天気はよかったですが、気温は低く、真冬並みに寒い週末でした。
さて、古い映画やTVドラマの話が続いたので、今日は比較的新しい映画の話です。
『ブルックリン』のDVDをアマゾンで買って観てみました。
テソーラスハウスで、プライベートレッスンを受けていた時の講師のJohnの祖先がアイルランド系ということで、彼の最も好きな女優がシアーシャ・ローナンであり、観るように薦めていた映画が『ブルックリン』だったことを思い出し、何の脈絡もなく、DVDを買ってしまった。
字幕なしでは意味が取れませんが、日本語の字幕だと何の英語の勉強にもなりませんので、英語の字幕で観ました。音声を英語の字幕で確認しながら観る方法が今の自分のレベルに一番合っています。
主演のシアーシャ・ローナンは、僕は『ブルックリン』を観るまで、詳しく知りませんでしたが、新進気鋭の女優として、『TIME』の2016年6月13日号の表紙にも取り上げられています。
『ブルックリン』の話の筋は、あくまで単純で、アイルランドで育った女の子が、人生を変えたいとニューヨークのブルックリンに移り住み、人種や、アイルランド訛りの英語への偏見や、職場の上司の意地悪や、ホームシックや、姉の死などにもめげず、自分の人生を見いだしていく、という話です。
3Dを駆使した超大作ではありませんが、アイルランドの素朴さとある種の野暮ったさ、当時(1950年代初頭)のニューヨークでのアイルランド系移民の状況と同朋愛が静かに描かれている優れた小品です。
主役のレイシーを演じたシアーシャ・ローナンは、この映画で、昨年のオスカー主演女優賞にもノミネートされましたね。(結果としてはオスカーは獲れませんでしたが。)
僕は、どの国のどの人種にも一切の偏見を持っていません。どの国のどの人種に生まれるかは、本人の責任ではない、という単純な理由からです。ただ、その国や民族の歴史やアイディンティティを知ることには強い興味があります。アイルランドは僕の好きな国の一つです。(一番好きな国はニュージーランドです。)
アイルランド人は、もともとアイルランド島の原住民でありながら、長くUK(イギリス)の支配下にありました。農業、牧畜を営む素朴な民だったのですが、1845年に起こった、主な作物であるジャガイモの不作(ジャガイモ飢饉)によって、多くのアイルランド人が新天地を求めて、新大陸に移住しました。アメリカでは、移民としては後発で、WASP(White Anglo-Saxon Protestant)が支配階級を占めていましたので(今でも一部そういうところがあります)命の危険がある警察官、軍人、消防士などの職にしか就くことが出来なかったといいます。
しかし、今やアイルランド系のアメリカ人は 3,600万人(アメリカの人口の実に12%)にも達し、各界で活躍しています。
映画界のアイルランド系アメリカ人だけ取り上げても、父方か母方のどちらかがアイルランド系のミックスブラッドまで含めると、ジョン・ウエイン、ビング・クロスビー、ウオルト・ディズニー、バート・レイノルズ、マーロン・ブランド、グレゴリー・ペック、クリント・イーストウッド、グレース・ケリー、アンソニー・クイン、ショーン・ペン、メル・ギブソン、ジェニファー・コネリー、マット・ディロン、ジャック・ニコルソン、ジョニー・ディップ、ハリソン・フォード、ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ等々、僕が知る限りでも、新旧の著名映画人が目白押しです。
これはご存知の人が多いと思いますが、アイルランド系、あるいはスコットランド系の姓(ファミリー・ネーム)には、「O'」「Mc」「Mac」が付く例が沢山あります。「O'」「Mc」「Mac」はアイルランド・ゲール語(アイルランド語)で「仲間」や「子孫」を著わす接頭語なので、例えば、アイルランドの名優 ピーター・オトゥール(Peter O'Toole)はトゥール(Toole) さんの子孫あるいは仲間、アメリカの政治家のジョン・マケイン(John McCain)はケイン(Cain)さんの子孫あるいは仲間、ということになります。O'Brien (オブライエン)や O'Hara(オハラ) や O'Connor (オコナー)や O'Neal(オニール)Macartney (マッカートニー)や McQueen(マックイン)やMcGuire (マグワイア)等々、例は沢山あります。(同じようなことがアイルランド・ゲール語と類似するスコットランド・ゲール語が話されていたスコットランド系移民の姓にも言えます。例えばハンバーガーのMcDonald(マグドナルド)、GHQ司令官のMacArthur(マッカーサー)等々。)
もちろん、姓に「O'」「Mc」「Mac」をつけていない人も沢山います。また移民後現地風の姓に変えた人も多い。
話が横道に逸れましたが、シアーシャ・ローナンは、アメリカで生まれましたが、両親ともアイルランド人、映画に頻繁に出演するようになってからは、アメリカで主に活動していますが、国籍もアイルランド人です。アイルランド系のJhonが最も好きな女優というだけあって、最もアイリッシュなアイデンティティを持つ若手女優、緑と灰色がかった瞳と素朴な演技が秀逸な女優です。(そういえば『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥールも緑がかった瞳が印象的でした。)
まだ弱冠22歳ですが、13歳の時には、すでに『つぐない』でオスカーの助演女優賞にもノミネートされています。
イギリス系エスタブリッメントが幅を利かしていた1950年代初頭当時のニューヨークでは、現実としては下層階級とみなされ中々仕事にもありつけないアイルランド系移民(『ブルックリン』ではクリスマスに食うや食わずの沢山の労働者を招待して、一夜の食事を提供し、労働者の一人がアイルランド語で歌を歌い、レイシーが涙ぐむシーンがあります。)がなんとも切なく描かれています。
またレイシーのボーイフレンドで、やがて結婚することになる、これも当時のニューヨークではアイルランド系と同じように下層階級とみなされていたイタリア系移民のトニーも、驚くほど真面目で、純朴でレイシーとの愛情を育んでいくのが微笑ましいです。(僕はイタリア系というと人生を楽しめるだけ楽しみ、女の子を引っかけることしか考えていない、というイメージがありましたが(念のため、これは偏見ではありません。単なる僕の個人的なイメージです。)『ブルックリン』でのトニーやその家族の姿は、驚くほと真面目で、地に足がついており、かつ朗らかです。
『ブルックリン』は超大作ではありませんし、上演時間も二時間に満たない映画ですが、ちょっと疲れたときに柔らかく元気をもらえる映画だと思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます