随分寒い日が続いていますね。
僕が英検1級の準備に汲々としていたのは約13年前の2012年頃のことであり、その頃は生成AIなんて言葉すらなく、ひたすら英単語(約15,000語)や句動詞や代表的な構文を暗記していました。英検1級の試験は、大学入試もそうですが、暗記とパターンプラクティスにより正解を選ぶ方式でした。試験の求める水準に達していないから、全員不合格、とするわけにもいかないのです。これは客観的に正誤により点数化し、合否を決定しなければならない、という目的があるからです。
また当時の翻訳ソフトは、例えばGoogle の日英翻訳ソフトは、日本語と英語の言語特性の違いを認識出来ず(例えば日本語には主語がない文章が多く、時制もあいまいで、主格や目的格などは助詞で表すが、英語には助詞がなく、語順で示すなど。)英語から日本語の訳を読むと、吹き出すような、実にへんちゅくりんな訳になっていました。
そこで、12年ほど前は僕はひたすら暗記とパターンプラクティスに明け暮れていました。しかし、12年のうちにAIは幾何級数的に進歩し、今は一番小さい半導体は2ナノメートルになっています。(ナノメートルはミリメートルの百万分の一)指の爪ほどの大きさに500億個ものトランジスタ(半導体は材料に過ぎず、トランジスタは半導体を材料として電子制御を行う部品)を含むほどになっています。
家庭で購入出来る機器としても、50万冊所蔵の図書館と同じ量のデータ(約30テラバイト)が電気ポットほどの大きさのハードディスクに保存され、いつでもデータの取り出し、最適解の抽出が出来るようになっています。人が一生のうちに読む本は、学者やかなり読書家の人でも1年で100冊程度ですから、せいぜい1万冊以内です。その50倍の量が、電気ポットほどの大きさに保存出来るのです。ちなみに、司法試験で覚える六法全集のデータ量は20メガバイト、英単語15,000語のデータ量は、75キロバイトに過ぎません。
しかも電気ポッドほどの大きさは、データを保存するためのサーバーとして必要な容積であり、今や通信技術の発達により、データの取得、加工、最適解の抽出が腕時計ほどの端末で出来るようになっています。僕の学生時代は、インターネットもなく、何か調べものがあると図書館に行ったり、知っている人に尋ねたりするしかなかったのですが、今や50万冊の図書館を腕時計として身に着けている状況です。
また英日、日英の翻訳も、最近はAIが膨大なデータを取り込み、日本語の特殊なパターンを取り込むことにより、ほとんど正確な訳が出来るようになっています。この12年間のAIの進歩は驚異的です。
このような現在の状況下で、英検1級はもちろん、大学入試も、司法試験も腕時計1個の端末を持ち込めばそれで済むので、何年もかけて暗記やパターンプラクティスに励むのは貴重な人生の時間を無駄にするのではないか、時間をかけて英語を学習する意味がああるのだろうか、と思い始めました。(12年前はそんなデバイスはなかったので、致し方なかったのですが。)
生成AIは自ら生み出し、成長することが出来るので、今後ますますその能力は質、量とも高まっつていくでしょう。おそらく翻訳や通訳という仕事も10年後にはなくなっているかもしれません。
また新しい仕組みや製品を考え出す仕事は人間の方がAIよりも勝っているといわれてきましたが、無から有は生まれず、新しい仕組みや製品も今までの既存の仕組みや製品を組み合わせたり統合したりしているものがほとんどのため(例えば電気自動車は自動車工学と電子工学と通信工学の合体にすぎない)いずれAIが学び、人間の先を行くことになるでしょう。
最後に残った人間の感情や感性や共感などのヒューマンタッチの部分ですが、人間の脳では記憶や記憶の保存は脳の神経細胞の電気信号、感情や感性や共感の部分は生物体としての化学物質(脳内ホルモン)が関わっているとされており、化学物質も分子の集合体なので、やがてAIが生成出来る可能性があります。
しかし、それには更なる半導体の極小化が必要であり、現在の半導体の極小化はほぼ限界の分子レベルの大きさに達しているので、さらにAIの性能を高めるには量子コンピュータなどのブレイクスルーが必要です。
量子コンピュータの研究も世界中で進んでいますが、世界最大のAI関連企業のエヌビディアのジェンセン・ファオCEOが新年のアナリストへの説明会で「量子コンピュータの実用化には最低10年、長ければ20年かかる。」と言っているとおり、ここ数年のうちに、人間の感性や感情、共感の部分はAIに取って代わられることはない、と僕は考えます。また生成AIの進歩の分野はかなり偏っており、これだけロボット化が進んでも、福島第一原発事故で発生した燃料デブリを取り除くことすら、震災から13年かけてもまだほとんど出来ません。(さらにもう30年かかると言われている。)
僕がかつて色々経験したことですが、英語でビジネスの商談を行う場合、翻訳機を相手に契約をするわけではありません。相手が信頼出来るか、誠実か、共感出来るかによって契約をします。その際、英語が現在の翻訳機のように100%正確である必要はなく、自らの人間性の問題になってきます。そこの部分はまだまだAIでは出来ないところだと思います。感性や感情、共感(トータルとしての人間性)を表現するるコミュニケーションの手段として、英語の学習は続けたいと思います。