108つの除夜の鐘が、普賢院の境内から、人々のはらわたを抉るように流れてきます。踊り踊りで小雪の20歳が終わろうとしています、年の内に、もう一度さえのかみさまへと思っていたのですが
「できしまへんでした。ごめんね」
と、除夜の鐘が鳴るほう向かって小雪は両の手を合わせるのでした。
明ければ二回目の宮内のお正月、宿の姐さん方と連れ立って吉備津様に今年はお参りに行き、帰りに一人で竜神池の小島にあるさえのかみさまにも小雪は初参りに立ち寄りました。頬を切る風が祠の側に立つさくらの小枝を揺らして、もがっています。「どうぞ、小雪をお守りください」と、何度も何度も頭を下げました。
遽しい正月風景も飛ぶように流れていきました。七草粥も済み、お江戸の菊之助さんがまた宮内へ戻って参られ、宮内おどりの総仕上げにかかられました。この頃になると、小雪たちおどりに出演する者にも次第にその全貌が読めだしました。
40人の姐さんたちによる三味と鼓による「夏のお山」の演奏、豪勢で派手やかな調べがそこらじゅうを流れることでしょう。続いて、宮内切っての喉自慢な豊和姐さんのお歌に合わせた、千両役者大五郎さん振り付けの「なんばん六法」くずしの宮内踊り。優雅に2、30人姐さんたちの手が天に地にと舞います。
次は、「仲入り」。秋のお祭り
舞台いっぱいに並んだ姐さんたちの奏でる三味、かね、太鼓の鳴り物入りで、桟敷や舞台そこらじゅうから繰り出す十台の女みこし。「わっしょいわっしょい」と、特別にしつらえた小ぶりの御輿に積んだ酒肴が会場に配られます。
それが済むといよいよ後半、まず、「春のしらべ」。板倉の絵師、三好雲仙が力いっぱいに描いたさくらが舞台いっぱいに広がった中、琴、笛、三味、太鼓、鼓の音曲連が二重に並び、50,60人の踊り手が手に手に桜の小枝をかざして遊興するさまを踊りに仕立てた菊五郎さんの「宮内さくらの舞」が披露されます。
それが済むといよいよ最後、遊女の舞です。春爛漫のさくら、折から吹き来る風に舞い散るいっぱいの花びら。散る花びらは精となり、此の世にあくがれいでて散り行く未練をいっぱいに込め、花魁道中に身をかえ、舞い散る魂を小雪が演じるのです。その中に特別に小雪の願いにより、他の志向も加えられているということです。
この舞には、熊五郎大親分の娘さん「きくえ」さんもお関わりがあるということが分り、お喜地様が「小雪の天女」を、このきくえさんからお聞きして、舞扇を送ってくださったのかもしれないと、密に、小雪は思うのでした。
「できしまへんでした。ごめんね」
と、除夜の鐘が鳴るほう向かって小雪は両の手を合わせるのでした。
明ければ二回目の宮内のお正月、宿の姐さん方と連れ立って吉備津様に今年はお参りに行き、帰りに一人で竜神池の小島にあるさえのかみさまにも小雪は初参りに立ち寄りました。頬を切る風が祠の側に立つさくらの小枝を揺らして、もがっています。「どうぞ、小雪をお守りください」と、何度も何度も頭を下げました。
遽しい正月風景も飛ぶように流れていきました。七草粥も済み、お江戸の菊之助さんがまた宮内へ戻って参られ、宮内おどりの総仕上げにかかられました。この頃になると、小雪たちおどりに出演する者にも次第にその全貌が読めだしました。
40人の姐さんたちによる三味と鼓による「夏のお山」の演奏、豪勢で派手やかな調べがそこらじゅうを流れることでしょう。続いて、宮内切っての喉自慢な豊和姐さんのお歌に合わせた、千両役者大五郎さん振り付けの「なんばん六法」くずしの宮内踊り。優雅に2、30人姐さんたちの手が天に地にと舞います。
次は、「仲入り」。秋のお祭り
舞台いっぱいに並んだ姐さんたちの奏でる三味、かね、太鼓の鳴り物入りで、桟敷や舞台そこらじゅうから繰り出す十台の女みこし。「わっしょいわっしょい」と、特別にしつらえた小ぶりの御輿に積んだ酒肴が会場に配られます。
それが済むといよいよ後半、まず、「春のしらべ」。板倉の絵師、三好雲仙が力いっぱいに描いたさくらが舞台いっぱいに広がった中、琴、笛、三味、太鼓、鼓の音曲連が二重に並び、50,60人の踊り手が手に手に桜の小枝をかざして遊興するさまを踊りに仕立てた菊五郎さんの「宮内さくらの舞」が披露されます。
それが済むといよいよ最後、遊女の舞です。春爛漫のさくら、折から吹き来る風に舞い散るいっぱいの花びら。散る花びらは精となり、此の世にあくがれいでて散り行く未練をいっぱいに込め、花魁道中に身をかえ、舞い散る魂を小雪が演じるのです。その中に特別に小雪の願いにより、他の志向も加えられているということです。
この舞には、熊五郎大親分の娘さん「きくえ」さんもお関わりがあるということが分り、お喜地様が「小雪の天女」を、このきくえさんからお聞きして、舞扇を送ってくださったのかもしれないと、密に、小雪は思うのでした。