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世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●「アベを倒したい!」金平茂樹vs室井佑月対談

2019年04月27日 | 報道

●「アベを倒したい!」金平茂樹vs室井佑月対談

本日多忙につき、以下に、リテラ掲載の正統派言論人、金平茂樹氏と室井佑月氏との対談「アベを倒したい!」を参考掲載します。リテラでは、前・後半に別れていましたが、一気掲載です。

:全体に流れている情報に捏造や盛ったような話がないことは、筆者が確認した。

しかし、産経新聞がすべて無料でネットにニュースを流し、朝日。毎日、日経、読売などとの差別化が、実は、若者世代のメディアリテラシーに重大な瑕疵があることが判ったことは重要だ。




≪室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第13回ゲスト 金平茂紀(前編)


金平茂紀と室井佑月、萎縮するテレビで孤軍奮闘を続ける二人が語る実態! メディアはなぜ安倍政権に飼いならされたのか



 



 安倍政権の言論弾圧体質によって、どんどん悪化している報道の萎縮。なかでも、ひどいのがテレビだ。第二次安倍政権発足以降、政権に批判的なキャスターやコメンテーターが次々と降板に追い込まれ、上層部から現場までが政権の顔色を窺い、批判的な報道はほとんどできなくなっている。

 そんななか、今回は地道に果敢に政権批判を続ける数少ない番組のひとつ『報道特集』(TBS)キャスターを務める金平茂紀氏をゲストに迎えた。金平氏といえば、『筑紫哲也NEWS23』番組編集長、TBS報道局長、アメリカ総局長などを歴任。定年退職後の現在も、『報道特集』キャスターを継続し、政権への厳しい批判も厭わない姿勢を貫いている。

 そんな金平氏に、やはりテレビでコメンテーターを続けている室井佑月が迫る。なぜテレビはここまで萎縮してしまったのか。御用ジャーナリストが跋扈する理由とは何か、そして、安倍政権下でテレビに何が起きたのか。テレビで孤軍奮闘を続ける二人の激論。まずは、前編をお読みいただきたい。 (編集部)

********************

室井 金平さんがこの対談に出てくださってすごいびっくりしました。これまでレギュラー的にテレビに出ている人にはみんな断られていたんです。金平さんは『報道特集』のキャスターをしているのに、こんな対談に出てくださって!

金平 僕はもう2016年にTBSの執行役員の任期も終わっているから、契約ベースでやっている。というか、TBSも扱いかねているんじゃないですか? TBSには定年まで長く勤めていたけど、以前、室井さんと一緒に共謀罪反対の呼びかけ人をしたことあったでしょ? あの記者会見をやった1週間後に呼び出されて上層部に言われたんです。「お引き取り願おうか」と。呼びかけ人と直接の因果関係はないんだろうけど、「もうそろそろ、こういうことをやる人間は扱いかねる」っていう空気があったんじゃないかな。

室井 あると思います(笑)。だって、わたしも同じですから。かれこれ20年情報番組に出ていますが、最近は毎回、会議で名前が挙がってるみたい。「次、降板」って。でも、わたしを降ろしたあとに番組と同じ考えの人を呼んじゃうと、わかりやすすぎるし、ちょっと休んだだけでネットにすごく書かれるから、降ろされそうで降ろされない(笑)。まあ、今後は分かりませんけど、たぶん、五輪前に辞めさせたいんじゃない。

金平 こう言っちゃなんだけど、同じような立場の2人で対談なんかやっていいのかな(笑)。

室井 TBSはかつて“報道のTBS”と呼ばれていて、とくに『筑紫哲也NEWS23』 時代の、家族でやっているような雰囲気は大好きでした。金平さんも筑紫ファミリーだったでしょ。

金平 筑紫時代は全スタッフ、そして番組もが一体となった感じで、うまく回っていた。筑紫ファミリーという疑似家族のような。でも、いまでは良き疑似家族はとっくに壊れています。「老壮青」って言っていたんですけど、いまは誰もファミリーとか思っていない(苦笑)。

室井 でも、TBSと言えば報道だったじゃないですか。

金平 かつてね。

室井 いまでも他局よりは頑張ってると思うけど。

金平 他が酷すぎるんでしょう。論評にも値しないようなところがほとんどになっちゃって。僕はいま65歳だけど、僕らが学生時代のテレビは、NHKは体制を代表する本当のことは絶対言わないメディアで、“お上の代弁者”として捉えられていた。そんななか、民放の報道ではTBSが圧倒的に強かった。かつて『JNNニュースコープ』(1962〜1990年放送)という番組があって、田英夫や古谷綱正、入江徳郎とかのベテランどもがいて、結構な迫力があったんです。当時、「NHKとTBS、どっちが本当のことを言っているのか」と問われれば、みんながみんな「TBSに決まってるじゃん」と言うくらいに力があった時代だった。その頃、他の民放は、テレ朝は、NET=「日本教育放送」時代で報道には力を入れていなかったし、フジテレビは娯楽路線、日本テレビはプロレスと野球。報道をやっていたのがTBSだった。だから本来強いのは当たり前なんです。

■ワイドショーが報道化して報道がワイドショー化、重要な問題が無視

室井 でも今後はどうなんですか? わたし、情報番組に20年出てますけど、どんどん変わってきていると実感していて。たとえば政治的な問題が起きても、ワイドショーで取り上げるのは「細野豪志が二階俊博と会った」とか本質に関係ない話ばかりで、あとは安倍応援団が安倍首相の代弁を主張していて。

金平 かつてワイドショーとストレート報道の関係は、新聞社でいうと週刊誌と本紙みたいな、妙な上下関係があった。「報道は偉いんだ」という意識ですね。ワイドショーや情報番組はいわゆる井戸端会議。でも、現在のようなネット社会になり、ネットで出ている言葉と、印刷されて出るオールドメディアの言葉が受け取る側から見ると等価になっている。そんな時代ですから、報道番組もワイドショーも等価と捉えられる時代になっちゃった。だからテレビの本質からいうと、どっちもどっちなんです。

室井 テレビも視聴率至上主義だから、森友事件や辺野古新基地建設のことより、「貴乃花が離婚した」ということを取り上げる。ある意味仕方ないとは思うけど、カルロス・ゴーン事件では、その本質にはほとんど触れず、ゴーンが釈放されて変装していることを延々とやる。すごく変だし、本質をごまかそうとしている意図を感じるほど。

金平 ワイドショーが報道化して、報道がワイドショー化したということじゃないかな。いま、夕方のニュースを見ていてもほとんどワイドショーじゃないですか。やってるネタも変わらない。「テレビなんだから同じ」と平準化されてしまった。

室井 テレビ局も番組づくりを制作会社に任せている体制だし、制作会社もなんだかネトウヨ路線の会社も多くなっていて。だからそういう政治ネタを延々流されるより、むしろ「スズメバチが民家の軒先に巣をつくっちゃった」という特集を組んでくれたほうがマシって思っちゃいますよ。しかも沖縄の基地問題という日本にとって需要な問題も、アリバイ的に触れるだけ。

金平 興味ないもん、制作側も視聴者も。実は本土の多数派は沖縄のことに興味ないんですよ。悲しいですけれど。

室井 あります! わたしは興味ありますよ。だって基地問題は沖縄だけの問題じゃないもん。

金平 本来はその通りなんです。僕も在京メディアのなかでは沖縄問題を取り上げ続けている自負はあるし、通い続けてもいる。でも、普通の報道マンは違う。「沖縄やったって数字ついてかないから、やったって仕方がない」と平気で公言している局員もいます。

室井 取り上げ方だと思う。「安倍政権に歯向かってる」みたいなつくり方したら、みんな面白いから絶対見るはず。

金平 いやいや、「安倍政権に歯向かってる」というつくり方をしようと思う報道関係者なんて何人いると思ってるんですか? 室井さんも本当はわかってるでしょう。どんなスタッフがどういうことを考えながら原稿を書いているか(笑)。

室井 確かに、すっとぼけて論点をずらしてるとは思います。それは嘘をついているのと同じことだと思う。たとえば、消費税を取り上げるにしても、ポイント還元の話を何時間も延々とやる。それより増税前の約束と違う使われ方をされようとしていること、大企業は減税されて税収入のトータル額はほとんど変わってないということを指摘すべきなのに。

■メディアが生み出した安倍政権の傲慢、統計不正問題でも厚労省が酷い会見

金平 わかりやすいからね。自殺した西部邁さんが言ったようにJAP.COM(アメリカ属国株式会社)になっちゃったんだよ、日本は。西部さんの言う通りで、国全体が株式会社みたいになっちゃって、儲けをいくらにするとか、ポイント還元とかの話ばかり。日本人のなかに数値主義、視聴率主義がすっかり根付いてしまった。でも、日本の1968、69年頃はめちゃくちゃ面白かったんです。たとえば最近、「1968年 激動の時代の芸術展」に行ったけど、赤瀬川原平のニセ千円札事件についての展示があって。ニセ札をアートとして制作したが起訴された事件だったけど、裁判になって、法廷で証拠物として“ニセ札”が陳列された。それを彼らは「展覧会」と称していて。しかも当時、時代の最先端にあった彼らは数値をバカにするんです。何でも数値化して何かやるのって「バカじゃないの?」って。でも、いまは数値、数値、ポイントポイントばかり(笑)。原子力資料情報室の伝説的人物の故・高木仁三郎も、1970年代、すでに「朝日ジャーナル」で数値化への批判をしていた。数字を物神化させ、それが唯一の価値の尺度となっている批判だったけど、実際、いまの世の中そうなってしまっている。もちろん税金の話もね。

室井 消費税増税にしても「ポイント還元で儲かる」って言われても、そもそも自分たちが払った税金でしょ。それを還元するって言われてもなんだか詐欺にあっている気分だもの。詐欺といえば、福島第一原発の事故対応費が民間シンクタンクの資産によると最大81兆円だというのが朝日新聞に出ていたけど、数値化がそんなに好きなら、81兆円ってすごく大きい金額だし、ワイドショーで出したら国民ぶったまげだと思うけど、ぜんぜんやらない。

金平 いまの政権にとって数値は自分たちの主張を通すための後ろ盾として使う道具だって考え方だから。数値は客観的な事実とか、そういうものではないという。道具だから。だから都合のいい数値しかあげられない。都合の悪い数値は隠す。

室井 最近では厚生労働省の統計不正なんか典型でしたよね。国民を騙すために政権と官僚が好きなように数字を操作できちゃう恐ろしい時代だと実感しました。

金平 ひどい話だよね。あのとき、厚生労働省が報告書を出したときの記者会見に行ったんです。厚生労働省特別監察委員会の樋口美雄委員長が、とにかくひどかった。会見の時間を区切っちゃって、ろくな解説もしないし、記者もあまり突っ込んだ質問しないんだよ。見てて腹立っちゃって。こんなことで記者クラブの連中も納得しているのか?と大いに疑問に思いましたよ。そのなかで僕は一番の年寄りだから「こんなので納得すると思ってるんですか?」というような質問をしたら、会見場が何だかシラっとするわけです。

室井 すっかり飼いならされてる感じがします。番記者なんか政治家が外遊するときにも同じ飛行機で同行したりして。

金平 ドキュメンタリーをやっていた先輩にこんなことを言われたことがあるんです。「記者の起源なんて(取材対象者に)同行して飯食わされたり飲まされたりして情報の密使の任務を果たす、そういうやつがおまえらの起源だよ」って。たとえば今野勉とか村木良彦などTBSが輝いていた時代のドキュメンタリストは「報道のストレートニュースをやっている記者は敵だ」なんて言ってたからね。「どうせ御用聞きだろう?」って。そのくらいラディカルだった。そういう人たちと番記者の間には緊張関係があったから、逆に僕なんかは悔しいから「そんなことストレートニュース部門の俺たちは言われたくない」って思って、一生懸命がんばって、スクープをモノにしようとしましたけどね。

■望月衣塑子記者問題の官邸前デモに参加した記者はわずか20~30人

室井 番記者との緊張関係といえば、東京新聞の望月衣塑子さんが話題ですよね。それまでほとんどまともな質問をしなかった記者クラブのなかで、菅偉義官房長官に果敢に質問して。それで官邸から排除され恫喝されているのに、他の記者は知らんぷり。逆に「彼女がいると邪魔だ」って言われちゃったりして。会見を見ていても、記者はみんなうつむいてパソコンをカタカタしてるだけ。

金平 3月14日に首相官邸前で新聞記者などメディア関係者らと市民約600人がデモをおこなって、望月記者への嫌がらせに抗議したけど、しかし現役の報道記者は、正直に言うと、20~30人くらいかな。あとはOB、OG、リタイアした人。現役記者としてはデモに参加すると会社に睨まれる可能性もあるからね。でも、それでは大きな力にならない。一線にいるメディア関係者が大挙してやらないと。人ごとじゃなくて自分たちの問題だという意識が希薄なんてすね。しかも望月記者が孤軍奮闘しているなか、江川紹子などが“どっちもどっち論”を主張するなど、ひどい状況です。

室井 自分は関係ない。自分の問題じゃない。番記者なんだから政府幹部センセイの言い分を聞いていればいい。そんな意識なんじゃない。だから望月さんの記者としての当然の問題意識も理解しないし、ひとり怖い思いをしているのも理解できない。わたしも秘密保護法のデモに行ったことありますが、周りを見渡したらメディア関係者や新聞社の人すら本当に少なくて。味方がいないって、本当に怖い。

金平 僕らの本来の仕事は、「権力は監視するものだ」ということで、とにかく権力を批判することです。「ウォッチドッグ」とも言うけど、そうした批判精神を失ったらメディアは存在価値がない。あと、これは筑紫さんが言っていたことだけど「マイノリティになることを恐れちゃダメだ。マジョリティなことを言い出したらダメ」だと。ダイバーシティ、多様性が大切で、一色に染まるのは「気持ち悪い」と。それはメディア人にとって基本ですよね。権力監視、少数派を恐れるな、多様性を尊重する。この3つがあれば少々の失敗は仕方ない。でも、いまのメディア状況を見ると、全部逆の方向にいっている。権力監視じゃなくて、ポチ、御用記者に成り下がり、それを恥じるどころか嬉々としている。田崎史郎とか岩田明子とか、大昔の山口敬之とかね。権力の真横にすり寄って、人事にまで口を出すようになる。

室井 なんでそんな御用記者がうじゃうじゃいて、まかり通っているのか、まったくわからない。

金平 特に最近顕著だと思うけど、テレビの制作側からしたら「政権に近い=便利に使える」という意識もあると思う。一方、御用記者は、政権や総理に近いことを、社内的生き残りの処世術、人事に使うわけです。「わたしは総理と直接話ができますから」と。みんな苦々しく思っているけど、そういう記者は社内的に力を持ってしまう。

室井 安倍政権で置かれた内閣人事局の構造、やり方と一緒じゃない。安倍さんに近い人、お友だち、イエスマンばかりが出世する。

金平 そうです。それがメディアがダメになった原因のひとつですね。御用記者が優遇され社内で出世する。メディア企業で、安倍政権と同じような構造が出来上がっている。ガタガタうるさいことを言う奴はパージされ、吠えないやつのが「かわいい、かわいい」と重宝される。

室井 なんか話を聞いていると、悔しくて絶望的な気持ちになるね。
(近日公開予定の後編に続く)


≪ 室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第13回ゲスト 金平茂紀(後編)

『報道特集』金平茂紀と室井佑月が激論! なぜメディアは沖縄を無視し、韓国ヘイトに覆われてしまったのか 『報道特集』(TBS)キャスターの金平茂紀氏をゲストに迎えた室井佑月の連載対談。前編では、安倍政権下で萎縮するジャーナリズムや御用メディア化、テレビの現場で何が起きているかを語ってもらったが、後編ではさらに、無視される沖縄基地問題と嫌韓報道の増殖、リベラルの退潮と排外主義の蔓延がなぜ起きたのか、にも踏み込む。ヒートアップするふたりの対論をぜひ最後まで読んでほしい。 (編集部)

********************

室井 メディアの御用化について話してきたんだけど、私が怖いのは、直接的な圧力とか忖度で黙らされてるうちに、みんなの価値観じたいが変わりつつあるということなんです。昔は社内的にマイノリティでも、カッコいいジジイがいて、頑張っていた。本多勝一とか筑紫哲也とか、リベラル左寄りのカッコいいジャーナリスト、メディア関係者が多かったと思うけど、いまは逆。ヘイト発言をするネトウヨみたいな人や、「高齢者の終末医療費を打ち切れ」なんて新自由主義的な主張する古市憲寿みたいな人、体制寄りの人がもてはやされて支持される。百田尚樹や高須クリニッックの高須克弥院長にも熱狂的ファンが付いている。いま、なんでこっち側が「カッコいい」と思ってもらえないんだろう。カッコよければ流れも変わると思うのに。

金平 “カッコいい”。それは大事なキーワードで、今後考えなければならないテーマだね。たとえば沖縄のキャンプシュワブの前で座り込んでいる人たちのスタイルは、確かにカッコよくはない。沖縄平和運動センター議長の山城博治さんとかが「すっわりっこめ〜♪ここへ〜♪」と歌うように促して。これって1950年代の三井三池闘争のときの労働運動歌なんです。それじゃあ若い人はついてこない。安保法制のときのSEALDsの成功を見て、ラップなど新しい試みが必要だね。ところが、いまの若者のなかには、「人と違ったりすることが嫌」という意識も大きい。自分の意見を自分だけで言うのがストレスだと。でも、戦前には自分の主張を貫いた若者もいた。先日『金子文子と朴烈』という韓国映画を観たんです。金子文子は大正天皇の暗殺を計画していたとされ、大逆罪で逮捕有罪(死刑判決、のちに無期に減刑)になった人物だけど、公判で「天皇陛下だって人間だろう。クソも小便もするだろう」と言い放ったらしい。それを演じる韓国人女優のチェ・ヒソもめちゃくちゃ魅力的で、セリフも自分たちで公判記録に基づいてつくって。“天皇陛下だって人間”のセリフも再現している。

室井 カッコいい人はいるんだもの。でも、それが広がらないしムーブメントにならない。若い人たちにもなかなか受け入れられない。そもそも弱者でもある若い人が、自分たちの首を絞めてる安倍政権を応援しているんだから。そういう人に議論を挑んだりもするけど、「自民党以外にどこがあるの?」「安倍首相以外、適任者いないですよ」なんて言われるだけ。

金平 僕も絶望的な気持ちになることもありますよ。僕からすると「格好いいな」と思う若い人はいるんです。でも、同世代にとってそういう若者は「怖くてついていけない」存在らしいしね。ラディカルだったり、自分で考え主張することを嫌う。お利口で聞き分けがいい。しかも30代、40代のメディア企業でいうと編集長とかデスク、キャップクラスがものすごい勢いで保守化している。韓国の金浦空港で厚生労働省の幹部が酔ってヘイト発言して逮捕されたけど、メディア関係者だって「いまの韓国政権なんか大嫌いだからあんなの叩きゃいいんだよ」って平気で口にする人もいるんだから。

■ポータルサイトに氾濫する産経の記事、無視される沖縄の米軍基地問題

室井 そうした保守化というより国粋主義・排外主義化ってどうしてなの? わたしには本当に理解できない。

金平 はっきり言うとお勉強していないんです。たとえばここ数年、ベネズエラでは深刻な経済危機で略奪が頻発し、強権的な政権の下、危機的状況が続いている。でも、ベネズエラのことを語るとき、南米の国々が、これまでアメリカにどんなことをされてきたかを知らないと、まともな報道はできないはずです。しかしそうした歴史に興味を示さないし、勉強しない。

室井 勉強じゃなくても、映画とか小説からとかでもいいのにね。わたしはそうして勉強した。

金平 みんなスマホしか見てないからね(笑)。これってすごい大事なことで、つまり、知識を得るときに、最初の入り口がスマホだと、ここで目にするのはポータルサイト。そしてそこにはライツフリーの産経の記事が氾濫している。僕のようにアナログ世代は、新聞を読み比べることでリテラシーを取得してきたけど、それがない。しかもネットニュースの字数は少ないから、ロジカルに物事を考える機会も少なくなる。しかもコミュニケーションの基本が変わってきているから、考え方も大きく変わる。僕らの仕事も、スマホとPCがないとなりたたなくなっている。

室井 価値観も大きく違っちゃってるしね。でも、ある意味、楽。若い編集者は飲み会もしないし誘ってもこない。原稿をメールで送って終わりだから(笑)。

金平 でも、そうした変化には弊害も感じますよ。ポリティカル・コレクトネス(PC)ってあるじゃない。PCがあらゆるところに行き渡った社会ってどういう社会になるかって話をある哲学者が書いていたけど。ベトナム戦争の時代にアメリカ軍が空爆してナパーム弾で村が焼かれて、裸の女の子が逃げてくるピューリッツァー賞を取った写真があった。戦争の悲惨さを伝える写真の一枚でベトナム戦争終結にも寄与したはずだけど、いまあれはダメなんだって。女の子が真っ裸で局部も写っているから、PC的に言うとNG、ダメだと。その話を聞いてびっくりして。それがまかり通ってる。

室井 すごい時代になった。文脈とか一切無視なんだね。効率主義がここまできたのか。

金平 だから右の政治家たちが「文学部とか廃止しよう」なんて言い出す。そしてポスト・ヒューマニティ、つまりAI・人新世・加速主義といった社会の諸問題が絡み合うという新潮流のことだけで。でも、効率主義で言うと、これは実は沖縄問題にも通じると思っています。沖縄の基地や経済について東京のメディアは「面倒臭い、関わりたくない、数字取れない」と。沖縄のことは自分たちに関係ないというスタンスがまかり通る。彼らにとって沖縄のことは実感がない=バーチャルなんでしょうね。それがいまの沖縄と本土、そして政府との関係を二重写しにしている。だから沖縄タイムスや琉球新聞が報道しようが、東京のメディア関係者には関心さえない。これはひどいよね。

室井 基地だって、アメリカのまともな学者や軍人は「いらない」って言ってるんでしょ。しかも沖縄では1995年に小学生の少女がアメリカ兵3人に暴行されたというひどい事件があったじゃないですか。それで沖縄だけじゃなく日本全体が反基地・反米感情で盛り上がって。でも、いまは沖縄問題を取り上げない。テレビ関係者は「視聴率が取れない」って言うけど、それは言い訳で嘘だと思う。東京オリンピックだってこれからますます盛り上げる気満々でしょ? テレビで取り上げた商品も爆発的に売れるでしょ? そう考えると、能力はあるくせに、基地問題をやろうとしない。安倍政権になって沖縄と政府の関係が悪くなって。だから忖度している部分もあるんじゃないかと勘ぐってます。

■局内にアンチ筑紫哲也の人たちがたくさんいることに気づかなかった

金平 残念ながら、いま僕が担当している番組だって、「沖縄の基地問題をやろう」って言ってもあまり反応はないと思います。生活密着型と称して、身近な、小さなストーリーを取り上げるのは一定の意味はあるでしょう。けれども一方で、社会的なこと、政治的なこと、世界のホットスポットで起きている論争や対立を取り上げることは、どこかで面倒臭いという意識が強いのではないかと思う。

室井 でも、韓国軍のレーダー照射問題とかは喜んで延々と放送して。みんな拳をあげて「けしからん。韓国許せない」って。政治評論家もコメンテーターも煽ったほうが儲かるからか、煽る煽る。しかもネトウヨ評論家になったほうが、講演の仕事も来るし。わたしは安倍政権前は講演がたくさんあったのに、いまはほとんどこない! 原発事故もそう。放射能はきちんと測るべきと言ったらバッシングされ、メディア関係者も「そういうことを言うのはいじめだ。福島の物を食べて応援しよう」って。食べてもいいけど、まず測れって言っただけなのに。本当に変な世界にいると思っちゃった。

金平 すぐに風評被害を持ち出すのがメディア。子どもの甲状腺がんにしても、すごい数になったら「検査をしちゃいけない」って。室井さんの言うように本当に変な世界に迷い込んだようだ。昨年、文科省の放射線副読本が改定され、そこから「汚染」という文字が全部消えた。その代わりに強調されるようになったのが、「復興」と「いじめ」という言葉なんですから。

室井 でも、こうして金平さんと話していると、考え方は似てるけど、ひとつ違うのは年代です。金平さんの時代は筑紫さんとかカッコいいジャーナリストがいたけど、わたしたちの世代にはいない。上の世代から引き継げなかった。

金平 僕らの時代にしても、先行世代の背中は見てた。日本赤軍とか連続企業爆破とか、三島由紀夫とか。それらの現象は、内実が解明されないまま、いまだに突出している、宙づりになっている、と僕は思ってるんです。そして、幸いなことに筑紫哲也というオヤジがいた。一緒に何でも話し合い、好き放題できた。迂闊だったのは、それを快く思っていなかった人が局内にいっぱいいたってこと。気づかなかった(笑)。だから筑紫さんが死んだ瞬間に、「なんだこのやろう」と反発を受けた。本当に迂闊だった。いまのテレビがなぜダメになったかというと、こうした継承がうまくいかなかったというのはあると思う。

室井 それで逆に左翼オヤジでもヒドいのが広河隆一。あれは本当に許せない!

金平 実際、ひどいことをされた被害者がいっぱいいたわけで、僕も申し訳ないけど、知らなくて。昔、「DAYS JAPAN」のDAYS国際フォトジャーナリズム大賞の審査委員を3、4年やったけど、結構勉強になったんです。3日間くらい写真ばかり見るんだけど、報道写真は目に焼きついているものが多い。広河さんが編集部でそんな権勢をふるって、そんなことをやっていたなんて思いもよらなかった。

室井 御用ジャーナリスト山口敬之の事件と重なっちゃう部分もあるしね。自分の立場を利用したっていう。でも、山口事件のような、体制寄りの人が、性暴力ふるってもあちらの陣営は権力を使ってもみ消すけど、広河さんみたいな人がやると致命的になる。わたしが正直に思うのは、右のオヤジと左のオヤジがいて、両方女性差別主義者なんだけど、右のオヤジは「女は自分より下で弱いものだ」と思っているから庇ってくれることもある。でも左のオヤジはそれさえなくて、ただ差別してくる(笑)。「どうせバカなんだから」って。女性差別オヤジで言うと、右も左もひどい。ちなみに左のオヤジは食事しても割り勘にしようとする。でも右のオヤジは「俺が払うよ」って金は払う。

金平 わかりやすすぎる。ただそれでその人の、写真家としての業績も同じように終わっちゃう、全否定されるというのは……難しい問題も残りますね。

室井 ピエール瀧が逮捕されたときに作品をお蔵入りにしたのとも似ている話で、ピエールには被害者がいないけど、広河問題は被害者がいる。単なる愛人問題とかじゃなく、性暴力の問題だから。

■エコー・チェンバー・エフェクトをどう乗り越えるか

室井 それにしても金平さんと話していると、メディア状況は最悪だし、その背後の安倍政権を言葉や言論によって倒せそうにないし、どうしたらいいんですか!

金平 並大抵じゃないんですよ。今回の対談もそうだけど、結局、室井さんと僕の考え、ベースは同じでしょ。それは市民運動をやってる人たちや、“良心的”ジャーナリストなどもそう。“内輪”だけで話をしても、「そうだよね」「そうだよね」となる。それは密室のエコー・チェンバー・エフェクト、こだまになっちゃう。これではやはり、政権は倒れないし、カッコ悪いと思っていて。そこから一歩進んで、安倍政権を支持している人々とも対話する。マイケル・ムーア監督の映画『華氏119』なんかいい例だと思うけど、ムーアはドナルド・トランプの熱狂的支持者と話をすることで、トランプ大統領を誕生させたアメリカ社会に切り込んだ。そして全員が「トランプ! アメリカファースト!」と叫んでいるなかで、講演をする。すごかったのが「お前たちの言っていることはわかるし、だけどお前たちも俺もアメリカ人で、こういう方向を目指してたじゃないか」って言うと、みんなトランプ支持者だった奴らが泣き出して。最後は「マイケル・ムーアが選挙出ろ!」みたいなことになる。日本でもこれは可能なんじゃないか。もちろんネトウヨや在特会なんかはしんどいかもしれないけど、安倍政権を支持している普通の人とは会話ができると思っている。「他に誰がいるの?」くらいに思っている人たちって、結構いっぱいいるはずだからね。

室井 確かに、一方的なテレビの報道で、ここ数年で考える正義の方向性がちょっと歪んでしまった人、いびつになっちゃった人って多いかもね。でも、そういう人たちに対して、上から目線で距離を置いたり、自分が無関係なスタンスを大人だと考えている人はずるいよね。

金平 安倍首相の自民党総裁4選も大っぴらに語られているし、元号が変わって大騒ぎしてるけど、このままでは何も変わらない。変わったのはむしろ若い人たちの考え方、思考様式だと思う。望月衣塑子記者の件でも思ったけど、たとえばスマホの普及で、スマホ的価値、つまり記者会見で「なに面倒臭いこと言ってるんだよ」「もっと簡略にお願いします」「質問は10秒以内」などと邪魔する人間は、すでにそうした価値観に毒されている。ロジカルに長々と質問することだって記者にとっては大切なはずだし、面倒臭いことは大切なんことだと思う。面倒臭い奴は必要だとさえ思う。

室井 わたし、生まれたときからずっと面倒臭い人間だから。あっ、金平さんも同じだね。

*金平茂紀 1953年生まれ。1977年にTBS入社後、モスクワ支局長、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長などを歴任。2016 年執行役員退任後も現在まで『報道特集』のキャスターをつとめる。
* 室井佑月 作家、1970年生まれ。レースクイーン、銀座クラブホステスなどを経て1997年作家デビューし、その後テレビコメンテーターとしても活躍。現在『ひるおび!』『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)、『大竹まこと ゴールデンラジオ』(文化放送 金曜日)などに出演中。
 ≫(リテラ)

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●薄っぺらな議論 日本は独立国家なのかなんて

2019年04月26日 | 報道

●薄っぺらな議論 日本は独立国家なのかなんて 

公式な発言としては、日本と云う国は独立国だ。国連に加盟して、安保理の非常任理事国などに、何度も就任しているのだから、国連的には独立国なのだろう。

なのだろう、と疑問符を付けておいたのは、国連憲章の条文に「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国」(枢軸国)に対する措置を規定した第53条および第107条等による「敵国条項」は、事実上、無効化しているは言うものの、いまだ削除されていない現状があることだ。

つまり、国連に加盟できているから、独立国なのは当然だと云う論にも、実はどこか怪しげだ。

昨日書いた点でも、わが国が、純粋な意味で独立国とは言いがたい幾つかの要件がある。

それにしても、英国やフランスと戦ったドイツやイタリアは、戦後、英国が覇権国の座から下り、米国に、その座が移ったことで、独伊に対する米国支配は手ぬるく見える。

理論的ではないが、白人国家と東洋人国家の差別も感じないわけにはいかない。

その思いを鮮明にするのが、唯一、人体実験のような原爆投下だ。それも、唯一の人体実験だと強く認識した、周到な準備を経た原爆投下で、2都市を壊滅的に破壊した。

そして、戦後70年を過ぎても、米国による日本占領は、事実上継続していると言って過言ではない。

日本では、一見、自由な選挙により、国会議員が選ばれ、立法行政が民主的に運営されているフリを、国民全体で、欺瞞の世界を作り上げている。

テレビから新聞に至るマスコミも、多くの学者や文化人も、全員が、本当に独立国かどうか訝しく思いつつも、ポジショントークで時代を見過ごしている。

自分達から仕掛けた戦争だとはいえ、開戦間際を除き、物量作戦でボコボコにされ、沖縄戦では沖縄県民に犠牲を強い、最終的には、東京大空襲と二発の原爆投下で完全降伏。

諸事情から、わが国にも言い分はあるのだが、戦勝の白人系諸国から見れば、東洋人の敗戦国、日本を痛めつけることは、国際的承認欲求に対応できるものだった。

その東洋の敗戦国を明治以来の、天皇制と官僚制を温存することで、米国に隷属することを、暗に示し、見えない統制力で70年以上、日本を植民地並みに支配しているのが米国なのは、知識人の多くは薄々知っている。

しかし、その事実を有効に使い泳ぐように生きている、属国の支配階級が、見せかけの支配を行っている。

ただ、この見せかけの支配をしていること自体、行っている人間が自覚的かどうか、その辺は曖昧だ。

この曖昧さが、罪の意識を薄め、不思議な安定を生んでいる。まさか、ここまで都合よく、隷米な日本が復興し、70年も、いや、今後の70年も続くのかと思えば、米国にしてみれば、笑いが止まらないだろう。


≪ F35墜落事故と武器“爆買い”の闇 事故原因究明まで米国の言いなり 日本は独立国家なのか

【 中谷元・元防衛大臣、山崎拓・元自民党副総裁、宮本徹・共産党准中央委員、半田滋・東京新聞論説兼編集委員が深層を語る 】

 航空自衛隊三沢基地の米国製戦闘機F35Aが青森県沖で墜落した。日本は同機を米国に105機発注しており、安倍首相とトランプ大統領の密月の証しとも言えるが、かねて様々な欠陥を指摘されてきた。事故原因の調査、同機「爆買い」の理由究明など、日本の主権が問われる重大な課題が浮上している―。

 気になる事故である。

 航空自衛隊三沢基地所属の米国製最新鋭ステルス戦闘機F35Aが、4月9日青森県沖に墜落した。

 F35Aとしては世界初の墜落事故。自衛隊からすると飛行隊編成後2週間足らず、しかも、ベテランパイロットによるものだった。同機は最先端の軍事技術の結晶とも言われ、今後数千機レベルで量産される米国最強の輸出商品である。日本も100機レベルで発注、安倍晋三首相、トランプ大統領の日米蜜月同盟のシンボルとも言える。

 それが落ちた。両政府の衝撃は深く重い。連日自衛隊中心に懸命の捜索作業が続く。米国は在韓米軍から高高度偵察機U2を派遣、異例の対応をしている。

 このニュースをどうとらえるか。実は苦手な分野である。政治記者として防衛省を担当したことがない。  ただ、専門家の話を聞くにつけ、これはある意味、日米安保体制の核心を突く事故ではないか、と思えてきた。以下取材報告をしたい。

 まずは、中谷元・元防衛相である。事故発生直後、某テレビ番組でご一緒した時の彼のコメントだ。

「大変なことが起きた。世界最新鋭の機密が詰まった戦闘機が、部隊配属されて2週間もたたないうちに事故が起きて墜落した。ただ事ではないと思う」

 自衛隊出身で現場を誰よりも知る中谷氏の言である。私の中でニュースバリュー判定の針が激しく揺れた。その後改めて聞いた。

 欠陥機だった? 「世界の中で一番技術を持った航空機だ。導入自体は間違いなかったと思う」

 操縦士はベテランだ。 「F35Aで約60時間、他の機種を含め、約3200時間の飛行経験があり、編隊長として訓練を率いていた。ただ、最新ハイテク兵器を使いこなすためには、F1レーサーのようなテクニックと、IT機器を使いこなす能力の両方必要だ」

 事故原因はどっちにあるのか。機体の問題か。それとも操縦ミスなのか。中谷氏は事故原因の推測には慎重だった。さもあらん。尾翼の一部しか回収されていない段階である。

■F35は様々な欠陥が指摘されてきた

 調べると、一つ手がかりが見つかった。今年2月15日の衆院予算委員会で共産党の宮本徹衆院議員がF35について、米国会計検査院(GAO)から未解決の欠陥を966件指摘されていたことを明らかにし、政府を追及していたのである。

 早速、宮本氏に聞いた。

「墜落したと聞いた時? ショックですよ。私も欠陥機だと追及してきたが、本当に落ちてしまったと」  なぜF35の質問を? 「安倍政権が昨年12月18日の閣議了解で、F35を新たに105機追加取得することを決めた。そんなに買うのか、という素朴な疑問だ。防衛計画大綱と中期防衛力整備計画を決めた同じ日に、大綱や計画にはないF35大量購入を別途決めている。一体どういう代物なのかと調べ始めたら、いろんな欠陥が会計検査院や国防総省運用試験・評価局で指摘されていることがわかった」

「すべて中身が公開されているわけではないが、『主要な技術的なリスク(危険)』の一つとして、F35のパイロットが酸欠症状を訴えた事例が2017年5~8月までに6件発生したと指摘している。『墜落の危険』ともあったので、そんな危ないものを飛ばし続けていいのか、と政府を質(ただ)した。岩屋毅防衛相は、原因は米国で調査中で、各国に情報を提供している、という」

「F35に関する情報については全部米国頼みであって、日本政府が独自に検証できるものは何もない、ということがわかった。検査院の欠陥指摘も米国に大丈夫だと言われているだけできちんとした情報をもらっていない。パイロットにも国民にも極めて無責任な形で運用されていると感じた」

 ここからは、東京新聞・半田滋記者に疑問をぶつけてみる。F35について軍事ジャーナリストの中では最も精通している、と言われる人物である。中谷、宮本両氏からの推薦もあった。 

 あなたは、F35は技術的には未完成の戦闘機だ、と以前から指摘していた。

「ついに起きたかと。F35の先輩機種にF22があるが、これは1機も落ちていない。なぜか。空軍が使う専用機で、米の技術陣が総力を挙げて真剣に取り組んだ末にできたものだ。それに比べ、F35は、空軍、海兵隊、海軍の3軍が使うので、それぞれの要求を一つの機体に盛り込み重量オーバーになる。しかも、F22が2個のエンジンなのに、F35はコスト削減のため重たい機体を1個のエンジンで飛ばさなければならない」

「結局F35はあれもこれも詰め込まねばいけなくなりコスト高になり、トランプが就任前にツイッターで『高い』と呟(つぶや)いたら製造元のロッキード・マーチン社の女性社長が値引きした、という話もあった」

 機体発見の可能性は?

「戦闘機が海に落ちると、墜落場所を探すのが難しい。戦闘機自体が凄(すご)い速度で飛んでおり、海に落ちてもコンクリートに激突するのと同じで、バラバラになる。青森沖は親潮があり、日によって流れも変わる」  操縦ミス、体調不良の可能性は低い、との見方だ。

「いずれも考えにくい。自分の体と相談しながらやっていたはずなので、無理のない、基地に戻れる範囲で訓練を打ち切っているはずだ。ただ捨て切れないのは、空間識失調(バーティゴ)という平衡感覚喪失状態に陥った可能性だ。機体が逆さまになっているのにパイロットが気付かず操縦桿(かん)を引くと逆に海に落ちてしまう。最近の戦闘機はボタン一つで機体制御してくれるが、パイロットの自覚がないとそういう動作をしないことはある」

 現時点では、墜落機はノック・イット・オフ(訓練中止)と通信してから1分後にレーダーから機影消失した、という状況証拠しかない。 「緊急脱出していれば救難信号が自動的に出るが、それがなかった。1分間の間に機体を立て直そうとして何もできないうちに海に突っ込んでしまった……」

 1分間に何があった? 「機体がアンコントロール(制御不能)になった、というのが一番わかりやすい解釈だ。F35はよくできていて、人工知能で機体を自動的に制御できる設計になっている。多少変な操縦をしても飛行機のほうが正しく制御してくれる。だとすると、全く別の要因でそういった機能が全く失われた可能性がある。御巣鷹山に落ちた日航ジャンボ機も、垂直尾翼が吹き飛んで制御不能となった。F35に詳しい関係者は、エンジンが爆発するなど深刻事態の発生ではなかったかと指摘する」

■貿易摩擦を武器購入で解消?

 17年に米ルーク空軍基地で6件の酸欠症状があったこととの関連は? 「あの基地だけで起きたというのがわからない。ただ、深刻なのは、防衛省がGAOの指摘を米国防総省から伝えられていない疑いがあることだ。彼らは自分たちにとって不都合なこと、自分のポストが危うくなるような事態が起きると平気で嘘(うそ)をつく。そもそもF35選定時は未完成の機体だった。マイナスになるような情報を出すわけがない」  遡(さかのぼ)って機種選定に問題があった?

 F35はF4の後継機種として、野田佳彦民主党政権の11年に42機の導入が決まった。

「航空自衛隊がステルス性戦闘機が欲しいと、他の意見に聞く耳を持たなかった。欧州のユーロファイターがいい、という意見もあったが押し切った。今さら空自も泣き言を言えない」

 なぜステルスに?

「F22の存在が大きかった。相手から見えないのに、こちらからは丸見え、戦えば必ず勝つ、という性能だ。F22は海外には売らないと米議会が議決、F35しか買えなくなったからだ」

「だが、実はその時は立ち止まるチャンスでもあった。中露でもステルス機の開発が始まり、ステルス機を発見して撃墜する能力を各国が身につけ始めた時期でもある。ステルス機といってもエンジンから出る熱は隠しきれない。赤外線探知で一発でばれる。レーダーでも近代的高周波でなく低周波、例えば第二次大戦のころ使っていたレベルの低いのだと見えてしまうとか、いろんなことがわかり始めていた。だが、米国も採用している、ステルスがいいと凝り固まってしまった。ライバル機との飛行テストを排除して、カタログ性能だけで選択した。ボタンの掛け違いがあった」

 それから7年後。安倍政権はそのF35を計147機体制とする方針を決めた。決定済みの42機に加え、1兆2000億円以上かけてF35A63機、F35B42機、計105機を追加する、という。短距離離陸・垂直着陸型であるF35Bは、空母化される「いずも」型護衛艦での運用が念頭にあった。トランプ政権との通商摩擦解消策ともいわれた。トランプが米国の対日赤字を重視し、自動車への関税措置をちらつかせていたからだ。

「今回は自動車との引き換えだ。それ以外は考えられない。一石二鳥だ。自動車の引き換えにもなるし、いずもの空母化にもなる」

 17年11月の日米首脳会談後の共同記者会見が思い起こされる。トランプが「日本の首相が、必要な防衛装備品を大量に購入しようとしている。完全なステルス能力を持つ、世界最高のF35戦闘機や、様々なミサイルだ。率直に言って、1~2年前はそれほど購入していなかった」と発言している。その時点でディール済みだった可能性がある。

「貿易摩擦を安易に武器購入で解消しようとするべきではない。武器は適正価格がない。丼勘定で、相手の言い値で買う。赤字解消に役立つように見えるが、戦争になった時に欠陥品を買い続けることにもなる」

■日米関係の根幹に触れる問題

 今回の事故は、対外有償軍事援助(FMS)という現行調達システムの問題点も浮き彫りにした。値段から作り方、機密維持などすべて米側の言いなりだ。

「墜落機は三菱重工業小牧南工場で組み立てられた1号機。ただし、その実態は、三菱重工がロッキード・マーチン社の『下請け』に入ったようなもので、指示通りに組み立てるだけで、部品の大半はブラックボックス化され、部品の持つ意味も製造技術も日本側には開示されていない。しかも、最終検査は日本人関係者を締め出した別棟で米側だけで行われた。こういう米政府による秘密保持の姿勢が、今後の事故原因解明の妨げとなるおそれがある」

 責任だけは日本が押し付けられる可能性があると?

「工作上の問題だと言ってくる可能性がある。ロッキード・マーチン社で作っているのは1機も落ちていない、と。情報がない中、丁々発止のやりとりをするのが不可能だ。事故調査は一方的なもので、結果だけが伝えられる可能性もある。今回のことを機にFMSについて、こんな不公正な取引は改善してほしいと言うべきだ」

 調査結果はいつごろ? 「事故発生から4カ月以内に防衛相に報告する義務がある。機体引き上げができるか、フライトデータレコーダーが見つかるかがポイントだ。飛び方によって機体の問題か操縦ミスか、ある程度推測できる。問題は、機体の安全性について確証が持てない段階で、米国のお墨付きによって使い続けるかどうか、だ」

 自民国防族のドン、山崎拓元自民党副総裁は、以下の見解を示してくれた。

「問題は二つある。一つは、FMSで買っているから原因究明を我が国の手でできないということだ。企業機密を盾に本当のことは教えてくれない。もう一つはそれにもかかわらず、105機も追加注文したことだ。安倍氏が貿易赤字解消のためトランプにおもねった。負債、負担を国民に与えるとんでもない買い物だった。しかも不必要だ」

 F35は必要なかった?

「ステルス能力は価値がある。ただ、そんなにたくさん買ってどうするの、ということだ。どこに置き、誰が操縦するのか。自衛隊も新たにパイロットを養成しなければならない」

 戦闘機購入といえば、かつては商社や政治家の介在もあり、カネも動いたが?

「そんな小さな利益の問題より105機も必要ないものを買った国民的不利益のほうがずっと大きい」

 二つの問題がある、と思う。一つは、自国の防衛装備の欠陥について、FMSの壁を突き破り、どこまで納得のいく調査を行い、それを今後に生かせるか。それができなければ独立した主権国家とはいえない。  今一つは、なぜ105機も爆買いするに至ったのか。トランプ側からどういう圧力があり、安倍政権がどう応えたのか。国会でぜひ検証してほしい。日米関係の根幹に触れる問題である。
≫(毎日新聞)

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●限界と綻び鮮明 国連と米国による日本支配の構図 

2019年04月25日 | 報道

 

「縄文」の新常識を知れば日本の謎が解ける (PHP新書)
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PHP研究所

 

戦争にチャンスを与えよ (文春新書)
Edward N. Luttwak,奥山 真司
文藝春秋

 

国連の政治力学―日本はどこにいるのか (中公新書)
北岡 伸一
中央公論新社


●限界と綻び鮮明 国連と米国による日本支配の構図 


米国による日本支配は、戦前からのことである。第二次大戦中に一時途絶えたが、戦後、再び元の支配体制に戻っただけだ。

特に、第一次大戦の勝利に酔う我が国は、ウォールストリートの金融マフィアらと共謀して、金儲けに勤しんでいた歴史がある。

日本の旧財閥の殆どが、このウォールストリートの金融マフィアとは友人関係にあった。

当然、ユダヤ人を中心とする金融マフィアの連中だったので、安倍首相などは、イスラエルに親近感を抱いているのだろう。

ただ、歴史の皮肉なのだろうが、ドイツにおいては、この金融マフィアの横暴な支配が、ナチスを生み、トンデモナイ、ユダヤ人迫害に繋がったのだから、歴史はボタンの掛け違いで、右にも左にも激しく転ぶものである。

日本と米国の関係は、日米の軍事同盟(日米安保)に限らず、米国は、戦後の官僚制と天皇制を保持することを選択、支配構造に、その力を組みこんだ。

ゆえに、戦前の天皇制と官僚制は、戦後においては、米国の意図に逆らう選択のない永遠のポジションと云う哀しげな地位が与えられたと理解する。

天皇制は、相当程度、治外法権な位置づけで、政治とは一線を画しているので、米国の意を汲む思想は、特段に壊されるリスクはなかった。

ただ、今回の天皇の生前退位などは、おそらくCIAの協力があったことが窺える。その後ろ盾があったので、安倍政権も、嫌々従ったと観るのが自然だ。


現在も、安倍政権が宮内庁にゲシュタポを送りこむものの、天皇制の存在依拠である「日本国憲法」護憲の精神は、米国の意志で維持されている。

安倍政権が、声高に「改憲」を一部の支持者にアピールしているようだが、両院で2/3議席を有しているにも関わらず、改憲発議まで持って行かないのは、持って行けないと云うより、持って行く気がないのが真実ではないかと思う。

表立った「改憲」には、日本国憲法を共同作業で生みだした、米国による、日本封じ込めの精神に反するわけで、米国中枢の怒りを買うリスクは残されている。

或る意味で、戦勝国全体への約束を反故にする意志表示にみえるリスクを抱えている。


天皇制を堅持したい皇室は、あくまで、“このままこのまま”を望むのは当然だ。

官僚制の側は、天皇制と異なり、日々日常において、政治との軋轢があり、米国支配と現行政権支配と云う、二重の管理者に使える身になっている。

このような立ち位置にある官僚たちは、原則は、行政のサボタージュを行う。

しかし、現在の安倍政権のように、官僚らの人生にまで手を突っ込むような管理体制を敷き、強圧的支配に置かれる。

米国というビッグ・ブラザーと政治と云うビッグ・ブラザーの両方の顔色をみる慌ただしい行政が必要になる。

結果、自己矛盾に満ちた法律や行政に手を出し、あやふやだった自分の国のバランスを、己の手で掻き交ぜる愚行に走っているのが現状だ。

つまり、ふたつのビック・ブラザーに挟まれ、身動きが取れないならいざ知らず、この二つの管理人は、言うことが異なるため、あちこちと命じられるままに弄りまわし、わが国の行政の仕組み自体を破壊した。

だいぶ前に書いたことだが、消費増税再々延期と衆参同日選を占ったが、現実味を帯びてきたようだ。

最近気づいたことだが、安倍政権と云うのは、米国を裏切ろうと云う心根を持ちながら、接近するたびに、様々なミッションを言い渡され、唯々諾々とそのミッションを受け入れてきた。

結局、安倍晋三の心根などは、些細なもので、米国の意志の前では、常に風前のともし火に似たもののようである。

つまり、日本の政府は、条件闘争は或る限られた範囲で認められているが、基本的な戦後の条件を覆すことはまかりならぬと戦勝国に言い渡された国家だと云うことだ。

このように考えてしまうと、なんだか、籠の鳥のようで物悲しいが、筆者は、さほど気にならない。

エコノミック・マニアな日本人の場合、経済大国という誇りとか、“ニッポン最高”みたいな感覚の人々にとって、現状の世界の枠組みは、息苦しいのは理解する。

ただ、その息苦しさは、偶然得たポジションに汲々として、己の真の姿を見失った人々と言えるだろう。

我々は、いつまで、経済大国の亡霊につきまとわれるのか、不思議でならない。

NHKを中心とするマスメディアの方向性が、日本人をエコノミックな価値にのみコミットする人々に教育したと言っても良いだろう。

世論調査の結果、政治に望むことは、景気・雇用、社会保障・年金など、経済事情に限定され、平和とか、豊かとか、平穏とか、融和とか、共生とか、そういう方向に人々が向かうような方向性を提示しないのだから、利己的動物の人間が向かうはずもない。

 災害が起きた時にだけ、経済以外の価値観を賛美してもダメなわけで、経済というものは、人間の煩悩であり、或る意味賤しいものでさえあると云う教育が欠如しているとしか言いようがない。

何が言いたいかと云うと、国連主義における戦勝国である常任理事国5か国+5Gが、ビッグ・ブラザー(ここまで来ると、ブラザーズになるのだが)であり、この基本的考えは永久に?変わらないのが国連主義である。

日本の一部の人には、だから再度戦争をして、戦勝国にならなければならない、と力む人もいる。

このようにギュウギュウ締めつけられている状況であれば、国連主義が保持している価値観から抜け出せば、彼らビッグ・ブラザーとの接点も消える。

つまり、彼らの管理範疇の外の世界にいることは可能なのだと思う。

国連主義も万能ではないわけで、彼らの価値観から遠ざかれば、彼らは、自らの枠をはみ出して、管理範疇の外の世界に足を踏み入れることはないのだ。

おそらく、まだ明確には見えていないが、これからの日本が国連主義の管理下から脱出する方法は、第三次大戦の戦勝国になるのではなく、戦勝国の管理下以外の価値観の世界に向かって行くことではないかと考える。

その姿は、まだおぼろげだが、幾分見えてきている。


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●F35の墜落 官邸は最新戦闘機で何がしたいのか?

2019年04月24日 | 報道

●F35の墜落 官邸は最新戦闘機で何がしたいのか?

安倍官邸は、アメリカが推し進めるForeign Military Sales(FMS)の制度に沿って、見境もなく、自衛隊が欲しいと言っているわけでもない米国製の最新鋭?とセールストークされる戦闘機やイージス艦やミサイル防衛システムを買い込んでいる。

その金額は、米国に支払う購入費のほかに、その戦闘機等の維持管理費も含めると、5兆から10兆円の出費が確定している。当然ながら、これらの費用は防衛費なので、本来自衛隊が必要とする日常的防衛装備品の予算を圧迫し、トイレットペーパーもまともに支給されないと冗談はなしまで出ている。

そもそも、憲法第9条の専守防衛の枠をあきらかに逸脱した武器の購入に、何の意味があるのかが判らない。

防衛に役立つからと言う屁理屈を並べれば、核兵器だって、当然だが防衛に役立つだろう。

いや、官邸などに棲んでいる人間の中には、防衛上致し方ない行動だったと位置づけながら、どこかの国と戦争になることを望んでいるフシさえ見られる。

無論、現状の仮想敵国としてイメージしているのは「対中」らしいが、核を一発見舞われて、へなへなとなるのは火をみるよりもあきらか、流石の安倍官邸にも、中国と戦火を交えるバカはいないだろう。

それに、アメリカ自体が世界の権力図を変えようとは思っていないのだから、対中戦争などに共同歩調を取ることはない。我が国は、孤立無援だ。

となると、北朝鮮か?いや、これも、制御不能な核を撃ち込まれた場合、「対中」以上に怖い結果が生まれそうである。

核大国ロシアも同様で、手も足も出ない。

近隣の国で、核を保有していない国は、どうみても一国しかない。

同盟国であるアメリカは、三国同盟のつもりでコントロールしているわけだから、戦火を交える筈はないと考えている。

しかし、交戦状態になれば、米軍は日本から撤退するだろう。しかし、北朝鮮がある以上、隣国から撤退するとは限らない。

戦火を交えると、米軍基地にも被害が及ぶ可能性があり、腰の引けた戦いになる。 :まかり間違って、米軍基地に撃ち込むようなことが発生したら、一発アウトだ。

つまり、最終的には、米国製の戦闘機等は、宝かどうか別にして、宝の持ち腐れなのである。

それでも、どこかと戦火を交えたい心根の人々がいるようだ。

おそらく、その勢力の狙いは、日本経済を「戦争経済」の坩堝に投げ込みたい意図がある場合だけだ。

常識的にはあり得ないのだが、現実の世界では、不合理で、非常識なことが起きるものである。

どこか日本の権力中枢には、常に、この戦争を好むDNAが潜んでいるように思われる。

それを封じ込めるのが憲法なのだが、解釈改憲で、法はどのようにでも扱えると味を占めた連中が手ぐすねを引いているのは事実だろう。


≪ F35A事故が照射する 防衛政策 根源的疑義=高村薫
 季節外れの寒波で関東甲信越が雪景色になった10日、早朝からメディアはどこも「平成最後の雪」と騒ぎ続け、前日夜に青森県沖で消息を絶った航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35Aについての続報は、見る影もなかった。

 4月の大雪と、鳴り物入りで導入された一機140億円の次期主力戦闘機の、世界初となる墜落事故と。比べること自体がむちゃなのは承知の上で、いったい事故の扱いを極力小さくするよう国から圧力でもかかったのかと、思わず勘繰ってみたことである。

 というのも、AIで高度に自動制御された最新鋭の戦闘機で、搭乗員が緊急脱出もできないような事故とはいったいどんな事故なのか。この2月に山口県沖でF2戦闘機が墜落したときには搭乗員は脱出しているが、今回はなぜできなかったのか。最新鋭の機体でそんなことがあるのか。一国民の頭は単純な疑問でいっぱいである。

 搭乗員が飛行時間3200時間のベテランで、しかも機器はほぼコンピューター制御となれば、事故が操縦ミスである可能性は低いだろう。ならば、過去にも2度あったという機体の不具合か。何らかの設計ミスか、ソフトのバグか。自衛隊はもちろん、米軍も艦艇や哨戒機を出して水深1500メートルの海底に沈んだ機体を捜索しているが、仮にフライトレコーダーや機体の回収ができても、そもそも機体の全部が米軍の軍事機密であるし、点検整備さえ自前で行えない自衛隊は、原因究明の作業も当然蚊帳の外だろう。いったい、自ら事故の検証もできない兵器を戦力と呼べるのだろうか。

 報道によれば、2012年から順次導入が進むF35A、42機の取得費が約6000億円。30年間の維持整備費1兆2877億円。さらに昨年末の中期防衛力整備計画で追加購入が決まったA型63機、垂直着陸機のB型42機の取得費が合わせて1兆2000億円。そしてその維持整備費が30年で約3兆円。

 この莫大(ばくだい)な買い物はすべてアメリカ政府のForeign Military Sales(FMS)の制度を利用して行われている。同制度を日本政府はなぜか対外有償軍事援助と呼んでいるが、読んで字のごとく原意はずばり「セールス」である。

 同制度は、自国で開発できない最新兵器を入手できる半面、価格や納期などの契約条件をメーカー側が一方的に握っており、非常に割高な買い物になることが前々から指摘されている。しかも維持整備もメーカーが行うので、日本は大金を払って、まったくのブラックボックスを買うことになる。

 かくしてF35のほか、輸送機オスプレイ、早期警戒機E2D、無人偵察機グローバルホーク、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」と、現政権はアメリカの言いなりに続々と高額な兵器を購入し続けているのだが、FMS調達の増大は当然、防衛予算を圧迫する。現に昨年末には、防衛省がついに国内企業62社に装備品代金の支払い延期を要請するに至り、私たち国民を唖然(あぜん)とさせた。

 さらにF35Aの導入以降、スクランブル用のF15をはじめ、訓練機や哨戒ヘリコプターの維持整備に十分な費用や要員を回せず、自衛隊本来の任務や備品の補充に支障をきたしているとも言われる。しかも、現場よりも官邸主導で購入されたこれら最新鋭兵器の一部は、現場が必ずしも必要としておらず、十分に使いこなすことのできない代物だという話も聞く。

 憲法9条の是非以前に、まともな戦略も知識もない非常識な官邸主導によって、自衛隊の装備と人員の双方で深刻な疲弊が進んでいる。墜落したF35Aは、去年6月まで機関砲や短距離空対空ミサイルさえ持たずに配備されていた。国会では2月、その機関砲の精度が米軍の仕様基準を満たしていないことが問題になった一方、専守防衛を逸脱する長距離巡航ミサイルを搭載する話が進んでいる。

 いったいこの国はF35Aに何をさせたいのだ? 戦争ごっこなら、せめて無人機でやれ。 (高村薫)

*たかむら・かおる  1953(昭和28)年、大阪市生まれ。93年『マークスの山』で直木賞。98年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞。2016年の『土の記』で野間文芸賞、大佛次郎賞、毎日芸術賞をそれぞれ受賞する。
 ≫(毎日新聞)

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●吹き荒れるビッグ・ブラザー ノーテンキな「令和」な人々

2019年04月23日 | 報道

 

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)
小野寺 健,小野寺 健,George Orwell
岩波書店

 

東京プリズン (河出文庫)
赤坂 真理
河出書房新社

 

箱の中の天皇
赤坂 真理
河出書房新社

 

●吹き荒れるビッグ・ブラザー ノーテンキな「令和」な人々
後半の統一地方選が行われた。選挙の起動力となる市議レベルの選挙だが、あいかわらず自民党、公明党の強さが目だった。

未だに日本維新の会がそれなりの勢力を保っているのは不思議だが、大阪の不思議と云うか、東京への対抗心が変わった形で生まれた結果なのだろう。横山ノックさんが知事になったのだから、東京人が口出しすべき問題ではないと言われているようだ。

ただ、維新の力量は大阪地域のみなので、国政レベルで気になるものではない。気になるのは、共産党の退潮だ。最も野党共闘で、自己犠牲している同党が傷だらけと云う状況は幾分痛ましい。

しかし、同日に行われた衆院2補選は、鮮明に自民党が敗北を喫した。

このことは、自民にとって、相当の痛手だと言えるだろう。沖縄、大阪では、反自民と云う政治風土が定着したと言っても過言ではない。

同党議員の死去に伴う弔い選挙で楽勝だったはずの大阪12区でも、日本維新の会の新人に大差で敗れた。

最近、大阪は反東京と云う風が吹いているらしく、当分は維新にお任せムードになっている。

正直、安倍自民は、このまま参議院選挙に単独で突き進む気にはなれない情勢になっている。

つまり、消費増税の再々延期であるとか、5%への減税を謳い、その信を問うくらいの目玉政策を掲げ衆議院解散で、衆参同日選に打って出る可能性が高くなった。

5%への消費税減税案を持ち出された場合は、野党に勝ち目はなく、自公維の勝利で、改憲派で2/3議席を確保することになりそうだ。

ただ、現実に、消費税の5%減税案は、容易に打ち出せる案ではないだけに、再々延期程度でお茶を濁せば、安倍晋三お茶の間劇場の演出も空振りとなる確率が高い。

ウッカリすると、野党の闘い方にもよるが、衆参共に大敗を喫する悪夢を見ることもあり得るだろう。

安倍自民党にしてみれば、当面国会は休みなので、ボロも出ず一安心。安倍外遊で岩田明子とNHKで外交劇場を演出、トランプとも4月に続き、5月、6月と会談を行い、日米の絆を演出する。

現実には、日米同盟の蜜月が深ければ深いほど、日本の隷米度が深まり、不要な軍事費が肥大するのは確実だ。マスメディアの安倍一強報道で、そうなのかなと思ったが、実態は電通の振り付けで、安倍晋三劇場が演じられていただけかもしれない。

現に、外交面で、まともな成果がないと云うことは、霞が関の範囲で、嘘の世界を演出していると云うことだろう。

軍事費の肥大は、わが国の社会保障制度の崩壊を早め、与党自民党は思わぬしっぺ返しを食らうかもしれない。

政治は一寸先が闇と言うが、思いもよらないかたちで、最強の安倍自民党が崩壊する姿が見られるかもと妄想するだけで、愉快である。

話は全然変わるが、以下の3本の日経の記事は、様々な意味で、需要な意味を持つ情報だと思うので、参考掲載しておく。

個人的感情論だが、ルノーの記事は、日産が、ルノーとの提携を破棄するために出来る選択はあるのか。あるとして、それは、どのようなものか、記事として物足りなさを感じた。

アメリカと云う国は、イランが全面的に覇権国への忠誠を誓わないと云う理由で難癖をつけ、自国が産油国NO1になったことで、オイル産油国を自国のコントロール下に置こうと躍起である。

イラク、リビア、ナイジェリア、ベネズエラ、そしてイランだ。誰が見ても、アメリカのよる産油コントロールの陰謀と見て差し支えない。こんな国の言うがままの国が平和で安定した経済を営むのは無理である。

ロシアから引き剥がしを敢行したウクライナへの興味を失ったアメリカが、ウクライナ大統領選で取りこぼしをしたのもおかしい。

オバマが手を出したウクライナ、商売人のトランプにとって埒外の国なのに違いない。

いずれにせよ、安倍政権の外交方針で行くと、無駄な軍事費防衛費は増大するし、原油価格の上昇に寄与するばかりで、ほとんど売国政策の自民党になっていくのだろう。

それでも、国民は気づかずに場に送られて行くのだろうか。或いは、縄文のDNAのしぶとさが、そうさせるのだろうか。



≪ルノー、日産に統合再提案 日産は拒否へ
仏ルノーが今月中旬、日産自動車に経営統合を提案したことが22日、関係者の話で分かった。経営の独立性を求める日産は提案を拒否するとみられ、販売台数で世界2位の日仏連合の協力関係に影響が出る可能性もある。規模や技術力で日産に劣るルノー側は経営基盤を強化するため、かねて統合を目指していた。カルロス・ゴーン元会長が逮捕されて以後、両社間の具体的な動きが明らかになるのは初めてだ。


 


ルノー側は経営統合することで日仏企業連合の相乗効果(シナジー)を最大化できると主張した。ルノーに飲み込まれる形での統合を懸念する日産はこれを拒否し、より対等な資本関係を求めるもようだ。ルノーは43.4%を日産に、日産はルノーに15%をそれぞれ出資している。日産の持ち株には議決権がない。

日産はゴーン元会長時代の規模拡大路線が業績悪化を招いたとの考えから、経営統合ではなく、単独で経営効率を高めた方が企業価値が高まると判断している面もある。

ルノーは同社に15%を出資する筆頭株主である仏政府の意向もあり、かねて日産との経営統合を目指していた。規模などの面から単独では生き残れないとの考えがある。

ゴーン元会長によると、同元会長は2018年9月、ルノーと経営統合する意向を西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)に伝えた。仏政府も1月、共同持ち株会社方式を軸として、ルノーと日産を経営統合する意向を日本政府関係者に伝えた。

一方、日産は一貫して統合に否定的だ。ルノー中心の連合運営に弊害も出ていたからだ。ルノーの仏国内にある工場の稼働率を維持するため、日産のインドの工場で造る予定だった車種の生産を振り向けたこともある。

ただ、両社はゴーン元会長から新たな経営陣への移行が進むこの数カ月は表だった対立を避けてきた。4月12日には三菱自動車を含む3社の首脳らが集まってルノー本社で新しい会議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」の初会合を開催。これまではゴーン元会長に権限が集中していたが、元会長の退場を受けて、3社トップの4人による合議制での意思決定に改めた。

資本面で優位に立つルノー側も、無理に主張を通そうとすると協力関係自体を壊しかねないとみて、最近は融和姿勢をみせていた。ジャンドミニク・スナール会長は3月の記者会見で経営統合について「仏政府を株主として尊重するが、ルノーや日産、三菱自にも将来がある」と統合棚上げを示唆した。

今回、対立が表面化したことで日仏連合の連携強化の取り組みが遅れる懸念も出てきた。日産は6月の定時株主総会後も西川社長が続投する方針だが、筆頭株主のルノーが反発する可能性もある。
 ≫(日本経済新聞)


≪米、イラン産原油の禁輸を発表 米が制裁強化、原油価格上昇も
【ワシントン=中村亮】ポンペオ米国務長官は22日、イラン産原油の禁輸措置について、日本など8カ国・地域を適用から外した特例措置を5月2日に撤廃すると発表した。アジアの主要国はイラン産原油の調達が難しくなり、原油価格の一段の上昇を招く可能性がある。米国の禁輸措置を受けて、中国やトルコなどが輸入停止に踏み切るかは不透明だ。

米政権は2018年11月にイラン産原油を制裁対象としたが、原油価格への影響を考慮して8カ国・地域については180日間の適用除外を認めていた。日中韓と台湾、インド、トルコ、イタリア、ギリシャが輸入を認められている。

米メディアが米国の全面禁輸の方針を先行して報じると、原油市場では買いが優勢になった。国際指標となるニューヨーク原油先物は日本時間の22日、前営業日(18日)より1.87ドル(約3%)高い1バレル65.87ドルまで上昇した。

市場には部分的な輸入制限にとどまるとの見方もあっただけに、全面禁輸の報道が原油先物への買いを加速させた。産油国ベネズエラでも大規模停電で3月から原油生産が細っている。同国の生産量は3月が日量87万バレルで、4月以降は一段の減少が見込まれている。

リビア、ナイジェリアといった産油国にも政情不安が広がる。これにイラン産原油の全面禁輸が加わり、世界的に原油の不足感が意識されやすい。

市場関係者によると、中国はイラン産原油を日量40万バレル程度、インドは30万バレル程度輸入している。この2カ国でイランの原油輸出の過半を占める。ただ中国の原油輸入全体に占めるイラン産の比率は5%程度とみられ、それほど高くない。

日本では1月からイラン産原油の調達が再開された。ただ2月のイラン産原油の輸入量は全体の4%強と前年同月(約6%)から低下していた。

JXTGエネルギーなど石油元売り各社は5月で特例措置が打ち切られるとみて、3月から順次イラン産原油の輸入を停止している。サウジアラビアなどから代替調達をしており、安定供給に影響はない。

菅義偉官房長官は22日の記者会見で、イラン産原油の取り扱いを念頭に「日本企業の活動に悪影響が及ぶべきではないとの立場から米側と緊密に意見交換している」と語った。

もっとも、米国の禁輸措置に8カ国・地域が同調するかは不透明だ。中国外務省の報道局長は22日の記者会見で「米国が国内法に基づいて単独制裁を科すことに一貫して反対してきた」と述べ、米国の全面禁輸措置の方針を批判した。米メディアによると、トルコ政府高官は先週、原油輸入をめぐり「トルコがイランを見捨てることはない」と強調。米国が禁輸措置を講じても従わない意向をにじませた。
 ≫(日本経済新聞)


≪「敵失」追い風、ウクライナとの融和めざすロシア
編集委員 池田元博
旧ソ連のウクライナで大統領選の決選投票が実施され、コメディアンの新人候補ボロディミル・ゼレンスキー氏が現職のペトロ・ポロシェンコ氏を大差で破り、当選した。選挙戦でロシアとの対決姿勢を誇示したポロシェンコ氏は国民の支持を集められず自滅した。ロシアは政権交代をひそかに歓迎し、極度に悪化した両国関係の改善をめざす構えだ。


 


 「4月21日は決定的な選択の日だ」。選挙戦でポロシェンコ陣営はこんな標語とともに、大統領とロシアのプーチン大統領が対峙するポスターをつくって国民にアピールした。

ロシアは2014年 3月、ウクライナ領のクリミア半島を自国に併合。続いて、ドンバスと呼ばれるウクライナ東部地域で起きた政府軍と親ロシア派武装勢力による泥沼の戦闘にも加担した。ポロシェンコ大統領はウクライナ国民にとって「最大の敵」となるはずのロシアを政策の争点に掲げ、ゼレンスキー氏を暗にロシアの回し者と吹聴する一方で、プーチン大統領に互角に対抗できる指導者は自分しかいないと強調したわけだ。

だが、ポロシェンコ陣営は選挙戦略を大きく見誤った。「次の大統領は就任後の最初の 100日間で何をすべきか」。キエフ国際社会学研究所が決選投票前の4月中旬に実施した世論調査では、公共料金の引き下げがトップで39.1%を占めた。さらに大統領や議員、裁判官に対する不逮捕特権をなくす法案の提出(35.5%)、大規模な汚職犯罪捜査の着手や加速(32.4%)と続いた。国民の関心は、生活環境の改善や政財界にはびこる汚職対策に向いていたといえる。

一方、当選したゼレンスキー氏は、これまで政界とは全く無関係だった。一部で報じられているように、平凡な教師が大統領になって汚職対策などに奮闘する連続テレビドラマで、主人公を演じて人気を博した。選挙戦ではドラマさながらに庶民派を自任し、オリガルヒと呼ばれる大物財界人と政界の癒着や既存政党の汚職体質の打破などを訴えた。政治家としての資質は未知数ながら、「すべてに反対する候補者」(ロシア上院のコンスタンチン・コサチョフ外交委員長)として国民の人気を集めたようだ。

ウクライナの国家指導者が誰になるかは、旧ソ連の盟主である隣国ロシアにとっても大きな関心事だった。民族的にはともにスラブ系が主体で、かつては兄弟国といわれたのに、クリミア併合後の両国関係は完全に冷え込んでいる。大統領選の結果はそんな関係を修復できるかどうかを占う重要な要素となるからだ。実際、国営メディアは選挙戦の状況を詳細に伝えるとともに、専門家を集めた討論会などを連日のように放映してきた。

では、ロシアのプーチン政権にとってゼレンスキー氏の当選は、理想的なシナリオといえるのだろうか。実は最終的に39人もの候補が乱立したウクライナ大統領選を巡り、クレムリンが暗に支持してきた候補は別にいた。野党候補の1人でロシアとの対話の必要性を訴えたユーリー・ボイコ氏と、世界的に著名な女性政治家のユリア・ティモシェンコ元首相だ。


 


ボイコ氏については 3月31日の第1回投票に先立つ 3月下旬にモスクワに呼び、メドベージェフ首相が直接会ってウクライナに対するエネルギー支援の可能性などを話し合っている。一方のティモシェンコ元首相は必ずしも親ロ派ではないが、ロシアとも欧米とも良好な関係づくりを演出できる政治家だ。天然ガスを中心にエネルギー利権を押さえているともいわれ、ロシアも水面下で交渉できると踏んでいたようだ。ただし、2人とも決選投票に進めなかった。

選挙戦の発言をみる限り、当選したゼレンスキー氏のロシアに対する見方は厳しい。地元メディアのインタビューでは、「プーチン大統領を敵とみなすか」という質問に「当然だ」と答えている。ウクライナ東部地域の親ロ派武装勢力に恩赦を与える可能性も完全に否定している。当然のことながら、「クリミアは(ロシアに)占領されたウクライナの領土」としてロシアによる併合を容認していない。

ゼレンスキー氏自身は「単なるビジネスの関係」と否定するが、同氏の後ろ盾はウクライナの大富豪イーホル・コロモイスキー氏ではないかとされている。そのコロモイスキー氏はウクライナ東部地域の紛争で私財を投じて親衛隊を組織し、親ロ派武装勢力による占領地区の拡大を阻止した経緯がある。

とはいえ、ゼレンスキー陣営はクリミア問題やウクライナ東部の紛争を収拾する目的もあって、プーチン大統領との首脳会談には前向きだ。クレムリンもこうした対話姿勢は前向きに評価している。ゼレンスキー政権の発足後、比較的早期に首脳会談が実現する可能性がある。

そもそもポロシェンコ政権は14年の政変で親ロ派のヤヌコビッチ政権が倒され、それを受けて発足した。ロシアは政変による政権交代を「違法」とみなして当初から激しく反発。対するポロシェンコ政権も対ロ強硬策を次々と打ち出すとともに、クリミア併合やウクライナ東部に軍事介入したロシアの「罪」を国際社会に繰り返し訴えてきた。

関係は大きく悪化し、いまや両国間を直行する航空便が運航できない状況が続いている。経済制裁の応酬も続き、ウクライナは天然ガスを欧州から調達せざるを得なくなった。昨年11月にはクリミア周辺の海域で、ロシア軍がウクライナ艦船を銃撃して拿捕(だほ)する事件も発生。プーチン大統領は大統領選を控えたポロシェンコ政権による陰謀と非難し、逆にポロシェンコ大統領は戒厳令を導入し、ロシア国籍の成人男性のウクライナ入国を一時的に禁止したこともある。

プーチン政権がポロシェンコ大統領を嫌っていたのは間違いなく、仮に再選されればウクライナとの関係修復は不可能とみなしていたはずだ。プーチン政権は思わぬ「敵失」を追い風に、当面はゼレンスキー次期政権との間で融和に向けた対話を続け、懐柔策がどこまで可能かを模索していくことになろう。その際にまずは、天然ガス供給を含めたエネルギー分野の協力をちらつかせる公算が大きい。

先のキエフ国際社会学研究所の世論調査に再び戻ると、外交政策で興味深いウクライナ社会の風潮が垣間見えている。ロシアとの対話の再開を望む声(23.3%)が意外に大きかったことだ。半面、ポロシェンコ政権が非ロシア化の一環としてめざしてきた欧州連合(EU)への加盟問題については、交渉開始を求める声は3.3%にすぎなかった。ロシアとウクライナの関係改善は決して容易ではないが、ゼレンスキー氏の大統領当選がその転換点となる可能性は否定できない。
 ≫(日本経済新聞)

続 昭和の怪物 七つの謎 (講談社現代新書)
保阪 正康
講談社

 

アメリカ(河出新書)
橋爪大三郎,大澤真幸
河出書房新社

 

違和感のススメ
松尾 貴史
毎日新聞出版
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