杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

くもをさがす

2024年07月10日 | 
西 加奈子 (著) 河出書房新社(刊)

カナダでがんになった。あなたに、これを読んでほしいと思った。
これは、たったひとりの「あなた」への物語ーー祈りと決意に満ちた、西加奈子初のノンフィクション
『くもをさがす』は、2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8 ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品。カナダでの闘病中に抱いた病、治療への恐怖と絶望、家族や友人たちへの溢れる思いと、時折訪れる幸福と歓喜の瞬間――。切なく、時に可笑しい、「あなた」に向けて綴られた、誰もが心を揺さぶられる傑作です。(内容紹介より)
 
目次
1. 蜘蛛と何か/誰か
2. 猫よ、こんなにも無防備な私を
3. 身体は、みじめさの中で
4. 手術だ、Get out of my way
5. 日本、私の自由は
6. 息をしている
終わりに

タイトルの「くも」は蜘蛛なのね~。胃がんで亡くなった祖母が蜘蛛になって見守ってくれていると信じてさがすようになったことから付けられたそうです。
言葉の不自由な外国で発病し闘病することになった筆者が、自分の思いを日記に綴っていたものを本にしています。

カナダと日本の医療制度の違いにまず驚かされました。
国民皆保険制度の日本とは違い、ファミリードクターを介して専門医に紹介されるシステムで、ファミリードクターがいない場合はウォークインクリニックに行ってそこから専門医にということになるらしいのですが、まずは予約を取らなければならず、すぐに対応してもらえるわけではない😟 緊急を要するときは救急に行くことになるけれど、めっちゃ混んでる・・らしい。

筆者は蜘蛛に噛まれた発疹がきっかけで癌が発覚しますが、告知は電話です。
トリネガと分かり、抗がん剤治療を開始するまでにも時間がかかっていて、その間に癌も大きくなっていました。当時はコロナが世界に蔓延していたことも影響していました。(日本でも緊急性のない手術や治療は控えられた時期があったっけ。)

「まさか自分が」「なんで自分が」は告知された人が最初に感じる思いです。
何か悪いことをしたから?と自分を責め、何が原因なのかと悩んだりします。
筆者が「誰にも起こることが、たまたま自分に起こったのだ」と考え、現状を受け容れ治療を前向きに捉える姿勢がとても好ましく映りました。

慣れない異国ではあるけれど、彼女はとても良い医師や看護士に恵まれました。更に大勢の隣人や友人が手を差し伸べてくれました。
それはもう羨ましいくらいに😊 

深刻な状況なのに医療スタッフや友人たちとの会話が全て関西弁になっているため、何だか脱力というかユーモラスに感じてしまいます。医療スタッフも「可哀想な癌患者」ではなく友達みたいに気さくに接しています。

飼い猫の病気や娘の熱痙攣、家族でコロナ陽性などなど、抗がん剤治療が始まってからも沢山のトラブルが起こりますが、そんな時、彼女は本や歌の中から自分の思いに寄り添う文章や言葉を思い浮かべています。その引用の多くは正直知らないものばかりでしたが、同じ状況の中にいる人にはきっと心を打つフレーズが沢山あると思います。

抗がん剤の効果があって腫瘍が小さくなり、手術を受けるのですが、これが驚きの当日退院。遺伝子検査の結果予防的措置で両方の乳房を切除するのですが、ドレーンをつけたまま日帰りなんです。日本なら一週間程度の入院ですよ。

コロナ禍の中、日本に一時帰国することになった時には、検査の結果が出るまでの不安な思いが書かれます。そういえば入国時の隔離措置とかもあったな~~。

カナダに帰ってから放射線治療を経て治療終了となり、やりたかったことを満喫する筆者ですが、治療中に感じていた「恐怖」とは別の怖さを自覚します。「まだ怖いねん」に、本当にこれで終わりなの?再発とかないの?という不安を感じてしまいます。この感情もまたがんサバイバー共通の思いじゃないかなぁ。

カナダ人看護師の「あなたの体のボスはあなただから何をするしないはあなたが決めるのよ」という言葉がとても印象に残りました。
日本では、癌になったというだけで「可哀想」という目で見られ、仕事や行動も知らず知らずのうちに制限を受け(あるいは自分で線引きをし)てしまいます。でもどんな治療を選択するか、どういう風に生きていくかはその人自身が選び決めて良いのだと改めて感じました。

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