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馬上槍試合は騎士のたしなみ




「電波の届かない草原にいたのでお返事できなくて失礼しました
馬上槍試合を観戦していたの」

と、ラインメッセージを友達に送ったら、彼女からの返信は
「馬上槍試合って、馬術みたいに優雅なんですか?」



わたしの下手くそな写真では静止しているように見えるが、全速力とまではいかないものの、
結構な速さで馬を走らせている


馬上槍試合は、先刻のパリのオリンピックでヴェルサイユ宮殿を舞台にしたドレサージュのように優雅なものではない。

中世の騎士のコスチュームを身につけ、左右から美麗に着飾った馬をパカパカと走らせ、3メートルから4メートルある槍(ランス)で突き合う武術競技、トーナメントである。
Jousts(一騎討ち)という。
槍で突いて相手を馬から落とすか、相手の盾に当てて得点する。

雅さでいえば、日本の流鏑馬の方が神事だけあってずっと雅である。


わたしがまず思い出す馬上槍試合といえば、目に致命傷を負って死亡したフランス・バロワ朝のアンリ2世であり、それを予言したというノストラダムスの大予言...



女性騎士。カッコイイ


この日、なぜこのようなものを鑑賞することになったかというと、天気が非常によく、夫が「先日からよくポスターを見かける馬上槍試合、見に行く?」と午後2時ごろ言ってきた。ちょっとのぞいてみて期待外れなら、会場近くでお茶を飲んで帰ってくればいいのだし、と。

ベルギーのブルージュでもこの手の競技は見たことがある。

クラブに同好の士が集まって(時には中世のコスプレをして)、アーチェリーやフェンシングや...を楽しむのである。
オープン・デイなどの日に、外部にも開かれたデモンストレーションがあり、外出のついでに立ち寄って、15分くらい見た記憶がある。
夫もそういうつもりだった。



馬上槍試合トーナメントで3回優勝した方だそう


会場に到着すると、規模がかなり大きく、入場料に大人二人で58ポンド(1万円!)も取られたのには開いた口がふさがらなかった。
タダだと思ったから行ったのに(笑)。
ちょっとのぞいてみて期待外れなら帰る、という金額ではない。こりゃ覚悟を決めてモトを取らねば...

会場の森に入るとあちこちに騎士、町人、職人、姫、貴族、道化師、妖精...などのコスプレを楽しむ人が歩き回っている。

鷹匠が、大天使のように美しい鷹にシャワーを浴びさせ(「彼女はシャワーが大好きなんですよ」と)、ブラック・スミスは熱い鉄を打つのに余念がない。
この鷹匠一家は全員でコスプレをしていた。



鷹匠と、シャワーを浴びてご機嫌な鷹嬢


隣にはキャンプサイトもある。
中世・ルネサンス期のコスプレをしつつ、英国全土で夏に開かれるこういったイヴェントに参加して周る趣味の人がいるとのこと。


その先の芝生の競技場で、まず見たのは歩兵の戦いだった。



整列する歩兵。
戦闘中はわたしが口ポカーンの状態だったため、写真がない(笑)


これがわたしの想像を超える、なんでもありの野蛮な殴り合いだった(鎧を着ているのでどのくらい実害があるのかはよくわからない)
技の洗練やスマートさなどは皆無である。

鎧を着た男たちがフリースタイルで戦う。
殴る蹴る、槌や剣でなぐりかかる、飛びかかる、なんでもあり。
土がついたら「死亡」とみなされ、それ以降は競技に参加できなくなる。

鎧を着ているため、動くがノロく、おもしろおかしくもある。

最後まで残ったのは、「そりゃそうだろう」という感じの、縦にも横にも恵体の中年の男性だった。2メートルは身長があるにちがいない。
フリースタイルはやはり重量も縦の長さもある、筋肉の塊のような力士タイプが有利なのだ、というのは、こういった競技に全く興味のないわたしにでもわかる。




そして最後のメインイベント、馬上槍試合...

この日の試合はプロレス型であった。ショー形式で、最後は平和に引き分け。
ガチンコのトーナメントも見学してみたいなあ。

馬上槍試合は、騎士の勇敢さや技術を示すための重要なイベントで、貴族たちが観戦する人気のスポーツだったという。

それでも、突きどころが悪ければアンリ2世のように...


わたしも次回は巴御前のコスプレをして参加したいと思う。

おそらく大人気だろうと思う(笑)。
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英国桃で ベリーニ風ムース




夏を惜しみ、英国産の桃でケーキを作った。

British Peach、またはEnglish Peach、黄桃の一種である。

英国産の桃は、気候変動で収穫が増えているという話を新聞で読んだのはもう数年前のことだ...


ビスキュイ、桃のムース、ホワイト・チョコレート、シャンパーニュとレモンのジュレ。

イメージはシャンパーニュのカクテル「ベリーニ」。

ヴェネツィアの老舗バア、Harry's Barで1940年代に生まれたこのカクテルは、白桃のピュレとシャンパーニュ(伝統的にはイタリアのプロセッコ)を組み合わせる。

薔薇のようなオレンジ・ピンクの色が、ヴェネツィア・ルネサンスのジョヴァンニ・ベッリーニ(Giovanni Bellini)の絵画の、聖母マリアのローブの色イメージさせることから、「ベリーニ」と名付けられたと...



Enthroned Madonna Adoring the Sleeping Christ Child  1475年
ヴェネツイア アカデミア美術館で撮影
ヴェネツィアでベッリー二の作品巡りをするのがわたしの至上の喜び


む、次は黄桃ではなく、白桃で作って作法通りフランボワーズで色付けしよう...


ハリーズ・バアは今でも大運河近くでがんばっている。
わたしは行かないが、よく前を通りかかる。


ベリーニは国際バーテンダー協会の公式カクテルで、桃のピュレをマンダリンに置きかえるプッチーニ、いちごのロッシーニ(<わたしはこれが好物)、ザクロのティントレットなど、このカクテルのヴァリエーションは多い。

いちごでロッシーニ風のムース・ケーキも試そうかな、『スタバート・マーテル』を聴きながら、まだ英国いちごが出回っているうちに。

ちなみに美食化だったロッシーニのな名を冠した料理は多いですね!

と、話が芋づる式に...伸びていく。




ふるっふるにしたく、ゼラチンを危険なほどギリギリの量で作成。
羽が生えて飛んでいってしまいそうな軽さ。

ベッリーニの天使のように。


夏の午後10時、桃と同じ色のろうそくの光の下で。


8月もあとわずか。
ヴェネツィアの優雅な滅びを思い出す。
あるいは、子供の頃の、あの、夏休みが終わりゆく感覚を思い出す。
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2024夏 ブルージュのレストラン




今月行ったレストランの中から紹介します...

やはりこのトピックに関してのご質問が一番多いので。


Zet'Joe
ミシュラン三ツ星のメゾンとして名を馳せたDe Karmelieteのシェフが、「体力的に三ツ星を維持するのは困難」と、規模を縮小して再出発した店である。

壁のアートも、カトラリー類も、カルメリート時代のものを使っている。
メートル・ドットも同じ方である。わたしのイタリア語とかスペイン語程度の日本語を話す。

一番上の写真は前菜、ラングスティン(手長海老)、茄子、フォワグラ、えのき...
この上に熱々のスープを少々注ぐ。




前菜の前に何品もアミューズが出てくるのが好き。

こちらはフランダースやオランダでよく食べるニシンの酢漬けとビーツ。絶妙。

おしゃべりに夢中で、他には写真がないが、店内も素敵です。




こちらはブルージュの旧市街から車で18分ほど、ZedelgamのLoppemにあるBar Bulot。

名前はバーだが、レストランである。

すぐ上の写真は、自前の農場産のステーキ、二人前。

おもしろいのはこのステーキに「(日本語で)Be-ru-gi ベルギー」という名前がついているところ。

決して揶揄しているわけではなく、エキゾティック感や、特別感...に訴えているのだと思う。

そういえば、昔ブルージュには日本語の発音で「チョコレート」というショコラティエがあった。




ほら、メニューに"Be ru gi"(日本語でBelgiumのことをベルギーと言います)と、書いてある。
そんなにおもしろいか(笑)? 

特に、和牛というわけでもないし...
ただ、とても美味しいソースには、香り高い山椒が使われている。

ウェイター氏に「わたくしは日本人なので完璧な発音でオーダーいたします。ベルギー! お願いします」といつも言っている(サムい中年である)。




農家の納屋を改造して内部はモダンに。

外のテラス席もとてもよい。

Kasteel van Loppem(ロペム城)というゴシック・リヴァイヴァルのお城と森が近くにあり、森歩き、とてもおすすめ!! カフェもある。





最後に、大人数の場合に行く、もっとカジュアルなOnslow。

こちらは今ブルージュで流行りのシェアが前提のレストランで、おそらく、地元の人の間では一番人気だと言っても過言ではないと思う。
何度も行っているのに、いつも会話が忙しく、写真が一枚もない...

マルクト広場からは少し離れていて住宅街の中にある。
この辺りの運河も美しいのでぜひ徒歩で。
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フランドル・スタイル




ブリュッセルの友達が、ブルージュで宿泊中のホテルへ来てくれ、ランチ前にホテルでコーヒーを飲んだ。

彼女は美しいものが大好きで、とてもセンスのいい人だ。




もちろん彼女はこのホテルも好き...

しばしキッチンやドローイング・ルームを見てまわり、目の保養をする。

そしてライブラリー(図書室)に落ち着き、ベルギーのフランダース地方に独特なインテリア、「フランドル・スタイル」について話し合った。

最近ではインテリアの世界もグローバル化が進み、昔ほどは差異も大きくなく、共通点の方が多いのかもしれないが。




フランドル・スタイルは、やはり魅力的な例えばフランスのフレンチ・カントリー・スタイルのインテリアや、イタリアのトスカニーのスタイルとは似ているようで違う。

モダンとクラシックの絶妙なミックス、時には過剰なくらいの装飾をほどこしつつも絶妙なバランスとハーモニー。

あれ、それはフレンチ・カントリー・スタイルにもトスカニーのスタイルにも共通していることか...

ということは何が違うのだろう。
各地の風土に合った生活に根ざした「用の美」や、土地の人々が昔から当たり前と思っていることの違いなのだろうか。

共通点はどこもカトリックだということ...

もちろん、「国民性」というのは近代の理念にすぎず、衣食住の好みや美意識にしても、国境を境にきっぱりと異なったりするわけではない。




何が違うのだろう...とあれこれと。

ランチの後は、最近ではぐっと減ってしまった個人のアンティーク屋さんをのぞいたり、またコーヒーを飲みに行ったり。


以下、わたしの超個人的な印象をまとめてみた。根拠はない。

フレンチ・カントリー・スタイルは、柔らかな色調と自然な素材、ロココのカジュアル化、ゆるいロマンティックさが特徴。

トスカニーのスタイルは、自然の豊かさと親しさを反映し、大きな窓や扉などが開放的、アースカラーが中心。直線的なモダン・デザインにも合う。

フランドル・スタイルは、光のなかに沈むような深みがあり、安らぎと敬虔さ、歴史を感じさせるが、色のトーン次第でかなりモダンになる。




さらに詳しく...

フレンチ・カントリー・スタイル (French Country Style)
洗いたてのリネンの色。
フラゴナールの絵の色。

ベージュ、エクリュ、浅いグレー、ソフトでナチュラル。
ナチュラル素材、木材、石材、リネン、コットン、レース、絹など、軽さを好む。

家具などの基調は、アンティークやヴィンテージ風が中心で、曲線的で優美なデザイン。あるいは脱構築された田舎風。

花柄やチェック、ストライプなども取り入れ、素朴でありながらおしゃれで居心地のいい雰囲気。

ゆるいロマンティック、温かみがあるエレガンス、リラックスしたロココ。


イタリアのトスカニーのスタイル (Tuscan Style)
漆喰の白や鉄の黒に、シックなアースカラー、はちみつ色の石材、テラコッタ、レンガ、オリーヴ・グリーン、キャンティの色など。
マザッチオの色。

外部に親しく開放的につながった大きな窓や扉、葡萄棚やオリーヴの樹々の雰囲気。
タイル、モザイク、手描きの陶器。

開放的でありながら同時に暖かい雰囲気を持ち、自然との調和を意識しつつ、絶妙にモダン・デザインと合う。

素朴でモダン。それはつまり洗練。




ベルギーのフランドル・スタイル (Flemish Style)
漆喰の白に木材の梁の色。ややダークな色合い、グレー、ベージュ、黒、ブラウン、ダーク・ブルーに補色を大胆に合わせたりする。

北の国の太陽が、運河や海に反射した靄(もや)のような光。光と翳り。フェルメールの色。

重そうな木材、梁、石材、リネン、ウール、絹、精巧なレース。

歴史を感じる家具のシンプルで力強いライン、ゴシック的な装飾や、タペストリー、ゴブラン織り、カーペット、重厚なドア、鉄の金具などは大きな暖炉とよく合う。
田舎の大別荘の雰囲気。

中世、ヨーロッパで最も繁栄した最先端都市の夢の残骸。

色のトーンを下げたならば、一気にモダン・クラシックに。


と、考えて、わたしが一番好みなのは、イスラム美術のスパイスを振りかけたヴェネツィアン・スタイル、かな。
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おやすみ いにしえの都




夏の終わりのブルージュへ。

夕食後ホテルへ戻り、コーヒーを注文してから庭へ出ると、くつろいでいたのだろうか、柴に遠吠えされてしまった。

ごめんね、侵入者だと思ったよね!




今年は5年ごとに開催されるProcession of the Golden Tree(黄金の木の祭り。15世紀の象徴的な結婚を記念して中世の服装で行列が街を練り歩く)の年にあたっており、街は賑わっている。

一方、ホテルに入ると静かで、サロンにはわたしたち以外、無人...







このホテルは、ブルージュに13年間住っていた家の近所にある。

鐘の音、自転車の音、人の話し声...
さて、なつかしいブルージュの夜の音を聴きつつ、寝るとしよう。
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