▼前回の函館市長選は、京大卒の市長に、1歳下の早大卒の副市長が挑んだ。「函館湾・仁義なき戦い」の様相を呈したが、政治手法はお互い役人出身だったので、公約の違いで結果が出たわけではなかったように思う。おとなしい性格とそうでない性格、その差が実効力というイメージに置き換わった、以外に単純な選挙だったように思う。今の市政は、行政出身の市長が連続3人、職についている。国際海洋都市を目指す「ハイカラ開港都市・ハコダテ」としては、ちょっぴり地味な市長の連続のようにも感じる。
▼ 函館市の津軽海峡の対岸に建設中の大間原発。1期目の工藤函館市長は、市議会の全会派をまとめ、自治体初の建設差し止め訴訟を国に起した。全会派一致を取り付けたのは「建設反対」ではなく「建設凍結」という文言にしたからだという。自公の市議がいる中で合意を取り付けたのは、市議会対策に長けた、大幹部を登用したからだともいわれている。一般的には市長に苦言を呈する共産党も、原発問題では翼賛状態というのも、戸惑う市民も少なからずいるはずだ。
▼米軍基地問題で国と対立している沖縄県。国家安全保障に関する問題が、一県が国に勝てるかと思っている国民もいるだろう。特に年齢が高くなるほど(戦前生まれ)、国家のほうが国民より上位に位置すると思っている人のほうが、多いような気もする。私の属する函館市町会連合会も、年齢が高いほど、国策であるエネルギー政策に、市が提訴して勝てはしないだろうと、口には出さぬが思っている会長さんも少なくないような気がする。
▼ 市町連が実施した大間原発反対署名運動。函館市が提訴したのだから、市民も一丸となって協力するという体制に見えたが、実際、私が運動の事務局長として市内各団体を訪問して感じたのは、拒否感を示す団体もいたのだ。その団体を公表すると、少なくとも市長選挙に影響するので“市町連秘密保護法適用”としたい。
▼ 市民の中では、原発訴訟についても反対の意見があるはずだが、市が提訴したことで、表面きって話すことがはばかれるという閉塞感もあるはずだ。そんな雰囲気の中で、市長選は対抗馬なしと思われたが、出身地は道内だが、函館中部高校から慶応大学に進んだ元衆議員秘書の広田氏が立候補した。現市長(早大)VS対抗馬(慶大)の、函館・早慶戦の始まりである。その衆議員議員というのが、今は人気下降中だが、次期の民主党エースといわれる細野豪志だという。ちょっぴり盛り上がりそうな雰囲気が出てきた。
▼ とはいっても、知略と豪腕に長けた工藤市長には一刀両断に切って捨てられよう。いまや函館山より人気の高そうな工藤市長だ。もし大間原発が敗訴となっても、自らヘリコプターを運転し、大間原発に突っ込むのではないかと、私にも夢を見せそうな勢いの工藤市長だからだ。
▼ だが、新聞での広田氏の主張は「大間原発訴訟など取り下げて、国と話し合うことが必要だ」と豪語する。沖縄県知事のように国と戦っても、地域振興にとって何のプラスもないのではないか、それとも国と対等に話し合いをするのが市民にとって、最もよい判断ではないかというものだ。敵も然る者だ。原発訴訟取り下げという、随分思い切った戦略に出たものだ。
▼ 工藤市長は「控訴を取り下げるとは、原発推進ではないか」と、猛牛のように怒りをあらわにする。有権者としては「国策とは何か」ということを問う、知的な論戦を期待したい。アベ政権がこのまま持続すると「九条改正」という、国柄を変更しなければならない「踏み絵」を、国民は強いられることになる。その前哨戦として、函館市長選は今までの市長選にない「政治哲学」を期待している私だ。
▼函館・早慶戦。勝ち負けではない「政治とは何か」という、レベルの高い論戦に期待したいものである。団塊の世代である私は、新幹線が来ることだけが、地域振興ではないような気がするからだ。