2022年5月27日公開 イギリス 104分 R15+
1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。けれどニヴン家で働く孤児院育ちのジェーン(オデッサ・ヤング)に帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポール(ジョシュ・オコナー)から、「11時に正面玄関へ」という誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合う。やがてポールは昼食会へと向かい、ジェーンは一人、広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンを、思わぬ知らせが待っていた。今、小説家になったジェーンは振り返る。彼女の人生を永遠に変えた1日のことを──。(公式HPより)
グレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」を映画化し、第1次世界大戦後のイギリスを舞台に、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を描いたラブストーリー。(映画.comより)
冒頭に登場する馬の足の話は、シェリンガム家が所有していた競走馬のことで、馬の頭と胴体は両親が所有し、息子3人が足を一本ずつ所有していたとポールが語り、4本目の足は誰が?という問いかけがなされます。
運命の「母の日」、彼女が仕えるニヴン夫妻(コリン・ファース、オリビア・コールマン)は、ホブデイ家、シェリンガム家との昼食会に行く予定です。孤児院育ちで帰る場所がないジェーンにニヴン氏は「自分の裁量で好きに過ごしなさい」と言って小銭を渡します。
屋敷にかかってきた電話はジェーンの秘密の恋人からの誘いでしたが、ジェーンは間違い電話だったと偽ります。
メイド仲間のミリーと自転車で出かけたジェーンは母の家に行くというミリーを駅まで送ると、シェリンガム家のアプリィ邸に 向かいます。
駅で汽車を待つ女性たちが一瞬皆メイド服を着ているように見せたのは、この日がそういう日だということを強調しているように見えました。
電話の相手は、シュリンガム家の跡取り息子のポールで、“つがい”(両親のこと)が出かけ屋敷には誰もいなくなるから表玄関に来るようにと誘われます。普段使用人は表玄関から入ることはないことが「裏ではなく」という言葉で伝わりますね。
屋敷に入って目についたのはシュリンガム夫人が大事にしている蘭の花です。「暗い家にせめてもの華やかさを」のセリフでこの家に不幸があったことを示唆しています。
ポールは幼馴染のエマと婚約していて、昼食会はその前祝いですが、彼は「法律を猛勉強する」と偽り、ジェーンと秘密の逢瀬を決め込んだのです。
ニヴン家に仕え始めた頃、アプリィ邸のメイドと知り合い挨拶をしているところをポールが通りかかり、二人は他人行儀な挨拶を交わしますが、この時既に二人は深い関係だった?それともこれがきっかけだった??😓
初めて入る屋敷に興味津々のジェーンをポールは寝室に誘いゆっくりと衣服を脱がすと誰の目も気にせず愛し合う二人。何度も抱き合った後、ポールは子供の頃の川でのピクニックの話をします。3家族は昔からの付き合いがあり、ニヴン家の戦死した息子ジェームズとエマが恋人同士だったことを話し、「君には何でも話せる、皆が避けたがっている話も」と心の内を明かし「君は友達、心の友だ」と言います。
ポールの二人の兄も戦死していて、彼が後を継いで弁護士となりエマと結ばれることは既定路線で、身分違いの恋が許される筈もないことはジェーンも初めからわかっています。
服を着ようとするポールをベッドから眺めながら、ジェーンは「エマがもしこの屋敷にやってきて、古い自転車を目にしたら?」と彼に問いかけます。
ポールは16時までは誰も戻らないから好きに過ごすといい、キッチンにあるパイも食べていいし、片づけもしなくていい。鍵は玄関に置いておくからと言うと、「さようなら、ジェーン」と部屋を出ていきます。つまり、これで関係は終わりという宣言ですね。
ジェーンの中で、ポールとのこれまでの思い出が時を行きつ戻りつ登場するので少し頭が混乱してしまいます。でも客観的にみたら、ポールは彼女と添う考えは微塵もなかったよね。😖
1948年。ジェーンは作家になっていて、恋人のドナルドに話しの続きをします。
ポールが出かけた後、ジェーンは裸のままで屋敷の中を探索します。(全裸じゃなくても良いんじゃないの?と思うけど、服を脱ぐことで階級差を取り払って対等な関係を表しているらしい)それはまるで彼のこれまでの軌跡をなぞるかのような行動に思えました。
ドナルドとの出会いは、働いていた本屋で、母親へのプレゼントを探す彼にヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を薦めたのがきっかけです。
また話が戻り・・・
ポールの遅刻にしびれをきらし乾杯しようとした3家族ですが、「一人足りないが」との言葉に、「一人じゃない、全員死んだ」とニヴン夫人が感情を爆発させます。3家族の中で戦死を免れ生き残っているのがポールとエマだけなのだという事実がはっきり示されるシーンです。微妙な空気のまま昼食会は始まります。
一方ジェーンは裸のままでパイを食べ、蘭の花びらをお腹の下に潜ませてから、自転車で屋敷に戻ります。そこでニヴン氏からポールが車の事故で亡くなったと聞かされ、一緒にアプリィ邸に同行して欲しいと言われたジェーンは、動揺を隠しきれずに水を飲みに行くと言って時間をもらい必死に心を鎮め冷静を装います。ニヴン氏が懸念したのはポールの自殺の可能性で、そのために彼の部屋に遺書らしいものが残されていなかったか確認したかったのです。もしそんなことになったらシェリンガム夫妻は悲しみから立ち直れないだろうと考えたのかな。😞
ドナルドに作家になった理由を聞かれた時、きっかけは3つ。一つ目は生まれた時。二つ目はタイプライターを貰った時。三つ目は秘密と答えました。
やがて2人は結婚しますが、ドナルドが転んで怪我をしたのがきっかけで脳に腫瘍があり余命が短いことを告げられます。ドナルドは黒人で、この結婚にも障害はあったかもしれませんね。
ニヴン夫人は孤児のジェーンに「生まれた時から奪われていて失うものが何もないのはあなたの強み」だと言い幸せな子と言います。息子二人を戦争で亡くした夫人の絶望が伝わりますが、同時に持てる者の傲慢にも感じました。
その夜、自分の部屋に戻りオランダ帽(ポールに着けさせられた避妊具)と蘭の花を取り出しながら、ジェーンは「失うものは何もない、これから手に入れていくだけ」と決意し、以前ポールに言われた「記憶を呼び出し描写して自分のものにし言葉で再現する」「君ならできる」という言葉を思い出します。その後、ジェーンはニヴン氏に暇をもらいたいと願い出ます。書店に勤めるという彼女にニヴン氏は「それもいいな」と答えるのでした。
残された時間を惜しむように寄り添う二人。
死の間際「三つ目の秘密が知りたい」と呟いたドナルドにジェーンは耳元で「愛している」と伝えました。
著名な小説家となった老年のジェーン。大きな賞を受賞した彼女にコメントを求めて家に押し掛けてきた記者たちに彼女は一言「書くしかなかったの」と答えます。
群がる記者たちの後ろに、かつてポールに恋した若い日の自分の姿が見えました。「4本目の足は、私のだったのよ、ポール」とジェーンは語りかけるのでした。
う~~ん・・この「足」が何を比喩しているのか、結局私にはわからなかった😭 そして現代の女性にとって、これをラブストーリーと感じるのかも少々疑問が残ります。ポールは自分の孤独をジェーンで埋めようとしていただけで、彼女を対等な人間として扱っていたとは思えないんだもの。