杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

玉依姫

2021年07月11日 | 

阿部智里 (著)文春文庫

高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か?ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。荻原規子氏との対談収録。

 

これまでは山内という八咫烏の世界の物語でしたが、今作は人間の少女・志帆が主人公の人間界と神域が主な舞台で、若宮ら八咫烏は完全に脇役になっています。

作者はこの物語を最初に執筆したということで、シリーズとなっていった中で加筆再構築して出版されたのだそう。

志帆の祖母が嫁いだ村は、代々山神に供物を捧げてきました。御神酒や食べ物だけでなく、若い娘が人身御供として供されるのです。娘を生むことを期待されたその真意を知り、祖母は娘を守るため村を出ます。その際、仕方ないこととはいえ、息子を置いて行ってしまうのね。その後、娘は結婚して志帆が生まれますが、両親は事故で亡くなってしまいます。

志帆は、他人の笑顔が自分の幸せと思う性格で、あまりに我欲のない孫をいつかその性格が身を滅ぼすのではないかと祖母は心配してきました。

ある日突然志帆の前に現れた伯父を激しく拒絶する祖母に違和感を覚えた志帆は、伯父の甘言に騙され祖母に内緒で村を訪れます。伯父の狙いは自分の家の番になった愛娘の代わりに志帆を御供(ゴク)にすることだったという!!現代の設定なのにまだそんな風習が残っている設定

逃げ出すことも叶わず村人たちに連れていかれた先に現れた大猿に「山神」の母になれと言われます。猿のように醜い見た目と不安定な感情を持つ山神に、恐怖と嫌悪を抱く志帆の世話役が八咫烏の若宮 逃がして欲しいと懇願する志帆を説得しますがどうにも冷淡

山神の罵倒に耐えながら過ごす志帆は、夢の中で「玉依姫」と名乗る女性の手引きで逃げだしますが、山神の怒りはすさまじく、若宮も呪いを受けてしまいます。この時意識不明の重傷を負った部下が誰であるかは明かされないのですが、「ますほのすすき」が献身的に看病する者って弟かそれとも??これは「弥栄の烏」で明かされるのかしら

人間界に戻り助けを求めた家の主は大天狗でした。彼は人間界と山内を行き来して商売をしています。このままでは八咫烏の存続が危ういと若宮は山神を殺す決意を固めますが、冷静になった志帆は山神は事の善悪をまだ理解できない幼い子供なのだと思い返して彼の元に戻る選択をします。志帆が戻ると思っていなかった山神は驚きますが、二人の関係はこの時を機に変化します。恐れる対象ではなく我が子として愛情を注ぎ教育する志帆はまるで人が変わったようですが、彼女の本質が表に出てきたのでしょう。それに応えるように山神は醜悪な外見から見違えるように可愛くなるの 

本作では日本神話が引用され、「玉依姫」についての解説もあります。

この山神は元々荒魂(祟り神)と和魂(守り神)の両方の性質を持っていましたが玉依姫として連れて来られたゴクの「母」に疎まれ憎まれて逃げられたり、約束を破って戻って来なかったりしたことから、祟り神となり人を喰らう化け物になっていったのです。八咫烏や猿は山神の使途として仕えていたが、先代の金烏は祟り神となった山神の呪いを受け山内を守るために禁門を閉ざしたという記憶を若宮は取り戻します。

ところで、志帆や若宮たちの前に現れる謎の少年「英雄」(このネーミングもう少し何とかならなかったのかしらん)の正体は和魂の方ということで、「ゲド戦記」のアレン王子を連想してしまいました。

彼女を捜しに来た祖母が亡くなり、葬儀に出ることを山神に許され里に下りた志帆ですが、ゴクが逃げ出してきたと誤解した伯父たち村人に櫃に入れられ湖に沈められたところを若宮が救出します。自分たちの事しか考えていない村人たちに、人間の醜さが凝縮されていました。

このことを知り龍となった山神が怒りに任せて村を焼く雷を、伯父を庇った志帆が受けてしまいます。我に返った山神は志帆に許しを乞い「英雄」の刃を受けますが・・・馬鹿がつくお人好しと祖母に呆れられていた志帆でしたが、実は彼女なりの考えがあってのことでした。つまり彼女こそ「玉依姫」そのものだったのね。また、山神が荒魂になった原因となったサヨですが、戻って来なかったのではなく村人に殺されていたこと、彼女の山神への想いが、彼女の後にゴクとなった女性たちを不幸に導いたこと、(祖母の死も彼女のせい)も明かされます。それでも人を喰らった時点で山神は成敗される対象となり果てたというわけですね。

大天狗は神や八咫烏の存在も、人間の信仰が薄れゆく中で消えゆく運命にあるのだと言います。異世界も人間の意識次第って

前作までは雪哉君の成長と活躍が目立ちましたが、こちらは全く登場しません。完結編となる「弥栄の烏」に期待しましょ

「空色勾玉」の作者である荻原規子氏との対談も古代神話について語られていたりとなかなか興味深いものでした。

このシリーズを読破したらもう一度「空色~」シリーズも再読してみようかなぁ。

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