早見 和真 (著) 文藝春秋(刊)
親しい人だけでなく、この国さえも操ろうとした、愚か者がいた。
四国・松山の名門高校に通う二人の青年の「友情と裏切り」の物語。
27歳の若さで代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家。
「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」
最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。(内容紹介より)
四国・松山の名門高校に通う二人の青年の「友情と裏切り」の物語。
27歳の若さで代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家。
「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」
最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。(内容紹介より)
TVドラマを見て興味を持ち原作を読んでみたくなりましたが、手元に来た時はドラマは既に最終回を迎えていました。
ドラマの水川あさみ演じる道上香苗は、仕事優先が原因で離婚しており、息子は夫に引き取られていて、小料理屋を営む母と暮らしている設定。記者である父が事件絡みで殺されたのではという疑いから清家と関わっていく展開は原作には全くなく、完全オリジナルです。鈴木とBG事件の関係についても原作では掘り下げられていません。サスペンス要素が入るので視点は道上ベースでしたが、清家を操っているのは誰か?の関心は途中で答えがわかった気がして失速感がありました。
原作はといえば、こちらは4部構成になっています。
プロローグで、自叙伝の取材に来た道上を清家は凡庸と判断しようとしますが、彼女が最後に持ち出した彼の卒論についての質問で考えを改めることになります。
第1部では、清家一郎と鈴木俊哉が出会った高校時代が、第2部では大学時代の恋人との出会いと政治家として初当選するまでが鈴木と清家の視点から語られます。ここまでが過去の出来事ですね。
第3部で現代に戻ると、誰からか送られてきた清家の卒論がきっかけで彼に興味を持った道上が清家という人物を掘り下げていきます。また清家に切られた鈴木がこれまでの二人の関係について疑念を抱くようになります。そして第4部でいよいよ清家を操っていた人物が一堂に会するのですが、ここで新たな事実が浮かび上がるのです。母や祖母の過去、恋人の失踪に隠された秘密などはドラマも忠実になぞっていました。美和子の正体についてはけっこう衝撃的で、清家に捨てられた彼女が整形までして浩子に近づいた目的もわかってみれば「らしい」と納得。清家を操ろうとした者たちは皆、彼に切られるなどとは夢にも思っていなかった。客観的に見れば滑稽で哀れにも映りました。
エピローグで清家は再び道上を前に自らの思いを吐露します。ドラマで見せた桜井翔の演技を頭の中で再現しながら読むとまた違った怖さがありました。
自分が成し得ないだろう夢を清家を操り人形としてコントロールすることで果たそうとした鈴木や母の浩子、恋人の美和子・・・彼らの思惑通りに操られていたかに見えた清家の本当の顔が見えてきた時、マトリョーシカにこめられた彼の思いもまた明らかになります。
「見くびるな」という怒り・・・それもまた彼自身の本質なのか?そもそも彼自身が本当の自分を理解できずに苦しんでいるようにも見えました。