私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

小雪物語ー立つ所以を患う

2012-06-03 08:47:24 | Weblog
 案内を請うと、かっての仲間も、一寸驚いた様子を見せましたが、先生に知らせたようです。再び、案内されて私宅へと導かれました。
 『ほう、大分、やけになっているようじゃな。道を志して、悪衣悪食を恥ずる者、未だ与に議るに足らずか。まあえ-、お父上も随分とご心痛のようじゃ。どうした。そんなに足軽が嫌いか。お前の剣術の腕前は相当なもんだ、と。わしはおもうておる。そのまま放りぱっなしにしておくわけにもいかん。わしに任さんか。そのお前の身柄を・・・・』
 やや置いて
 『わしが学問は余り知っとらんから詳しくは知らんのじゃが。昔、からの国の偉い先生、孔子様が、あるときこんな事を言われたとお前も知っていると思うが『論語』という本に出ているそうじゃ。・・・『位なきを患えずして、立つ所以を患う』というのがあるそうだ。知とるじゃろう。足軽がどうした、そんなものはつまらんつまらん。勉強せえ、そうすりゃひとりでに自分という者が見えてくるのじゃ。偉くなるとかならないとかはそんなもんはどうでもええことなのじゃ。要は人を磨くと云うことなのじゃ。難しかろうが、今、お前に必要なことは、自分で自分を鍛えることなのじゃあ。・・・この前、お前も一度会ったことがあろうが、笠岡の敬学館の三宅さんも、お前はなかなか見所がある。江戸かどこかで勉強をさせたい、と、言われておった。勉強してみんか。・・・・ちょうどええ。わしがご贔屓にしておる藤井高尚先生のご養子さんで高雅さんというのが宮内にいる。これもなかなか切れもんとわしゃあ見ておる。どうだ、くちうつけたるけえ、行って見んか』
 とても難しい言葉で言われます。新之介様の言われる事を、どうしてだかは分らないのですが、一言一句聞き漏らすまいと、一心にその言われる言葉一つ一つを胸に丁寧に仕舞い込む様に聞いておりました。
 「こんなことは、御新造さん方はもうとっくにお知りになっていると思いますが、それが縁で、新之介様は高雅さまのお弟子というか付き人みたいなお人にならたのだそうでおます。でも、高雅先生の所で学ぶ総ての物が物新しく一つづつ胸の中に刻みつけるように学んだのそうで、それらすべての物が新之介様には自分の未だ経験したことがない未知なものばかりで、面白くて面白くて仕方なかったと目を輝かせなが語られておられました。人と話すのは嫌いだとかなんか言っていらはりましたのどすが、それが本当に嘘みたいにでおした。・・・・そうそう、こんなこともお話になられたことがありました。歌についても高雅先生についてお勉強もされたとか。たった5・7・5・7・7の31文字ですが、なかなか難しいもんだと。・・・・・どんなお歌を詠まれたかはおっしゃいませんでしたが、聞いておけばと、今、後悔しております。このお里のお人さん皆んな、あてらあそび女みたいなお人までお歌を詠んでいるのだぞと、新之介さんは自慢そうにお話されていたのでどすが。」