鞍馬のお山を下りて、仁和寺、嵯峨野へと行く予定だったが、仁和寺がカットされたのですぐ嵯峨野へ。仁和寺は数回訪ねているが、この旅では、能「経政」に登場する琵琶の名器「青山(せいざん)」(「絃上」、「獅子丸」と共に唐から伝えられた3名器の一つ)について何か聞けるかと、期待していた。
嵐山でバスを降り、渡月橋の手前で右折し天竜寺まで歩く。天竜寺はもちろん、二尊院、祇王寺、化野念仏寺、落柿舎、滝口寺…そして大河内山荘まで、この辺りは何度か回ったものだ。竹林を通りながら、野宮神社がこんな所にあったか?と不思議に思うほど、まったく記憶になかった。
この竹林の道は、いつの季節だかライトアップされるそうだ。ときどき観光用の人力車も見かけたが、この日はわりと静かだった。途中、左に「野宮神社」があった。↓は、黒木の鳥居。「縁結び、進学祈願」と赤文字で書かれている。「両方とももう関係ないわ」と誰かが呟き、皆、「そう、そう」と言っていた。
「黒木鳥居」とは、樹皮のついたままの鳥居のこと、原始的な最古の形式の物だそうだ。源氏物語の『賢木(さかき)』にも登場する「小柴垣に黒木の鳥居」が、現在に再現されているとか。
説明によると、従来は、「くぬぎ」を使用し、3年ごとに立て替えをしていた。が、近年くぬぎが入手困難となり、徳島県剣山の山麓より切りだした自然木に防腐加工を施し、高松市の会社が奉納したそうだ。また、鳥居の両袖の小柴垣は、くろもじを用い、源氏物語や謡曲に表された遺風を残している。
なでたり、木の皮をはがしたりする人がいるらしく、一部めくれていた。社は小さく境内もせまい。
山崎先生が、「奥に子宝の神社があるよ」と言われ、娘が「お参りせんな~」と入って行った。
さて、お能「野宮」のあらすじは:
晩秋の嵯峨野の野宮。木枯らしが吹く頃、ここを訪れた旅僧の前に、里女(六条御息所の亡霊)が現れる。「六条御息所が、斎宮(さいぐう=伊勢神宮に仕える女性)となった娘と共に伊勢へ下ることを決め、御禊ぎの為に野宮に籠っていると、光源氏が訪れ、いろいろと慰留されたけれども、頼りない源氏の愛情に失望し、娘と共に伊勢へ下った…」と語り、黒木門から消え失せる。
旅僧が菩提を弔っていると、在りし日の姿で、網代車に乗った御息所の霊が現れる。その車は賀茂の祭の時に、源氏の正妻・葵上との場所争いをした恥ずかしく因縁深い車である。「光源氏と恋に堕ち、捨てられた悲しみが妄執となり、迷っている。この苦しみから救ってほしい……」と僧に頼んで、再び車に乗り、消え去って行く。
黒木門に消える御息所が目に浮かぶようだ。お能も見たことがないし、お謡いもお稽古していないが、いつか見てみたいもの。
帰り道で、舞妓さんの二人連れとすれ違った。バスガイドさんに言わせると、「なんちゃって舞妓」と言って、人力車と一緒で舞妓姿の貸衣装とのことだが?
いよいよ今夜の夕食は、「がんこ高瀬川二条苑」だ。