第2話
『あなたに寄生したい!! 高等遊民に恋出来ますか?』
本日2回目のデート。
八景島シーパラダイスの入り口には
山登りにでも行くような格好をした依子。
それを見た巧は引く。
が、引けない理由があるため、いざ依子の元へ!!
まずはレストランで食事。
「本来なら今日は結婚の契約内容を協議し
締結まで進める予定でしたのに、
このようなデートという事態になってしまい申し訳ありません。」
「いえ、いいんです。」
「事情は電話でお話しした通りなんです。
私自身は直ちに結婚することに何の不安もないので
非常に不本意なのですが仕方ありません。
デートなんてさぞ苦痛でしょうがお許し下さい。」
「いや、別に、苦痛ってほどじゃ・・・」
「私は苦痛です!! 正直にいきましょう。」
「・・・苦痛です。」
「本日はその苦痛を少しでも克服することが目的です。
頑張りましょう。」
何故こんな流れになったのかは5日前に遡る。
依子父が好きでもない人と結婚するのが分からないと言った。
泣きながら父に言われたため依子も考えた。
前回は自分を良く見せようとしたのが苦痛の原因だったと分析。
もっと自然体でデートをすれば若干楽しめる可能性があるはずと。
「次の日曜日、もう一度谷口さんとデートを行い
楽しむということに挑戦してみる。」
「挑戦?」
「その辺の頭の悪い凡庸なカップルたちと同様に
デートをしてはしゃげばお父さんは満足なんでしょう。」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
「私が目標に向かって努力を惜しまない人間だということを
お父さんはよく知っているはずよ。
私と谷口さんの相性に問題がないということを証明してみせるわ。
あっ! 念のため言っておくけど、
もう鷲尾さんを偵察によこしたりはしないで。
心配ならリポートとして原則的に
30分に一度のペースでメールを送り状況報告します。
それなら安心でしょ?
そこでお父さんはデートを思う存分楽しんでいる
私の姿を見ることになるでしょう!!」
で、現在。 人ごみを見た巧と依子は躊躇する。
取り敢えず父へ報告のための写真を撮る。
入場した途端、地面に膝をつく巧。
「すいません。 ちょっと人混みに酔ってしまったようで・・・」
「まだ入場して15mです。
ここから先が本格的なテーマパークですよ。」
「地獄絵図のようだ。」
「気を確かに!!」
「苦手なんです。 ああいう下品な子供や民度が低そうなカップルが。」
「分かります。 人生を浪費している人々の吹き溜まりのように思えます。」
「やはりお互い苦手な場所でしたね。」
難易度が高いなら場所を変えてもいいという
依子の言葉に心を動かされそうになった巧。
しかし今日はこの場所を変えることは出来なかった。
ポケットの中には指輪のケース。
6時半にこの場所で計画していることがあるからだ。
「『苦難も通り過ぎてしまえば甘美なもの』 by.ゲーテ。
ここで逃げちゃ駄目です。」
「谷口さん・・・」
「このテーマパークを楽しむことが出来たらもう怖いものはありません。」
「ですが・・・」
「お父さんに納得してもらうためでしょう?」
「感謝申し上げます。」
「必ずや・・・このテーマパークを楽しんでみせる。
いざ行かん! 我ら戦場へ!!」
「はい!!」
しかし来たこともないテーマパークでどうしたらいいか分からない2人。
その時、いちゃついてるカップルを見つけ彼らを手本とすることに。
何故かダブルデートのように(笑)
デート5日前、巧は依子から連絡を受け、
父親が心配してるとのことを聞かされる。
「結婚を急がなければならない理由もありませんし、
ここはデートを積み重ねながらお互いのことをよく知り合い、
一緒にいて楽しいと思えるかどうかを確かめてから
結婚に踏み切った方がよいのではないかと。」
これを聞いた巧は慌てて宗太郎&佳織兄妹のところへ駆け込んだ。
一気に結婚に持ち込むしかないとプロポーズすることに。
デートを続ける2人。
巧はなんだかんだ満喫してるような気もするが、
依子は一向に楽しくならないようで・・・
依子は鷲尾から巧のことを調査した方がいいと言われていたが、
知りたいことは本人に聞くとキッパリ断っていた。
が、鷲尾は勝手に巧の調査を始めた。
一方、巧もこのまま隠し通すつもりはなかった。
出版社勤務と騙してたことを謝り、その後、
宗太郎&佳織プロデュースのプロポーズをする予定。
ポケットの中の指輪は母から貰ったお金で買った物。
日が暮れてカップルと別れた2人。
もう少し話をしないかと巧に誘われ座る依子。
もうすぐ6時半。
「大事な話があります。」
「なんでしょう。」
「ちょっと言いづらいことなんですが・・・」
「仰って下さい。」
「実は僕の生き方についてなんですが・・・」
そこへ鷲尾登場。
巧のことを調べたと、依子を騙してたのかと詰め寄る。
しかし巧は時間が差し迫っていてパニックになり、
自分のことをぶちまけ始めた。
「そうだよ! 僕は無職だよ。
藪下さん。 ぼ、僕は無職なんです。」
「では出版社は辞められたんですか?」
「辞めたわけではなくて。」
「倒産ですか。 今出版業界は厳しいと聞きますし。」
「違うんです。 出版社にいたことはないんです。」
「ではこれまではどのような仕事を?」
「だから仕事はしてないんです。」
「いつ頃から?」
「ずっとです。」
「ずっとって?」
「ずっとです。 生まれてこの方。
藪下さん、僕は高等遊民なんだ。」
「はい?」
「高等遊民? 何だそれ。」
「明治から昭和初期にかけてよく使われていた言葉だ。
高等教育を受けながらも職に就かず読書などをして過ごす人のことで、
漱石の『それから』における長井代助、
『こころ』における先生などがその代表例だ。」
「読書などをして過ごす・・・そうなると収入は?」
「ありません。」
「どうやって生活してるんだ?」
「衣食住は実家にいるので困らない。
殆ど外出もしないので遊興費もかからない。
金が必要な時は母に出してもらっている。」
「それってニートだよな。 あんたニートなんだな?」
「高等遊民だ。」
「ニートだろ。」
「改めて聞きますが健康なんですよね?」
「健康です。」
「病気や障害があるわけでは―」
「ありません。」
「それでも働かないんですか?」
「働かないんです。」
「何か勉強されているとか。
司法試験とか資格を取得するためとか。」
「いや、してません。」
「将来の夢があるんですね? 芸術とかそういった分野の。」
「ありません。」
「じゃあ普段何をしてるんだよ。」
「だから家で読書や映画、音楽鑑賞をし教養を深めているんだよ!」
「それをニートの引きこもりって言うんだろ!」
「高等遊民だって言ってんだろうが!」
「つまり自ら進んで高等遊民という生き方を選択しているということですか?」
「さすが藪下さん。 その通りです。」
「そんな生き方の何がいいんだ。」
「ああ君のような教養のない人間にはどうせ理解出来ないだろうよ。」
「調べてよかった。 依子さん、こいつ予想以上の危ないやつですよ。」
「お前は関係ないんだから黙ってろよ!!」
その時、突然音楽が鳴り出し踊りながら出て来る人たち。
「クソッ・・・藪下さん、時間がないんで聞いてて下さい。」
「ニートのくせに結婚なんて出来るわけないだろ。」
「だから黙ってろって!
藪下さん、嘘を書いてしまったことは悪かったと思っています。」
「悪かったで済むか? 結婚詐欺だぞ!」
「だからお前は黙ってろって! 僕のパートが来ちゃうじゃないか!」
「えっ?」
そして自分のパートが来て踊り出す巧。
「藪下さん、あれは友達が勝手に書いて出しちゃったものなんです。
でもすぐに訂正しなかったことは謝ります。
でも高等遊民というのは高尚な生き方なんです。
藪下さんなら僕の生き方をちゃんと理解してくれると思うんですが。
駆け足で説明しますからね、よく聞いてて下さい。
僕の生活は母が自宅で開いている
美術教室の僅かな収入から成り立っています。
家や土地はもう抵当に入っていて僕が将来相続できる資産はゼロに等しい。
つまり母にもしものことがあったら
その時点で僕の生活は破綻を迎えてしまうんです。
そして母は原因不明の体調不良で
もうそのカウントダウンは始まっているんです。
僕は一体どうしたらいいのか途方に暮れました。」
「働けばいいだろ。」
「来る日も来る日も考えそしてある結論に達した。」
「働くしかない。」
「母に代わって寄生する相手を手に入れるしかない。」
「何でそうなるんだ!」
「そしてそれは妻という存在であろうと。」
「違う! 働け!」
「藪下さん僕はあなたの資料を見た時ビビッときた。
この人だって思った。
結婚後も働くことを望んでいて
国家公務員だから福利厚生もシッカリしてるしリストラも倒産もない。
給料も安定してる。
寄生するならもうこの人しかいないと思ったんだ!
藪下さん、僕と結婚して下さい!!」
説明しながら打ち合わせ通りに踊った後、指輪を出してプロポーズ。
「すいません。 この方々はなんなんですか?」
「多分、フラッシュモブ・プロポーズですね。
こういうやり方が流行ってるんです。
この人たち、みんな仕込みです。」
「なるほど。
つまり谷口さんは今私に求婚されているということですね?」
「はっ、はい。
ちょっと中途半端に踊り始めちゃったんで
上手く伝わってないかもしれないけど。」
「いいや、伝わったよ。
お母さんの代わりに依子さんに寄生させてくれって言ってんだろ?
そんなプロポーズあるかよ。」
「お前は関係ないだろ。」
「働けばいいだけのことだろ。」
「お前な、働け働けって簡単に言うけどな、
僕は四捨五入したら40だぞ?
今更何の仕事が出来るっていうんだよ。」
「その気になれば何だって出来る。」
「お前、仕事というものはな、
そんな甘っちょろいもんじゃないんだよ。 仕事をなめるな!」
「それは仕事をしてるやつが言う台詞だ。 何で働かないんだ!」
「それが高等遊民の矜持だ。 藪下さんお願いです。
僕と結婚して僕を養って下さい。 お願いします。」
「谷口さん、あなたの生き方、考え方は理解出来ました。」
「あなたなら分かってくれると思ってました。」
「お断りします。」
「よし!」
「理解は出来ますが認められません。
あなたの考え方は根本的に間違っています。
社会のシステムからすればエラーです。」
「エラー?」
「エラーは直ちに修正しなければならないのにあなたにはその意思すらない。
人生は目標に向かって努力することに価値があるはずです。
それこそが喜びです。
でもあなたにはそのような向上心もない。」
「そうだ。 ただ楽をすることしか考えてない。」
「進んで人生の敗北者になっています。」
「負け犬だ、負け犬。」
「あなたは自分本位の価値観の中でのみ生きていて
社会の一員であるという概念がない。
人はすべからく社会に貢献するべきです。」
「その通り。」
「また私が結婚を望むのは父に親孝行したいという動機もありますが
あなたにはそれもない。
それどころか病気のお母さまをさっさと見捨てようとしている。」
「最低だ。」
「私はあなたを軽蔑します。」
「軽蔑してもいいです。 それと結婚は無関係だ。
結婚は契約だから軽蔑してても契約ぐらい結べるはず―」
「結べるわけないでしょ。
あなたには契約を結ぶ資格がありません。
本日をもって交際は終わりです。」
「当然だな。」
そこへ宗太郎と佳織が巧をフォローしに来た。
「あのさ、気持ちは分かるけどそんな言い方ないんじゃないかな?」
「こいつなりに一生懸命踊ったんだしさ。」
「一生懸命踊ったのだからプロポーズを受けろと仰るんですか?」
「そういうわけじゃねえけど・・・一番苦しいのはこいつなんだよ。」
「お母さんのことも一番心配してたのは巧くんで・・・」
「だったらそんな生き方やめて働けばいいじゃないか。 そうだろ?」
「まあね。」
至極ご尤もな意見に何も言えなくなる兄妹。
「その通りだよ。
君たちの言ってることは何もかも正論だよ。 理屈ではね。
僕は確かに負け犬で駄目人間かもしれない。
でも負け犬で何がいけないっていうんだ?
君たちの言ってることは全部理屈だ。
社会に貢献しなくたって親孝行しなくたって別にいいじゃないか。
僕に言わせればな、
君たちこそ現代の貧相な価値観に凝り固まった哀れな人種だよ。
人間にはな、色んな生き方があったっていいんだ。
明治から昭和初期にかけて
働かずに教養を磨く高等遊民という生き方が認められていたんだよ。」
「今は平成だ。」
「それが理屈だっていうんだよ!
女性が結婚して家庭に入ることを永久就職と言った。
永久就職が決まった女性はみんな祝福して送り出したはずだろ?
女には外で働かないという選択肢が立派に与えられてる・・・
何で男には与えられないんだ。
男が永久就職したっていいじゃないか。 」
「えっ?」
「現に妻が外で働き夫が専業主夫となって家庭を守る。
そういう形態の夫婦は沢山いるぞ。
君はそれを否定するのか?」
「妻を支えるために家庭を守るのと、
初めから寄生するために結婚するのとは根本的に違うだろ。」
「どう違うんだよ! 説明しろよ!
汗水垂らして働いて金を稼ぐことも確かに立派だろう。
だがな、金儲けをせず世俗を離れて生きることも
また尊いはずだ! 違うか!
人の生き方にエラーなんてものはないんだ!
幸せは人の基準で決めるもんじゃないんだ!
君たちがな、善だの正義だのと言ってることはな、
所詮、世間がつくった倫理観の受け売りにすぎないんだよ!
『善とは家畜の群れのような人間と
去就を同じうする道にすぎない』 by.森鴎外!
何か反論があるなら言ってみろよ!」
「この指輪はどうやって購入したんですか?」
「母に出してもらったんだ!」
「お母さまに婚約指輪を買ってもらって恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしくない!」
「40にもなって。」
「まだ35だ!」
「お母さん死にかけなのに。」
「死にかけは言い過ぎです。」
「その服もその靴も全部お母さまのお金で買ったものでしょ?」
「そうだ!」
「お昼のお店でもう払っておきましたみたいな
かっこいい感じで支払ったのも全部お母さまのお金なんでしょ!」
「そうだ! 悪いか!」
「やっぱり半額支払います。」
「おう払え! 払え!」
「4,280円の半分で 2,140円。」
「はい確かに。」
「本日はありがとうございました。」
デートは終了、バックダンサーも解散。
「依子さん、やっぱり結婚で大事なのは愛情です。
愛する人を幸せにしたいという情熱です。」
が、巧はまだ食い下がる。
「待って下さい。 や、藪下さん。
あの・・・さっきは感情的になってしまいました。」
「また来たのか。」
「もう一度、日を改めて冷静に話し合うっていうのは・・・」
「もう充分だと思います。」
「僕は結婚出来なかったら死んじゃうんだよ。」
「死んじゃえばいいと思います。」
「君だって結婚したいでしょ?」
「あなた以外と。」
「僕なら君の仕事を全力で応援するぞ。
家事や育児は任してくれ。 家庭はガッチリと守る。
毎月ほんの少しの小遣いをもらえればそれでいい。 ほんの少しだ。
酒はあまり飲めないしギャンブルもやらない。
キャバクラも行かないしそもそも外を出歩かない。
ホントに金がかからないんだ。
月に1回の散髪と本とDVDが買えればそれでいい!
あと偶にフィギュアも・・・」
「発進します。」
「お願いだお願いだ。 僕を助けて・・・助けてよ!」
「人間は色々な生き方があっていい。
あなたの言う通りかもしれません。
あなたの生き方を認めてくれる女性もきっといるでしょう。
でも私は無理です。」
「どうしても?」
「間違いなく父がまた泣くから。 お幸せに。」
うん、あたしも無理(笑)
前回も言ったように今の時代、
主夫もいるから妻の給料でやっていけるならいいと思う。
そういう夫婦の形もある。
けど巧の場合はちょっと違うからね~。
そもそも主夫出来ないだろうし。
フラッシュモブには笑わせてもらったよ。
しかし鷲尾がウザイな(-_-;)
正直、いなくてもいいと思う。
第1話
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