杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

追憶の烏

2022年01月19日 | 

阿部智里(著)文藝春秋(出版)

若き日に誓った忠誠、悲しきその行方はー山内で一体何が起こっていたのか!?衝撃の真実がついに明かされる。(「BOOK」データベースより)

 

『楽園の烏』でキャラ激変に驚いた雪哉君。彼が冷徹な「博陸侯」になった経緯が語られます。

時系列として『弥栄の烏』から数年後。金鳥を継いだ奈月彦は、滅びゆく山内の将来を思い、娘の紫苑の宮を後継者に立てようと考えていました。新年の儀で紫苑の宮をお披露目し、東領から誘いを受けた花祭りに雪哉と行かせます。紫苑の宮は愛らしいだけでなく、聡明さと思慮深さも備えた小さな淑女として描かれます。雪哉はこの時、東家の新当主である青嗣と酒を酌み交わすのですが、青嗣が「父親とは違う道を行く」と雪哉に話した真意が明らかになる衝撃の展開を、この時は予想だに出来ませんでした 健気に留守番をしていた紫苑の宮を連れて満開の桜を眺める雪哉。この夜が彼の運命の分かれ道だったのね。

山内の崩壊に備えて人間界での共存の可能性を考えた奈月彦は、一足先に留学から戻った千早と交代で雪哉を外界に留学させます。しかし一年後、この留学は突然打ち切られることになるのです。

一報を受けて戻った雪哉が目にしたのは、人形に戻る途中で息絶えた奈月彦の遺体です。「なんで死んでやがんだ、コイツは。」は彼の偽らざる本音ですね。親友を喪った時同様、あまりにも深い衝撃を受けると彼は「感情」を無意識に封じ込めてしまうようです。奈月彦を守って明留も斬殺されますが、その酷い死に方が犯人特定に繋がっていくんですね。

暗殺の黒幕ははっきりしています。長年奈月彦の命を狙っていた紫雲の院(大紫の御前)です。彼女は自分に足がつかないよう周到に計画を練っていましたが、他人の感情まではコントロールできないのが世の常。しかし、まさか奈月彦を刺したのが実妹の藤浪の宮とは!!彼女は『烏に単は似合わない』で登場して以降、出番無かったのに・・・。

藤波の宮が何故?という疑問は、大紫の御前の配下の藤宮連だった瀧本の回想で解かれていきます。藤波の宮という女性の資質が問われるところではあるけれど、彼女の教育係として瀧本がもっと心を砕き受け入れ愛してあげられていたら悲劇は起こらなかったのかもと思わされます。いや、愛しいと思うからこそ、彼女が十六夜やあせびに懐いて自分を拒絶していると思い込み突き放してしまったのかも。それでも最後は愛する主を抱いて離れようとしなかった、そこに瀧本の本当の想いが現れていました。彼女は黒幕が紫雲の院だと証言し、遂にかの悪女の運も尽き果てます。

奈月彦の死で紫苑の宮の世継ぎ問題は暗礁に乗り上げます。元々女金烏を周囲に認めさせるには長い時間と回しが必要だたから。何だか今の皇室の状況を連想させるんですが

奈月彦の(凡庸な)父が代打で金烏代を務め、日嗣の御子は長束で決まりかと思っていたら、彼が指名したのが、あせびとの間に出来たまだ幼い息子(長束や奈月彦にとっては弟になる存在)でした。確かに『烏に単は似合わない』で彼は十六夜に似た(娘なのだから当然ですが)あせびにご執心だったけど、まさかこんな形で再登場するとは!

終わってみれば、奈月彦や雪哉が気付かなかったその裏で、貴族たちの政権闘争が着々をなされていたわけです。

あせびを先帝に近づけ、新たな金烏となる子をもうける・・・大紫の御前の「息子を金烏に」という執着を隠れ蓑にした東家と南家の陰謀だったという何ともドロドロした、まさにお貴族様が考えそうな筋書きです。

そういえば、大紫の御前は実弟の融を愛していて、彼女が初めの頃藤波の宮に優しくしていたのは、彼女が奈月彦を想う気持ちに気付いていたからなんですね。叶わぬ想いを持つ者同士だったのですが、藤波の宮が他の男に心を移しそうになった途端、彼女を突き放し、果ては利用しようとしたのです。ところが、その大紫の御前自身が、融からは嫌われ見離されていたのね それに気づいた時、彼女の心もまた折れたのです。

雪哉は、奈月彦と頑張ってきた政策が失敗したことを悟ります。4大貴族たちは、『弥栄の烏』で猿対策のために犠牲を払ったことや、その後のやり方に不満を募らせていたのです。「山内の危機を共に乗り越えよう」と言われても、莫大な資金や人材を提供することを強いられて先が見えなければ、彼らが不満を持つのも当然ですね。 遅まきながら事態を把握した雪哉は、西家と手を結んで戦をしようと逸る北家当主を言葉巧みに抑えます。

奈月彦の遺言の内容も雪哉の心に変化を生じさせたのは間違いありません。自分ではなく皇后(浜木綿)の方を信じていた主の本心を知り、また浜木綿からも雪哉が見ていたのは金烏としての奈月彦だと言われ、その瞬間、彼の心が決まったのかな。

浜木綿と紫苑の宮は逃亡し行方知らずに。また『黄金の烏』で出てきた小梅が東家の下女として再登場しますが、彼女も今後のキーポイントになるのかな?真赭の薄は登場しないのですが、彼女と元山内衆の澄尾との間に生まれた双子の葵と茜がいて、茜の方は紫苑の宮の遊び相手として出てきました。しかしラストで、成長した葵が雪哉=博陸侯の前に現れるのです。しかしその容貌は亡き奈月彦に瓜二つ・・・果たして彼女の正体は?続編が楽しみです。

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