波打ち際の考察

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波屋山人

多田富雄の落葉隻眼「賞味期限に頼らぬ知恵」

2008-07-01 23:44:22 | Weblog
読売新聞月に一度のコラム「落葉隻眼(らくようせきご)」。
免疫学者の多田富雄先生が執筆されている。
懐かしい名前だ。
90年代、中沢新一、岸田秀、山口昌男、栗本慎一郎、網野善彦等々の、現代思想の世界で注目されていた人たちのフィールドに、免疫学者の多田富雄先生もいた。
1934年3月生まれというのは1933年12月生まれの岸田秀先生と同年代だ。
多田富雄先生は2001年に脳梗塞になり後遺症と闘われているけど、今も活発な発言を続けている。
私が、人体における免疫系のように社会組織にも免疫系のようなものがあるなと想像するのは、先生の影響だと思う。


2008年(平成20年)7月1日(火曜日)夕刊 読売新聞
多田富雄の落葉隻眼(らくようせきご)
題字・古谷蒼顔

■賞味期限に頼らぬ知恵
 この季節になると、食べ物の足が速い。お弁当なんかすぐ臭くなるからご用心。でも私はあまり気にしないで食べてしまう。おなかをこわすこともない。
 昨年は「消費期限」「賞味期限」の偽装事件が頻発した。和菓子、チョコレート、干し芋まで、次々に偽装が発覚した。偽りの情報で物を売ることは、詐欺行為だから無論いけない。そうはいっても、すぐに廃棄という措置も頂けない。
 食品の表示には「賞味期限」と「消費期限」がある。前者は黄色信号で、後者は赤信号と思えばいい。賞味期限を過ぎた食物を、大量に廃棄している映像がテレビで流された。飢餓に苦しむ難民を見た後なので、「ちょっと待って」と声をかけたくなった。
 地球規模で食糧不足が叫ばれているのに、日本だけこんな無駄をしていいはずがない。大体、賞味期限とは単なる食べ時の目安ではないか。規制をかける必要があるのだろうか。生産者の自主的表示でいいのではないか。
 腐ったものを買わされるのはまっぴらだが、あれは多少劣化しているだけだ。食中毒はボツリヌス菌やサルモネラ菌などで起こるが、賞味期限とは無関係に製造の過程で混入する。
 近頃、日本人には過剰な無菌志向がある。もともと私たちの周囲は黴菌だらけである。黴や細菌、総称して徽菌と人類は共存しながら進化してきた。
 昔、私の母など、残ったご飯の糸の引くのを平気で食べていた。確かに雑菌は増殖しているが、おなかをこわすことはなかった。家族には炊き立てのご飯を食べさせた。お客に料理を使い回した料亭とはまるで精神が違う。
 □から入る日常の雑菌に曝(さら)されて腸管の免疫が強化され、下痢を起こす徹菌に抵抗力を獲得する。アレルギー体質も少なくなる。
 子供がたまに発熱したり下痢したりするのは、黴菌との戦い方を習得しているからである。学習の場は主に腸管である。成長の時期にここで戦い方を学習しないと、雑菌に対する抵抗力が弱くなり、逆にアレルギーを起こしやすい体質になる。免疫学者の私が言うのだ。信じていい。
 かといって、私は腐ったものを食べろなどと乱暴なことを言っているのではない。過剰な無菌志向は、かえって抵抗力を損ない、アレルギー体質を招くと言っているだけだ。
 環境がきれいになった今の日本で、アレルギーは国民病となった。戦前の青洟(あおばな)を二本たらした子供にはアレルギーなどなかった。開発途上図の子供にも、アレルギーは少ない。
 発酵食品など伝統的保存食では、菌たちがお互いにバランスを保って病原菌の増殖を抑えているのである。こうした古人の知恵に学ぶことが必要である。
 本当に危険な「消費期限」を表示させて、後は消費者の選択に任せたらどうか。それが本当の「食害」である。消費者は表示に頼らず、自らのリスクで食物を選ぶ知恵を持つべきである。偽装に惑わされることなく、資源を無駄にしないよう心がける。それより表示に頼って、食物の有り難さを忘れるほうが怖い。
 消費者には賞味期限を過ぎた食品の、安全な食べ方、保存法の指導が必要だ。生産者には、作り過ぎないように生産調整の指導をする。そうでないと、毎日何万トンもの食品が無駄になる。再生食品や飼料とする方法も開発しなければならない。日本の技術力が試されるところである。
 世界的な食糧危機が叫ぱれている現在、食品がちょっと劣化したくらいで廃棄したら罰が当たる。75歳を過ぎたらもう期限切れ、廃棄しようという後期高齢者医療制度も同じである。それより目に余る劣化、腐敗が報じられている官僚を一掃したほうが安全だ。
(免疫学者)


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