Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士@シャネルネクサスホール10/3

2009-10-04 00:59:11 | ピアニスト 金子三勇士
そのピアノを車に例えれば、それまで中古のミニクーパーを運転していて、
20歳のお誕生日プレゼントに突然、ココ・シャネルからJaguar XJ SuperSportニューモデルを贈られた、
金子三勇士にとって、そんな感じだろうか。

『ショパン スケルツォ第2番変ロ短調作品31』
スケルツォとは「戯れ」
ピアニストが作曲家に遊ばれているのかと思いきや、観客が完璧に金子三勇士の手玉に取られた。
新しいピアノになった前回、8/22でもこの曲を演奏しているが、自信、力強さが漲ってきている。
観客を自在に操り、クラシックピアニストの枠を越えたエンターテイナーとしての資質を見せた。
前回より更に滑らかにスケールが大きく感じられる。
毎回、こんなに変っていくのなら、録画、録音して保存できないというのが、もったいない気持ちになる。
金子三勇士、端正な顔立ちと丁寧な日本語、貴公子然としているが、
実際はかなりオチャメな性格なのでは?
この曲のエンディングの見事さに思わず、立ち上がり拍手、"Yay!"と叫びそうになった。
ここはR&Bのライブ会場ではなく、シャネルのクラシックコンサート、危ないところでした。

『ショパン 夜想曲第14番 嬰へ短調 作品48-2』
『ショパン 練習曲第5番 変ト長調 「黒鍵」作品10-5』
『夜想曲』の最後と『黒鍵』の最初が同じ音で始まるとのことで、続けて演奏された。
『黒鍵』とは、右手による主旋律のほとんどを黒鍵により演奏することからつけられたタイトルだそうだ。
華やかで技巧的な曲を難しく感じさせないのが彼のテクニック。
そのためには普段の血の滲むような努力、住宅地で練習時間は夜9時までとのこと。
その後の時間は楽譜を見つめながら、気が付くと眠ってしまう日もあるそうだ。
もちろん学生としての日々も重ね、今はちょうど、大学の前期試験を終えたところ。
3月14日、遠慮がちに観客の反応を手探りしていたシャネルでの最初のリサイタル、
そこから大きく飛躍して今は楽しみながら自分の持ち味を発揮している。

休憩を挟んでまたあの曲を聴くことができた。

『リスト ピアノ・ソナタ ロ短調』
演奏時間が31分というこの曲。
弾く前に1分間黙って集中するピアニストもいるという。
金子三勇士はこの日の演奏前に10秒間の黙祷をスマトラ地震犠牲者に捧げた。

低音から静かに始まる。
そして楽しく煌びやかな部分と重くのしかかる暗さが錯誤する。
その中で繰り返される壮大なテーマ。

エンディングに向かう時、三勇士の左目から一筋の涙が流れていった。
リストの魂が金子三勇士に宿る、リストを弾くために生まれてきたとさえ思える瞬間。
金子三勇士、どんどん力をつけて、そして男性的な表現力が濃くなっている。
三楽章が続けて演奏されるソナタ。椅子が、ピアノさえ動くのがわかる。
他の曲ももちろん素晴らしいがこの曲の持つ魅力には抗えない。
感動に打ちのめされ顔を上げて拍手で送ることができなかった。
リストのピアノソナタを演奏させたら、今、彼の右に出るピアニストは存在し得るのだろうか。

ショパンのスケルツォに始まり、リストのソナタに終わった昨日のリサイタル。
金子三勇士、シャネルのホール全体を光輝くオーラで満たした。
アンコールは、「実は涙で周りが余り見えないのですが、リスト『愛の夢』を弾きます。」

海外に行くと必ず大きくなって帰ってくると感じさせる三勇士。
「何か感じが変った気がするんだけれど?」と尋ねると、
「20才になったからじゃないですか?」と返事が返ってきた。