▼米国の俳優トミー・リー・ジョーンズさんがテレビに出ると、缶コーヒーのコマーシャルとわかるほど馴染みとなった。昨日テレビを見ていて驚いたのが、そのコマーシャルに石川さゆりさんが「津軽海峡冬景色」を歌って登場し、さらに北島三郎さんが「函館の人」を歌い、海底トンネルを抜け出てくる新幹線に向かい、敬礼して迎えるというものだ。
▼歌手をめざし函館から連絡船で津軽海峡を渡り、夜汽車で上野駅に降り立った北島さん。苦労の末に日本一の演歌歌手になった。1964年(昭和39年)、日本で初めて新幹線が走ってから、52年目の今年3月26日、♪はるばる来たぜ函館♪に、当時夢と呼ばれた新幹線がやってくる。北島さんの敬礼姿に、難工事だった海底トンネルでの犠牲者たちへの思いも伝わって来て、思わず胸が熱くなる。高倉健さんが生きていれば、鉄道員役で起用したかもしれないが、やはりこのコマーシャルには、苦労人のサブちゃんがいい。「サブちゃん、健さんよりずっとカッコイイ」と、テレビに向かって叫んだ私だ。
▼そんな新幹線に乗ってやってくるのは、北海道の未来を背負った夢ばかりだろうか。広大な大地・北海道に有害な様々な「種」も混じっていやしないだろうか。3日の北海道新聞朝刊は、あの「ホリエモン」こと、堀江貴文さんが、十勝の大樹町の町民になったと報じている。大樹町には、以前から宇宙航空研究所開発機構(JAXA)がある。そこにはホリエモンの会社がロケット開発している。今年のニュースだが、ここに種子島のようなロケット発射場を建設する計画が浮上した。ホリエモンが住民票を移した理由は「おもしろそうだから」とし、大樹町もホリエモンの事業を支援したいと手放しの歓迎ぶりだ。
▼現在は宇宙開発に関する平和的利用のためのロケットだが、安保関連法案が成立した今日、一朝有事となれば武器への転換が可能になる。北朝鮮が宇宙観測のためのロケットの打ち上げと言っても、世界が軍事ロケットの発射訓練だと反対するのと同じだ。世界中で戦争が多発すれば、儲けるのは武器産業だ。武器の製造・輸出もOKの我が国だ。宇宙への広大な夢の実現には、平和利用という大義名分の裏に、膨大な金を生むシステムの開発という側面が隠れているのではないだろうか。
▼最近話題となったテレビ・ドラマ「下町のロケット」も、小さな工場で世界一優秀な部品が作られるという、我が国の技術力の高さが話題となる。そこには世界一優秀な武器としてのロケットが、我が国ではすでに開発されているということも、証明されたということではないだろうか。
▼新幹線の話が脱線しかけたが、今、函館の街中や新幹線の新駅がある北斗市や木古内町は、新幹線歓迎ムード一色である。だが、プル・サーマル方式(MOX燃料)の高浜原発も再稼働した。いよいよ方式が同じ泊原発の再稼働も視野に入ったようだ。さらに、ムネオさんの新党大地が、自民党との選挙協力に出て、ムネオさんの長女(現・道民主党副代表)の自民への移籍も注目されている。ムネオさんの後ろには、アベ総理の強力なバックアップがある。
▼「まもなく北海道に新幹線がやってくる」。やって来るのは観光客ばかりではない。我が国に新幹線が走ってから半世紀を過ぎたが、そのスピードに置き去りにされたものに、我が国が世界に誇れる「スピリッツ」が多くあったような気がしてならない。
▼「長年の懸案であった鉄道が、この出雲にも敷かれることになったなら、やがて平凡な一都市へと変貌を遂げることになるだろう。出雲だけではなく日本国中から、昔ながらの安らぎと趣が消えてゆく運命のような気がする」と言ったのは、日本という国と恋に落ち、そのすべてを抱きしめ、この恋人がやがて心変わりすることを予感していた、小泉八雲だ。・・・中村良夫著「風景からのまちづくり」より。
▼長く親しまれた北海道の標語「試される大地・北海道」。はるみ知事はこの標語が嫌いらしく変えようとしている。だがこの標語が、北海道新幹線開業にあたって、明治時代の小泉八雲が道民に伝えるメッセージのような気がするのは、私の思いすぎだろうか。