goo

イングランドは霙もよう




金曜日の夜、映画『シャレード』(63年)を見ていると、あらためて衣装の良さに感嘆。

自分が若かった80年代には時代が近すぎたせいだろうか、素敵だなとは思ったものの...
が、2021年に入り、初っ端から何度もポーズを繰り返し、ヘプバーンとジバンシーのファッションブックを購入、その次はあれよあれよと懐かしいメロディーの世界にずぶずぶとはまり込んでいった。

ヘンリー・マンシーニの『シャレード』テーマ曲から、ニーノ・ロータ、次にポール・モーリア、果ては『私だけの十字架』(特捜最前線)、『面影』(Gメン75’)まで行きつき、泣きたくなるような懐かしさを大阪の親友と語り合っているうち、イングランドは霙(みぞれ)の朝を迎えた。

イングランドは3回めのロックダウン中で、外出もできず、旅行などもってのほか。3月予定のマヨルカ・メノルカ旅行は無理かも...
友達は「移動はあと1年、いや2年は無理なんじゃない」などと言うし、気持ちはどんどん過去のファンタスティックな部分に向かっていく。

それも楽しくていいのだが、なにごとにもバランスが肝心だ。
昼すぎに起きたら、イングランドの空はつかの間、晴れ上がっていた。水滴を反射した冬の光のその明るさに心躍り、7ヶ月後の夏休みの旅行の計画を立て始めた。

7ヶ月後の世界はどうなっているだろうか。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

図書館という宇宙、その香り




図書館や本屋の匂いが好きな人、挙手。

アッシュールバニパルの図書館(紀元前7世紀、現ニネヴェ・現イラク)や、アレクサンドリアの図書館(紀元前3世紀、現エジプト)。

ボルヘスのバベルの図書館や、それをオマージュしたエーコの迷宮図書館。

世界各地にある、あるいは大学付属の、いとも美しい図書館。
例えばこちらでhttps://www.theguardian.com/artanddesign/gallery/2018/jul/31/libraries-world-most-beautiful-in-pictures

ハリー・ポッターでモデルになったポルトの本屋や、パリのアーケードにある本屋、大学街の古本屋、近所の、駅前の本屋。

個人的には、神戸元町の今はなき海運堂や、三宮のジュンク堂書店、昔々、阪急御影の駅前にあった小さい本屋をも思い出す。


本屋に入ると便意をもよおす現象は「青木まりこ現象」として名高い。
図書館や本屋のあのめくるめく香りの正体はなんなんでしょうね...

小さい子供は、本屋以外にも玩具屋などで便意を催しがちであるので、そういう子供を育てた経験からして、ワクワク感の急激な増幅と、ワクワク感を誘ってくる品物の数が多すぎるがために逆に渇望を感じる(遊んでいる時間が足りない! というあせり)ことや、「印刷物の匂い」が、脳の中で「便意」と隣接しているのでは...と思っている(笑)。


新しい紙とインクの、古紙の、ほこりの、木材の、塗料の、カビの、匂い。

この字面を見ているだけでトイレを連想したあなたは重症ですよ(笑)。

上の写真は、その名も「図書館」という名のルーム・キャンドル。
本屋の匂いそのままではないので安心して。

いわば、古代図書館はこういう香りだったのでは? という感じの、豊かで沈殿するような、知的にセクシーな、そんな香りである。


クリスマス前には、わたしはとにかく「神殿」の香りが大好きなのだと力説したのだったが、神殿で焚き上げる香、生花、書物の匂い、閉じられたまま100年が過ぎた小部屋のカビの香、木材、などのミックスがとても好きだ(便意はもよおしません)。

カビの香りが好きというのも、考えてみたら変な人である。
至聖所、ディアコニコンのような聖具をしまう奥の一角や小部屋、カタコンベなどのカビ臭い匂い、といえばいいのか。
締め切った書庫や、古本屋、古い和紙と墨、換気の悪い美術館などからも同じような匂いがするのである。

内側に奥深く、外側に広く無限に広がる宇宙、書庫。
そういえば神殿も同じ機能を持っているのだ。




「古代の図書館」リストに含まれる図書館の中でも三大に数えられる、元トルコ、エフェソス、ケルスス図書館。象徴的。館の向こうに宇宙が透けて見える。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

1998年のダイアリーと四つ葉のクローバー




日本で長年お世話になっていた接客業の方のお名前をど忘れしてしまい、時間の遺物がまとめてある箱の中を探した。

昔のスケジュール帳やアドレス帳のレフィル、私的ベストテン映画のタイトルや、本からの引用、印象に残った飲食店の特徴などがリストアップしてある手帳(わたしは昔からメモ魔なのだ)、期限切れしたパスポートや、大切な人の古い名刺、美味しかったワインのエチケットなどが、タイムカプセルのように納めてある。

お名前はすぐにわかった。1998年のスケジュール帳に書いてあったのだ。
そのスケジュール帳が、箱の中の一番古いものだった。ベルギーに引っ越した年だ。


他のページを見返してみると、忙しそうな予定がびっしり書き込んである。
右側のフリーの余白にも、気になる言葉や、目標、レポートの締め切り、行きたい展覧会や音楽会、買いたいCDや本のタイトル、口紅のナンバー、当時の自分のメルアド(@osa.att.ne.jp! 当時Macintosh PowerBook 2400cを使っていた。懐かしい)がメモしてある。

23年前の自分は、いろいろな人に会い、行きたい国に行って見たいものを見、あれこれの締め切りをこなし、若くて(根拠のない)自信たっぷりで、「大統領のように働き、王様のように遊ぶ」朝から晩まで充実した日々を送っていた...

と、実にこの23年間思い込んでいた。

しかし、スケジュール帳から読み取れるのは、何かを探して危なかしく西に東にさまよう若い女だった。
無責任でいい加減。糸の切れたタコ。はんぱもの。その日暮し。そんな暮らしをしていても、いつか王子様が現れてわたしを救ってくれる、とでも思ってたのか?!


はたと箱を閉じ、下で映画を見ている夫のところへ走って行って「わたしを一人にしないでね」と言った。
そのくらい、ひとりだった自分が危なかしく思えたのだ。


こういうスケジュール帳や、他に大量にある日記などは、死ぬ前に全部処分しないと...


上の写真は徐々に使わなくなってきていたらしい2000年のダイアリー。
誰がくれたのか、真ん中あたりに四葉のクローバーが挟んであった。
娘の誕生した翌年だ。たぶんダイアリーに書くような予定も余裕もなかったのだろうが、今思えば娘の様子を毎日記録しておけばよかった。

メモ魔なのになぜ? と思われましたか? メモ魔は肝心なことはメモしないものなのです!
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ベートーヴェン誕生250年



生誕250年を記念して発売されたというマイセン。
クリスマスに音楽関係の方から頂戴した。宝物。
ベートヴェンの顔色は良くないが(笑)、彼の開悟したようなこの表情がいい。



さる2020年12月16日は楽聖ベートーヴェンの誕生250年だった。

去年は誕生250年を記念して、さまざまな催しが欧州各地で予定されていたにもかかわらず、新型コロナ禍でことごとくキャンセルに。

思い起こせば生のベートヴェンは、2月にロンドンでKissinによるピアノソナタをかぶりつきで聴いただけ?!

12月頭に予定されていた、ロンドンフィルとKrystian Zimermanのベートヴェン・ピアノコンチェルト・マラソン@バービカン、ものすごっく楽しみにしていたのに...
事前に録画されたものを見たものの、やはり生、生で聴きたい。


前もお話ししたかもしれないが、人類がいつか滅びるであろう(パンデミックで?)悲しみよりも、人類が滅びた結果、この宇宙にもう2度とベートーヴェンやショパンが響かない悲しみの方が強い。

機械や宇宙人が演奏し続ける可能性もあると友達は言ったが、それは微妙に違うし(人間とは何かという哲学的問い)、さらにそこには聴衆はいない(誰もいない森で木が倒れたら音はするのかという哲学的問い)のだ...

2月にKissinを聴いた後にも引用した、

Quand ovum et temps nichait sont in re, sed solum in apprehensione
「時代や時間は実際には存在しない。ただ精神の中にだけ存在する。」 (アウグスティヌス『告白』)音楽も、「人間の」精神の中にだけ存在するのである。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

今年は初詣も仮想的




20歳の頃から、外国と日本とで生活するようになった。

中東、北米、ヨーロッパ大陸、そして流れ着いたブリテン島。

氏神様に初詣に出かけるタイミングも逃すことが増えたので、その土地でその土地の神様に初詣する習慣ができてはや数十年。

その土地の神様とは、教会などの神殿施設、美術館や博物館の神像、あるいは日の出や月を見上げたり、クラシックのコンサートや、この世ならぬものが登場するバレエ...八百万の神の世界に生まれた人間らしく、神性を感じられるものならなんでもいいマイ・ルールにしてきた。

お正月から、こちらで日本のお正月を再現するのは無理があるので、うちではなんでも「見立て」、「ありもの」「なんちゃって」ですます...という話をしてきたように、初詣もそうなの!


去年2020年の初めは、(上写真)大英博物館に、お客さんをお連れしつつ参ったのだった。
ギリシャのパンテオンの東部分ペディメント(破風)に飾られた三柱の女神、左からHestia, Dione, Aphrodite。

ヘスティーアーは家庭生活の豊かさの中心となる炉の女神で、ゼウスやポセンドンの兄妹、

ディオーネーはアフロディーテーの母にして天空の女神(ゼウスの女性形)、

アフロディーテーは愛と美の女神、

ちなみにこの左にあるグループはアテーナーが父親ゼウスの頭から生まれる様子を表しており、有翼の女神はもちろんアテーナー、知恵と芸術の女神。

新年にふさわしい女神たちだ。八百万の神めでたや、

などと。




神馬。




また、芸能の神が鎮座する、ロンドン・コロシアムにイングリッシュ・ナショナル・バレエの『海賊』、ロイヤル・オペラ・ハウスに『眠れる森の美女』を観に行き、ひとり「これで三社参りだ」などと満足して、新年を寿いだのだった。


今年はその「お参り」すらもお預け状態だ。
今週はバービカンで内田光子さんのシューマンピアノコンチェルトの予定だったのに...あああ。
特に内田さんの精神性、神官のような雰囲気を愛している。




今朝、冬の庭の裸根の薔薇に新芽が出てい、包丁を入れたアボカドが完璧で、家の中に快適に暖房が効き、心臓が規則正しく動いていて、数十年行方不明だった友達からメールで連絡が来(インターネットの魔法)、人間の世界で起こっていることに責任を持ちできる限りのことをしている人たちに心からの尊敬と感謝を捧げる。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ 次ページ »