リスク管理で用いている管理指標にVaR(バリューアットリスク)という数値がある。
VaRは個々の金融商品についての将来起こりうる最大損失額を示しており、企業が資産運用で過度なリスクを取らないよう、運用している資産が内包している最大損失額を客観的な数値で示すものだ。
そのうち個人の資産運用でもオプションとして利用できるようになるかもしれない。
そもそも未来に起きるかもしれない損失額なんてなにを根拠に出しているのか、だいたい今年の経済予想だってウクライナ戦争やトランプ大統領の登場などですぐに覆ってしまうのではないかと言う人も多いと思う。
もっともなことで、あくまで過去の統計データを元にした数値なので、外れることもある。リーマンショックの時が良い例だ。
VaRのリスク額を用いるのは、自己資本額に対して過剰なリスクを取っていないかを確認するためである。企業が保有している金融商品にはいろいろな種類があるので、VaRを使用することで、バランスのよい資産運用が出来ているかのモニタリングが出来る。たとえばリスクカテゴリーごとのリスク量も試算できることから、リスク分散がきちんと図られているかについても確認できる。(同質分野のリスク額が突出して大きくなっていないか等の確認)
具体的な方法として、リスク計算では通常専用システムを用いて計算する。
統合的なシステムを用いることで、Aという金融商品が値を下げた場合、Bという金融商品の価格が上る関係性があるなど、商品間に負の相関関係があることも計測できる。このためトータルの運用資産が大きくても、こうした相関を考慮しながらポートフォリオを構築すれば、全体のリスク量を減らすことも出来るのである。それでリスクの大きい金融商品も運用可能となる。
ただし統計的な手法に基づくリスク計算には、膨大な市場データが必要となる。
リスクの種類についても、金利リスク、為替リスク、信用リスク、価格変動リスク等々様々なリスクカテゴリーがあり、それらが個々の金融商品に微妙に影響しあっている。それで公開されている市場データを可能な限り収集し、個々の金融商品が影響を受けるリスクカテゴリーとの関連性を相関係数、回帰分析などを利用して計算し、リスク量の数値の信頼性を上げているのである。
株式など市場で毎日取引される金融商品の値動きの変動幅については、一般的にはボラティリティ(標準偏差等)で示されるが、標準偏差とは、平均値から70%程度(68.27%)の値動きなので、ボラティリティが大きい商品はその商品の値動きが大きいことを示しているものの、それだけでは最大損失額の予想はできない。これを残り30%程度の部分を含めた変動額として算出するには、標準偏差を2.33倍にすれば99%部分をカバーする変動額となる。ちなみに正規分布のデータの場合では、標準偏差を3倍にすると99.73%部分の変動をカバーすることが出来る。
VaRは将来の最大変動額を推計するものなので、上記の数値を用いて将来の一定期間の時間軸の変動額を計算する必要がある。それで過去の99%程度の変動額に√t倍の計算を用いて将来の最大リスク量を算出する。
√t倍のtには1年なら240日(1年は365日だが、実際の市場は1年240日程度の稼働であるので、実務的には240の数値を使うことが多い)として計算する。
算出条件の表示としては次のように表現する。
1.観測期間(リスク計算で使用した過去の市場データの期間)例として過去1年、過去5年分などのデータを使用する。
2.保有期間(VaRは将来の保有期間中に起こりえる最大リスク量であるので、前提となる保有期間を指定する。例として1年なら240日
(観測期間1年であれば日ごとの1年間の変動額を1年分収集する。)
3.信頼水準(最大のリスク量を計算するのに用いた精度)
99%、99.9%など(上記の係数を用いる)
1.の観測期間が短ければ直近の市場動向のみがVaRに反映される
2.の保有期間が長ければリスク量は大さく計算される。(6か月あるいは1年間などの間に起きるかもしれない最大のリスク量のことなので、保有している期間が長いほど価格が下がるリスクは大きくなる)
3.の信頼水準は99%よりも99.9%の方がより大きくリスク量が算出される。
VaRは統計的なデータを用いて算出するので、算出条件を厳しくして算出しても、過去になかったような大きな変化が起きた場合には(リーマンショックのような経済ショック)想定を上回る損失が発生するということを十分理解する必要がある。
またVaRは計算時点の価格を基準として計算するので、計算時点ですでにマイナス運用となっていれば、損失予想額はその分を加算しなければならない。
以上は市場取引が活発な金融商品についてであるが、正規分布に収まる市場データばかりではないので、対象となる金融商品やリスクカテゴリーのデータの性質、あるいは計測時点での市場環境から、リスクデータの収集方法を変えて計算する場合もある。それでリスクデータの性質に応じてヒストリカル法、モンテカルロ法などを用いたVaRの算出方法もある。
VaRの数値の妥当性については、将来の保有期間が経過した後でないと検証ができない。算出したVaRの数値については、指定した将来の期間内にVaRを越える損失の発生が無かったかを定期的に検証する必要があり、指定の信頼水準(99%等)を越える損失の発生が確認されれば、リスクデータの収集方法等を再検討する必要がある。例えば、想定外のリスクカテゴリーの存在、直近の価格変動が急拡大していないか、などの分析。
VaRは客観的な条件のもとで算出するリスクデータであるので、一定の信頼性を担保できる。
ただし、経済の動向を捉えるのには、実に複雑な要素が絡み合っているので、担当者の市場モニタリングを通しての勘が必要となる場合もある。システム的な問題と同時に最終的には人の肌感覚的なものも有効な原因解明に役立つこともあるのである。
私は元々金融工学など勉強したこともないし、上記の文章に表現上の誤りもあるかもしれないが、現役引退した担当者の備忘録としてまとめてみた。

この本は私が担当者になった当初、ネットでもさっぱりVaRの解説など出てこなかったので本屋で買い求めたものだ。
その後に受けたVaRの研修でも、この本を講師が推奨していたのでVaRの基礎を学ぶには有効と思われる。