覚悟なんだな」
森田はそう言うや再び京子の所に行った。
そしてハサミを取り出してサッと京子のパンティーの切れてない方の左側のサイドをプチンと切ってしまった。
京子はパンティーの右側のサイドを両手で引っ張っていたので、そして引っ張らなくてはならないので切れていない反対側の左側のサイドはガラ空きだった。
なので森田は余裕で京子のパンティーの左側のサイドを切ることが出来た。
「ああー。いやー」
両サイドを切られたパンティーはもう腰に貼りついておく機能を完全に失っていた。
両サイドが切れたパンティーは一気に収縮した。
それでも京子はアソコを両手で隠した。
しかしパンティーは両サイドが切られているので後ろがペロンと剥げ落ち大きな尻と尻の割れ目が露わになった。
森田はパンティーの切れ端をつかんで引っ張った。
たいした力も要らずパンティーは京子の股間からスルリと抜きとられた。
これで京子は一糸まとわぬ丸裸になった。
全裸の女が男の視線から身を守ろうと片手で胸を片手でアソコを隠している姿は女の羞恥心の現れの基本的な形である。
「どうだ。京子。スッポンポンになってスッキリしただろう」
「いくら頭が良くても女を屈服させるのは簡単さ。裸にさせればいいだけのことさ」
「ふふふ。今まで散々バカにしてきたオレ達の前でスッポンポンの裸を晒す気分はどうだ?」
森田と川田の二人は全裸で女の恥ずかしい所を隠している京子にそんな揶揄を言った。
「さあ。京子さんの尻もしっかり録画しておかないとな」
そう言って川田は京子の後ろに回ってスマートフォンで京子の後ろ姿を撮影した。
女にはアソコと乳房と尻という三カ所の恥ずかしい所がある。
しかし手は二本しかない。
なのでアソコと乳房を隠すためにはどうしても二本の手を使わねばならず尻までは隠せない。
「ふふふ。京子さん。大きな尻とピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目が丸見えだぜ」
川田がスマートフォンで京子の後ろ姿を撮影しながら言った。
そういう卑猥な言葉を投げかけられることによって京子の意識が無防備に丸見えになっている尻に行き尻の割れ目がキュッと反射的に閉まった。
「いやー。やめてー。川田くん」
京子は思わず乳房を隠していた左手を外し左手で尻の割れ目を隠した。
京子はアソコを右手で隠し尻の割れ目を左手で隠しているという姿である。
乳房を隠していた手が外されたので京子のおっぱいが丸見えになった。
それは滑稽な姿だった。
「ふふふ。京子さん。おっぱいが丸見えだぜ」
森田が言った。
あっはははと森田と川田の二人は笑った。
自分が滑稽な姿であるということは京子もわかっているので京子はやむなく尻の割れ目を隠していた左手を胸に持って行きおっぱいを隠した。
そのため尻の割れ目は丸見えになった。
尻の割れ目を撮影されることはやむなくあきらめるしかなかった。
このように女を困らせることがスケベな男達のサディズムをそそるのである。
京子はアソコを右手で隠し胸を左手で隠すという基本形にもどった。
10分くらい二人は京子が困る姿をスマートフォンで撮影しながら鑑賞した。
「森田くん。川田くん。お願い。もうやめて。約束したお給料は払います」
京子は耐えきれなくなって丸裸の体のアソコとおっぱいを隠しながら森田と川田の二人に哀願した。
「ふふふ。ダメだぜ。京子さん。あんたがそう言い出すことは予想していたよ。しかしこういう事になった原因はあんたが性悪でオレ達を欲求不満のはけ口にしようと計画していたからじゃないか。自業自得ってやつさ。あんたの性悪な性格を徹底的に叩き直してやるよ。あんたをしとやかでつつましい女に調教してやるぜ」
森田が言った。
「よし。じゃあ次の責めといくか」
川田が言った。
「な、何をするの?」
京子は脅えながら聞いた。
森田と川田の二人は立ち上がって京子に近づいてきた。
「さあ。京子さん。両手を前に出しな」
森田が言った。
「い、いや。こわいわ。何をするの?」
京子は何をされるのかわからない恐怖から森田に言われても両手でヒッシと女の恥部を押さえているだけだった。
それが京子のせめてもの抵抗だった。
「ええい。じれってえ」
森田と川田の二人は強引に京子の手をつかんで胸の前に出させた。
やめてーと言って京子も抵抗したが女のか弱い力では屈強な男二人の膂力の前には全く無力だった。
二人は京子の両手を体の前に出させ京子の手首に手錠をかけた。
「ふふふ。これは。あんたを徹底的に責めるためにSМショップで買ったのさ」
森田がせせら笑いながら言った。
「おい。川田。天井にフックを取りつけろ」
森田が川田に命じた。
「オッケー」
川田はホクホクしながら椅子を持ってきてその上に立った。
川田は登山用のカラビナが固定されている正方形の板を持っていた。
川田はそれを持って椅子の上に立つと板の裏に瞬間協力接着剤アロンアルファをたっぷりつけた。
そしてその板を天井に貼り付けた。
川田はカラビナを思いきり引っ張ってみたが板が天井にしっかりくっついていて剥がれることはなかった。
「よし。大丈夫だ」
川田が言った。
一方、森田は京子の手錠に縄を結び付けた。
そしてその縄尻を椅子の上に立っている川田に渡した。
川田はカラビナの輪の中に縄尻を通した。
「ふふふ。これだけ見ればわかるだろう。お前を吊るすのさ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「い、嫌。こわいわ。やめて。お願い。そんなこと。森田くん。川田くん」
京子の訴えを無視して森田は川田がカラビナに通した京子の縄尻をつかんでグイグイと引っ張っていった。
「ああー。やめてー」
京子が叫んだが森田と川田の二人は聞く耳を持たない。
滑車の原理で二人が縄を引っ張ることによって京子の手首はグイグイと天井に向かって引っ張られていった。
京子はバンザイさせられた格好になった。
さらに二人は縄をグイグイと引っ張っていき京子の手は頭上でピンと伸び京子は天井から吊るされる格好になった。
「ふふふ。つま先立ちになるまで引っ張ってやる」
川田が言った。
しかし。
「まて。つま先立ちになるまでは引っ張るな。足の裏は床につける程度にしておけ」
と森田が言った。
どうしてだ?と川田が聞くと森田は、
「まあ。いいじゃないか」
と意味深に笑った。
「よし。わかった」
そう言って川田は京子がつま先立ちになるまでは引っ張らず、手は頭の上で肘が少し曲がる程度の所で縄尻をカラビナに結びつけた。
京子の手は頭の上にあるので京子はもう女の恥ずかしい所を隠すことが出来ない。
乳房もアソコも丸見えである。
しかし天井から吊るされているので京子のアソコもおっぱいも丸見えである。
もちろん尻の割れ目も。
京子の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
「ふふふ。京子さん。残念だな。もう手で体を隠すことは出来なくなったな」
「ふふふ。いつもは大きなおっぱいでワイシャツに膨らみを作って男を挑発しているんだろうけれど剝き出しになったおっぱいは惨めなもんだな」
「胸にこんな大きな肉の塊を二つもだらしなくぶら下げて恥ずかしくないのか。ちゃんとブラジャーに収めておかなきゃいけねーぜ」
「それにしても大きい乳首だな。頭脳明晰なエリートの才女はこんな大きな乳首をしていちゃいけねーぜ」
森田と川田の二人は露わになった京子の胸をまじまじと見ながらそんな揶揄をした。
京子は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
しかし縄で手を吊られている以上どうすることも出来ない。
しかし二人の男に乳房と乳首をまじまじと見られていることを思うと京子の乳首は大きくなり出した。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おおっ。京子さんの乳首が勃起し出したぜ」
「嫌がっていてもこうやって見られることに興奮しているんだな」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を吐いた。
京子は乳首が勃起してしまったことを死にたいほど恥ずかしく思った。
いっそ荒々しく乳房を揉まれる方がまだマシだと京子は思った。
丸裸にされてこんなにネチネチと鑑賞され品評されることの方がはるかに屈辱だった。
二人の男の視線は下に降りた。
京子は太腿を寄り合わせて何とかアソコを隠そうとモジモジしていた。
「ふふふ。京子さんが太腿をモジモジさせているぜ」
「何としてもアソコは隠したいんだな。いじらしいな」
「川田。これでわかっただろう。京子を吊るす縄を緩めにしておいたのはこのモジモジを見たかったからさ。女は両手を使わなくても太腿を寄り合わすことで何とかアソコの割れ目は隠せるんだ。このいじらしいモジモジをさせるために縄を緩めにしておいたんだ」
「なるほどな。確かにこの方が面白いな」
川田は納得したようにニヤニヤ笑って言った。
二人の男にそんな揶揄をされても女の哀しい性で京子は太腿のモジモジをやめることは出来なかった。
「じゃあこのいじらしいモジモジを撮影するとするか」
そう言って二人の男は京子から離れて座って太腿をモジモジさせている京子をスマートフォンで撮影した。
二人の男はいつ京子の太腿の寄り合わせが緩んでアソコの割れ目が見えるかを気長に待つ方針のようだった。
20分くらい経った。
京子は太腿を寄り合せての立ち続けの疲れからハアハアと息が荒くなっていきそして太腿の疲れから太腿の寄り合わせが緩んできた。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おっ。京子のアソコの割れ目が見え出したぜ」
森田は待ってましたとばかりにスマートフォンのカメラのズームをアップしてカメラの焦点を京子のアソコに当てた。
京子のアソコは無毛だった。
それは最初からわかっていたことだが。
「どうしてアソコの毛を剃っているんだろう」
「さあな。きれい好きだからじゃないか」
「しかし裸の女の立ち姿のアソコは理想的だな。モッコリ盛り上がった恥肉の下の方にアソコの割れ目がほんの少しだけちょっと顔をのぞかせているなんて。憎いまでに男の性欲を刺激させるぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を京子に吐いた。
「お願い。森田くん。川田くん。もう許して。もう意地悪しないで。お願い。虐めないで」
京子は耐えられなくなって徹底的に自分を辱しめようとしている二人に哀願した。
京子は泣きながらまた太腿を寄り合わせてアソコの割れ目を隠そうとした。
「おい。京子。裸は恥ずかしいか?」
「はい。恥ずかしいです」
「じゃあパンティーとブラジャーを身につけたいか?」
「は、はい」
「よし。じゃあ下着を履かせてやるよ。ただしビキニだけどな。オレ達はあんたのビキニ姿を一度見たいと思っていたんだ」
そう言って森田と川田の二人は立ち上がって京子に近づいてきた。
「ほら。これでおっぱいを隠してやるよ」
そう言って川田がピンク色のストラップレスブラで京子のおっぱいを含んで背中で蝶結びにした。これで京子のおっぱいはブラの中に収まり乳房は隠された。
「じゃあ下の恥ずかしい所も隠してやるよ。ほら。アンヨを広げな」
そう言って森田は京子の太腿をピシャピシャ叩いた。
森田が持っていたのは両サイドを紐で結ぶ紐ビキニだった。
京子はアソコを見られるのは一瞬のことだと思って少し足を開いた。
森田は紐ビキニの底を京子の股間にピッタリと当てた。
そして両サイドを紐ビキニの紐で蝶結びにした。
これで京子は女の恥ずかしいアソコとおっぱいと尻を隠すことが出来た。
ビキニは上も下も際どいハイレグカットではなく十分な面積があり尻はフルバックだった。
京子はどうして意地悪な彼らが乳首だけ隠すブラやTフロントやTバックのビキニではなく十分な面積のビキニを履かせてくれたのかわからなかったがともかく普通のビキニを身につけられてほっとした。
「おい。京子。ビキニを履かせてやったんだ。お礼くらい言ったらどうだ」
森田が怒鳴りつけた。
「あ、有難うございます」
お礼を言ったものの京子はなぜ彼らがビキニを履かせてくれたのかはどうしてもわからなかった。
今までの丸裸に比べたら吊るされているとはいえビキニ姿を彼らに見られることは相当な救いだった。
ビキニを履いたことによりアソコの肉がビキニの弾力によって形よく整えられてビキニの中に窮屈そうに収まりモッコリとした小高い盛り上がりを作っているためそれは全裸よりもエロチックに見える。
胸も同様である。
剝き出しのおっぱいは胸板に貼りついてだらしなくぶら下がっている二つの大きな肉塊であり、それを見られるのが女の恥ずかしさであるがブラジャーはそのカップの中にその肉塊をきれいに収めて、そしてブラジャーの弾力によって女の乳房をせり上げてほどよい弾力のある蠱惑的な小高い盛り上がりに変えている。
「ふふふ。京子さん。綺麗だねー。アソコがモッコリしていて」
「オレ一度京子さんのビキニ姿を見てみたかったんだ。上下揃いのスーツをいつも見せつけられてその姿にも興奮させられて毎日オナニーしていたけれど京子さんのビキニのモッコリも一度見てみたいと思っていたんだ。まさに夢かなったりだ」
「お臍もかわいいな」
「太腿もビキニの縁からニュッと出ていて物凄くセクシーだな」
「ビキニは女が自分の体を男たちに見せつけるものだからな」
「真面目な京子さんも夏は海水浴場に行ってビキニで男たちを挑発するんだろうか?」
「まあいいじゃないか。今こうして目の前で京子さんのビキニ姿を見ているんだから」
森田と川田の二人は心地よさそうに自分のビキニ姿を鑑賞している。
京子はそれを彼らはもう嬲るのは終わりにしようとしていることだと解釈した。
京子は言葉には出さないが(いいわよ。私のビキニ姿を鑑賞したいというのなら)と言いたい気分だった。
しばし二人はスマートフォンで京子のビキニ姿を撮影しながら京子のビキニ姿を鑑賞していた。
「じゃあオレ。ちょっと後ろ姿も撮影するぜ」
そう言って川田は京子の背後に回った。
「うわっ。ヒップも大きくて物凄くセクシーだぜ」
「フルバックのビキニからニュッと出ている太腿も素晴らしいぜ」
川田はことさら驚いたように大声で言った。
京子はビキニ姿の前を森田に見られスマートフォンで撮影され後ろ姿を川田に見られ撮影されているという立ち位置である。
後ろの川田は見えないが京子は(いいわよ。ビキニ姿を撮影するのなら)と言いたい思いだった。
京子はひそかに自分のプロポーションに自信をもっていた。
何だか自分がグラビアアイドルになって撮影されているような心地よさに浸っていた。
「京子さん。自慢のヒップを近くで撮影させてもらうぜ。いいだろ?」
川田が背後から声をかけた。
「い、いいわよ」
京子は自分がグラビアアイドルになったような酩酊から川田の申し出を受け入れた。
返事をするのはちょっと恥ずかしかったが。
しかしそれが油断だった。
川田は京子の傍らに来ると京子のビキニのサイドを結んでいる紐の両方をスーと引っ張った。
サイドの紐は蝶結びで結ばれているだけなので軽く引くだけで蝶結びは解けてしまった。
「ああっ」
京子は思わず悲鳴を上げた。
紐ビキニの両方の紐が解けてしまったビキニは腰に貼りついている機能を失ってビキニはハラリと床に落ちてしまった。
川田はニヤリと笑って立ち上がりストラップレスブラの背中の蝶結びも解いた。
ストラップレスブラは肩紐が無く背中の蝶結びだけが胸に張りついておく機能なのでそれを解かれると、もはやブラは胸に張りついておくことが出来ずスーと床に落ちてしまった。
川田は床に落ちたビキニの上下を取るとそそくさと森田の隣に行って座った。
京子はまた覆う物何一つない丸裸になってしまった。
「あっははは。京子。残念だったな。せっかくオレ達にセクシーなビキニ姿を見せつけていい気分になっていたのに」
「しかしお前のビキニ姿は本当に美しかったぜ」
森田と川田の二人は笑いながらそんな揶揄の言葉を京子に吐いた。
ここに至って京子はやっと彼らの念の入った意地悪を理解した。
彼らはビキニ姿を見たいなどとおだてておいて京子にビキニを履かせ散々褒めちぎって京子をいい気分にさせておいてそれでビキニの紐を解いていい気分に浸っていた自分を元の地獄に落とすのが彼らの計画だったのだと気づいた。
京子は彼らの計画に気づかずまんまと彼らの罠にはまってしまった人の良さを後悔した。
京子はまた太腿を寄り合わせてアソコを隠そうとした。
しかし胸は手をバンザイさせられているので隠しようがなく二つの乳房がもろに露わになり乳房の真ん中にチョコンと乗っている女の大きな乳首がもろに露わになった。
女の大きな乳首を見られることが恥ずかしいのだと京子はあらためて知った。
「お願い。森田くん。川田くん。もう意地悪しないで」
京子は泣きながら訴えた。
しかし森田と川田の二人は京子の哀願などどこ吹く風といった様子でニヤニヤと裸の京子がモジモジ困惑する姿を眺めている。
「おい。京子。そんなに裸を見られるは嫌か?」
「はい」
「そうか。よし。じゃあアソコが見えないようにしてやるぜ」
そう言って森田は長い麻縄をカバンから二本取り出した。
森田は一本の長い縄の真ん中の所を京子の首の後ろにかけた。
「な、何をするの?」
「ふふふ。亀甲縛りだ。お前も亀甲縛りくらいは知っているだろう」
そう言って森田は京子の首の下10cmくらいの所で固結びを作った。
固結びの下にはその続きの二本の長い縄が床まで垂れている。
「や、やめてー。お願い。森田くん」
京子が叫んだ。
しかし森田は京子の哀願など無視して亀甲縛りを続けていった。
森田は京子の乳房の下と臍の所にも固結びを作った。
「ほら。京子。アンヨを開きな。股間にもしっかり縄をかけるんだから」
森田がそう言っても京子は足をピッチリ閉じて開かない。
なので森田は川田を見て、
「おい。川田。京子の足を広げろ」
と命じた。
「ホイキタ」と川田は応じて川田は京子の両足首をつかんでグイと広げた。
屈強な男の膂力に対し女のか弱い力では逆らうことは出来なかった。
森田は京子の女の割れ目を広げて二本の縄を京子のアソコの割れ目に食い込ませた。そしてそのまま縄を股間の後ろに持っていき尻の割れ目にしっかりと食い込ませた。そして尻の割れ目の上から出た縄を京子の首輪の後ろにカッチリと結びつけた。
これで京子の縦縄が出来た。
「ああー」
京子は股間に意地悪く食い込んでくる縄の気色の悪い感覚に叫び声を上げた。
森田は別のもう一本の縄を固結びが三カ所ある縦縄に横から通してグイと引き絞った。そして背後で結んだ。
これで固結びが三カ所ある縦縄が横縄に引っ張られて体の前に二つの菱形が出来た亀甲縛りが出来た。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
「ふふふ。京子。約束は果たしたぜ。アソコの割れ目は二本の縄で隠されて見えないぜ」
森田は薄ら笑いしながら言った。
確かにそう言えばそうだった。
京子の股間に食い込んでいる二本の縦縄は京子のアソコの割れ目を隠していた。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
「ふふふ。この高慢ちきな女を一度こうして亀甲縛りしてみたいと思っていたんだ」
森田が言った。
「どうだ。京子。亀甲縛りされた気持ちは?」
そう言って森田は等身大のカガミを京子の前に立てた。
「ほら。よく見ろ。お前の姿だぞ」
京子は一瞬チラッとカガミに映された自分の姿を見た。
縄が体にまとわりつくように意地悪く食い込み体に二つの縄の◇(菱形)が出来ていた。
乳房は二つのキビシイ亀甲縛りの縄から弾け出てもろに丸見えである。
しかし二本の縦縄が股間に食い込んでアソコの割れ目は確かに見えなかった。
京子は毛穴から血が噴き出るほどの恥ずかしさで咄嗟にカガミから顔をそむけた。
「おい。京子。どうだ。亀甲縛りにされた気持ちは。聞いているんだ。答えろ」
森田が大声で怒鳴りつけた。
「は、恥ずかしいです。みじめです」
京子は顔を真っ赤にして小声で答えた。
「尻もよく見ろ」
そう言って川田はもう一つの等身大のカガミを持って京子の背後に回った。
川田は京子の背後にカガミを立てた。
前にいる森田はカガミの位置と角度を少し変えて前のカガミに京子の背後の姿が見えるようにした。
「ほら。京子。カガミを見ろ」
森田が大声で怒鳴りつけた。
京子はそっと森田が置いた等身大のカガミを見てみた。
「ああっ」
京子は顔を真っ赤にして叫んだ。
なぜなら意地悪な股間縄は京子の股間に深く食い込んでいるためボリュームと弾力のあるムッチリとした左右の尻の肉が股間縄をギュッと挟みつけ股間縄は尻の割れ目の深くに埋まってしまって見えず、尻の割れ目の上の辺りからニュッと出ていたからである。
尻はもう丸見えである。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
言われて京子の尻がピクンと震えた。
股間縄が食い込んでいる気色の悪い感覚は言われずとも感じていたが卑猥な揶揄の言葉をかけらけることによって、あらためて意識がそこに行き、どうしようもないやりきれなさとつらさが、あらためて京子に襲いかかったからである。
川田が揶揄の言葉を言った意図もそれが目的だった。
「しかし女のほとんどはTバックのパンティーを履くからな。女なんて所詮男たちに自慢の尻を見せたいんだよ」
「女がTバックを履くのは男たちに自慢の尻を見せたいのが目的だが、あれを履いている時女は尻の割れ目にTバックが食い込んでいる感覚を楽しんでいるんだよ」
「京子ほどのエリート女もTバックを履くんだろうか?」
「あるんじゃないか?」
「京子。お前もTバックを履いたことがあるだろう?」
森田は京子の顔と体をまじまじと見ながら聞いた。しかし聞かれても京子は顔を真っ赤にして黙っている。
「答えろ。京子」
京子が答えないので森田が大声で怒鳴りつけた。
「あ、ありません」
京子は顔を真っ赤にして消え入るような小さな声で答えた。
「ふふふ。本当かな」
「ないのなら何で顔を赤くしているんだよ?」
二人は執拗に京子を言葉で責めた。
そして京子の恥ずかしい姿を間近でスマートフォンで撮影した。
「森田くん。川田くん。もう許して。もう意地悪はやめて」
京子が哀願した。しかし森田と川田の二人は聞く耳など持たない。
「おい。京子。どうだ。縄に虐めらている気分は?」
森田が聞いた。
「み、みじめです。恥ずかしいです」
京子は泣きながら言った。
「おい。京子。ちょっと足を開け」
森田が言った。しかし京子はためらっている。
「お願い。森田くん。もう許して」
京子は泣きながら哀願した。
「大丈夫だ。二本の縄がしっかりと股間に食い込んでいるからな。どんなに足を大きく開いてもアソコの割れ目と尻の穴は見えないぜ」
そう言われても京子は足を開けない。
「ええい。じれってえ」
京子が足を開かないので森田が強引に京子の両方の足首をつかんで開かせ京子の真下に等身大のカガミを敷いた。そして京子の両足をカガミの縁の外側に置いた。
カガミは京子の足を開かせる役割もあった。
なぜならカガミは一人の人間の体重に耐えられるほど丈夫ではなくカガミを踏んでしまってはバリバリと割れてしまうかもしれず危険だからだ。
「ああー」
京子は眉を寄せ髪を振り乱して全身を震わせた。
「ふふふ。京子。大丈夫だ。股縄がしっかりと股間に食い込んでいるからアソコの割れ目と尻の穴は見えないぜ。下を見てみろ」
言われて京子はおそるおそる下に敷かれているカガミを見てみた。
カガミには京子の股間の様子がはっきりと映し出されていた。
しっかりと深く股間に食い込まれた股縄は京子のアソコの割れ目の奥に深く食い込んでいるので恥肉の中に埋まってしまっている。
尻の穴も股縄によって見えない。
「ふふふ。どうだ。京子。恥ずかしい割れ目は見えてないだろう」
森田が居丈高に言った。
京子は足の下に敷かれたカガミを踏めないので足を大きく開いて踏ん張っている。
開くしか仕方がないのである。
森田と川田の二人は開かれた京子の股間を間近でパシャパシャと撮影した。
「ああー。やめて。お願い。森田くん。川田くん」
京子は太腿の肉をブルブル震わせながら哀願した。
そこにはもう二人を叱りつけた強気のエリートの京子はいなかった。
ただただ二人に憐みを乞うか弱い一人の女がいるだけだった。
「ふふふ。だいぶ女らしくなってきたな」
川田がそんな揶揄を言った。
森田は京子の股間の間近に座ってスマートフォンで京子の股間を念入りに撮影した。そして次はスマートフォンを持って京子の体の正面に立ち亀甲縛りされた京子の全身を撮影した。
「ふふふ。いい画像と動画が撮れたぜ」
森田が薄ら笑いして言った。
「よし。じゃあ今度はあのポーズにして撮影しよう」
あのという言葉に京子は今度は何をされるのだろうと恐怖におののいた。
川田は京子の足の下に敷かれている等身大のカガミをどけた。
そして縄を持ってニヤニヤ笑いながら京子に近づいてきた。
川田は京子の左足の膝のすぐ上の所を縄で縛った。
「な、何をするの。今度は?」
京子は今度は何をされるのだろうかと恐怖におののきながら聞いた。
川田は京子の質問に答えずニヤニヤ笑いながら椅子を持ってきた。
そして京子の左膝の上を縛った縄の縄尻を持って椅子の上に立った。
そしてその縄尻を京子を吊っている天井のカラビナの輪の中に通した。
そして川田は縄尻をグイグイと引っ張った。
京子の左足はグングン上へ引っ張られていった。
「ふふふ。これでわかっただろう。お前の片方の膝を吊り上げるんだ」
川田はニヤリと笑って言った。
「ああー。やめてー」
京子は顔を真っ赤にして哀願した。
しかし川田は京子の言うことなど聞かない。
否。サディストにとっては女が苦しむのを見るのが喜びなのだから京子の哀願は彼らの興奮を増しこそすれ逆効果なのである。
川田は京子の膝が胸に触れるほどまでに縄を引っ張った。
そしてその位置で縄を固定した。
京子の前には森田が居て等身大のカガミが立っている。
「ほら。京子。カガミで自分の姿を見てみろ」
言われて京子はチラッとカガミに視線を向けた。
京子は瞬時に顔を真っ赤にして目をそらした。
「ああー。やめてー。降ろして。川田くん。森田くん」
京子は顔を真っ赤にして叫んだ。
無理もない。京子は片方の膝を乳房に触れるほどまでに吊り上げられているのでアソコがパックリと丸見えになっているからである。
しかし股間に食い込んでいる二本の股縄のためアソコの割れ目の中は隠されて見えない。
「ふふふ。物凄い格好だぜ。京子」
「しかしアソコの割れ目の中は縄で隠されて見えないぜ」
「しかしギリギリ見えない方がアソコの割れ目の中が見えてしまうよりかえってエロチックだな。見えそうで見えないことが男を興奮させるんだ」
森田と川田の二人はそんな勝手なことを言い合った。
「おい。京子。ともかくオレ達は約束はちゃんと守ってアソコの中は見えないようにしてやったんだ。礼くらい言ったらどうだ」
森田が恫喝的な口調で言った。
「あ、有難うございます」
京子はワナワナと声を震わせて言った。
「それじゃあ京子のこの恥ずかしい格好を撮影するとするか」
そう言って森田と川田の二人は亀甲縛りされて天井から吊るされて片方の膝を胸の辺りまで吊られている京子をスマートフォンでじっくりと撮影した。
「ふふふ。京子。物凄い格好だな」
「スーツ姿の頭脳明晰のエリート・キャリアレディがこんな格好をしちゃいけねーぜ」
「いつもの勝気な態度はどうした」
などと二人は京子を辱める言葉で揶揄した。
「おい。京子。オレ達のことをいつものように(このウスノロ)と怒鳴りつけてみろ」
森田がキビシい口調で怒鳴りつけるように言った。
「お、おい。このウスノロ」
京子は顔を真っ赤にして声を震わせながら小声でそのセリフを言った。
「あっははは。丸裸で吊られて股をおっびろげてアソコをもろに晒している女にそういうセリフを言われてもピンと来ないね」
「そういうセリフはパリッとした上下揃いの粋なスーツを着て言いな」
森田と川田の二人は笑い合った。
「お願い。森田くん。川田くん。もうこれ以上は許して。約束したお給料の倍は払いますから。お願いです。縄を解いて下さい」
京子は泣きながら二人に哀願した。
しかし二人は聞く耳を持たない。
二人は20分くらい亀甲縛りされて天井から吊るされて片方の膝を胸の辺りまで吊られている京子をパシャパシャと撮影した。
「よし。もう十分京子の恥ずかしい姿を撮影したからな。オレ達は帰るぜ。玄関のカギはかけないでやる。この後、宅配のピザ屋に電話してここにピザを注文してやる。だからピザの宅配の人に縄を解いてもらいな」
「オレ達を訴えて裁判沙汰にしてもいいけど証拠としてあんたの動画を提出しなきゃならないからな。あんたのことがニュースや新聞や週刊誌で報道されてあんたは恥を世間に晒すことになるぜ」
「しかしオレ達は何の取り柄も生きる目的も無いニートだからな。懲役3年くらい実刑をくらっても刑務所の方が三食と住まいと衣服つきだからな。別に構わんぜ。むしろそっちの方が金の心配をしないで三食ちゃんと食べられるからな。むしろそっちの方がいいくらいだぜ」
「じゃあな。京子。あばよ。達者でな」
そう言って二人は立ち上がった。
そして二人は玄関に向かった。
その時。
「待って。森田くん。川田くん。重要な話があるの」
京子が呼び止めた。


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からかい上手のエリート税理士の佐藤さん(小説)(下)

2024-04-18 23:16:00 | 小説
京子は真面目な顔で二人を目をそらすことなく直視しているので森田と川田の二人はこれは何かあるなと思い京子の所に戻ってきて京子の前に座った。
「何だよ。京子。重要な話って?」
森田が聞いた。
「森田くん。川田くん。あなた達を採用しておいて散々いじめてしまってゴメンね」
「何だ。そんなことか。別に気にしてないぜ。オレ達が日商簿記一級の資格を持っているなんてウソついたんだから叱られても自業自得だよ。しかし優しいと噂されているあんたがあんなに怖い女に豹変するのは意外だったけどな」
二人の発言を聞いた後、京子は落ち着いた口調で話し出した。
「実はね。あなた達が日商簿記一級の資格を持っていないことは知っていたの。大学卒でないことも」
「どういうことだ。京子?」
「じゃあどうしてオレ達を採用したんだ?」
二人は京子の発言に驚いて急に真顔になった。
ウソをつく京子ではない。
「じゃあその理由を話すわ」
「おい。川田。京子さんの左膝の吊りを解いてやれ」
「ああ」
二人の京子に対する態度が一気に変わった。
日商簿記一級の資格や大卒かなどかは証明書を提示するよう言えばすぐにわかることである。なぜ京子がそれらの提示を求めなかったのかは二人にはわからなかった。それは京子が人を疑わない性格だからなのだろうと漠然と思っていた。しかしそんなことはちょっと調べればすぐわかることである。
川田は急いで京子の膝を吊っている縄を解いた。
そのおかげで京子は片足吊りの責めから解放されて左足を床にもどすことが出来た。
「実はね。あなた達のことはあなた達が面接に来た後にアーウィン女性探偵社に頼んで調査してもらって知っていたの。金庫の中にあなた達の素性報告書があるから金庫を開ければわかるわ」
「じゃあどうしてオレ達が日商簿記一級の資格も持っていないことを知りながらオレ達を採用しておいてだまされたと言ってオレ達を奴隷のように扱ったんだ?」
「あなた達はアルバイトでAV男優も1年くらいやっているでしょ。あなた達が出演したアダルトビデオも私は見たわ」
「へー。そんなことまで知っていたのか。じゃあ税理士の仕事の戦力にならないとわかっていて何でオレ達を採用したんだ?」
「あなた達には前科はないでしょ。私、あなた達の出演したアダルトビデオを見たわ。全部SМ物ばっかりね」
「よく知っているな。確かにオレ達はAV男優のアルバイトを1年間やったぜ。全部SМ物ばかりだ。オレ達にはSМ趣味があるんだ」
「アーウィン女性探偵社の人達が綿密に調査してくれたわ。AV男優は演技することを監督から徹底的に教育されているから紳士が多いという事も聞かされたわ。実際あなた達は私に対する復讐で私を徹底的に辱めたけれどあなた達は私を辱めても犯しもしないし指一本触れなかったでしょ」
「い、いや。あんたを触って弄んだり犯したりしたら、あんたがオレ達を訴えた時罪が重くなるからだよ」
「ふふふ。謙遜しているけど本当はあなた達は優しい性格だわ。私はあなた達を奴隷のように虐めたけれどあんなことされたら私に復讐しようと思うのは当然だわ」
「じゃあ何で日商簿記一級も持っていないと知っていながらオレ達を採用しオレ達を虐め抜いたんだ?訳が分からないな」
二人は狐につつまれたような顔つきになった。
「じゃあ本当のことを言うわ。実は私マゾなの。これは子供の頃からの先天的な性格なの。大人になって私もSМの出会い系サイトで何人かの男と会ってみたけれどみんなセックスが目的だったわ。みんなSМとセックスをごちゃ混ぜにしていて。羞恥責めしてくれるいいSМパートナーは見つからなったわ。そこで私はあなた達が私のスタッフ募集に応募してきた後あなた達の素性をアーウィン女性探偵社に調査してもらったの。そしてあなた達がSМが好きな性格でAV男優も1年間経験していることを知ったわ。それであなた達なら理想のSМパートナーとなれると思ったの。それであなた達を採用して徹底的に虐め抜いて私に復讐するように仕向けたの。私はおびえるフリの演技をしていたけれど最高のマゾの快感を味わっていたわ」
「本当かなー?」
「ウソだと思うのならダイヤルロック式の金庫を開けて御覧なさい。開錠番号は5991よ」
森田と川田の二人は急いでダイヤルロック式の金庫の所に行き5991と合わせた。
すると金庫が開いた。
中にはパソコンと札束が入っていた。
「パソコンを開いてみなさい。その中に(私の写真)というフォルダがあるでしょ。それを開けてご覧なさい」
言われて二人はパソコンを開いた。
デスクトップにいくつものフォルダがあった。
その中に「私の写真」というフォルダがあった。
それらを開くと京子の亀甲縛りや股縄をした写真やビキニ姿の写真やオナニーしている画像や動画がたくさん出てきた。
森田と川田の二人はそれらをザーと見た。
「本当だ。信じられないけれど本当だ」
森田が目を疑って言った。
「私がオナニーしている姿を自撮りしてエッチ動画投稿サイトに投稿したのもかなりあるわよ。ワード文章があるでしょ。いくつものURLアドレスがあるでしょ。そのサイトを見てみなさい」
森田は京子に言われたようにそれらのURLアドレスのサイトを見てみた。
すると。
豆絞りの手拭いで口と下顎を隠した女が全裸で自分の胸やアソコを揉んで、あはん、あっは~ん、と悶えているいやらしい動画が出てきた。
森田はそれらの動画を急いでザーと見た。
「私もさすがに世間にこのことが知られるのはこわかったわ。だから豆絞りの手拭いをして顔を隠したの。でも右胸の上の方に小さなホクロがあるでしょ。だからそれが私だってことが本当だってことが確信できるでしょ」
京子が言った。
「本当だ。確かに右胸の上の方に小さなホクロがあるよ。それに口と下顎は見えないけれど目や鼻や顔の輪郭は明らかに京子さんだ。体つきも京子さんと同じだ」
森田と川田の二人は驚いた。
「じゃあ私があなた達のために書いておいた文章があるからそれを読んでご覧なさい」
パソコンのデスクトップには「森田くんと川田くんへ」というタイトルのワード文章があった。
彼らはそれを開けて急いで読んだ。
それにはこう書かれてあった。
「森田くん。川田くん。あなた達のことはアーウィン女性探偵社に調査してもらって知っているわ。大卒でないことも日商簿記一級の資格をもっていないことも。私はだまされたと言って大人しい性格が豹変してあなた達を奴隷のように扱うわ。そして給料も支払わず解雇するわ。あなた達はきっと怒って私に復讐すると思うの。あなた達はAV男優も経験があるでしょ。だからあなた達はきっと私に羞恥責めのSМプレイをすると思うわ。私はこわがってあなた達に許しを求めるわ。でもそれは演技よ。あなた達は私にとって理想のSМパートナーになってくれると思って採用したの。お給料は約束した倍払います。どうぞ受けとって下さい。これからも私をうんと虐めてね」
と書かれてあった。
金庫の中には札束があった。
二人はそれを手にして枚数を数えてみた。
確かに約束した給料の倍の額があった。
ここに至って森田と川田の二人は完全に京子の言うことを信じた。
「やられた。参りました。京子さん。僕たちは完全にあなたの計画にはまっていたのですね。やっぱり京子さんは頭がいい。僕たちにはあなたがとったいくつもの不可解な行動を疑う能力もありませんでした。僕たちの完敗です」
そう言って森田と川田の二人は京子の前で土下座して謝った。
「ふふふ。いいのよ。だって私は理想のSМパートナーが見つかって長年のマゾの欲求がかなえられたんだから。私の方がお礼を言わなきゃいけないわ。有難う」
京子が言った。
森田と川田の二人は完全な敗北に打ちのめされていた。
「おい。京子さんの亀甲縛りを解け。そして手錠も外して自由にするんだ」
森田が川田に言った。
「あ、ああ。そうだな」
川田は京子の亀甲縛りを解いた。
これで京子は全裸で手を吊るされているだけになった。
「おい。川田。京子さんの手錠も外せ」
森田が川田に命じた。
「ああ」
川田は京子の頭の上の手錠を外そうとした。
その時。
「川田くん。ちょっと待って。私の机の一番下の引き出しの中に私の下着があるからそれを持ってきて」
と京子が言った。
「はい」
川田は京子のデスクの引き出しの一番下を開けた。
するとたくさんの書類の下に袋があった。
開けるとブラジャーとパンティーが入っていた。
川田はそれを持って京子の所に戻ってきた。
二人は何をしたらいいのかわからず困惑している。
「森田くん。川田くん。私に下着を私に履かせて」
京子が笑顔で頼んだ。
「は、はい」
二人はかしこまって言った。
「で、では失礼します」
と言って森田はパンティーを京子の足に通しスルスルと腰まで引き上げた。
川田は京子の胸にブラジャーを着けた。
「も、もしかして京子さんはこういうことになることを予想して下着を引き出しの中に置いておいたのですか?」
森田がおそるおそる聞いた。
「まあいいじゃない。そんなことどうだって。それより私の下着姿も写真に撮って」
京子は微笑みながら言った。
「わわかりました」
森田と川田の二人はパシャパシャと下着姿で吊るされている京子をスマートフォンで撮影した。パンティーは普通のフルバックでブラジャーは肩紐のある普通のブラジャーだった。
清楚な純白の下着姿はまばゆいほど美しかった。
パンティーのアソコはモッコリと盛り上がっている。
「最高に嬉しいわ。最初にも下着姿を撮られたけれど私は手錠されて吊られていなかったでしょ。だからこうして手錠されて吊られている下着姿も撮影して欲しかったの。股縄や亀甲縛りは自分で出来て私もその写真は自撮りして自分を慰めていたけれど自分で自分の手を縛ることは出来ないでしょ。だからこうして拘束されていると夢かなったりなの。私の下着姿をとっくり見て」
京子は晴れやかな口調で言った。
パシャパシャとスマートフォンで撮影しながら下着姿の京子を見ているうちに森田と川田の二人はまたハアハアと興奮し出した。
「あ、あの。京子さん。ちょっとイタズラしてもいいですか?」
森田が聞いた。
「いいわよ。何をしても」
京子は平然と答えた。
「じゃあちょっと失礼します」
そう言って森田は京子のパンティーを膝の上まで降ろしブラジャーは着けたままペロリとめくり上げた。
アソコとおっぱいが丸見えになった。
手が使えないので京子はパンティーを引き上げることも出来ずブラジャーを元の位置に戻すことも出来ない。
それはあたかもいやらしい男に吊るされてパンティーとブラジャーを脱がされかかっている女のようだった。
「ああっ。恥ずかしいわ。みじめだわ。でも私こういうみじめな格好にもされたいと思っていたの。ああ。マゾの快感が最高だわ」
京子にはもうためらいの気持ちはなくなっていた。
ただひたすら被虐の快感を求め尽くしたい気持ちになっていた。
森田と川田の二人はハアハアと興奮しながらズボンの上からテントを張った股間をさすりながらパシャパシャと京子の恥ずかしい姿をスマートフォンで撮った。
二人は10枚くらい色々な角度から京子をスマートフォンで撮った。
「京子さん。有難う。もう十分撮りました」
そう言って森田は膝の上まで降ろされていた京子のパンティーを腰まで引き上げた。
そしてめくり上げたブラジャーを元にもどして二つのおっぱいをブラジャーの中に入れた。
「京子さん。もう手錠を外してもいいでしょうか?」
森田は恭しく京子に聞いた。
「ええ。お願い。手錠を解いて」
言われて森田は京子の手錠に結びつけられている縄を解いた。
京子を天井に吊っていた縄が解かれて京子はペタンと床に座り込んだ。
森田は手錠も外した。
これで京子の拘束は全部なくなって完全に自由になった。
京子はブラジャーとパンティーだけという姿である。
「森田くん。川田くん。服を着たいの。ちょっと後ろを向いてくれない」
京子が言った。
はい、と言って二人はクルリと体の向きを変え京子に背を向けた。
女にとっては服を着るのを見られるのも恥ずかしいものなのである。
京子は立ち上がって床に落ちているワイシャツと上下揃いのスーツを拾った。
京子はスカートを足にくぐらせて腰まで引き上げてホックで留めた。そしてワイシャツを着てその上にスーツを着た。
「ありがとう。森田くん。川田くん。もういいわよ」
京子が言った。
言われて二人はクルリと体の向きをもどし京子を見た。
うっと二人は声をもらした。
そこにはいつもの憧れのエリート税理士の颯爽たるスーツ姿の京子がいたからである。
森田は冷蔵庫から麦茶とコップを持って来た。
「京子さん。長い間立ち続けて疲れたでしょう」
そう言って森田は麦茶をコップに入れて京子に差し出した。
「ありがとう。森田くん」
京子は礼を言ってコップを受けとり麦茶をゴクゴク飲んだ。三杯飲んだ。
森田と川田の二人はきまりが悪かった。
それを京子は十分に察していた。
「森田くん。川田くん。ソファーに座って」
京子は笑顔で言った。
「はい」
二人は素直に返事してソファーに並んで座った。
「二人のためにカレーライスを作っておいたの。食べていって」
そう言って京子は小走りにキッチンに行った。
そして炊飯器や大きな鍋などを持って戻ってきた。
京子はテーブルの上に大きな皿を二つ置いた。
そして炊飯器を開けて二つの皿にホカホカのご飯を入れた。
そしてご飯の上に温めたカレーをたっぷりとかけた。
「さあ。二人とも疲れたでしょう。食べて」
京子は笑顔で言った。
二人に瞬時に食欲の唾がどっと出てきた。
しかもそれが憧れの京子さんが作ってくれたものだと思うと食欲はなおさら増した。
「京子さん。ありがとう。頂きます」
そう言って二人はスプーンでガツガツとカレーライスを食べた。
それを京子は嬉しそうに見ていた。
食べ終わると二人は京子がテーブルの上に置いてくれた氷の入った冷たい水をゴクゴクと飲んだ。
「あー。美味しかった。どうもありがとう。京子さん」
「いえ。どういたしまして」
京子は自分は食べずに二人が食べるのを嬉しそうに見ていただけだった。
「京子さん。これから僕たちどうなるんですか?」
森田が聞いた。
「今まで通り働いてくれない。お給料もちゃんと払うから」
京子がニコッと微笑みながら言った。
「そう言ってもらえると嬉しいです。だって京子さんは素晴らしい人なんですから。僕、京子さんを好きになってしまいました」
森田が言った。
「僕も京子さんを好きになってしまいました」
川田が言った。
「私もあなた達が好きだわ」
京子は笑顔で言った。
「でも一つ心配なことがあるわ」
「何ですか。それは?」
「私一度プレイじゃなくて本気で虐められたかったの。今日はその夢がかなって嬉しかったわ。でもタネあかしをしちゃった後では本気の意地悪は出来にくくなるわ。それが残念だわ」
「そうですね。確かに僕たち、もう本気で京子さんを虐める気にはなれないような気がします」
「でも大丈夫よ。今は確かにあなた達落ち込んでいるかもしれないけれど。時間が経てばやがてまた私を本気で虐めたくなる気になると思うわ」
京子が言った。
「僕も何だかそんな気がします」
森田が言った。
「それと。一つお願いがあるの」
「何でしょうか。京子さん」
「これからもあなた達に働いてもらうけれど依頼者が来た時には今まで通り依頼者の前であなた達を罵倒して虐め抜いてもいい?」
「ええ。構いません。でもどうしてですか?」
「私があなた達を徹底的に虐め抜くことによって私に対する憎しみ、復讐心、私に仕返ししてやろうという加虐心をあなた達に起こさせるためよ」
「なるぼど。それを想像するとまた本気で京子さんを虐めたいという気持ちが起こるような気がします。遠慮なく僕たちを虐めて下さい。素晴らしい憧れの京子さんになら虐められるのが楽しみです。美しくて優しい京子さんに虐めてもらえると思うともうマゾの快感が起こり出しました」
「ありがとう。嬉しいわ。じゃあ月曜から金曜までは今まで通りに働いてくれない。私は今までのようにあなた達を奴隷のように扱う姿を依頼者に見せつけるわ。それで休みの土曜日にあなた達がその復讐として私を虐め抜くの。どう?」
「いいですね。それを想像するともうムラムラしてきます」
もう夜の11時だった。
「では今日はもう遅いので僕たちは今日は帰ります」
そう言って森田と川田の二人は立ち上がった。
「また私を虐めてね。今日は羞恥責めだったけれど今度は私が悲鳴を上げて泣き叫ぶまで虐めてね」
「そう言われると何だかムラムラしてきます」
そう言って森田と川田の二人は去って行った。
・・・・・・・・・・・・・
月曜日になった。
佐藤税理士事務所では佐藤京子とスタッフとして森田と川田の二人が今まで通りの様子で働いていた。
その様子は以前と変わらずこんな風である。
佐藤京子に税務処理を頼む客が来ると佐藤京子はテーブルを挟んで客の依頼を詳しく聞き丁寧にアドバイスした。
依頼客と佐藤京子は実に和気あいあいとした会話だった。
二人の男はその横で床を雑巾がけしていた。
それは佐藤京子の命令だった。
依頼客が疑問に思って佐藤京子に、
「この二人はどういう方なのですか?」
と聞くと佐藤京子は、
「いやー。こいつらは大卒でないのに大卒と偽って簿記について何も知らないのに日商簿記1級の資格を持っていますなどと言って面接に来たので採用してしまったんです。クビにしようかとも思いましたがこいつらの腐った根性を叩き直すためにクビにはしないでやっているんですよ」
と佐藤京子は言った。
「そうだったんですか」
「ええ。そうです。世の中にはこういうとんでもない詐欺師、悪い人間がいますから人を安易に信用しないで下さいね」
「まあ。本当ですか。こわいですね。人間って信用できないんですね。私もこれから人を採用する時には履歴書を信用しないで興信所に調査してもらって履歴書に書いてあることが本当かどうか確かめてから決めようと思います」
「ええ。ぜひそうした方がいいですよ」
おーい、ろくでなしのブタ野郎二人お茶を持ってくるくらいの気はきかせろと佐藤京子は二人を怒鳴りつけた。
「す、すみません」
と言って二人は急いでお茶を持ってきた。
二人がお茶をテーブルの上に乗せると、
「おい。ブタ野郎。どうぞくらいの言葉を言うのが礼儀だろ」
と佐藤京子は二人をののしった。
依頼者は予想と違って佐藤京子の厳しさに驚いて目を白黒させたが他人のことに干渉することも出来にくいので黙っていた。
その後も佐藤京子と依頼者は色々なことを雑談した。
「では今日はこれで帰ります。これからよろしくお願い致します」
と言って玄関に向かった。
二人はボサッとしている。
「おい。ブタ野郎二匹。大切なお客さまだぞ。玄関を開けて(今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい)くらいのこと言うのが礼儀だろ」
と言って男二人を蹴飛ばした。
二人は京子に言われて焦って玄関の戸を開けた。
依頼者が来ると万事がこの調子だった。
・・・・・・・・・・・・・・
その週の土曜日の様子。
京子は丸裸にされて縄で手首を縛られて天井に吊られていた。
それでも女の羞恥心の本能から太腿をピッチリと寄り合わせてアソコを隠そうとしていた。
羞恥心とこれから何をされるのかわからない恐怖心から体がプルプルと小刻みに震えていた。
その姿はいじらしかった。
森田と川田はソファーに座ってワインを飲みながらその姿をニヤニヤと笑いながら眺めていた。
「それじゃあ始めるとするか」
そう言って二人は立ち上がった。
二人の手には黒い高級水牛革の丈夫な一本鞭が握られている。
「よし。始めるぞ」
そう言うや森田と川田は京子の体を力一杯鞭打ち出した。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
弾力のある女の柔肌にムチが当たる度に意気のいい炸裂音が鳴り響いた。
みるみるうちに京子の体には赤い蚯蚓腫れの跡が出来ていった。
「ああー。お許し下さい。森田さま。川田さま」
京子は激しい苦痛から苦しげに体を前後左右に揺らしながら激しく頭をのけぞらせストレートの美しい長い黒髪を振り乱して泣きながら森田と川田に許しを求めた。
しかし森田と川田の二人は京子の哀願などどこ吹く風と聞く様子など全く見せず鞭打ちを続けた。
しばし鞭打った後二人は鞭打ちの手を休めた。
「ははは。京子。美人エリート税理士もこうなっちゃ成れの果ての姿だな」
森田が言った。
「どうだ。散々豚以下あつかいしたオレ達にこうして丸裸にされて吊られてムチ打たれる気持ちは?」
川田が聞いた。
「み、みじめです。こわいです。森田さま。川田さま。どうか私を殺さないで下さいね。殺さないで下さるのなら私はどんな辛い責めにも耐えます」
京子はポロポロ涙を流しながら二人に哀願した。


2024年4月18日(木)擱筆

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ごはん島に来る女(小説)(上)

2024-02-25 14:31:05 | 小説
「ごはん島に来る女」

という小説を書きました。

HP浅野浩二のHPの目次その2にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「ごはん島に来る女」

日本の近海に小さな離れ島がある。
その島は、ごはん島といって日本に属さない独立国だった。
そこには人口100人程度の人が住んで村社会を営んでいた。
無名の小さな島なので日本では、あまり知られていない。
いつから、この離れ島の村社会が出来たか、その起源はわかっていない。
しかし、一説によると、平家の落人が源氏の追手に殺されないように逃げて来たのが由来という説もある。
ここの村社会では、皆が農耕を営んで自給自足の生活をしていた。
しかし、この村社会には、昔から一つの風習があった。
それは小説を書くということである。
別に小説など書かなくても、生きていけるのに、どんな村社会にも、風変わりな習慣はあるもので、この村の住民は、みな小説を書いていた。
そして、それを皆で品評しあっていた。
ごはん島の住民は、皆、性格が優しく、ごはん村は、極めて平和な村社会だった。
しかし、困ったことが一つあった。
それは、ごはん村には医者がいないことである。要するに無医村である。
そのため、急病人が出ると、最寄りの医師がいる島に、モーターボートで救急搬送された。
しかし脳卒中や心筋梗塞などでは、間に合わず、ゴールデンタイムを逃して死亡してしまうケースも多々あった。
「この村にもお医者さんが居てくれたらなあ」
と、ごはん村の住民は、ため息をもらしていた。
そんな、ある時である。
ごはん村に嬉しい知らせが来た。
「おい。喜べ。ごはん村にお医者さんが来てくれるらしいぞ」
「本当か?」
「ああ。本当だ」
「で、どんな医者だ?」
「なんでも、京都大学医学部を卒業した優秀なお医者さんらしい」
「へー。それは助かるな」
などと村人は期待を持って、ごはん村に医者が来るのを待った。
それから一カ月が経った。
一週間に一度の定期船が、ごはん島にやって来た。
それには、ごはん村の島民が待ちに待った医師が乗っていた。
ごはん村の島民は全員、浜辺に集まっていた。
やがて定期船は桟橋に着いた。
身長168cm体重55kgの小柄な老人が定期船から降りてきた。
「あっ。あの人だべ」
「そうじゃ。写真で見たのと同じ人だ」
村人たちが、全員その小柄な老人に駆け寄ってきた。
「ようこそ。はるばる、この僻地の島に来て下さって有難うございます」
村人たちは、皆、小柄な老人に頭を下げた。
「いえいえ。こちらこそ、よろしく。私は大丘忍と申します。長年、連れ添って一緒に暮らしていた妻が死んでしまい、そのつらい思い出を忘れたいために、この島に住んでみることにしました」
「先生は何科が専門なのですか?」
「私は内分泌、代謝疾患が専門ですが、内科、および外科的治療は基本的なことなら一通り出来る自信はあります」
「それは有難い。この無医村は急病人が出ると、半数近くは死んでしまっていたのです」
「そうですか。では、力不足の私ですが、全力を尽くして皆さまの健康に尽くしたいと思います。私は、この島に骨を埋める覚悟で来ました」
大丘忍はそう言って皆に挨拶した。
「さっ。先生。車に乗って下さい。島を出て行った人の空き家がありますから、どうぞ見て下さい」
そう言って島民の一人が小型トラックのドアを開いた。
大丘忍は、それに乗り込んだ。
小型トラックは島の道を走って診療所に着いた。
大丘忍は小型トラックを降りた。
そこには小さな空き家があった。
大丘忍は、その空き家に入った。
「私はここで診療します。レントゲンと手術用具一式は、どうしても必要です。すぐに、取り寄せましょう。あと、薬品も一通り、そろえなくてはなりません」
大丘忍は毅然とした表情で言った。
「有難うございます。本当に、先生に来て頂いて有難いです」
・・・・・・・・・
その晩は村長の家で大丘忍の歓迎会が行われた。
村長の家には、ごはん島の村民が、みな集まった。
晩餐の料理は豪華なものだった。
「さっ。先生。どうぞ」
村長がコップに日本酒を注いで大丘忍に勧めた。
「有難うございます。では、お言葉に甘えて頂かせてもらいます」
そう言って大丘忍はコップに注がれた日本酒をグイと飲んだ。
「ああ。有難いことだ。ごはん島にお医者様が来てくれるなんて。これからは病人が出ても先生が診てくれるけん」
村民の一人が言った。
「みなは知らんじゃろが大丘先生は凄いお人じゃぞ。大丘先生は京都大学医学部をトップの成績で入学され、主席卒業されたお方じゃ。それだけではないぞ。大丘先生は独学で漢方医学も学び、漢方医学にも精通しておられるんじゃ。若い頃は卓球の選手として国体で優勝までしておる。詩吟も、鷹詠館明朋吟詩会の総範師じゃ」
村長が大丘忍の紹介をした。
「へー。凄いお方じゃな。先生。詩吟を聞かせていただけないじゃろか」
「ああ。ぜひ聞きたいな」
村民の皆が言った。
「そうですか。それでは僭越ながら一曲、詠わせて頂きます」
そう言って大丘忍は、詩吟の「川中島」を吟じた。
「鞭声粛粛~ 夜河を過る~ 曉に見る千兵の~ 大牙を擁するを~ 遺恨なり十年~ 一剣を磨き~ 流星光底~ 長蛇を逸す~」
川中島が腹から出された重厚な節で吟じられた。
皆はあっけにとられて我を忘れて聞き入ってした。
パチパチパチ。
村民の皆が拍手した。
「いやー。素晴らしい。心に沁みる」
「先生。もっと詠ってくだされ」
村民の要求に応えて大丘忍は、
「わかりました」
と言って。
江南の春。白帝城。名槍日本号。寒梅。春日山懐古。春暁。
も吟じた。
「いやー。素晴らしい。こげな、いい先生に来てもらって、ごはん村は大助かりじゃ。有難い。有難い」
皆は涙を流して喜んだ。
「皆は知らんじゃろが大丘先生は小説もお書きになられるんじゃ」
村民が言った。
「へー。すごいな。ごはん村では、昔からの慣習で、二週に一作、小説を発表することになっているんでな。じゃあ大丘先生にも二週に一度、小説を発表してもらおう。それと、どうか皆の書いた小説にも先生のアドバイスをしてくんしゃれ」
村民の一人が言った。
「わかりました。僭越ながら微力を尽くしたいと思っております」
大丘忍の態度は紳士そのものだった。
大丘忍の歓迎会は夜おそくまで行われた。
夜も12時を越したので、村長が、
「では、夜もおそくなりましたので、大丘先生の歓迎会は、これで、おひらきとさせて頂きます」
と言った。
あー楽しかった、いい人が来てくれたもんじゃ、と言いながら、ごはん島の島民は村長の家を出て帰途に着いていった。
雲一つない夜空には満月が出ていた。
・・・・・・・・・・
翌日から、大丘忍の診療所ができた、ごはん村の生活が始まった。
といっても、ごはん村では、滅多に病人や怪我人が出ることはなかったので、大丘忍の生活は大阪でクリニックの院長をしていた時と比べて、のんびりしたものだった。
大丘忍は律儀な性格なので、ごはん村の慣習に従って、2週に1作品、小説を発表した。
大丘忍の小説は自分の生い立ち、や、医学部時代のこと、医学部を卒業して医者になって経験した事を元にしたフィクションの小説が多く、また長年、連れ添ってきた、かけがえのない妻の死を悼んで、最愛の妻との楽しかった日々のことを小説風に書いたものが多かった。
古風な文体だが、大丘忍の小説は医療界のことを知らない島民には新鮮味があった。
しかもストーリーもちゃんと完成させているので、ごはん島の村民は大丘忍の小説を面白い、と言って読んだ。
また、大丘忍は、ごはん島の村民が書いた小説にも目を通し、適切なアドバイスをした。
それまで、ごはん島の村民は他人に作品をボロクソにけなす批評が多かったが、大丘忍はおおらかな性格だったので、そんなことはせず、適切な批評をした。
いい人が来ると、その人の影響で周りの人も良くなる。
ごはん村の住民の心は、大丘忍の影響で、なごやかになっていった。
大丘忍が、ごはん村に来て1年が過ぎた。
ある時、ごはん村の村長が急性心筋梗塞を起こした。
知らせを聞いた大丘忍は急いで駆けつけたが、もうその時には、村長は死んでいた。
村長の葬式が行われた翌日、
「今度は誰に村長になってもらうべ」
と村民は困惑した。
「そんなこと、悩むに値しないことだべ。大丘先生に村長になってもらうべ」
と村民の一人が言った。
「おお。そうじゃ。大丘忍先生に村長になってもらうべ」
と皆、異口同音に言った。
反対意見を言う者はいなかった。
「しかし、一応、法にもとづいて選挙をしよう」
ということになって、新しい村長を選ぶ選挙が行われた。
結果は村民全員が大丘忍と書いたので、大丘忍が、ごはん村の新しい村長になった。
「みなさま。みなさまのご期待とあれば、僭越ながら、お引き受け致します。僭越ですが、私は、ごはん村の発展のために微力を尽くさせて頂きます」
と大丘忍は新任の挨拶で述べた。
こうして大丘忍は、ごはん村の村長になった。
ごはん島に平和な日々が訪れた。


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ごはん島に来る女(小説)(下)

2024-02-25 14:18:43 | 小説
・・・・・・・・・・・・・・
ある時、本土から一週間に一度くる定期船に若い女性が乗って、ごはん島にやって来た。
一人のばあさんが彼女を迎えに来ていた。
「やあ。李林檎さん。よくいらっしゃいましたね」
ばあさんは待ってましたとばかり小走りに女性に近づいた。
ばあさんは99歳の夜雨という。
ばあさんは、ごはん島にやって来て泊まりたいという来訪者を、自分の家に泊めてやっていた。なので夜雨ばあさんの家が、ごはん島の旅館になっていたのである。
「こんにちは。おばあさん」
女性はニコッと微笑んで、ばあさんと握手した。
「何もない島じゃけども、ゆっくり、くつろいでいってくんしゃれ」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎を自分の家に連れていった。
それを哲也は、うらやましそうに見ていた。
ごはん島の西には、ごはんビーチという小さな浜辺がある。
しかし、ごはん島は観光スポットにも載っていない無名の島なので観光に来る人はほとんど、いないのである。
しかし、たまに、ごはん島のことを知って、やって来る人も1年に2人か3人くらいはいるのである。
哲也は彼女を見た時からドキンと心臓が高鳴った。
ごはん島には女性が少ないのである。
加えて哲也は生まれつきシャイで、人一倍、女性に飢えていた。
哲也は物心つかない幼少の時から、ごはん島で育ってきた。
哲也の母親はわからない。昔、一人の女がごはん島へ定期船でやって来た。
女はまだ言葉も話せない幼少の哲也を連れていた。女は哲也をごはん島に置いて定期船で帰ってしまったのである。つまり女は哲也をごはん島に捨てにやって来たのである。それ以来、哲也は、ごはん島で一人で暮らしてきたのである。
そのため哲也は母性愛に飢えていた。
「ああ。李林檎さん。李林檎さん」
と、その夜、哲也はなかなか寝つけなかった。
翌日、哲也は夜雨ばあさんの家に行ってみた。
李林檎さんは、いなかったので夜雨ばあさんに彼女がどこへ行ったのか聞いてみると彼女は、ごはんビーチに行ったことを教えてくれた。
哲也は急いで、ごはんビーチに行った。
すると、なんと李林檎さんがピンクのビキニを着て、一人で、キャッ、キャッ、と寄せる波、引く波と戯れていた。
その姿はあまりにも、まばゆく美しかった。
というか哲也には刺激が強すぎた。
ごはん島には若い女性がいないので若い美しいビキニ姿の女性を写真でなく生きた人間で見ることなど一度もなかったからである。
哲也は彼女に気づかれないように松林の陰に隠れてビキニ姿の彼女が波と戯れるのを見守った。
哲也は奥手でシャイなので、とても彼女に話しかける勇気などなかった。
松林の後ろに隠れてビキニ姿の彼女を見ているだけで十分だった。
しかし彼女は松林の後ろで自分を見ている哲也を見つけてしまった。
彼女はニコッと笑って哲也の方にやって来た。
哲也はショック死するかと思うほど焦った。
だが逃げることも出来ない。
「ねえ。ボク。どうしたの。何をしているの?」
彼女は屈託のない笑顔で哲也に話しかけた。
「あっ。ゴメンナサイ」
シャイな哲也は顔を真っ赤にして謝った。
「ふふふ。もしかして私に気があって私を見ていたのかな」
彼女は哲也のオドオドした態度から哲也の心を察した。
「は、はい。そうです」
哲也は焦って正直に答えた。
「嬉しいわ。ねえ。ボク。よかったら一緒に遊ばない。私、一人で退屈していたの」
「し、幸せです。お姉さん。僕、昨日、お姉さんを見てから、ずっとドキドキしていたんです」
「ふふふ。ウブなのね」
「お姉さん。凄く奇麗です。こんな奇麗な人を見るのは生まれて初めてです」
哲也はあられもなく彼女を讃えた。
「それは嬉しいわ。私は李林檎っていうの。よろしくね。ボクの名前は?」
「僕は山野哲也と言います」
「哲也くんも海水パンツを履いて。私一人だけビキニ姿じゃ恥ずかしいわ」
「はい」
山野哲也は、もしかすると、こういう事態になるかもしれないと思って、海水パンツをカバンの中に入れて持ってきていた。
「じゃあ、私は後ろを向いているから」
そう言って李林檎はクルリと山野哲也に背を向けた。
哲也は急いで海水パンツを履いた。
「お姉さん。履きました」
山野哲也の声を聞いて李林檎は、また体をクルリと反転し山野哲也を見た。
「ふふふ。嬉しいわ。ごはんビーチには観光客は来ないとネットに書いてあったから一人でゆったりしようと思ってやって来たのに。こんな可愛い男の子と出会えるなんて。夢みたいだわ」
李林檎はニッコリ微笑んで哲也と手をつないだ。
「ぼ、僕も夢のように幸せです」
李林檎の手の温もりが、しっかりと哲也の手に伝わってきた。
哲也は女と手をつなぐのは生まれて初めてだったので気絶するかと思うほど嬉しかった。
これは哲也にとって生まれてきて最高の幸福感だった。
哲也の脳下垂体からは人間が幸福を感じた時に出る物質βエンドルフィンが出っぱなしだった。
「哲也君。フリスビーをしない」
そう言って李林檎はバッグの中から、フリスビーを取り出した。
「はい。します。します」
「じゃあ、私から離れて」
「はい」
哲也は李林檎を見ながら後ずさりして李林檎から離れて行った。
「はい。そこでいいわ」
哲也と彼女が20mくらい離れた地点で李林檎が言った。
彼女に言われて哲也は立ち止まった。
「じゃあ、行くわよー」
そう言って李林檎はフリスビーを哲也めがけてシュッと投げた。
彼女はフリスビーを投げるのが上手かった。宙を飛行したフリスビーは哲也の胸の前に来た。
哲也はそれを受け止めた。
「じゃあ、哲也くん。私に向かって投げて」
「はい」
李林檎に言われて哲也はフリスビーを彼女めがけてシュッと投げた。
フリスビーは勢いよく飛んで李林檎の胸の前に届いた。
彼女はそれをキャッチした。
こうして李林檎と哲也はフリスビーの投げ合いをした。
投げ合っているうちに、だんだん慣れてきたので李林檎は少しずつ後ろにさがって哲也との距離を伸ばした。
哲也は時々、勢い余って投げ損ねて彼女の正面ではなく前後左右にずれて投げてしまうこともあったが彼女は小走りに走ってフリスビーをキャッチした。
20分くらい二人はフリスビーの投げ合いをした。
「ふふふ。哲也くん。このくらいにしておこう」
「はい」
哲也が投げたフリスビーをキャッチした李林檎は哲也に投げ返さなかった。
「哲也くん。お願いがあるの」
「はい。何でしょうか?」
「私のビキニ姿どう?」
「どう、ってどういう意味でしょうか?」
「私のビキニ姿、似合う?それとも似合わない?」
「に、似合わないなんて、とんでもないことです。似合い過ぎます。美し過ぎます。週刊誌のグラビアに載ったら世の全ての男は、その号の週刊誌を買うと思います。週刊誌の記事を読むためではなく李林檎さんのグラビア写真を手に入れるために」
哲也はまくしたてるように矢継ぎ早に言った。
「ふふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ。でも本当かしら?お世辞言ってるんじゃないかしら?」
「そんなこと絶対にありません。僕は生まれてから今まで、お世辞やウソを言ったことなど一度もありません」
哲也は鼻息を荒くして言った。
「ふふふ。じゃあ私のビキニ姿を写真に撮ってくれない」
そう言って李林檎はスマートフォンを哲也に渡した。
「はい。喜んで撮影します」
哲也は李林檎から離れた。
そして、パシャパシャと色々な角度からビキニ姿の李林檎を撮影した。
哲也は本職のカメラマンになったような気持ちになってパシャパシャと色々な角度からビキニ姿の李林檎を撮影した。
李林檎も自分のプロポーションに自信をもっているのだろう、そして撮影されるのが嬉しいのだろう、髪を搔き上げたり、様々なセクシーポーズをとった。
哲也はその全てを逃すまいと一つのポーズにつき10枚くらい撮影した。
雲が出てきて風が吹いてきた。
「哲也君。有難う。楽しかったわ。私、宿にもどるわ。哲也くんと出会えて嬉しかったわ」
そう言って李林檎は哲也の頭を撫でた。
「李林檎さん。僕もあなたのような素敵な人と出会えて最高に嬉しいです」
李林檎はふふふっと微笑んだ。
そうして二人は別れた。
その晩、李林檎はごはん島の旅館である夜雨ばあさんの家に泊まった。
夜雨ばあさんは99歳の腰の曲がったリウマチの痛風の白内障の総入れ歯のばあさんである。
「ただいま。おばあさん」
「お帰り。何もないけんど、ゆっくりくつろいでいきんしゃれ」
「ありがとう。おばあさん」
李林檎は風呂場に行き潮風にさらされた体を念入りに洗って湯船に浸かった。
はー気持ちいい。
十分、湯に浸かって風呂場を出ると脱衣場には、バスタオルと浴衣が置いてあった。
夜雨ばあさんが置いていったのだろう。
おばあさん、ありがとう、と李林檎は言ってバスタオルで体をふいて浴衣を着た。
その晩は囲炉裏の前で、ばあさんが作った、けんちん汁とご飯とタクアンの夕食を李林檎は、夜雨ばあさんと二人で食べた。
「何もなくてすまんのう」
夜雨ばあさんが済まなそうに言った。
「ううん。おばあさん。そんなことないわ。美味しいわ」
李林檎はけんちん汁を啜りながら嬉しそうな顔で言った。
「しかし、あんたも変わった人じゃな。何でこんな何にも無い島に来たんじゃ?」
その問いに李林檎は黙ってしまった。
ばあさんは何か事情があるのだろうと思って、
「すまん。すまん。何か言いたくない事情があるんじゃな。無理に聞いてすまんかった」
と謝った。
「いいんです。たいした事じゃないんです」
と李林檎はばあさんを、いたわった。
夕食が済むと李林檎は、ばあさんが敷いてくれた四畳半の部屋に入った。
さあ寝ようと布団に入ろうとした時である。
トントン。
玄関をノックする音が聞こえた。
夜雨ばあさんは風呂に入っている。
「はーい」
李林檎は大きな声で返事して急いで玄関の戸を開けた。
家の前には哲也が物欲しそうな顔でモジモジしていた。
「あっ。哲也くん。どうしたの。こんな時間に?」
李林檎は意外な訪問者に驚いた様子だった。
哲也は李林檎の問いかけに何も言わず一直線に李林檎に抱きついてきた。
哲也は堰を切ったように、わっと泣き出した。
「お、お姉ちゃん。さびしかったんだよう。どうしても、お姉ちゃんに会いたくなって来ちゃったんだよう」
哲也は李林檎の浴衣にしがみついて泣きながら言った。
まだ甘えん坊なんだなと李林檎は瞬時に察した。
「よしよし。哲也くん。来てくれて有難う。さあ中へ入って」
李林檎は哲也の手をにぎって哲也を家の中に入れた。
さあ中に入って、と言われて哲也は夜雨ばあさんの家に入った。
哲也は李林檎に手を曳かれて李林檎にあてがわれた寝室の四畳半に入った。
李林檎と哲也は寝室で正座して向き合った。
「哲也君。どうしたの。何かつらいことがあるの?」
李林檎が優しい口調で聞いた。
「うわーん」
哲也の涙腺が一気に緩み哲也は泣きじゃくりながら李林檎にしがみついた。
「どうしたの。哲也くん。悩み事があるのなら話して」
李林檎の優しい思いやりに哲也は涙ながらに話し出した。
「お姉ちゃん。僕、人に甘えてはいけないと自分にいい聞かせてきたけれど、お姉ちゃんのような優しい人に会って、その自戒の思いが耐えられなくなっちゃんだよう。僕のお母さんは僕が幼い時、このごはん島に僕を捨てていったんだ。だから僕は、お母さんもお父さんも知らないんだ。それで僕は、ごはん島の人の家に住まわせてもらって、今まで生きてきたんだ。僕は、他の家のお母さんと、その子供が仲良くしている光景を見ると、うらやましくって、やりきれなかったんだ。そこにお姉ちゃんのような綺麗で優しい女の人が来たものだから僕の心臓はドッキンと高鳴ったんだ。でも僕は人に甘えちゃいけない、と自分に言い聞かせていたから、お姉ちゃんとは友達という関係でいようと思ったんだ。でもお姉ちゃんは、あまりにも優しそうなんで耐えられなくて来ちゃったんだ。ゴメンね」
哲也は泣きながら話した。
「そうだったの。哲也くんが、そんなさびしい思いで生きてたなんて知らなかったわ。つらかったでしょうね。私でよかったら私をお母さんと思ってね。私、哲也くんのお母さんになるわ」
そう言って李林檎は哲也の頭を優しく撫でた。
「ありがとう。李林檎さん」
哲也は号泣しながら言った。
李林檎はヒッシと抱きしめていた哲也の頭を倒して両膝の上に乗せた。
「でも哲也くんは立派ね。人に甘えてはいけないなんて自分に言い聞かせてきたなんて。哲也くんは強い子なのね」
「強くなんかないです。僕は、人に甘えてはいけない、という誓いに負けてしまったんですから」
「哲也くん。もう恥ずかしがらないで。私にうんと甘えて」
そう言って李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫でた。
「幸せです。李林檎さん」
哲也は生まれて初めての人間愛を感じながら目をつぶって李林檎の浴衣をギュッと握りしめていた。
李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫で続けた。
1時間くらい経った。
哲也はムクッと起き上がった。
「お姉ちゃん。ありがとう。今日は人生で一番、幸せな日でした。僕もう家に帰るよ」
李林檎はニコッと微笑んだ。
「そう。そう言われると私も嬉しいわ。また来たくなったらいつでも来てね」
「ありがとう。お姉ちゃん。でもこのことは誰にも言わないでね。僕が甘えん坊だと人に知られると恥ずかしいもん」
「言わないわよ。哲也くん」
じゃあ、さようなら、と言って哲也は夜雨ばあさんの家を出て行った。
・・・・・・・・・・・・
翌日の朝から李林檎は夜雨ばあさんの畑と果樹園の農作業をするようになった。
夜雨ばあさんは腰痛と膝痛に悩まされていたので農作業はキツかったのである。
李林檎は優しい心の持ち主なので、
「おばあさん。私が代わりに農作業を手伝うわ」
と言って出たのである。
「ありがとう。せっかく旅行に来たのに農作業を手伝ってくれるなんて。申し訳ないけれど助かるわ」
と夜雨ばあさんは言った。
「ううん。気にしないで。私、いつもデスクワークだから自然の中で汗をかいての農業体験が出来るなんて、むしろ嬉しいくらいだわ」
そう言って李林檎は夜雨ばあさんの果樹園に出て行った。
李林檎がりんごの袋かけをしていると哲也がやって来た。
「あっ。哲也くん。こんにちは」
李林檎は哲也を見つけるとニコッと微笑した。
「こんにちは。お姉ちゃん。夜雨ばあさんに聞いたら、お姉ちゃんは果樹園にいると言ったので来ちゃった。テヘヘ」
哲也は恥ずかしそうに頭を掻いた。
哲也も作業服を着ていた。
「お姉ちゃん。僕も果樹の手入れ、手伝うよ」
哲也が恥ずかしそうに言った。
「ありがとう。じゃあ、りんごに袋をかけていって」
李林檎は哲也にりんごの袋かけの仕方を教えた。
難しい事ではないので哲也はすぐにりんごの袋かけを始めた。
哲也にとっては母親のような存在である李林檎と一緒にいることが幸せだったのである。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「お姉ちゃんはいつまで、この島に泊まっていくの?」
哲也が聞いた。
「そうねえ。いつまでにしようかしら?」
李林檎は少し困惑した口調でためらい勝ちに言った。
「お姉ちゃんには長く居て欲しいな」
テヘヘと哲也は恥ずかしそうに舌を出した。
「そうねえ。どうしようかしら?」
李林檎は返答に窮した。
李林檎は2泊3日で明日、帰る予定だった。
哲也は夜雨ばあさんに聞いて、そのことは知っていた。
「お姉ちゃん。本当は僕、知っているよ。お姉ちゃんは明日、帰るんでしょう?」
哲也は機先を制した。
「いえ。そんなことないわ。確かに予定では2泊3日だったけど、哲也くんと会えたし、もうちょっと泊まっていこうと気持ちが変わっていたところなの」
李林檎は早口で言った。
「お姉ちゃん。無理しなくていいよ。お姉ちゃんは僕の気持ちを察してくれてそう言ってるんでしょ。嬉しいな。でも、お姉ちゃんも帰郷して、やらなくちゃならないことがあるんでしょ。僕ももっと、お姉ちゃんと一緒に居たいな、出来たら、ずーと居て欲しいと思っているけれど、僕も昨夜、家に帰ってから、やはり、お姉ちゃんの優しさに甘え続けていてはいけないと思ったの」
「う、うん。確かに哲也くんの言う通りだけど哲也くんとのことだけじゃなくて、私、他にも理由があって、いつまで、ここに居ようかは、決めないで逃げるように、ここに来たの。それは本当よ。信じて」
「うん。信じるよ。で、そのもう一つの理由って何なの?」
「そ、それはちょっと・・・・」
李林檎は言いためらった。
李林檎の顔に陰りがさした。
哲也はすぐにそれを察した。
「何か言いたくないことなんだね。強引に聞き出そうとしてゴメンね」
「ううん。いいの。哲也くん。でも、それほど、たいした事じゃないから気にしないで」
李林檎は哲也の優しさにほだされて、ニコッと微笑した。
・・・・・・・・・
午前中に果樹園の仕事は終わった。
仕事が終わると李林檎は哲也に、
「さあ。哲也くん。ごはんビーチに行こう」
と誘って夜雨ばあさんの家に行ってビキニに着替え、ごはんビーチに行った。
そして李林檎と哲也は砂浜でフリスビーの投げ合いをしたり、凧揚げをしたり、水上バイクに乗ったりして遊んだ。
そんな二人の関係が1週間ほど続いた。
李林檎がごはん島に来て7日目になった。
哲也はいつものように李林檎に会いに夜雨ばあさんの家に行った。
今日も優しい李林檎さんに会えると思うと小走りに走る哲也の心臓は高鳴った。
「こんにちはー。お姉ちゃん」
そう元気よく言って哲也は夜雨ばあさんの家の戸をノックした。
しかし様子が少し変だった。
いつもなら、すぐに家の中から「いらっしゃい。哲也くん」という李林檎の明るい透き通った声がしてパタパタと玄関に向かう足音が聞かれ戸が開いて「いらっしゃい。哲也くん」と李林檎が笑顔で出てくるのに今日はそれがない。
おかしいなー、どうしたんだろう、と思っているとギイーと戸が開いた。
痛風で腰痛で総入れ歯で白内障で寝たきりに近い、梅干しババアの夜雨ばあさんが、のそりのそりと片足を引きずりながら出てきた。
「あっ。おばあさん。こんにちは。李林檎さんは?」
夜雨ばあさんは哲也の質問には答えず、
「やあ。哲也くん。こんにちは。ともかく、まずは家に入んしゃれ」
と言った。
哲也は家に上がった。
李林檎のために用意された四畳半の戸を開けて哲也は驚いた。
四畳半の部屋は何も無く、もぬけの殻だったからだ。
李林檎の持ってきたボストンバッグも無ければ、壁に掛けてあった、彼女がこの島に着てきた上下揃いの白のスーツも無い。
嫌な予感が哲也の背筋を走った。
「おばあさん。李林檎さんは?」
哲也は夜雨ばあさんに聞いた。
「ああ。彼女はさっき家を出たよ」
嫌な予感が哲也の背筋を走った。
「そ、それで、どこへ行ったの?果樹園?」
哲也の声は震えていた。
「いや。彼女はスーツを着て、ボストンバッグを持って出かけたよ。7泊分の宿泊料です、と言って、7万円の宿泊料も払って。私が宿泊料などいらん、と言ったのに。彼女は、色々と有難うございました、と深く頭を下げたよ。今日は、週に1度の定期船の来る日じゃろ。だから彼女は今日、定期船で本島に帰るんじゃろ」
哲也の顔は真っ青になり背中が凍りついた。
そ、そんなー。
哲也は言葉を失った。
「あっ。そうそう。哲也くんが来たら渡して、と言って彼女は私に封筒を渡したよ」
そう言って夜雨ばあさんは哲也に封筒を差し出した。
哲也は、それを、ひったくるように夜雨ばあさんの手から取ると急いで封を開けた。
中には1枚の便箋があって、それにはこう書かれてあった。
「哲也くん。さようなら。訳あって私は帰ります。哲也くんと夢のような7日間、楽しかったわ。さようなら、のお別れ、も言わずに行ってしまう失礼、非礼、無礼を許して下さい。哲也くんに、お別れの言葉を言ったら哲也くんは悲しむでしょう。哲也くんの悲しむ顔は、どうしても見たくなかったの。だから、どうしても言えなかったの。でも、この7日間、私は哲也くんのお母さんだったわ。そして私がいなくなった後も私は哲也くんのお母さんよ。一生、私は哲也くんのお母さんよ。本当はもっと、ここに居たいんだけど、どうしても帰らなくちゃならない事情があるの。ごめんなさい。哲也くんのお母さん。李林檎」
うわーん。
哲也の涙腺が一気に緩み哲也はボロボロと涙をこぼした。
「うわーん。ひどいよー。僕そんなに弱くないよ。いつか別れる時が来ることは覚悟していたよ。さよならも言わずに帰っちゃうなんて、あんまりだよー」
哲也は号泣した。
「おばあさん。李林檎さんは、いつ、ここを出たの?」
哲也は夜雨ばあさんに聞いた。
「1時間ほど前じゃ。定期船はいつも12時くらいに、ここを出港するから港に急いで行けば会えるかもしれんよ」
哲也は時計を見た。
11時30分だった。
哲也は急いで家を出た。
家の前には自転車が置いてある。
夜雨ばあさんの自転車である。
哲也は自転車に乗ると力一杯ペダルを漕いで、ごはん島の港に向かった。
どうか間に合って、と祈る思いで。
ごはん島の港が見えてきた。
幸い、まだ定期船が桟橋に着いていた。
ボーという物悲しい出航の汽笛が鳴っていて船は今にも港を出るところだった。
(よかった。ギリギリ間に合った)
哲也はホッとした。
さらに驚き嬉しかったことがあった。
それは甲板の手すりに、つかまって、ごはん島を名残惜しそうに眺めている一人の上下揃いの白いスーツを着た女性を見つけた時である。
潮風に美しい髪がなびいている、その女性は間違いなく李林檎だった。
桟橋に着くと哲也は自転車を乗り捨てて急いで桟橋を走って、ピョンと定期船に飛び移った。
哲也は李林檎に抱きついた。
「お姉ちゃん。ひどいよ。黙って帰っちゃうなんてー」
哲也は泣きながら言った。
李林檎も哲也をギュッと抱きしめた。
「ごめんね。哲也くん。私どうしても哲也くんが、さびしがる顔を見る勇気がなかったの」
李林檎も泣いていた。
「お姉ちゃん。僕そんなに弱くないよ。お姉ちゃんがいなくなっても雄々しく生きていく強さくらい持っているつもりだよー」
哲也は泣きながら言った。
「ごめんね。哲也くん。手紙にも書いたけれど、私、哲也くんのお母さんよ。一生、私、哲也くんのお母さんよ」
李林檎も泣きながら言った。
「有難う。お姉ちゃん。ところで、お姉ちゃんにお願いがあるんだ」
「なあに?」
「お姉ちゃんの履いていたビキニをくれない?それと、お姉ちゃんが今、履いているパンティーも」
もう定期船は出航の時間で哲也には恥ずかしがっている時間など無かった。
「わかったわ」
そう言って李林檎はボストンバッグから、ごはんビーチで履いていた、ピンクのビキニの上下を取り出して哲也に渡した。
そしてスカートの中に手を入れて、パンティーを降ろし足から抜きとって「はい」と言って哲也に渡した。
哲也はビキニとパンティーをギュッと握りしめた。
「有難う。お姉ちゃん。これを、お姉ちゃんだと思うよ。つらいこと、苦しいこと、があっても、これで、お姉ちゃんと一緒だと思えるから僕くじけないから」
哲也は泣きながら言った。
「さあ。もう出航だよ。ボク」
船長に言われて哲也は船から桟橋に移った。
ボーという物悲しい出航の汽笛が鳴り船が動き出した。
「お姉ちゃん。さようなら。愛をありがとう」
哲也は彼女のビキニとパンティーをギュッと握りしめながら手を振った。
「さようなら。哲也くん。私は哲也くんのお母さんよ。一生、私は哲也くんのお母さんよ。またきっと会いに来るからね」
そう言いながら李林檎も手を高く挙げて振り続けた。
定期船はゴオオオオと重厚なエンジン音を鳴らしながら桟橋から離れていった。
二人の距離はどんどん離れていったが哲也は手を振り続けた。
定期船に乗っている李林檎も、どんどん小さくなっていったが哲也と同様に手を振り続けていた。
ようやく船が小さな点になって見えなくなると哲也は踵を返して桟橋から離れた。
そして倒れている自転車を起こし李林檎のくれたビキニの上下と白いパンティーをカゴの中に入れて夜雨ばあさんの家に自転車を返しに行った。
「どうだった。李林檎さんに会えたかの?」
梅干しババアの夜雨ばあさんが聞いた。
「うん。ギリギリで会えたよ」
哲也は答えた。
「そうかの。それはよかったの」
哲也は自転車を夜雨ばあさんに返すと踵を返してトボトボと家路についた。
家に着いて自分の部屋に入ると、もう李林檎さんは、この島にいないんだ、という実感がこみ上げてきて哲也は、スマートフォンで撮影した李林檎のビキニ画像を見ながら、「ああ。お母さん。お母さん」と叫びながら泣いた。
そして哲也は李林檎のパンティーのクロッチ部分に鼻を当てて、その匂いを貪り嗅いだ。
(ああ、これが李林檎さんの匂いだ)
そしてスマートフォンの李林檎のビキニ画像を見ながら「お母さん。ありがとう。僕どんなことがあっても、へこたれないよ」と誓うように言った。
まだ中学生の哲也にとって李林檎は憧れの年上の女性であると同時に母親的な存在でもあった。
母性愛に飢えている哲也にとって、李林檎は、憧れの年上の女性であると同時に、どんな外敵からも命がけで守ってくれる母親でもあったのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここは東京にある被差別部落である。
入ろうかしら、でも怖いわ
一人の美しい女性が民家の前で困惑していた。
そう。ごはん島から本土に帰ってきた李林檎である。
(家の中は灯りがついているから、あの人はいるんだわ)
李林檎はボストンバッグをギュッと握りしめながら自分の家の前に戻ってきてから1時間ほど躊躇していた。
夜中の1時なので近所の家々の灯りは消えていた。しかし1時間も家の前でウロウロと立ち往生していたので近所の人に見つかって、
「やあ。李林檎さんじゃないかね。1週間ほど見かけんかったが、どうしたんかね?」
と声をかけられてしまったので李林檎はとうとう決断して(地獄の拷責に耐えよう)と自分に言い聞かせ勇気を出して家のカギを取り出して鍵穴に差し込み家の戸を開けた。
そして家の中に入った。
家の中には一人の男が胡坐をかいて一升瓶の安酒を飲んでいた。
そうとう飲んでいるらしく男の顔は茹蛸のように真っ赤だった。
「ただいま帰りました」
李林檎は男の前に正座して深々と頭を下げた。
「おい。顔をあげろ」
李林檎が畳に額を擦りつけ続け、顔を上げようとしないので男は、しびれをきらせて言った。
李林檎が恐る恐る顔を上げると男は李林檎をジロリとにらみつけた。
「おい。1週間も家を出て、どこへ行っていた?」
男は李林檎をにらみつけながら聞いた。
「そ、それは許して下さい。もう二度と無断で家を出たりしません」
李林檎は全身をブルブル震わせながら言った。
「お前の実家や、兄弟、親戚、友人の家など、お前が泊まれそうな所は全て電話で聞いてみたが、どこでもお前は来ていないと言った。まあ来ていたとしても来ていないと言うだろうがな」
男は酒をコップに注ぎグイと一飲みした。
そう。この男は上松聖といって李林檎の夫である。
二人は在日朝鮮人のための朝鮮学校で知り合った。
二人とも朝鮮からやって来た朝鮮人ということで二人は意気投合して親しくなった。
上松は(オレは小説を書いている。オレは将来、間違いなく芥川賞どころかノーベル文学賞を受賞する大作家になるだろう)と自信満々に語った。
李林檎は上松の自信に満ちた物言い、態度を好きになり(きっとこの人なら本当に立派な作家になるだろう)と確信し結婚したのである。
しかし現実は違った。上松はただ空威張りするだけの中身のカラッポな誇大妄想人間だったのである。しかし李林檎は誠実な性格だったので(私は自分の意志でこの人と結婚した。だから悪いのは私の方だ。私の決断、意志で結婚した以上この人を支えていかねばならない)という健気な涙ぐましい信念を持ち続け、どんなにつらくても離婚することはしなかった。
「おい。どこへ行っていたかと聞いているんだ。答えろ」
李林檎が黙っているので上松は怒鳴りつけた。
「どうせ男が出来たんだろう。そいつは誰だ?」
上松が怒鳴りつけた。
「ち、違います。それだけは信じて下さい」
李林檎は必死で訴えた。しかし上松は自分の思ったことは絶対に正しいと信じている決めつけ男なので、もう上松の頭には、李林檎の不倫の相手が誰なのか、それを追求することしかなかった。
「お前も強情な女だ。しかし言わないんなら吐かせるまでだぜ」
上松はコップ酒をグイと飲み干すと李林檎に向かって、
「おい。着ている物を全部、脱いで素っ裸になれ」
と怒鳴りつけた。
「はい」
李林檎にとって夫の命令は絶対だったので彼女は上下揃いのスーツを脱いだ。
彼女はブラジャーとパンティーだけになった。
彼女は哲也に履いていたパンティーをあげてしまったが、替えの下着を持っていたので、船が沖に出て、ごはん島が見えなくなると、すぐにボストンバッグから替えのパンティーを取り出して履いていた。
さあ下着も脱げ、と言われて李林檎はブラジャーを外した。そしてパンティーも脱いで一糸まとわぬ丸裸になった。
上松は麻縄を持って立ち上がり李林檎の華奢な両腕をグイとつかむと両腕を背中に回し手首を重ね合わせ、手首を麻縄でカッチリと縛り上げた。
「ほら。家の外に出ろ」
上松は妻の後ろ手に縛った縄の縄尻を持って李林檎を蹴飛ばしながら彼女を家の外に出した。
家の前には高い樫の木があった。
上松は椅子を持ってきて椅子の上に登り、縄尻をグイと引き上げて木の高い所にある太い枝にカッチリと固く結びつけた。
李林檎は木の枝に吊るされた状態になって身動きがとれなくなった。
上松が妻を折檻する時は、いつもこうだった。
上松は水道ホースを持ってきて蛇口を開け冷たい水道水を李林檎の体に放出した。
ブババババ―。
寒い冬に丸裸にされて外に出され冷たい水を浴びせられて李林檎は、
「つ、冷たいー。許してー。あなた」
と足をモジモジさせながら叫んだ。
「やめて欲しければ男の名前を言え。そうしたら止めてやる」
そう言ってサディストの決めつけ男、上松は楽しむように水責めを続けた。
しかし李林檎は浮気などしていない。
なので男の名前など言いようがない。
「ゆ、許して。あなた。私、本当に浮気なんかしていないんです」
と李林檎は泣きながら叫んだ。
「水責めでは手ぬるいようだな」
と言って上松は竹刀を持ってきた。
そして力一杯、李林檎の尻、や、背中、脚、腹、を滅多打ちした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
鞭が李林檎の体に当たって弾けるような鞭音が静かな夜空に鳴り響いた。
彼女の全身は真っ赤に蚯蚓腫れしていった。
「ああー。許して。あなた。私、本当に浮気なんかしていないんです」
李林檎は激しく顔を左右に振り、髪を振り乱して足踏みしながら泣き叫び続けた。
その悲鳴は静まり返った被差別部落に響き渡った。
家々の中の在日朝鮮人たちは、その叫び声に起こされて、
「ああ。また上松が嫁いびりをしているな」
と言った。
しかし誰も上松に「あんた。もう、やめてあげんさい」と注意する者はいなかった。
なぜなら上松に注意すると上松の怒りは、注意した者に向かい「うるせえ。オレ様に楯突くと痛い目に会うぜ」と言われ上松ににらまれるからである。
「上松の嫁も可哀想じゃな」と言いつつも「触らぬ神に祟りなしじゃ」と言って、近所の家は灯りをつけることはしなかった。
李林檎は浮気などしていないので答えようがない。
「許して。許して。私、本当に浮気なんかしていないんです」
という叫び声が真っ黒な夜空に響き続けた。
1時間ほどして上松は李林檎を叩くのをやめた。
上松の方がネを上げたのである。
「チッ。この強情女め。明日の朝まで立ち続けていろ」
上松は吐き捨てるように言って李林檎をほったらかしにして家の中に入った。
そしてコップ酒をグイとあおり布団をかぶって寝てしまった。
すぐに上松は眠りに就き、ぐおー、という大きな、いびき声が鳴り響いた。
外では丸裸で後ろ手に縛られ吊るされている全身をブルブル震わせている李林檎がいた。
寒さにブルブル震えている李林檎の脳裏に哲也の顔が浮かんできた。
(哲也くんだって両親がいないのに、さびしさに耐えて頑張っているんだもの。私だって耐えなくちゃ)
そう自分に言い聞かせたものの、李林檎の脳裏には自分を優しく育ててくれた、母親、父親、そして朝鮮学校の友達の姿が浮かんできた。
楽しく笑顔で毎日、仲良く過ごしている、みんなのことを思うと寒い冬の真夜中に丸裸で吊るされている自分がみじめになってきて涙がポロポロと流れ出た。
「お母さん。お父さん」
自然とその言葉が口から出た。
うわーん、と李林檎は泣いた。
上松が家の中に入って1時間くらい経った。
誰かが抜き足差し足で丸裸で縛られて吊るされている李林檎に近づいてきた。
近所に住んでいる田吾作だった。
「李林檎さん。つらいじゃろ。今、縄を解いてやるからな」
李林檎を吊るしている縄を解こうと田吾作は椅子に登ろうとした。
「田吾作さん。ありがとう。でもやめて下さい。夫に無断で家を飛び出してしまった私が悪いんです。それに私の縄を解いたら、主人は私に、誰が縄を解いた、と私が喋るまで執拗に私を責めます。私も弱い人間です。主人の責めに負けて、あなた様の名前を言ってしまうかもしれません。そうしたら主人の怒りの矛先があなたに向かってしまいます。ですから私のことは構わないで下さい」
李林檎は涙ながらに言った。
田吾作も李林檎の優しい心根に胸を打たれ涙した。
「あんたは女神のように優しい人の持ち主じゃ。わしも上松さんは怖い。勇気の無い私を許してくれ」
そう言うや田吾作は泣きながら去って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
李林檎の縄が解かれたのは翌日の正午近くだった。
「ふあーあ。よく寝たぜ」
と言って欠伸をしながら家から出てきた上松が、意識を失ってダランと脱力している李林檎を見て、
「チッ。強情なアマめ」
と不愉快そうに言って李林檎の縄を解いたのである。
・・・・・・・・・・・・・・
李林檎に7日間も家出され、しかも浮気相手を強情に喋らない妻に対する上松の怒りは炎のように激しく燃えさかっていた。
李林檎は浮気などしていないのだが主観が物事の真実である決めつけ男の上松にとっては、妻は浮気相手の名前を喋らない強情な悪女なのである。
それまでも李林檎は上松の暴君さに耐えかねて実家へ帰ったことが数度あった。
もう上松の心には妻に対する愛などカケラもなく、あるのは自分に従わず逆らい続ける女に対する憎しみの感情だけだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
上松の仕事は個人経営の汲み取り屋だが彼は誇大妄想者なので「オレ様は偉い人間だ」と信じ込んでいるので、ほとんど毎日、銀座の高級クラブに行っては、ホステス相手に「オレ様は偉い人間なんだぞ」と偉そうに豪語して浴びるように酒を夜が明けるまで飲み続けていた。
それが上松の毎日だった。夫が仕事をしないので妻の李林檎がバキュームカーを運転し夫の代わりに働いていた。
上松の高級クラブ通いの頻度と金使いの荒さは増した。
そのため妻にさせているバキュームカーでの汲み取り業だけでは生活していけないので上松は何とか、もっと妻に金を稼がせることを考えた。
ちょうど、いいタイミングで金になりそうな仕事が見つかった。
それは自民党の政治資金集めのパーティーである。
自民党には、いくつもの派閥があり高級ホテルを借りて食べ放題の立食パーティーを行っていた。
派閥に所属する議員は自分に課されたノルマの一枚2万円のパーティー券をたくさん売りさばなくてはならなかった。
それが派閥に属する者の義務だった。
2万円のパーティー券を買ってもらって高級ホテルでの食べ放題に勧誘というのが建て前だったが実際には極力、経費を削減しての派閥の頭領のための資金集めだった。
出来るだけ経費を削減しなくてはならないため食べ放題と銘打っていても料理は少ししか用意しておらず、すぐに食べ尽くされてしまって、パーティーに来た客は「あーあ。全然、食べられなかったよ」と愚痴をこぼしていた。
そこで自民党は食欲を満たす代わりに面白いショーを鑑賞させることを売りに決めたのである。
それは酸鼻なSМショーだった。
上松は、ある筋から「SМショーの美人モデル募集。報酬は十分に支払います」という情報を入手した。
その報酬の額は上松の満足のいくものだった。
上松は、自分の妻をSМショーに出演させる契約をした。そして前金を受けとった。
そして妻の李林檎に、
「今日。××ホテルでSМショーがある。ソフトなSМショーだ。お前はそのショーに出ろ。そうすれば、家出、浮気の罪は許してやる」
と言った。
李林檎にとって夫の命令は絶対だったので彼女はそのホテルに向かった。
たくさんの自民党議員が来ていた。
ホテルの前には「清和政策研究会パーティー会場」と書かれた立て看板があった。
スーツに蝶ネクタイをしたパーティーの進行係りと思われる男が李林檎に、
「ここは控え室だ。今、立食パーティーが行われている。それが終わったら、お前のSМショーだ」
と言った。
「あ、あの。私は何をすればいいんでしょう?」
李林檎は不安を感じながら聞いた。
「なに、たいしたことじゃない。オレやお客さん達の言うことを素直に聞いているだけでいい。お前は演技などしなくていい。お前は自分の感じたことを言っていれば、それだけでいい」
と蝶ネクタイの男は言った。
控え室にはパーティー会場を映し出している画像があった。
200人くらい人がいる。
「早く食べないと無くなっちゃうわよ。せっかく2万円も出したんだから」
招待客たちは豚のようにテーブルの上に乗っている料理が入っている皿の料理をトングで自分の皿に移して貪るように食べていた。
しかし食べ放題と銘打っていても用意されている料理の量は少ないので料理はすぐに客たちによって食べられて無くなってしまった。
もう、ほとんどの皿は空っぽになっていた。
「あーあ。たいして食べられなかったわ」
招待客たちは不機嫌そうに言った。
その時である。
蝶ネクタイの男がステージに出てきた。
「Ladies and Gentlemen。みなさま。お腹も満たされたところでございましょう。では、これよりSМショーを開催いたします」
と言って控え室に戻り、
「さあ。お前の出番だ。来い」
蝶ネクタイの男は李林檎の手を引っ張ってステージの上に立った。
大勢の人の前に、いきなり立たされて李林檎は戸惑った。
「おおっ。なんてハクい女なんだ」
「絶世の美女じゃないか」
みんながそんな賛辞を一斉に述べた。
「みなさま。これから皆様お待ちかねのSМショーを行います。この女が皆様の奴隷です。一つ言っておきますが、この女こそが自民党の裏金問題を告発した張本人の共産党員です。彼女は政権与党の自民党をおとしめたことを後悔しており、それを詫びたいと申し出た正真正銘のM女です。どうぞ、お好きなようにして下さい」
蝶ネクタイの男がそんなことを言った。
李林檎は顔面蒼白になった。
「ち、違います。私は共産党員でもありませんし自民党の裏金問題を告発などしていません」
李林檎は訴えるように言った。
「ははは。どうです。この嫌がりっぷり。この女は皆様の嗜虐心を煽るために、わざと、このように演技しているのです。しかし、この女こそが自民党の裏金問題を告発した張本人であることは間違いありません。どうぞ皆様がご満足いくまで心行くまで、この女を嬲って下さい」
蝶ネクタイの男がそんなことを言った。
「この女だったのか」
さっきは、その美しさに見とれていた自民党議員たち、および、自民党を支持する招待客たちの顔が憎しみに変わった。
「さあ。おわびの第一歩として着ている物を全部、脱いで素っ裸になれ」
もうお前の夫には前金を渡し公証役場に契約書を書いてもらっているから、お前は従うしかないぞ、と蝶ネクタイの男は、李林檎に小声で耳打ちした。
「わ、わかりました」
そこまで用意周到にされていては、もう抵抗しても無駄だと李林檎はあきらめた。
それに裸にされてSМショーをすることによって夫の怒りがおさまってくれるのなら、それでいいわ、という気持ちも李林檎にはあった。
李林檎は上下揃いのスーツを脱いだ。
そしてブラウスも取り去った。
大きな乳房をおさめて膨らんで二つのふっくらした盛り上がりを作っている白いブラジャーと恥肉をおさめてモッコリと盛り上がっている白いパンティーだけの下着姿になった。
「おおっ」
「素晴らしいプロポーションだ」
そんな声が会場から沸き上がった。
李林檎はブラジャーのホックを外した。そしてパンティーも降ろしていって両足から抜きとった。
一糸まとわぬ李林檎の丸裸は、まばゆいほど美しかった。
しかし女の生理的な羞恥心から自然と手はアソコと豊満な乳房へ行った。
「ほら。手を出せ」
蝶ネクタイの男は李林檎の両手をグイとつかむと手首を麻縄で縛った。
そしてその縄尻を天井に固定されているカラビナに通した。
そしてグイグイと縄を引っ張っていった。
李林檎の手首は、あれよあれよ、という間に上に引っ張られて天井から吊るされる形になった。
もう女のアソコも乳房も尻も丸見えである。
「では、仕置きとして、これから、この女を鞭打ちます」
蝶ネクタイの男は鞭を取り出すと李林檎の尻めがけて思い切り鞭を振った。
ピシーン。
イキのいい炸裂音が鳴った。
尻の鞭の当たった所には一筋の痛々しい赤い蚯蚓腫れの跡がしるされた。
「ああー。痛いー」
李林檎はあまりの痛さに全身を震わせて叫んだ。
司会者の蝶ネクタイの男は情け容赦なく李林檎の体を休む暇なく鞭打った。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
パーティー会場の人々は我を忘れて、その光景を眺めていた。
しばし鞭打った後、蝶ネクタイは鞭打ちをやめた。
「この女こそが、自民党の裏金問題を告発した張本人の共産党員です。自民党議員の先生がた、および、自民党を支持されておられる来客の方々にとっては、この女は憎みても余りあることでしょう。どうぞ皆様もこの女を鞭打って怒りを晴らして下さい」
自民党議員および自民党を支持する来客たちに憎しみの炎がメラメラも燃え盛り出した。
(この女が年収3350万の安泰の権力の地位を奪い、それどころか、自分たちを刑事事件の犯罪者におとしめた張本人なのだ)
という実感がパーティー会場にいる全ての人間の心に起こった。
「それでは、この女を鞭打ちたい方は一列にお並び下さい」
蝶ネクタイがそう言うと会場にいる全ての人間が我先にと李林檎の前に近づいてきた。
一列にお並び下さい、と言われて、まさにパーティー会場に来た全員の長蛇の一列が出来た。
最初の自民党議員が鞭を手に持つと、
「このオレ様を刑事犯罪者に仕立て上げた売国女め」
と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー。許して下さいー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
・・・・・・・・・・・・・
男はハアハアと息を切らしながら、
「これで少しは気が晴れたぜ。次はお前の番だ」
と言って彼は鞭を次の自民党議員に渡した。
彼も憎しみを込めて「この売国女め」と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
「このオレ様を刑事犯罪者に仕立て上げた売国女め」
と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー。許して下さいー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
こうしてパーティー会場にいる全ての人間が李林檎を鞭打った。
李林檎は泣く気力もなくほどの状態で項垂れてガックリと首を落としていた。
「よし。鞭打ちはこれで終わりだ」
蝶ネクタイの男が李林檎の手首の縄を解いた。
李林檎はガックリとステージの床に倒れ伏した。
「さあ。お前はここにいる自民党議員および自民党支持者の方々の犬だ。四つん這いになって御主人様たちの靴をなめろ」
蝶ネクタイは李林檎の腹をドンと蹴飛ばした。
(た、耐えよう)
李林檎は自分に言い聞かせ犬のように四つん這いになって這って歩きながらパーティー会場にいる人間たちの履いている革靴を舌を出してペロペロなめて回った。
あはははは、と悪魔たちは笑った。
もう李林檎には人間としての尊厳もプライドも屈辱もなかった。
「Ladies and Gentlemen。みなさま。こいつは、政府が推進している、新型コロナワクチンを毒薬とまで言っている反ワクです。こいつのデマのおかげでワクチンの接種者が減少してしまいました。ここに廃棄用の8680万回分のワクチンの入った注射器があります。どうぞ、皆さま、こいつにワクチンを打ってワクチンが安全であるということを、わからせてやって下さい」
蝶ネクタイが言った。
大きな箱が運ばれてきた。
その中には廃棄用のコロナワクチンの入った注射器が入っていた。
パーティー会場にいる自民党議員および自民党支持者は一人づつ注射器をとって、李林檎に近づいてきた。
ここに至って李林檎はぞっと背筋が凍る思いになった。
(こ、殺されてしまう。これはSМショーではない。殺人ショーだ)
「いやー。やめてー」
命あっての物種である。
李林檎は立ち上がって逃げようとした。
しかし。
「おっと。まだSМショーは終わっていないぞ」
と言って二人の蝶ネクタイの男が裸の李林檎の腕をつかんだ。
ブツブツのアバタ顔の気持ち悪いワクチン接種推進大臣だった男がコロナワクチンの入った注射器を持ってニヤニヤ笑いながら李林檎に近づいてきた。
「いやー」
李林檎は大声で叫んだ。
その時である。
「おーっと。ちょっと待った。オレは2万円のパーティー券を買って、やって来た招待客だがオレは自民党支持者ではない。お前らの悪事をあばいた張本人はこのオレだ。今日、オレがここへ来たのは、お前らの悪事の決定的な証拠をとるためだ。SМショーと銘打っての彼女の殺人ショーは、しっかりスマートフォンで録画して生中継でYou-Tubeにアップしたぜ。まあ、どうせバンされるだろうがな。しかし、ニコニコ動画にもアップしたぜ。それにCBCテレビの大石さんにも録画は送ったぜ。お前ら全員、殺人犯だ。オレを殺そうとしてもダメだぜ。オレは空手三段、柔道四段、合気道二段の武術の達人だ」
と凛々しい顔立ちの男が言った。
「全員。ホールドアップしろ」
ここまで確実な証拠を握られては抵抗しようがない。
男に言われてパーティー会場にいる人は全員ホールドアップした。
男はステージの上にある李林檎の下着とスーツをとって李林檎の手をつかんで、
「さあ。李林檎さん。早く下着を着けてスーツを着て」
と言った。
言われて李林檎はパンティーを履きブラジャーを着け上下揃いのスーツを着た。
「さあ。李林檎さん。急いでパーティー会場から出ましょう」
男は急いで李林檎を連れてパーティー会場から出た。
男はパーティー会場から少し離れた所にある駐車場に李林檎の手を引っ張って、連れていった。
駐車場には一台の車があった。
「さあ。李林檎さん。これに乗って」
「はい」
男は李林檎を車に乗せるとスピード違反にならない上限のスピードで車を飛ばした。
「有難うございます。あなたは誰なのですか?」
李林檎が聞いた。
「私はね、ごぼうの党の奥野卓志のボディーボードさ。奥野卓志さんに頼まれて自民党のパーティーの様子を撮影するように命令されていたのさ」
「そうだったんですか」
男は車を少し飛ばしてから別の駐車場に行った。
そこにも別の車が一台あった。
「さあ。李林檎さん。この車に乗って」
「はい」
言われて李林檎はその車の助手席に乗った。
そして男はスピード違反にならない上限のスピードで車を飛ばした。
「どうして車を乗り換えるんですか?」
「前の車を見ているヤツがいるかもしれないからね。敵は国民の命など屁とも思わない国家権力だ」
そう言って男は首都高に入り東名高速道路を西へ飛ばした。
「ところで、あなたの身の安全が心配だ。敵は国民の命など屁とも思わない国家権力だ。奥野卓志さんはたくさん秘密のアジトを持っているよ。そこでかくまおうか。どうするかね?」
男が聞いた。
「あ、あの。できたら、ごはん島に行きたいです」
ごはん島は夫の拷問にも耐えて言わなかった秘密の島である。
日本に属さない独立国でもある。日本政府も絶対に手出しできないだろう。
李林檎は100%そう確信した。
なぜなら、ごはん島とは優しい心をもった浅野浩二という作者が想像で作り上げた、物理的には、この世に存在しない空想の島なのだから。
優しい浅野浩二さんなら決して自分を悪いようにはしないでくれると李林檎は確信していたのである。
「ごはん島?聞いたことないな。そんな島。どこにあるの?」
男が聞いた。
李林檎はスマートフォンを取り出した。
そして地図アプリで、北緯××度、東経××度にある、ごはん島を男に見せた。
「ここです。ここが、ごはん島です」
「なるほど。確かに、北緯××度、東経××度に、小さな島があるね。じゃあ、そこへ、あなたを連れていこう」
男は静岡のインターチェンジで東名高速道路を降りた。
そして少し走って林の中に入った。
林の中には一台のヘリコプターがあった。
「さあ。李林檎さん。このヘリコプターに乗って下さい。これは奥野卓志さんの自家用ヘリコプターです。ごはん島にあなたを連れて行きます」
「はい」
男に言われて李林檎はヘリコプターに乗り込んだ。
ババババッと激しい爆音をたててヘリコプターは離陸した。
そして一路、ごはん島へと向かって飛行した。
ちょうど朝日が昇り始めている所だった。
もう日本には帰らないわ。夫の上松は私の命なんか何とも思っていないんだわ。
今まで、ずっと夫のワガママに耐えてきたけれど、それは私が耐えることで、あの人が自分の悪業を自覚し反省し、まっとうな人間になること信じていたからだわ。でも、あの人は骨の髄から悪魔なんだわ。
李林檎は、ここに至ってようやく、それに気づいた。
李林檎は夫に宛ててメールを書いた。
「あなた。あなたと結婚して過ごした2年間は楽しかったわ。何回も家出してしまってゴメンなさい。私は自分がどんな辛いことをされても、それに耐えることによって、いつか、あなたが礼儀正しい謙虚な真人間になってくれると思っていました。しかし、それは、あなたを、あまやかせ、あなたを、ますます堕落した人間にしてしまうことになると気づきました。これでは、あなたのためにも私のためにも良くありません。なので、あなたとは離婚します。どうか、あなたにふさわしい良い人を見つけて下さい。私は周庭さんのように、あなたから亡命します。李林檎」
そう書いて李林檎は送信ボタンを押した。
これでやっと耐えに耐えてきた肩の荷が降りて李林檎は、ほっとした気持ちになった。
李林檎の心は晴れ晴れとしていた。
嫌な過去が全て洗い流されて、かわりに、これから行くごはん島の様子がありありと浮かんできた。
李林檎の頭に優しかった哲也の顔が浮かんできた。
シャイな、はにかみ屋、甘えん坊、母性に飢えている可愛い少年、でも人に甘えてはいけないと思っている健気な子。
ふふ。哲也くん、どうしているかな。私が来たら、きっと喜ぶだろうな、と想像すると李林檎は楽しい気持ちになってきた。
どのくらいの時間が経ったことだろう。
ヘリコプターは真っ青な海の上空を飛行し続けた。
やがて、ちいさな島が見えてきた。
「あっ。ごはん島だわ」
李林檎が感激して叫んだ。
「では高度を下げて着陸します」
ヘリコプターはババババッと大きな爆音をあげて、ごはん島に着陸した。
ごはん島の数人が何事かとやって来た。
その中に哲也もいた。
李林檎は奥野卓志のボディーガードに、有難うございました、と礼を言ってヘリコプターから降りた。
奥野卓志のボディーガードは、
「では私は日本にもどります」と言ってヘリコプターはババババッと爆音を立てて、また離陸して飛び立っていった。
哲也は李林檎を見つけると、
「あっ。お姉ちゃん」
と叫んで走り出した。
そして李林檎に抱きついた。
「お姉ちゃん。さびしかったよう。また来てくれたんだね。僕、最高に嬉しいよう」
と号泣していた。
李林檎も哲也をガッシリと抱きしめた。
「ごめんね。哲也くん。私も哲也くんのことを一時たりとも忘れたことはないわ。哲也くんは元気にやっているかなと毎日、思っていたわ」
哲也は李林檎の脚についている痛々しい鞭打ちの蚯蚓腫れの跡に気づいた。
「お姉ちゃん。何かつらいことがあったんだね。何があったの?」
「哲也くん。心配してくれて有難う。でも何でもないわ。私は大丈夫よ」
哲也に心配させまいと李林檎は夫の上松に虐められたこと、自民党のパーティーで嬲られ抜いたことは言わなかった。
・・・・・・・・・・
その晩、李林檎は夜雨ばあさんの家に泊まった。
「あんさん。何かつらいことがあったんじゃろ。じゃが何があったかはわしは聞かん。ゆっくり休んでいくがよろし」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎のために風呂を沸かした。
「有難う。おばあさん」
温かい風呂に浸かっているうちに自民党の「清和政策研究会」のパーティーで受けた体の痛みも和らいでいくようだった。
風呂から出ると李林檎は夜雨ばあさんが用意してくれた浴衣を着た。
夜雨ばあさんは李林檎のために、豚汁を作っていた。
「あんさん。何かつらいことがあったんじゃろ。これを食べなされ」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎に、豚汁を勧めた。
「ありがとう。おばあさん」
李林檎は夜雨ばあさんの作った、豚汁を啜った。
何も食べていなかったので、温かい、豚汁は五臓六腑にしみわたった。
そして四畳半の部屋に通されて温かい布団に入った。
色々なことがあったため体はやはり疲れていて李林檎はすぐに眠りに就いた。
その晩、李林檎はぐっすり眠った。
夜中に哲也が李林檎に会いに来たが夜雨ばあさんが「李林檎さんは疲れてぐっすり眠っておる。明日また来んしゃい」と言われて哲也は「はい」と言って帰ろうとした。
しかし、その声に李林檎は起こされた。
「おばあさん。私は大丈夫です。哲也くん。来てくれて有難う。おいで」
李林檎に声をかけられて哲也は李林檎の寝ている部屋に入った。
李林檎は身を起こして正座していた。
哲也は久しぶりに会う李林檎を見ると、わっと泣き出した。
「お姉ちゃん。さびしかったよう。会えて嬉しいよう」
そして李林檎に抱きついた。
「私もよ」
李林檎も哲也をギュッと抱きしめた。
哲也は大人と同じほどの農作業をしながらインターネットで一生懸命、夜中まで勉強している中学生だった。
といっても、ごはん島には中学校はない。
しかし哲也は本土の高校に進学したいと思っていたので独学で中学校の勉強をしていた。
哲也にとっては農作業と勉強のつらい毎日だったが、そんな時、哲也をなぐさめ励ましてくれたのは、李林檎がくれたパンティーだった。
哲也はつらい時、李林檎のパンティーのクロッチ部分を貪り嗅いでいた。
(ああ。お姉ちゃんの匂いだ。お姉ちゃん。僕どんなにつらくても頑張るよ)
と哲也はパンティーに誓った。
しかし哲也は強く逞しく生きようと思ってはいたが、気の小さい、まだ子供である。
李林檎に会えたことで痩せ我慢の箍が一気に外れてしまったのである。
哲也はそのことを李林檎に話した。
「哲也くん。ゴメンね。さびしい思いをさせて。私は哲也くんのお母さんよ。うんと甘えて」
それを聞いた哲也の涙腺は一気に緩んだ。
「うわーん」
哲也はわっと泣き出した。
李林檎は哲也の頭を太腿の上に乗せて膝枕させた。
李林檎の太腿には清和政策研究会のパーティーで受けた鞭打ちの跡が残っていた。
「お姉ちゃん。誰かに虐められたんだね?」
哲也が聞いた。
「ううん。たいしたことないわ。心配しないで」
李林檎は哲也を心配させまいと、そう言った。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「今度はいつまでいるの?」
「ずーといるわ。私一生、ごはん島で生きるわ」
「本当?」
「本当よ」
「わー。嬉しいな」
李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫で続けた。
ずーといると聞いて哲也はほっと一安心した。
哲也は李林檎の肌の温もりと安心感と膝枕で頭を撫でられている心地よさで、いついか眠りに就いていた。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日から、李林檎は以前、来た時のように、まめまめしく働いた。
李林檎は夜雨ばあさんの畑と果樹園の農作業をするようになった。
もちろん哲也もやって来て李林檎の仕事を手伝った。
そして午後は、ごはんビーチで李林檎はビキニに着替え、哲也とフリスビーをしたり水上バイクに乗ったり小船に乗って海釣りをして楽しんだ。
ごはん島は亜熱帯なので一年中、海水浴が出来た。
小船に乗って釣り糸を垂れていると思いがけない魚がかかることがよくあった。
人食いザメがかかることもあれば体長30m、体重100トンのシロナガスクジラがかかることもあった。
李林檎は釣りが得意らしくエサに食いついた魚は全て釣り上げた。
「おばあさん。今日はクジラが釣れたわよ」
と報告してクジラを持って帰ると夜雨ばあさんは喜んで、
「ああ。それはよかったわね」
と言って、その日の晩のおかずはクジラの刺身となった。
哲也と李林檎は、美味しい、美味しい、と言ってそれを食べた。
・・・・・・・・・・・・
再び、また李林檎に明るい表情がもどって、もう彼女は暴君の夫の上松や、自民党の「清和政策研究会」のパーティーのことなど忘れていた。
李林檎は哲也との付き合いがこの上なく楽しかった。
哲也にしても李林檎との生活が夢のように楽しかった。
しかし平和は、いついつまでもは続かなかった。
・・・・・・・・・・・・
ごはん島には本土から1週間に一度、定期船がやって来るのだが、李林檎が日本を脱出して、ごはん島に来て、2ヵ月が経ったある日のことである。
定期船がいつものように、ごはん島にやって来た。
船が桟橋に着くと一人の男が船から降りてきた。
男は戦国の武将のように鉄兜をかぶり鎧を着ていた。
李林檎の元夫の上松だった。
哲也は定期船が来ると、いつも見に行っていた。
なのでその日、哲也は定期船を見に行った。
哲也は、定期船から出てきた鉄兜をかぶり鎧を着ている異様な男に驚いた。何か悪い予感がして哲也はスマートフォンでその男を撮影した。そして急いで李林檎の居る夜雨ばあさんの所に行った。
「お姉ちゃん。今日、定期船で変わった人が来たよ」
そう言って哲也はスマートフォンで撮った、その男の写真を李林檎に見せた。
「お姉ちゃん。何か悪い予感がするんだ。この人、誰か知ってる?」
李林檎は写真を見ると青ざめた。
「・・・あ、あの人だわ。きっと私を連れ戻すために、この島にやって来たのね。でも、どうして私がこの島にいることを、つきとめたのかしら?」
李林檎の声は震えていた。
「お姉ちゃん。やっぱり、お姉ちゃんにとって都合の悪い人なんだね?どういう関係の人なの?」
哲也はせっつくように聞いた。
しかし李林檎は哲也を心配させないようにと、元夫の上松のことは言わなかった。
・・・・・・・・・・・・
上松は船から降りると、ごはん島に放送局に行った。
そして島中に伝わる大音量で、こう発信した。
「あっははは。おい。李林檎。聞いているか。お前は、また家出したな。確かな情報でオレはそれをつきとめたぞ。お前はオレの女房だ。隠れてないで出てこい」
しかし、ごはん島の全ての家々では外を歩いていた人達は、すぐに家に入って戸を閉めた。
そして内から閂をしたり、つっかえ棒をしたりして上松が入ってこれないようにした。
ごはん島がシーンと静まり返った。
しかしそれがかえって、上松に、ごはん島に李林檎は居て、皆がかくまっている、という確信を与えてしまった。
上松は、ごはん島のトラックに乗って一軒一軒、回った。
「おい。オレの女房の李林檎が来ているだろう。戸を開けろ」
上松は怪力で鍵のかかった、ごはん島の家を開けようとした。
家の中では家人が必死に戸を開けられないようにと戸をおさえた。
しかし上松の怪力があまりにも強いので家人は、
「どうか戸を開けようとするのはやめて下さい。李林檎なんて人は、この島にいません」
と訴えた。
「お前の家にオレの女房が居ないのならオレを入れない理由はないじゃないか。オレは女房がいるのかどうかを聞きに来ただけだ。オレは女房いがいの人間には手出しをしないぜ」
そう言われても家人は上松を入れる気にはならなかった。
上松が気性の荒い人間で上松を家に入れてしまっては李林檎の居場所を喋るまで、どんな酷い拷問にかけられるか、それを思うと、とても怖くて上松を家に入れることは出来なかったのである。
家人が必死で戸を押さえて家に入れないと分かると上松はチッと舌打ちした。
そして上松はガソリンを家にかけて家に火をつけた。
「ああー」
火がまわるのは早く家人は消火活動をあきらめて裏口から逃げだした。
家を失うのは痛手だったが命にはかえられない。
上松は、ごはん島の家々を、そうやって放火していった。
ごはん島は日本と違って拳銃の所持は認められていた。
そのため何人かの村民が、
「クズ松、死ね」
と言って上松めがけて発砲した。
バキューン。バキューン。
しかし弾が当たっても弾ははじかれた。
「あっははは。オレ様の着ている鎧は超合金で出来ているのだ。さらに鎧の内側には防弾チョッキも着ている。だからピストルの弾などオレ様には通用しないぜ」
上松は勝ち誇ったように言った。
「お、お姉ちゃん。こわい」
「哲也くん。神様に祈りましょう」
夜雨ばあさんの家に居た李林檎と哲也はガッシリと抱きしめ合って、手を合わせ、どうか、上松がやって来ないようにと神に祈った。
しかし上松はヘビのように執念深い男なので、このままでは平和なごはん島が滅ぼされてしまうのは時間の問題だった。
ごはん島の家の半分近くが放火された。
このままでは、ごはん島は滅ぼされてしまう。
なにせ相手は拳銃も通用しない怪物である。
ごはん島の村民も「死」を覚悟し出した。
上松は一軒の小さなオンボロ家に入った。
そこは、そうげん、の家だった。
そうげん、は、たいして力も無く拳銃も持っていなかった。
「よし。この家の主に何としても女房の居所を吐かせてやる」
そう意気込んで上松は「開けろ。開けろ」と家の前で叫んだ。
しかし家の中から返事はなかった。
上松が家に入ろうと戸を開けようとしたが、その家は鍵がかかっていなかった。
上松は家に入り「おい。オレの女房の居所を言え」と言った。
その時である。
「悪魔め。死ね」
そうげんは、振り返るやいなや上松に向かって聖書と十字架と100ルックスのLEDの光を上松に向けた。
そして上松の口に、にんにくを放り込んだ。
すると上松は以外や以外「うわー」と大きな悲鳴を上げた。
そして塩をかけられたナメクジのように上松の体は萎んでいって、どんどん小さくなり、そして蝋のように溶けて液体になり、その液体は蒸発して、なくなってしまった。
ピストルの弾も通用しない上松が一体どういうことなのかと村人が集まってきた。
「そうげんさん。どうして上松をやっつけることが出来たのですか?」
村人は疑問に思って、そうげんに聞いた。
そうげんは答えた。
「こいつの正体は悪魔だ。悪魔には拳銃の弾は通用しない。しかし悪魔は、聖書と、にんにくと、十字架と、光に弱い。僕はこいつの正体を最初から見抜いていた」
そう、そうげんは説明した。
「なるほど。そうだったんですか」
村人たちは納得した。
こうして悪魔は、ごはん島にいなくなり、ごはん島に再び平和が訪れた。
夜雨ばあさんは脳梗塞を起こしていて、要介護5の状態だったので、李林檎は夜雨ばあさんの家に住み込んで、食事、排せつ、入浴、着替え、掃除、など日常生活の全ての面倒を見た。


2024年2月25日(日)擱筆



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健康診断(医療エッセイ)

2024-02-04 11:01:53 | 小説
健康診断

今日、健康診断のバイトをはじめてやった。ある会社の従業員の健康診断である。小説書いてて、リストラされ、内科が十分できない、はぐれ一匹精神科医となった医者にできるバイトといえば、コンタクト眼科と健康診断くらいしかない。健康診断のバイトなんてカンタンだ、と思っていた。じっさい、学生の時、実習で二日、県のはずれの村へ行って、健康診断をした経験がある。農家のおばさん相手にきまった質問事項を聞くカンタンなものだった。ただ、その時は血圧は測れなかったので、血圧測定は手こずった。今度もそんなもんだろうと思っていた。ただ朝が7時半に行ってなければならないのが、朝がニガ手な私には、つらかった。それで、前日、近くのカプセルホテルにとまった。しかし、じっさいは、かなり予想とちがった。午前中は、男の患者(オット患者じゃなかったんだ。健康者のスクリーニングだった。)ではなく職員が多かった。結膜で貧血をみて、顎下リンパ節を触れて、甲状腺をふれて、さいごに胸部聴診だった。フン、フン、フン、とながしてやっていた。しかし、である。カーテン一枚へだてたとなり、で女のドクターもやってて、診察の声がきこえる。キャリアのある内科医である。患者の質問には全部正しくテキパキ答えてる。知識が多い。きらいなコトバだが、一人前である。私は小説を書きたいため時間にゆとりのもてる精神科をえらんだ。二年もやったので精神医学のことは、ある程度わかる。もちろん、精神科医も内科的シッカンをもっている患者をみなくてはならないので、内科的能力がゼロではない。しかし、糖尿病と脳卒中と水虫とターミナルケアの全身管理とイレウス、くらいである。しかし、おどろいたことに甲状腺シッカンが、少しある。頸肩腕障害や子宮筋腫の人、もおり、内科的質問をされる。となりの内科医は、的確な返答をしている。もちろん私とはくらべものにならないほど内科の知識がある。しかし私だって二年の臨床経験のある医師だ。ライバル意識がおこる。しかし私は精神科にいても、内科シッカン患者がいると、症例経験がふえるので、興味をもってとりくんだ。といっても経過観察くらいだけだったが。あとは国家試験の内科知識である。国家試験の知識があれば、それで内科は、ちっとは何とかなると、思っていた。もちろん国家試験はコトバの知識にすぎないが。しかし、考えがあまかった。実際に内科を研修し内科患者をみていないと、患者の質問に正確に答えられない。内科もやはり経験が全てだ。実戦経験がなく、本の知識で、答えているから、かなりトンチンカンになった。実戦経験の前には、本の知識ではたちうちできない。しかし私は喘息で胃病もち、なので必然、内科に関心は向いていた。さらに、健康な内科医をみると、そらぞらしくみえ、内科患者の本当の苦しみなどわからないだろうとつい思ってしまうこともあった。
山奥の健康診断の時とちがうことが二つあった。それは都心の会社の検診では、悩ましいOLもみなくてはならないかったのである。考えてみれば、当然のことだが、念頭になかった。しかもである。胸部聴診をしなくてはならなかった。今まで、長期入院の老人患者ばかりみていた。ひきさきたい欲求に悩まされているOLの聴診なんて、したことがない。内科医なら、女の体をみることになれてて、何ともないのだろうが。
検診のバイトを紹介してくれたのは、ある医師だったが、「女の胸の聴診は気をつけろよ。さわっただ、何だって、うっせーからよ。」と言った。「では、どうすればいいんですか。」と私がきくと、「聴診しますから、少し上着をあげて下さい。」って言う。「それで胸の下のできるだけ下の方をササッとあてる。ほとんど腹部聴診みたいになるけど、それでいいから。形だけ、やったふりをすればいいんだよ。男の場合は、バッと上着をあげさせて、ちゃんとやらなきゃだめだよ。」私はどうも神経質で、医学的責任感はあるので、というか、融通がきかない、というか、すばやい機転がきかない、というか、「女性は、うしろを向いてもらって背中で聴診してはどうですか。」といったら、「そんな時間ない。」と言った。じっさい、短時間にたいへんな数をこなさなければならず、確かにそんな時間はなかった。しかし胸部聴診といって、腹に聴診器をあてて、きくのも変なものだと思った。それに、かりにも医師が健康診断で、胸部聴診したからって、さわった、スケベだ、なんて女は言うもんだろうか、と思った。今はもう4月の中旬でポカポカあたたかく、うすいブラウスやTシャツの女なら服の上から上肺野をきけばいいや、と思った。薄い服でない人は先生に言われたようにブラジャーの下をササッとやろうと思った。
で、実際、行ったら半分は男でやりやすいが、確かに女はやりにくい。学生の時、県のはずれの村に健康診断の実習に二日、行ったことがあったが、高齢の農作業のおばさんばかりで、また聴診はなかった。だが、考えてみると、過疎化で、村では若者は都会に出て行き、村は高齢者だけ、という日本の実情が、実習の時は実感できていなかった、だけにすぎなかった、ということに気がついた。
だが今回は都会の会社の健康診断である。若いOLがいるのは当然ではないか。マニュアル通り、眼瞼結膜で貧血を見、(これは、採血でRBC、Hbをみりゃ、わかるんじないか、と思った。しかし採血しない人もいたのか、よく知らんが、検診はじめてで、若い女の貧血は、ばかにできん、というバクゼンとした理解はもっていた。)頚リンパ、顎下リンパ、の触知、甲状腺の触知、そして胸部聴診だった。尊敬してた小児科の教授の診察と同じである。おどろいたことに女では甲状腺キノー低下症やバセドー病の治療をうけている人がいて、甲状腺疾患は頻度の低いものではない、ということを知ることができた。そういえば、学生の検診の実習の時も甲状腺疾患の人は数人いた。ただ都会の会社では一日中パソコンの画面をみているので、ほとんど全員、目のつかれ、と、肩こりがひどい、腰痛の項目には自分でチェックしていて、目がつかれない人や、肩こり、に、チェックしてない人の方が少なかった。検診は、かなり、現代人のかかえる体の不調の実態を知れるので勉強になる。新聞を読んでても、頭の理解にすぎず、現場の声をきくことによって、はじめて実感できる。あと、高血圧がかなりいた。上が150をこしてる人がけっこういる。のに自覚症状がないから、(高血圧はサイレントキラー)問診しても、運動はあんまりしないし、食事(塩分)にもあまり気をつかっていない。わらいながら、うす味では、どうも食べられなくて、へへへ、などと言っている。検診のかなめはここらへんだと思った。ここで、びしっと、高血圧の人に、運動、食事、夜更かししない、自覚症状がなくても定期的に健康診断を受け、高血圧に気をつけるよう、言うことだと思った。さもないと、高血圧→糖尿病→動脈硬化→破裂→脳卒中ということになる。
さて、きれいなOLがきた。ので、眼瞼からの診察まではよかったが、ブラウスの上にブレザーをきていたので、ブラウスの上から上肺野を聴診しようと思って、「では、ちょっと胸の音きかせて下さい。」と言ったら、ブレザーのボタンをはずしたのはいいが、ブラウスのボタンも下からはずしだしたので、内心「おわわっ。」と、あせって、「ああっ。そこまではしなくてもいいです。」といったら、ニヤッと笑われ、ベテラン内科医でないことがばれた。内科医なら、男も女も聴診してるから、もう、こだわり、などないのだろうが、精神科二年では、女の胸部聴診は経験がなく、わからない。私は小説家としての自覚と責任感はあっても、内科医としての、その能力はない。しかし、人間として、やっていいことと、いけないことのモラルは人後におちない自信はある。悩ましいOLのブラウスの下なんてものは、写真であれ、ビデオであれ、実体であれ、金を払ってみるべきものであり、金をもらってみるべきものではない。
ちなみに自覚症状の欄、で、「肩こりがひどい」「目がつかれる」の項目には、ほとんどの人がチェックしていて、一日中パソコンの画面をみていると、それも無理はない。だろう。病院リストラされて、コンタクト眼科のバイトもはじめたのだが、コンタクト眼科も深い理論があって実に興味深く、一コトでいうと、角膜は生きて、呼吸している細胞で、コンタクトは、いわばヒフ呼吸をシャダンしてしまう危険性がある。角膜が息苦しい状態なのである。その点メガネは安全である。ので酸素を透過しやすいコンタクトレンズを努力して開発しているのだが、コンタクトである以上、100%安全なコンタクトというのは、ない。コンタクトは手入れが多少メンドーで、手入れしなかったり、また、長く使っていたりすると、よごれてきて、異物がついて、それが抗原になってアレルギー性結膜炎になったりする。そのため、最近は一日使い捨て(ディスポ)や二週間つかいきり、が、主流になってきている。コンタクトの本の中で、瞬目のことがかかれてあったが、涙は角膜をカンソーから守るものであるが、人は一分に何回瞬目するか、意識していない。が、パソコン画面をみている時、人は瞬目回数がぐっと減る。のであるが、そのことは自覚できていない。一日中パソコンと向き合う仕事である以上、目のつかれ、や、肩こり、は、仕事による生理的な疲れである。だからといって、みんな病名をつけて有病者にしてしまっては、これも変である。健康診断というのは、基本的に大多数は健康である、という確認と証明をするものであり、そして、少数の有病者をみつけ出すのが、本来的であり、検診した結果、全員、有病者なんて診断したら、医者の頭を疑われかねない。ので、これには困った。それで「つかれが、翌日までもちこされ、蓄積されていくか。」「整形外科に通院するほどひどい肩こりか。」というように質問し、それにひっかかるほど重症だったら、有病者としようと思った。さもないと全員、有病者になる。有病者の基準を高くすると、さすがにそこまでひっかかる人はぐっと減った。だが、ある人(お客さまセンター)が、ニコニコして、「肩凝りのため整形外科に通院している。つかれが翌日まで持ち越す。」と訴えた。これなら、あてはまると思ったはいいが、精神科という医療の中でも異質的な、専門に、どっぷりつかっていたため、内科は、かなり忘れている。「頸肩腕症候群」と書こうと思ったが、でてこない。しかし、時間をかければ、思い出せる自信もあった。まさか医者にしてこんな基本的な漢字も知らないとあっては、ヤブ医者どころかニセ医者と思われかねない。内心あせりながらも、
「エート。頚肩腕。はっはは。ちょっと、ど忘れしちゃったな。」
といって、カンロクをつくって、時間をかせいでいるうちに思い出そうとしたが、でてこない。むこうも医者に医学用語をおしえることは、はばかられている。しかし、どうしても出てこない。ので、とうとう、相手に、
「頚椎の頚ですよ。」
といわれて、第一語を知れた。第一語がわかれば、連想で全部思い出せると思ったが、第二語も出てこない。
「エーと、けん、は月へんに健康の健だったかなー」
とひとり言のようにいったら、
「肩ですよ。」
といわれ、赤っ恥をかいた。第三語の「わん」もでてこない。
(わん?わん、なんて犬みたいに、どんな字だっけ)
と思っていてたら、
「腕ですよ。」
といわれた。
「はっはは。ど忘れすることもたまにあるんだよなー。」
なんて言ってつくろった。ちなみにこのお客さまセンターの女性は、三浦あや子がいうところの原罪をもっていない人である。

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走れ上松(小説)

2024-02-01 13:13:07 | 小説
「走れ上松」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「走れ上松」

植松聖は在日朝鮮人である。
彼は朝鮮学校を出て私設汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
彼は発達障害なので朝鮮学校の発達障害児クラスに入った。
上松は下手糞な小説を書いていたが将来は芥川賞をとって小説家になれると確信していた。
上松は小説を書くと、それをクラスの皆に読ませた。
上松の書く小説は、つまらなく内容のないものなので誰も褒めなかったが上松は極度の誇大妄想狂なので誰も褒めなかった。しかし彼は、
「どうだ。オレ様の小説は素晴らしいだろう。あっははは」
と高笑いして自慢していた。
それ以外でも上松は何事につけ態度がデカかった。
そのためクラスの誰にも相手にされなかった。
・・・・・・・・・・・
上松と同じ朝鮮学校の発達障害児クラスに佐藤京子という生徒がいた。
彼女も発達障害だった。
佐藤京子は上松に好感を持っていた。
クラスの誰にも相手にされないのに自信満々で威張っている上松が佐藤京子には頼もしく見えたのである。
ある時、佐藤京子は上松の所に行った。そして、
「上松くん。お友達になってくれない」
と言った。上松は、
「おお。いいぜ」
と言って二人は付き合うようになった。
といっても二人の関係は対等ではなく、上松が、佐藤京子に「あれ買ってこい」「あれをしろ、これをしろ」と命令するだけだった。
しかし、佐藤京子には、それが自信に満ちた男のように見えて「素敵。なんて堂々とした人なのかしら」と映って彼女の上松に対する想いは募るばかりであった。
上松も自分に従順な佐藤京子を嫌いではなかった。
というより上松の好きな女性のタイプは自分に忠誠を尽くす女だったので上松は佐藤京子が好きだった。
それに佐藤京子は発達障害で頭は悪いが、とても美人だった。
なにせ韓国女性アイドルグループのNiziUに入らないかと誘われたほどなのである。
上松と佐藤由美子は朝鮮学校を卒業した。
・・・・・・・・・・・
卒業後。
佐藤京子は「上松くん。結婚して」とプロポーズした。
上松は「おお。いいぜ」と答えた。
上松と佐藤京子の結婚式が教会で行われた。
白髪の牧師が聖書を開いて佐藤京子に向かって厳かに言った。
「佐藤京子。汝、この男を夫とし、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
京子は顔を火照らせて言った。
次に牧師は植松聖に向かって厳かに言った。
「植松聖。汝、この女を妻として娶り、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「おう。誓うぜ」
上松は言った。
二人はエンゲージリングを交換し合った。
これで二人は正式に結婚した。
・・・・・・・・・・・・・・
結婚後、上松は個人経営の汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
しかし、それだけでは生活が苦しいので上松の嫁となった上松京子もスーパーのレジで働いた。
上松は不愛想な朝鮮人で日本人を嫌っていたので町の人に会っても挨拶せず横柄な態度だったので町の人からは嫌われていた。
そのため上松は町の人から村八分にされていた。
妻の京子は心の優しい謙虚な人間だったので、一軒一軒まわって、土下座して「主人が横柄な態度をとって申し訳ございません。どうか主人のワガママな態度を許して下さい」と泣いて言った。
「あなたは、いい人だな。あなたのような、いい人がどうして上松なんかと結婚したんだ。あんなヤツとは別れて、もっといい人と結婚したらどうだ?」
と町の人は聞いた。
「わ、私。発達障害なんです。主人と同じように。私も知能障害でない普通の男の人と付き合ったこともあります。でも私は発達障害なので何をやってもドジを踏んでしまって、バカヤロウ、このウスノロ、と叱られ続けられて、つらかったんです。私は足し算も引き算も出来ず九九も覚えられませんでしたから。でも同じ発達障害の夫となら、叱られることがありませんから、私、幸せなんです」
と上松京子は泣きながら言った。
「そうですか。可哀想に。あなたは健気な人だ」
と町の人は京子をなぐさめた。
・・・・・・・・・・・
ある春の日曜日である。
「ねえ。あなた。××神社でお祭りがあるわ。行きましょう」
と京子が言った。
布団の上に寝ころんでいた上松は、「おお。いいぜ」と不愛想に言った。
二人は家を出て××神社に行った。
××神社では色々な出し物をやっていたので二人はそれを見た。
午後5時にお祭りは終わった。
「あなた。お腹が減ったわね。食事しましょう」
と京子が言った。
「おお。いいぜ」
と上松は不愛想に答えた。
二人は近くの中華料理店に入った。
店には誰もいなかった。
上松はメニューを見ていたが、
「オレはラーメンセットにするぜ」
と言った。
ラーメンセットはラーメンとチャーハンのセットだった。
「じゃあ私もラーメンセットにするわ」
と言った。
「おい。親爺。ラーメンセット二人分だ」
上松は厨房にいる親爺に言った。
「はいよ」
10分くらいして親爺はラーメンセットを二人分、テーブルに運んできた。
「うわ。美味しそう。いただきます」
二人はチュルチユルとラーメンセットを食べた。
「美味しかったわね」
食べ終わって京子はニコリと微笑んだ。
金を払って店を出ようと二人は立ち上がった。
そしてレジの所に行った。
京子は、ラーメンセット500円の二人分の1000円札をレジに出した。
そして店を出ようとした。
すると。
「お客さん。料金が足りませんよ。ちゃんと料金を払って下さい」
と言ってきた。
えっ、と京子は驚いた。
「ラーメンセットは500円ですよね。二人分ですから1000円で間違いないのではないでしょうか?」
京子は聞き返した。
「ちゃんとメニューの料金を見たのですか?」
と親爺は聞いてきた。
「ええ。見ましたよ」
そう言って京子はメニューを持って来て開いて見せた。
メニューにはラーメンセット500円と書いてある。
「ほら。間違いないではないですか」
京子は自信をもって言った。
「やれやれ。これが見えないんですか」
と言って親爺はメニューの最後のページを開いた。
最後のページの一番下には非常に小さな字で「料金は朝鮮人は2倍」と但し書きが書かれてあった。
「あんた達は朝鮮人だ。だからラーメンセットの料金は1000円だ。二人分だから、合計2000円だ。さあ。残り1000円払ってもらおうか」
京子はあわてて財布を取り出して中を見た。
財布の中には51円しかなかった。
「おう。そうかい。それじゃあ家に行って1000円、持ってくるぜ」
上松が横柄な口調で言った。
そして二人は店を出ようとした。
すると頬にキズのあるガラの悪い男たちが、3人、出てきた。
おそらくヤクザだろう。
「おっと。待ちな。お前たちがちゃんと1000円、持ってくるという保障はないぜ。何か抵当を置いていってもらうぜ」
そう言われたが抵当になるような物はなかった。
「じゃあ、この女を抵当としてあずかっとくぜ。2時間以内に1000円、持って来な。そうしないと、この女を遊郭に売り飛ばすぜ」
ヤクザが言った。
「く、くそー。わかったぜ。2時間以内に1000円、持ってくるぜ。それまで嫁には手を出すな」
そう言って上松は店を出た。
そして家に向かって走り出した。
上松は村八分にされているので、1000円、貸してくれ、と言っても貸してくれる人はいない。
上松は走りに走った。
家までには、かなりの距離がある。
上松は普段、先天性内反足なので、すぐにハアハアと息が切れた。
その姿を見た人々は、「おい。発達障害の内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
これは、オレを困らせるために町のヤツラが仕組んだ事だと発達障害の上松は気づいた。
上松は走りに走った。
走れメロスのように。
やっとのことで家に着くと上松は豚の貯金箱を叩き割った。
それは妻の京子が、へそくり、としている物だった。
1000円札があった。
上松は1000円札をポケットに突っ込むと急いで家を出た。
「京子。待っていろ。すぐに行くからな」
上松は心の中で言った。
そして中華料理店に向かって走り出した。
それを見た町の人々は「おい。内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
上松は下駄履きだったので走っているうちに下駄の鼻緒が切れてしまった。
切れた時、上松は足首を挫いてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・
その頃、ラーメン屋では京子はパンティー一枚でテーブルの上に乗せられていた。
京子は乳房を見られないように両手で胸を覆っていた。
「ははは。おまえの夫は先天性内反足だ。どう頑張っても2時間以内に1000円もって戻ってくることは出来ないだろうぜ」
そう言ってヤクザ達は京子の髪をいじった。
ヤクザの一人が京子の体に触ろうと手を伸ばすと、
「触らないで。あの人はきっと戻ってきます。私は夫を信じています」
とキッパリと言った。
・・・・・・・・・・・・・・
上松は片方の下駄の鼻緒が切れてしまったので片足は裸足で立ち上がった。
そして内反足の足でヨロヨロと走った。
裸足で走ったので足からは血がにじみ出した。
捻挫した足首の痛みに耐えつつ。
しかし、ついに力尽きて上松は倒れてしまった。
(すまん。京子。オレはもうダメだ。オレを許してくれ)
上松は心の中で、そう言った。
しかし3分くらい、うつ伏せになっているうちに、上松の心に、あきらめてはいけない、京子はオレを信じて待っている、オレは何としても愛する妻を守らねばならない、という強い思いがこみ上げてきた。
上松は歯を食いしばって立ち上がった。
片足が裸足で血をにじませながら内反足の足でヨロヨロと覚束ない足取りで歩き出した。
何回か、つまづいてしまうこともあったが上松は四つん這いになっても這ってラーメン屋に向かった。
初めは上松を笑っていた町の人々も上松に対する気持ちが変わっていった。
「上松。頑張れ。ラーメン屋はあとちょっとだ」
と応援した。
その応援は上松を力づけた。
上松は上着を脱ぎ、ランニングシャツを脱いで、ランニングシャツを裸足の足に巻きつけた。
そして道端にあった棒切れを持って必死になって走った。
・・・・・・・・・・・・・・
「頑張れ。上松」
回りの人々は、みな、上松を応援した。
上松は力の限り走った。
ようやくラーメン屋が見えてきた。
ヤクザ達が腕時計を見て、「さあ。もう1時間59分だ。もう、お前の夫は来れないな」と言った時だった。
ガチャリ。
ラーメン屋の戸が開いた。
上松が息も絶え絶えに入って来た。
入るや否や上松は倒れ伏した。
「さ、さあ。約束の1000円を持ってきたぜ」
そう言うや否や上松はポケットから1000円札をヤクザ達に差し出した。
「あ、あなた」
上松の妻の京子はパンティー一枚の姿でテーブルの上から降りて夫を抱きしめた。
「京子。オレを殴ってくれ。オレは一度、心がくじけそうになって、お前を見捨てようと思ってしまったのだ」
上松はすまなそうに言った。
「いいの。あなた。あなたも私を殴って。私も一度あなたは約束を守ってくれないのではないかと疑ってしまったの」
京子は泣きながら言った。
上松も妻を力強く抱きしめた。
それを見たラーメン屋の親爺やヤクザ達も晴れがましい思いになっていた。
「上松。すまなかった。お前の態度がデカいから、お前に意地悪をしたんだ。お前は約束を守るいい人間だ。悪質な意地悪をした俺たちを許してくれ」
ラーメン屋の親爺が言った。
こうして町の人々は上松を村八分にすることをやめた。
上松と妻の京子は町の人たちと仲良く暮らしている。



2024年2月1日(木)擱筆


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