杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

2021年07月17日 | 

阿部智里 (著)文春文庫

「どうあったって、成就することのない恋だ。さっさと諦めて、楽になってしまいたかった」―身分違いゆえに深く秘めた想い、愛する人の窮地を救うための切ない嘘、自らの命をかけた覚悟の恋が、異世界「山内」の歴史の流れの中で宝石のように煌めく。大ヒットファンタジー「八咫烏シリーズ」本編では語られなかった、あの人の物語。(「BOOK」データベースより)

 

シリーズの主役級から名もない里烏まで、秘めた想いが溢れ出るエピソードが詰まっています。

「しのぶひと」は雪哉の勁草院2年目、草牙時代にあった縁談にまつわるお話。端午の節句で行われた神事の花形射手を務めた雪哉を見てその成長に驚く真赭の薄に来た思いがけない縁談。還俗して女の幸せをと願う浜木綿や若宮に澄尾が雪哉を推したのです。雪哉に対して弟以上の感情を持ちえなかった真赭の薄は激高し、澄尾に怒りを爆発させます。でも彼の自分への気持ちには気付かないんですね 

「すみのさくら」は浜木綿が入内にあたり義妹に見せた態度の理由が、彼女の過去から語られます。南家当主の姫として将来は長束の后にと育てられていた墨子(浜木綿の本名)ですが、ある日突然攫われるように連れ去られます。身分を剥奪され、山烏の孤児たちと暮らすようになった墨子はそこで両親の死の真相を知ることになります。若宮の母の死に関わった両親の墓には花すら供えられることもなかったある日、宗家の若宮と出会い、自分の母を殺した者の墓参りをする若宮に心惹かれた墨子は若宮と友達になるのね。彼女の両親ははめられたのではないかということも亡き母の羽母から聞かされた墨子は、南家の思惑に逆らい若宮のために働こうと入内を決意していたことがわかるエピソードです。

「まつばちりて」は「烏は主を選ばない」に登場する秘書官の松韻が主人公。
谷間の女郎が生んだまつは、才を認められて落女(女としての生を捨てて男として生きること)となり大紫の御前の藤宮連に加わります。大紫の御前の恩に報いようと固く忠誠心を誓った彼女の前に一人の男が現れ、激しく対立するのですが・・・大紫の御前は、自分が求めて得られなかった「愛」に対する嫉妬心が強い女性だということが夫である金烏代の口から語られる場面では、金烏代の諦観がにじみ出ています。本シリーズでは金烏代の不甲斐なさばかりが強調されていますが、そうなってしまった理由は過去の恋愛にあるのかな?と思わせる場面です。松韻を慕う後輩(恋愛感情ですね)に陥れられ窮地に立たされた彼女を救うために、男は心にもない嘘を付きます。出世を諦め左遷された男の元に、松韻を見出した(育ての親のような存在ですね)宮烏が訪れます。男の真意に気付いた松韻は、卵(二人の子供)を守るため愛に殉じて死んでいったのです。彼女が残した卵を抱き締め慟哭する男の痛みが伝わってくるようでした。

「ふゆきにおもう」雪哉の実母にまつわるお話。

垂氷郷郷長の次男雪哉と三男雪稚が行方不明になり母の梓は必死で幼い二人を探します。
雪哉の実母は北家当主の姫君・冬木で、梓は彼女の侍女でした。身体は弱かったけれど怜悧な彼女は、自分が気に入った者しか傍に置かず、そうでない者に対しては冷淡だったため誤解されていましたが、本当は無垢な者には優しい女性だったのです。雪哉は母の性格をそっくり受け継いでいるのね 梓は冬木の数少ない理解者でした。そんな冬木が恋したのが雪正で梓も陰ながら応援しますが、嫁いだ冬木に子ができず、彼女の望みだと言われて梓が側室になり、雪馬が生まれます。ところが冬木が乗り込んできて大騒ぎに!梓を側室にと望んだのは冬木ではなく彼女の母が仕組んだことで、さらに雪正からはそもそも冬木ではなく梓を妻にと望んでいたと明かされるのです。騒ぎの後、冬木は雪正に強引に迫り卵を産んで死んでしまいます。後妻となった梓は分け隔てなく雪哉を育ててきたのですが、口さがない者たちからいつしか雪哉は事情を察していたのね。彼の捻くれた性質はむしろ幼い頃の周囲の心ない陰口の影響大かも。雪哉に裏表があることを行方不明事件が起こって初めて知った梓は、同時に冬木が起こした騒動の真意に気が付くのです。賢い冬木は自分が雪正に好かれていないことを承知の上で、それでも自分が愛した人の子供を生きた証に望んだのでしょう。哀しくて強い決意のもとに雪哉は生まれてきたのね。これもまさしく母の愛 そのことに雪哉が気付く日は来るのかしら?そして幼い兄弟を助けたのは先の金烏?空間の綻びを繕うことができるのは金烏代ではないよね??

 

「ゆきやのせみ」は「黄金の烏」と「空棺の烏」の間のエピソードで、外伝の中でもコミカルでほっと一息つける一作です。

地方巡啓で南領にやってきた若宮と護衛の澄尾、雪哉ですが、若宮の放浪癖が祟り、食い逃げの濡れ衣を着せられて若宮と澄尾が投獄されてしまいます。若宮は浜木綿が身分を偽っていた時に使っていた「墨丸」の名前で色々しでかしていたので、それがばれると非常に拙い立場になるという。若宮を捜しにきた雪哉は不承不承ながら真犯人を探し出して二人を解放しますが、そこへ南家当主がやってきます。正体バレバレですが隠し通すため逃げ出した若宮と雪哉は、追手をかわすためと徒歩で山越えをしますが、その途中空腹のあまり蝉を食べようとする若宮の毒見のため、蝉を食べさせられた雪哉。無邪気に「口から蝉の足が出てる」と指摘する若宮に殴りかかる雪哉の気持ち、わかるわかる

 

「わらうひと」は、完結編から半年後の出来事。
ある日、義手義足をつけた澄尾が彼女の元にやってきて想いを伝えます。澄尾の自分に対する気持ちに気付いていた真赭の薄ですが、彼女の中でその答えは決まっていました。ところが、返事を聞いた途端「それでいい」とあっさり帰っていく澄尾に、自分なりに真剣に考えていた気持ちを侮辱されたと感じた彼女はまたまた怒ってしまいます。一方、千早は保護されている西家を出て谷間で暮らしたいという妹の結に猛反対し、心配した明留が姉の真赭の薄に助けを求めます。女同士、結の本心を聞いた真赭の薄は彼女の応援に回るのね。誰かの庇護の元にいれば幸せだと考える男と、自らの力で生きていきたいと望む女。結だけでなく真赭の薄の生き方にも共通します。千早に結の気持ちを伝えに出向いた真赭の薄は澄尾と出会い、彼の言葉の本心を聞き出します。初めは高慢な宮烏の姫だと思っていた彼女の出家後の心持ちに惚れ、叶わぬ恋と知る故に何とか欠点を探そうとして逆に深みにはまった澄尾でしたが、その気持ちを必死に抑えてきました。でも生死の境をさまよう中で「手を握ってくださいませぬか」と口にしたことで想いがばれちゃったんですね。回復した時、彼は自らの気持ちを伝えることでその思いにけじめをつけようとしたのです。真赭の薄が澄尾という男の本当の姿とその影の努力に気付いて思わず呟いた「あなた、存外にいい男なのね」に反応して「やっとお気づきなさったか」と笑う澄尾。これは二人の関係もまた変わってくるのかしらん?

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