友達のバイクで蒸し暑い町を抜け出した。
夕暮れを追いかける風のように走る。
緑色に波打つ丘はどこまでも広がる。
葡萄畑とオリーブ畑を抜け、いくつかの小さな集落を通り越し、
バイクは風を受け、波を切って走る船のように進む。
立ち寄った小さな小さな村で夕日を見送る事にした。
小さな集落のすぐ外には美しい畑が広がる。
あ、葡萄が色づき始めてる。
風の音と鳥の声しかしない。
ずっとそれを見ている私に、何を考えてるの?と友が問う。
何も。
友は驚いた顔をして、しばらく考えて、
それはZENの境地かい?とまた問う。
うん、まぁ、と曖昧に答える言葉も風になって消えてく。
ねえだって、
木々もけものも空も大地も風も静かに息をして
こんなに安らかに生きている。
なんて美しい世界だろう。
この安息を壊すなら私の声などいらないよ。
私の思いも、存在さえも。
風のように姿をなくして
ただじっとこの景色に寄り添っていたいと思うのでした。