私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 14

2008-04-19 11:53:31 | Weblog
 大旦那はんのおへやをお尋ねしてから、しばらくの間、近江・尾張・丹波などの各地からの報告が、どつっさりと舟木屋に入ってきます。織屋さんも今年入るだろう綿の数量が一番気にかかる時節なのです。各地から収穫して入荷する秋時より、平蔵にとっては、この桜が散ってしまって、葉桜になった時分が一年間で一番多忙な日々になるのです。一日一日それこそてんてこ舞いの毎日でした。お園さんのことも考える余裕すらないというのが現実でした。
 そんな多忙な時が過ぎて、お盆も過ぎた時分でしょうか、気が付けば、ぼつぼつ秋の気配をうかがわせるような涼しげな風も朝夕わずかに感じさせる頃になっています。
 机に向かって、今までに整理しておいた書付帳を、念のためにと眺めていました。おみよさんか誰かが
 「平さん、旦那はんがお呼びどす。奥ん部屋までということどす」
 と声を掛けてくれます。
 「へい」と声を出し立ち上がります。調べていて、ちょっと気にかかるか箇所も見当たりましたので、それもついでにお尋ねすればとも思い、お部屋に向かいます。
 「平蔵でございます」と、お部屋のお廊下から声を掛けます。
 「さあさ、平どん、こちらへお入りなさい」
 ご主人の舟木屋辰治郎さまと御一緒にお座りになっていらっしゃいます奥様の声です。
 「平蔵か、お前に折り入って頼みたい事がおますのや」
 と、早速、旦那さま。それを捕らえて直ぐに奥様がおっしゃられます。
 奥様の申されることによると、この舟木屋は、もう何代も続いている綿屋で、各地の綿をこの大坂まで船で運び込んでいる。そんな関係もあって、また、屋号にしている舟木屋という名前からも、代々、船の神様、讃岐の金毘羅さんを随分と信心しているのだそうです。その御蔭もあって今日の舟木屋があり、
 「死ぬまでに一度その金毘羅さんへお参りして、御礼を申し上げたい」
 と、どうしてだか分らないのですが、この頃になって頓に、大旦那様がおっしゃっておられるのだそうです。
 「おとうはんは、元気だとは言え、あの通りのお年でしゃろ。一人でお参りに行きなはるといっておられるのどすが、そんなことできしまへんやろ。だれぞに付いて行ってもらわにゃならんのどす。この人と相談さしてもろうたんどすが、あんた。平さんに行ってもらおうという事になったんどす。どうかのう。行ってくださらんかのう」
 お旦那様も頭を畳に擦り付けんばかりにお頼みになられます。
 「それと、おとはんは、この期に伊予あたりまで足を伸ばして、あちらさんの綿も何とか、この際、しておいてやるとか何とか申されておられるようじゃ・・・ちょっと長旅になるとは思うのじゃが」

 そんなこんなで、あわただしく金毘羅参りのお供を仰せ付かる平蔵でした。大旦那さんが何をお考えになっておられるのかも分らないで、