私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

小雪物語―安原備中守知種の寄進した御竈殿

2012-06-30 19:27:29 | Weblog

 この小雪物語で、小雪の舞う熊五郎が主催する全国のやくざの大親分方の一大博打大会を「鳴竈会」と銘打って行うのですが、この「鳴竈」と言うのは一体なんだろうかなと思われたのではないかと思います。

 そこで今日は、又又ですが、このお話を離れて吉備津神社にあるお釜殿に付いてそのいわれを小々説明しておきます。

 このお釜殿は、吉備津神社の長い回廊のちょうど中間辺りに「御竈殿」と古ぼけた看板が懸かっています。釜ではなく、竈と言う字が書かれています。
 この建物が完成したのは、この御竈殿の棟札に書かれている文字から、「慶長十七壬子暦九月・・・」であることが分かっています。この年は西暦に直すと1612年です。今年で、ちょうど400年になります。更に、この棟木には、この御竈殿を建立した人は、早島の住人安原備中守草壁真人知種であること記されています。
 
 この地方の言い伝えによりますと、この知種は、元々、帯江銅山の経営者の一人として、その手腕を発揮していたのですが、どうして石見の国まで手を伸ばしたかと言うことはよく分からないのですが、多分、一念奮発してだと思うのですが、当時、将軍家康もその開発に力を注いでいた江洲石見銀山の開発に、その帯江銅山開発の技術を生かそうと出かけたのではないかと思われます。そして、やがて、石見銀山で一,二番と言われる「釜屋間歩」を発見します。(この間歩は現在のところは公開されてはいません。)その開発の功により、家康より、特別に「備中守」という称号も授かっています。なお、開発した釜屋間歩から上がる莫大なお金の一部を、知種こと安原伝兵衛は故郷の早島の鶴崎神社と吉備津神社に寄進します。その資金によて、その時、1612年、今からちょうど400年前ですが、吉備津神社の御竈殿は建立されます。

 これは私の推量ですが、彼が見つけた石見銀山でもその第一級の埋蔵量を誇る間歩です、その名前も釜屋と言います。ひょっとすると、彼が石見銀山の開発に向かう前に、この御竈殿でその吉兆を占ってもらい、その時にこの竈が大変大きく鳴り、その前途の吉を暗に示したのではないかと思われます。そして彼が見つけた間歩も、この御竈殿にちなんで、わざわざ「釜屋」と命名したのではと思っているのですが。

 明日は、この鳴る竈のいわれを少々ご紹介します。こうご期待!!!! 


小雪物語―喜智からの差し入れ

2012-06-30 09:16:17 | Weblog

 「小雪ちゃん」と呼ぶ声がしたかと思うと、無遠慮に、今朝も、お須香さんがつかつかと部屋に入って来ます。
 「いよいよ今日だね。体調の方は大丈夫。これ、奥様からの差し入れよ。足守の葉田の黍餅です。このお餅を食べると肌が光り輝くと、昔から言われいるそうです。しっかり食べて、しっかり舞って、『光り輝く天女になってください。軽く軽く光り散る、それこそ小雪ちゃんの名前のようにのように小雪になって、舞台いっぱいに舞ってください』ですって、わざわざ足守から取り寄せられたのですよ」
 手渡された紺の風呂敷には、大小の小さい無数の絞り染めされた白い丸が、うねりながら左上から右下へと一筋になって細谷の流れの波紋でしょうか、そんな文様が染めこまれています。
 その包みからはほんのりと黍が芳ばしく匂いたっています。「まあ、いい匂い」と、包みを解きます。お餅の上には、小さく折りたたまれた真っ白い紙がちょこんと置いてありました。小雪は、まず、それを手に取りました。そこには、喜智からのあでやかな女手が滴るように認めてありました。

    浮き沈む 細谷川の 泡にこそ
             流れて留る 淵ぞありなむ   
    皮竹も 若竹となる 谷川に 
             泡の留まる 岸はありけり
                           きち
 
 と、ただそれだけが記されてありました。暫らく、その喜智からの文に目をやったまま
 「何時拝見しても本当に心を和ませてくれる筆でっしゃろか。この皮竹って・・・これってうちのことでっしゃろか。なんでしゃろ。」
 と、今日の踊りの事も何もかにもどこかに消え去ったかのように、谷川を流れのような筆跡をじっと眺めていました。

  「お粂さん、ちょっとお茶お頼みします」
 と、須香さんの声が、この屋の主人粂の声に劣らず高々とお宿全体に響き渡ります。
 「いま、お茶が入ります。このお餅を食べて、奥様が言われる様に光り輝くように踊ってくださいな。きっと目の覚める様な舞い姫になること疑いなしだよ。その奥様も見物させて頂くと言っておられます。今日一日中、わたしが小雪ちゃんの付き人になります。奥様からのご命令なのです。さ、はやく食べて、準備、準備。今日は忙しくなるは」
 と、一人でさも楽しげに、追い立てるように、側から賺します。