5月27日、オバマ大統領が広島を訪れ、17分間のスピーチをしました。
翌日28日の新聞各紙も第一面でそのことを伝えていました。
原爆投下後、71年目にしてようやく、という感は否めませんが、歴史的な出来事であることは間違いないと思います。僕のブログは政治問題を取り扱っているのではなく、一介の中高年の英語学習記録ですから、あまり深く、詳細は触れません。が、僕は幸いにして自身の戦争体験はありませんが、父方の祖父を大阪大空襲で亡くしており(ですから僕は父方の祖父の顔も知らない)、中東紛争の最中にヨルダンに出張し、首都アンマン近郊で、戦争から逃れてくる何十万人という避難民の言語に絶する悲惨な姿を目にし、戦争とは悲惨さ以外何も生まないものだ、ということを肌で感じ、その戦争の最大、最終手段である核兵器にも強い嫌悪感を持っています。
その中で、オバマ大統領の被爆地 広島でのスピーチの内容は感動的でした。しかし、なぜプラハの演説から7年も経って、退任間際の今頃になって、という感は否めません。また、スピーチの翌日の新聞に掲載されているスピーチの英文を全文読みましたが、反戦思想家としてのスピーチであるならば、文章も詩的で情感に富み、優れていると思いますが、世界で最も権力のある政治家のスピーチとしてはやや具体性(平和世界の実現に向けての具体的施策)に欠けている印象を受けました。
僕が最も印象的だったのは、スピーチのあとオバマ大統領が原水爆被害者団体協議会(被団協)の坪井代表委員と歴史研究家の森さん(森さんも被爆者)に歩み寄り、坪井さんと会話を交わした時の坪井さんのオバマ大統領に対する言葉です。『 あなたはノーベル平和賞までもらったのだから、これから遊んでいてはだめですよ。』
坪井さんは91歳。71年前の20歳の時に爆心地からおよそ1kmの地点で被爆し、全身に大やけどを負いました。それからの71年間この方はどれほどの苦痛を経験されてきたのだろう。僕などの想像をはるかに超える艱難をご経験されたことと思います。しかし、オバマ大統領に自らの苦悩や謝罪要求をぶつけるのではなく、またオバマ大統領の広島来訪に媚びることもなく、さらりとむしろ半ばジョークのように『 あなたはノーベル平和賞までもらったのだから、これから遊んでいてはだめですよ。』と言ってのけるその心の広さ。
また、民間歴史家である森さんは、日本で撃ち落とされ、捕虜となって、広島の憲兵隊本部に収監され、被爆し亡くなった米軍機のアメリカ人搭乗員12名のアメリカに残された遺族と連絡を取るため、サラリーマン生活の傍ら、ほとんどお一人で活動されてきた方です。当初、アメリカ大使館やアメリカ政府に問い合わせても(原子爆弾でアメリカ市民が亡くなったということを隠蔽したいためか)まったく無視されたという。森さんは亡くなった12人のファミリーネームだけを頼りにアメリカの各州の電話帖を頼りに探し続けたといいます。今では12人の遺族全員と連絡がついて森さんと厚い交友関係にあるとききます。
森さんの活動も坪井さんのオバマ大統領への言葉とともに、感動的だと思います。戦争は敵、味方にかかわらず、人を不幸にする。森さん自身も被爆されたので、アメリカには恨みや言いたいこともたくさんあると思いますが、敵味方なく憎むべきは戦争だ、というメッセージが伝わってきます。
今日(5月29日)、テソーラスハウスに行って、先週に引き続きプライベートレッスンを受けてきました。先週は病気のためレッスン出来なかったアメリカ人のJohnが先生です。先週は彼が先生ではなかったので、彼からの宿題は無かったですが、いつも冒頭まずカレント・イシューを話すことにしています。今、各紙1面で最も報道されていることはオバマ大統領の広島訪問ですから、英文スピーチ全文を持参し、難しい単語は調べ上げたうえで、Johnと議論しました。
典型的なアメリカ人の彼と日本人の僕が広島の原爆投下に関することに対して議論することはかなりデリケートで(どうしても私の方が感情的になるので)英語のレッスンとしては出来れば避けたほうがよい話題ですが、オバマ大統領のスピーチの感想を求められたので、かまわず私の個人的な考えだという前提で、『スピーチは詩的で情感があり、心を打つものがある。またオバマ大統領はスピーチの名手だと思う。しかし世界で最もパワーのある国のリーダーとしては、具体的なアクションプランに欠けるのではないか。またオバマ大統領は平和を希求しながら、いつも出張の時は、同行する側近に黒いアタッシュケースを持たせている。そのアタッシュケースの中には核弾頭発射のスイッチが仕込まれている。さらにアメリカではピンポイント攻撃用に(民間人を殺傷したと国際世論から非難されないために)広島に投下された原子爆弾の10分の1の威力の核兵器の開発と運用に今後10年で30兆円もの国家予算をつけている。日本には吉田松陰の知行合一という言葉がある。周辺状況(北朝鮮やロシアの核拡散の動き)に対する抑止の面もあるのは理解出来なくはないが、オバマ大統領は優れたThinkerではあっても、リーダーとしては知行合一に欠けるのではないか?』と思ったとおりのことを言いました。
Johnは、日本および北朝鮮、台湾の政治、国際関係を学ぶために日本に留学しただけあって、吉田松陰のことも(おそらく私より詳しく)知っており、自国の大統領をかばうでもなく、『そうなんだよな。オバマ大統領は今までずっとそうだ。』と言っていました。さらに私は坪井さんと森さんに感動したことも伝えました。
来週もテソーラスハウスに行きます。僕が『出来るだけ厳しい先生であってくれ。』と要望しましたので、たんまり宿題をもらいました。