杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

永遠の1分。

2023年10月04日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年3月4日公開 日本 97分 G

東日本大震災のドキュメンタリーを作るために来日したアメリカ人映像ディレクターのスティーブ(マイケル・キダ)は、被災地を訪れた際に見かけた演劇の舞台をきっかけにコメディ映画を作ることを思いつくが、作品製作に暗雲が立ち込めてしまう。しかし、彼には映画を撮らないといけないある理由があった。一方、3・11で息子を亡くし、ロサンゼルスに移り住んだ日本人シンガーの麗子(Awich)は、歌のせいで息子を失ったという罪悪感にさいなまれていた。シンガーとして活動することや日本に残してきた夫と向き合えない年月を過ごしていた彼女は、夫からの手紙の中にあるものを見つける。(映画.comより)


「カメラを止めるな!」の上田慎一郎が脚本、撮影監督を務めた曽根剛がメガホンをとったヒューマンドラマで、「笑い」がもたらす癒しの力によって、人々が困難や葛藤を乗り越えていく姿が描かれています。(映画.comより)

冒頭で男女の別れのシーンのあと、去って行く女性を「レイコ!」と呼び止めた男を銃口が狙い・・と思ったら、実は外で映画の撮影が行われていました。演技指導する監督のスティーブ の前に現れたパトカーは本物の警察。撮影許可を取り忘れていて大騒ぎになり、上司のアルに謝る彼に「限界だ!」とキレたアルは、2011年の日本の大震災のドキュメンタリーを撮るか辞めるかと迫ります。

了承して相棒のボブ(ライアン・ドリース)と日本行きの飛行機に乗り込みながら、彼はニンジャ映画を撮るつもりだとボブに言います。

2019年7月の東京で、二人は通訳の小林レイナ(ルナ・フジモト)と街の人々にインタビューをしますが、誰もが震災を忘れかけていました。震災の風化を懸念しながら東北を訪れた彼らは、まだ続いている復興の様子を目にします。
スティーブはロスの大地震の折に妻のジュリアを喪っていました。

ドキュメンタリーを撮ることを決意したスティーブは、広場で演劇の練習をしている人々に気付きます。津波に巻き込まれるシーンの練習だと女性記者マキ(片山萌美)から聞いて「表現が不適切では」と言った彼に彼女は「(劇を)観に来て下さい」と答えます。水族館で行われた芝居は、震災の半年後から毎年演じられていて、内容に涙したり笑ったりの観客を見つめながらスティーブは、3.11のフィクショションコメディを作ることを思い立ちます。そば屋でボブに話すと反対されますが、そこに特大おにぎりの「スマイルボール」が運ばれてきます。それは震災後に作られたメニューで、「食べるものがなくても笑ってほしい」という思いで作られたものでした。
笑顔でかぶりつくスティーブを見てボブも協力を承諾します。

リサーチに出かけ、説明を聞きながら被災地を回る中で、厳しい事実を知り、危険なのになぜまた帰ってくるのかと尋ねたスティーブに、ガイドは「忘れてしまうんだと思う」と答えました。津波の映像の迫力に呆然とする3人に「命はたったひとつだから」というガイドの言葉がささります。

沢山の人達に話しを聞く中、部外者が映画を作ることについて尋ねると「興味を持ってくれるだけありがたい。でも精神的にしんどくなる映画を積極的に観ようとは思わないかも」と言われます。

ある男性は、死のうとした時にカレーの良い匂いがしてやめたこと、再度死のうとした時に、寝ぼけた少年が足元で立ションして諦めた話をして、その少年は命の恩人だと言いました。
役場の職員は、餅にわさびを仕込んだ思い出話をして大笑い。何故と聞くスティーブたちにそうでもしないと気持ちが滅入ってしまうからだったと答えます。

笑いが救いになることに気付いたスティーブは、復興に奮闘する人々のコメディを作ろうと決意しますが、どこの製作会社にも不謹慎だと断られてしまいます。レイナの好意にこれ以上甘えるのはよそうと決めた二人は、言葉の壁もあり苦戦しますが、そんな二人にマキから連絡が入り、記事にしていいかと聞かれます。炎上を恐れるボブでしたが、事実を書くという言葉を信じたスティーブは承諾。しかし徹夜で仕上げた記事は上司の近藤(渡辺裕之)に中傷的な内容に書き直されてしまいます。
被災地出身の近藤は部外者が震災に触れることを忌み嫌っていました。

発売された記事を読んで傷ついた二人。ボブは先に帰国し、スティーブもまた空港に向かいます。タクシーの中でラジオから聴こえてきた女性の歌声が気になった彼に、運転手は彼女はレイコといい、アメリカ在住で、3.11の地震で息子を失ったと話してくれました。

震災直後、仕事で留守にしていたため息子を助けられなかったと悔やみ、歌を封印した彼女は、ロスで友だちに紹介された店で働き始めました。当時、放射能を恐れる客や従業員に日本人であることを理由に差別されていた彼女に店のオーナー(アレキサンダー・ハンター)は歌うことを勧めます。彼の「歌に罪はない。歌は人を殺さないが、人を救うことはできる。」 という言葉と、友人のホームパーティで出会ったスティーブの「忘れなきゃ前に進めない」という言葉に背中を押されて再びステージに立ったレイコですが、日本に残してきた夫からの手紙は一度も開封することなく箱に仕舞われていました。

2019年6月。レイコはあの店でオーナーと別れ・・・そう!冒頭のあのシーンです。ポストに届いた手紙は既に箱一杯になっています。スティーブを乗せたタクシーの運転手こそが彼女の夫の和雄でした。

忘れ物をしたと車を引き返させたスティーブは、マキに会いに行きました。
彼女は会社を辞めていました。味方になってくれようとしたわけを尋ねたスティーブに彼女は「部外者でいたくなかった、一緒に戦いたかった」と答えます。実は彼も会社を辞めていて、マキに映画は自費で製作するので力を貸して欲しいと頼みます。

被災地の人と作るべきと考えた彼は、以前出会った劇団をマキに紹介してもらい協力を頼みます。もっと3.11を知るべきというマキの助言に従いインタビューを続けるなかで、ボブやレイナ、以前インタビューした人たちも集まってきて撮影が始まりますが、またもや中傷記事がネットにあがり、疲れも出て現場の空気が険悪になります。そんな中、マキが持ってきたワサビ入りのスマイルボールを口に入れたスティーブとボブはむせ込み、その後で大笑いして、撮影は明るく再開されます。そして数日後無事クランクアップを迎えます。

2019年12月。和雄のタクシーに再び乗ったスティーブは、彼に映画を撮り終えたことを話し、この前の曲をリクエストします。映画のエンディングにこの曲を使おうと考えたのです。

マキは近藤を訪ね、ネットニュースの中傷記事は彼の仕業かと尋ねた後で、自主上映会に招待します。

2020年2月。
手紙を入れた箱は蓋がしまらなくなるほどになっていて、レイコは遂に手紙を開封します。「お前の歌が聴きたい。待っている。」と書かれた手紙やスティーブの作った映画のことが書かれた手紙もありました。

自主上映会に近藤もやってきました。
映画は、首をつろうとした男が、寝ぼけた少年の立ションや、料理の匂いにつられて思いとどまり、もちに混ぜられたワサビに大笑いする人々の姿を見るうちに笑えるようになります。
ある日、ニンジャの絵本を読みながらニンジャは困った人を助けるヒーローだ と言った少年の父親ががれきの下から見つかり、少年はふさぎ込みニンジャはお父さんを助けてくれなかったと泣き出します。

翌日、5人の大人がニンジャに扮して、コメディショーを始めました。それを見て笑う人々の中に少年もいました。エンディングに流れるレイコの歌声。レイコ本人もネットで流れる画面を見ながら涙していました。

近藤は笑顔の観客を見て、マキに何も言わずに帰っていきました。

客席にマスク姿が多かったと言うスティーブに、マキは新型感染症のことを教えます。

2020年3月11日。
フリーになって初の取材相手にマキはスティーブを選びオンラインで話しています。世界が大変な状況になったことを話たあと、映画をオンラインにアップした理由を聞いたマキに、「この映画は困難に立たされた人間を描いている。世界は困難に直面している今、何かに役立つかもしれない。今日は3月11日。もうすぐ14時46分だ。この瞬間だけは忘れない。大切な人を想うとき、俺は笑ってこの瞬間を迎えたい。」と答えるスティーブ。

ロスでは、閉店した店を借りてレイコが配信していました。彼女は息子を震災で亡くした傷から逃げるように夫と離れアメリカに来た事、でも事態が収束したら日本に戻りたいと思っていることを話します。その画面をマキ、スティーブ。和雄が見つめていました。レイコは10年ぶりに書き下ろした新曲を「これが私の黙禱」と言って歌い始めるのでした。

スティーブは当初はドキュメンタリーに食指が動かず、ニンジャ映画で誤魔化そうとしていましたが、被災地の人たちにインタビューし、実際の映像に触れる中で気持ちに変化が生じます。彼もまたロス地震で愛する人を喪った傷を抱えていたことも大きかったのでしょう。
部外者が面白おかしく映画を作ると誤解した近藤は中傷記事を流しますが、出来上がった映画を観て考えを改めたことがその表情から伝わってきたのも良かったです。

重い題材ですが、だからこそ風化させてはならないという想いが伝わってきます。誰かと繋がり笑うことで前を向いて生きていけると教えられた気がしました。
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