杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

九十八歳。戦いやまず日は暮れず

2024年07月28日 | 
佐藤愛子(著) 小学館(発行)

草笛光子さん主演の映画『九十歳。何がめでたい』の原作は、『九十歳。何がめでたい』と、その続編である本作。90歳を超えて刊行した『九十歳。何がめでたい』がなんと2017年の年間ベストセラー第1位になるほどの大ヒット。にわかに忙しくなった愛子センセイはヘトヘトの果てに昏倒!? 

タイトルは、1969年に発売された直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』の本歌取り。夫が作った莫大な借金をひとり背負い込んで奮闘する妻(=佐藤センセイ)の姿を活写し、愛子センセイが世に出るきっかけになった代表作の一つです。それから半世紀以上を経て、作家人生最後の一冊として発売した本エッセイ集のタイトルに『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』と付けたのは、こんな年になっても戦いは終わらず、日も暮れていない――。愛子センセイが長い人生を生きて来た実感です。愛子センセイがヘトヘトになりながら綴った抱腹絶倒のエッセイや林真理子さんや綿矢りささんとの対談をご堪能ください。(内容紹介より)

目次
こうしてソレは始まった
ヘトヘトの果
どこまでつづくヘトヘトぞ
桃食ったむくい
なんでこうなる?
時は流れぬ
お尻の役目
算数バカの冒険
無精の咎
今になってしみじみと
前向き横向き正面向き
嘘は才能か?
ブルンブルン体操
小さなマスク
みいれなのか ねのね
思い出考
マグロの気持
千代女外伝
「ハハーン」のいろいろ
釈然としない話
さようなら、みなさん

前作に続いて、映画でもいくつかのエピソード(病院での検査前の注意事項を知らずに出直した件など)が登場しています。

人生相談の話では佐藤先生ならではの回答「あなたの弁当はおそらくまずいのです」に思わず納得しちゃいました。

若い頃の話の中で、嘘を付けずに困った話で孫の「いい馴れていればすぐに出てくる」におぃおぃ!と思いながらも逆に嘘をつけなかった純真な少女時代の筆者を思い浮かべてしまいました。

森さんの「女性が多いと会議の進行に時間がかかる」 発言やアベノマスクの話では、世間からバッシングを受ける中で感じた思いについて書かれていますが、戦争を経験した世代から見たら、今の安易に同調する世相に眉を顰める気持ちが伝わってきます。

目にも耳にも衰えがきて、身体にもきて、遂には精神的にもヘロヘロになったという筆者の、最後は断筆宣言で終わります。現在は100歳を超えていらっしゃるそうですが、「書かないと死ぬ」体質らしいのでまた何かの機会に作品が発表されるかもですね。世間に公表しなくても日記は続けていそう😊 

文庫化された本作では、林真理子さんや綿矢りささんとの対談、爆笑エッセイや群ようこさんの寄稿を新たに収録されていて、今は亡き文学仲間との話や人生の意味などについても語られています。
対談でのやりとりを読むと、至極真っ当、といったら失礼かもですが、エッセイに投影されるキャラとはまた少し違って、穏当で誠実な人柄がうかがえました。😀

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白鳥とコウモリ

2024年07月27日 | 
東野圭吾(著) 幻冬舎(刊)

遺体で発見された善良な弁護士。一人の男が殺害を自供し事件は解決――のはずだった。「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」
2017年東京、1984年愛知を繋ぐ、ある男の"告白"、その絶望――そして希望。「罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない」
私たちは未知なる迷宮に引き込まれる――。(アマゾン内容紹介より)


事件は倉木達郎の自供で解決した筈でした。
「30年前の殺人事件の犯人として勾留中に自殺した容疑者は実は冤罪で、自分が犯人だった。」という衝撃の告白に続いて、「贖罪のため、自分の遺産をその家族へ相続する相談をした白石弁護士から、その家族に真実を告白すべきだと追い詰められて殺害した」との自供内容は理路整然として矛盾も見つからなかったため、警察は彼を犯人と断定し、検察も起訴しようとします。

けれど、倉木の息子の和真と白石健介の娘の美令は、その自供内容に疑問を持ちます。 それぞれの父親の性格や人となりと異なると感じた点を、和真は父の国選弁護士に、美令は検察に伝えますが、どちらも取り合ってくれません。全ては裁判を有利に進めることしか考えておらず、2人が感じた疑問は些末な事と思っているんですね。

取り合ってくれないことに苛立ちを感じていた和真と美令が、 偶然事件現場で出会ったことで動きが生じます。容疑者の息子と被害者の娘、本来なら敵対する立場でありながら、真実を知りたいという共通の想いが2人を突き動かしていきます。

調査を進めるうちに、倉木の自供の信憑性が揺らいでいき、彼が嘘の自供をしている疑いが濃厚になります。死刑を覚悟で殺人の罪を被る理由がわからず、その動機を探る中で、やがて驚愕の事実に辿り着く2人。

 タイトルは加害者家族と被害者家族という立場を示しているのかと思いますが、最終的にその立場が逆転するというどんでん返しが待っていました。

過去の事件で倉木が犯した過ちが全ての発端となっています。そして今回の事件で彼は同じ過ちを繰り返すのです。彼は確かに実直で誠実な人柄なのかもしれないけれど、結局我が身可愛さが勝っていたのだと感じました。過去の事件が時効を迎えていて、さらに自分の死期を自覚したとはいえ、息子に待ち受ける過酷な運命に対する配慮が足りないぞ。世間の酷薄さや興味本位な悪意に満ちたネット民の描写も抑え気味ながら当世事情を映し出していました。

過去の事件の犯人については徐々に推察できてくるのですが、白石殺害の真犯人はちょっと意外でした。その「復讐」に名を借りた「自己満足な動機」の方が遥に怖いぞ。

真実を探す中で和真と美令の間に生まれたのは連帯感以上の感情です。驚愕の真相に動揺しながらも毅然とした態度で臨む美令は本当に強い女性です。事件から一年半後に再会する2人のその後に希望を感じる結末でした。

事件の舞台となる門前仲町のコーヒーショップや炉端焼き店、自殺した容疑者遺族が営む「あすなろ」という小料理屋の美味しそうな料理や、富岡八幡宮、墨田川テラスの描写も情景が頭に浮かぶようでした。

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もしも徳川家康が総理大臣になったら

2024年07月26日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年7月26日公開 110分 G

ピンチだよ、偉人集合! 最強ヒーロー内閣、ここに爆誕!!
時は2020年、コロナウィルスが猛威を振るい日常を奪われた日本。
国内どころか世界中が大混乱に陥る中、首相官邸でクラスターが発生、あろうことか総理大臣が急死。そこで政府が実行した最終手段、それは「AI・ホログラムにより歴史上の偉人たちを復活させ、最強内閣をつくる」という前代未聞の計画だった。総理大臣を託されたのは“江戸幕府を作り上げた伝説の男”徳川家康(野村萬斎)。そして、日本史に燦然と輝く大スターたちが議員バッジをつけて入閣。官房長官を“幕末の風雲児”坂本龍馬(赤楚衛二)、経済産業大臣を“最強にして最恐の革命家”織田信長(GACKT)、財務大臣を“空前の成り上がり者”豊臣秀吉(竹中直人)、ほかにも紫式部(観月ありさ)、聖徳太子(長井短)、北条政子(江口のりこ)、徳川吉宗(髙嶋政宏)、徳川綱吉(池田鉄洋)、足利義満(小手伸也)など通称≪偉人ジャーズ≫によるドリームチーム内閣が誕生する。圧倒的なカリスマに加え、政策を推し進める“えげつない”実行力に人々は驚愕し、日本中が熱狂していく。そんな中、テレビ局の新人記者・西村理沙(浜辺美波)はスクープを取ろうと政府のスポークスマンである坂本龍馬に近づくのだが、ひょんなことから偉人ジャーズの活躍の裏に渦巻く黒い思惑に気付いてしまう――果たして、陰謀の正体とは?
そして、日本史に新たに刻まれる“事件”の真相とは?!(公式HPより)

2021年に出版された同名ビジネス小説を原作に、AIで復活した偉人たちによる最強ヒーロー内閣の活躍を描いたコメディ作品です。
監督は「テルマエ・ロマエ」の武内英樹で、「翔んで埼玉」でも武内監督と組んだ徳永友一が脚本を担当ということで、猛暑を吹っ飛ばすような笑いを期待して観たのですが・・・
ちなみに音楽は『翔んで埼玉』のFace 2 fAKEが担当しています。

確かに前半は単純に笑えましたが、信長が消されたあたりから何だか雲行きが怪しくなり、秀吉の野望を食い止めようとする偉人ジャーズの裏工作はわかりやすかったし、家康と秀吉の長台詞は説教臭く聞こえてしまって、素直に楽しめなかったかな。二人の演説の内容が耳に痛いというか、普段感じている自己嫌悪を指摘されたからなのか。😔 

政府・日本党幹事長の御子柴学(酒向芳)がAIとホログラムを使って歴史上の偉人たちを復活させるという荒唐無稽な発想は面白い。でも何故このメンバー?という多少の疑問も残ります😁 

互いに遺恨を持たないようコントロールされている筈でしたが、秀吉のバグを取り除けないまま発動されたというのが真相ですが、他の偉人たちは純粋に日本の現状を憂い、何とか救おうと動いています。
それぞれのキャラと大臣職はマッチしていて、特に秀吉の現ナマばらまき政策はインパクトあります。また信長のカリスマ性も演じているのがGACKTということもあり惹きつけられました。😍 
犬公方と揶揄されてきた綱吉が厚生労働大臣としてワクチン開発に力を注いだり、吉宗(農林水産大臣)が「俺は暴れん坊ではない」と嘆きながらも農業政策を推し進めたりします。
総務大臣の北条政子はインフルエンサーとして、足利義満は語学堪能な外務大臣(でも「金」大好きは変わっていない😁 )、聖徳太子は法務大臣で法整備に勤しみながら記者団の一斉に浴びせられる質問全てに対応します。まさに一度二十人の声を聞き分けているわけね。😲 紫式部は文部科学大臣として教育支援(源氏物語が教材というのは難ありな気もしますが😥

信長・秀吉・家康が主軸ではありますが、家康を支える官房長官の龍馬と新人記者の西村がストーリーテラーの役割を果たしていました。
秀吉の配下の石田三成(音尾琢真 )と官僚の吉田(足立英)も良い働きしてくれます😀 龍馬と土方歳三(山本耕史)が手を組んでいるのも面白い。

日本人の素直な国民性と言えば聞こえが良いが、情報に踊らされ流される主体性の無さを強烈に当てこすっているのがいっそ小気味よい・・・?
テレビ局政治部部長の森本(梶原善)や、情報バラエティ番組司会者(小籔千豊)の軽薄さ加減も絶妙でした。

娯楽作でありながら、「今のままでよいのか?」という問題提起をしている作品でもあるようです。

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マスカレード・ゲーム

2024年07月21日 | 
東野圭吾(著) 集英社(刊)

解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する――。(内容紹介より)


東京で連続して起きた三件の殺人事件は、それぞれ単独の事件と思われていましたが、捜査を進めると、皆ナイフで刺されていることや被害者たちに前科があることが判明します。傷害罪で少年院を出たばかりの入江悠斗、懲役18年の刑期を終えて出所したばかりの高坂義弘、リベンジポルノで執行猶予付きの有罪判決を受けていた村山慎二です。

警部に昇進していた新田浩介は、先輩刑事の本宮と共に合同捜査に加わります。被害者を憎んでいると思われるそれぞれの関係者がホテル・コルテシア東京に宿泊することを知り、ホテル内での潜入捜査が決まります。過去二度の事件の捜査に協力していたホテル側は、「ホテル内のルールを順守すること」を条件に承諾。新田も再びフロントクラークとして不審人物の捜索にあたります。
同じく事件を担当する梓真尋警部は切れ者ですが、ホテルのルールを逸脱した強引な手法(盗聴や盗み撮り)をとり、新田と対立します。梓の部下になっていた能勢は彼女の優秀さを認めながらも危うさも指摘します。

支配人の藤木はロスのホテルに出向していた山岸尚美を急遽呼び寄せていました。山岸と新田は、事件に関する情報を共有します。
ホテルにチェックインした森元雅司(殺された母親の息子)と神谷良美(少年に殴られ植物状態となった後に死亡した息子の母親)、前島隆明 (リベンジポルノで自殺に追い込まれた娘の父親)の動向監視をする中、森元が「ファントムの会」(犯罪被害者の家族が集うネットフォーラム)の管理者であることが判明します。犯罪被害者たちの繋がりが浮かんだところで、ターゲットが長谷部奈央(恋人を刺殺したが薬物中毒下での心神喪失状態で不起訴 )の可能性が浮かび上がります。ホテルには彼女が殺した大畑誠也 の両親も宿泊していました。
新田と梓は協力して大畑夫婦を別々に聴取し、事件の真相に辿り着きます。
大畑、神谷、森元、前島らは、それぞれ会のメンバーの誰かが犯人ではないかと疑い、第四の殺人が起きるのを心配してホテルにやってきたのでした。
彼らは同じ境遇の仲間がいることで慰めを得、加害者の現状を知ることで彼らが本当に更生しているのか監視をしていましたが、彼らの死を望んでいたわけではありませんでした。

新田が偶然ホテルで再会した学生時代の友人の三輪葉月は、ヤメ検の弁護士になっていて、彼に宿泊客の情報を教えるよう頼んでいましたが、実は彼女は沢崎弓江こと長谷部奈央を案じてホテルにやってきたことがわかります。
奈央は犯行時の記憶が欠落していたため不起訴となっていましたが、罪の意識に苦しんでいました。仕事に行き詰まり鬱を発症して奈央と同じ施設で共同生活をしていた葉月は、奈央のために被害者の親(大畑)がどう感じているかを調べ、「ファントムの会」に自分のアドレスで接触させていたのです。このホテルを舞台に選んだのも、葉月が過去二度の事件の舞台がコルテシアだとの噂を耳にしていたからなのね。実は葉月こそが一連の事件の発端に思えました。まさに余計なお世話だったわけです。

「ファントムの会」のメンバーになり、被害者遺族の感情を知った奈央は、自分が代わって復讐することが贖罪になると信じ込んで3件の犯行に及び、最後に自分を殺すことで清算しようとしていました。新田は彼女を説得し自殺を直前で止めます。しかし、その際山岸が負傷してしまいます。

新田は息子を植物状態にした犯人が出所後もずっと罪を悔いて償いの気持ちを持っていたことを神谷に教えます。憎むべき相手を突然誰かに奪われた喪失感を抱え、彼が本当に更生しているのかを知りたかった彼女は、新田の話を聞いてやっと前に進むことができると喜びました。

事件解決後、違法捜査と民間人(山岸)を負傷させてしまった責任を取り警官を辞職した新田に、支配人の藤木は新設される警備部門のマネージャーを依頼するのでした。

シリーズ三作目で遂に新田は本当のホテルマンになるようです。
全ての舞台はホテル・コルテシア東京で、山岸とは良いバディ感を醸し出してきたのだから、続きがあるとしたらホテルの中の事件を警備員として解決することになるかも😁 

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九十歳。何がめでたい

2024年07月20日 | 
佐藤愛子 (著) 小学館(刊)

『女性セブン』に連載された、筆者自身の身体の変化や時代の進歩、悩める若い人たちへのエッセイに加筆修正を加えて刊行。

目次
こみ上げる憤怒の孤独
来るか?日本人総アホ時代
老いの夢
人生相談回答者失格
二つの誕生日
ソバプンの話
我ながら不気味な話
過ぎたるは及ばざるが如し
子供のキモチは
心配性の述懐
妄想作家
蜂のキモチ
お地蔵さんの申子
一億論評時代
グチャグチャ飯
覚悟のし方
懐かしいいたずら電話
思い出のドロボー
悔恨の記
懐旧の春
平和の落し穴
老残の悪夢
いちいちうるせえ
答は見つからない
テレビの魔力
私なりの苦労
私の今日この頃
おしまいの言葉

どっち?と問われれば筆者よりのお年頃としては、いちいち頷くことが多いネタに失笑・爆笑しながらサクッと読了しました。😁 
平成・令和世代には理解できなくても、衛生面の劇的な改善が生み出した弊害や、合理化で逆に不自由になった生活などなど昭和世代なら大半の人が思い当たることが多々ある筈で、筆者の猪突猛進で歯切れの良い言動に何だか元気をもらった気持ちになります。
歯に衣着せぬ物言いの奥にはしっかり芯の通った考えがあり、今ではタブーになっている事柄にもしっかり踏み込んでいるのが痛快です。

犬猫に与えていた残飯(グチャグチャ飯)は医学的見地からNGになっている現代ですが、昔はどこの家でも当たり前だったし、いたずら電話(エロ電話)もかかってきたっけ。それに対する撃退法も笑ったけれど、ナンバーディスプレイやら迷惑電話防止機能の普及でお目にかかれなくなりました。代わってオレオレ詐欺や投資詐欺の電話が後を絶たないけれど😣 

「何でも買い取ります」電話はしょっちゅうかかってきますが、時たま心惹かれることがありました。でもやっぱり「金・宝石・ブランド品」目当てなのね~と再確認。「何もありません」と即、断っていたのは正解なのだ!😁 

映画は本の内容をそこそこ忠実に再現しているのだなぁと思った次第です。
佐藤愛子先生の作品、実は一冊も読んだことがなく、TVに出演されていた番組も観ていないですが、この本を読んだだけでも人となりが浮かぶ気がします。😀

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彼方の友へ

2024年07月15日 | 
伊吹有喜(著) 実業之日本社(刊)

「友よ、最上のものを」戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。(内容紹介より)


実業之日本社創業120周年記念作品で、竹久夢二や中原淳一が活躍した少女雑誌「少女の友」(実業之日本社刊)の存在に著者が心を動かされて書かれたそうです。(この雑誌には川端康成や吉屋信子著の少女向け小説や中原淳一の叙情画、宝塚スターやファッション情報が載り、読者の投稿欄も賑わっていたそうです。)
本作の長谷川純司という画家はその中原淳一がモデルとなっていて、少女向けの雑誌を作り続けた編集者たちの姿が描かれています。

物語は戦前から戦後の激動の時代を生き抜いた一人の女性の回想形式で進みます。

昭和12年。
父が失踪し母も体調を崩したため進学を諦め西洋音楽の私塾で通いの内弟子として家事の手伝いをしながら学んでいた波津子は、父の遠い親戚の辰也の勧めで『乙女の友』大和之出版編集部に雑用係として働くことになります。この雑誌は昔から波津子の愛読書で、有賀主筆や叙情画家の長谷川純司は憧れの人でした。
古ぼけた銘仙の着物としめ縄のような三つ編み姿の波津子は、有賀や長谷川、翻訳詩人の霧島美蘭や同僚で明るい史絵里ら洗練された人々の中で孤独を感じますが、幼馴染の慎ちゃんから貰った付録のフローラ・ゲームのカードと『乙女の友』への熱い思いが支えとなって一生懸命に働きます。このカードの描写がとても素晴らしくて美しい花の絵が頭に浮かんできます。
萩野先生の原稿を取りに行った際の大胆な行動のエピソードを読むと、彼女が取り柄のない平凡な少女などではないことが推測されますね。
有賀は自分の監視のために彼女を付けられたと感じ、自分から辞めるよう冷たく当たりましたが、波津子の人柄と彼女の『乙女の友』愛を知り、傍に置くことにします。

昭和15年
編集部見習いとなった波津子。
バロンこと徳永先生の破廉恥な振る舞いのエピソードに失笑したのも束の間、空想小説家の空井先生に起きた恐ろしい出来事を通して戦争の足跡が迫って来るのを感じます。空井の開けた原稿の穴を埋めるために波津子の「お話」が掲載されて作家デビューしますが、美蘭は去っていきます。
読者との集い「友の会」では愛国少女からの非難や憲兵の居丈高な態度が書かれ胸が塞がります。

昭和18年
波津子を励まし手伝ってくれていた史絵里は結婚して編集部を去り、幼馴染の慎ちゃんも学徒動員で出兵、時世に合わないとの理由で降板 を余儀なくされた長谷川も有賀と袂を分かちます。更に有賀も岐路を迎えます。そこには辰也の影がありました。明示されていませんが、辰也は諜報機関の人間で、波津子の父の失踪にも彼が絡んでいたようです。
有賀の過去について(美蘭の妹サヤと婚約していたこと。サヤの死など)も明かされ、美蘭の強い想いには女の強さを感じました。

昭和20年
有賀の跡を継いで主筆となった波津子は、言論の規制や紙が不足していく出版業界の厳しさの中で、「友よ、最上のものを」を志しとしたこの雑誌を守り抜いていきます。彼女に反発していた浜田も、大空襲の折に波津子たちに助けられたことで変わります。表紙を担当していた画家の房江先生は、目の前で下宿先の母子が爆弾の直撃を受けて焼死したショックで東京を離れます。その描写がものすごくリアルで読んでいて苦しくなりました。

上里編集長は初めは有賀や波津子に辛くあたっているように見えましたが、実は誰よりも二人を認めていたことがわかってきます。
登場人物に悪人が一人も出てこないのも何だかホッとするというか嬉しい。

戦後、食料にも事欠く中で発行された『乙女の友』を大勢の本屋さんが仕入れに来る場面での「届けますよ、友たちへ」には涙が出ました。リュックに入れられ運ばれていく雑誌。「友」の背から「彼方の友」へ。タイトルはここからとられ、そしてこれしかない!と思わされました。

エピローグで老人ホームに波津子を訪ねてきた人たちの身元と彼女との思いがけない関係が明かされます。特に「あの一夜」で授かったであろう有賀と美蘭の子孫の話から、フランスに渡った長谷川の思い(彼の有賀への想い)を知るとちょっと切なく、同時に温かい気持ちにさせられました。
そして有賀と波津子に通じる五線譜の暗号。有賀から彼方の友へ、ディア波津子、シンシアリィ、ユアズ(親愛なる波津子 私は永遠にあなたのもの。)二人はプラトニックな関係でしたが誰よりも深く想い合っていたことがわかります。もうね~これって最高の愛の言葉です。
あ、タイトルは有賀の「彼方の友=波津子」への想いも込められているのかな。



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キングダム 大将軍の帰還

2024年07月12日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年7月12日公開 145分 G

秦と趙の全てを懸けた<馬陽の戦い>で、敵将を討った信(山﨑賢人)と仲間たちの前に突如として現れた、その存在が隠されていた趙国の総大将・龐煖(吉川晃司)。自らを<武神>と名乗る龐煖の圧倒的な力の前に、次々と命を落としていく飛信隊の仲間たち。致命傷を負った信を背負って、飛信隊は決死の脱出劇を試みる。「俺たちで、信を守り抜くんだ――。」
一方で戦局を見守っていた王騎(大沢たかお)は、趙軍の裏に潜むもう一人の化け物の存在を感じ取っていたが、劣勢を覆すべく最強の大将軍として再び戦地に舞い戻った。王騎と龐煖の過去の因縁とは?遠くから戦いを静観する軍師・李牧(小栗旬)の正体とは??今、因縁が絡み合う馬陽の地で忘れられない戦いが始まる――。(公式HPより)

 
春秋戦国時代の中国を舞台にした原泰久の漫画を実写映画化した「キングダム」シリーズの第4作です。山崎賢人、吉沢亮、長澤まさみ、大沢たかおらレギュラーキャストに加え、前作から参加した龐煖役の吉川晃司、李牧役の小栗旬らが続投しています。また新たに新木優子が謎多き武将・摎役で出演。監督も引き続き佐藤信介が務め、原作者の原も1作目から通して脚本に参加しています。

一作目から王騎押しとしては、今作は観ずに終われない!ってことで、初日初回を観てきました。観客も若者から高齢者まで幅広く、いつもは空き空きの客席も埋まっていて人気のほどがうかがえます。

龐煖の圧倒的な武力の前に倒れた信を飛信隊の皆が命がけで守って敗走します。信を背負った尾到はその途中で力尽きて亡くなってしまいます。村に残してきた恋人との絆を思わせるシーンに胸が痛くなりました。
翌朝、尾到の亡骸を背負って飛信隊と合流した信に尾平がかけた言葉も胸熱です。
王騎と合流したものの飛信隊の人数は半数以下になっていました。

一方、龐煖は趙荘(山本耕史)と合流し、蒙武軍と激戦を開始。
王騎の命令を破って敵の罠に嵌った蒙武を救うため、警戒しながらもスピードを上げて敵の本陣に突入した王騎は、龐煖と対決します。
両軍総大将の圧倒的な力と力の戦いの迫力に息を呑みます。
ここで秦国六大将軍の1人だった摎(新木優子)と王騎との関係や、彼女を無残に殺したのが龐煖であることが回想として流れます。王騎が長年胸に抱いてきた怒りを爆発させたその表情の凄まじさに圧倒され、遂に決着が近付いたその時、敵の援軍が押し寄せます。

その頃、王宮では楊端和(長澤まさみ)が嬴政 に、10万を超える騎馬民族を滅ぼしたのが趙軍軍師の李牧によるものだと警告をしていました。

馬陽の戦いも全ては王騎を倒すために李牧が考えたものだったのです。

不意打ちされて絶体絶命の危機に陥った自軍に、王騎は敵軍を倒しつつ逃亡を指示するのですが、敵の放った矢に乗じた龐煖に致命傷を負わされてしまいます。
満身創痍の王騎の前に愛馬が駆けつけます。信が手綱を握り王騎と共に敵陣を駆け抜け戦線離脱を図ります。
騎乗するだけでも相当に体力を消耗する筈なのに、背筋を伸ばし前方を見ながら信に大将の本質を説く王騎はひたすら恰好良かった!!

王騎の副将の騰(要潤)はこれまで完全な脇役に徹していましたが、今作ではその秘めた力を魅せてくれます。彼は敵総大将の趙荘(山本耕史)を取るや否や取って返して王騎の後を追うのね。

王騎のもとに集結した仲間たちを前に、王騎は軍を騰に託します。これまで王騎に反発してきた蒙武でしたが、今回の失敗は自分にあると詫びる彼にも助言を与えます。最後に信に将軍の資質を認めて自身の矛を託した天下の大将軍・王騎は馬上で息絶えるのでした。

信は顔を上げて馬陽を守ったと胸を張って帰還しようと皆に伝えます。王宮でも嬴政 が同じことを言い、正門を開けて迎えるよう指示を出していました。

もうね~~!今作の主役は間違いなく王騎ですよ!
リピートしたい作品はそうそうないのですが、これは何度も観たくなりますね。



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2024年07月10日 | 
西 加奈子 (著) 河出書房新社(刊)

カナダでがんになった。あなたに、これを読んでほしいと思った。
これは、たったひとりの「あなた」への物語ーー祈りと決意に満ちた、西加奈子初のノンフィクション
『くもをさがす』は、2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8 ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品。カナダでの闘病中に抱いた病、治療への恐怖と絶望、家族や友人たちへの溢れる思いと、時折訪れる幸福と歓喜の瞬間――。切なく、時に可笑しい、「あなた」に向けて綴られた、誰もが心を揺さぶられる傑作です。(内容紹介より)
 
目次
1. 蜘蛛と何か/誰か
2. 猫よ、こんなにも無防備な私を
3. 身体は、みじめさの中で
4. 手術だ、Get out of my way
5. 日本、私の自由は
6. 息をしている
終わりに

タイトルの「くも」は蜘蛛なのね~。胃がんで亡くなった祖母が蜘蛛になって見守ってくれていると信じてさがすようになったことから付けられたそうです。
言葉の不自由な外国で発病し闘病することになった筆者が、自分の思いを日記に綴っていたものを本にしています。

カナダと日本の医療制度の違いにまず驚かされました。
国民皆保険制度の日本とは違い、ファミリードクターを介して専門医に紹介されるシステムで、ファミリードクターがいない場合はウォークインクリニックに行ってそこから専門医にということになるらしいのですが、まずは予約を取らなければならず、すぐに対応してもらえるわけではない😟 緊急を要するときは救急に行くことになるけれど、めっちゃ混んでる・・らしい。

筆者は蜘蛛に噛まれた発疹がきっかけで癌が発覚しますが、告知は電話です。
トリネガと分かり、抗がん剤治療を開始するまでにも時間がかかっていて、その間に癌も大きくなっていました。当時はコロナが世界に蔓延していたことも影響していました。(日本でも緊急性のない手術や治療は控えられた時期があったっけ。)

「まさか自分が」「なんで自分が」は告知された人が最初に感じる思いです。
何か悪いことをしたから?と自分を責め、何が原因なのかと悩んだりします。
筆者が「誰にも起こることが、たまたま自分に起こったのだ」と考え、現状を受け容れ治療を前向きに捉える姿勢がとても好ましく映りました。

慣れない異国ではあるけれど、彼女はとても良い医師や看護士に恵まれました。更に大勢の隣人や友人が手を差し伸べてくれました。
それはもう羨ましいくらいに😊 

深刻な状況なのに医療スタッフや友人たちとの会話が全て関西弁になっているため、何だか脱力というかユーモラスに感じてしまいます。医療スタッフも「可哀想な癌患者」ではなく友達みたいに気さくに接しています。

飼い猫の病気や娘の熱痙攣、家族でコロナ陽性などなど、抗がん剤治療が始まってからも沢山のトラブルが起こりますが、そんな時、彼女は本や歌の中から自分の思いに寄り添う文章や言葉を思い浮かべています。その引用の多くは正直知らないものばかりでしたが、同じ状況の中にいる人にはきっと心を打つフレーズが沢山あると思います。

抗がん剤の効果があって腫瘍が小さくなり、手術を受けるのですが、これが驚きの当日退院。遺伝子検査の結果予防的措置で両方の乳房を切除するのですが、ドレーンをつけたまま日帰りなんです。日本なら一週間程度の入院ですよ。

コロナ禍の中、日本に一時帰国することになった時には、検査の結果が出るまでの不安な思いが書かれます。そういえば入国時の隔離措置とかもあったな~~。

カナダに帰ってから放射線治療を経て治療終了となり、やりたかったことを満喫する筆者ですが、治療中に感じていた「恐怖」とは別の怖さを自覚します。「まだ怖いねん」に、本当にこれで終わりなの?再発とかないの?という不安を感じてしまいます。この感情もまたがんサバイバー共通の思いじゃないかなぁ。

カナダ人看護師の「あなたの体のボスはあなただから何をするしないはあなたが決めるのよ」という言葉がとても印象に残りました。
日本では、癌になったというだけで「可哀想」という目で見られ、仕事や行動も知らず知らずのうちに制限を受け(あるいは自分で線引きをし)てしまいます。でもどんな治療を選択するか、どういう風に生きていくかはその人自身が選び決めて良いのだと改めて感じました。


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薬屋のひとりごと 10

2024年07月07日 | 
日向夏(著)イラスト (しのとうこ ) ヒーロー文庫

無事に西都に到着した猫猫。環境は変化しても仕事は相変わらずで、薬屋として、また医官手伝いとして働いていた。どこに行っても呑気なやぶ医者に、何を考えているかわからない新人医官・天祐。猫猫は、壬氏の火傷が二人にばれないようにとひやひやしながら西都での日々を過ごしていた。 壬氏もまた皇弟として政務をこなす毎日だが、西都側は壬氏を名前だけの権力者として扱っていた。そんな中、猫猫は農村部を視察するために連れて来られた羅半兄とともに農村へ行くことに。視察するにあたって、かつての羅漢の部下・陸孫が動いていることに気付く。彼は、中央とは異なる農村部のやり方に疑問を持っていた。一方、かつて起こった大蝗害の生き残りの老人と出会うのだが-----。


序話
都では玉葉が帝の離宮で西都から来た姪で同じ赤毛・碧眼を持つ雅琴 を温かく迎え入れます。

一話 二度目の西都
西都に着いた猫猫は、植生や生薬への好奇心を抑え、まずは自分の仕事に集中しようと思います。偶然陸孫に遭遇した猫猫は、彼が農村からの帰りと推測し気になります。

二話 上司と元上司
その陸孫は、帰るなり上司の玉鶯に呼ばれ、元上司の羅漢と再会します。相変わらずの羅漢の無茶ぶりに対応する彼の記憶力って、顔の認知能力だけじゃないのね😲

三話 別邸と忘れられた男
猫猫、やぶ医者、天祐、李白は玉袁の別邸に到着し、礼拝堂のような離れに設けられた医務室に案内されます。間違って配達された甘藷を探しにきた羅半兄と遭遇した猫猫は、彼が羅半に騙され連れて来られたと推測します。相変わらずの羅半兄の突っ込みが楽しい。そして本名は遂に名乗らせてもらえなかった彼に同情を覚えます。😁 
壬氏の手当ての際、猫猫は羅半兄の農村視察に同行する許可を得ます。

四・五話 馬閃青春記 前後編
月の君に命じられ、紅梅館(不老長寿を研究する道士の館)で家鴨の飼育の任務に就いた馬閃は、後宮から追放され、紅梅館で家鴨の世話をしている里樹元妃と再会し家鴨の孵化方法を教わることになります。現在の状況に満足し居場所を見つけた様子の里樹に戸惑いつつも、家鴨の飼育を通じて二人の間に新たな絆が生まれていきます。
姉の麻美の言葉に背中を押された馬閃は、西都への出発を前に共に西都へ行こうと里樹に口走ってしまいます。彼女は、今のままでは足手まといになると断り、待って欲しいと言います。馬閃は、任務から戻る時には、里樹が頼りにできるような男になると誓って再会を約束します。

六・七話 農村視察 前後編
猫猫たちから三日遅れて到着した馬閃の肩には家鴨の舒鳧がいます。孵化の際、最初に見たのが彼だったわけで刷り込みで親と認識しちゃったらしい😁 
この鳥、なかなかに賢い様子を見せ、次第にアイドルになっていくの😍 

二班に分かれて向かった猫猫・雀・馬閃ですが、途中で盗賊に襲われます。もちろん馬閃があっという間に倒しちゃうのですが、猫猫は盗賊を誘い出すために猫猫を囮に雀が仕組んだと推理します。これは月の君の考えではないこともね。
羅半兄が畑で土の状態を調べ、麦踏みがされていない状況に、村人たちが手を抜いていることを指摘します。唯一手入れされている畑の持ち主の念真の家を訪ねた一行は、彼の容姿と刀傷の多さに驚かされます。念真に自分が何者かを問われた猫猫は「生贄」と答えます。

八話 老人の昔話
念真の部族は遊牧民の中でも武闘派で略奪や人身売買をしていました。
五十年前、彼らの部族が草原の祭祀を任され手を出してはならない風読みの民を襲い蝗害が起きます。飢えに苦しんだ部族は崩壊し、戌の一族により農奴にされた念真たちは、風読みの民の祭事の真似事をさせられますが、それは不完全なものでした。やがて戌の一族が滅ぼされ農奴たちは解放されましたが、念真は村に残り祭事を行ってきたのでした。

九話 祀と祭
昔の祭事が実は農業の知恵(秋耕:土を掘り返して耕し、地中に埋まった害虫の卵の駆除)だったことが明らかになると、猫猫たちは、念真の助けを借りて祭事を村で再現し、村人たちにその重要性を再認識させます。

十話 結果報告
農村から帰った猫猫はやぶ医者によって少女趣味の装飾に変えられた自室に戸惑います。善かれと疑わないやぶを前に趣味じゃないとは言えないあたりが猫猫の優しさよね😊 
壬氏の部屋に出向いて農村視察の報告と感想を共有した猫猫は、その帰りに謎の白い面「飛頭蛮」を目撃します。

十一・十二話 飛頭蛮 前後編
飛頭蛮は雅琴が都に立った約二か月前から現れており、報告は面(顔)と首の二種に大別されます。昨夜飛頭蛮が出た場所に出向いた猫猫は、鳥の糞に気付いてその正体が梟だと推測します。馬閃と雀の協力で捕獲に成功したその梟はメンフクロウでその外見が怪異の原因だとされます。人の手から鶏肉を食べるこの梟は飼育されていたと思われました。猫猫は都への献上品として用意されていた梟が逃げ出し、それを捕まえようとした不審者がいると考えます。

十三話 風読みの民
逃げた面梟を捕まえようと変装していた不審者は、庫魯木(クルム)という十歳位の女の子で、華央州人の特徴がありました。鳥を野生に返すつもりで育てていたけれど父親に売られてしまったと説明した庫魯木に、猫猫は風読みの民について尋ねます。庫魯木は曽祖父が風読みの民であったことや、滅ぼされた後も鳥を育て鳥を使った連絡手段を持っていて、鷹狩りもしていたことを話します。風読みの民が完全には滅びていないこと、その伝統や技術が今も継承されていると考えた猫猫は、さらに庫魯木の口から彼女の父親と玉鶯の母との関係についても情報を得、風読みの民に関する調査を大きく前進させることができました。

十四話 おさらいと可能性
壬氏の部屋での報告は紅茶とクッキー付き。(猫猫は辛党なので塩煎餅😁
花嫁狩りや奴隷狩りに遭って滅んだとされる風読みの民の一部が生き残っていて、戌の一族に保護され、鳥を使った伝達手段を諜報活動に利用されていた可能性が高いとの考えを述べた猫猫は、その技術が砂欧に伝わった可能性についても指摘します。戌の一族が女帝に滅ぼされた理由も、風読みの民の裏切りによるものだと推測するのね。

十五話 貧乏籤
農業実習から帰還したばかりでへとへとの羅半兄でしたが、壬氏の依頼で二か月以内に全ての戌西州の農村地区で秋耕や芋の栽培の指導をすることになります。もちろん蝗害対策の一環ですが、壬氏の頼みを断れるわけないよね~~。😓 使える者は最大限に利用する為政者としての壬氏の顔が覗えます。
猫猫は羅半兄のために栄養剤を用意し湿布も持たせようとサポートします。
なんだかんだいっても心配してあげてる猫猫です。

十六話 つかの間の平穏
農業実習に旅立った羅半兄からの伝書鳩を使った手紙で農地の状況が報告され羅半兄の苦労と、鳩を使った情報尾伝達の便利さを実感する壬氏です。
麦の収穫時期に麦角と蝗害の有無を確認するため、農村へやってきた猫猫と陸孫の前に、急報が届けられます。線と乱雑に塗りつぶされた羅半の手紙は以前巫女に渡された絵を思い起こさせ、それが蝗害を意味することに猫猫は気付きます。

十七・十八話 災禍 前後編
警告を真剣に受け止めない村人たちも、念真の真剣さと陸孫の麦を相場の倍で買い取るという提案で目の色が変わり、急いで収穫に取り掛かります。炊き出しの準備と殺虫剤を作る猫猫。収穫が進む中、飛蝗の大群がやってきます。収穫物を安全な場所に避難させ、隙間を塞いで侵入を防ぎ、火を使わず家の中にいるよう触れて回る陸孫。馬閃は飛蝗を網で捕まえて殺しますが、パニックに陥った村人も出、恐怖から家の中で火を焚いて火事になる家も。
恐慌状態の中、除草剤を作り続けるうちに猫猫さえも平静ではいられなくなります。飛蝗の襲撃が激しさを増す中、雹が降り始め、雹乞いをする猫猫の頭に雹が当たって気を失います。 
いや~~この襲来の描写が凄くリアルで恐くなるほどです。😱 

十九話 爪痕
気絶から一日経って目覚めた猫猫。村は収穫の7割を確保することができ、猫猫の強力な殺虫剤は村人たちに毒薬、毒のねえちゃんと呼ばれます。😉 
西都に李白と帰還した猫猫。
陸孫の悲しい過去(賊に襲われ母と姉が殺された)も明かされます。

二十話 確認
西都に戻った猫猫は飛蝗の襲撃による混乱の跡を目の当たりにします。農民は生きるために駆除に躊躇いはないけれど、都会人はただただ恐怖なわけね。
壬氏は客の立場から直接手や口を出すことができませんが、持参した甘藷を玉鶯に贈り、彼はそれを炊き出しに供出することで民の人気を独占していました。淡々と自らの役目をこなす壬氏を複雑な思いで支える側近たちです。


終話
重鎮の妻たちを招いて茶会を開き、まだ後宮に入内していない雅琴を自分の姪として紹介した玉葉妃の目的は、穏やかで野心のない妻たちとの親交を深めることにあり、政治的な話題は敢えて避けられていました。
雅琴から戌西州の現状について聞かれると情報を提供することを約束した玉葉妃。茶会後、白羽から戌西州で蝗害が起きたことを知らされると、鳩を使って手紙を送ります。父親の期待に応えるため自らの役割を再確認する玉葉妃なのでした。

相変わらずじれったい壬氏と猫猫の関係。甘い場面は登場しません。これだけじらされてもじっと我慢の壬氏が何だか可哀相になってきたぞ😞 

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ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~

2024年07月05日 | 
三上延(著) メディアワークス文庫

三つの世代を超えて挑む、夏目漱石・名著の秘密。ビブリア新シリーズ第4弾
三つの時代をまたぎ紐解く、鎌倉文庫の謎
まだ梅雨の始まらない五月の終わりの鎌倉駅。よく似た顔立ちだが世代の異なる三人の女性が一堂に会した。戦中、鎌倉の文士達が立ち上げた貸本屋「鎌倉文庫」。千冊あったといわれる貸出本も発見されたのはわずか数冊。では残りはどこへ――夏目漱石の初版本も含まれているというその行方を捜す依頼は、昭和から始まり、平成、令和のビブリア古書堂の娘たちに受け継がれていく。十七歳の「本の虫」三者三様の古書に纏わる物語と、時を超えて紐解かれる人の想い。(内容紹介より)

・プロローグ
・第一話 令和編『鶉籠』
・第二話 昭和編『道草』
・第三話 平成編『吾輩ハ猫デアル』
・エピローグ

とある資産家のガーデンパーティーに招待された篠川家三代の女性たちから語られるのは、昭和~令和にかけてのそれぞれが関わった鎌倉文庫と呼ばれる千冊を超える貸本の行方の謎です。

第一話では扉子の後輩の少年・恭一郎が語り手になっています。
(彼は虚貝堂の店主の孫で~扉子と虚ろな夢~で登場しています。)
扉子が親友の戸山圭と仲違いした理由が鎌倉文庫を巡るものであったことが語られます。

昭和編では栞子と文香の母・智恵子と父・登の出会いが描かれています。
店番をしていた登が常連客の女子高生・智恵子にラーメンを作ってあげたことがきっかけで、彼女が昼食代を本の購入に充てていたことに気付いた大学生の登君は、同時に彼女の本の知識の深さに驚きます。
この時やってきた兼井の依頼を父親の代理で聞いたことで、智恵子と共に動くことになるのです。

第二話・第三話の語り手として登場するのは登です。
彼の智恵子への想いが語られていて、登が日々の出来事を備忘録代わりに書き留めていた手帖は、大輔が書き留めているのと同じ意味を持っています。まさにビブリア古書堂の事件手帖なわけです。篠川家の3人は本への飽くなき探求心・好奇心とその択一した知識力は似ていても、アプローチの仕方は少しずつ異なっています。他方、登や大輔はサポート役に徹し相手を疑う事なく受け入れている姿勢が共通しています。おそらくは扉子と恭一郎もそんな関係になっていくんじゃないかなと思わせます。

高校生の智恵子はやっぱりどこか危ない得体のしれない闇を感じさせます。目的のためなら手段を選ばない智恵子を油断ならないと思いながらも惹かれていく登と、警戒すべき相手と感じているのに自分の言葉を疑わない登に心を許していく智恵子の心の動きが伝わってきます。
(今作の彼女はミステリアスでありながらも、どこか人間味を感じさせてくれています。)

平成編で再び登場する兼井からの再びの依頼に応えるのは栞子です。自分が死んだら集めた蔵書を燃やすと言っていた兼井も病を得て年老いて心境にも変化が生じています。昭和編で彼の手に鎌倉文庫の本が渡るのを阻止した筈でしたが実は・・・という驚きの展開が待っていました。俗物に見えた彼の妻の花子の意外な一面は、むしろ好感が持てました。

エピローグでは、三代の女性たちの口からここに至るまでの物語が語られます。
ガーデンパーティは花子の生前葬という趣向でした。(夫は既に他界しています。)
花子に頼まれ持ち寄った智恵子の『道草』、栞子の『吾輩ハ猫デアル』戸山利平の『鶉籠』を加えた鎌倉文庫の蔵書を前に利平が「懐かしい」と呟きます。

鎌倉文庫は、鎌倉文士が経営していた貸本屋で、実在のものですが、散逸したとされる蔵書の行方についての物語はフィクションだそうです。

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