波打ち際の考察

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波屋山人

憚りながら

2010-11-21 23:46:59 | Weblog
後藤組は武闘派として恐れられていた。
いつの間にか組は解散し、後藤忠政元組長は得度していたらしい。
どういう心境の変化があったのか関心があった。
春に出た本をようやく手に入れることができたので、土曜日にゆっくり読んでみた。

富士宮での少年時代、野村秋介氏との親交、政治家経済人などとの交友、UCLAでの肝移植、得度など、記述は多岐にわたる。

アマゾンのレビューでは大絶賛というわけではなさそうだが、ぼくは高く評価したい。
暴力団の大組長は、“人たらし”ではないと務まらないと聞いたことがある。
人望を集める人、人を動かせる人にはそれなりの魅力がある。
一流の“人たらし”が、どのような視点を持っているのか知っておくのはわるくない。

ヤクザについてはこんなことを書いている。
p233
ヤクザはたいてい肝臓をやられるんだ。死因の3分の1が肝臓病だと言われるぐらいでさ。一番の原因は刺青。刺青入れる時に、針で汗腺を潰すから、汗をかかんようになって、からだん中の悪いもんを外に出せなくなる。それが溜まって、肝臓がやられるんだ。
それから駐車の回し打ち。覚醒剤とかのな。あとはアルコールだ。競うようにして、浴びるほど飲むから。ヤクザ者ってのは、肝臓を痛めつける三大要素を、すべて自ら進んでやってるんだよ(笑)。

p288
そもそもヤクザの世界じゃ、他人の見ていない所で、人様の物を盗むとか、人の女房を寝取るか(笑)、コソコソするのが最も嫌われるんだ。

p290
でも兵隊になったからには、軍隊に入ったからには、組織の命令には従わなくちゃならん。
ヤクザも一緒だ。できれば人を殺したくないし、懲役にも行きたくなし、家族と別れるのも辛い。けど、一度、ヤクザになったからには、男の意地を貫かなきゃならないんだよ。まさに苦渋の選択の末に、だ。

p291
世間では「ヤクザ=人間のクズ」みたいな言い方をする人もいるが、じゃあ、逆に「堅気の方々はそんなに立派なんですか?」と聞きたいよ。親が子供を殺したり、子供が親を殺したり、子供が親を殺したり、弱い者を寄ってたかって苛めたり、と。人としての最低限のマナーも守れないような人間が増えた堅気の社会が、そんなに立派なんですか? ってな。

p291
そりゃ、一般社会の人にとっては、ヤクザは歓迎されない存在かもしれない。そんなことはヤクザ自身が一番分かってるよ。けど、だからといって、抹殺してもいいと考えるのは、はっきり言って「ファシズム」と同じだ。

曲がったことが嫌いな姿勢が伝わってくる。
だが、後藤忠政元組長は、どのような方法で大金を得てきたのかを明らかにしていない。
暴力団の人たちは、任侠だ極道だと言っても、恐喝や嫌がらせのようなことをしてお金を得て、一般の人に迷惑をかけていないだろうか。

創価学会についての記述も興味深かった。富士宮市を本拠にしていたので、創価学会が大霊園を作った頃から創価学会との関係が深かったらしい。
この本が出た頃、店頭では品切れが続き、もしかしたら創価学会の人たちが買い占めているのではないかと噂されていた。
下記のような記述が、創価学会の人たちに問題視されたのだろうか。

p108
俺が今回、初めて創価学会との経緯を話したのには、2つほど理由がある。ひとつは、あいつら(学会)のやっていることが、俺が付き合っていた30年前と同じ、いやそれ以上に悪くなっているからだ。学会、いや、池田大作のために、それまで散々働いてきた連中や、俺みたいな協力してきた人間を、用済みになったと思ったら、簡単に切り捨てるようなやり方が許せんのだよ。

p110
逆に言えば、自分の手下に次から次へと居直られるような池田大作という男は、たいした人物じゃないってことだ。他人様(ひとさま)から到底、褒められるような人物じゃないから、自分で自分を褒める本をせっせと作っては、学会の信者に買わせてな。ああいう見苦しい生き方もないもんだ。
そんな池田が裏で何をしてたかといったら、山崎やXをパイプ役にして、俺たちヤクザを散々利用し、仕事が終われば知らんぷりだ。それで俺たちがちょっとでも、もの言おうもんなら、今度は警察権力を使って潰しにかかる。で、それがマスコミにバレそうになったら、今度は頬かむりだ。竹入さんにも、矢野さんにも、俺にした仕打ちとまったく同じことをしてるんだよ。だから、俺もこうして公の場で居直らせてもらったわけだ。

p112
どんな宗教を信じるかは勝手だ。しかし、その宗教のために国会や官僚組織に入り込むというのは、筋が違うんじゃねえか。特定の宗教の利益を目的とする人間が、国家権力の中枢にいるのはまずいよ。あいつら(学会)が何を信じようと勝手だ。また、池田個人がどんな考えを持っていようと構わん。だけど、その宗教の理屈を国に持ち込む、さらにはそれで牛耳ろうとするのは、少なくとも自由主義国家じゃ許されることじゃねえだろ。そもそもこんな組織(学会)が、「自公連立政権」だとか言って、国家の中枢でデカイ面してきたこと自体が、間違いなんだよ。

後藤忠政元組長が実際に体験したことの話がいちばんおもしろい。
週刊誌に書いてあることを批評しているような話は迫力が劣る。
また、下記のような記述は興味深かったけど、道徳ルールを説く姿勢に疑問を感じるときもあった。

p200
やっぱり今は、その人、その人が歯食いしばって、それぞれの場所で頑張らんとどうしようもない。俺なんか、昔は無茶苦茶な貧乏をしてたからよく分かるんだ。貧乏から抜け出すには、誰にも頼らず、自分の力で抜け出すしかないんだよ。(略)
「派遣切り」だか「リストラ」だか知らんが、まだまだ働ける元気な若い奴が炊き出しに並んじゃいかんだろう。人様から簡単に施しを受けて、お前たちにはプライドの欠片(かけら)もないのかと正直、ゲンナリしたよ。

暴力団の人たちは、一般社会の常識を無視して自分たちの居場所をつくり、稼ぎを得ているのではないだろうか。
一般社会の常識とは違う価値観で行動する人でも、「一般社会にも裏社会にも共通の道徳ルール」があると認識しているのだろうか。
あるいは、自分なりの基準で正しいものを追求しないと、自分のあり方を肯定できないのだろうか。
まあ、何を肯定するか、何に価値を見出すか、というのは人それぞれだ。
元組長の立ち位置はがめつくないし、気配りも感じる。

アジアの貧困地帯の子どもたちに援助を行っている話や、私費を投じて映画『BOX 袴田事件 命とは』を制作したという話が最後に述べられている。
まだまだ、これから活躍されそうなご様子。
今後も注視していきたい。

コメント
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