東野圭吾(著) 幻冬舎(刊)
遺体で発見された善良な弁護士。一人の男が殺害を自供し事件は解決――のはずだった。「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」
2017年東京、1984年愛知を繋ぐ、ある男の"告白"、その絶望――そして希望。「罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない」
私たちは未知なる迷宮に引き込まれる――。(アマゾン内容紹介より)
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事件は倉木達郎の自供で解決した筈でした。
「30年前の殺人事件の犯人として勾留中に自殺した容疑者は実は冤罪で、自分が犯人だった。」という衝撃の告白に続いて、「贖罪のため、自分の遺産をその家族へ相続する相談をした白石弁護士から、その家族に真実を告白すべきだと追い詰められて殺害した」との自供内容は理路整然として矛盾も見つからなかったため、警察は彼を犯人と断定し、検察も起訴しようとします。
けれど、倉木の息子の和真と白石健介の娘の美令は、その自供内容に疑問を持ちます。 それぞれの父親の性格や人となりと異なると感じた点を、和真は父の国選弁護士に、美令は検察に伝えますが、どちらも取り合ってくれません。全ては裁判を有利に進めることしか考えておらず、2人が感じた疑問は些末な事と思っているんですね。
取り合ってくれないことに苛立ちを感じていた和真と美令が、 偶然事件現場で出会ったことで動きが生じます。容疑者の息子と被害者の娘、本来なら敵対する立場でありながら、真実を知りたいという共通の想いが2人を突き動かしていきます。
調査を進めるうちに、倉木の自供の信憑性が揺らいでいき、彼が嘘の自供をしている疑いが濃厚になります。死刑を覚悟で殺人の罪を被る理由がわからず、その動機を探る中で、やがて驚愕の事実に辿り着く2人。
タイトルは加害者家族と被害者家族という立場を示しているのかと思いますが、最終的にその立場が逆転するというどんでん返しが待っていました。
過去の事件で倉木が犯した過ちが全ての発端となっています。そして今回の事件で彼は同じ過ちを繰り返すのです。彼は確かに実直で誠実な人柄なのかもしれないけれど、結局我が身可愛さが勝っていたのだと感じました。過去の事件が時効を迎えていて、さらに自分の死期を自覚したとはいえ、息子に待ち受ける過酷な運命に対する配慮が足りないぞ。世間の酷薄さや興味本位な悪意に満ちたネット民の描写も抑え気味ながら当世事情を映し出していました。
過去の事件の犯人については徐々に推察できてくるのですが、白石殺害の真犯人はちょっと意外でした。その「復讐」に名を借りた「自己満足な動機」の方が遥に怖いぞ。
真実を探す中で和真と美令の間に生まれたのは連帯感以上の感情です。驚愕の真相に動揺しながらも毅然とした態度で臨む美令は本当に強い女性です。事件から一年半後に再会する2人のその後に希望を感じる結末でした。
事件の舞台となる門前仲町のコーヒーショップや炉端焼き店、自殺した容疑者遺族が営む「あすなろ」という小料理屋の美味しそうな料理や、富岡八幡宮、墨田川テラスの描写も情景が頭に浮かぶようでした。