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本好き人の365日

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』はムーミンだった!

2012-01-09 22:24:00 | 梨木香歩
1月の第2月曜日は「成人の日」でしたね。
昭和生まれには1月15日じゃないとピンときませんが、とりあえず新成人の皆さん、ここまで無事に育ったという意味で、おめでとうございます。
自分の頭で考えることのできる責任ある人間になって下さいね。

このお正月に読み始めた梨木香歩さんの、

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(理論社)

を読み終えました。

梨木香歩さん、戦ってるなぁ~
最初は回りくどくて小説としてはちょっと読みにくかったのですが、しだいに引き込まれてしまい、最後は夢中!
読み終わると心地よく疲れ果ててはいましたが、一人でも多くの人に、とくに新成人の方々には、この本を読んで欲しいと強く思っていました。
ぜひ文庫化して欲しい!!

現代の中学生、コペル君が主人公ですが、最初は植物や鳥、虫の名前がたくさん出て来るので、慣れない人はうんざりするかも知れません。草木染めや環境保護という言葉を見て、「あぁ、よくある文明批判小説ね」と扉を閉めてしまったらきっと後悔します!

AV(アダルトビデオ)に出演させられて傷ついた少女…
教師の一方的な押し付けで登校拒否になった少年…
大人たちの、群れという共同体の持つ無責任さに、いつの間にか強制されている価値観…

「魂を殺す」

戦時中、兵役を拒否して洞窟に逃げ込んだ青年…
「非常時」という言葉で何もかもが一方方向に押し流されて行く。
そしてそれを「当り前」として賛美し、自分の頭で考えることもなく賛同する周りの人々。
「あの時はそういう時代だった」と、自分の罪を覆い隠して…


「それが国のやり方だ。国が本気でこうしたいと思ったら、もう、あれよあれよという間の出来事なんだ…」(本文より)


ある教師が「命の授業」として、子供たちが育てた動物を殺して調理し、食べさせるという授業を行いました。その話は話題になり、映画化もされています。最初にそれを行った教師にとって、多くの批判にさらされることは覚悟の上でした。
ところが、この本にはその授業が「正しい」と世間から認められてからのち、安易にその授業をマネして同じような授業をしてしまう教師というのが登場します。そして結果的に、生徒の心を傷つけてしまう…

「群れ」の中で「異質」でいること。

それは決して悪いことでも、欠陥でもない。

重いテーマにも関わらず、屋根裏部屋の蔵書とか、庭に出没する謎の生き物だとか、オーストラリア人の豪快なマークさんだとか、挟み込む演出がうまくて、中学生の心の葛藤を最後まで読みきらせる手腕はさすがです!!

中学生のコペル君は考えます。
僕は「大勢」の中の一人ではないのか。ユダヤ人を迫害したドイツ人のように。周りの価値観に染められ、自分の意識すら誤魔化すほどずる賢い、裏切り者ではないのか?
考えたくないことには耳をふさぎ、親友を売り渡す、卑怯者ではないのか?

コペル君の叔父さんは言います。
世の中には緑が、自然が大嫌いな人もいる。こういう景色が心の底から嫌いな人たちもいるんだよ。…緑を見ると、よし、ここもきれいにコンクリートで固めてすっきりさせてしまおう、と本能的に思う人たちが…

みんなの前で「それはおかしい」というのは勇気がいりますよね。
面倒臭いから、よくわからないから、と顔をふせてやりすごす。
それで傷つく人がいても、それは自分のことじゃないから。
そして、「何だかおかしい…」と思っているうちに、もう取り返しのつかないことになっている。
言葉のはしばしに感じる違和感。根拠のない数字。スーツを着た感情のない人々。

僕は、そして僕たちはどう生きるか…

他人との距離感。大切なもの、それは…

すっごく読みごたえがあって、すっごく共感できました♪
さすが梨木香歩さん!
娯楽小説ではないけれど、自分の頭で考えることの大切さを教えてもらいました。

たき火を囲むコペル君たち。そこには子供も、大人もいる。男も、女もいる。日本人も、オーストラリア人もいる。育った環境も、周りにいた人たちも、価値観や受けた教育も違うけれど、一緒に暖をとり、食べ物を食べる。

その姿に、種族も考え方も違う様々な登場人物が一緒に暮らす「ムーミン」の世界が思い浮かびました。

ムーミンの親友のスナフキンは、いつもテントで寝起きし、ふらっと旅に出かけます。いつもムーミンと一緒というわけではありません。でも、ムーミンはちゃんとわかっています。スナフキンが一人にならなきゃいけないってことも、旅に出なくちゃいけないってことも。だって、それがスナフキンなんですから。


 やあ。 よかったら、
 ここにおいでよ。
 気に入ったら、
 ここが君の席だよ。


        ―梨木香歩著「僕は、そして僕たちはどう生きるか」より―





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