私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

「小雪物語」 風呂敷

2007-04-24 23:50:50 | Weblog
 「小雪ちゃん」と呼ぶ声がしたかと思うと、無遠慮に、今朝も、お須香さんが部屋に入ってこられました。
 「いよいよ今日だね。体調の方は大丈夫。これ、奥様からの差し入れよ。足守の葉田の黍餅です。このお餅を食べると肌が光り輝くと、昔から言われいるそうです。しっかり食べて、しっかり舞って、『光り輝く小雪さんを見せなさい』ですって」
手渡された紺の風呂敷には、大小の小さい無数の絞り染めされた白い丸が、うねりながら左上から右下へと一筋になって細谷の流れの波紋でしょうか、そんな文様が染めこまれています。
 その包みからはほんのりと黍が芳ばしく匂いたっています。「まあ、いい匂い」と、包みを解きます。お餅の上には、小さく折りたたまれた真っ白い紙がちょこんと置いてありました。小雪は、まず、それを手に取りました。そこには、お喜智さまのあのあでやかな女手がしたためてありました。

    浮き沈む 細谷川の 木の実にも
             流れて留る 淵ぞありなむ   
    皮竹も 若竹となる 谷川に 
             水のまどるむ 岸はありけり
                           きち
 
 「お粂さん、ちょっとお茶お頼みします」
 と、須香さんの声がそれこそお宿全体に響き渡るようにです。
 「いま、お茶が入ります、このお餅食べて、踊ってくださいな。今日一日じゅう、わたしが小雪ちゃんの付き人になりますよ。奥様からのご命令なのです。はやくたべて」
 と、側からすかします。