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映画「息の跡」

2017-03-14 10:25:34 | 映画・ドラマ・小説・マンガ
これは東北震災後に、陸前高田の車が行きかう道路の傍に、自力でプレハブを建て、井戸も自力で掘り、種と苗を売っていた人のドキュメンタリー映画である。

周りに人家は見えず、遠くに土地の造成工事が行われている。

たまに来るお客さんを相手に、空いた時間にパソコンに向かい津波の記憶を書き連ね、それを自費出版している。

映画の冒頭に、その立派な写真入りの本が出来て届いたシーンがある。

なんと、それは英語で書かれているのだ。これで3巻目だと言う。

日本語だと、感情が込み上げたり、あいまいな言い方になったり、言葉が続かなくなったり、だから英語にしたんだと。英語なら客観的に事実を書き連ねられるからと。

震災が来る前には英語なんて知らなかった、震災後に独習したと言う。時々、自分の書いた本を朗読する。そして、パソコンで発音を確かめながら。

なんのナレーションも音楽も無い。

あるのは、店の前をひっきりなしに通る車の音、雨の音、風の音、ホースから滴る水の音、たんたんとカメラを向ける監督に話す彼の言葉。

そして、今は、中国語とスペイン語で本を書いている、と言う。

佐藤たね屋さんの3年間を撮った映画だ。

その3年間の時間の流れは、遠くに見えている造成工事が着々と迫って来るので分かる。

「このたね屋も、12メートルの土の下になるんだよ。凄いよね、12メートルだよ。こんなたね屋があったなんて信じられなくなるよね。井戸まで手で掘ってさ。津波の事もみんな忘れて欲しくないんだよね。だから、書くのかな」
「造成工事、大丈夫なんでしょうか」 と監督の声。
「大丈夫じゃないと思うよ。工事の人も言っているから。でも、役人は大丈夫としか言えないよね。役人は大変だよね」

私は、3年ほど前に東北地震の津波で被害にあった被害地に、夫の眠るお寺さんが主催した慰霊のための旅行に参加したことがある。何か所かで住職さんのお経に手を合わせた。

そういえば11日の新聞に、その時、お話をお聞きした陸前高田のお寺のお坊さんの記事が載っていた。両親と奥さんを亡くされている。

その時、山を崩して、長大なベルトコンベヤで平地に土を運ぶ作業を見た。

土地の造成工事というが、土を盛り上げているだけにしか見えない。大丈夫なのだろうかと思った。

もちろん、擁壁を強固なものにするのだろうが、あの、大きな頑丈な防波堤をなぎ倒して襲って来た巨大な津波に、抵抗できるのだろうか。

今、津波が来ないことを祈る。

ラストシーン。

彼のお店も、とうとう造成工事が始まるために取り壊すときが来た。

彼が手掘りで掘った井戸の管を引き抜くシーン。

長い長い管が、真っ青な空に向かって伸びながら揺れていたシーンで終わった。

ただ、何の変化も無いようなドキュメンタリーだったが、私は淡々と映像を見ながらも退屈はしなかった。

彼の話を聞きながら、あの震災に遭われた人たちに思いをはせ、そして、あの震災の2か月後に亡くなった夫の事を思った。






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